説明

回転圧入杭の施工方法および同方法に用いる回転圧入杭

【課題】
回転圧入する杭が中間層における硬い層の土砂を容易に掘削でき、また支持層に到達した杭の固定に用いるセメントミルクの使用量を小にでき、しかも杭を確実に固定できるようにする。
【解決手段】
杭1を回転圧入する際、杭本体内を通過する案内手段5により地上から導く滑材を、前記先端刃3の近傍に設けた流出口7aから杭外部に供給しながら支持層まで回転圧入し、同支持層に到達してから滑材の供給を停止し、次いで前記案内手段により地上から前記流出口へセメントミルクを送って杭外部に供給することにより、同セメントミルクを前記先端刃まわりの土砂中に充填し、杭下端部まわりをセメントミルクの硬化により安定させる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や土木構造物の基礎支持に用いられる回転圧入杭の施工方法に関し、より詳しくは、杭がスムースに中間層を通過でき、また、支持層に地下水道が通過している場合でも、この支持層に杭下端部を確実に固定できる回転圧入杭の施工方法とこの施工方法に用いる回転圧入杭に関する。
【背景技術】
【0002】
回転圧入杭には各種のものがあり(例えば、特許文献1参照)、適宜の回転圧入装置で杭に鉛直下向きの荷重を掛けながら回転させて、地耐力すなわちN値が大なる値の支持層まで圧入している。
【0003】
また支持層までの深度が大である場合は、複数の回転圧入杭を順次接続して所定のN値の支持層まで圧入している。
【0004】
そして杭を回転圧入する際、杭下端部に有する先端刃が圧入の際の回転によって杭下端部の土砂の掘削また杭外周に排出するようにしていて、杭の圧入をスムースに行えるようにしている。
【0005】
しかしながら、地耐力すなわちN値が大なる値の支持層上方のN値が小なる値の中間層を杭が通過している際、杭がこの中間層における硬い層に当ってしまった場合は、この硬い層の土砂を杭下端部に有する先端刃が容易に掘削できず、杭の回転圧入をスムースに行うことができない問題があった。
【0006】
また、所定の支持層まで到達した杭をセメントミルクで固定する際も、従来では杭全体をセメントミルクで包み込んで固める湿式杭であるので、セメントミルクに係るコストが嵩んでいた。
【0007】
特に、支持層に地下水道が通過している場合は、注入するセメントミルクがこの地下水道の水によって流されてしまうため、この水の流れが止まるまでセメントミルクを注入しなければならず、セメントミルクに係るコストは大なるものであった。
【0008】
【特許文献1】特開2006−274749号公報(第1〜7頁、図1〜3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、回転圧入する杭が中間層における硬い層の土砂を容易に掘削でき、また支持層に到達した杭の固定に用いるセメントミルクの使用量を小にでき、しかも杭を確実に固定できる回転圧入杭の施工方法とこの施工方法に用いる回転圧入杭を提供できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明に係る回転圧入杭の施工方法は、杭を回転圧入する際、杭本体内を通過する案内手段により地上から導く滑材を、前記先端刃の近傍に設けた流出口から杭外部に供給しながら支持層まで回転圧入し、同支持層に到達してから滑材の供給を停止し、次いで前記案内手段により地上から前記流出口へセメントミルクを送って杭外部に供給することにより、同セメントミルクを前記先端刃まわりの土砂中に充填し、杭下端部まわりをセメントミルクの硬化により安定させる構成としてあり、前記案内手段を前記杭の中空内部とし、前記滑材をセメントミルクとした構成としてある。
【0011】
また前記支持層に地下水道が通過している場合は、前記滑材およびセメントミルクを流出する流出口を第一の流出口として、この第一の流出口の近傍に別設する第二の流出口から、杭本体内を通過する前記案内手段とは別経路の第二の案内手段により地上から案内する珪酸ソーダを前記セメントミルクの流出とともに杭外部に流出してこのセメントミルクに混合し、前記第一の流出口から流出するセメントミルクの固化を促進するようにしたものとしてある。
【0012】
この施工方法に用いる回転圧入杭は、杭下端部に先端刃を有し、この先端刃の近傍に、杭本体内を通過する第一の案内手段により地上から案内する滑材、セメントミルクを流出する第一の流出口と、杭本体内を通過する第二の案内手段により地上から案内する珪酸ソーダを流出する第二の流出口とを設けて構成したものとしてある。
【0013】
また前記第一の流出口、前記第二の流出口に接続する前記案内手段を、これら流出口近傍の杭本体内で合流させ、前記各々設けていた第一の流出口、第二の流出口を1つの流出口にまとめて構成したものとしてある。
【0014】
また前記先端刃が板状に形成され、同先端刃を、放射状をなすように複数垂下させるとともに、先端刃における杭外周方向の端部を、杭外周部を越えて張り出して構成したものとしてある。
【0015】
さらに前記回転圧入杭の前記先端刃に近接する上方の杭本体外周部に、同杭本体の遠心方向に張り出した翼状体を設けて構成したものとしてある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の回転圧入杭の施工方法によれば、杭を回転圧入する際に、杭下端部の流出口から水やセメントミルクなどの滑材を杭外部に流出させながら回転圧入するため、中間層における杭の進行方向にある軟質層や硬質層の土砂がこの流出する水を含み軟弱となって杭下端部に有する先端刃による土砂の掘削抵抗や杭外周への排出抵抗が小になり、したがって、杭が中間層における軟質層や硬質層の区別なくこの中間層をスムースに通過できる。
【0017】
そして、杭が支持層に到達したら滑材の流出を停止し、次に同流出口からセメントミルクを固化材として杭外部に流出するようにしているため、先端刃によって杭外周に圧密された土砂の内側の土砂や空間にセメントミルクを確実に注入、充填できて、セメントミルクで杭下端部近傍を確実に固定でき、しかも必要かつ最低量のセメントミルクで充填を行うことができ、杭下端部近傍の確実な固定ができる。
【0018】
また、杭本体外周部に翼状体を有するものは、この翼状体下方部がセメントミルクで確実に固定されるので、翼状体による杭本体の左右へのぐらつきや下方への沈み込みに対する抑止作用を大にできる。
【0019】
そして、支持層に地下水道が通過している場合は、セメントミルクに珪酸ソーダを混合して流出できるようにしているので、杭外部に流出したセメントミルクの固化が速やかに行われ、地下水道の水によるセメントミルクの流失が防止できる。
【0020】
したがって、本回転圧入杭の施工方法を用いることにより、施工期間の短縮ができ、またセメントミルクの使用量を小にできるので、施工コストの低減を期すことができる。
また、圧入した杭内部をセメントミルクで充填することにより杭の剛性が大になり、コンクリート杭と同程度の支持力を期すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の回転圧入杭の施工方法を添付図面に基づいて説明する。
本施工方法に用いる回転圧入杭1は、適宜の径の鋼管から形成していて、この杭本体2の下端部に先端刃3を設けている。
【0022】
この先端刃3は、杭本体2を回転圧入する際、杭本体2の下部すなわち圧入方向にある土砂の掘削また杭本体2の外周に排出するようにしていて、例えば、本実施例で示すような板状に形成している。
【0023】
また先端刃3は、杭本体2の下端部に有する蓋体2aに、放射状をなすように複数垂下していて、さらに先端刃3における外方端部3aが、杭本体2の外周部を越えて張り出している。
【0024】
また、杭本体2内には、滑材たる水やセメントミルクを個々に送るための第一の案内手段たる水・セメントミルク送管5、第二の案内手段たる珪酸ソーダを送るための珪酸ソーダ送管6を通していて、それら水・セメントミルク送管5、珪酸ソーダ送管6により案内された水やセメントミルク、珪酸ソーダが流出する孔を、杭本体2の下端部に設けている。
【0025】
そして、図1、図2に示す回転圧入杭1は、杭本体2内を通過する水・セメントミルク送管5、珪酸ソーダ送管6の流出口を、それぞれ第一の流出口5a、第二の流出口6aとして独立させ、水・セメントミルク送管5によって送られる水やセメントミルクを第一の流出口5aから流出させ、珪酸ソーダ送管6によって送られる珪酸ソーダを第二の流出口6aから流出させるようにしている。
【0026】
また、図3、図4に示す回転圧入杭1は、杭本体2内を通過する水・セメントミルク送管5、珪酸ソーダ送管6を、杭本体2内でY字状のジョイント管7によって1つの送菅にまとめ、水・セメントミルク送管5によって送られる水やセメントミルク、珪酸ソーダ送管6によって送られる珪酸ソーダを1つの流出口7aから流出させるようにしている。
【0027】
この回転圧入杭1の施工方法を、図5、図6に示していて、図5は、杭本体2の下端部を固定する支持層に地下水道が通過していない場合を示すもので、また図6は、杭本体2の下端部を固定する支持層に地下水道が通過している場合の施工方法を示している。
【0028】
また、図5、図6に示す回転圧入杭1は、図3、図4に示している杭本体2内を通過する水・セメントミルク送管5、珪酸ソーダ送管6を、杭本体2内でY字状のジョイント管7によって1つの送菅にまとめ、水・セメントミルク送管5によって送られる水やセメントミルク、珪酸ソーダ送管6によって送られる珪酸ソーダを1つの流出口7aから流出させる形態のものである。
【0029】
そして、図5のように、杭本体2の下端部を固定する支持層に地下水道が通過していない場合の回転圧入杭1の施工方法は、先ず、回転圧入杭1を、図5(a)図のように、適宜の回転圧入装置(図示は省略)で杭本体2に鉛直下向きの荷重を掛けながら回転させ、かつ水・セメントミルク送管5によって地上より送られる水8などの滑材を流出口7aから流出させながら地耐力すなわちN値が大なる値の図5(b)で示す支持層まで圧入する。
なお、上記滑材としては水そのものを用いる場合もあるいし、セメントミルクを用いる場合もあり、これらにベントナイト、フライアッシュ等の添加材を適宜混合して使用する場合もある。
【0030】
この回転圧入杭1における杭本体2の下端部が支持層に到達したら、流出口7aからの水8の流出を停止し、次いで、図5(b)図のように、同水・セメントミルク送管5を用いて地上よりセメントミルク9を流出口7aから流出させ、同セメントミルク9を先端刃3により杭本体2の外周に圧密した土砂の内側におけるほぐされた土砂部分12に充填して杭本体2の下端部近傍をこのセメントミルク9で固定するようにしている。
なお、支持層到達後において供給するセメントミルクには、適宜の添加材を混合して使用する場合もある。
【0031】
また、ほぐされた土砂部分12に充填しているセメントミルク9は、この土砂部分12に接する土中に浸透するので、セメントミルク9の固化後は、杭本体2が恰も樹木が根を張るが如くこの下端部近傍が固定される。
【0032】
そして、杭本体2に設けた翼状体である拡底翼4の下方部がセメントミルク9で確実に固定されるので、拡底翼4による杭本体2の左右へのぐらつきや下方への沈み込みに対する抑止作用が大になる。
【0033】
また、図6のように、杭本体2の下端部を固定する支持層に地下水道が通過している場合の回転圧入杭1の施工方法は、先ず、回転圧入杭1を、図6(a)図のように、適宜の回転圧入装置(図示は省略)で杭本体2に鉛直下向きの荷重を掛けながら回転させ、かつ水・セメントミルク送管5によって地上より送られる水8を流出口7aから流出させながら地耐力すなわちN値が大なる値の図6(b)で示す支持層まで圧入する。
【0034】
この回転圧入杭1における杭本体2の下端部が支持層に到達したら、流出口7aからの滑材たる水8の流出を停止し、次いで、図6(b)図のように、同水・セメントミルク送管5を用いて地上より送られるセメントミルクと珪酸ソーダ送管6によって地上より送られる珪酸ソーダをY字状のジョイント管7部で1つの流れにして混合し、この混合した珪酸ソーダ・セメントミルク11を流出口7aから流出させるようにしている。
【0035】
すなわち、Y字状のジョイント管7部で珪酸ソーダをセメントミルクに混合して珪酸ソーダ・セメントミルク11にすることで、流出口7aから流出するとほぼ同時にセメントミルクがゲル化してその固化が開始されるようにして、地下水道10の水によるセメントミルクの流失が防止される。
【0036】
上述した実施例においては、滑材、固化材たるセメントミルクを第一の案内手段たる水・セメントミルク送管5によって供給しているが、杭1の中空内部を第一の案内手段として利用する場合もある。この場合には、杭の打設後に杭内部にセメントミルクが充填された状態になり、杭の剛性向上を容易かつ確実に図ることができ、しかも構造を簡略化できて低コスト化を期すことができるというメリットもある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る回転圧入杭の一例を示す斜視図。
【図2】図1中に示すA−A部分の断面図。
【図3】本発明に係る回転圧入杭の一例を示す斜視図
【図4】図2中に示すB−B部分の断面図。
【図5】回転圧入杭の施工工程を示す図。
【図6】回転圧入杭の施工工程を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1 回転圧入杭
2 杭本体
2a 蓋体
3 先端刃
3a 外方端部
4 拡底翼
5 水・セメントミルク送管
5a 第一の流出口
6 珪酸ソーダ送管
6a 第二の流出口
7 ジョイント管
7a 流出口
8 水
9 セメントミルク
10 地下水道
11 珪酸ソーダ・セメントミルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭を回転圧入する際、杭本体内を通過する案内手段により地上から導く滑材を、前記先端刃の近傍に設けた流出口から杭外部に供給しながら支持層まで回転圧入し、同支持層に到達してから滑材の供給を停止し、次いで前記案内手段により地上から前記流出口へセメントミルクを送って杭外部に供給することにより、同セメントミルクを前記先端刃まわりの土砂中に充填し、杭下端部まわりをセメントミルクの硬化により安定させる構成とした回転圧入杭の施工方法。
【請求項2】
前記案内手段を前記杭の中空内部としてなる請求項1に記載の回転圧入杭の施工方法。
【請求項3】
前記滑材を、セメントミルクとしてなる請求項1に記載の回転圧入杭の施工方法。
【請求項4】
前記滑材およびセメントミルクを流出する流出口を第一の流出口として、この第一の流出口の近傍に別設する第二の流出口から、杭本体内を通過する前記案内手段とは別経路の第二の案内手段により地上から案内する珪酸ソーダを前記セメントミルクの流出とともに杭外部に流出してこのセメントミルクに混合し、前記第一の流出口から流出するセメントミルクの固化を促進するようにしてなる請求項1に記載の回転圧入杭の施工方法。
【請求項5】
杭下端部に先端刃を有し、この先端刃の近傍に、杭本体内を通過する第一の案内手段により地上から案内する滑材、セメントミルクを流出する第一の流出口と、杭本体内を通過する第二の案内手段により地上から案内する珪酸ソーダを流出する第二の流出口とを設けて構成してなる回転圧入杭。
【請求項6】
前記第一、第二の案内手段を、これら流出口近傍の杭本体内で合流させ、前記各々設けていた第一の流出口、第二の流出口を1つの流出口にまとめて構成してなる請求項5に記載の回転圧入杭。
【請求項7】
前記先端刃における杭外周方向の端部を、杭外周部を越えて張り出して構成してなる請求項5に記載の回転圧入杭。
【請求項8】
前記回転圧入杭の前記先端刃に近接する上方の杭本体外周部に、同杭本体の遠心方向に張り出した翼状体を設けて構成してなる請求項5に記載の回転圧入杭。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate