説明

回転変動吸収クランクプーリ

【課題】通常トルクの入力時には良好な回転変動吸収機能を発揮し、過大トルクの入力時にはプーリの振れ回りを規制し、よってベルトのスリップ現象が発生するのを抑制する。
【解決手段】駆動軸に発生する回転変動を吸収すべくハブとプーリをカップリング部を介して連結してなる回転変動吸収クランクプーリであって、カップリング部は、ハブに固定されるハブ側構成部材と、プーリに固定されるプーリ側構成部材と、ハブ側構成部材に設けた突起およびプーリ側構成部材に設けた突起間に円周上挟み込まれる渦巻きゼンマイ状弾性体とを有する。通常トルク入力時は、両突起間で渦巻きゼンマイ状弾性体が捩られながらトルクを伝達し、過大トルク入力時は、捩りの進行により渦巻きゼンマイ状弾性体が一方の構成部材の内周壁面に拡張密着した状態でトルクを伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジンのクランクシャフト等の駆動軸から各種の補機等の他の回転装置へ無端ベルトを介して回転トルクを伝達する際に、前記駆動軸に発生する回転変動(トルク変動)を吸収する機能を発揮する回転変動吸収クランクプーリに関する。本発明の回転変動吸収クランクプーリは例えば、自動車関連の分野で用いられ、またはその他の分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から図5に示すように、クランクシャフト等の駆動軸(図示せず)に発生する回転変動を吸収すべくハブ62とプーリ63をカップリングゴム64を介して連結してなる回転変動吸収クランクプーリ61が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながらこの従来技術によると、カップリングゴム64が円周上エンドレスの環状体として成形されていて、特にその捩れ変形を一定量までに制限する機構が設けられていないために、以下の不都合がある。
【0004】
すなわちエンジン等の駆動源が起動停止する際、駆動軸の回転数がカップリングゴム64の共振点を通過することから、このとき却って回転変動が増大し、これがそのままプーリ63およびベルト(図示せず)間へ伝えられるため、ベルトのスリップ現象が発生することがある。また、駆動軸の常用回転域においても急激な回転変動が発生した場合には同様にベルトのスリップ現象が発生することがある。ベルトのスリップ現象が発生すると、これに伴って異音(ベルト鳴き)が発生したり、ベルトの耐久性が低下したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−107637号公報(図8)
【特許文献2】特表2011−514495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、通常トルクの入力時には良好な回転変動吸収機能を発揮し、過大トルクの入力時にはプーリの振れ回りを規制し、よってベルトのスリップ現象が発生するのを抑制することができる回転変動吸収クランクプーリを提供することを目的とする。またこれに加えて、バックラッシュを吸収する機能を備え、更にベアリングに生じる摩擦抵抗を回転変動吸収に利用する機能を備えた回転変動吸収クランクプーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による回転変動吸収クランクプーリは、駆動軸に発生する回転変動を吸収すべくハブとプーリをカップリング部を介して連結してなる回転変動吸収クランクプーリであって、前記カップリング部は、前記ハブに固定されるハブ側構成部材と、前記プーリに固定されるプーリ側構成部材と、前記ハブ側構成部材に設けた突起および前記プーリ側構成部材に設けた突起間に円周上挟み込まれる渦巻きゼンマイ状弾性体と、を有し、通常トルク入力時は、前記両突起間で前記渦巻きゼンマイ状弾性体が捩られながら前記ハブ側構成部材から前記プーリ側構成部材へトルクを伝達し、過大トルク入力時は、前記捩りの進行により前記渦巻きゼンマイ状弾性体が一方の前記構成部材の内周壁面に拡張密着した状態で前記ハブ側構成部材から前記プーリ側構成部材へトルクを伝達することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2による回転変動吸収クランクプーリは、上記した請求項1記載のクランクプーリにおいて、前記渦巻きゼンマイ状弾性体は、バネ鋼などの金属材料にて成形されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3による回転変動吸収クランクプーリは、上記した請求項1または2記載のクランクプーリにおいて、前記突起は、駆動軸の正回転方向に前記渦巻きゼンマイ状弾性体の端部が当該突起に係合するように立ち上がり角度を比較的急とする係合面部を円周方向一方の面に備えるとともに、駆動軸の逆回転方向に前記渦巻きゼンマイ状弾性体の端部が当該突起を乗り越えるように立ち上がり角度を比較的緩とするスロープ面部を円周方向他方の面に備えることを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明の請求項4による回転変動吸収クランクプーリは、上記した請求項1、2または3記載のクランクプーリにおいて、前記渦巻きゼンマイ状弾性体とは別途設けられるゴム状弾性体の弾性によりスラストベアリングを前記プーリに押し付け、前記押し付けにより生じる摩擦抵抗を回転変動吸収に利用する構造を有することを特徴とする。
【0011】
上記構成を備える本発明においては、ハブとプーリを連結するカップリング部が、環状ゴムではなく、ハブに固定されるハブ側構成部材と、プーリに固定されるプーリ側構成部材と、ハブ側構成部材に設けた突起およびプーリ側構成部材に設けた突起間に円周上挟み込まれる渦巻きゼンマイ状弾性体とを有するものとされ、すなわち渦巻きゼンマイ状弾性体が作動時に捩り変形するものとされているため、この捩り変形が進行すると渦巻きゼンマイ状弾性体が一方の構成部材の内周壁面に拡張密着して捩り変形が停止すると云う状態が発生する。したがって駆動軸の常用回転域など通常トルクの入力時には、両突起間で渦巻きゼンマイ状弾性体が捩られながらトルクを伝達することにより良好な回転変動吸収機能を発揮することが可能となり、共振点通過時など過大トルクの入力時には、捩りの進行により渦巻きゼンマイ状弾性体が一方の構成部材の内周壁面に拡張密着した状態でトルクを伝達することによりプーリはそれ以上振れ回らず(それ以上ハブに対し相対変位せず)、よってベルトのスリップ現象が発生するのを抑制することが可能となる。渦巻きゼンマイ状弾性体としては例えばこれをバネ鋼などの金属材料により成形するのが好適である。
【0012】
また、突起については、駆動軸の正回転方向に渦巻きゼンマイ状弾性体の端部が当該突起に係合するように立ち上がり角度を比較的急とする係合面部を円周方向一方の面に備えるとともに、駆動軸の逆回転方向に渦巻きゼンマイ状弾性体の端部が当該突起を乗り越えるように立ち上がり角度を比較的緩とするスロープ面部を円周方向他方の面に備えるものとするのが好適であり、これによれば駆動軸の起動停止時、補機慣性力によってベルトを介してプーリがハブより軸正回転方向に進角する場合に渦巻きゼンマイ状弾性体の端部がスロープ面部を乗り越えてプーリが空転するため、バックラッシュを吸収することができ、よってベルトに作用する負荷を軽減させたり、ベルトスリップ等の不具合を抑制したりすることが可能となる。
【0013】
また、カップリング部に渦巻きゼンマイ状弾性体を用いると、渦巻きゼンマイ状弾性体はゴム状弾性体等と比較して自己減衰係数が極めて低いことから、共振点を通過する際に共振倍率を高め、プーリの回転変動を増大させることが懸念されるが、これに対策するには、渦巻きゼンマイ状弾性体とは別途にゴム状弾性体を設け、このゴム状弾性体の弾性によりスラストベアリングをプーリに押し付け、押し付けにより生じる摩擦抵抗を回転変動吸収に利用するのが有効であり、これによればスラストベアリングの摩擦減衰により共振倍率を低下させ、プーリの回転変動を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0015】
すなわち、以上説明したように本発明によれば、駆動軸の常用回転域など通常トルクの入力時には、両突起間で渦巻きゼンマイ状弾性体が捩られながらトルクを伝達することにより良好な回転変動吸収機能が発揮され、共振点通過時など過大トルクの入力時には、捩りの進行により渦巻きゼンマイ状弾性体が一方の構成部材の内周壁面に拡張密着した状態でトルクを伝達することによりプーリがそれ以上振れ回らず、よってベルトのスリップ現象が抑制される。したがってベルトのスリップ現象に伴って異音が発生したり、ベルトの耐久性が低下したりするのを抑制することができる。
【0016】
また、突起に係合面部およびスロープ面部を設けることによりプーリを空転させてバックラッシュを吸収することができ、ゴム状弾性体の弾性によりスラストベアリングをプーリに押し付ける際の摩擦抵抗を回転変動吸収に利用することにより共振倍率を低下させ、プーリの回転変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例に係る回転変動吸収クランクプーリの断面図
【図2】ハブ側構成部材の単品斜視図
【図3】プーリ側構成部材の単品斜視図
【図4】カップリング部の説明図
【図5】従来例に係る回転変動吸収クランクプーリの断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)本発明では、回転方向のバネ系を渦巻きゼンマイ状の弾性体(以下、ゼンマイとも称する)により構成する。ゼンマイはハブとプーリとの間に構成された空間に内装する。ゼンマイの内周端はハブ側構成部材の外周向き突起に端面接触し、離接可能な状態とする。ゼンマイの外周端はプーリ側構成部材の内周向き突起に端面接触し、離接可能な状態とする。
(2)ハブ側構成部材およびプーリ側構成部材におけるゼンマイと端面接触する各突起とゼンマイの両端面とは、エンジンの正回転方向で端面接触する形状とする。ハブ側構成部材およびプーリ側構成部材におけるゼンマイと端面接触する各突起形状は、エンジンの逆回転方向に対して緩やかなスロープ状を成し、ゼンマイとの端面接触が避ける形状とする。
(3)ゼンマイが格納された空間の軸方向両端面はハブおよびプーリそれぞれに締結された構成部材により側壁を設け、規定空間からの軸方向への飛び出しを規制する。
(4)ハブとプーリはラジアルベアリングにより径方向の相対変位を規制し回転自由に連接する。
(5)ハブとプーリはスラストベアリングとこのスラストベアリングに連接し軸方向に予圧縮された弾性体により軸方向の相対変位を規制し回転自由に連接する。また、スラストベアリングは同部材に連接した弾性体により軸方向に圧迫され、摩擦による減衰を発生する。
【0019】
(6)エンジンが起動しハブが正回転すると、ハブ側構成部材の突起はゼンマイ内周端の端面に接触しゼンマイにトルクを伝達する。トルクを受けたゼンマイはハブと共に正回転し、クランク1回転未満にプーリ側構成部材の突起にゼンマイ外周端端面と接触する。プーリはベルトを介して補機の抵抗トルクを受け、ゼンマイの外周端端面にエンジンと逆方向の抵抗を発生する。両端面に相反する抵抗力を受けたゼンマイは撓みを生じながら内周端端面を残し、徐々に外周方向に広がる変形を生じる。ゼンマイが外周方向変形はプーリ側構成部材の内周面で拡張を規制されるため、ゼンマイの変形は停止すると同時に、ハブの正回転方向トルクをプーリに伝達する。
(7)以上のことから、正回転方向のトルク伝達は、
(A)初期段階はゼンマイの撓みによりトルク伝達を緩衝する領域
(B)ゼンマイの撓みが規制されトルクを緩衝せず直接伝達する領域
の二行程となる。上記(A)では、エンジンの回転変動をゼンマイが吸収し、滑らかにプーリを回転させベルトおよび補機類の回転変動を低減させベルトスリップ等の不具合を抑制する。一方、上記(B)は補機類に異常が生じプーリへの負荷トルクが強大となった場合のフェールセーフとして機能する。
(8)エンジンの起動停止時にクランクシャフトの大きな回転変動に伴い、補機類の慣性力によってプーリがハブに対して正回転方向に進角した場合、ハブはプーリに対して相対的に逆回転するが、ゼンマイ両端面とハブ側・プーリ側の端面接触は解除され、逆回転方向に空転する。1回転以上の空転を伴った場合、ゼンマイの両端面はハブ側・プーリ側突起のスロープに乗り上げ、それぞれの突起を乗り越えることから無制限の空転が可能となり、ベルトへの負荷を軽減しベルトスリップ等の不具合を抑制する。
(9)ゼンマイをバネ鋼などの金属材料にて形成することにゴム状弾性体に比べ耐久性の高いトルク伝達機構が実現でき、ゼンマイ状のバネ系であることから柔らかいバネ定数による高い防振性能を長大な捩り角に於いて実現できる。
(10)金属製ゼンマイではゴム弾性体等に比べ、自己の減衰係数が極めて低いことから、共振点を通過する際に共振倍率を高め、プーリの回転変動を増大させる懸念があるが、本発明ではスラストベアリングの摩擦減衰により共振倍率を低下させ、プーリの回転変動を抑制することができる。
【0020】
(11)本発明は、
(a)ゼンマイによるハブからプーリへのトルク伝達。
(b)ゼンマイの内外周端面は離接可能にハブ・プーリと接触する。
(c)ゼンマイの内外周端面はエンジンの正回転方向でハブ・プーリと端面接触する。
(d)ゼンマイの内外周端面はエンジンの逆回転方向で端面接触ができず、突起を乗り越えやすい突起形状をハブ・プーリそれぞれに設け、無制限な空転を可能とする。
(e)スラストベアリングに軸方向荷重を負荷し、摩擦減衰を得て共振倍率を低減する
ことを特徴とする。
(12)従来技術(例えば上記特許文献2記載の発明)では「ラチェットを防止する」ことが謳われているが、本発明はラチェットを積極的に利用しており、補機系がクランクよりも進角差動した際の変位規制がないことに主眼を置いている。従来技術はラチェットしないことから補機系進角差動の許容範囲が360度未満であり、許容範囲を超えた際は急激に差動を規制するため、ベルトに衝撃負荷を発生させる。したがってベルトスリップを誘発する問題が潜在するが、本発明はこの問題を解決可能である。また、本発明はラチェットを可能とした機能設計であることから、従来技術と異なりゼンマイ両端にリベット状の係合手段や他部材を保持するカギ爪状の係合手段を必要としないために構造が簡易となる利点がある。
【実施例】
【0021】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施例に係る回転変動吸収クランクプーリ1の断面を示している。また、図2は当該クランクプーリ1に備えられるハブ側構成部材32、図3はプーリ側構成部材35をそれぞれ示し、これらの構成部材32,35に渦巻きゼンマイ状弾性体38を組み込んでカップリング部31を組み立てると図4に示すようになる。尚、図4において、カップリング部31は図1におけるA−A線で裁断されている。
【0023】
当該実施例に係る回転変動吸収クランクプーリ1は、自動車エンジンのクランクシャフト等の駆動軸から各種の補機等の他の回転装置へ無端ベルトを介して回転トルクを伝達する際に、駆動軸に発生する回転変動(トルク変動)を吸収すべくハブ11とプーリ21をカップリング部31を介して連結したものであって、カップリング部31としては、環状のゴムではなく、ハブ11に固定される剛性環よりなるハブ側構成部材(カップリング部ハブ側ケース)32と、プーリ21に固定される同じく剛性環よりなるプーリ側構成部材(カップリング部プーリ側ケース)35と、ハブ側構成部材32の円周上一箇所に設けた突起33およびプーリ側構成部材35の円周上一箇所に設けた突起36間に円周上挟み込まれる渦巻きゼンマイ状弾性体38とを有するものとされている。そして通常トルクの入力時には、両突起33,36間で渦巻きゼンマイ状弾性体38が捩られながらハブ側構成部材32からプーリ側構成部材35、延いてはハブ11からプーリ21へトルクを伝達し、過大トルクの入力時には、捩りの進行により渦巻きゼンマイ状弾性体38が一方の構成部材35の内周壁面に拡張密着した状態でハブ側構成部材32からプーリ側構成部材35、延いてはハブ11からプーリ21へトルクを伝達するように構成されている。
【0024】
各構成要素は、以下のように構成されている。
【0025】
すなわち先ず、ハブ11は、所定の金属によって環状に成形され、駆動軸に固定されるボス部11aおよび径方向の立ち上がり部11bを一体に備え、径方向立ち上がり部11bの外周側に筒状部11cが一体に成形されている。
【0026】
プーリ21は、所定の金属によって環状に成形され、ハブ11の筒状部11cの外周側に配置される内周筒部21aを備え、この内周筒部21aの軸方向一方(図では左方)の端部から径方向外方へ向けて径方向立ち上がり部(平面部)21bが一体成形され、径方向立ち上がり部21bの外周端部から軸方向他方(図では右方)へ向けて外周筒部21cが一体成形され、外周筒部21cの外周面にプーリ溝21dが形成されている。内周筒部21aは外周筒部21cの内周側に配置されるとともに外周筒部21cは内周筒部21aの外周側に配置され、よって両筒部21a,21c間にカップリング部31などの収容スペースが設定されている。また、プーリ21はハブ11に対し非接触であって円周方向に相対変位可能に組み合わされ、プーリ21の内周筒部21aとハブ11の筒状部11cの間に樹脂製のラジアルベアリング51が介装され、これにより両者11,21の同軸度が確保されている。
【0027】
カップリング部31は上記したように、ハブ11に固定されるハブ側構成部材32と、プーリ21に固定されるプーリ側構成部材35と、ハブ側構成部材32に設けた突起33およびプーリ側構成部材35に設けた突起36間に円周上挟み込まれる渦巻きゼンマイ状弾性体38とを有している。
【0028】
このうち先ず、ハブ側構成部材32は、所定の金属によって環状に成形され、ハブ11の筒状部11cの軸方向他方の端部においてその内周面に嵌合される内周筒部32aを備え、この内周筒部32aの軸方向他方の端部から径方向外方へ向けて径方向立ち上がり部32bが一体成形され、径方向立ち上がり部32bの外周端部から軸方向一方へ向けて外周筒部32cが一体成形され、外周筒部32cの軸方向一方の端部から径方向外方へ向けてフランジ部32dが一体成形されている。また図2に示すように、外周筒部32cの外周面の円周上一箇所に径方向外方へ向けて外向きの突起33が設けられている。突起33には、駆動軸の正回転方向に渦巻きゼンマイ状弾性体38の内周端部38aが当該突起33に係合するように立ち上がり角度を比較的急勾配とする係合面部33aが円周方向一方の面に設けられるとともに、駆動軸の逆回転方向に渦巻きゼンマイ状弾性体38の内周端部38aが当該突起33を乗り越えるように立ち上がり角度を比較的緩勾配とするスロープ面部33bが円周方向他方の面に設けられており、当該実施例では、板金素材の一部を舌片状に切り欠いて立ち上げることにより舌片の先端によって係合面部33aが形成されるとともに舌片の斜面によってスロープ面部33bが形成されている。
【0029】
プーリ側構成部材35は、所定の金属によって環状に成形され、プーリ21の外周筒部21cの内周面に嵌合される筒状部35aを備え、この筒状部35aの軸方向他方の端部から径方向内方へ向けてフランジ部35bが一体成形されている。また図3に示すように、筒状部35aの内周面の円周上一箇所に径方向内方へ向けて内向きの突起36が設けられている。突起36には、駆動軸の正回転方向に渦巻きゼンマイ状弾性体38の外周端部38bが当該突起36に係合するように立ち上がり角度を比較的急勾配とする係合面部36aが円周方向一方の面に設けられるとともに、駆動軸の逆回転方向に渦巻きゼンマイ状弾性体38の外周端部38bが当該突起36を乗り越えるように立ち上がり角度を比較的緩勾配とするスロープ面部36bが円周方向他方の面に設けられ、当該実施例では、板金素材の一部を舌片状に切り欠いて立ち上げることにより舌片の先端によって係合面部36aが形成されるとともに舌片の斜面によってスロープ面部36bが形成されている。
【0030】
ハブ側構成部材32は、その外周筒部32cをプーリ21の内周筒部21aの外周側に配置しているが、このハブ側構成部材32はプーリ21に対し非接触であって円周方向に相対変位可能に組み合わされ、ハブ側構成部材32のフランジ部32dとプーリ21の径方向立ち上がり部21bの間に樹脂製のスラストベアリング(第1スラストベアリング)52が介装されている。
【0031】
また、ハブ側構成部材32とプーリ側構成部材35は、互いに非接触であって円周方向に相対変位可能に組み合わされ、この両部材32,35は、両部材32,35が囲む内部空間に渦巻きゼンマイ状弾性体38を収容するケーシングをなしており、すなわち図4に示すように、両構成部材32,35に囲まれる内部空間に渦巻きゼンマイ状弾性体38が収容(配置)されている。
【0032】
渦巻きゼンマイ状弾性体38は、バネ鋼などの金属材料によって成形され、所定の軸方向幅を備える帯状の金属素材を径方向に螺旋状に巻回したものとされている。螺旋の向きとしては、渦巻きゼンマイ状弾性体38の内周端部38aがハブ側構成部材32の外向き突起33の係合面部33aに端面接触して係合可能とされるとともに渦巻きゼンマイ状弾性体38の外周端部38bがプーリ側構成部材35の内向き突起36の係合面部36aに端面接触して係合可能とされる向きとされ、当該実施例では、このような渦巻きゼンマイ状弾性体38が内周端部38aから外周端部38bへかけて略2周分に亙って巻回されている。この渦巻きゼンマイ状弾性体38は、正回転方向のトルク伝達において、プーリ側構成部材35の筒状部35aの内周壁面に拡張密着することになる。
【0033】
図1の説明に戻って、ハブ11の筒状部11cにおける軸方向一方の端部にホルダ53によってゴム状弾性体54が保持されており、このゴム状弾性体54の弾性によりスラストベアリング55をプーリ21に押し付け、押し付けにより生じる摩擦抵抗を回転変動吸収に利用する構造が設けられている。具体的には以下のとおりである。
【0034】
すなわち、ハブ11の筒状部11cにおける軸方向一方の端部に剛性環よりなるホルダ53が嵌着されており、このホルダ53は、ハブ11の筒状部11cの内周面に嵌合される筒状部53aを備え、筒状部53aの軸方向一方の端部から径方向外方へ向けてフランジ部53bが一体成形されている。フランジ部53bの軸方向他方の面に環状のゴム状弾性体54が接着(加硫接着)され、ゴム状弾性体54の軸方向他方の面に剛性環よりなるプレート56が接着され、プレート56とプーリ21の径方向立ち上がり部21bの間に樹脂製のスラストベアリング(第2スラストベアリング)55が介装されている。スラストベアリング55を装着した状態でハブ11の筒状部11cにおける軸方向一方の端部にホルダ53を嵌着すると、ゴム状弾性体54が軸方向に圧縮(予圧縮)され、反力が生じ、この反力によってスラストベアリング55がプーリ21の径方向立ち上がり部21bに押し付けられ、この押し付けにより、摺動時に発生する摩擦抵抗が回転変動吸収に利用される。
【0035】
また上記構造では、プレート56がスラストベアリング55に押し付けられるので、両者55,56が摺動する場合には、ここに発生する摩擦抵抗が回転変動吸収に利用可能となる。また、ハブ11に対しラジアルベアリング51を介して組み付けられたプーリ21が軸方向に可動である場合には、上記反力によってプーリ21の径方向立ち上がり部21bが第1スラストベアリング52に押し付けられるので、この押し付けにより、摺動時に発生する摩擦抵抗が回転変動吸収に利用可能となる。更にこの場合には、上記反力によって第1スラストベアリング52がハブ側構成部材32のフランジ部32dに押し付けられるので、両者32,52が摺動するならば、ここに発生する摩擦抵抗が回転変動吸収に利用可能となる。したがって、これらにより発生する摩擦抵抗が回転変動吸収に利用される。
【0036】
上記構成を備えるクランクプーリ1においては、ハブ11とプーリ21を連結するカップリング部31が、環状のゴムではなく、ハブ11に固定されるハブ側構成部材32と、プーリ21に固定されるプーリ側構成部材35と、ハブ側構成部材32に設けた突起33およびプーリ側構成部材35に設けた突起36間に円周上挟み込まれる渦巻きゼンマイ状弾性体38とを有するものとされ、これにより渦巻きゼンマイ状弾性体38がハブ11とプーリ21の円周方向相対変位に伴って捩り変形するものとされているために、この捩り変形が進行すると渦巻きゼンマイ状弾性体38が拡径してプーリ側構成部材35の筒状部35aの内周壁面に拡張密着し停止すると云う状態が発生する。したがって駆動軸の常用回転域など通常トルクの入力時には、両突起33,36間で渦巻きゼンマイ状弾性体38が捩られながらトルクを伝達することにより良好な回転変動吸収機能を発揮することができ、共振点通過時など過大トルクの入力時には、捩り変形の進行により渦巻きゼンマイ状弾性体38がプーリ側構成部材35の筒状部35aの内周壁面に拡張密着し停止した状態でトルクを伝達することによりプーリ21はそれ以上振れ回らず(それ以上ハブ11に対し相対変位せず)、よってベルトのスリップ現象が発生するのを抑制することができる。
【0037】
また、突起33,36が、駆動軸の正回転方向に渦巻きゼンマイ状弾性体38の端部38a,38bが当該突起33,36に係合するように立ち上がり角度を比較的急勾配とする係合面部33a,36aを備えるとともに駆動軸の逆回転方向に渦巻きゼンマイ状弾性体38の端部38a,38bが当該突起33,36を乗り越えるように立ち上がり角度を比較的緩勾配とするスロープ面部33b,36bを備えるものとされているために、駆動軸の起動停止時、補機慣性力によってベルトを介してプーリ21がハブ11より軸正回転方向に進角すると、渦巻きゼンマイ状弾性体38の端部38a,38bがスロープ面部33b,36bを乗り越えてプーリ21が空転することになる。したがってこのようにしてバックラッシュを吸収するため、ベルトに作用する負荷を軽減させたり、ベルトスリップ等の不具合を抑制したりすることができる。
【0038】
また、渦巻きゼンマイ状弾性体38とは別途にプーリ21の反対側にゴム状弾性体54が設けられ、このゴム状弾性体54の弾性によりスラストベアリング55をプーリ21に押し付け、押し付けにより生じる摩擦抵抗を回転変動吸収に利用するものとされているために、スラストベアリング55の摩擦減衰により共振倍率を低下させ、プーリ21の回転変動を抑制することができる。また、この押し付けによりプーリ21の軸方向位置が規定されるため、ハブ11に対するプーリ21の軸方向位置決め精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 回転変動吸収クランクプーリ
11 ハブ
11a ボス部
11b,21b,32b 径方向立ち上がり部
11c,35a 筒状部
21 プーリ
21a,32a 内周筒部
21c,32c 外周筒部
21d プーリ溝
31 カップリング部
32 ハブ側構成部材
32d,35b フランジ部
33,36 突起
33a,36a 係合面部
33b,36b スロープ面部
35 プーリ側構成部材
38 渦巻きゼンマイ状弾性体
38a 内周端部
38b 外周端部
51 ラジアルベアリング
52,55 スラストベアリング
53 ホルダ
54 ゴム状弾性体
56 プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に発生する回転変動を吸収すべくハブとプーリをカップリング部を介して連結してなる回転変動吸収クランクプーリであって、
前記カップリング部は、前記ハブに固定されるハブ側構成部材と、前記プーリに固定されるプーリ側構成部材と、前記ハブ側構成部材に設けた突起および前記プーリ側構成部材に設けた突起間に円周上挟み込まれる渦巻きゼンマイ状弾性体と、を有し、
通常トルク入力時は、前記両突起間で前記渦巻きゼンマイ状弾性体が捩られながら前記ハブ側構成部材から前記プーリ側構成部材へトルクを伝達し、
過大トルク入力時は、前記捩りの進行により前記渦巻きゼンマイ状弾性体が一方の前記構成部材の内周壁面に拡張密着した状態で前記ハブ側構成部材から前記プーリ側構成部材へトルクを伝達することを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。
【請求項2】
請求項1記載のクランクプーリにおいて、
前記渦巻きゼンマイ状弾性体は、バネ鋼などの金属材料にて成形されていることを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。
【請求項3】
請求項1または2記載のクランクプーリにおいて、
前記突起は、駆動軸の正回転方向に前記渦巻きゼンマイ状弾性体の端部が当該突起に係合するように立ち上がり角度を比較的急とする係合面部を円周方向一方の面に備えるとともに、駆動軸の逆回転方向に前記渦巻きゼンマイ状弾性体の端部が当該突起を乗り越えるように立ち上がり角度を比較的緩とするスロープ面部を円周方向他方の面に備えることを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のクランクプーリにおいて、
前記渦巻きゼンマイ状弾性体とは別途設けられるゴム状弾性体の弾性によりスラストベアリングを前記プーリに押し付け、前記押し付けにより生じる摩擦抵抗を回転変動吸収に利用する構造を有することを特徴とする回転変動吸収クランクプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−24366(P2013−24366A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161824(P2011−161824)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】