説明

回転埋設杭、その埋設施工法及び地中埋設構造物浮上抑制装置

【課題】施工が容易で且つ確実に地中埋設構造物、地上構造物などの浮上や沈下を抑制することが可能な、回転埋設杭、その埋設施工法及び地中埋設構造物浮上抑制装置を提供することを目的とする。
【解決手段】菅状の杭本体10と、杭本体10の下端部側周面に設けられた略1巻の螺旋翼11と、螺旋翼11の周方向に沿って等間隔に配置され、螺旋翼11の周縁から杭本体10の径方向に突出可能な2枚の補助掘削刃12とを備える。補助掘削刃12は、杭本体10を一方向に回転(正転)させて地中に埋設する方向に移動(推進)させる際に螺旋翼11の周縁に押し付けられ、また杭本体10を他方向に回転(逆転)させて地中から抜き出す方向に移動させる際に螺旋翼11の周縁から杭本体10の径方向に突出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばマンホールなどの地中埋設構造物が地盤液状化現象によって浮き上がるのを防止するためのアンカーや軟弱地盤上の建物、地上構造物が沈下するのを防止するための支持杭などとして使用可能な回転埋設杭、その埋設施工法及び地中埋設構造物浮上抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マンホールなどの地中埋設構造物が地盤液状化現象によって浮き上がるのを抑制するための地中埋設構造物浮上抑制装置の一つが、本発明者等によって提案されている(特許文献1参照)。これによれば、円筒体の周面に螺旋翼を設けた翼付きアンカーを下端部に固定した一対の構造物固定用シャフトを、マンホールを挟むようにマンホールの直径方向両端部付近の地盤中に回転推進させて埋設する。マンホールの頂部にはリング状固定補助具を取り付ける。そして、各構造物固定用シャフトの上端部を、リング状固定補助具の直径方向両端部にそれぞれ固定する。
【0003】
上記地中埋設構造物浮上抑制装置によれば、各翼付きアンカーがそれぞれ地盤中に食い込んでいるため、仮に地震により地盤液状化現象が生じても地中埋設構造物の浮上を確実に抑制することできる。
【0004】
上記地中埋設構造物浮上抑制装置以外に、例えばマンホールの底部に開口部を開け、この開口部から地盤の非液状化層に達する穴を掘削し、この掘削穴にグラウトを注入し、アンカー引張材を挿入し、アンカー引張材の下端をグラウトが注入された非液状化層に定着させ、開口部から突出したアンカー引張材の上端をマンホールの底部に固定するものが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−69557号公報
【特許文献2】特開2005−248496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前者の場合では、構造物固定用シャフトを、マンホールの直径方向両端部付近の地盤中に回転推進させて埋設することから、マンホールの周囲に配管が多数埋設されているような箇所ではこれら配管を避けて施工しなければならず、施工が困難な場合がある。
【0007】
後者の場合では、マンホールの底部に開けた開口部から掘削穴にアンカー引張材を挿入するため、マンホールの周囲に配管が多数埋設されているような箇所でもマンホールの底部下にこれら配管が延びていない限り、マンホール周囲の配管に邪魔されることなく施工することができる反面、単にアンカー引張材の下端をグラウトが注入された非液状化層に定着させているだけであるため、地震による地盤液状化現象でマンホールの浮上を確実に抑制することが困難である。また、同様の理由でマンホールの沈下を確実に抑制することも困難である。
【0008】
本発明は施工が容易で且つ確実に地中埋設構造物、地上構造物などの浮上や沈下を抑制することが可能な、回転埋設杭、その埋設施工法及び地中埋設構造物浮上抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載の回転埋設杭は、下端底部に掘削刃を設けた管状の杭本体と、前記杭本体の下端部側周面に設けられた螺旋翼と、前記螺旋翼の周方向に沿って所定の間隔をあけて配置され、前記螺旋翼の周縁から前記杭本体の径方向に突出可能な複数の補助掘削刃を有し、前記補助掘削刃の各々は、前記螺旋翼の面部に回動可能に取り付けられた支持片の端部に、前記杭本体の軸線方向に延びるよう固定され、前記杭本体を一方向に回転させて地中に埋設する方向に移動させる際に、前記補助掘削刃は前記杭本体の径方向に突出せず、前記杭本体を他方向に回転させて地中から抜き出す方向に移動させる際に、前記補助掘削刃は前記杭本体の径方向に突出することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に記載の回転埋設杭の埋設施工法は、回転埋設杭が、管状の杭本体と、前記杭本体の下端部側周面に設けられた螺旋翼と、螺旋翼の周方向に沿って所定の間隔をあけて配置され、螺旋翼の周縁から杭本体の径方向に突出可能な複数の補助掘削刃と、杭本体の下端底部に設けられたグラウト噴出穴と、を有し、補助掘削刃の各々は、螺旋翼の面部に回動可能に取り付けられた支持片の端部に、前記杭本体の軸線方向に延びるよう固定され、杭本体を一方向に回転させて地中に埋設する方向に移動させる際に、補助掘削刃は杭本体の径方向に突出せず、杭本体を他方向に回転させて地中から抜き出す方向に移動させる際に、補助掘削刃は杭本体の径方向に突出するように構成され、
前記杭本体の内部にグラウト注入パイプを装着し、その先端部を前記グラウト噴出穴に連結する準備工程と、
前記杭本体を一方向に回転させて前記螺旋翼の推進力により地中に移動させ、前記杭本体の下端底部が地中の所定位置(例えば杭本体の下端底部が埋設される所定深度から1メートル乃至2メートル手前の位置)に到着した時点で前記グラウト噴出口からグラウトを噴出させつつ前記杭本体の下端底部を所定深度まで移動させる回転埋設工程と、
前記グラウト噴出口からグラウトを噴出させつつ前記杭本体を前記一方向と反対の他方向に回転させて前記所定深度から前記所定位置まで引き上げ、この引き上げの際、前記各補助掘削刃を前記螺旋翼の周縁から前記杭本体の径方向に突出させて前記螺旋翼の周囲の土砂をさらに掘削する回転後退工程と、
前記所定位置と前記所定深度との間で前記回転埋設工程と前記回転後退工程とを交互に繰り返して前記螺旋翼と前記補助掘削刃によって掘削され、掘り起こされた土砂と前記グラウトとを混合攪拌し、この混合攪拌を前記杭本体の自重で前記杭本体の下端底部が地中の前記所定深度に降下するまで繰り返す混合攪拌工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に記載の回転埋設杭を地中に埋設する埋設施工法は、回転埋設杭が、下端底部に掘削刃を設けた管状の杭本体と、前記杭本体の下端部側周面に設けられた螺旋翼と、前記杭本体の下端底部に設けられ、グラウトを地中に噴出するグラウト噴出穴と、を有し、
前記杭本体の内部にグラウト注入パイプを装着し、その先端部を前記グラウト噴出穴に連結する準備工程と、
前記杭本体を一方向に回転させて前記螺旋翼の推進力により地中に移動させ、前記杭本体の下端底部が地中の所定位置(例えば杭本体の下端底部が埋設される所定深度から1メートル乃至2メートル手前の位置)に到着した時点で前記グラウト噴出口からグラウトを噴出させつつ前記杭本体の下端底部を所定深度まで移動させる回転埋設工程と、
前記グラウト噴出口からグラウトを噴出させつつ前記杭本体を前記一方向と反対の他方向に回転させて前記所定深度から前記所定位置まで引き上げる回転後退工程と、
前記所定位置と前記所定深度との間で前記回転埋設工程と前記回転後退工程とを交互に繰り返して前記螺旋翼によって掘削され、掘り起こされた土砂と前記グラウトとを混合攪拌し、この混合攪拌を前記杭本体の自重で前記杭本体の下端底部が地中の前記所定深度に降下するまで繰り返す混合攪拌工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に記載の地中埋設構造物浮上抑制装置は、地中埋設構造物を地中に埋設したアンカーを使用してその浮上を抑制する、地中埋設構造物浮上抑制装置であって、請求項3に記載の埋設施工法によって地中埋設構造物の底部下で埋設された回転埋設杭を前記アンカーとして使用し、前記アンカーの上端部を連結部材により地中埋設構造物の底部に連結することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に記載の地中埋設構造物浮上抑制装置は、地中埋設構造物を地中に埋設したアンカーを使用してその浮上を抑制する、地中埋設構造物浮上抑制装置であって、請求項4に記載の埋設施工法によって地中埋設構造物の底部下で埋設された回転埋設杭を前記アンカーとして使用し、前記アンカーの上端部を連結部材により地中埋設構造物の底部に連結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば施工が容易で且つ確実に地中埋設構造物、地上構造物の浮上や沈下を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の回転埋設杭の一実施例を示す一部省略し且つ要部を斜視図で表現した側面図である。
【図2】図1に示す回転埋設杭の螺旋翼に設けられた補助掘削刃が閉じた状態を示す部分拡大斜視図である。
【図3】図1に示す回転埋設杭の螺旋翼に設けられた補助掘削刃が開いた状態を示す部分拡大斜視図である。
【図4】補助掘削刃とそれを螺旋翼に取り付ける支持片を示す図で、(a)は補助掘削刃と支持片の平面図、(b)は同側面図、(c)は同斜視図である。
【図5】本発明の回転埋設杭の他の実施例を示す一部省略し且つ要部を斜視図で表現した側面図である。
【図6】本発明の回転埋設杭のさらに別の実施例を示す一部省略し且つ要部を斜視図で表現した側面図である。
【図7】本発明の回転埋設杭の埋設施工法の一実施例を示す説明図である。
【図8】本発明の回転埋設杭の埋設施工法の他の実施例を示す説明図である。
【図9】本発明の地中埋設構造物浮上抑制装置の一実施例を示す一部切断し且つ要部を斜視図で表現した側面図である。
【図10】図9に示す地中埋設構造物浮上抑制装置のアンカー部分の要部拡大斜視図である。
【図11】図9に示す地中埋設構造物浮上抑制装置のアンカー本体上端部と地中埋設構造物底部との連結構造の変形例を示す一部切断した部分拡大側面図である。
【図12】図11に示す連結構造の変形例を示す一部切断した部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
図1乃至図4(a)、(b)、(c)は本発明の回転埋設杭の一実施例を示す。
【0017】
本実施例の回転埋設杭は、菅状の杭本体10と、杭本体10の下端部側周面に設けられた略1巻の螺旋翼11と、螺旋翼11の周方向に沿って等間隔に配置され、螺旋翼11の周縁から杭本体10の径方向に突出可能な2枚の補助掘削刃12とを備える。
【0018】
杭本体10は鋼管製で、開口したその下端底部に底板13が固定され、この底板13に先端掘削刃14が取り付けられ、またグラウト噴出口15が設けられる。施工時に、杭本体10内にグラウト注入パイプ60が装着される。そして、グラウト注入パイプ60の先端部(図示せず)がグラウト噴出口15に連結される。グラウト注入パイプ60から送られたグラウト(セメント粉と水とを所定の割合で混合してスラリー状にしたいわゆるセメントミルク、モルタルなど)がグラウト噴出口15から地盤中の掘削された土砂に噴出される。
【0019】
螺旋翼11は杭本体10の外径の2倍乃至3倍の外径を有している。杭本体10をオーガー(回転押し込み装置)により一方向(正転)させると、螺旋翼11が地中にねじ込まれて回転推進し、周囲の土砂を掘削し圧縮しながら杭本体10を地中に推進させる。
【0020】
補助掘削刃12は、螺旋翼11の面部に回動可能に取り付けられた支持片16の外端部に杭本体10の軸線方向に延びるよう固定されている。詳しくは、螺旋翼11の周縁寄りの箇所で螺旋翼11の表面と裏面を挟み且つ内端部がピン17を介して螺旋翼11に回動可能に取り付けられた一対の支持片16(図4(a)、(b)、(c)参照)の外端部に、補助掘削刃12が杭本体10の軸線方向に延びるよう固定(溶接)されている。
【0021】
補助掘削刃12は、杭本体10を一方向に回転(正転)させて地中に埋設する方向に移動(推進)させる際に螺旋翼11の周りの土砂によってピン17を支点として回動し、螺旋翼11の周縁に押し付けられる。すなわち、補助掘削刃12は杭本体10を地中に推進させる際に螺旋翼11から杭本体10の径方向に突出せず、その収容位置に止まる(図2参照)。
【0022】
また、補助掘削刃12は、杭本体10を一方向とは反対の他方向に回転(逆転)させて地中から抜き出す方向に移動させる際に螺旋翼11の周りの土砂に押されてピン17を支点として前回とは反対の方向に回動し、螺旋翼11の周縁から杭本体10の径方向に突出する(図3参照)。これにより、補助掘削刃12は螺旋翼10によって掘削出来ない螺旋翼10の周囲にある土砂を更に掘削することができる。
【0023】
なお、補助掘削刃12は2枚ではなく、1枚又は3枚以上であってもよい。
【0024】
杭本体10を地中の所定箇所で正転と逆転を繰り返して上下往復移動させると、その箇所の掘削領域をそれ以外の箇所(螺旋翼11のみで掘削される箇所)に比して拡大することが可能となる。
【0025】
螺旋翼11の径を大きくして掘削領域を拡大することは可能であるが、掘削抵抗が必然的に大きくなり、掘削効率が低下するのが避けられない。本実施例では螺旋翼11の径を大きくすることなく掘削領域を拡大することが可能で、掘削抵抗にしても螺旋翼11によって既に掘削された箇所から補助掘削刃12によって更に掘削するので螺旋翼11の径を大きくして掘削する場合に比して小さくて済む。掘削領域の土砂とグラウトを混合して攪拌することにより、地中に、グラウトによって硬化された土砂の円柱状の層50、50a(図7、図8参照)を形成することが出来る。この円柱状の層50、50aは、杭本体10の先端支持力及び抗引抜力を倍増する。
【0026】
本実施例の回転埋設杭は、先端支持力の増強と抗引抜力の強化を図ることができ、マンホールなどの地中埋設構造物や建物、地上構造物などのアンカーあるいは支持杭として使用することによりこれら構造物の沈下・浮上を確実に抑制することが出来る。
【0027】
図5、図6は回転埋設杭の他の実施例を示す。
【0028】
図5に示す回転埋設杭は、杭本体10の螺旋翼11の上方位置(例えば螺旋翼11から500mm以内で、回転埋設杭を地中に埋設した後に図7、図8に示す円柱状の層50、50a内に位置する箇所)に第2の螺旋翼18aを設けて構成される。第2の螺旋翼18aの外径は、螺旋翼11よりも大きく(1.4倍程度)、補助掘削刃12を展開させたときと略同じに設定されている。図5中、他の部分については図1に示す回転埋設杭と同じ構成なので、同一部分に同一符号を付してその説明を省略する。
【0029】
図6に示す回転埋設杭は、杭本体10の螺旋翼11の上方の2箇所(例えば螺旋翼11から250mmの箇所と500mmの箇所)に混合攪拌羽根18bをそれぞれ設けて構成される。これら混合攪拌羽根18bは、螺旋翼11、補助掘削刃12と共に土砂とグラウトを混合して攪拌するのに使用される。図6中、他の部分については図1に示す回転埋設杭と同じ構成なので、同一部分に同一符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図5、図6に示す回転埋設杭についても上述した本実施例の回転埋設杭(図1など)と同様に、先端支持力の増強と抗引抜力の強化を図ることができ、マンホールなどの地中埋設構造物や建物、地上構造物などのアンカーあるいは支持杭として使用することによりこれら構造物の沈下・浮上を確実に抑制することが出来る上に、第2の螺旋翼18a、混合攪拌羽根18bで掘削された土砂とグラウトとの混合攪拌を効率よく行うことが出来る。
【0031】
図7は本発明の埋設施工法の一実施例を示す。本実施例によれば図1に示す回転埋設杭を使用している。
【0032】
先ず杭本体10の内部にグラウト注入パイプ60を装着し、その先端部(図示せず)をグラウト噴出穴15に連結し、また杭本体10の上端部(頂部)にオーガー(回転押し込み装置 図示せず)を連結して、埋設箇所に杭本体10を起立させる(準備工程)。
【0033】
次いで、オーガー(図示せず)により杭本体10を一方向に回転(正転)させて先端掘削刃14を埋設箇所の地面に突きさし、螺旋翼11を地面に食い込ませると、螺旋翼11の推進力により杭本体10が地中に移動(推進)する。この際、補助掘削刃12は、螺旋翼11の周りの土砂によってピン17を支点として回動し、螺旋翼11の周縁に押し付けられる。そして、杭本体10の下端底部が地中の所定位置、例えば杭本体10の下端底部が埋設される所定深度から1メートル乃至2メートル手前の位置に到着した時点でグラウト噴出口15からグラウト、例えばセメントミルクを噴出させつつ杭本体10の下端底部を所定深度まで移動させる(回転埋設工程)。
【0034】
次いで、グラウト噴出口15からセメントミルクを噴出させつつオーガー(図示せず)により杭本体10を前回とは反対の他方向に回転(逆転)させて所定深度から所定位置まで引き上げる。この引き上げの際、各補助掘削刃12が螺旋翼11の周囲の土砂に押し出され、この結果、ピン17を支点として支持片16が回動し、各補助掘削刃12が螺旋翼11の周縁から杭本体10の径方向に突出して、螺旋翼11の周囲の土をさらに掘削する(回転後退工程)。
【0035】
次いで、杭本体10の正転と逆転を繰り返して、所定位置と所定深度との間で杭本体10を上下往復移動させ(回転埋設工程と回転後退工程とを交互に繰り返し)、螺旋翼11と補助掘削刃12によって掘削され、掘り起こされた土砂とセメントミルクとを螺旋翼11と補助掘削刃12で混合攪拌する。図5に示す回転埋設杭を使用した場合には、第2の螺旋翼18aも土砂とセメントミルクを混合攪拌する。図6に示す回転埋設杭を使用した場合には、混合攪拌羽根18bも土砂とセメントミルクを混合攪拌する。これを複数回、例えば4回乃至5回ほど行う。この後、杭本体10の回転を停止して、杭本体10の上端部からオーガー(回転押し込み装置)を外す。杭本体10の自重で杭本体10の下端底部が地中の所定深度まで降下するか否かをチェックする。混合攪拌が十分でない場合(杭本体10の自重で杭本体10の下端底部が地中の所定深度に降下しない場合)には杭本体10の上端部を再度オーガー(回転押し込み装置)に連結し、杭本体10の正転と逆転を繰り返す(混合攪拌工程)。
【0036】
杭本体10の自重で杭本体10の下端底部が地中の所定深度まで降下したらセメントミルクが硬化するのを待つ(セメントミルク硬化工程)。所定時間経過後、地中にセメントミルクによって硬化された土砂の円柱状の層50が形成される。
【0037】
本実施例の埋設施工法によれば、セメントミルクによって硬化された土砂の円柱状の層50は、螺旋翼11から一対の補助掘削刃12を展開した(螺旋翼11の周縁から一対の補助掘削刃12を突出させた)際における補助掘削刃12間の距離に相当する直径を有しており、円柱状の層50を有さない螺旋翼11のみによって得られる杭本体10の支持力及び抗引抜力を倍増させることが可能である。また、円柱状の層50は、所定位置と所定深度との間の距離に相当する高さを有しており、杭本体10に押し下げ力や引き抜き力が繰り返し作用しても杭本体10を強固に支持することが可能である。さらに、先端支持力及び抗引抜力を大きくするのに螺旋翼11の直径を拡大させる必要がないことから、埋設施工効率を低下させるおそれがない。
【0038】
上述した図7に示す本実施例の埋設施工法は、マンホールなどの地中埋設構造物あるいは地上に構築される建物、地上構造物の浮上・沈下抑制のためのアンカー、支持杭などの埋設施工に適用することができ、アンカー、支持杭などの先端支持力、抗引抜力を増強してマンホールなどの地中埋設構造物、地上に構築される建物、地上構造物などの浮上や沈下を確実に抑制することが可能である。
【0039】
図8は本発明の埋設施工法の他の実施例を示す。本実施例によれば図6に示す回転埋設杭から補助掘削刃12、支持片16及びピン17を省略した回転埋設杭を使用している。
【0040】
図7に示す実施例の場合と同様に、先ず杭本体10の内部にグラウト注入パイプ60を装着し、その先端部をグラウト噴出穴15に連結し、また杭本体10の上端部(頂部)にオーガー(回転押し込み装置)を連結して、埋設箇所に杭本体10を起立させる(準備工程)。
【0041】
次いで、杭本体10を一方向に回転(正転)させて先端掘削刃14を埋設箇所の地面に突きさし、螺旋翼11を地面に食い込ませると、螺旋翼11の推進力により地中に移動する。そして、杭本体10の下端底部が地中の所定位置、例えば杭本体10の下端底部が埋設される所定深度から1メートル乃至2メートル手前の位置に到着した時点でグラウト噴出口15からグラウト、例えばセメントミルクを噴出させつつ杭本体10の下端底部を所定深度まで移動させる(回転埋設工程)。この際、混合攪拌羽根18bは螺旋翼11によって掘削された土砂とセメントミルクとを混合攪拌する。
【0042】
次いで、グラウト噴出口15からセメントミルクを噴出させつつ杭本体10を前回とは反対の他方向に回転(逆転)させて所定深度から所定位置まで引き上げる。この引き上げの際には、図7の実施例とは異なり、螺旋翼11の周囲の土をさらに掘削することはないが、混合攪拌羽根18bが螺旋翼11によって掘削された土砂とセメントミルクとを混合攪拌する(回転後退工程)。
【0043】
次いで、杭本体10の正転と逆転を繰り返して、所定位置と所定深度との間で杭本体10を上下往復移動させ(回転埋設工程と回転後退工程とを交互に繰り返し)、螺旋翼11によって掘削され、掘り起こされた土砂とセメントミルクとを螺旋翼11と混合攪拌羽根18bで混合攪拌する。これを複数回、例えば4回乃至5回ほど行う。この後、図7の実施例と同様に、杭本体10の回転を停止して、杭本体10の上端部からオーガー(回転押し込み装置)を外し、杭本体10の自重で杭本体10の下端底部が地中の所定深度まで降下するか否かをチェックする(混合攪拌工程)。
【0044】
杭本体10の自重で杭本体10の下端底部が地中の所定深度まで降下したらセメントミルクが硬化するのを待つ(セメントミルク硬化工程)。所定時間経過後、地中にセメントミルクによって硬化された土砂の円柱状の層50aが形成される。
【0045】
本実施例の埋設施工法によれば、セメントミルクによって硬化された土砂の円柱状の層50aは、螺旋翼11に相当する直径を有し且つ所定位置と所定深度との間の距離に相当する高さを有しており、円柱状の層50aを有さない螺旋翼11のみの場合に比して大きな支持力と摩擦抵抗力が得られる。また、杭本体10に押し下げ力や引き抜き力が繰り返し作用しても杭本体10を強固に支持することが可能である。さらに、埋設施工効率を低下させるおそれがない。
【0046】
上述した図8に示す他の実施例の埋設施工法も、図7に示す埋設施工法と同様に、マンホールなどの地中埋設構造物あるいは地上に構築される建物、地上構造物の浮上・沈下抑制のためのアンカー、支持杭などの埋設施工に適用することができ、アンカー、支持杭などの先端支持力、抗引抜力を増強してマンホールなどの地中埋設構造物、地上に構築される建物、地上構造物などの浮上や沈下を確実に抑制することが可能である。
【0047】
図9及び図10は本発明の地中埋設構造物浮上抑制装置の一実施例を示す。
【0048】
本実施例では地中埋設構造物としてマンホール20に適用した場合を示している。本実施例の浮上抑制装置は、マンホール20の底部下の地中に埋設されるアンカー30と、アンカー30をマンホール20の底部に連結する連結部材40を備える。なお、本発明の地中埋設構造物浮上抑制装置はマンホール以外の地中埋設構造物にも適用出来る。
【0049】
アンカー30として図5に示す回転埋設杭を使用し、アンカー30は図7に示す埋設施工法により地中に埋設される。
【0050】
アンカー30は、図5に示す回転埋設杭と同様に、鋼管製のアンカー本体30aと、アンカー本体30aの下端部側周面に設けられた螺旋翼31と、螺旋翼31の周方向に沿って等間隔で配置され、螺旋翼31の周縁からアンカー本体30aの径方向に突出可能な2枚の補助掘削刃32とを備える。
【0051】
アンカー本体30aの下端底部に底板33が固定され、この底板33に先端掘削刃34が取り付けられ、またグラウト噴出口35が設けられる。
【0052】
補助掘削刃32は、螺旋翼31の面部に回動可能に取り付けられた支持片36の外端部にアンカー本体30aの軸線方向に延びるよう固定されている。詳しくは、螺旋翼31の周縁寄りの箇所で螺旋翼31の表面と裏面を挟み且つ内端部がピン37を介して螺旋翼31に回動可能に取り付けられた一対の支持片36(図10参照)の外端部に、補助掘削刃32が杭本体10の軸線方向に延びるよう固定(溶接)されている。
【0053】
補助掘削刃32は、アンカー本体30aを地中に推進させる際に螺旋翼31からアンカー本体30aの径方向に突出せず、その収容位置に止まる。また、補助掘削刃32は、アンカー本体30aを他方向に回転(逆転)させて地中から抜き出す方向に移動させる際に螺旋翼31の周縁からアンカー本体30aの径方向に突出する。
【0054】
アンカー本体30aの螺旋翼31の上方位置に第2の螺旋翼38が設けられる。第2の螺旋翼38の外径は、螺旋翼31よりも大きく、補助掘削刃32を展開させたときと略同じに設定されている。
【0055】
アンカー30(アンカー本体30a)は、図7に示す埋設施工法と同様の施工法によりマンホール20の底部下の地中に埋設される。この際に形成された、セメントミルクで硬化された土砂の円柱状の層50b(図10参照)よってアンカー30(アンカー本体30a)は、引き抜き力に抗して地中に保持される。アンカー30の埋設後、オーガー(回転押し込み装置)を外し、またグラウト注入パイプを外す。
【0056】
連結部材40は、アンカー本体30aの上端部が貫通する穴41を有した方形状の鋼板42と、穴41から突き出たアンカー本体30aの頂部に固定される固定板43とを備える。マンホール20の底部には施工時に開口部21が開けられており、この開口部21を介してマンホール20内に突き出たアンカー本体30aの上端部が鋼板42の穴41を貫通する。
【0057】
アンカー本体30aの頂部に固定板43を溶接などにより固定し、また固定板43を鋼板42に溶接などで固定した後、開口部21を塞ぎ、鋼板42と固定板43とを覆うようにマンホール20の底部にモルタル44が打設される。
【0058】
本実施例の地中埋設構造物浮上抑制装置によれば、マンホール20の底部下(マンホール20の略真下)の地中にアンカー30を埋設するようにしてあるので、マンホール20の周囲に配管などが埋設されていてもマンホール20の真下に配管が延びていない限りこれら配管に邪魔されることがなく、施工が容易に行える。また、アンカー30(アンカー本体30a)は、セメントミルクで硬化された土砂の円柱状の層50b(図10参照)によって引き抜き力に抗して地中に保持されるので、地盤液状化現象によってマンホール20が浮き上がるのを確実に抑制することが出来る。また、マンホール20の沈下も確実に抑制することが出来る。
【0059】
図11は図9に示す地中埋設構造物浮上抑制装置の連結部材40の変形例を示す。
【0060】
本変形例によれば、アンカー本体30aの上端部に連結ネジ軸45をナットあるいは溶接などで固定している。この連結ネジ軸45はマンホール20の底部に開けた開口部21からマンホール20内に配置した方形状の鋼板46の穴(図示せず)を貫通する。穴を貫通した連結ネジ軸45の上端部にワッシャ47を嵌め、ナット48を螺合して鋼板46に固定することにより、アンカー本体30aの上端部をマンホール20の底部に連結する。この連結後、開口部21を塞ぎ、鋼板46、ワッシャ47及びナット48を覆うようにマンホール20の底部にモルタル49が打設される。
【0061】
図12は図11に示す連結部材40の変形例を示す。
【0062】
本変形例によれば、ナット48を鋼板46aの表面側で連結ネジ軸45に螺合させる代わりに、予めナット48を鋼板46aの裏面に溶接などで固定しておき、鋼板46a自体を回して連結ネジ軸45にナット48を螺合させる。
【0063】
なお、図示しないが、請求項6に記載の本発明の地中埋設構造物浮上抑制装置の一実施例として、例えば図8に示す埋設施工法によりマンホールの底部下の地中に埋設される回転埋設杭10をアンカーとして使用する。この場合でもアンカーの上端部は、図9、図11あるいは図12に示す連結部材40によってマンホールの底部に連結される。
【0064】
この場合も、マンホールの底部下(マンホールの略真下)の地中にアンカーを埋設するようにしてあるので、マンホールの周囲に配管などが埋設されていてもマンホールの真下に配管が延びていない限りこれら配管に邪魔されることがなく、施工が容易に行える。また、アンカー(アンカー本体)は、セメントミルクで硬化された土砂の円柱状の層によって引き抜き力に抗して地中に保持されるので、地盤液状化現象によってマンホールが浮き上がるのを確実に抑制することが出来る。また、マンホールの沈下も確実に抑制することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の回転埋設杭やその埋設施工法は、マンホールなどの地中埋設構造物や建物、地上構造物の浮上や沈下を抑制するのに適用される。
【符号の説明】
【0066】
10 杭本体
11 螺旋翼
12 補助掘削刃
13 底板
14 先端掘削刃
15 グラウト噴出口
16 支持片
17 ピン
18a 螺旋翼
18b 混合攪拌羽根
20 マンホール(地中埋設構造物)
30 アンカー
40 連結部材
50 セメントミルクによって硬化された土砂の円柱状の層
50a セメントミルクによって硬化された土砂の円柱状の層
50b セメントミルクによって硬化された土砂の円柱状の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端底部に掘削刃を設けた管状の杭本体と、
前記杭本体の下端部側周面に設けられた螺旋翼と、
前記螺旋翼の周方向に沿って所定の間隔をあけて配置され、前記螺旋翼の周縁から前記杭本体の径方向に突出可能な複数の補助掘削刃と、を有し、
前記補助掘削刃の各々は、前記螺旋翼の面部に回動可能に取り付けられた支持片の端部に、前記杭本体の軸線方向に延びるよう固定され、
前記杭本体を一方向に回転させて地中に埋設する方向に移動させる際に、前記補助掘削刃は前記杭本体の径方向に突出せず、
前記杭本体を他方向に回転させて地中から抜き出す方向に移動させる際に、前記補助掘削刃は前記杭本体の径方向に突出することを特徴とする回転埋設杭。
【請求項2】
請求項1記載の回転埋設杭において、
前記杭本体の下端底部にグラウト注入パイプからのグラウトを地中に噴出するグラウト噴出穴を設けたことを特徴とする回転埋設杭。
【請求項3】
回転埋設杭を地中に埋設する埋設施工法であって、
前記回転埋設杭は、下端底部に掘削刃を設けた管状の杭本体と、前記杭本体の下端部側周面に設けられた螺旋翼と、前記螺旋翼の周方向に沿って所定の間隔をあけて配置され、前記螺旋翼の周縁から前記杭本体の径方向に突出可能な複数の補助掘削刃と、前記杭本体の下端底部に設けられたグラウト噴出穴と、を有し、前記補助掘削刃の各々は、前記螺旋翼の面部に回動可能に取り付けられた支持片の端部に、前記杭本体の軸線方向に延びるよう固定され、前記杭本体を一方向に回転させて地中に埋設する方向に移動させる際に、前記補助掘削刃は前記杭本体の径方向に突出せず、前記杭本体を他方向に回転させて地中から抜き出す方向に移動させる際に、前記補助掘削刃は前記杭本体の径方向に突出するように構成され、
前記杭本体の内部にグラウト注入パイプを装着し、その先端部を前記グラウト噴出穴に連結する準備工程と、
前記杭本体を一方向に回転させて前記螺旋翼の推進力により地中に移動させ、前記杭本体の下端底部が地中の所定位置に到着した時点で前記グラウト噴出口からグラウトを噴出させつつ前記杭本体の下端底部を所定深度まで移動させる回転埋設工程と、
前記グラウト噴出口からグラウトを噴出させつつ前記杭本体を前記一方向と反対の他方向に回転させて前記所定深度から前記所定距離位置まで引き上げ、この引き上げの際、前記各補助掘削刃を前記螺旋翼の周縁から前記杭本体の径方向に突出させて前記螺旋翼の周囲の土をさらに掘削する回転後退工程と、
前記所定位置と前記所定深度との間で前記回転埋設工程と前記回転後退工程とを交互に繰り返して前記螺旋翼と前記補助掘削刃によって掘削され、掘り起こされた土砂と前記グラウトとを混合攪拌し、この混合攪拌を前記杭本体の自重で前記杭本体の下端底部が地中の前記所定深度に降下するまで繰り返す混合攪拌工程と、を有することを特徴とする埋設施工法。
【請求項4】
回転埋設杭を地中に埋設する埋設施工法であって、
前記回転埋設杭は、下端底部に掘削刃を設けた管状の杭本体と、前記杭本体の下端部側周面に設けられた螺旋翼と、前記杭本体の下端底部に設けられ、グラウトを地中に噴出するグラウト噴出穴と、を有し、
前記杭本体の内部にグラウト注入パイプを装着し、その先端部を前記グラウト噴出穴に連結する準備工程と、
前記杭本体を一方向に回転させて前記螺旋翼の推進力により地中に移動させ、前記杭本体の下端底部が地中の所定位置に到着した時点で前記グラウト噴出口からグラウトを噴出させつつ前記杭本体の下端底部を所定深度まで移動させる回転埋設工程と、
前記グラウト噴出口からグラウトを噴出させつつ前記杭本体を前記一方向と反対の他方向に回転させて前記所定深度から前記所定距離位置まで引き上げる回転後退工程と、
前記所定位置と前記所定深度との間で前記回転埋設工程と前記回転後退工程とを交互に繰り返して前記螺旋翼によって掘削され、掘り起こされた土砂と前記グラウトとを混合攪拌し、この混合攪拌を前記杭本体の自重で前記杭本体の下端底部が地中の前記所定深度に降下するまで繰り返す混合攪拌工程と、を有することを特徴とする埋設施工法。
【請求項5】
地中埋設構造物を地中に埋設したアンカーを使用してその浮上を抑制する、地中埋設構造物浮上抑制装置であって、
請求項3に記載の埋設施工法によって地中埋設構造物の底部下で埋設された回転埋設杭を前記アンカーとして使用し、
前記アンカーの上端部を連結部材により地中埋設構造物の底部に連結することを特徴とする地中埋設構造物浮上抑制装置。
【請求項6】
地中埋設構造物を地中に埋設したアンカーを使用してその浮上を抑制する、地中埋設構造物浮上抑制装置であって、
請求項4に記載の埋設施工法によって地中埋設構造物の底部下で埋設された回転埋設杭を前記アンカーとして使用し、
前記アンカーの上端部を連結部材により地中埋設構造物の底部に連結することを特徴とする地中埋設構造物浮上抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−19249(P2013−19249A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155780(P2011−155780)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(592198404)千代田工営株式会社 (25)
【Fターム(参考)】