説明

回転式圧縮機

【課題】駆動軸(40)を回転可能に支持する軸受部(32)を周方向において均一に冷却する。
【解決手段】回転式圧縮機において、ケーシング(11)と、ケーシングに収容される駆動機構(50)と、駆動機構(50)に連結する駆動軸(40)と、駆動軸(40)に回転駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(20)と、駆動軸(40)を回転可能に支持する軸受部(32)を有し、軸受部(32)が挿通固定される軸受穴(23c)が形成されたハウジング部(23)と、駆動軸(40)と軸受部(32)との間の軸受隙間(27)に潤滑油を供給する油供給機構(30)と、を設け、ハウジング部(23)の軸受穴(23c)の内周面に、軸受部(32)の周囲を冷却するように、油供給機構(30)からの潤滑油が流れる冷却溝(28,58,68)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式圧縮機に関し、特に回転式圧縮機の圧縮機構を駆動させる駆動軸と該駆動軸を支持する軸受部との間の摺動部の放熱対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転式圧縮機において、圧縮機構を駆動させる駆動軸と該駆動軸を支持する軸受との間に潤滑油を連続的に供給する構造として、特許文献1のような構造が知られている。特許文献1における駆動軸には、駆動軸を上下に貫通する給油通路と、該給油通路から水平方向に延びる分岐路とが形成されている。そして、上記給油通路の下端には、該給油通路に潤滑油を汲み上げる油ポンプが設けられている。この油ポンプによって給油通路に汲み上げられた潤滑油は、上記分岐路を通過した後、駆動軸と軸受との間に形成された軸受隙間に供給される。このように軸受隙間に供給された潤滑油が駆動軸と軸受部との間に十分な厚さの油膜を形成することにより、駆動軸と軸受部との間の摺動部が十分に潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−294037
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転式圧縮機の圧縮効率を改善するには、駆動軸と軸受部との軸受隙間を狭くすることが考えられる。これにより、駆動軸の軸心が軸受部に対して傾いてしまうことが抑制されるため、固定部材の軸心に対する可動部材の軸心の傾きも抑制できる。その結果、可動部材と固定部材との間の隙間が拡大して流体が漏れてしまうことを回避でき、圧縮効率を向上できる。
【0005】
また、上記潤滑油は、圧縮機構によって圧縮された流体ととともに圧縮機の外部へ吐出されてしまう場合がある。このように外部へ吐出される潤滑油が増えると、圧縮機内に溜められた潤滑油が不足して、油切れ状態となる。このような油切れ対策として、軸受隙間に供給する潤滑油の量を減らすことが考えられる。
【0006】
しかし、上述のように軸受隙間を狭くしたり、軸受隙間に供給する潤滑油の量を減らしたりすると、その分、軸受隙間に形成される油膜の厚さが薄くなってしまう。この油膜の厚さが薄くなると、駆動軸と軸受部との間の摺動部の摩擦抵抗が増大し、ひいては摩擦熱により摺動部の温度が上昇してしまう。すると、該摺動部を潤滑する潤滑油の温度も上昇する。そうなると、潤滑油の粘度が低下し、潤滑油の油膜の厚さが更に薄くなる。このように、軸受隙間に形成される油膜の厚さが薄くなっていくと、駆動軸と軸受部との間の摺動部の潤滑が更に損なわれ、摺動部の焼付き等により軸受部で所望の性能を得られなくなる。
【0007】
これに対して、軸受部を冷却することにより、該軸受部と駆動軸との間の軸受隙間を流れる潤滑油を冷却して該潤滑油の油膜厚さを保持し、軸受部の摺動性能を確保することが考えられる。しかし、軸受部において該軸受部の周方向の一部だけを冷却すると、軸受隙間を流れる潤滑油について、周方向における温度差が生じる。そうなると、軸受隙間を流れる潤滑油の周方向において油膜厚さにばらつきが生じ、この油膜厚さが薄い部分においては十分な潤滑が行われず、その結果、軸受部全体として十分な摺動性能が得られなくなってしまう。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動軸を回転可能に支持する軸受部を周方向において均一に冷却することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、回転式圧縮機を対象とし、ケーシング(11)と、該ケーシングに収容される駆動機構(50)と、該駆動機構(50)に連結する駆動軸(40)と、該駆動軸(40)に回転駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(20)と、上記駆動軸(40)を回転可能に支持する軸受部(32)を有し、該軸受部(32)が挿通固定される軸受穴(23c)が形成されたハウジング部(23)と、上記駆動軸(40)と上記軸受部(32)との間の軸受隙間(27)に潤滑油を供給する油供給機構(30)と、を備え、上記ハウジング部(23)の軸受穴(23c)の内周面には、上記軸受部(32)の周囲を冷却するように、上記油供給機構(30)からの潤滑油が流れる冷却溝(28,58,68)が形成されていることを特徴とする。
【0010】
第1の発明では、駆動軸(40)と該駆動軸(40)を回転可能に支持する軸受部(32)との間の軸受隙間(27)に、油供給機構(30)によって潤滑油が供給され、これにより、駆動軸(40)と軸受部(32)との間の摺動部が潤滑される。
【0011】
一方、ハウジング部(23)の軸受穴(23c)の内周面、すなわち軸受部(32)の背面側には、油供給機構(30)からの潤滑油が流れる冷却溝(28)が形成されている。駆動軸(40)が軸受部(32)に対して回転すると、駆動軸(40)と軸受部(32)との間の摺動部で比較的高温の摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって軸受部(32)の温度が上昇する。冷却溝(28)内の潤滑油は、このようにして温度が上昇した軸受部(32)を冷却しながら、冷却溝(28)を流れる。ここで、第1の発明では、冷却溝(28)は軸受部(40)の周囲を冷却するように形成されている。つまり、軸受部(32)は、周方向における一部のみが冷却されることなく、周方向において均一に冷却される。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、上記油供給機構(30)は、上記駆動軸(40)の内部を軸方向に延びる主給油路(44)と、流入端が上記主給油路(44)と繋がり流出端が上記軸受隙間(27)と繋がる軸受給油路(45a,45b)とを含み、上記軸受部(32)には、一端が上記軸受給油路(45b)の流出端に対して軸方向に一致する位置で上記軸受隙間(27)に臨むように開口し、他端が上記冷却溝(28,58,68)と繋がる連通穴(32a)が形成されていることを特徴とする。
【0013】
第2の発明では、主給油路(44)及び軸受給油路(45a,45b)を順に流れた潤滑油は、軸受給油路(45a,45b)の流出端から軸受隙間(27)へ流れ込む。そして、軸受隙間(27)に流れ込んだ潤滑油は、連通穴(32a)を通じた後に冷却溝(28,58,68)を流れることにより、軸受部(32)を冷却する。ここで、上記連通穴(32a)は、軸受給油路(45b)の流出端と軸方向に一致する位置に形成されているため、駆動軸(40)の回転に伴って回転する軸受給油路(45b)の流出端と連通穴(32a)とが周方向に一致したとき、軸受給油路(45b)からの潤滑油は直接、連通穴(32a)に向かって流れる。つまり、連通穴(32a)には、駆動軸(40)と軸受部(32)との間を潤滑していない、比較的低温の潤滑油が流入する。このように連通穴(32a)に流入した比較的低温の潤滑油が冷却溝(28,58,68)を流れるため、軸受部(32)が効率的に冷却される。
【0014】
第3の発明は、第1の発明において、上記油供給機構(30)は、上記駆動軸(40)の内部を軸方向に延びる主給油路(44)と、流入端が上記主給油路(44)と繋がり流出端が上記軸受隙間(27)と繋がる軸受給油路(45a,45b)とを含み、上記軸受部(32)には、一端が上記軸受給油路(45a)の流出端に対して軸方向にずれた位置で上記軸受隙間(27)に臨むように開口し、他端が上記冷却溝(28,58,68)と繋がる連通穴(32a)が形成されていることを特徴とする。
【0015】
第3の発明では、第2の発明の場合と同様、主給油路(44)及び軸受給油路(45a,45b)を順に流れた潤滑油は、軸受給油路(45a,45b)の流出端から軸受隙間(27)へ流れ込む。そして、軸受隙間(27)に流れ込んだ潤滑油は、連通穴(32a)を通じた後に冷却溝(28)を流れることにより軸受部(32)を冷却する。ここで、第3の発明では、第2の発明の場合と異なり、連通穴(32a)は、軸受給油路(45a)の流出端に対して軸方向にずれた位置に形成されている。そうすると、連通穴(32a)には、駆動軸(40)と軸受部(32)の間の摺動部を潤滑した後の潤滑油が流入する。つまり、冷却溝(28)には、上記摺動部の潤滑に用いられた潤滑油が流入する。
【0016】
第4の発明は、第3の発明において、上記駆動軸(40)は、鉛直方向に延びるように配設され、上記駆動軸(40)には、上記軸受部(32)に対する摺接部において、上記軸受給油路(45a)の流出端よりも下方且つ上記摺接部の下端部寄りの部位に、該駆動軸(40)の周方向に延びる環状の油捕捉溝(41b)が形成され、上記連通穴(32a)の一端は、上記油捕捉溝(41b)に臨むように開口していることを特徴とする。
【0017】
第4の発明では、軸受給油路(45a)から軸受隙間(27)へ流出した潤滑油は、軸受隙間(27)を下方へ向かって流れ、駆動軸(40)と軸受部(32)との間の摺動部を潤滑する。その後、潤滑油は、軸受部(32)に対する駆動軸(40)の摺接部の下端部寄りの部位に形成された環状の油捕捉溝(41b)によって捕捉された後、連通穴(32a)を通じて冷却溝(28,58,68)へ流入する。このように、第4の発明では、軸受隙間(27)から下方へ流出しようとする潤滑油が油捕捉溝(41b)によって捕捉されるため、多くの量の潤滑油が冷却溝(28,58,68)へ流れる。
【0018】
第5の発明は、第2の発明から第4の発明のうちいずれか1つにおいて、上記冷却溝(28,58,68)は、上記軸受穴(23c)の内周面の周方向に延びる環状に形成され上記連通穴(32a)と軸方向に一致する環状溝(28a,58a,68a)を含むことを特徴とする。
【0019】
第5の発明では、軸受穴(23c)の内周面に形成された環状溝(28a,58a,68a)は、軸受部(32)が軸受穴(23c)に対して挿通固定された状態において、連通穴(32a)と連通するような位置に形成されている。これにより、組立時において軸受部(32)を軸受穴(23c)に挿通させて固定する際、軸受部(32)の周方向における連通穴(32a)の位置によらず、連通穴(32a)と環状溝(28a,58a,68a)とが連通する。つまり、軸受部(32)を軸受穴(23c)に対して周方向に位置合わせすることなく、軸受部(32)を軸受穴(23c)に挿通固定できる。
【0020】
第6の発明は、第5の発明において、上記冷却溝(28,58)は、上記環状溝(28a,58a)から上記軸受穴(23c)の軸方向の端部に向かって延びる複数の分岐溝(28b,58b)を更に含むことを特徴とする。
【0021】
第6の発明では、複数の分岐溝(28b,58b)が環状溝(28a,58a)から分岐しているため、連通穴(32a)から環状溝(28a,58a)へ流入した潤滑油は、上記複数の分岐溝(28b,58b)を並行に流れる。これにより、例えば軸受部(32)の周囲を冷却するように軸受部(32)の背面側に螺旋状の冷却溝が形成される場合と比べて、上記複数の分岐溝(28b,58b)を流れる潤滑油の軸方向における温度変化は小さくなる。その結果、軸受部(32)の軸方向の温度分布が均一化され易くなる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、上記第1の発明によれば、軸受部(32)の背面側に該軸受部(32)の周囲を冷却するように、油供給機構(30)からの潤滑油が流れる冷却溝(28,58,68)を設けた。これにより、軸受部(32)を周方向において均一に冷却できる。
【0023】
また、上記第2の発明によれば、連通穴(32a)の一端を軸受給油路(45b)の流出端に対して軸方向と一致する位置に設けたため、未だ軸受部(32)の潤滑に利用されていない潤滑油を冷却溝(28,58,68)に流せる。従って、比較的低温の潤滑油によって軸受部(32)を効率的に冷却できる。
【0024】
また、上記第3の発明によれば、連通穴(32a)の一端を軸受給油路(45a)の流出端に対して軸方向にずれた位置に設けたため、軸受給油路(45a)からの潤滑油を、駆動軸(40)と軸受部(32)との間の軸受隙間(27)を通過させた後、冷却溝(28,58,68)へ流入させることができる。つまり、軸受給油路(45a)からの潤滑油を、軸受部(32)の摺接部の潤滑と、軸受部(32)の背面側からの冷却とに利用できる。
【0025】
また、上記第4の発明によれば、駆動軸(40)の摺接部において、軸受給油路(45a)の流出端よりも下方且つ摺接部の下端部寄りの部位に油捕捉溝(41b)を設けたため、軸受隙間(27)から流出しようとする潤滑油を捕捉しつつ、該潤滑油を冷却溝(28,58,68)へ流せる。つまり、冷却溝(28,58,68)へ多くの量の潤滑油を流せるため、軸受部(32)を効率的に冷却できる。
【0026】
また、上記第5の発明によれば、軸受穴(23c)の内周面に、軸方向において連通穴(32a)と一致する位置に環状溝(28a,58a,68a)を設けたため、軸受部(32)を軸受穴(23c)に挿通固定する際の作業効率を向上できる。
【0027】
また、上記第6の発明によれば、環状溝(28a,58a)から延びる複数の分岐溝(28b,58b)を設けたため、軸受部(32)の背面側において潤滑油を並列に流せる。これにより、該複数の分岐溝(28b,58b)を流れる潤滑油の軸方向における温度分布を均一にできるため、軸受部(32)を軸方向において均一に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、本実施形態に係るスクロール型圧縮機の要部を示す断面図である。
【図3】図3は、本実施形態におけるハウジング部の縦断面図であって、ハウジング部の軸受穴の内周面に形成された冷却溝の形状を示す図である。
【図4】図4は、図2のIV−IV線における断面図である。
【図5】図5は、実施形態の変形例における図2相当図である。
【図6】図6は、その他の実施形態における図3相当図である。
【図7】図7は、その他の実施形態における図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0030】
本実施形態のスクロール型圧縮機(10)(回転式圧縮機)は、例えば、空気調和装置の蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられ、冷媒を圧縮するものである。
【0031】
−全体構成−
本実施形態のスクロール型圧縮機(10)は、図1及び図2に示すように、縦型に形成されていて、縦方向にやや細長い密閉状のケーシング(11)と、該ケーシング(11)内において下方寄りの位置に設けられた電動機(50)(駆動機構)と、該電動機(50)から上下方向に延びる駆動軸(40)と、該駆動軸(40)によって駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構(20)と、油供給機構(30)と、を備えている。
【0032】
ケーシング(11)の頂部には、吸入管(12)が貫通して取り付けられている。この吸入管(12)は、終端が圧縮機構(20)に接続されている。上記ケーシング(11)の胴部には、吐出管(13)が貫通して取り付けられている。この吐出管(13)は、終端がケーシング(11)内の圧縮機構(20)及び電動機(50)の間に開口している。また、ケーシング(11)の底部(11a)には潤滑油が貯留されている。
【0033】
電動機(50)は、上記ケーシング(11)の内壁に固定された略円筒状のステータ(51)と、該ステータ(51)内で回転可能な円筒状のロータ(52)と、を備えている。ロータ(52)の中心部には、駆動軸(40)を挿通可能な貫通穴が形成されている。
【0034】
駆動軸(40)は、上下方向に延びる細長い棒状に形成された主軸部(41)と、該主軸部(41)の上端に立設された偏心ピン(42)とを備えている。駆動軸(40)は、電動機(50)のロータ(52)に形成された貫通穴に挿通固定され、電動機(50)の駆動により回転駆動される。主軸部(41)の上部は、下部よりもやや大径の上端部(41a)で構成されている。偏心ピン(42)は、主軸部(41)よりも小径に形成された略円柱状であって、主軸部(41)の軸心から所定距離だけ偏心している。
【0035】
駆動軸(40)には、駆動軸(40)を上下に貫通する主給油路(44)と、該主給油路(44)から分岐する分岐路(45a,45b,45c)とが形成されている。分岐路(45a,45b,45c)は、主軸部(41)の上端部(41a)に形成された2つの主軸受給油路(45a,45b)(軸受給油路)と、偏心ピン(42)に形成された偏心軸受給油路(45c)とで構成されている。偏心軸受給油路(45c)は、上記主給油路(44)から水平方向に延びて偏心ピン(42)の外周面から径方向外方へ向けて開口している。偏心軸受給油路(45c)の流出端付近における流路は、径方向外方に向けて徐々に拡径するように形成されている。
【0036】
上記2つの主軸受給油路(45a,45b)は、上端部(41a)において軸方向のほぼ中央に形成された第1主軸受給油路(45a)と、上端部(41a)において軸方向の下端部付近に形成された第2主軸受給油路(45b)とで構成されている。第2主軸受給油路(45b)は、第1主軸受給油路(45a)と比べて、流路断面積が小さくなるように形成されている。これらの主軸受給油路(45a,45b)は、上記主給油路(44)から水平方向に延びて主軸部(41)の外周面から径方向外方へ向けて開口していて、その流出端付近における流路は、径方向外方に向けて徐々に拡径するように形成されている。
【0037】
圧縮機構(20)は、固定スクロール(21)と、該固定スクロール(21)に噛合し、該固定スクロール(21)に対して偏心回転可能な可動スクロール(22)と、上記固定スクロール(21)を固定支持するハウジング部(23)と、を備えている。
【0038】
ハウジング部(23)は、その全周がケーシング(11)の内壁に接合されている。このハウジング部(23)は、上段部(23a)と下段部(23b)とによって構成されている。これら上段部(23a)及び下段部(23b)は、順に上から下へ連続して形成されている。上段部(23a)は、その上面中央に凹部が形成されている。この凹部によって覆われた空間がクランク室(24)を構成する。下段部(23b)は、上段部(23a)よりも小径の略円柱状に形成され、上段部(23a)の下面から下方へ突出している。下端部(23b)には、軸方向に貫通する軸受穴(23c)が形成されている。また、ハウジング部(23)の上段部(23a)と下段部(23b)との間には、上記クランク室(24)の底面付近から水平に延びてケーシング(11)の内壁へ向かって延びる排油路(25)が形成されている。
【0039】
軸受穴(23c)には、駆動軸(40)を回転可能に支持する円筒状の主軸受メタル(32)(軸受部)が挿通固定されている。主軸受メタル(32)には、駆動軸(40)が挿通されている。この主軸受メタル(32)の内径は、駆動軸(40)の外径よりもやや大きくなるように形成されていて、これにより、駆動軸(40)の外周面と主軸受メタル(32)との間には主軸受隙間(27)(軸受隙間)が形成される。また、主軸受メタル(32)の下端部付近には、径方向に貫通する連通穴(32a)が形成されている。この連通穴(32a)は、駆動軸(40)に形成された上記第2主軸受給油路(45b)の流出端と軸方向に一致する高さ位置に形成されている。また、この連通穴(32a)は、上記第2主軸受給油路(45b)の流出端と同じ大きさの丸穴状に形成されている。
【0040】
また、軸受穴(23c)の内周面には、溝状の冷却溝(28)が形成されている。この冷却溝(28)の形状及び作用については、詳しくは後述する。
【0041】
固定スクロール(21)は、固定側鏡板部(21a)と、固定側ラップ(21b)と、縁部(21c)とを備えている。固定スクロール(21)の固定側鏡板部(21a)は、略円板状に形成されている。固定側ラップ(21b)は、固定側鏡板部(21a)の下面に立設され、該固定側鏡板部(21a)に一体形成されている。この固定側ラップ(21b)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成されている。縁部(21c)は、固定側鏡板部(21a)の外周縁部から下方へ向かって延びる壁状に形成されている。この縁部(21c)は、その下端部が全周に亘って外側へ突出し、ハウジング部(23)の上段部(23a)の上面に固定されている。
【0042】
固定スクロール(21)の外周側には、吸入管(12)の終端に接続される吸入ポート(39)が形成されている。この吸入ポート(39)は、可動スクロール(22)の偏心回転運動に伴って圧縮室(24)に間欠的に連通するように構成されている。上記固定スクロール(21)の固定側鏡板部(21a)には、その上方を覆うカバー(37)が取り付けられている。そして、このカバー(37)と固定側鏡板部(21a)との間には、吐出空間としての吐出室(38)が形成されている。上記固定スクロール(21)の固定側鏡板部(21a)の中央には、吐出室(38)に開口する吐出ポート(35)が形成されている。この吐出ポート(35)は、可動スクロール(22)の偏心回転運動に伴って圧縮室(24)に間欠的に連通するように構成されている。また、固定スクロール(21)の固定側鏡板(21a)の上面には、上記吐出ポート(35)の開口部を覆うリード弁(36)が設けられている。このリード弁(36)は、圧縮室(24)内の圧力と吐出室(38)内との差圧に応じて開閉する。なお、上記圧縮機構(20)は、吐出室(38)に吐出されたガス冷媒がガス通路(図示省略)を通じてハウジング(23)の下方の空間に導入され、吐出管(13)からケーシング(11)外へ吐出されるように構成されている。
【0043】
可動スクロール(22)は、可動側鏡板部(22a)と、可動側ラップ(22b)と、ボス部(22c)と、偏心軸受メタル(22d)と、を備えている。可動側鏡板部(22a)は、略円板状に形成され、上記ハウジング部(23)の上段部(23a)の上方に位置している。可動側ラップ(22b)は、可動側鏡板部(22a)の上面に立設され、該可動側鏡板部(22a)に一体形成されている。この可動側ラップ(22b)は、高さが一定の渦巻き壁状に形成され、固定スクロール(21)の固定側ラップ(21b)に噛合するように構成されている。ボス部(22c)は、可動側鏡板部(22a)の下面から突出するように該可動側鏡板部(22a)に一体形成されている。このボス部(22c)は、ハウジング部(23)に形成されたクランク室(24)に収容される。偏心軸受メタル(22d)は、円筒状に形成された金属製であって、上記ボス部(22c)の内周面に挿通固定されている。この偏心軸受メタル(22d)には、駆動軸(40)の偏心ピン(42)が挿通されている。偏心軸受メタル(22d)の内径は、偏心ピン(42)の外径よりも大きくなるように形成されていて、これにより、偏心ピン(42)と偏心軸受メタル(22d)との間には偏心軸受隙間(47)が形成される。
【0044】
油供給機構(30)は、ポンプ部(31)と、駆動軸(40)に形成された主給油路(44)及び分岐路(45a,45b,45c)とを備えている。このポンプ部(31)は、例えば遠心ポンプで構成されている。ポンプ部(31)は、上記駆動軸(40)の下端に設けられており、ケーシング(11)の底部(11a)に溜められた潤滑油に浸漬されている。ポンプ部(31)は、潤滑油を主給油路(44)及び分岐路(45a,45b,45c)へ汲み上げるように構成されている。
【0045】
−冷却溝の形状−
冷却溝(28)は、上述のように、ハウジング部(23)の軸受穴(23c)の内周面において溝状に形成されている。冷却溝(28)は、図3及び図4に示すように、環状溝(28a)と、複数の分岐溝(28b,28b,…)とを備えている。
【0046】
環状溝(28a)は、その流路断面が半円状であって、軸受穴(23c)の内周面の下端部付近を周方向に環状に延びるように形成されている。環状溝(28a)は、軸受穴(23c)の内周面に挿通固定される主軸受メタル(32)に形成された連通穴(32a)と、軸方向に一致する高さ位置に形成されている。つまり、環状溝(28a)と連通穴(32a)とは連通している。このように、軸方向において主軸受メタル(32)の連通穴(32a)と一致する高さ位置に環状溝(28a)を形成することによって、組立時、主軸受メタル(32)の連通穴(32a)を周方向において位置合わせしなくても、連通穴(32a)と環状溝(28a)とが連通する。これにより、主軸受メタル(32)を軸受穴(23c)に対して挿通固定する際の作業効率を向上できる。
【0047】
分岐溝(28b)は、環状溝(28a)から垂直方向の上方へ向かって軸受穴(23c)の上端部まで延びるように形成されている。この分岐溝(28b)の流路断面も、環状溝(28a)と同様、半円状に形成されている。分岐溝(28b)は、図4に示すように、8本形成されていて、周方向において互いに等間隔となるように所定の距離を置いて配列されている。具体的には、各分岐溝(28b)は、主軸受メタル(32)の軸心を中心として、互いに45度の角度をおくように配列されている。
【0048】
−運転動作−
上記スクロール型圧縮機(10)の運転動作を以下に説明する。
【0049】
スクロール型圧縮機(10)を起動すると、電動機(50)が駆動されて駆動軸(40)が回転されると同時に、ポンプ部(31)も駆動される。
【0050】
−圧縮機構による冷媒圧縮動作−
駆動軸(40)が回転すると、可動スクロール(22)が固定スクロール(21)に対して偏心回転される。これにより、吸入ポート(39)の冷媒が圧縮室(24)内に吸い込まれ、徐々に圧縮されながら圧縮室(24)の中心部へ移動していく。そして、圧縮室(24)が吐出ポート(35)に連通すると、圧縮室(24)で圧縮された冷媒が吐出室(38)へ吐出される。この吐出室(38)の冷媒は、ケーシング(11)の内部空間から吐出管(13)を通じて冷媒回路に戻る。
【0051】
−油搬送機構による潤滑油供給動作−
ポンプ部(31)が駆動されると、ケーシング(11)の底部(11a)に溜められた潤滑油は、ポンプ部(31)によって上方へ汲み上げられる。この潤滑油は、主給油路(44)を上昇する。そして、そのまま該主給油路(44)の上端から駆動軸(40)外へ流出するか、又は、第1主軸受給油路(45a)、第2主軸受給油路(45b)或いは偏心軸受給油路(45c)を通じて駆動軸(40)から径方向外方へ流出する。
【0052】
上記主給油路(44)の上端から流出した潤滑油は、偏心ピン(42)の上端を径方向外方へ流れた後、偏心軸受隙間(47)を下方へ流れながら偏心ピン(42)と偏心軸受メタル(22d)との間の摺動部を潤滑して、偏心軸受隙間(47)から下方へ流出する。また、上記偏心軸給油路(45c)から流出した潤滑油は、偏心軸受隙間(47)を流れながら偏心ピン(42)と偏心軸受メタル(22d)との間の摺動部を潤滑して、偏心軸受隙間(47)から下方へ流出する。このように下方へ流出した潤滑油は、クランク室(24)へ流入した後、排油路(25)を通じてケーシング(11)の内壁を下方へ伝い、ケーシング(11)の底部(11a)へ戻される。
【0053】
第1主軸受給油路(45a)から流出した潤滑油は、主軸受隙間(27)へ流れ込んで、該主軸受隙間(27)を上方又は下方へ流れながら、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との間の摺動部を潤滑する。主軸受隙間(27)の上方へ流れた潤滑油は、排油路(25)を通じてケーシング(11)の底部(11a)へ戻される。一方、主軸受隙間(27)の下方へ流れた潤滑油のうち、その一部については主軸受隙間(27)の下端から下方へ排出されるものの、連通穴(32a)付近に到達した潤滑油については、回転する駆動軸(40)の遠心力によって径方向外方へ押し出されるため、連通穴(32a)を通じて、冷却溝(28)の環状溝(28a)へ流入する。
【0054】
第2主軸受給油路(45b)から流出した潤滑油は、上記第1主軸受給油路(45a)から流出した潤滑油と同様、主軸受隙間(27)へ流れ込む。ここで、この潤滑油のうち、その一部については主軸受隙間(27)を流れながら摺動部を潤滑する。しかし、残りについては、摺動部を潤滑せず、連通穴(32a)を通じて直接、冷却溝(28)へ流入する。具体的には、駆動軸(40)と共に回転する第2主軸受給油路(45b)の流出端の高さ位置が連通穴(32a)の高さ位置と一致したときに、第2主軸受給油路(45b)の流出端から吐出された潤滑油は、連通穴(32a)を通じて冷却溝(28)の環状溝(28a)へ直接、流入する。
【0055】
上述のように冷却溝(28)の環状溝(28a)に流入した潤滑油は、環状溝(28a)及び該環状溝(28a)から分岐して延びる複数の分岐溝(28b,28b,…)を流れる。この際、潤滑油は、駆動軸(40)と軸受メタル(32)との間の摺動部で発生する摩擦熱によって温度上昇した主軸受メタル(32)の熱を奪いながら、上記複数の分岐溝(28b,28b,…)を上方へ流れる。そして、この潤滑油は、分岐溝(28b)の流出端からクランク室(24)へ流入した後、排油路(25)を通じてケーシング(11)の底部(11a)へ戻される。
【0056】
ここで、該複数の分岐溝(28b,28b,…)は、周方向において等間隔となるように配列されているため、主軸受メタル(32)は、上記分岐溝(28b,28b,…)を流れる潤滑油によって周方向において均一に冷却される。そうすると、主軸受メタル(32)と駆動軸(40)との間を流れる潤滑油も周方向において均一に冷却されるため、該潤滑油の周方向における油膜厚さが一様に保たれる。その結果、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との間の摺動部が周方向において均一に潤滑される。
【0057】
また、これらの分岐溝(28b,28b,…)は、軸受穴(23c)の軸方向の下端部に形成された環状溝(28a)から、軸受穴(23c)の上端部まで延びている。これにより、潤滑油を主軸受メタル(32)の下端部付近から該主軸受メタル(32)の上端まで流れるため、主軸受メタル(32)を軸方向において広範囲に亘って冷却することができる。
【0058】
更に、上記分岐溝(28b,28b,…)は、上記環状溝(28a)から分岐して複数、形成されているため、環状溝(28a)に流入した潤滑油は、上記複数の分岐溝(28b,28b,…)を並行して流れる。これにより、例えば上記分岐溝が螺旋状に形成されている場合と比べて、分岐溝(28b,28b,…)を流れる潤滑油の軸方向における温度変化を低減することができる。従って、主軸受メタル(32)の軸方向における温度分布を均一にでき、その結果、主軸受メタル(32)を軸方向に亘って均一に冷却できる。しかも、上記分岐溝(28b)は、垂直方向に延びているため、例えば分岐溝が垂直方向に対して傾いて延びている場合と比べて、分岐溝(28b)の流路は短くなる。そうすると、潤滑油が流れる距離が短くなるため、分岐溝(28b)の流出端付近における潤滑油の温度上昇を抑えることができる。これにより、主軸受メタル(32)を軸方向においてより均一に冷却できる。
【0059】
また、冷却溝(28)の流入端には、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との間の摺動部を潤滑した潤滑油だけでなく、駆動軸(40)の回転に伴って回転する第2主軸受給油路(45b)の流出端と連通穴(32a)とが一致したときの潤滑油が流入する。この潤滑油は、摺動部を潤滑しておらず比較的低温であるため、冷却溝(28)には、比較的低温の潤滑油が流れる。これにより、主軸受メタル(32)を効率的に冷却することができる。
【0060】
更に、上述のように冷却溝(28)を流れて主軸受メタル(32)を冷却した潤滑油は、排油路(25)を通じてケーシング(11)の底部(11a)に戻される。そして、この潤滑油は、油搬送機構(30)によって再び冷却溝(28)へ搬送される。すなわち、主軸受メタル(32)を冷却するために用いられる潤滑油は、ケーシング(11)内で循環させて用いることができる。
【0061】
−実施形態の効果−
以上より、本実施形態によれば、圧縮機構(20)を駆動させる駆動軸(40)を回転可能に支持する主軸受メタル(32)の背面側に、環状溝(28a)と、該環状溝(28a)から垂直方向上方に延び、互いに周方向において等間隔となるように配列された複数の分岐溝(28b,28b,…)とで構成され、潤滑油が流通する冷却溝(28)を設けた。このように、潤滑油が流通する複数の分岐溝(28b,28b,…)は、周方向において等間隔に配列されているため、主軸受メタル(32)を周方向において均一に冷却することができる。これにより、主軸受隙間(27)を流れる潤滑油の周方向における油膜厚さが一様になるため、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との間の摺動部を周方向において均一に潤滑できる。
【0062】
更に、冷却溝(28)には、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との間の摺動部を潤滑した潤滑油と共に、第2主軸受給油路(45b)から流出した潤滑油が直接、流入する。この潤滑油は、上記摺動部を潤滑しておらず、比較的低温であるため、主軸受メタル(32)を効率的に冷却できる。
【0063】
しかも、上述のように、環状溝(28a)から分岐する分岐溝(28b,28b,…)を複数、形成したため、潤滑油を主軸受メタル(32)の背面側において並行して流すことができる。これにより、主軸受メタル(32)の背面における上端部付近を流れる潤滑油の温度上昇を低減できるため、主軸受メタル(32)を軸方向において均一に冷却できる。更に、分岐溝(28b)を垂直方向に延びるように形成したため、分岐溝(28b)の流路を短くできる。これにより、主軸受メタル(32)の背面における上端部付近を流れる潤滑油の温度上昇を低減できるため、主軸受メタル(32)を軸方向においてより均一に冷却できる。
【0064】
加えて、冷却溝(28)は、軸受穴(23c)の下端部付近から該軸受穴(23c)の上端部まで延びるように形成されているため、主軸受メタル(32)を軸方向において広範囲に亘って冷却することができる。
【0065】
また、環状溝(28a)を、主軸受メタル(32)を軸受穴(23c)に挿通固定させた状態で連通穴(32a)と連通する高さ位置に形成したため、主軸受メタル(32)を周方向において位置合わせすることなく、冷却溝(28)の流入端としての環状溝(28a)に連通穴(32a)を連通させることができる。これにより、主軸受メタル(32)を軸受穴(23c)に挿通固定する際の作業効率を向上することができる。
【0066】
また、冷却溝(28)を流れた潤滑油は、排油路(25)を通じてケーシング(11)の底部(11a)に戻された後再び冷却溝(28)に供給されるため、主軸受メタル(32)を冷却するための潤滑油をケーシング(11)内において循環することができる。
【0067】
《実施形態の変形例》
実施形態の変形例に係るスクロール型圧縮機(10)は、上記実施形態と比べて、駆動軸(40)の形状のみが異なるだけであり、その他の構成は同じである。従って、以下では、その異なる部分のみを説明する。また、圧縮機の運転動作については、主軸受隙間(27)における潤滑油の流れのみが異なるため、その部分のみを説明する。
【0068】
図5に示すように、本実施形態の変形例における駆動軸(40)には、2つの主軸受給油路(45a,45b)が形成されている上記実施形態における駆動軸(40)とは異なり、1つの主軸受給油路(45a)が形成されている。本実施形態の変形例における主軸受給油路(45a)の形状及び位置は、上記実施形態1における第1主軸受給油路(45a)の形状及び位置と同じである。
【0069】
また、本実施形態の変形例における駆動軸(40)には、油捕捉溝(41b)が形成されている。この油捕捉溝(41b)は、駆動軸(40)の主軸部(41)の上端部(41a)の下端部付近において、駆動軸(40)の周方向に環状に延びるように形成されている。この油捕捉溝(41b)は、主軸受メタル(32)に形成された連通穴(32a)と軸方向において一致する高さ位置に形成されている。
【0070】
上述のような構成の駆動軸(40)を備えたスクロール型圧縮機(40)において、主軸受給油路(45a)から流出した潤滑油は、主軸受隙間(27)へ流れ込んで、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との間の主軸受隙間(27)を上方又は下方へ向けて流れながら、摺動部を潤滑する。主軸受隙間(27)を上方へ流れた潤滑油は、実施形態1の場合と同様、排油路(25)へ流れた後にケーシング(11)の底部(11a)へ戻される。
【0071】
一方、主軸受隙間(27)を下方へ流れる潤滑油は、油捕捉溝(41b)によって回収された後、回転する駆動軸(40)の遠心力によって径方向外方へ押し出されるため、連通穴(32a)を通じて冷却溝(28)へ流入する。そして、潤滑油は、環状溝(28a)及び複数の分岐溝(28b)を流れることにより、主軸受メタル(32)を周方向において均一に冷却する。
【0072】
上述のように、主軸受隙間(27)から下方へ流出しようとする潤滑油は、油捕捉溝(28)によって回収されるため、軸受隙間から下方へ流出する潤滑油の量を低減することができる。これにより、潤滑油がケーシング(11)内の冷媒とともに吐出管(13)を通じて冷媒回路へ排出されるのを防止することができる。しかも、上記油捕捉溝(41b)によって効率的に捕捉された潤滑油は冷却溝(28)へ流入するため、冷却溝(28)へ多くの量の潤滑油を流すことができる。また、上述のように、冷却溝(28)へは、駆動軸(40)と主軸受メタル(32)との間の摺動部を潤滑した潤滑油が流れ込む。つまり、摺動部を潤滑した潤滑油を、主軸受メタル(32)の冷却用にも用いることができる。
【0073】
−その他の実施形態−
上記実施形態については、以下のような構成にしてもよい。
【0074】
上記実施形態では、分岐溝(28b)の形状を、環状溝(28a)から垂直方向に延びる形状としたが、この限りでなく、例えば図6に示すように、各分岐溝(58b)を、互いに格子状に交わるように配置してもよい。これにより、潤滑油は、互いに連通する複数の分岐溝(58b)を流通できるため、該分岐溝(58b)を流れる潤滑油の温度は、全体的に均一になりやすい。その結果、主軸受メタル(32)を全体的に均一に冷却できる。
【0075】
また、図7に示すように、冷却溝(68)を、軸受穴(23c)の下端部付近に形成された環状溝(68a)と、該環状溝(68a)から軸受穴(23c)の上端部まで延びる螺旋状に形成された螺旋溝(68b)とで構成してもよい。このように、環状溝(68a)から分岐する溝を螺旋状に形成することにより、1本の溝で、主軸受メタル(32)の周囲を冷却することができる。従って、環状溝(68a)から分岐する溝を複数本形成する必要がなくなり、その分、ハウジング部(23)の加工が容易になる。また、冷却溝を、螺旋溝のみで構成してもよい。更に、冷却溝の形状は、主軸受メタルの周囲を冷却できるような形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、各分岐溝(28b)を、互いに等間隔となるように配列したが、この限りでなく、隣接する分岐溝同士の間隔は、等間隔でなくてもよい。更に、上記実施形態では、分岐溝(28b)を8本設けたがこの限りでなく、主軸受メタル(32)の周囲を冷却できれば、例えば2本や3本であってもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、冷却溝(28)は、軸受穴(23c)の下端部付近から上端部まで延びているが、この限りでなく、どのような範囲に亘って延びていても良い。
【0078】
また、上記実施形態では、冷却溝(28)の流入端は、軸受穴(23c)の下端部付近に設けられているが、この限りでなく、例えば軸受穴(23c)の軸方向における中央部付近に設けられていてもよい。こうすると、分岐溝を上方向と下方向とに延ばすことができるため、各分岐溝の流路を短くできる。これにより、分岐溝の流出端における潤滑油の温度上昇を抑制できるため、主軸受メタル(32)を軸方向においてより均一に冷却することができる。
【0079】
また、上記実施形態では、回転式圧縮機としてスクロール圧縮機を対象としているが、ロータリー圧縮機や、スクリュー圧縮機を対象にすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明は、圧縮機構を駆動する駆動軸が上下方向に延びるように配置される、いわゆる縦型のスクロール圧縮機に特に有用である。
【符号の説明】
【0081】
10 スクロール型圧縮機(回転式圧縮機)
11 ケーシング
20 圧縮機構
23 ハウジング部
23c 軸受穴
27 主軸受隙間(軸受隙間)
28,58,68 冷却溝
28a,58a,68a 環状溝
28b,58b 分岐溝
30 油供給機構
32 主軸受メタル(軸受部)
32a 連通穴
40 駆動軸
41b 油捕捉溝
44 主給油路
45a 主軸受給油路、第1主軸受給油路(軸受給油路)
45b 第2主軸受給油路(軸受給油路)
50 電動機(駆動機構)
68b 螺旋溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(11)と、
上記ケーシングに収容される駆動機構(50)と、
上記駆動機構(50)に連結する駆動軸(40)と、
上記駆動軸(40)に回転駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(20)と、
上記駆動軸(40)を回転可能に支持する軸受部(32)を有し、該軸受部(32)が挿通固定される軸受穴(23c)が形成されたハウジング部(23)と、
上記駆動軸(40)と上記軸受部(32)との間の軸受隙間(27)に潤滑油を供給する油供給機構(30)と、を備え、
上記ハウジング部(23)の軸受穴(23c)の内周面には、上記軸受部(32)の周囲を冷却するように、上記油供給機構(30)からの潤滑油が流れる冷却溝(28,58,68)が形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記油供給機構(30)は、
上記駆動軸(40)の内部を軸方向に延びる主給油路(44)と、流入端が上記主給油路(44)と繋がり流出端が上記軸受隙間(27)と繋がる軸受給油路(45a,45b)とを含み、
上記軸受部(32)には、一端が上記軸受給油路(45b)の流出端に対して軸方向に一致する位置で上記軸受隙間(27)に臨むように開口し、他端が上記冷却溝(28,58,68)と繋がる連通穴(32a)が形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項3】
請求項1において、
上記油供給機構(30)は、
上記駆動軸(40)の内部を軸方向に延びる主給油路(44)と、流入端が上記主給油路(44)と繋がり流出端が上記軸受隙間(27)と繋がる軸受給油路(45a,45b)とを含み、
上記軸受部(32)には、一端が上記軸受給油路(45a)の流出端に対して軸方向にずれた位置で上記軸受隙間(27)に臨むように開口し、他端が上記冷却溝(28,58,68)と繋がる連通穴(32a)が形成されていることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記駆動軸(40)は、鉛直方向に延びるように配設され、
上記駆動軸(40)には、上記軸受部(32)に対する摺接部において、上記軸受給油路(45a)の流出端よりも下方且つ上記摺接部の下端部寄りの部位に、該駆動軸(40)の周方向に延びる環状の油捕捉溝(41b)が形成され、
上記連通穴(32a)の一端は、上記油捕捉溝(41b)に臨むように開口していることを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項5】
請求項2から4のうちいずれか1つにおいて、
上記冷却溝(28,58,68)は、上記軸受穴(23c)の内周面の周方向に延びる環状に形成され上記連通穴(32a)と軸方向に一致する環状溝(28a,58a,68a)を含むことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項6】
請求項5において、
上記冷却溝(28,58)は、上記環状溝(28a,58a)から上記軸受穴(23c)の軸方向の端部に向かって延びる複数の分岐溝(28b,58b)を更に含むことを特徴とする回転式圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−97574(P2012−97574A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243283(P2010−243283)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】