説明

回転式真空ポンプ、真空装置およびポンプ接続構造

【課題】排気対象装置に伝達される衝撃を低減することができる回転式真空ポンプの提供。
【解決手段】ボルト孔14に挿入されるブッシュ部17aが形成された特殊座金を用いることにより、ボルト15の軸とボルト孔14との間に隙間Gが形成される。その結果、吸気口フランジ13aに衝撃トルクが働いた場合にはボルト15の領域H2の部分が変形し、その時の歪みエネルギーにより衝撃が吸収され、装置側フランジ16への衝撃の伝達を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプやモレキュラドラッグポンプ等の回転式真空ポンプ、回転式真空ポンプが取り付けられた真空装置、およびポンプ接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高真空排気に用いられるターボ分子ポンプは、交互に配置された複数段の回転翼と複数段の固定翼とを備えている。各回転翼および固定翼は複数のタービンブレードから成り、回転翼はモータにより回転駆動されるロータに形成されており、固定翼はポンプのベースに固定されている。さらに、上述したタービンブレードに加えて、ドラッグポンプ段を備えたターボ分子ポンプも知られている。ドラッグポンプ段は、ロータ下部に形成された円筒部と、その円筒部と近接して配設されるネジ溝ステータとから成る。
【0003】
ターボ分子ポンプでは、タービンブレードおよび円筒部が形成されたロータは数万rpmで高速回転しており、異常な外乱が作用するとロータとステータ側(例えば、ネジ溝ステータ)とが接触するおそれがあり、その場合にはステータ側に大きな衝撃が加わることになる。また、高速回転するロータには大きな遠心力が常に作用しており、ロータとステータ側が接触した場合や、設計時の想定を越える条件下で連続運転された場合には、ロータが破壊するおそれもある。そのような場合にはさらに大きな衝撃がステータ側に加わり、ポンプケーシングを装置本体に締結しているボルトに大きな剪断力が加わるという問題があった。
【0004】
そのため、ボルト孔を拡開する複数の段が形成された孔とすることにより、剪断力が一カ所に集中するのを防いでボルトの破断を防止するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−148388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、拡開する複数の段付き孔を形成するには加工工程が複数となり加工のコストアップが問題となる。さらに、上記従来の技術では、ボルトが段付き孔の側面に当接して塑性変形することにより衝撃力を吸収するような構造となっているが、段付き孔であるために塑性変形による効果が十分に得られていないという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、吸気口フランジが形成されたポンプケーシングと、回転側排気手段が設けられてポンプケーシング内で高速回転駆動されるロータと、ポンプケーシング内に設けられて回転側排気手段と共働して排気作用を発生する固定側排気手段とを備え、排気対象装置に対して吸気口フランジをボルトにより締結する回転式真空ポンプに適用され、吸気口フランジに形成されて、ボルトの径よりも大きな径を有する貫通孔と、ボルトと貫通孔との間に挿入され、貫通孔の吸気口フランジ合わせ面側において、ボルトの塑性変形を許容する隙間を形成するブッシュとを備え、ボルトに衝撃力が加わった際に、該ボルトが隙間内において塑性変形することを特徴とし、さらに、ブッシュを貫通孔に保持させる保持手段を備え、排気対象装置に対する吸気口フランジのボルト締結が解除された場合においても、ブッシュが吸気口フランジに固定されるようにしたものである。
請求項2の発明は、請求項1に記載の回転式真空ポンプにおいて、ブッシュにより形成される隙間は、吸気口フランジの径方向の隙間よりもロータ回転方向の隙間の方が大きいことを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の回転式真空ポンプにおいて、ブッシュとボルト用の座金とを一体に形成したものである。
請求項4の発明は、ステータに対してロータを高速回転することによりガスを排気する回転式真空ポンプを、配管部材を介して真空装置に接続するポンプ接続構造に適用され、配管部材の接続フランジと真空装置の接続フランジとを締結するボルトと、2つの接続フランジの一方に形成されて、ボルトの径よりも大きな径を有する貫通孔と、ボルトと貫通孔との間に挿入され、貫通孔のフランジ合わせ面側において、ボルトの塑性変形を許容する隙間を形成するブッシュとを備え、ボルトに衝撃力が加わった際に、該ボルトが隙間内において塑性変形することを特徴とし、さらに、ブッシュを貫通孔に保持させる保持手段を備え、2つの接続フランジのボルト締結が解除された場合においても、貫通孔の形成されたフランジにブッシュが固定されるようにしたものである。
請求項5の発明は、請求項4に記載のポンプ接続構造において、ブッシュにより形成される隙間は、フランジの径方向よりもロータ回転方向の方が大きいことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項4または請求項5に記載のポンプ接続構造において、ブッシュとボルト用の座金とを一体に形成したものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、隙間形成手段を設けたことによりボルトの変形を許容する隙間が形成され、衝撃によって吸気口フランジが排気対象装置に対して移動した際に、ボルト変形に伴う歪みエネルギー発生により吸気口フランジの移動を抑制することができるとともに、排気対象装置に伝達される衝撃を低減することができる。
請求項7〜9の発明によれば、真空チャンバ、配管部材等の接続対象部材に対する衝撃を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による回転式真空ポンプの第1の実施の形態を示す図であり、(a)はターボ分子ポンプの断面図、(b)はフランジ部分を示す平面図である。
【図2】図1(a)のA部拡大図である。
【図3】(a)は特殊座金17の平面図、(b)は断面図である。
【図4】特殊座金17の作用を説明する断面図である。
【図5】(a)は特殊座金17にスリット17cを形成した場合の平面図であり、(b)はブッシュ部17aに大径部171を設けた場合の断面図である。
【図6】変形例1の特殊座金27を示す図であり、(a)はボルト孔14に装着された状態を示し、(b)は特殊座金27の平面図、(c)は特殊座金27の断面図である。
【図7】変形例2の特殊座金37を示す図であり、(a)はボルト孔14に装着された状態を示し、(b)は特殊座金37の平面図、(c)は特殊座金37の断面図である。
【図8】変形例3の特殊座金47を示す図であり、(a)はボルト孔14に装着された状態を示し、(b)は特殊座金47の平面図、(c)は特殊座金47の断面図である。
【図9】変形例4の特殊座金57を示す図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図、(c)はC−C断面図である。
【図10】特殊座金57が用いられるターボ分子ポンプ1を示す図であり、(a)は断面図、(b)はフランジ部分を示す平面図である。
【図11】図10の長孔145部分を詳細に示す図であり、(a)は図10(b)のE部の拡大図、(b)は図11(a)のF−F断面図である。
【図12】本発明による回転式真空ポンプの第2の実施の形態を示す図であり、モレキュラドラッグポンプの概略構成を示す断面図である。
【図13】回転真空ポンプと真空チャンバとの間に設けられたバルブ101および配管102を示す図である。
【図14】装置側に設けられたフレーム104を説明する図である。
【図15】ボルト15に代えて段付きボルト60を用いた場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は本発明による回転式真空ポンプの第1の実施の形態を示す図であり、ターボ分子ポンプの概略構成を示す図である。図1において、(a)は断面図、(b)はフランジ部分を示す平面図である。なお、平面図はフランジの上半分を示したものである。図1に示したターボ分子ポンプ1は磁気軸受式のポンプであり、ロータ2はベース3に設けられた磁気軸受4a〜4cによって非接触支持されている。4a,4bはラジアル磁気軸受であり、4cはアキシャル磁気軸受である。
【0011】
ベース3には、ロータ2を回転駆動するモータ6、タッチダウンベアリング7a,7bおよびロータ2の浮上位置を検出するためのギャップセンサ5a,5b,5cがそれぞれ設けられている。タッチダウンベアリング7a,7bにはメカニカルベアリングが用いられ、磁気軸受4a〜4cによるロータ2の磁気浮上がオフされたときにロータ2を支持する。
【0012】
ロータ2には、回転軸方向に複数段の回転翼8が形成されている。上下に並んだ回転翼8の間には固定翼9がそれぞれ配設されている。これらの回転翼8と固定翼9とにより、ターボ分子ポンプ1のタービン翼段が構成される。各固定翼9は、スペーサ10によって上下に挟持されるように保持されている。スペーサ10は、固定翼9の保持機能とともに、固定翼9間のギャップを所定間隔に維持する機能を有している。
【0013】
さらに、固定翼9の後段(図示下方)にはドラッグポンプ段を構成するネジステータ11が設けられており、ネジステータ11の内周面はロータ2の円筒部12と所定間隔で対向している。ロータ2およびスペーサ10によって保持された固定翼9は、吸気口フランジ13aが形成されたケーシング13内に納められている。吸気口フランジ13aにはボルト孔14が等間隔で8箇所形成されており、吸気口フランジ13aは8本のボルト15によって装置側のフランジ16に固定される。なお、吸気口フランジ13aの径の大きさによって、フランジ厚さや使用ボルト寸法およびボルト本数は規格によって定められている。
【0014】
図2は図1(a)のA部拡大図であり、吸気口フランジ13aのボルト孔14部分を詳細に示したものである。ボルト15を用いて吸気口フランジ13aを装置側フランジに固定する際には、図3に示すような特殊座金17を装着する。18は通常のバネ座金である。図3において(a)は特殊座金17の平面図、(b)は断面図である。特殊座金17はブッシュ部17aと鍔部17bとを備えており、鉄系やステンレス等により形成される。ブッシュ部17aにはボルト15が挿入される孔170が形成されている。
【0015】
吸気口フランジ13aに形成されるボルト孔14の内径Dは、後述するようにボルト15の寸法に対応した標準のボルト孔径よりも大きく設定される。特殊座金17のブッシュ部17aの外形寸法dは、ボルト孔14に容易に挿入できる程度の公差寸法とすれば良く、高さ寸法をH1とする。そのため、図2に示すように吸気口フランジ13aの上面からH2の深さまでは、ボルト15とボルト孔14との間には隙間Gが形成される。
【0016】
図4は特殊座金17の作用を説明する図であり、ボルト孔14部分を周方向に沿って断面したものである。ボルト15は、軸の先端から領域H3の部分が装置側フランジ16の雌ネジ部に螺合しており、この領域H3は装置側フランジ16によって拘束されている。一方、フランジ13a,16の合わせ面から寸法H2の部分は、上述したようにボルト15の軸とボルト孔14の内壁との間に隙間Gが形成されて非拘束状態となっている。
【0017】
図4の状態において、吸気口フランジ13aにロータ回転方向(図示左方向)に衝撃力Fが加わると、吸気口フランジ13aが左方向に移動することになる。このとき、ボルト15の領域H3の部分は装置側フランジ6に拘束されており、一方、ボルト15のブッシュ部17aが装着されている部分は吸気口フランジ13aに拘束されつつ左方向に移動する。その結果、ボルト15の軸は非拘束状態である領域H2の部分が変形し、その変形により、衝撃力Fによる運動エネルギーがボルト15の歪みエネルギーとして吸収され、ボルト15の破断が防止される。
【0018】
なお、ブッシュ部17aの高さH1は、ボルト15の歪み領域H2が大きくなるように小さく設定した方が良い。また、ボルト15の変形量を大きくすれば歪みによるエネルギー吸収量が大きくなるので、ブッシュ部17aの外径寸法dは大きい方が好ましい。通常、吸気口フランジ13aのサイズに応じて、ボルト15のサイズ(呼び径)、ボルト本数、ボルト孔14の内径およびボルト孔14のピッチ円直径(P.C.D)は規格により決められている。そのため、装置側フランジ16と整合させるために、上述したボルト孔14の内径D以外は規格通りに設定する。
【0019】
このように、本実施の形態では、ブッシュ17aを有する特殊座金17を各ボルト15に装着することにより、ボルト15とボルト孔14との間に隙間が形成され、ボルト15に非拘束領域H2を形成できる。その結果、吸気口フランジ13aに衝撃トルクが働いた場合でも、ボルト15に働く剪断力がボルト15の非拘束領域H2の部分の変形により剪断力と引っ張り力の2方向に分解される。 そのため、剪断エネルギーをボルト15の歪みエネルギーとして受け止めることができ、装置側に伝達される衝撃トルクを低減することができる。また、ボルト15が変形することで、衝撃トルクによる剪断力を締結に用いられているボルト15の全てで受け止めることができるため、ボルト強度を有効に活用することができ、ボルト15の破断を防止することができる。
【0020】
なお、図5(a)に示すように特殊座金17に縦方向のスリット17cを形成し、ブッシュ部17aを吸気口フランジ13aのボルト孔14に圧入するようにしても良い。また、図5(b)に示すようにブッシュ部17aの根もと部分に圧入代を考慮した大径部171を設け、この大径部171をボルト孔14に圧入したり、焼き嵌めしたりしても良い。
【0021】
このように、特殊座金17をボルト孔14に装着しておくことにより、ポンプ取付時の作業性が向上する。なお、特殊座金17をボルト孔14に装着し、脱落しないような構造としたものについては、以下に示す変形例1〜3のようなものがある。
【0022】
[変形例1]
図6は特殊座金17の変形例1を示す図であり、(a)は吸気口フランジ13aのボルト孔14に装着された特殊座金27を示し、(b)は特殊座金27の平面図、(c)は特殊座金27の断面図である。特殊座金27もブッシュ部27aと鍔部27bとを備えており、ブッシュ部27aを貫通するようにボルト用孔270が形成されている。さらに、ブッシュ部27aには、外周面を一周する突起部271が形成されている。
【0023】
一方、図6(a)に示すように、吸気口フランジ13aのボルト孔14には内周面を一周する溝14aが形成されている。ボルト孔14に特殊座金27のブッシュ部27aを挿入すると、突起部271がこの溝14aに係合することにより特殊座金27がボルト孔14に装着される。突起部271と溝14aとが係合しているので、特殊座金27はボルト孔14から脱落することがない。
【0024】
[変形例2]
図7は特殊座金17の変形例2を示す図であり、(a)は吸気口フランジ13aのボルト孔14に装着された特殊座金37を示し、(b)は特殊座金37の平面図、(c)は特殊座金37の断面図である。特殊座金37もブッシュ部37aと鍔部37bとを備えており、ブッシュ部37aを貫通するようにボルト用孔370が形成されている。さらに、ブッシュ部37aの外周面は、ホース用ニップルのように鍔部37b方向に拡がる山形凸部371が軸方向に3段形成されている。山形凸部371の段数は特に限定されず、1段や2段でもかまわない。
【0025】
山形凸部371の外径は吸気口フランジ13aに形成されたボルト孔14の内径よりも若干大きく設定され、ブッシュ部37aをボルト孔14に圧入するように装着する。その結果、特殊座金37がボルト孔14から脱落することがない。
【0026】
[変形例3]
図8は特殊座金17の変形例3を示す図であり、(a)は吸気口フランジ13aのボルト孔14に装着された特殊座金47を示し、(b)は特殊座金47の平面図、(c)は特殊座金47の断面図である。特殊座金47もブッシュ部47aと鍔部47bとを備えており、ブッシュ部47aを貫通するようにボルト用孔470が形成されている。さらに、ブッシュ部47aには外周面を一周する溝471が形成されている。
【0027】
図8(a)に示すように、吸気口フランジ13aには、側面からボルト孔14へと貫通するネジ穴140が形成されている。このネジ穴140は、ボルト孔14に挿入されたブッシュ部47aの溝471と対向するように形成されている。そして、このネジ穴140に装着された止めネジ141をボルト孔14に挿入されたブッシュ部47aの溝471に押し当てることにより、特殊座金47をボルト孔14に係止する。特殊座金47をボルト孔14に取り付けられた状態にしておくことにより、特殊座金47の脱落・紛失等を防止することができる。なお、上述した特殊座金17〜47はブッシュ部17a〜47aと鍔部17b〜47bとを一体としたものであったが、ブッシュ部17a〜47aと鍔部17b〜47bとを別部品として別々に設けても良い。その場合、鍔部17b〜47bに変えて通常の座金を用いても良い。
【0028】
[変形例4]
上述した特殊座金17では、円形の鍔部17bと円柱状のブッシュ部17aとを備えていたが、図9に示す特殊座金57のように、長円形状の鍔部57bと断面形状が長円形である柱状のブッシュ部57bとで構成するようにしても良い。ブッシュ部57aにはボルト用の孔570が形成されている。なお、図9において、(a)は特殊座金57の平面図、(b)はB−B断面図、(c)はC−C断面図である。
【0029】
図10は、特殊座金57が用いられるターボ分子ポンプ1を示す図であり、(a)は断面図、(b)はフランジ部分を示す平面図である。なお、平面図は吸気口フランジ13aの上半分を示したものである。なお、図10は図1と同様の図であって、吸気口フランジ13aに形成されたボルト用孔の形状のみが異なっている。
【0030】
すなわち、ボルト用の円形孔14に代えて、長孔145を形成したものである。長孔145は図1のボルト孔14と同一個数形成されており、ボルト孔ピッチ円直径(P.C.D)も等しく設定されている。長孔145の水平断面形状はブッシュ部57aの水平断面形状と同一であり、この長孔内145に特殊座金57のブッシュ部57aが挿入される。長孔145の長径方向は、円周方向(すなわち、ロータ回転方向)に一致している。
【0031】
図11は長孔145部分を詳細に示す図であり、(a)は図10(b)のE部の拡大図、(b)は図11(a)のF−F断面図である。上述したように長孔145の長径方向はロータ回転方向と一致しているため、F−F断面図に示すようにロータ回転方向の隙間G1は、図2に示す隙間Gよりも大きく設定されている。そのため、吸気口フランジ13aに衝撃力Fが作用したときに、ボルト15の軸が大きく変形することができる。その結果、ボルト15の変形に伴う歪みエネルギーによる衝撃エネルギーの吸収を、より効果的に行わせることができる。
【0032】
図11(a)に示すように、ボルト15と長孔145との間には径方向にも隙間が形成されるため、吸気口フランジ13aに径方向の変形があった場合にはボルト15は径方向に変形し、径方向に関するボルト15の破断も防止することができる。
【0033】
−第2の実施の形態−
上述した第1の実施の形態ではターボ分子ポンプに適用した場合を説明したが、本実施の形態ではモレキュラドラッグポンプに適用した場合について説明する。図12はモレキュラドラッグポンプの概略構成を示す断面図である。図12に示すモレキュラドラッグポンプも磁気軸受式の回転式真空ポンプであって、磁気軸受部および回転駆動部は図1に示したターボ分子ポンプと同様の構造を有している。以下では、図1と構成の異なる部分を中心に説明する。
【0034】
図12に示すモレキュラドラッグポンプでは、ロータ2の外周面にはネジ溝部20が形成されており、ロータ2の周囲にはネジ溝部20に対向するように円筒状のステータ21が設けられている。ネジ溝部20とステータ21との隙間は1mm以下に設定されており、ロータ2を高速回転させることによりポンプ作用が発生し、ガスが排気される。このような構造を有するモレキュラドラッグポンプは、ターボ分子ポンプに比べてより高い圧力領域において能力を発揮する。なお、ステータ21側にネジ溝20を形成し、ロータ2の外周を円筒状としても良い。
【0035】
モレキュラドラッグポンプにおいても、ターボ分子ポンプと同様に数万rpmで高速回転しており、ロータ2とステータ21とが接触したり、接触等によりロータが急停止した場合にはステータ側に大きな衝撃が加わる。特に、タービン翼を有するターボ分子ポンプと異なり、モレキュラドラッグポンプの場合にはロータの上端から下端までネジ溝部と成っているため、同一口径のターボ分子ポンプに比べてロータ重量が大きくなりやすく、その分、衝撃も大きくなる。
【0036】
そのため、本実施の形態においても、モレキュラドラッグポンプの吸気口フランジ13aと装置側真空チャンバのフランジ16との固定方法には、第1の実施の形態と同様の固定方法を採用している。例えば、図2に示した構造と同様に、ボルト15に対して特殊座金17およびバネ座金18が用いられる。吸気口フランジ13aのボルト孔14は、特殊座金17用の穴径となっている。
【0037】
また、ターボ分子ポンプやモレキュラドラッグポンプ等の回転式真空ポンプ103を真空チャンバに装着する場合には、図13に示すようにゲートバルブやコントロールバルブ等のバルブを介して固定されることが多い。バルブ101は配管102を介して真空チャンバ100に固定されている。このような構成の場合も、真空チャンバ100への衝撃を抑制するために、バルブ101や配管102の各固定部分において第1の実施の形態と同様の固定方法が採用されている。その結果、ボルト変形に伴う歪みエネルギーによる衝撃エネルギーの吸収をより効果的に行わせることができ、ボルト15の破断折損も防止することができる。
【0038】
なお、図13に示した例では、バルブ101にボルト15用のネジ穴が形成されているので、ポンプ側の吸気口フランジ13aに貫通孔14を形成して、吸気口フランジ13a側に特殊座金17を装着した。しかし、バルブ側もボルト用貫通孔が形成されたフランジ構造の場合には、特殊座金17をポンプ側およびバルブ側のいずれのフランジに装着しても良い。このことは、バルブ101と配管102との接続部分、および配管102と真空チャンバ100との接続部分に関しても同様である。
【0039】
図13の取り付け構造では、回転式真空ポンプ103がバルブ101に吊り下げられるような形態で固定されているが、図14に示すように真空ポンプ103のベース3の底面を装置側フレーム104に固定するようにしても良い。ベース底面とフレーム104との固定方法にも、上述した第1の実施の形態と同様の固定方法を採用する。例えば、特殊座金17,バネ座金18およびボルト15を用いて固定する。フレーム104には、特殊座金17に対応したボルト孔14が形成されている。
【0040】
このように回転式真空ポンプ103を装置に装着する場合に、真空ポンプ103の吸気口フランジ13aを装置に固定するだけでなく、ポンプベース部分も装置に固定することにより、ポンプ急停止等の非常時におけるエネルギーをより多くのボルトの塑性変形によって吸収することができ、装置側に伝わる衝撃を低減することができる。特に、図14に示すような構成にした場合、フレーム側へもエネルギーを逃がしているので、装置として重要な部分である真空チャンバ100,配管102およびバルブ101へのダメージを低減することができる。また、本実施の形態の固定方法は、従来から設けられているボルト貫通穴に対してブッシュ等の隙間形成手段を装着することにより、真空装置の各接続箇所において容易に実施することができる。
【0041】
なお、上述した実施の形態では、ボルト15とボルト孔14との間に隙間を形成する手段として特殊座金17〜57を用いたが、特殊座金17〜57を用いる代わりに、ボルト15に代えて図15に示すような段付きボルト60を使用しても良い。段付きボルト60は、長さH1の首下部分がボルト孔14の内径とほぼ等しい寸法の大径部60aとなっている。大径部60aを設けたことにより隙間Gが形成される。61は一般的な平座金である。
【0042】
また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。例えば、ロータ2を磁気軸受により非接触支持する磁気軸受型の回転式真空ポンプを例に説明したが、本発明は磁気軸受型に限らずメカニカルベアリングを用いた回転式真空ポンプにも適用できる。
【0043】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、ボルト孔14は貫通孔を、ブッシュ部17a〜57aは隙間形成手段およびブッシュを、鍔部17b〜57bは座金を、フレーム104はポンプ支持部を、回転翼8,円筒部12およびネジ溝部20は回転側排気手段を、固定翼9,ネジステータ11およびステータ21は固定側排気手段をそれぞれ構成する。
【符号の説明】
【0044】
1 ターボ分子ポンプ
2 ロータ
3 ベース
4a〜4c 磁気軸受
6 モータ
8 回転翼
9 固定翼
11 ネジステータ
12 円筒部
13 ケーシング
13a 吸気口フランジ
14 ボルト孔
15 ボルト
16 装置側フランジ
17〜57 特殊座金
17a〜57a ブッシュ部
17b〜57b 鍔部
20 ネジ溝部
21 ステータ
60 段付きボルト
100 真空チャンバ
101 バルブ
102 配管
103 回転式真空ポンプ
104 フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口フランジが形成されたポンプケーシングと、回転側排気手段が設けられて前記ポ
ンプケーシング内で高速回転駆動されるロータと、前記ポンプケーシング内に設けられて
前記回転側排気手段と共働して排気作用を発生する固定側排気手段とを備え、排気対象装
置に対して前記吸気口フランジをボルトにより締結する回転式真空ポンプにおいて、
前記吸気口フランジに形成されて、前記ボルトの径よりも大きな径を有する貫通孔と、
前記ボルトと前記貫通孔との間に挿入され、前記貫通孔の前記吸気口フランジ合わせ面
側において、前記ボルトの塑性変形を許容する隙間を形成するブッシュとを備え、
前記ボルトに衝撃力が加わった際に、該ボルトが前記隙間内において塑性変形すること
を特徴とする回転式真空ポンプであって、
さらに、前記ブッシュを前記貫通孔に保持させる保持手段を備え、
前記排気対象装置に対する前記吸気口フランジのボルト締結が解除された場合においても、前記ブッシュが前記吸気口フランジに固定されるようにしたことを特徴とする回転式真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転式真空ポンプにおいて、
前記ブッシュにより形成される前記隙間は、前記吸気口フランジの径方向の隙間よりも
ロータ回転方向の隙間の方が大きいことを特徴とする回転式真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の回転式真空ポンプにおいて、
前記ブッシュと、前記ボルト用の座金とを一体に形成したことを特徴とする回転式真空ポンプ。
【請求項4】
ステータに対してロータを高速回転することによりガスを排気する回転式真空ポンプを、配管部材を介して真空装置に接続するポンプ接続構造において、
前記配管部材の接続フランジと前記真空装置の接続フランジとを締結するボルトと、
前記2つの接続フランジの一方に形成されて、前記ボルトの径よりも大きな径を有する貫通孔と、
前記ボルトと前記貫通孔との間に挿入され、前記貫通孔のフランジ合わせ面側において、前記ボルトの塑性変形を許容する隙間を形成するブッシュとを備え、
前記ボルトに衝撃力が加わった際に、該ボルトが前記隙間内において塑性変形することを特徴とするポンプ接続構造であって、
さらに、前記ブッシュを前記貫通孔に保持させる保持手段を備え、
前記2つの接続フランジのボルト締結が解除された場合においても、前記貫通孔の形成されたフランジに前記ブッシュが固定されるようにしたことを特徴とするポンプ接続構造。
【請求項5】
請求項に記載のポンプ接続構造において、
前記ブッシュにより形成される前記隙間は、前記吸気口フランジの径方向の隙間よりも
ロータ回転方向の隙間の方が大きいことを特徴とするポンプ接続構造。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のポンプ接続構造において、
前記ブッシュと、前記ボルト用の座金とを一体に形成したことを特徴とするポンプ接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−149438(P2011−149438A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69373(P2011−69373)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【分割の表示】特願2005−114519(P2005−114519)の分割
【原出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】