説明

回転型電気部品

【課題】部品点数を削減することができると共に、簡略化された構造で求められる防水特性を得ることができる回転型電気部品を提供する。
【解決手段】軸受け部材2の軸受け部21の挿通孔21aの複数の凹部24と、凹部24と対向する軸部材1のフランジ部12に設けた環状の溝部14からなるグリス保持部を設け、グリス保持部にグリスを保持させ、軸部材1と軸受け部材2の隙間の防水特性を得る。
また、軸受け部材2に傾斜部26aを有する第1の外周壁26を設け、ケース部材3に傾斜部33aを有する第2の外周壁33を設け、傾斜部26aと傾斜部33aを当接させ、軸受け部材2とケース部材3の防水特性を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転型電気部品に関し、特に防水性を有するエンコーダ、可変抵抗器、スイッチ等の回転型電気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の防水性を備えた回転型電気部品としては、操作者により回転操作される軸と、軸を回転可能に保持する軸受けとの間にグリスを入れ、軸と軸受けの潤滑効果を得ると共に、軸と軸受けの間の離間した2カ所にOリングを入れ、Oリングを変形させて軸および軸受けに密着させることにより、軸と軸受けの隙間への水の浸入を防止するものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、近年の電気部品では小型化,低価格化が求められており、防水構造も、より簡略化した構造で小型化が可能な構造が求められている。
【0004】
前記のような、Oリングを使用した電気部品の防水構造では部品点数の増加が避けられず、また、電気部品の小型化に伴いOリングも小型化せざるを得ないため、Oリング組込用の溝加工の加工精度を高める必要が生じ、部品加工費用の上昇を招いている。さらに、Oリングの小型化により、Oリングの組み込み作業が困難となり組み立て費用の上昇も招いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−14304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、部品点数を削減することができると共に、簡略化された構造で求められる防水特性を得ることができる回転型電気部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の回転型電気部品では、筒状の軸受け部を有する軸受け部材と、前記軸受け部材と対向して配置されるケース部材と、前記軸受け部に回転可能に保持される軸部と当該軸部の一端側に設けられたフランジ部を有し、前記軸部は前記軸受け部に挿通されて他端側が突出し、前記フランジ部が前記軸受け部材と前記ケース部材とにより構成される収容部に収容されてなる軸部材と、前記軸部材の回転動作を検出する検出手段と、を備えた回転型電気部品において、前記軸受け部の内周面に、前記軸部材の回転軸線方向に延びる凹部が設けられており、前記凹部にグリスを保持させたこと、を特徴とする。
【0008】
この特徴により、本発明の回転型電気部品では、軸受け部の内周面に設けた凹部に保持されたグリスが軸受け部材の軸受け部と軸部材の軸部との空隙を埋めるため、グリスだけで防水特性を得ることができる。これにより、Oリング等が不要となり、部品点数を削減することができると共に、簡略化された構造で求められる防水特性を得ることができる。
【0009】
本発明の回転型電気部品では、前記凹部は、前記軸受け部の前記内周面に周方向に間隔を有して複数個設けられ、当該凹部の一端が、前記軸受け部材の前記収容部側を開放した開放端となっているとともに、当該凹部の他端側が前記軸受け部の途中まで連続して設けられており、前記凹部の前記開放端に対向する前記フランジ部における前記凹部の延長線上の位置に前記軸部を周回する環状の溝部が設けられ、前記凹部と当該溝部とによりグリス保持部を構成し、当該グリス保持部に前記グリスが保持されていること、を特徴とする。
【0010】
この特徴により、本発明の回転型電気部品では、グリスは複数の凹部に充填されると共に環状の溝部に充填され、凹部に充填されたグリスと溝部に充填されたグリスがつながっているため、複数の凹部間でグリスの充填量に差が生じても、軸部材が回転操作されることにより環状の溝部を介して、グリスの充填量が多い凹部からグリスの充填量が少ない凹部にグリスが供給されるので、複数の凹部のグリス充填量が調整され均一なグリス充填状態とすることができる。これにより安定した防水特性を得ることができる。
【0011】
本発明の回転型電気部品では、前記フランジ部は前記軸部よりも径が大きく形成され、前記軸受け部材の前記収容部側の面には前記フランジ部の一部を収容する窪み部を設け、当該窪み部の内底面に前記凹部の前記開放端を露出させ、前記溝部の外周側に位置する前記フランジ部の一端面と前記窪み部の前記内底面との間に、前記グリス保持部と繋がる第1の空隙部を設けると共に、前記フランジ部の外周面と前記窪み部の内周面との間に前記第1の空隙部と繋がる第2の空隙部を設けたこと、を特徴とする。
【0012】
この特徴により、本発明の回転型電気部品では、グリスは、複数の凹部と環状の溝部よりなるグリス保持部に充填されると共に、グリス保持部に連続する第1の空隙部、および第1の空隙部に連続する第2の空隙部に充填可能となるため、グリス充填量が過多の場合でもグリスは第1の空隙部および第2の空隙部に保持され、第2の空隙部よりはみ出しにくい。これによりグリス充填量の管理が容易となるので、グリス保持部を充分に充填できる量のグリスを塗布することができ、安定した防水特性を得ることができる。
【0013】
本発明の回転型電気部品では、前記軸部材の前記フランジ部と対向する前記ケース部材の底面に断面円形状の突出部または穴部を設け、前記ケース部材の前記底面と対向する前記フランジ部に断面円形状の穴部または突出部を設け、前記フランジ部の前記穴部または前記突出部と前記ケース部材の前記突出部または前記穴部とが回転自在に係合されていること、を特徴とする。
【0014】
この特徴により、本発明の回転型電気部品が回転操作されたときに、軸部材は、軸受け部材の筒状の軸受け部と、ケース部材の底面に設けられた突出部または穴部の2カ所で保持されながら回転する。これにより回転時の軸部材の振れが小さくなるため、軸部材回転時の軸受け部材の軸受け部と軸部材の軸部の空隙の変化が小さく抑えられ、凹部に充填されたグリスが途切れにくくなるため、安定した防水特性を得ることができる。
【0015】
本発明の回転型電気部品では、前記軸受け部材の前記ケース部材に対向する面の外周部に沿って全周を周回する第1の外周壁が設けられ、前記ケース部材の前記軸受け部材に対向する面には前記第1の外周壁と重ね合わされる第2の外周壁が全周にわたり設けられ、重ね合わされる前記第1の外周壁の端部と前記第2の外周壁の端部には、それぞれ前記外周壁の先端側が細くなる傾斜部が設けられていること、を特徴とする。
【0016】
この特徴により、本発明の回転型電気部品では、軸受け部材とケース部材を当接させたとき、第1の外周壁と第2の外周壁の重ね合わされる傾斜部のどこかが必ず接触するため、当接部の密閉性を高めることができ、軸受け部材とケース部材間の防水性能を高めることができる。
【0017】
本発明の回転型電気部品では、重ね合わされる前記第1の外周壁の前記傾斜部と前記第2の外周壁の前記傾斜部とで、その傾斜角度に差を設けたこと、を特徴とする。
【0018】
この特徴により、本発明の回転型電気部品では、第1の外周壁の端部の傾斜部と第2の外周壁の端部の傾斜部とで、傾斜角度に差があるので、傾斜角度の大きい方の外周壁の先端が他方の外周壁の傾斜部と必ず係合するため、係合部分が明瞭になり、部品の精度管理が容易となるので、当接部の密閉性を確実に維持でき、軸受け部材とケース部材間の防水性能を高めることができる。
【0019】
本発明の回転型電気部品では、前記第1の外周壁と前記第2の外周壁はいずれも矩形状とし、前記軸受け部材の前記第1の外周壁の内側のコーナー部に前記ケース部材から遠ざかる方向に窪んだ有底の穴部を設け、前記ケース部材の前記第2の外周壁の内側のコーナー部に前記軸受け部材から遠ざかる方向に窪んだ有底の穴部を設けたこと、を特徴とする。
【0020】
この特徴により、本発明の回転型電気部品では、第1の外周壁と第2の外周壁をいずれも矩形状としたため、意図しない浸水の多くは矩形状の外周壁のコーナー部で発生することとなり、第1の外周壁と第2の外周壁の内側のコーナー部に、それぞれ有底の穴部を設けたことにより、意図しない浸水を当該穴部に捕捉することができるため、軸受け部材とケース部材間の防水性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の回転型電気部品では、軸受け部の内周面に設けた凹部に保持されたグリスが軸受け部材の軸受け部と軸部材の軸部との空隙を埋めるため、グリスだけで軸受け部材と軸部材との間の防水特性を得ることができるので、これにより、Oリング等が不要となり、部品点数を削減することができると共に、簡略化された構造で求められる防水特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る回転形電気部品であるエンコーダの外観斜視図。
【図2】本発明の実施の形態におけるエンコーダの構成を示す分解斜視図。(a)は斜め上方視の分解斜視図。(b)は斜め下方視の分解斜視図。
【図3】軸受け部材への板バネの取り付け状態を示す下方視の斜視図。
【図4】軸部材へのグリス塗布状態を示す斜視図。
【図5】本発明の実施の形態に係るエンコーダの構造を示す図1のA−A断面図。
【図6】本発明の実施の形態に係るエンコーダの構造を示す図1のB−B断面図。
【図7】軸受け部材に軸部材を挿入したときのグリスの状態を説明する中心断面図。(a)は、軸部材の挿入開始時。(b)は、軸部材を途中まで挿入した時。(c)は、軸部材を最終位置直前まで挿入した時。(d)は、軸部材を最終位置まで挿入した時。
【図8】軸受け部材の第1の外周壁の傾斜部の傾斜角とケース部材の第2の傾斜部の傾斜角を示す中心断面図。
【図9】軸受け部材の第1の外周壁の傾斜部とケース部材の第2の傾斜部の当接状態を示す中心断面図の要部。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。なお、本実施の形態に係る回転型電気部品は回転型のアブソリュートエンコーダ(以下エンコーダと省略して記載)であるが、発明の用途はこれに限定されるものではなく、回転型のインクリメントエンコーダ,可変抵抗器,スイッチ等の、種々の回転型電気部品に適用することが可能である。
【0024】
<実施の形態>
図1は、本発明の実施の形態に係るエンコーダの斜視図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るエンコーダの外観は、筒状の軸受け部21を有する略箱状の軸受け部材2と、軸受け部材2と対向して配置される略箱状のケース部材3と、軸受け部材2の軸受け部21より突出して回転操作される軸部11を有する軸部材1と、軸受け部材2とケース部材3を保持する枠部材4より構成される。
【0025】
以下、図2(a),(b)および図8を参照して、各構成部品の説明を記載する。
図2(a)は本発明の実施の形態におけるエンコーダの構成を示す斜め上方視の分解斜視図で、(b)は斜め下方視の分解斜視図である。
【0026】
軸部材1は成形材等により形成され、円柱状の軸部11と、その一端側に軸部11より径が大きいフランジ部12を有し、フランジ部12の軸部11側の端面には軸部11を周回する環状(円環状)の溝部14が形成され、フランジ部12の軸部11側とは反対側には、更に径の大きいコード板取り付け部13が形成されている。なお、コード板取り付け部13もフランジ部12の一部を構成している。
【0027】
コード板取り付け部13の上面(軸部11側の面)には、クリック感触発生用の半円柱状の複数の凸部15が形成されており、コード板取り付け部13の軸部11とは反対側の端面(下面)には、回転動作を検出する検出手段の構成要素である、金属板からなるコード板16がインサート成形等により埋設されて取り付けられ、更に中央に突起を設け、突起の中央に円形の穴部17が設けられている。
また、軸部11の先端部付近は断面D字形状に形成されており、軸部材1を操作するつまみ等の部品の、取り付け用の平面部を設けている。
【0028】
軸受け部材2は成形材等により形成され、略箱状の本体部22の一方(上方)の面に略円筒状の軸受け部21を有し、軸受け部21に設けられた挿通孔21aは軸受け部21から本体部22まで貫通している。
挿通孔21aの穴径は2段階に変化し、軸受け部21の先端側の方が穴径が小さくなっており、この部分で軸部材1の軸部11を可能な限り小さい隙間で回転可能に保持する。
【0029】
本体部22の、ケース部材3と対向する側の面の中央は略円形状に窪み、軸部材1のコード板取り付け部13を含むフランジ部12の一部を収納する、収容部23となっている。
収容部23の内底面(図2において図示上方側に位置する天井面)の中央は、更に略円形に上方側へ窪み、軸部材1のフランジ部12の一部(上部)を収容するフランジ収容部(窪み部)25となっており、フランジ収容部25につながる収容部23の内底面の中間位置には、回転操作時のクリック感触を発生させる板バネ5を取り付ける円柱状の突起が設けられている。
【0030】
フランジ収容部25の略円形の内周面の径はフランジ部12の上方側における径よりわずかに大きく設定されており、フランジ部12の上部が挿入されたときにフランジ収容部25の内周面とフランジ部12の上部における外周面との間には、わずかに隙間ができる。
また、フランジ収容部25の内底面(天井面)の中央には、軸受け部21に設けられた挿通孔21aの一端側が開放している。挿通孔21aのフランジ収容部25側の内周面には、一端(下端)がフランジ収容部25の内底面に開放した開放端となっており、他端側が軸部材1の回転軸線方向に挿通孔21aの途中まで延びた複数の凹部24が周方向に間隔を有して設けられている。前述した軸部材1の円環状の溝部14は、複数の凹部24の開放端である一端と対向する位置におけるフランジ部12に形成されている。すなわち、軸部材1の回転軸線方向に延びる複数の凹部24の延長線上に、円環状の溝部14が位置して設けられている。
【0031】
本体部22には、ケース部材3と対向する側の面の外形に沿って、周囲が閉じた第1の外周壁26が立設されている。矩形状をした第1の外周壁26の端部(下端部)には、図8に示す傾斜角θ1が付けられた傾斜部26aを有する内側面が設けられている。また本体部22のケース部材3と対向する側における、第1の外周壁26と収容部23の窪みの淵とで囲まれるコーナー部には、複数の有底の穴部27が設けられている。
【0032】
板バネ5はバネ性の良いリン青銅等の金属でリング状に形成され、取り付け穴のある略矩形の取り付け部51を対称の位置に2か所配置し、2か所の取り付け部51を左右に繋ぐように2つの半円弧状の腕部を設けている。腕部は取り付け部51の平面と接続する端部で傾斜角を付けて曲げ、それぞれの腕部の中間位置に、周囲を略矩形の平面部53で囲まれた半球状の突出部52が設けられている。
【0033】
本発明の実施の形態に係る板バネ5では、突出部52を半球状の突出とし周囲を平面部53とした。これにより、板バネ5が製品に組み込まれ軸部材1のコード板取り付け部13により腕部が弾性変形させられたときに平面部53が変形しにくいため、板バネ5は大きな弾性応力を発生しクリック感触発生用の半円柱状の複数の凸部15を強く押圧するため、良好なクリック感触を得ることができる。
【0034】
ケース部材3は成形材等により略箱状に形成され、軸受け部材2に対向する側の面の中央に、略円形状の窪みを設け、軸部材1のコード板取り付け部13の一部を収納する収容部31としている。収容部31の内底面の中央には、軸部材1のフランジ部12(コード板取り付け部13)の穴部17と回転自在に係合する、円柱状の突出部34が設けられている。また収容部31の内底面の突出部34の周囲には、軸部材1の回転動作を検出する検出手段の構成要素である、複数の摺動子32が埋設されている。各摺動子32はケース部材3の内部にて延出するとともに、ケース部材3の側面より外部に突出し、先端を折り曲げて、プリント基板(図示せず)等と電気的に接続される端子36となっている。なお、軸部材1の回転動作を検出する検出手段は、軸部材1に設けられたコード板16と、このコード板16に摺接する複数の摺動子32とにより構成される。
【0035】
ケース部材3には、軸受け部材2と対向する側の面の、外形のやや内側に沿って、周囲が閉じた第2の外周壁33が立設されている。矩形状をした第2の外周壁33の端部(上端部)には、図8に示す傾斜角θ2が付けられた傾斜部33aを有する外側面が設けられている。軸受け部材2の第1の外周壁26の内側の傾斜部26aと、ケース部材3の第2の外周壁33の外側の傾斜部33aは対向する位置に配置されている。また軸受け部材2に対向する側における、第2の外周壁33と収容部31の窪みの淵とで囲まれるコーナー部には、複数の有底の穴部35が設けられている。
【0036】
枠部材4は軟鉄鋼板等の加工性の良い金属材を折り曲げ、側面視にてコの字状に形成し、コの字の中央の平坦部には、軸受け部21の貫通用の穴を設け、2つのコの字の先端部分は、それぞれ部分的に延出し、軸受け部材2とケース部材3とを当接状態で保持する2つのカシメ用のツメ部と、プリント基板等に取り付けるためのフック部が形成されている。
【0037】
次に、図3から図5を参照して本発明の実施の形態に係るエンコーダの組み立て手順に従いエンコーダの構造を説明する。図3は軸受け部材への板バネの取り付け状態を示す下方視の斜視図で、図4は軸部材へのグリス塗布状態を説明する斜視図、図5はエンコーダの構造を示す図1のA−A断面図である。
【0038】
図3に示すように、板バネ5は軸受け部材2の収容部23の内底面に熱カシメ等により固定される。
【0039】
軸部材1の軸部11のフランジ部12のやや上方に、図4に示すように、耐水性を有するグリス6を全周に塗布する。
【0040】
まず、板バネ5を取り付けた軸受け部材2に枠部材4を、軸受け部材2の軸受け部21側から組み付ける。そののち、グリス6を塗布した軸部材1を軸受け部材2の挿通孔21aに挿入する。次に、ケース部材3を軸受け部材2に組み付け、軸受け部材2の第1の外周壁26側の傾斜部26aと、ケース部材3の第2の外周壁33側の傾斜部33aを当接させる。最後に、枠部材4のツメを折り曲げることにより、図5に示す様に、軸受け部材2とケース部材3とが枠部材4により保持(挟持)され、組み立ては完了する。
【0041】
組み立て状態では、板バネ5が軸部材1のコード板取り付け部13の上面の隣り合う2つの凸部15間と係合し、板バネ5のバネ力により軸部材1はケース部材3に押しつけられる。図5に示すように、軸部材1のフランジ部12の一部(上部)は軸受け部材2のフランジ収容部25に収容され、フランジ部12の溝部14の外周側に位置する端面(上面)とフランジ収容部25の内底面との間に第1の空隙部2aが設けられる。また、フランジ部12の側面(外周面)とフランジ収容部25の内側面(内周面)との間には、第2の空隙部2bが形成される。なお、理解を容易にするために、図5においてはグリス6を省略している。
【0042】
本発明の実施の形態に係るエンコーダでは、以下の2か所の部位で防水手段を講じている。
(1)軸部材1と軸受け部材2の挿通孔21aとの間の隙間
(2)軸受け部材2とケース部材3との当接部
以下に、上記の部位に講じた防水手段の項目と、その効果について説明する。
【0043】
上記の防水手段を講じた部位のうち、
(1)軸部材1と軸受け部材2の挿通孔21aとの間の隙間
の防水手段は、隙間へのグリス充填にて行う。
軸部材1と軸受け部材2の挿通孔21aの間は、軸部11の全周にわたり隙間があるため、グリス6が全周にわたり充填され、部分的なグリス切れが発生しないよう、以下に記載する構成としている。
【0044】
本発明の実施の形態に係るエンコーダでは、グリス塗布条件を制御できるディスペンサーにより、軸部11の所定位置の全周にわたり均一にグリス6を塗布し、グリス塗布量を規定量に管理する。これにより隙間部分へのグリス充填状態の均一化をはかる。
【0045】
さらに、グリス6を保持できる領域を、複数の凹部24とこれら凹部24の延長線上に位置して設けられた環状の溝部14とで構成されるグリス保持部と、第1の空隙部2aと、第2の空隙部2bとし、グリス保持が可能な領域を大きくした。
【0046】
また、本発明の実施の形態に係るエンコーダでは、組み立ての過程において、第1の空隙部2aの体積が減少することを利用して、軸部材1に塗布したグリス6が複数の凹部24に強制的に充填され、複数の凹部24への充填不足が回避される。
このグリス6の強制的な充填の過程を、図7を参照して、以下に説明する。図7は軸受け部材2に軸部材1を挿入したときのグリスの状態を示す説明図である。なお、図7(d)は軸部材1を最終位置まで挿入し、ケース部材3を取り付けた状態を示している。
【0047】
グリス6が塗布された軸部材1を軸受け部材2の挿通孔21aに挿入すると、軸部材1の挿入量が少ない時点では、図7(a)に示すように、グリス6は塗布された状態のまま、軸受け部材2のフランジ収容部25まで入り込む。
【0048】
軸部材1を更に挿入すると、図7(b)に示すように、グリス6の一部は複数の凹部24内に引き込まれるが、他の一部(残部)は押し戻されて、軸受け部材2のフランジ収容部25の内底面と軸部材1のフランジ部12の端面により構成される空間内に充填される。
【0049】
軸部材1を更に挿入すると、図7(c)に示すように、軸受け部材2のフランジ収容部25の内底面と軸部材1のフランジ部12の端面により構成される空間にはグリス6が充満し、さらに他の一部は軸受け部材2のフランジ収容部25の内側面(内周面)と軸部材1のフランジ部12の側面(外周面)とにより構成される、第2の空隙部2bに浸入する。
【0050】
軸部材1を最終挿入位置、すなわち、穴部17の周囲に位置する軸部材1の端面の突起の先端が、ケース部材3の収容部31の底面と当接する位置まで挿入すると、図7(d)に示すように、軸受け部材2のフランジ収容部25の内底面と軸部材1のフランジ部12の端面により構成される空間の体積は減少し、最終挿入位置では僅かな隙間のみとなり、第1の空隙部2aが形成される。
【0051】
この時の、軸受け部材2のフランジ収容部25の内底面と軸部材1のフランジ部12の端面により構成される空間の体積の減少により、この空間に保持されていたグリス6は押し出され、一部は複数の凹部24に浸入し、その他の一部は第2の空隙部2bに浸入する。この時、複数の凹部24の隙間の方が第2の空隙部2bの隙間より大きいため、複数の凹部24側により多くのグリス6が浸入し、複数の凹部24のグリス6の充填不足が解消される。
【0052】
以上により、軸部材1の軸受け部材2への挿入による、複数の凹部24へのグリス6の強制的な充填が完了する。
【0053】
しかしながら、尚も複数の凹部24へのグリス6の充填が不均一となるおそれがあるため、本発明の実施の形態に係るエンコーダでは、加えて、複数の凹部24の開放端を環状の溝部14に対向させた。これにより、複数の凹部24間でグリス6の充填量がばらついた場合に、軸部材1が回転させられることにより、グリス6の充填量の多い凹部24からは溝部14にグリス6が移動し、グリス6の充填量の少ない凹部24に溝部14からグリス6が補給され、複数の凹部24全体でグリス6の充填状態が略均一化される。
【0054】
また、環状の溝部14に連続して第1の空隙部2aを、第1の空隙部2aに連続して第2の空隙部2bを設けることにより、グリス6の塗布量が多い場合は、軸部材1が回転させられることにより、複数の凹部24の過剰なグリス6は第1の空隙部2a、さらには第2の空隙部2bに押し出され、グリス6の塗布量が少ない場合には、軸部材1が回転させられることにより、グリス6が第2の空隙部2bから、さらには第1の空隙部2aから複数の凹部24に引き込まれ、複数の凹部24全体のグリス6の充填状態が更に均一化される。
【0055】
また、ケース部材3の突出部34で軸受け部材2の端部の穴部17を回転ガイドすることにより、軸部材1の回転を保持する部位は、軸受け部材2の挿通孔21aの先端とケース部材3の突出部34となり、回転を保持する部位の間隔は、取り得る最大長となる。これにより、回転時の軸部材1の振れは最小に押さえられ、軸部材1が回転させられた時の、軸部材1と軸受け部材2の挿通孔21aの間の隙間の変動を最小限にできるため、隙間の変動によるグリス切れの発生を抑えられる。
【0056】
これらの防水手段により、軸部材1と軸受け部材2の挿通孔21aとの間の隙間の防水特性を得ることができる。
【0057】
また、防水手段を講じた部位のうち、
(2)軸受け部材2とケース部材3との当接部
の防水手段は、枠部材4によって挟持される軸受け部材2とケース部材3との当接部(当接面)が確実に密着するような構成とすることで行った。
【0058】
すなわち、軸受け部材2とケース部材3とにそれぞれ外周壁を設け、図8に示すように、軸受け部材2の第1の外周壁26の内側面と、ケース部材3の第2の外周壁33の外側面を、それぞれ傾斜角θ1,θ2を付けた傾斜部26a、33aとし、傾斜部同士を当接させることにより、軸受け部材2およびケース部材3の寸法、形状に誤差が生じた場合でも、傾斜部26a,33aのいずれかの部位が必ず当接するようにした。
これにより、軸受け部材2の第1の外周壁26と、ケース部材3の第2の外周壁33とは、傾斜部26a、33aが密着し、軸受け部材2とケース部材3との当接部の防水特性が得られる。
【0059】
さらには、軸受け部材2の第1の外周壁26の傾斜部26aの傾斜角θ1と、ケース部材3の第2の外周壁33の傾斜部33aの傾斜角θ2とに僅かな角度の差を設け、具体的には、本発明の実施の形態に係るエンコーダでは、図8に示すように、軸受け部材2の第1の外周壁26の傾斜部26aを僅かに垂直に近づけた。
【0060】
これにより、図9に示すように、当接部位2cは、軸受け部材2の第1の外周壁26の傾斜部26aの先端と、ケース部材3の第2の外周壁33の傾斜部33aの根元となる。当接部位2cが特定できることにより、部品の寸法管理が容易になると共に、軸受け部材2の第1の外周壁26は、傾斜部26aの先端部が当接するため外周壁の全高にわたり弾性変形するので、第1の外周壁26は弾性変形しやすく、部品形状にうねり等があった場合でも、軸受け部材2の第1の外周壁26が弾性変形し、ケース部材3の第2の外周壁33の形状に倣い、全域が密着しやすいという効果が得られ、軸受け部材2とケース部材3との当接部の防水性が向上する。
【0061】
また、第1の外周壁26および第2の外周壁33はいずれも略矩形をしているため、矩形の直線部分は容易に弾性変形し確実に密着するが、コーナー部は強固となるため弾性変形しにくい。このため、仮に、コーナー部の傾斜部26a,33aにうねり等が発生すると形状が倣わず、密着が損なわれるおそれがある。この対策として、図6に示すように、軸受け部材2およびケース部材3の、それぞれの外周壁の内側のコーナー部に有底の穴部27、35を設けた。
【0062】
これにより、仮に、コーナー部の密着が損なわれた場合でも、コーナー部に発生する隙間はごく微小で水の浸入量は微量であることから、コーナー部から浸入した水はコーナー部近傍に設けた有底の穴部27、35に捕捉され、エンコーダの内部に水が浸入することは防止される。
【0063】
本発明の実施の形態に係るエンコーダでは、以上のような構成により防水特性を得ているが、例えば、第1の外周壁26の端部と第2の外周壁33の端部との大小関係を逆にしても良い。すなわち、第1の外周壁26の端部における外側面側に傾斜部(26a)を設けるとともに、この傾斜部(26a)の外周側で対向する傾斜部(33a)を第2の外周壁33の端部における内側面側に設けて、両傾斜部同士が当接するように構成しても良い。また、第1の外周壁26の傾斜部26aの傾斜角θ1と第2の外周壁33の傾斜部33aの傾斜角θ2の大小関係を逆にすることも可能である。さらに、軸受け部材2とケース部材3との間に同様の外周壁構造を有する中間部材を追加する等の変更を加えても、同様の防水特性が得られる。
【0064】
また、防水特性に影響を及ぼさない変更、例えば摺動子32を可動側とし、コード板16を固定側としても良い。また、軸部材1の回転保持構造を、軸部材1側を凸部(突出部)としケース部材3側を凹部(穴部)とする等の変更を加えても、同等の防水特性が得られる。
【符号の説明】
【0065】
1 軸部材
11 軸部
12 フランジ部
13 コード板取り付け部
14 溝部
15 凸部
16 コード板(検出手段)
17 穴部
2 軸受け部材
21 軸受け部
21a 挿通孔
22 本体部
23 収容部
24 凹部
25 フランジ収容部(窪み部)
26 第1の外周壁
26a 傾斜部
27 有底の穴部
2a 第1の空隙部
2b 第2の空隙部
2c 当接部位
3 ケース部材
31 収容部
32 摺動子(検出手段)
33 第2の外周壁
33a 傾斜部
34 突出部
35 有底の穴部
36 端子
4 枠部材
5 板バネ
6 グリス
θ1 傾斜角
θ2 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の軸受け部を有する軸受け部材と、
前記軸受け部材と対向して配置されるケース部材と、
前記軸受け部に回転可能に保持される軸部と当該軸部の一端側に設けられたフランジ部を有し、前記軸部は前記軸受け部に挿通されて他端側が突出し、前記フランジ部が前記軸受け部材と前記ケース部材とにより構成される収容部に収容されてなる軸部材と、
前記軸部材の回転動作を検出する検出手段と、
を備えた回転型電気部品において、
前記軸受け部の内周面に、前記軸部材の回転軸線方向に延びる凹部が設けられており、前記凹部にグリスを保持させたこと、
を特徴とする回転型電気部品。
【請求項2】
前記凹部は、前記軸受け部の前記内周面に周方向に間隔を有して複数個設けられ、当該凹部の一端が、前記軸受け部材の前記収容部側を開放した開放端となっているとともに、当該凹部の他端側が前記軸受け部の途中まで連続して設けられており、
前記凹部の前記開放端に対向する前記フランジ部における前記凹部の延長線上の位置に前記軸部を周回する環状の溝部が設けられ、
前記凹部と当該溝部とによりグリス保持部を構成し、当該グリス保持部に前記グリスが保持されていること、
を特徴とする、請求項1に記載の回転型電気部品。
【請求項3】
前記フランジ部は前記軸部よりも径が大きく形成され、
前記軸受け部材の前記収容部側の面には前記フランジ部の一部を収容する窪み部を設け、当該窪み部の内底面に前記凹部の前記開放端を露出させ、
前記溝部の外周側に位置する前記フランジ部の一端面と前記窪み部の前記内底面との間に、前記グリス保持部と繋がる第1の空隙部を設けると共に、
前記フランジ部の外周面と前記窪み部の内周面との間に前記第1の空隙部と繋がる第2の空隙部を設けたこと、
を特徴とする、請求項2に記載の回転型電気部品。
【請求項4】
前記軸部材の前記フランジ部と対向する前記ケース部材の底面に断面円形状の突出部または穴部を設け、
前記ケース部材の前記底面と対向する前記フランジ部に断面円形状の穴部または突出部を設け、
前記フランジ部の前記穴部または前記突出部と前記ケース部材の前記突出部または前記穴部とが回転自在に係合されていること、
を特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の回転型電気部品。
【請求項5】
前記軸受け部材の前記ケース部材に対向する面の外周部に沿って全周を周回する第1の外周壁が設けられ、
前記ケース部材の前記軸受け部材に対向する面には前記第1の外周壁と重ね合わされる第2の外周壁が全周にわたり設けられ、
重ね合わされる前記第1の外周壁の端部と前記第2の外周壁の端部には、それぞれ前記外周壁の先端側が細くなる傾斜部が設けられていること、
を特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の回転型電気部品。
【請求項6】
重ね合わされる前記第1の外周壁の前記傾斜部と前記第2の外周壁の前記傾斜部とで、その傾斜角度に差を設けたことを特徴とする、請求項5に記載の回転型電気部品。
【請求項7】
前記第1の外周壁と前記第2の外周壁はいずれも矩形状とし、
前記軸受け部材の前記第1の外周壁の内側のコーナー部に前記ケース部材から遠ざかる方向に窪んだ有底の穴部を設け、
前記ケース部材の前記第2の外周壁の内側のコーナー部に前記軸受け部材から遠ざかる方向に窪んだ有底の穴部を設けたこと、
を特徴とする、請求項5または6に記載の回転型電気部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−4879(P2013−4879A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136822(P2011−136822)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】