説明

回転導入機

【課題】 回転力の伝達効率が高く、構成部品となる軸受の耐久性に優れ、さらには発塵量及びアウトガスの少ない回転導入機を提供する。
【解決手段】 支持軸受21によって回転可能に支持された入力軸2と、入力軸2と同軸に配されるとともに別の支持軸受31によって回転可能に支持された出力軸3と、入力軸2及び出力軸3を連結し入力軸2に入力された回転力を出力軸3に伝達する中間軸1と、入力軸2及び出力軸3の間に配され入力軸2及び出力軸3を気密的に隔離するベローズ4と、を備え、中間軸1が入力軸2及び出力軸3に入力軸側連結軸受11及び出力軸側連結軸受12を介して相対回転可能に取り付けられた回転導入機において、中間軸1を、入力軸2及び出力軸3の回転軸を中心に公転するように、該回転軸に対して平行かつ偏心して設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転導入機に関し、特に回転力の伝達時における回転力のロスが少なく、構成部品の耐久性に優れた回転導入機に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンルーム等の清浄環境、真空環境、圧力室等の高圧力環境、爆発性雰囲気、あるいは腐食性雰囲気等の特殊環境に通常環境から回転力を導入するためには、図5に示すような回転導入機が用いられる。この回転導入機を用いることにより、回転動力源がおかれる通常環境と上記特殊環境とを気密的に隔離しつつ、通常環境下で発生させた回転力を上記特殊環境へ伝達、導入することが可能になる。
【0003】
図5の従来の回転導入機について説明する。
回転導入機は、回転力が入力される入力軸200と、回転力を出力する出力軸300と、入力軸200及び出力軸300を連結する中間軸100と、入力軸200及び出力軸300の間に配されて、入力軸200及び出力軸300を気密的に隔離するためのベローズ400と、これらの部材を取り囲むハウジング500と、を備えている。
【0004】
このハウジング500は両端が閉口した筒状をなしており、その両端面にはそれぞれ貫通穴が設けられている。この一方の貫通穴には入力軸200が挿通されていて、貫通穴の内周面に設置された支持軸受210によって回転可能に支持されている。入力軸200の両端部のうち、ハウジング内500に位置する側の端部にはフランジ200bが形成されており、その出力軸300側の端面は傾斜面となっている。
また、他方の貫通穴には出力軸300が挿通されていて、入力軸200の場合と同様に、支持軸受310により回転可能に支持されている。そして、出力軸300のハウジング500内に位置する部分は、先端が入力軸200の傾斜面に対して直角をなすように湾曲している。
【0005】
そして、ハウジング500内部において入力軸200と出力軸300とが、中間軸100によって連結されている。すなわち、入力軸200のフランジ200bの傾斜面に設けられた入力軸側連結軸受110に中間軸100の軸部100aが取り付けられていて、中間軸100は入力軸200に相対回転可能に連結されている。また、中間軸100の軸部100aと同軸的に中間軸100のフランジ100bに設けられた出力軸側連結軸受120には出力軸300先端が取り付けられていて、中間軸100は出力軸300に相対回転可能に連結されている。このとき、入力軸側連結軸受110は入力軸200の回転軸に対して偏心して設置されていることから、中間軸100は入力軸200の回転軸に対して偏心して取り付けられることとなる。また、入力軸側連結軸受110及び出力側連結軸受120は、それぞれの軸受中心軸が入力軸及び出力軸の回転軸に対して等しい角度をなして傾斜している。
【0006】
ベローズ400は、出力軸300の軸方向に伸縮可能な円筒状部材であり、一方の開口部が中間軸100のフランジ100bの出力軸300側の端面と接合され、もう一方の開口部がハウジング500内側の出力軸300側の端面500aと接合されており、出力軸300の湾曲部分を内包するように配されている。接合は開口部全周にわたって気密的に施されている。これにより、ハウジング500と、ハウジング500及び中間軸100に気密的に接合されたベローズ400と、によって、入力軸200と出力軸300とが気密的に隔離されている。
【0007】
次に、入力軸200から出力軸300への回転力の伝達について説明する。回転力の入力によって入力軸200が回転すると、中間軸100を介して該回転軸に対して偏心して連結された出力軸300の先端が該回転軸を中心に円を描くように動き、これに伴い出力軸300が回転する。このとき、中間軸100は、入力軸200の回転に従って該回転軸回りに公転するが、入力軸側連結軸受110及び出力軸側連結軸受120が回転するため自転しない。このため、中間軸100に接合されたベローズ400は、中間軸100の公転に従い傾斜して伸縮を繰り返すだけで、ねじれることなくその形状を維持して出力軸300を内包する。よって、入力軸200から出力軸300への回転力の伝達と、入力軸200及び出力軸300間の気密的隔離と、が両立可能になっている。
【0008】
なお、このような回転導入機の例は、特許文献1にも開示されている。
【特許文献1】特開2003−314572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の回転導入機においては、2個の連結軸受110,120が、入力軸200及び出力軸300の回転軸に対して傾斜して設けられている。この連結軸受110,120は、上述のように入力軸200の回転にともなって入力軸200の回転軸回りに公転するとともに、その回転軸に傾斜した軸を中心とした自転も行う。このように、公転軸と自転軸が傾斜関係にあるため、2個の連結軸受110,120には、公転軸と自転軸とを含む面内にトルクが発生し、伝達される回転力にロスが生じていた。また、連結軸受110,120は、内輪と外輪とが相対的に傾いて回転するため、耐久性に劣るという問題があった。
【0010】
また、入力軸200の傾斜面と該傾斜面に設けられる連結軸受設置用の穴や、出力軸300の湾曲部とその先端の軸受取付け部は、通常の加工時のように切削物の回転軸を刃の進行方向に対して垂直又は平行にして旋削することができず、加工が困難であった。
本発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、回転力の伝達効率が高く、構成部品となる軸受の耐久性に優れた回転導入機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1による回転導入機は、支持軸受によって回転可能に支持された入力軸と、前記入力軸と同軸に配されるとともに別の支持軸受によって回転可能に支持された出力軸と、前記入力軸及び前記出力軸を連結し前記入力軸に入力された回転力を前記出力軸に伝達する中間軸と、前記入力軸及び前記出力軸の間に配され前記入力軸及び前記出力軸を気密的に隔離する隔離部材と、を備え、前記中間軸が前記入力軸及び前記出力軸にそれぞれ連結軸受を介して相対回転可能に取り付けられた回転導入機において、前記中間軸を、前記入力軸及び前記出力軸の回転軸を中心に公転するように、前記回転軸に対して平行かつ偏心して設けたことを特徴とする。
このような構成であれば、中間軸が入力軸及び出力軸の回転軸と平行に配設されているため、連結軸受の軸受中心軸が入力軸の回転軸と平行である。このため、回転力を伝達する際のロスが抑制されるとともに、連結軸受が耐久性に優れたものとなり、また入力軸及び出力軸の加工も容易になる。
【0012】
本発明の請求項2による回転導入機は、請求項1において、前記出力軸を回転可能に支持する支持軸受及び前記中間軸と前記出力軸との取り付けに用いられた前記連結軸受は、外輪の軌道面、内輪の軌道面及び転動体の転動面のうちの少なくとも1つが、官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑膜で覆われていることを特徴とする。
【0013】
本請求項に記載の回転導入機であれば、清浄環境下及び真空環境下においても発塵量及びアウトガスが少なく、かつ、高面圧下においても耐久性に優れていて長寿命である。
すなわち、潤滑膜は、官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテル(PFPE)とを含有するため、流動性を有している。このため、比較的大きな荷重が作用するような場合でも、転動体の負荷による剥離や欠落を生じる可能性が低く、発塵量が少ない。よって、本発明の回転導入機は、半導体製造装置等のパーティクルを嫌うような清浄環境下での使用に適している。
【0014】
また、潤滑膜には含フッ素重合体だけでなくPFPEが配合されているため、低アウトガスである。よって、本発明の回転導入機は、特にウェハの処理プロセスのような、有機物による汚染を嫌う清浄環境下及び真空環境下での使用に適している。
さらに、比較的大きな荷重が作用するような場合でも、軸受の転動、摺接する部位において金属同士が無潤滑で接触する状態となりにくく、該部位に潤滑剤が常に付着している状態が維持される。よって、該部位において凝着や摩耗が起こる可能性が低いので、回転導入機は耐久性に優れ、かつ発塵量が少ないものとなる。
【0015】
なお、潤滑膜は官能基を有する含フッ素重合体とPFPEとを含有しているものであるが、両者を混合したもので潤滑膜を形成してもよいし、官能基を有する含フッ素重合体の層とPFPEの層とからなる二層構造の潤滑膜を形成してもよい。後者の場合には、内輪の軌道面、外輪の軌道面及び転動体の転動面のうちの少なくとも一つに、官能基を有する含フッ素重合体の層を設け、その上にPFPEの層を設けた二重構造とする必要がある。そうすれば、下層の含フッ素重合体と上層のPFPEとの濡れ性が良好であるため、PFPEが薄く均一に被覆され、軸受の転がり摩擦によってPFPEが飛散しにくい(低発塵である)。金属面に直接PFPEを被覆すると、金属とPFPEとの濡れ性が悪いので、PFPEを均一に被覆することが困難である。
【0016】
本発明の請求項3による回転導入機は、請求項2において、前記潤滑膜の厚さは、0.3μm以上2.0μm以下であることを特徴とする。
前記潤滑膜の膜厚は特に限定されるものではないが、0.3〜2.0μmとすれば、発塵性及び耐久性がより良好となる。0.3μm未満では潤滑性が不十分となり、耐久性を十分確保できなくなるおそれがある。また、2.0μmを超えると潤滑性は十分となるが、発塵量が多くなるおそれがある。
【0017】
本発明の請求項4による回転導入機は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記出力軸を回転可能に支持する支持軸受及び前記中間軸と前記出力軸との取り付けに用いられた前記連結軸受は、外輪の軌道面、内輪の軌道面及び転動体の転動面のうちの少なくとも1つに、硬質膜を備えていることを特徴とする。
このように、硬質膜を表面に備える構成とすることにより、支持軸受及び連結軸受の耐摩耗性が向上する。外輪の軌道面、内輪の軌道面及び転動体の転動面のうちの少なくとも1つに備えることで耐摩耗性が向上するが、全てに備える方が効果的である。
【0018】
ここで、硬質膜とは、硬度Hv1000程度以上の膜をいう。代表的なものを掲げると、メッキでは、無電解ニッケルメッキ、セラミックカニゼン(登録商標)及びカニボロン(登録商標)等、カーボン系では、グラファイトライクカーボン(GLC)及びダイヤモンド・ライクカーボン(DLC)等、フッ素系では、フッ素重合硬質膜(FHC)等、Si系では、SiC、チタン系では、TiN、TiCN(炭窒化チタン)、TiAlN(窒化チタンアルミ)及びTiCrN(窒化チタンクロム)等、クロム系では、CrN等がある。また、溶射によって形成された硬質膜でもよい。溶射材料として、セラミックス、サーメット、炭化物等が用いられ、例えば、Cr32、TiO2−Al23、Co−WC、(Ni−Cr)−Cr32、Al23、Cr23,Cr23−SiO−TiO2、(Co−WC)−(Ni−Al)等が適している。
また、硬質膜の膜厚は、1〜40μm程度が望ましい。これを超えて膜厚が厚くなると、硬質膜の剥離、欠落が生じやすくなる。
なお、軌道面や転動面に形成された硬質膜を、さらに潤滑膜で覆うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の回転導入機によれば、確実な回転運動の伝達と確実な入力軸及び出力軸間の気密的隔離とを両立しつつ、耐久性に優れ、かつ、回転運動の伝達時におけるロスが少ない。また、本発明の回転導入機によれば、回転導入機を構成する軸受の軌道面等に潤滑膜や硬質膜を形成することにより、発塵及びアウトガスを抑制することができ、また耐摩耗性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において参照する各図においては、他の図と同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
【実施例1】
【0021】
本実施例の回転導入機を図1に示す。
回転導入機は、回転力が入力される入力軸2と、回転力を出力する出力軸3と、入力軸2及び出力軸3を連結する中間軸1と、入力軸2及び出力軸3の間に配されて、入力軸2及び出力軸3を気密的に隔離するためのベローズ4と、これらの部材を取り囲むハウジング5と、を備えている。
【0022】
このハウジング5は、一端が開口し他端が閉口した円筒形状となっており、ハウジング5の開口した端部には、入力軸2が回転可能に取り付けられている。この入力軸2は、一端がハウジング5の開口部よりも大きな径で開口した短円筒部2bと、回転力を伝達するとともに短円筒部2bの閉口端面の中心から延びる軸部2aと、から構成されている。そして、この入力軸2の短円筒部2bがハウジング5の開口部を覆い塞ぐように設置され、短円筒部2bの内周面とハウジング5の外周面との間に介装された支持軸受21によって入力軸2が回転可能に支持される。
【0023】
また、ハウジング5の閉口した端部には、貫通穴が設けられており、この貫通穴には出力軸3が挿通されていて、貫通穴の内周面に設置された支持軸受31によって回転可能に支持されている。出力軸3の両端部のうち、ハウジング内5に位置する側の端部にはフランジ3bが形成されている。
そして、ハウジング5の内部においては、中間軸1が入力軸2の回転軸及び出力軸3の回転軸に対して平行かつ偏心して配設されていて、その中間軸1によって入力軸2と出力軸3とが連結されている。すなわち、中間軸1の一方の軸端が、入力軸2に設置された入力軸側連結軸受11に取り付けられていて、中間軸1は入力軸2に相対回転可能に連結されている。また、中間軸1の他方の軸端が、出力軸3に設置された出力軸側連結軸受12に取り付けられていて、中間軸1は出力軸3に相対回転可能に連結されている。
【0024】
この入力軸側連結軸受11は、短円筒部2bの閉口した端部に、入力軸2の回転軸から偏心して設けられており、その軸受中心軸は入力軸2の回転軸に対して平行になっている。また、出力軸側連結軸受12は、出力軸3のフランジ3bに、該出力軸3の回転軸から偏心して設けられており、その軸受中心軸は出力軸3の回転軸に対して平行になっている。さらに、入力軸側連結軸受11の公転半径(入力軸側連結軸受11の軸受中心軸と入力軸2の回転軸との間の距離)及び出力軸側連結軸受12の公転半径(出力軸側連結軸受12の軸受中心軸と出力軸3の回転軸との間の距離)は、等しくなるように設定されている。なお、図1では出力軸側連結軸受12がニードル軸受である例が示されている。軸受の形式は特に問わないが、ニードル軸受を用いるとフランジ3bの半径方向のサイズを小さくすることができる。
【0025】
ベローズ4は、両側の開口径が異なる円筒状部材であり、中間軸1の軸方向に伸縮自在となっている。ハウジング5内部においては、ベローズ4の小径側の開口端が中間軸1の出力軸側連結軸受12近傍に接合され、大径側の開口端がハウジング5内面の入力軸2側端部に接合されており、そのベローズ4に中間軸1が挿通されている。なお、図1では中間軸1に設けたフランジ1aにべローズ4を接合させている例を示すが、中間軸1の外周面に直接接合させてもよい。また、図1では、中間軸1と接合されている開口端の径は、該開口端が中間軸1と一体となって公転するため、中間軸1の径と同等か、やや大きい程度となっている。
【0026】
なお、べローズ4の構成材料は、ステンレス鋼の他、ゴム、エラストマー、樹脂等である。ステンレス鋼を構成材料としてベローズ4を成形する場合には、円筒から一体的に成形してもよいし、あるいはリングを複数接合して形成してもよい。ゴム、エラストマー、樹脂等を構成材料としてベローズ4を成形する場合には、例えば金型によって成形することができる。また、ベローズ4の開口部とハウジング5及び中間軸1との接合は、溶接により行ってもよいし、接着により行ってもよいし、あるいは超音波圧接により行ってもよい。
【0027】
このような回転導入機は、真空環境等の特殊環境と通常環境とを隔離する気密隔壁6にフランジ5aを介して取り付けられる。このとき、回転導入機は、入力軸2を通常環境側に向け、出力軸3を特殊環境側に向けて気密隔壁6の穴を塞ぐように取り付ける。これにより、入力軸2側の通常環境と出力軸3側の特殊環境とは、気密隔壁6とハウジング5とベローズ4とによって、気密的に隔離される。
【0028】
次に、入力軸2から出力軸3への回転力の伝達について説明する。回転力の入力によって入力軸2が回転すると、該回転軸に対して偏心して取り付けられた中間軸1が該回転軸を中心に公転する。このため、出力軸3が、フランジ3bに偏心的に取り付けられた中間軸1の公転に従って回転し、回転力が伝達される。また、このとき中間軸1の公転に伴って入力軸側連結軸受11及び出力軸側連結軸受12が回転するため、中間軸1とハウジング5に接合されたベローズ4のねじれが防止される。従って、入力軸2から出力軸3への回転力の伝達と、入力軸2及び出力軸3間の気密的隔離と、が両立可能になっている。さらに、入力軸側連結軸受11及び出力軸側連結軸受12の公転軸となる入力軸2及び出力軸3と、入力軸側連結軸受11及び出力軸側連結軸受12の自転軸となる軸受中心軸が平行であるため、伝達時における回転力のロスが抑制される。
【0029】
軸受の材料は特に規定されないが、上記のようにして回転力が伝達される出力軸3側の環境が真空環境や腐食性雰囲気である場合には、出力軸側連結軸受12及び出力軸の支持軸受31に以下の材料を用いるとよい。
すなわち、内輪、外輪、転動体及び保持器(図示せず)を、いずれも耐食材料で構成することが好ましい。なお、図1のように出力軸側連結軸受12がニードル軸受である場合には、中間軸1が内輪に相当する。
【0030】
具体的に内輪及び外輪の材料としては、例えば、JIS規格SUS440Cに代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼に適当な硬化熱処理を施したもの、JIS規格SUS630等の析出硬化系ステンレス鋼、あるいはSUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼に表面硬化処理を施したもの等があげられる。
また、転動体の材料としては、前述のステンレス鋼の他、セラミックスや超硬合金等のサーメットがあげられる。なお、セラミックス材としては、窒化ケイ素(Si34)を主体とするものの他、アルミナ(Al23)、炭化ケイ素(SiC)、ジルコニア(ZrO2)等を主体とするものが好ましい。
【0031】
軸受の潤滑に使用される潤滑剤についても、特に規定されるものではないが、出力軸3側の環境が清浄環境である場合には、低発塵グリースを用いることが望ましい。また、出力軸3側の環境が真空環境である場合には、低蒸気圧グリース(シリコングリース及びフッ素グリース等)、及び、低蒸気圧オイル(シリコンオイル及びフッ素オイル等)が望ましい。
【0032】
さらに、出力軸3側の環境が清浄環境や真空環境である場合には、外輪の軌道面、内輪の軌道面及び転動体の転動面のうちの少なくとも1つを、官能基を有する含フッ素重合体とPFPEとを含有する潤滑膜で覆うことが望ましい。また、この潤滑膜の厚さは、0.3μm以上2.0μm以下であることがより望ましい。このような潤滑膜で覆うことにより、回転導入機の発塵量及びアウトガスを少なくすることができる。また、軸受を耐久性に優れたものとすることができる。
さらに、外輪の軌道面、内輪の軌道面及び転動体の転動面のうちの少なくとも1つに、無電解ニッケルメッキ処理等により形成される硬度Hv1000程度以上の硬質膜を備えることにより、軸受を耐摩耗性に優れたものとすることができる。
【実施例2】
【0033】
本実施例の回転導入機を図2に示す。同図の回転導入機は、実施例1の回転導入機とほぼ同様の構成となっているが、入力軸をプーリ7とし、ベルト等からプーリ7を介して入力される回転力を出力軸3へ伝達する構成となっている点のみで異なっている。
同図のプーリ7は、一端が閉口した略円筒状の部材であり、ベルト等をかけるための溝7aを外周面に有するとともに、ハウジング5の外周面とプーリ7の内周面との間に介装された支持軸受21によって回転可能に支持されている。また、プーリ7の閉口端面には、プーリ7の回転軸から偏心して入力軸側連結軸受11が設けられており、その入力軸側連結軸受11の軸受中心軸は、プーリ7の回転軸に対して平行になっている。
【0034】
これにより、プーリ7が配されている側の環境と、出力軸3側の環境とを気密的に隔離しつつ、プーリ7を介して入力された回転力が出力軸3へ伝達される。
このように、入力軸としてプーリ7を用いれば、ベルト等による回転力の入力が可能である。この場合には、入力軸の軸部が不要となるため、回転導入機の軸方向のサイズを小さくすることができる。また、この場合には、プーリ径の大きさに比例して入力される回転力が小さくなるので、プーリ径の大きさを調節することによって入力すべき回転力の大きさを調節することができる。
【実施例3】
【0035】
本実施例の回転導入機を図3に示す。同図の回転導入機は、実施例1の回転導入機とほぼ同様の構成となっているが、中間軸1の軸方向に伸縮自在のベローズの代わりに、中間軸1の径方向に伸縮自在のベローズ8を備えている点のみで異なっている。
同図のベローズ8は、ハウジング5内の空間を入力軸2側と出力軸3側とに仕切るように中間軸1に略垂直に配されており、ハウジング5の内周面及び該ベローズ8を貫通する中間軸1の外周面の全周にわたって接合されている。
ベローズ8は中間軸1の公転時にその中間軸1の径方向の動きに伴って伸縮するので、入力軸2側の環境と、出力軸3側の環境とを気密的に隔離しつつ、入力軸2に入力された回転力が出力軸3へ伝達される。
このように、中間軸1の径方向に伸縮自在のベローズ8を用いれば、回転導入機の軸方向のサイズを小さくすることができる。
【実施例4】
【0036】
実施例4の回転導入機を図4に示す。
同図の回転導入機は、実施例3の回転導入機とほぼ同様の構成となっているが、入力軸をプーリ7とし、ベルト等からプーリ7を介して入力される回転力を出力軸3へ伝達する構成となっている点のみで異なっている。
このプーリ7の構成は、実施例2のプーリ7と同様であり、プーリ7を用いた効果も上述と同様である。また、本実施例の回転導入機においては、中間軸1の径方向に伸縮自在なベローズ8を用いているので、実施例2及び実施例3の回転導入機よりも軸方向のサイズをさらに小さくすることできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1の回転導入機の構成を説明する図である。
【図2】実施例2の回転導入機の構成を説明する図である。
【図3】実施例3の回転導入機の構成を説明する図である。
【図4】実施例4の回転導入機の構成を説明する図である。
【図5】従来の回転導入機の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
1 中間軸
1a フランジ
2 入力軸
2a 軸部
2b 短円筒部
3 出力軸
3b フランジ
4、8 ベローズ
5 ハウジング
5a フランジ
6 気密隔壁
7 プーリ
7a 溝
11 入力軸側連結軸受
12 出力軸側連結軸受
21,31 支持軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持軸受によって回転可能に支持された入力軸と、前記入力軸と同軸に配されるとともに別の支持軸受によって回転可能に支持された出力軸と、前記入力軸及び前記出力軸を連結し前記入力軸に入力された回転力を前記出力軸に伝達する中間軸と、前記入力軸及び前記出力軸の間に配され前記入力軸及び前記出力軸を気密的に隔離する隔離部材と、を備え、前記中間軸が前記入力軸及び前記出力軸にそれぞれ連結軸受を介して相対回転可能に取り付けられた回転導入機において、
前記中間軸を、前記入力軸及び前記出力軸の回転軸を中心に公転するように、前記回転軸に対して平行かつ偏心して設けたことを特徴とする回転導入機。
【請求項2】
前記出力軸を回転可能に支持する支持軸受及び前記中間軸と前記出力軸との取り付けに用いられた前記連結軸受は、外輪の軌道面、内輪の軌道面及び転動体の転動面のうちの少なくとも1つが、官能基を有する含フッ素重合体とパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑膜で覆われていることを特徴とする請求項1に記載の回転導入機。
【請求項3】
前記潤滑膜の厚さは、0.3μm以上2.0μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の回転導入機。
【請求項4】
前記出力軸を回転可能に支持する支持軸受及び前記中間軸と前記出力軸との取り付けに用いられた前記連結軸受は、外輪の軌道面、内輪の軌道面及び転動体の転動面のうちの少なくとも1つに、硬質膜を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転導入機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−97792(P2006−97792A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285198(P2004−285198)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】