回転構造体の振動解析装置および振動解析方法
【課題】回転構造体の不釣合い強制振動と自励振動の連成振動を解析する。
【解決手段】有限要素法を用いて作成された回転構造体の振動解析モデル18を取得する。回転構造体を支持するすべり軸受の流体力モデル20を取得する。回転構造体の振動解析モデル18とすべり軸受の流体力モデル20から、すべり軸受で支持された回転構造体の運動方程式を導く(運動方程式導出部28)。運動方程式を解いて、回転構造体の振動と、軸受流体の発生する力との時刻歴応答を算出する(時刻歴応答算出部30)。算出された時刻歴応答を周波数分析することにより、回転構造体の振動解析を行う(振動解析部32)。
【解決手段】有限要素法を用いて作成された回転構造体の振動解析モデル18を取得する。回転構造体を支持するすべり軸受の流体力モデル20を取得する。回転構造体の振動解析モデル18とすべり軸受の流体力モデル20から、すべり軸受で支持された回転構造体の運動方程式を導く(運動方程式導出部28)。運動方程式を解いて、回転構造体の振動と、軸受流体の発生する力との時刻歴応答を算出する(時刻歴応答算出部30)。算出された時刻歴応答を周波数分析することにより、回転構造体の振動解析を行う(振動解析部32)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転構造体の振動解析に関する。
【背景技術】
【0002】
中心軸回りを回転する回転構造体の不釣合いによる振動応答を解析する装置が、例えば下記特許文献1に記載されている。この文献には、伝達マトリクス法とモード解析法を用いて、不釣合いによる振動応答の予測を行っている。
【0003】
また、すべり軸受で支持された回転構造体の安定性の解析を行うソフトウエア、例えば米、RBTS社製、ARMD(商標)(Advanced Rotating Machinery Dynamics)が市販されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−331478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際の、すべり軸受に支持された回転構造体の振動は、不釣合いによる強制振動と、軸受の流体力に起因する自励振動が連成した振動である。しかし、従来の手法では、いずれかの単独での解析しか行えなかった。
【0006】
本発明は、すべり軸受に支持された回転構造体の不釣合い強制振動と軸受流体力による自励振動の連成による回転構造体の挙動を解析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の振動解析装置は、有限要素法を用いて作成された回転構造体の振動解析モデルと、すべり軸受の流体力モデルから、すべり軸受で支持された回転構造体の運動方程式を導く、この運動方程式を解くことにより、不釣合い強制振動と軸受に起因する自励振動の連成振動の解析を行う。
【0008】
運動方程式は、数値積分を行って時刻歴応答を求めるようにでき、この時刻歴応答から周波数分析を行うようにして振動解析が行われる。
【0009】
すべり軸受のモデルは、浮動ブッシュ軸受をモデル化したものとすることができる。このモデルにおいては、浮動メタルの動的挙動も変数として取り扱う。
【0010】
回転構造体の振動解析モデルは、回転構造体の回転の中心となる中心軸と同軸の複数のはり要素にて作成されたものとすることができ、また、複数のはり要素と少なくとも一つの剛体円板要素にて作成されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不釣合い強制振動と、軸受の流体力に起因する自励振動の連成振動を解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、本実施形態の回転構造体の振動解析装置10を含む振動解析システム12の概略構成を示すブロック図である。振動解析装置10は、プログラム記憶部14に記憶されたプログラムに従って動作するコンピュータとすることができ、振動解析装置10内の各ブロックは、コンピュータの各機能を示すブロック図である。
【0013】
振動解析装置10は、外部との情報の授受を行う入出力部16を備えている。入出力部16より、外部で有限要素法により作成された回転構造体のモデル18、および流体潤滑理論によるすべり軸受のモデル20が取得される。また、これらのモデル18,20は、プログラム記憶部にモデル作成のためのプログラムを記憶しておき、操作者22により入力された設計情報に基づき、振動解析装置10内で作成するようにもできる。入出力部16は、操作者22からの操作に係る入力等を受け付けることができ、また表示装置、印刷装置などの出力装置24に情報を出力することができる。
【0014】
演算処理部26は、プログラム記憶部14に記憶されたプログラムに従い、運動方程式導出部28、時刻歴応答算出部30、振動解析部32として機能する。運動方程式導出部28は、取得した回転構造体のモデル18およびすべり軸受のモデル20に基づき、解析対象となる系、すなわち回転構造体およびこの回転構造体を支持するすべり軸受からなる系の運動方程式を導出する。時刻歴応答算出部30は、導出された運動方程式を数値積分法等を用いて解き、時間領域における系の挙動を算出する。振動解析部32は、時刻歴応答の算出結果、好ましくは定常状態に達した後の挙動について、振動解析を行う。振動解析は、周波数領域において、ある周波数における振動レベルおよび振動モードについて行うようにできる。
【0015】
図2は、回転構造体の振動解析の流れを示すチャートである。振動解析の対象となる系の各設計諸元の読み込みが行われる(S100)。具体的には、対象の回転体の各部の寸法、密度、縦弾性係数、横弾性係数などの数値、および軸受の幅、クリアランス、潤滑油の粘度等の特性が読み込まれる。これは、操作者が具体的な数値を入力することにより行われてもよく、CAD等による設計データから読み込むようにしてもよい。この設計諸元に基づき、有限要素法により回転構造体の振動解析モデルが作成され(S102)、流体潤滑理論により、すべり軸受流体モデルが作成される(S104)。図1に示す振動解析システム12の場合、モデルの作成までは、振動解析装置10の外部で行われる。先にも記したが、モデルの作成も、振動解析装置10にて行うことも可能である。
【0016】
回転構造体のモデルとすべり軸受のモデルから、回転構造体と、これを支持するすべり軸受を含む系の運動方程式を導出する(S106)。運動方程式を、数値積分法等により解き、系の時刻歴応答を算出する(S108)。そして、時刻歴応答に対し、FFT(高速フーリエ変換)処理を行い、振動解析を行う(S110)。振動解析は、時刻歴応答が定常状態に達した後の応答に対して処理することが望ましい。
【0017】
以下、具体的な例を挙げて本実施形態の回転構造体の振動解析について説明する。
【0018】
<解析モデル1>
図3は、ターボチャージャの回転部、すなわちタービンとコンプレッサの翼車と、これらの翼車が固定される共通のシャフトと、を模した回転構造体40を示す図である。回転構造体40は、中心軸回りに回転対称である。いくつかの直径の異なる部分を含んだ弾性軸42に、タービンおよびコンプレッサの翼車に相当する剛体円板44,46が固定されている。これらの翼車の弾性振動の固有振動数は、軸の固有振動数に比べて十分高いので、剛体として取り扱うことができ、慣性特性のみを表現する。剛体円板44の質量、直径回りの慣性モーメント、極慣性モーメントをそれぞれ、M1,Id1,Ip1、同様に剛体円板46のそれぞれをM2,Id2,Ip2と記す。回転構造体40は、二つの剛体円板44,46間にある、幅Bの二つの単層のすべり軸受48,50で支持される。また、剛体円板44,46の両側に不釣合い質量Ui(i=1,2,3,4)を想定する。すべり軸受48,50で支持された回転構造体が、速度ωで回転する系が解析対象のモデルとなる。
【0019】
なお、図示する例においては、弾性軸42は直径の異なる10の部分からなるが、この部分の数は、適宜変更することができる。また、剛体円板の数、弾性軸に対する取り付け位置についても、適宜変更することができる。さらに、剛体円板のない、弾性軸のみにより構成される回転構造体を取り扱うことも可能である。
【0020】
<運動方程式>
図3において、x,y方向の振れ回り振動を考え、有限要素法によりその運動方程式を導く。回転構造体40は、弾性軸42をはり要素で分割し、剛体円板44,46を剛体要素で表現する。各要素の特性行列については、ネルソン(Nelson)、山本敏夫・石田幸男らが下記文献で提案した式を用いる。運動方程式の導出については、山本敏夫・石田幸男著の下記文献を参照できる。
【0021】
NELSON,H.D.,MCVAUGH,J.M.,Trans.ASME,J.Eng.,Ind.,Vol.98(2),(1976),p.593-600
山本敏夫・石田幸男著,回転機械の力学、コロナ社
【0022】
−はり要素の要素特性行列−
図4に、はり要素の両端における接点変位を示す。u,vは、x,y方向の並進変位、θx,θyは、x,y軸周りの回転変位(たわみ角)を表す。はり要素の接点変位ベクトルqesを式(1)のように定義する。ここでi,jは、はり要素の両端を示す。
【数1】
【0023】
要素質量行列Ms、要素ジャイロ行列Gs、要素剛性行列Ksは、式(2)〜(5)のように定義される。
【数2】
【0024】
ここで、μは軸の単位長さ当たりの質量、rは軸の半径、ωは軸の角速度、Eは軸の縦弾性係数、Ip=mr2/2は軸の単位長さ当たりの極慣性モーメント、Ia=πr4/4は軸の断面二次モーメントを表す。また、式中に用いられるSym.は、この部分の行列の各要素が、行列の左下半分の各要素を左上から右下に延びる対角線で対象に配置したものであることを示す。式(4)中に用いられるSkew−sym.は、この部分の行列の各要素が、行列の左下半分の各要素について符号を逆転し、これらを左上から右下に延びる対角線で対象に配置したものであることを示す。以下同様である。
【0025】
−剛体要素の要素特性行列−
剛体要素の質量は、その重心位置に集中させる。重心位置の節点をiとし、図4の定義に従って、剛体要素の節点変位ベクトルqedを式(6)で表す。
【数3】
【0026】
要素質量行列Md、要素ジャイロ行列Gd、要素減衰行列Cdは、次式(7)〜(9)のように表せる。式(9)において、Ciはタービンおよびコンプレッサが対象とする作動流体の粘性などによる翼車の外部減衰を示す。
【数4】
【0027】
−不釣合い強制力−
節点iの不釣合い(アンバランス)の大きさをUi、位相をαiとすると、節点iにおける強制ベクトルFiuは、式(10)と表される。tは時間を表す。
【数5】
【0028】
−すべり軸受の油膜反力−
すべり軸受の潤滑流体のよる力、すなわち動圧効果による油膜反力は、レイノルズ方程式を解いて得られる油膜圧力を軸受全面で積分することによって求められる。この解法については、例えば、染谷常雄著「内燃機関の潤滑」を参照できる。油膜反力を求めるに当たっては、負圧による油膜破断を考慮して、正圧の範囲だけで積分するのが精度が良いとされているが、自励振動が発生して、軸が軸受内で大きく振れ回る場合は、正圧の範囲が時々刻々と変化することになる。一方で、すべり軸受の油膜力の計算は、運動方程式の数値積分において、最も負荷が高くなる。ここでは、計算効率と精度を両立させるため、下記ランド(Lund)らの方法を参考にしてレイノルズ方程式の短軸受近似解から、変化する正圧の範囲を考慮した油膜力の解析式を導く。
【0029】
LUND,J.W.,SAIBLE,E.,Trans.ASME,J.Eng.,Ind.,Vol.89(11),(1967),p.813-827
BADGLEY,R.H.,BOOKER,J.F.,Trans.ASME,J.Tri.,Lud.,Vol.91(10),(1969),p.625-633
【0030】
図5は、すべり軸受48,50の断面図であり、(a)は軸直交断面図、(b)は軸を含む断面図である。弾性軸42は、油膜52を介して幅Bの軸受48,50に支持されている。図5に示すように、軸が軸受内で振れ回る場合の状態量をとる。eは軸の偏心量、γは軸の偏心角、δは偏心方向を基準とする位相角を表す。hはδ方向の油膜厚さで式(11)で表される。cは軸が軸受の中央にあるときの半径隙間、ε=e/cは軸の偏心率である。
【数6】
【0031】
レイノルズ方程式を短軸受近似で解くと(「内燃機関の潤滑」参照)、油膜圧力pは、式(12)となる。
【数7】
【0032】
軸受の幅方向の中央位置(z=B/2)における円周方向の油膜圧力を例示すると、図6のようになる。δ1<δ<δ2が正圧の範囲を示す。δ1,δ2は、δ2=δ1+πとして、次式(13),(14)のように定義することができる。
【数8】
【0033】
以上の正圧範囲を用いて、図5に示す半径方向の油膜圧力Fεと、円周方向の油膜力Fγは、式(15)となる。
【数9】
【0034】
式(15)に対して、式(16)で定義されるゾンマーフェルト(Sommerfeld)の置換積分を施し、積分範囲δ1,δ2は、式(17)のようにθ1,θ2に変換される。
【数10】
【0035】
式(16),(17)により、式(15)は最終的に式(18),(19)となる。
【数11】
【0036】
なお、図5で軸受部の軸の節点変位を(x,y)とすると、ε,γおよびこれらの時間に関する微分は、式(20)となる。
【数12】
【0037】
また、x,y方向の軸受反力Fx,Fyは式(21)で表される。
【数13】
【0038】
式(13)および式(17)〜(21)から、軸受節点iにおける油膜の反力ベクトルは、軸の変位と速度の非線形関数として、次式(22)のように表現できる。
【数14】
【0039】
−全系の運動方程式−
前記の要素特性行列と力ベクトルを全要素について組み上げることにより、全系の運動方程式(23)を得る。
【数15】
M、G、C、Kは、全系の質量行列、ジャイロ行列、減衰行列、剛性行列を示す。qは全節点の変位ベクトル、Fuは不釣合いの強制ベクトル、Fbは軸受油膜の反力ベクトルを表す。Fgは重力ベクトルを表す。ここでは、y軸の負の方向に重力が作用する。各節点の重力成分は、弾性はり要素の質量を両端に等分することにより求める。剛体円板が取り付く接点には、その質量の効果も含める。
【0040】
運動方程式(23)から、例えば、IMSL MATH/LIBRARY User's Manual,Ver.2,(1991),747-754,IMSL,Inc.のルンゲ−クッタ−ベルナー(Runge-Kutta-Verner)法を用いて数値積分を行い、回転構造体の振れ回りと軸受の油膜反力の時刻歴応答を求めることができる。この数値積分は、各回転速度において独立して行う。回転速度ごとに回転構造体の振れ回り振動が定常に落ち着くまで、例えば32回分の予備計算を行い、その後の時刻歴データを分析する。回転速度ごとの回転構造体の初期位置は、回転構造体の自重による静的平衡位置とする。平衡位置は、式(23)において、不釣合い強制力を除いて重力だけが作用する場合を想定し、静解析により求める。
【0041】
<計算結果>
図7は、回転構造体40の振れ回り振動の周波数分析結果を示す図である。横軸が振動周波数、縦軸が回転構造体の回転速度、円の直径は振幅を示す。周波数ωの不釣合い振動Vに加えて、(1/2)ωの自励振動Sが発生することが分かる。また、不釣合い振動Vの共振点R付近においては、自励振動Sがなくなっていることが分かる。
【0042】
図8は、回転速度ごとの不釣合い振動の振幅Avと自励振動の振幅Asを示す図である。図9は、不釣合い振動に対応する油膜反力Tvと、自励振動に対応する油膜反力Tsを示す図である。図7−9に示されるように、不釣合い振動の共振ピーク付近では、自励振動が消滅して、不釣合い共振に引き込まれていることが分かる。
【0043】
このように、本実施形態の解析法によれば、不釣合い振動と、自励振動が連成した振動を解くことができる。
【0044】
図10は、30000rpm付近の自励振動の振れ回りモードを示す図である。図11は、不釣合い共振の振れ回りモードを示す図である。図12は、75000rpmの自励振動の振れ回りモードを示す図である。自励振動は、剛体の円錐モードとなっており、不釣合い振動は軸の曲げモードとなっている。
【0045】
<解析モデル2>
図13は、図3に示した回転構造体40を浮動ブッシュ軸受54,56で支持した系を示す図である。回転構造体40については、すでに説明している。回転構造体の振動は、円錐、円筒の剛体モードと、曲げ振動モードを含むx,y方向の振れ回り振動のみを取り扱う。z方向の振動については、固有振動数が対象周波数より十分高いので、ここでは扱わない。二つの剛体円板44,46に模されるコンプレッサおよびタービンの翼車の弾性振動の固有振動数も、対象周波数域より十分高いので、これらの弾性振動も考慮しない。回転構造体40の回転速度ωは一定とする。振れ回り振動の強制力として、コンプレッサおよびタービンのアンバランス修正面Ui(i=1,2,3,4)で定義される不釣合いを考慮する。
【0046】
図14は、浮動ブッシュ軸受54,56の中心軸を含む断面図である。弾性軸42と軸受メタル58の間に、浮動ブッシュ60が挿入され、この浮動ブッシュ60の内側に内側油膜62が、外側に外側油膜64が形成される。内側・外側油膜に発生する流体力は、すべり軸受の流体方程式(レイノルズ方程式)に基づいて、定式化する。これの詳細については後述する。なお、浮動ブッシュ60は、z軸回りには拘束されていないので、その回転速度は内側・外側油膜62,64の粘性摩擦トルクの釣り合いの結果決まる。よって、浮動ブッシュのz軸回りの回転運動も、未知の状態量として扱い、回転体の振動および油膜力と連成させて計算する。
【0047】
<運動方程式>
回転構造体40についての考察は、すでに示したので、ここでは油膜力についてのみ説明する。
【0048】
−浮動ブッシュ軸受の油膜力−
図15に、浮動ブッシュ軸受54,56の寸法諸元の定義を示す。D1,D2は軸径、軸受径、B1,B2は浮動ブッシュ60の内側、外側の油膜有効幅(ブッシュ全幅から面取り長さを引いた幅)、C1,C2は、浮動ブッシュ60の内側、外側の半径隙間を表す。油膜力の計算は、前述した単層のすべり軸受48,50の手法を用いて行う。ただし、浮動ブッシュ軸受は、単層のすべり軸受に比べて構造と潤滑油の流れが複雑であるので、以下の仮定の下に油膜力の近似計算を行う。
・油膜の圧力、粘性摩擦トルクの計算において、軸受側からの強制給油圧と浮動ブッシ ュの油穴の影響は無視する。
・軸受内の軸の傾き、および浮動ブッシュの傾きは無視する。
・軸受内の軸、浮動ブッシュ、軸受の弾性変形は無視する。
・潤滑油の粘度の計算においては、粘性摩擦熱による油膜の温度上昇を簡易的に考慮す る。この温度上昇の計算においては、潤滑油の流量の見積もりが必要なため、軸受側 の強制給油圧と浮動ブッシュの油穴の影響を考慮する。
【0049】
−−浮動ブッシュの内側油膜に発生する流体力−−
浮動ブッシュ60の内側油膜62に発生する流体力は、浮動ブッシュに対する軸の相対運動によって決定される。図16に、その相対運動を表す状態量を示す。e1は浮動ブッシュ60の中心Omに対する軸42の中心Osの偏心量、γ1はその偏心角、ωは軸42の回転速度、ωmは、浮動ブッシュの回転速度を表す。なお、R1は軸の半径(=D1/2)である。浮動ブッシュに対する軸のx,y方向の相対変位を(x1,y1)とすると、e1、γ1は次式(31)で表される。
【数16】
【0050】
内側の油膜力の偏心方向成分fε1、円周方向成分fγ1は、次式(32)−(37)のように表される。η1は内側油膜の粘度、C1は半径隙間、B1は軸受幅、式(35)の「’」は、これが付された文字(γ1,ε1)の時間τに関する微分を示す。
【数17】
【0051】
なお、油膜力のx,y方向成分fx1,fy2は、式(38)のように表される。
【数18】
【0052】
浮動ブッシュに作用する内側油膜の粘性摩擦トルクtz1(z軸回りの回転トルク)は、式(39)のように表される。
【数19】
【0053】
−−浮動ブッシュの外側油膜に発生する流体力−−
浮動ブッシュの外側油膜64に発生する流体力は、軸受に対するメタルの相対運動によって決定される。ここでは、軸受は固定壁とする。図17に浮動ブッシュ60の運動を表す状態量を示す。e2は軸受中心Obに対する浮動ブッシュの中心Omの偏心量、γ2はその偏心角、ωmは浮動ブッシュの回転速度を表す。なお、R2は浮動ブッシュの外半径(=D2/2)である。軸受に対する浮動ブッシュのx,y方向の相対変位を(x2,y2)とすると、e2,γ2は次式(40)で表される。
【数20】
【0054】
内側の油膜力の偏心方向成分fε2、円周方向成分fγ2は、次式(41)−(46)のように表される。η2は内側油膜の粘度、C2は半径隙間、B2は軸受幅、式(44)の「’」は、これが付された文字(γ2,ε2)の時間τに関する微分を示す。
【数21】
【0055】
なお、油膜力のx,y方向成分fx1,fy2は、式(47)のように表される。
【数22】
【0056】
浮動ブッシュに作用する外側油膜の粘性摩擦トルクtz2(z軸回りの回転トルク)は、式(48)のように表される。
【数23】
【0057】
−全系の運動方程式−
回転構造体の要素特性行列と各作用力をまとめると、全系の運動方程式は次の連立常微分方程式(49)として記述される。
【数24】
【0058】
式(49)の第1式は、回転構造体の振れ回り振動に関する運動方程式である。M、G、C、Kは、それぞれ回転構造体の質量行列、ジャイロ行列、減衰行列、剛性行列を示す。qは回転構造体の全節点の変位ベクトル、fu(t)は不釣合いの強制ベクトル、fbiは軸受浮動ブッシュの内側油膜から回転構造体が受ける油膜力のベクトル、fgは回転構造体に作用する重力ベクトルを表す。重力は、y軸の負方向に作用する。
【0059】
第2式は、浮動ブッシュのx,y方向の振れ回り運動(並進運動)に関する運動方程式である。qmは、軸受メタルのx,y方向変位を含む変位ベクトル、fboは外側油膜から浮動ブッシュが受ける油膜力のベクトル、fgmはメタルに作用する重力のベクトルを表す。
【0060】
第3式は、浮動ブッシュのz軸回りの回転運動に関する運動方程式である。θzmは浮動ブッシュのz軸回りの回転変位ベクトル、tbiは内側油膜62から浮動ブッシュ60が受ける摩擦トルクのベクトル、tboは、外側油膜64から浮動ブッシュ60が受ける摩擦トルクのベクトルを表す。
【0061】
運動方程式(19)は、例えば、前出のルンゲ−クッタ−ベルナー(Runge-Kutta-Verner)法を用いて数値積分を行い、回転構造体の振れ回りと軸受の油膜反力の時刻歴応答を求めることができる。この数値積分は、各回転速度において独立して行う。回転速度ごとに回転構造体の振れ回り振動が定常に落ち着くまで予備計算を行い、その後の時刻歴データを分析する。
【0062】
<計算結果>
図18に軸の振れ回り振動(図13において弾性軸42の左端の変位)の周波数分析結果を示す。不釣合い振動(回転1次成分)Vには、6万rpm付近で曲げモードの小さな共振現象がある。不釣合い振動により低周波数側で自励振動(オイルウィップ)S1,S2が発生する、低速域の2万rpm付近で、(1)に示すように円錐モードの自励振動が発生する。続いて3万rpm付近では、(1)より若干周波寸の低い(2)に示す円錐モードの自励振動が発生する。さらに、不釣合い振動の共振点を超えた8万rpm付近で、(3)に示す曲げモードと円筒モードが練成した自励振動が発生する。これより高速行きでは、(2)のモードの自励振動と、(3)のモードの自励振動が同時に発生する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態に係る振動解析システムの概略を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の振動解析の流れを示す図である。
【図3】回転構造体の解析モデルを示す図であり、特に単層のすべり軸受を用いた場合のモデルを示す図である。
【図4】はり要素の変位の説明図である。
【図5】単層のすべり軸受の断面および状態量を示す図である。
【図6】すべり軸受に発生する油膜力の分布を示す図である。
【図7】計算結果の一例を示す図である。
【図8】計算結果の一例を示す図であり、特に振幅を示す図である。
【図9】計算結果の一例を示す図であり、特に油膜反力を示す図である。
【図10】計算結果の一例を示す図であり、特に3万rpmにおける自励振動のモードを示す図である。
【図11】計算結果の一例を示す図であり、特に6万6千rpmにおける不釣合い振動のモードを示す図である。
【図12】計算結果の一例を示す図であり、特に7万5千rpmにおける自励振動のモードを示す図である。
【図13】回転構造体の解析モデルを示す図であり、特に浮動ブッシュ軸受を用いた場合のモデルを示す図である。
【図14】浮動ブッシュ軸受の中心軸を含む断面図である。
【図15】浮動ブッシュ軸受の寸法諸元を示す図である。
【図16】浮動ブッシュ軸受の軸直交断面および状態量を示す図である。
【図17】浮動ブッシュ軸受の軸直交断面および状態量を示す図である。
【図18】計算結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 振動解析装置、12 振動解析システム、40 回転構造体、42 弾性軸、44,46 剛体円板、48,50 単層のすべり軸受、52 油膜、54,56 浮動ブッシュ軸受、60 浮動ブッシュ、62 内側油膜、64 外側油膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転構造体の振動解析に関する。
【背景技術】
【0002】
中心軸回りを回転する回転構造体の不釣合いによる振動応答を解析する装置が、例えば下記特許文献1に記載されている。この文献には、伝達マトリクス法とモード解析法を用いて、不釣合いによる振動応答の予測を行っている。
【0003】
また、すべり軸受で支持された回転構造体の安定性の解析を行うソフトウエア、例えば米、RBTS社製、ARMD(商標)(Advanced Rotating Machinery Dynamics)が市販されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−331478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際の、すべり軸受に支持された回転構造体の振動は、不釣合いによる強制振動と、軸受の流体力に起因する自励振動が連成した振動である。しかし、従来の手法では、いずれかの単独での解析しか行えなかった。
【0006】
本発明は、すべり軸受に支持された回転構造体の不釣合い強制振動と軸受流体力による自励振動の連成による回転構造体の挙動を解析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の振動解析装置は、有限要素法を用いて作成された回転構造体の振動解析モデルと、すべり軸受の流体力モデルから、すべり軸受で支持された回転構造体の運動方程式を導く、この運動方程式を解くことにより、不釣合い強制振動と軸受に起因する自励振動の連成振動の解析を行う。
【0008】
運動方程式は、数値積分を行って時刻歴応答を求めるようにでき、この時刻歴応答から周波数分析を行うようにして振動解析が行われる。
【0009】
すべり軸受のモデルは、浮動ブッシュ軸受をモデル化したものとすることができる。このモデルにおいては、浮動メタルの動的挙動も変数として取り扱う。
【0010】
回転構造体の振動解析モデルは、回転構造体の回転の中心となる中心軸と同軸の複数のはり要素にて作成されたものとすることができ、また、複数のはり要素と少なくとも一つの剛体円板要素にて作成されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不釣合い強制振動と、軸受の流体力に起因する自励振動の連成振動を解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、本実施形態の回転構造体の振動解析装置10を含む振動解析システム12の概略構成を示すブロック図である。振動解析装置10は、プログラム記憶部14に記憶されたプログラムに従って動作するコンピュータとすることができ、振動解析装置10内の各ブロックは、コンピュータの各機能を示すブロック図である。
【0013】
振動解析装置10は、外部との情報の授受を行う入出力部16を備えている。入出力部16より、外部で有限要素法により作成された回転構造体のモデル18、および流体潤滑理論によるすべり軸受のモデル20が取得される。また、これらのモデル18,20は、プログラム記憶部にモデル作成のためのプログラムを記憶しておき、操作者22により入力された設計情報に基づき、振動解析装置10内で作成するようにもできる。入出力部16は、操作者22からの操作に係る入力等を受け付けることができ、また表示装置、印刷装置などの出力装置24に情報を出力することができる。
【0014】
演算処理部26は、プログラム記憶部14に記憶されたプログラムに従い、運動方程式導出部28、時刻歴応答算出部30、振動解析部32として機能する。運動方程式導出部28は、取得した回転構造体のモデル18およびすべり軸受のモデル20に基づき、解析対象となる系、すなわち回転構造体およびこの回転構造体を支持するすべり軸受からなる系の運動方程式を導出する。時刻歴応答算出部30は、導出された運動方程式を数値積分法等を用いて解き、時間領域における系の挙動を算出する。振動解析部32は、時刻歴応答の算出結果、好ましくは定常状態に達した後の挙動について、振動解析を行う。振動解析は、周波数領域において、ある周波数における振動レベルおよび振動モードについて行うようにできる。
【0015】
図2は、回転構造体の振動解析の流れを示すチャートである。振動解析の対象となる系の各設計諸元の読み込みが行われる(S100)。具体的には、対象の回転体の各部の寸法、密度、縦弾性係数、横弾性係数などの数値、および軸受の幅、クリアランス、潤滑油の粘度等の特性が読み込まれる。これは、操作者が具体的な数値を入力することにより行われてもよく、CAD等による設計データから読み込むようにしてもよい。この設計諸元に基づき、有限要素法により回転構造体の振動解析モデルが作成され(S102)、流体潤滑理論により、すべり軸受流体モデルが作成される(S104)。図1に示す振動解析システム12の場合、モデルの作成までは、振動解析装置10の外部で行われる。先にも記したが、モデルの作成も、振動解析装置10にて行うことも可能である。
【0016】
回転構造体のモデルとすべり軸受のモデルから、回転構造体と、これを支持するすべり軸受を含む系の運動方程式を導出する(S106)。運動方程式を、数値積分法等により解き、系の時刻歴応答を算出する(S108)。そして、時刻歴応答に対し、FFT(高速フーリエ変換)処理を行い、振動解析を行う(S110)。振動解析は、時刻歴応答が定常状態に達した後の応答に対して処理することが望ましい。
【0017】
以下、具体的な例を挙げて本実施形態の回転構造体の振動解析について説明する。
【0018】
<解析モデル1>
図3は、ターボチャージャの回転部、すなわちタービンとコンプレッサの翼車と、これらの翼車が固定される共通のシャフトと、を模した回転構造体40を示す図である。回転構造体40は、中心軸回りに回転対称である。いくつかの直径の異なる部分を含んだ弾性軸42に、タービンおよびコンプレッサの翼車に相当する剛体円板44,46が固定されている。これらの翼車の弾性振動の固有振動数は、軸の固有振動数に比べて十分高いので、剛体として取り扱うことができ、慣性特性のみを表現する。剛体円板44の質量、直径回りの慣性モーメント、極慣性モーメントをそれぞれ、M1,Id1,Ip1、同様に剛体円板46のそれぞれをM2,Id2,Ip2と記す。回転構造体40は、二つの剛体円板44,46間にある、幅Bの二つの単層のすべり軸受48,50で支持される。また、剛体円板44,46の両側に不釣合い質量Ui(i=1,2,3,4)を想定する。すべり軸受48,50で支持された回転構造体が、速度ωで回転する系が解析対象のモデルとなる。
【0019】
なお、図示する例においては、弾性軸42は直径の異なる10の部分からなるが、この部分の数は、適宜変更することができる。また、剛体円板の数、弾性軸に対する取り付け位置についても、適宜変更することができる。さらに、剛体円板のない、弾性軸のみにより構成される回転構造体を取り扱うことも可能である。
【0020】
<運動方程式>
図3において、x,y方向の振れ回り振動を考え、有限要素法によりその運動方程式を導く。回転構造体40は、弾性軸42をはり要素で分割し、剛体円板44,46を剛体要素で表現する。各要素の特性行列については、ネルソン(Nelson)、山本敏夫・石田幸男らが下記文献で提案した式を用いる。運動方程式の導出については、山本敏夫・石田幸男著の下記文献を参照できる。
【0021】
NELSON,H.D.,MCVAUGH,J.M.,Trans.ASME,J.Eng.,Ind.,Vol.98(2),(1976),p.593-600
山本敏夫・石田幸男著,回転機械の力学、コロナ社
【0022】
−はり要素の要素特性行列−
図4に、はり要素の両端における接点変位を示す。u,vは、x,y方向の並進変位、θx,θyは、x,y軸周りの回転変位(たわみ角)を表す。はり要素の接点変位ベクトルqesを式(1)のように定義する。ここでi,jは、はり要素の両端を示す。
【数1】
【0023】
要素質量行列Ms、要素ジャイロ行列Gs、要素剛性行列Ksは、式(2)〜(5)のように定義される。
【数2】
【0024】
ここで、μは軸の単位長さ当たりの質量、rは軸の半径、ωは軸の角速度、Eは軸の縦弾性係数、Ip=mr2/2は軸の単位長さ当たりの極慣性モーメント、Ia=πr4/4は軸の断面二次モーメントを表す。また、式中に用いられるSym.は、この部分の行列の各要素が、行列の左下半分の各要素を左上から右下に延びる対角線で対象に配置したものであることを示す。式(4)中に用いられるSkew−sym.は、この部分の行列の各要素が、行列の左下半分の各要素について符号を逆転し、これらを左上から右下に延びる対角線で対象に配置したものであることを示す。以下同様である。
【0025】
−剛体要素の要素特性行列−
剛体要素の質量は、その重心位置に集中させる。重心位置の節点をiとし、図4の定義に従って、剛体要素の節点変位ベクトルqedを式(6)で表す。
【数3】
【0026】
要素質量行列Md、要素ジャイロ行列Gd、要素減衰行列Cdは、次式(7)〜(9)のように表せる。式(9)において、Ciはタービンおよびコンプレッサが対象とする作動流体の粘性などによる翼車の外部減衰を示す。
【数4】
【0027】
−不釣合い強制力−
節点iの不釣合い(アンバランス)の大きさをUi、位相をαiとすると、節点iにおける強制ベクトルFiuは、式(10)と表される。tは時間を表す。
【数5】
【0028】
−すべり軸受の油膜反力−
すべり軸受の潤滑流体のよる力、すなわち動圧効果による油膜反力は、レイノルズ方程式を解いて得られる油膜圧力を軸受全面で積分することによって求められる。この解法については、例えば、染谷常雄著「内燃機関の潤滑」を参照できる。油膜反力を求めるに当たっては、負圧による油膜破断を考慮して、正圧の範囲だけで積分するのが精度が良いとされているが、自励振動が発生して、軸が軸受内で大きく振れ回る場合は、正圧の範囲が時々刻々と変化することになる。一方で、すべり軸受の油膜力の計算は、運動方程式の数値積分において、最も負荷が高くなる。ここでは、計算効率と精度を両立させるため、下記ランド(Lund)らの方法を参考にしてレイノルズ方程式の短軸受近似解から、変化する正圧の範囲を考慮した油膜力の解析式を導く。
【0029】
LUND,J.W.,SAIBLE,E.,Trans.ASME,J.Eng.,Ind.,Vol.89(11),(1967),p.813-827
BADGLEY,R.H.,BOOKER,J.F.,Trans.ASME,J.Tri.,Lud.,Vol.91(10),(1969),p.625-633
【0030】
図5は、すべり軸受48,50の断面図であり、(a)は軸直交断面図、(b)は軸を含む断面図である。弾性軸42は、油膜52を介して幅Bの軸受48,50に支持されている。図5に示すように、軸が軸受内で振れ回る場合の状態量をとる。eは軸の偏心量、γは軸の偏心角、δは偏心方向を基準とする位相角を表す。hはδ方向の油膜厚さで式(11)で表される。cは軸が軸受の中央にあるときの半径隙間、ε=e/cは軸の偏心率である。
【数6】
【0031】
レイノルズ方程式を短軸受近似で解くと(「内燃機関の潤滑」参照)、油膜圧力pは、式(12)となる。
【数7】
【0032】
軸受の幅方向の中央位置(z=B/2)における円周方向の油膜圧力を例示すると、図6のようになる。δ1<δ<δ2が正圧の範囲を示す。δ1,δ2は、δ2=δ1+πとして、次式(13),(14)のように定義することができる。
【数8】
【0033】
以上の正圧範囲を用いて、図5に示す半径方向の油膜圧力Fεと、円周方向の油膜力Fγは、式(15)となる。
【数9】
【0034】
式(15)に対して、式(16)で定義されるゾンマーフェルト(Sommerfeld)の置換積分を施し、積分範囲δ1,δ2は、式(17)のようにθ1,θ2に変換される。
【数10】
【0035】
式(16),(17)により、式(15)は最終的に式(18),(19)となる。
【数11】
【0036】
なお、図5で軸受部の軸の節点変位を(x,y)とすると、ε,γおよびこれらの時間に関する微分は、式(20)となる。
【数12】
【0037】
また、x,y方向の軸受反力Fx,Fyは式(21)で表される。
【数13】
【0038】
式(13)および式(17)〜(21)から、軸受節点iにおける油膜の反力ベクトルは、軸の変位と速度の非線形関数として、次式(22)のように表現できる。
【数14】
【0039】
−全系の運動方程式−
前記の要素特性行列と力ベクトルを全要素について組み上げることにより、全系の運動方程式(23)を得る。
【数15】
M、G、C、Kは、全系の質量行列、ジャイロ行列、減衰行列、剛性行列を示す。qは全節点の変位ベクトル、Fuは不釣合いの強制ベクトル、Fbは軸受油膜の反力ベクトルを表す。Fgは重力ベクトルを表す。ここでは、y軸の負の方向に重力が作用する。各節点の重力成分は、弾性はり要素の質量を両端に等分することにより求める。剛体円板が取り付く接点には、その質量の効果も含める。
【0040】
運動方程式(23)から、例えば、IMSL MATH/LIBRARY User's Manual,Ver.2,(1991),747-754,IMSL,Inc.のルンゲ−クッタ−ベルナー(Runge-Kutta-Verner)法を用いて数値積分を行い、回転構造体の振れ回りと軸受の油膜反力の時刻歴応答を求めることができる。この数値積分は、各回転速度において独立して行う。回転速度ごとに回転構造体の振れ回り振動が定常に落ち着くまで、例えば32回分の予備計算を行い、その後の時刻歴データを分析する。回転速度ごとの回転構造体の初期位置は、回転構造体の自重による静的平衡位置とする。平衡位置は、式(23)において、不釣合い強制力を除いて重力だけが作用する場合を想定し、静解析により求める。
【0041】
<計算結果>
図7は、回転構造体40の振れ回り振動の周波数分析結果を示す図である。横軸が振動周波数、縦軸が回転構造体の回転速度、円の直径は振幅を示す。周波数ωの不釣合い振動Vに加えて、(1/2)ωの自励振動Sが発生することが分かる。また、不釣合い振動Vの共振点R付近においては、自励振動Sがなくなっていることが分かる。
【0042】
図8は、回転速度ごとの不釣合い振動の振幅Avと自励振動の振幅Asを示す図である。図9は、不釣合い振動に対応する油膜反力Tvと、自励振動に対応する油膜反力Tsを示す図である。図7−9に示されるように、不釣合い振動の共振ピーク付近では、自励振動が消滅して、不釣合い共振に引き込まれていることが分かる。
【0043】
このように、本実施形態の解析法によれば、不釣合い振動と、自励振動が連成した振動を解くことができる。
【0044】
図10は、30000rpm付近の自励振動の振れ回りモードを示す図である。図11は、不釣合い共振の振れ回りモードを示す図である。図12は、75000rpmの自励振動の振れ回りモードを示す図である。自励振動は、剛体の円錐モードとなっており、不釣合い振動は軸の曲げモードとなっている。
【0045】
<解析モデル2>
図13は、図3に示した回転構造体40を浮動ブッシュ軸受54,56で支持した系を示す図である。回転構造体40については、すでに説明している。回転構造体の振動は、円錐、円筒の剛体モードと、曲げ振動モードを含むx,y方向の振れ回り振動のみを取り扱う。z方向の振動については、固有振動数が対象周波数より十分高いので、ここでは扱わない。二つの剛体円板44,46に模されるコンプレッサおよびタービンの翼車の弾性振動の固有振動数も、対象周波数域より十分高いので、これらの弾性振動も考慮しない。回転構造体40の回転速度ωは一定とする。振れ回り振動の強制力として、コンプレッサおよびタービンのアンバランス修正面Ui(i=1,2,3,4)で定義される不釣合いを考慮する。
【0046】
図14は、浮動ブッシュ軸受54,56の中心軸を含む断面図である。弾性軸42と軸受メタル58の間に、浮動ブッシュ60が挿入され、この浮動ブッシュ60の内側に内側油膜62が、外側に外側油膜64が形成される。内側・外側油膜に発生する流体力は、すべり軸受の流体方程式(レイノルズ方程式)に基づいて、定式化する。これの詳細については後述する。なお、浮動ブッシュ60は、z軸回りには拘束されていないので、その回転速度は内側・外側油膜62,64の粘性摩擦トルクの釣り合いの結果決まる。よって、浮動ブッシュのz軸回りの回転運動も、未知の状態量として扱い、回転体の振動および油膜力と連成させて計算する。
【0047】
<運動方程式>
回転構造体40についての考察は、すでに示したので、ここでは油膜力についてのみ説明する。
【0048】
−浮動ブッシュ軸受の油膜力−
図15に、浮動ブッシュ軸受54,56の寸法諸元の定義を示す。D1,D2は軸径、軸受径、B1,B2は浮動ブッシュ60の内側、外側の油膜有効幅(ブッシュ全幅から面取り長さを引いた幅)、C1,C2は、浮動ブッシュ60の内側、外側の半径隙間を表す。油膜力の計算は、前述した単層のすべり軸受48,50の手法を用いて行う。ただし、浮動ブッシュ軸受は、単層のすべり軸受に比べて構造と潤滑油の流れが複雑であるので、以下の仮定の下に油膜力の近似計算を行う。
・油膜の圧力、粘性摩擦トルクの計算において、軸受側からの強制給油圧と浮動ブッシ ュの油穴の影響は無視する。
・軸受内の軸の傾き、および浮動ブッシュの傾きは無視する。
・軸受内の軸、浮動ブッシュ、軸受の弾性変形は無視する。
・潤滑油の粘度の計算においては、粘性摩擦熱による油膜の温度上昇を簡易的に考慮す る。この温度上昇の計算においては、潤滑油の流量の見積もりが必要なため、軸受側 の強制給油圧と浮動ブッシュの油穴の影響を考慮する。
【0049】
−−浮動ブッシュの内側油膜に発生する流体力−−
浮動ブッシュ60の内側油膜62に発生する流体力は、浮動ブッシュに対する軸の相対運動によって決定される。図16に、その相対運動を表す状態量を示す。e1は浮動ブッシュ60の中心Omに対する軸42の中心Osの偏心量、γ1はその偏心角、ωは軸42の回転速度、ωmは、浮動ブッシュの回転速度を表す。なお、R1は軸の半径(=D1/2)である。浮動ブッシュに対する軸のx,y方向の相対変位を(x1,y1)とすると、e1、γ1は次式(31)で表される。
【数16】
【0050】
内側の油膜力の偏心方向成分fε1、円周方向成分fγ1は、次式(32)−(37)のように表される。η1は内側油膜の粘度、C1は半径隙間、B1は軸受幅、式(35)の「’」は、これが付された文字(γ1,ε1)の時間τに関する微分を示す。
【数17】
【0051】
なお、油膜力のx,y方向成分fx1,fy2は、式(38)のように表される。
【数18】
【0052】
浮動ブッシュに作用する内側油膜の粘性摩擦トルクtz1(z軸回りの回転トルク)は、式(39)のように表される。
【数19】
【0053】
−−浮動ブッシュの外側油膜に発生する流体力−−
浮動ブッシュの外側油膜64に発生する流体力は、軸受に対するメタルの相対運動によって決定される。ここでは、軸受は固定壁とする。図17に浮動ブッシュ60の運動を表す状態量を示す。e2は軸受中心Obに対する浮動ブッシュの中心Omの偏心量、γ2はその偏心角、ωmは浮動ブッシュの回転速度を表す。なお、R2は浮動ブッシュの外半径(=D2/2)である。軸受に対する浮動ブッシュのx,y方向の相対変位を(x2,y2)とすると、e2,γ2は次式(40)で表される。
【数20】
【0054】
内側の油膜力の偏心方向成分fε2、円周方向成分fγ2は、次式(41)−(46)のように表される。η2は内側油膜の粘度、C2は半径隙間、B2は軸受幅、式(44)の「’」は、これが付された文字(γ2,ε2)の時間τに関する微分を示す。
【数21】
【0055】
なお、油膜力のx,y方向成分fx1,fy2は、式(47)のように表される。
【数22】
【0056】
浮動ブッシュに作用する外側油膜の粘性摩擦トルクtz2(z軸回りの回転トルク)は、式(48)のように表される。
【数23】
【0057】
−全系の運動方程式−
回転構造体の要素特性行列と各作用力をまとめると、全系の運動方程式は次の連立常微分方程式(49)として記述される。
【数24】
【0058】
式(49)の第1式は、回転構造体の振れ回り振動に関する運動方程式である。M、G、C、Kは、それぞれ回転構造体の質量行列、ジャイロ行列、減衰行列、剛性行列を示す。qは回転構造体の全節点の変位ベクトル、fu(t)は不釣合いの強制ベクトル、fbiは軸受浮動ブッシュの内側油膜から回転構造体が受ける油膜力のベクトル、fgは回転構造体に作用する重力ベクトルを表す。重力は、y軸の負方向に作用する。
【0059】
第2式は、浮動ブッシュのx,y方向の振れ回り運動(並進運動)に関する運動方程式である。qmは、軸受メタルのx,y方向変位を含む変位ベクトル、fboは外側油膜から浮動ブッシュが受ける油膜力のベクトル、fgmはメタルに作用する重力のベクトルを表す。
【0060】
第3式は、浮動ブッシュのz軸回りの回転運動に関する運動方程式である。θzmは浮動ブッシュのz軸回りの回転変位ベクトル、tbiは内側油膜62から浮動ブッシュ60が受ける摩擦トルクのベクトル、tboは、外側油膜64から浮動ブッシュ60が受ける摩擦トルクのベクトルを表す。
【0061】
運動方程式(19)は、例えば、前出のルンゲ−クッタ−ベルナー(Runge-Kutta-Verner)法を用いて数値積分を行い、回転構造体の振れ回りと軸受の油膜反力の時刻歴応答を求めることができる。この数値積分は、各回転速度において独立して行う。回転速度ごとに回転構造体の振れ回り振動が定常に落ち着くまで予備計算を行い、その後の時刻歴データを分析する。
【0062】
<計算結果>
図18に軸の振れ回り振動(図13において弾性軸42の左端の変位)の周波数分析結果を示す。不釣合い振動(回転1次成分)Vには、6万rpm付近で曲げモードの小さな共振現象がある。不釣合い振動により低周波数側で自励振動(オイルウィップ)S1,S2が発生する、低速域の2万rpm付近で、(1)に示すように円錐モードの自励振動が発生する。続いて3万rpm付近では、(1)より若干周波寸の低い(2)に示す円錐モードの自励振動が発生する。さらに、不釣合い振動の共振点を超えた8万rpm付近で、(3)に示す曲げモードと円筒モードが練成した自励振動が発生する。これより高速行きでは、(2)のモードの自励振動と、(3)のモードの自励振動が同時に発生する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態に係る振動解析システムの概略を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の振動解析の流れを示す図である。
【図3】回転構造体の解析モデルを示す図であり、特に単層のすべり軸受を用いた場合のモデルを示す図である。
【図4】はり要素の変位の説明図である。
【図5】単層のすべり軸受の断面および状態量を示す図である。
【図6】すべり軸受に発生する油膜力の分布を示す図である。
【図7】計算結果の一例を示す図である。
【図8】計算結果の一例を示す図であり、特に振幅を示す図である。
【図9】計算結果の一例を示す図であり、特に油膜反力を示す図である。
【図10】計算結果の一例を示す図であり、特に3万rpmにおける自励振動のモードを示す図である。
【図11】計算結果の一例を示す図であり、特に6万6千rpmにおける不釣合い振動のモードを示す図である。
【図12】計算結果の一例を示す図であり、特に7万5千rpmにおける自励振動のモードを示す図である。
【図13】回転構造体の解析モデルを示す図であり、特に浮動ブッシュ軸受を用いた場合のモデルを示す図である。
【図14】浮動ブッシュ軸受の中心軸を含む断面図である。
【図15】浮動ブッシュ軸受の寸法諸元を示す図である。
【図16】浮動ブッシュ軸受の軸直交断面および状態量を示す図である。
【図17】浮動ブッシュ軸受の軸直交断面および状態量を示す図である。
【図18】計算結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 振動解析装置、12 振動解析システム、40 回転構造体、42 弾性軸、44,46 剛体円板、48,50 単層のすべり軸受、52 油膜、54,56 浮動ブッシュ軸受、60 浮動ブッシュ、62 内側油膜、64 外側油膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転構造体の振動を解析する回転構造体の振動解析装置であって、
有限要素法を用いて作成された回転構造体の振動解析モデルを取得する手段と、
前記回転構造体を支持するすべり軸受の流体力モデルを取得する手段と、
前記回転構造体の振動解析モデルと前記すべり軸受の流体力モデルから、すべり軸受で支持された回転構造体の運動方程式を導く手段と、
運動方程式を解いて、回転構造体の振動と、軸受流体の発生する力との時刻歴応答を算出する手段と、
算出された時刻歴応答を周波数分析することにより、回転構造体の振動解析を行う手段と、
を有する回転構造体の振動解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転構造体の振動解析装置であって、前記すべり軸受の流体力モデルは、浮動ブッシュ軸受のモデルである、回転構造体の振動解析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転構造体の振動解析装置であって、
回転構造体の振動解析モデルは、回転構造体の回転の中心となる中心軸と同軸の複数のはり要素にて作成された振動解析モデルである、
振動解析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の回転構造体の振動解析装置であって、
回転構造体の振動解析モデルは、回転構造体の回転の中心となる中心軸と同軸の複数のはり要素と少なくとも一つの剛体円板要素にて作成された振動解析モデルである、
振動解析装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転構造体の振動解析装置として動作させるためのコンピュータが読み取り可能なプログラム。
【請求項6】
回転構造体の振動を解析する回転構造体に振動解析方法であって、
有限要素法を用いて回転構造体の振動解析モデルを作成する工程と、
前記回転構造体を支持するすべり軸受の流体力モデルを作成する工程と、
運動方程式を解いて、回転構造体の振動と、軸受流体の発生する力との時刻歴応答を算出する工程と、
算出された時刻歴応答を周波数分析することにより回転構造体の振動解析を行う工程と、
を有する回転構造体の振動解析方法。
【請求項1】
回転構造体の振動を解析する回転構造体の振動解析装置であって、
有限要素法を用いて作成された回転構造体の振動解析モデルを取得する手段と、
前記回転構造体を支持するすべり軸受の流体力モデルを取得する手段と、
前記回転構造体の振動解析モデルと前記すべり軸受の流体力モデルから、すべり軸受で支持された回転構造体の運動方程式を導く手段と、
運動方程式を解いて、回転構造体の振動と、軸受流体の発生する力との時刻歴応答を算出する手段と、
算出された時刻歴応答を周波数分析することにより、回転構造体の振動解析を行う手段と、
を有する回転構造体の振動解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転構造体の振動解析装置であって、前記すべり軸受の流体力モデルは、浮動ブッシュ軸受のモデルである、回転構造体の振動解析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転構造体の振動解析装置であって、
回転構造体の振動解析モデルは、回転構造体の回転の中心となる中心軸と同軸の複数のはり要素にて作成された振動解析モデルである、
振動解析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の回転構造体の振動解析装置であって、
回転構造体の振動解析モデルは、回転構造体の回転の中心となる中心軸と同軸の複数のはり要素と少なくとも一つの剛体円板要素にて作成された振動解析モデルである、
振動解析装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転構造体の振動解析装置として動作させるためのコンピュータが読み取り可能なプログラム。
【請求項6】
回転構造体の振動を解析する回転構造体に振動解析方法であって、
有限要素法を用いて回転構造体の振動解析モデルを作成する工程と、
前記回転構造体を支持するすべり軸受の流体力モデルを作成する工程と、
運動方程式を解いて、回転構造体の振動と、軸受流体の発生する力との時刻歴応答を算出する工程と、
算出された時刻歴応答を周波数分析することにより回転構造体の振動解析を行う工程と、
を有する回転構造体の振動解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−128742(P2008−128742A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312247(P2006−312247)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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