説明

回転機の減磁検出装置

【課題】モータジェネレータ10の減磁の有無を適切に判断することのできる回転機の減磁検出装置を提供する。
【解決手段】モータジェネレータ10にエンジン18によって負荷トルクが付与される状況下、モータジェネレータ10の回転速度をその目標値にフィードバック制御するためのモータジェネレータ10への指令トルク(指令モータトルク)に対するエンジン18への指令トルク(指令エンジントルク)の比率に基づき、減磁の有無を判断する減磁検出処理を行う。より詳しくは、指令モータトルク及び指令エンジントルクから算出される減磁率が閾値よりも大きいと判断された場合、減磁が生じている旨判断する処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を備える回転機に適用される回転機の減磁検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に見られるように、3相モータの備える永久磁石の磁束が減少するいわゆる減磁の有無を判断する技術が知られている。詳しくは、この技術は、モータの生成トルクを指令トルクとするための電流フィードバック制御が行われる状況下、モータに印加されるq軸上の指令電圧と基準値との差に基づき、減磁の有無を判断するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−51892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1に記載された技術では、永久磁石の減磁の有無を適切に判断できなくなる事態が生じ得る。詳しくは、例えば、モータの回転速度が低い場合、モータに印加されるq軸上の電圧のうち、モータの誘起電圧が低くなることに起因して、減磁の有無の判断精度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転機の減磁の有無を適切に判断することのできる回転機の減磁検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、永久磁石を備える回転機に適用され、前記回転機に負荷トルクを付与する処理を行うトルク付与処理手段と、前記トルク付与処理手段によって前記回転機に前記負荷トルクが付与される状況下、前記回転機の回転速度をその目標値にフィードバック制御するために要求される操作量について、その実際の値と、前記負荷トルクに応じた基準値とのずれに基づき、前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断する処理を行う減磁判断手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
回転機の回転速度を目標値にフィードバック制御するために要求される操作量は、回転機に付与される負荷トルクに応じたものとなる。ここで、永久磁石の磁束が減少するいわゆる減磁が生じると、上記フィードバック制御するために要求される操作量が当初想定した値からずれる事態が生じる。この点に鑑み、上記発明では、回転機の回転速度を目標値にフィードバック制御するために要求される操作量について、その実際の値と、負荷トルクに応じた基準値とのずれを減磁の有無を判断するためのパラメータとして用いる。これにより、減磁の有無を適切に判断することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記回転機は、車両に備えられる主機回転機であり、前記車両には、前記回転機及び駆動輪の間の動力を伝達又は遮断する動力伝達遮断手段と、前記回転機にトルクを付与するトルク付与装置とが備えられ、前記トルク付与処理手段は、前記トルク付与装置によって前記回転機に前記負荷トルクを付与する処理を行うものであり、前記減磁判断手段は、前記動力伝達遮断手段によって動力が遮断される状況下において、前記判断する処理を行うことを特徴とする。
【0010】
上記発明では、減磁の有無を判断する処理(減磁検出処理)を行う場合において、トルク付与装置によって回転機に負荷トルクを付与している。ここで、減磁検出処理が行われる状況下において回転機及び駆動輪の間の動力が伝達状態とされると、回転機には、トルク付与装置によるトルクに加えて、駆動輪から伝達されるトルクも付与され得る。この場合、回転機に付与される負荷トルクを容易に把握することができなくなる懸念がある。また、上記伝達状態とされる状況下において減磁検出処理を行うと、トルク付与装置や回転機の生成トルクが車両の力行に用いられることに起因した不都合が生じる懸念もある。
【0011】
この点、上記発明では、回転機及び駆動輪の間の動力が遮断される状況下において減磁検出処理を行うため、この処理時における負荷トルクを容易に把握したり、回転機等の生成トルクが車両の力行に用いられることに起因する不都合を回避したりすることができる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記車両には、内燃機関が備えられ、前記トルク付与装置は、前記内燃機関であることを特徴とする。
【0013】
上記発明では、回転機への負荷トルクの付与に内燃機関(例えば車載主機としての内燃機関)を用いるため、回転機への負荷トルクの付与を適切に行うことができる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記内燃機関の出力軸と前記回転機とは機械的に連結され、前記操作量とは、前記回転機への指令トルクであり、前記負荷トルクとは、前記内燃機関の生成トルクであることを特徴とする。
【0015】
上記発明では、減磁の有無を判断するためのパラメータとしての上記ずれの把握に内燃機関の生成トルクを用いることができ、負荷トルクの把握の容易化を図ることができる。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記車両には、さらに、前記内燃機関及び前記回転機の間の動力を伝達又は遮断するクラッチが備えられ、前記減磁判断手段は、前記クラッチが締結状態とされる状況下において、前記判断する処理を行うことを特徴とする。
【0017】
上記発明におけるクラッチは、自身の有する対となる円板状の部材の接触又は離間によって、内燃機関及び回転機の間の動力を伝達又は遮断している。ここで、上記対となる円板状の部材同士の間のすべりが大きくなると、内燃機関の生成トルクの一部が回転機に付与される状態となり、内燃機関によって回転機に付与される負荷トルクを容易に把握することができなくなる懸念がある。
【0018】
この点、上記発明では、クラッチが締結状態とされる状況下において減磁検出処理を行う。ここで、クラッチの締結状態とは、例えば、クラッチの伝達効率が規定値以上である状態のことをいう。こうした上記発明によれば、例えば内燃機関の生成トルクを負荷トルクとして把握できる等、減磁検出処理が行われる場合における負荷トルクを容易に把握することができる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記回転機を、第1の回転機とし、前記車両には、さらに、第2の回転機と、前記内燃機関、前記第1の回転機及び前記第2の回転機の間の動力伝達を可能とする遊星歯車機構とが備えられ、前記第2の回転機は、前記駆動輪と機械的に連結されて且つ、前記遊星歯車機構を介して前記内燃機関及び前記第1の回転機のそれぞれと機械的に連結され、前記動力伝達遮断手段は、前記第2の回転機の回転を禁止させることで前記第1の回転機及び前記駆動輪の間の動力を遮断することを特徴とする。
【0020】
上記発明では、上記構成の車両に備えられる回転機の減磁の有無を適切に判断することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記ずれとは、前記フィードバック制御するために要求される前記回転機への指令トルクに対する前記負荷トルクの比率であることを特徴とする。
【0022】
上記発明では、減磁の有無を判断するためのパラメータを適切に定めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるモータジェネレータの制御処理を示すブロック図。
【図3】同実施形態にかかる減磁検出処理の手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態にかかる減磁検出処理の一例を示すタイムチャート。
【図5】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図6】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図7】同実施形態にかかる動力分割機構の概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる減磁検出装置を、パラレルハイブリッド車両に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0026】
図示されるように、モータジェネレータ10は、車載主機としての3相の電動機兼発電機であり、変速装置12及びデファレンシャルギア14を介して駆動輪16に機械的に連結されている。詳しくは、モータジェネレータ10は、永久磁石同期モータ(例えば埋め込み磁石同期モータ)である。なお、モータジェネレータ10付近には、モータジェネレータ10の回転角度(電気角)を検出する回転角度センサ17(例えばレゾルバ)が設けられている。
【0027】
変速装置12は、クラッチ機構12aと、変速装置12内の油圧を調節する図示しない電磁駆動式のアクチュエータとを備えて構成され、モータジェネレータ10の回転速度を変速比に応じた回転速度に変換する機能等を有している。なお、本実施形態では、変速装置12として、自動変速装置を想定している。
【0028】
クラッチ機構12aは、モータジェネレータ10及び駆動輪16の間の締結状態及び解除状態を切り替えることで、モータジェネレータ10及び駆動輪16の間の動力の伝達及び遮断を切り替える電子制御式の動力伝達遮断手段である。詳しくは、クラッチ機構12aは、対となる円板状の部材(クラッチディスク等)等を有する摩擦クラッチであり、上記アクチュエータの通電操作によって対となる円板状の部材が接触又は離間することで、モータジェネレータ10及び駆動輪16の間の動力の伝達及び遮断を切り替える。
【0029】
なお、上記締結状態とは、例えばクラッチ機構12aの伝達効率が規定値以上となる状態のことである。本実施形態では、伝達効率が「1」とされる状態を締結状態であるとする。すなわち、締結状態とは、クラッチ機構12aの入力トルク及び出力トルク同士が同一であって且つクラッチ機構12aの入力側回転速度及び出力側回転速度同士が同一である状態のことをいう。
【0030】
上記モータジェネレータ10には、車載主機としてのエンジン18の出力軸(クランク軸20)が機械的に連結されている。具体的には、クランク軸20とモータジェネレータ10の出力軸とは同一軸で接続されている。このため、クランク軸20の回転速度(エンジン回転速度)は、モータジェネレータ10の回転速度と同一となる。なお、クランク軸20付近には、クランク軸20の回転角度を検出するクランク角度センサ22が設けられている。
【0031】
モータジェネレータ10の各相は、インバータ24を介して直流電源としての蓄電池(高電圧バッテリ26)に接続されている。高電圧バッテリ26は、端子電圧が例えば百V以上となるものである。なお、高電圧バッテリ26としては、例えば、リチウムイオン蓄電池や、ニッケル水素蓄電池を採用することができる。
【0032】
インバータ24は、図示しない一対のスイッチング素子(例えばIGBT)の直列接続体を3組備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。なお、インバータ24付近には、モータジェネレータ10のV相,W相を流れる電流iv,iwを検出する電流センサ28,30と、インバータ24の入力電圧(電源電圧VINV)を検出する電圧センサ32とが設けられている。
【0033】
モータ制御装置(MGECU34)は、モータジェネレータ10の制御量を所望に制御すべく、インバータ24等を通電操作する制御装置である。MGECU34は、電流センサ28,30、電圧センサ32、更には回転角度センサ17の検出信号等を逐次入力し、これら入力信号に基づき、インバータ24やクラッチ機構12aを通電操作する。
【0034】
なお、変速装置12(クラッチ機構12a)は、実際にはMGECU34とは別の制御装置によって操作されるが、ここではこれら制御装置を合わせてMGECU34と表記している。
【0035】
エンジン制御装置(EGECU36)は、エンジン18の燃焼制御等に必要な各種アクチュエータを操作する制御装置である。EGECU36は、エンジン18の燃焼室に供給される吸気量を検出するエアフローメータ38や、クランク角度センサ22の検出信号等を逐次入力し、これら入力信号に基づき、図示しない燃料噴射弁による燃料噴射制御等、エンジン18の燃焼制御を行う。詳しくは、EGECU36は、エンジン18の生成トルクをその指令値(指令エンジントルク)に制御すべく上記燃焼制御を行う。
【0036】
なお、エンジン18の生成トルクは、例えば、エアフローメータ38の出力値から算出される吸気量と、クランク角度センサ22の出力値から算出されるエンジン回転速度とに基づき算出すればよい。より具体的には、吸気量及びエンジン回転速度と関係づけられたエンジン18の生成トルクが規定されるマップを用いて算出すればよい。
【0037】
ハイブリッド制御装置(HVECU40)は、MGECU34及びEGECU36よりも上位(アクセルペダル等のユーザインターフェースから入力されるユーザの要求からみて上流側)の制御装置である。HVECU40は、ユーザのアクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ42の検出信号や、ユーザによって携帯されて且つ車両ドアの施錠・解錠用の信号等を出力する携帯機43の出力信号等を入力する。そして、HVECU40は、入力信号に基づき、モータジェネレータ10やエンジン18の制御量の指令値を算出する。本実施形態では、モータジェネレータ10の制御量の指令値を、モータジェネレータ10の生成トルクの指令値(指令モータトルク)とし、エンジン18の制御量の指令値を、上記指令エンジントルクとする。そして、MGECU34に対して指令モータトルクを出力し、EGECU36に対して指令エンジントルクを出力する。こうした指令信号により、例えば、車両の主な走行動力源をエンジン18としつつ、補助的な走行動力源としてモータジェネレータ10が用いられたり、エンジン18のみが走行動力源として用いられたりする。
【0038】
なお、HVECU40は、MGECU34及びEGECU36のそれぞれと互いに双方向通信が可能とされている。
【0039】
次に、図2を用いて、MGECU34の行うモータジェネレータ10の制御量の制御に関する処理について説明する。
【0040】
図示されるように、2相変換部B1は、回転角度センサ17の検出値θと、電流センサ28,30によるV相,W相電流の検出値iv,iwに基づき、モータジェネレータ10の各相を流れる電流iu,iv,iwを、回転2相座標系の実電流であるd軸上の実電流(d軸実電流Idr)と、q軸上の実電流(q軸実電流Iqr)とに変換する。なお、これら実電流の変換の際に用いられるモータジェネレータ10のU相を流れる電流iuは、V相,W相を流れる電流の検出値iv,iwに基づき算出する。
【0041】
指令電流設定部B2は、モータジェネレータ10の生成トルクを指令モータトルクTm*とするための回転2相座標系の電流の指令値であるd軸上の指令電流(d軸指令電流Id*)と、q軸上の指令電流(q軸指令電流Iq*)とを設定する。ここでは、モータジェネレータ10の生成トルクTが、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、d軸の電流id、q軸の電流iq、電機子鎖交磁束定数φ及び極対数Pを用いると、以下の式(e1)となることが利用される。
T=P{φ・iq+(Ld−Lq)id・iq} …(e1)
ちなみに、d軸指令電流Id*,q軸指令電流Iq*は、例えば、指令モータトルクTm*と関係付けられたこれら指令電流Id*,Iq*が規定されるマップ(電流指令マップ)を用いて算出すればよい。
【0042】
d軸電流比較部B3は、d軸指令電流Id*とd軸実電流Idrとの偏差ΔIdを算出する。ここで、上記偏差ΔIdは、d軸指令電流Id*からd軸実電流Idrを減算した値である。
【0043】
d軸フィードバック演算部B4は、上記偏差ΔIdに基づく比例積分制御(PI制御)によってd軸上の指令電圧Vd*を設定する。
【0044】
q軸電流比較部B5は、q軸指令電流Iq*とq軸実電流Iqrとの偏差ΔIqを算出する。ここで、上記偏差ΔIqは、q軸指令電流Iq*からq軸実電流Iqrを減算した値である。
【0045】
q軸フィードバック演算部B6は、上記偏差ΔIqに基づく比例積分制御(PI制御)によってq軸上の指令電圧Vq*を設定する。
【0046】
3相変換部B7は、回転角度センサ17の検出値θ及び電圧センサ32の検出値VINVに基づき、指令電圧Vd*,Vq*を、3相の固定座標系の指令電圧であるU相の指令電圧Vu*,V相の指令電圧Vv*,W相の指令電圧Vw*に変換する。
【0047】
PWM変調部B8は、インバータ24の3相の出力電圧を指令電圧Vu*,Vv*,Vw*を模擬した電圧とするためのPWM信号(インバータ24の備えるスイッチング素子を操作する操作信号)を生成する。ここでは、例えば、指令電圧Vu*,Vv*,Vw*をインバータ24の入力電圧VINVによって規格化したものと、三角波形状のキャリアとの大小比較結果をPWM信号とすればよい。そして、生成されたPWM信号をインバータ24に出力する。
【0048】
ところで、モータジェネレータ10の備える永久磁石の磁束が減少するいわゆる減磁が生じ得る。減磁が生じると、電機子鎖交磁束定数φが、指令電流設定部B2の設定において想定されたものよりも小さくなる。このような状況下においては、d軸実電流Idr,q軸実電流Iqrをd軸指令電流Id*,q軸指令電流Iq*に制御できたとしても、モータジェネレータ10の実際の生成トルクが指令モータトルクTm*よりも小さくなる。
【0049】
特に、永久磁石の基準となる磁束(例えば新品の永久磁石の磁束)に対する磁束の減少量である減磁量が大きくなる場合には、モータジェネレータ10の生成トルクの低下が顕著となってモータジェネレータ10の効率が低下する等の不都合が生じるおそれがある。
【0050】
こうした問題を解決すべく、本実施形態では、モータジェネレータ10の減磁の有無を判断する減磁検出処理を行う。
【0051】
上記減磁検出処理は、モータジェネレータ10に負荷トルクが付与される状況下、回転角度センサ17の検出値から算出されるモータジェネレータ10の回転速度(実モータ回転速度)をその目標値(指令モータ回転速度)にフィードバック制御(回転速度FB制御)するために要求される指令モータトルクTm*に対する上記負荷トルクの比率(指令トルク比)に基づき、永久磁石の磁束の減少の有無を判断する処理となる。ここで、本実施形態では、上記負荷トルクをエンジン18によって付与する。
【0052】
上記減磁検出処理による減磁の検出原理について説明すると、上記回転速度FB制御が行われる場合、この制御によって負荷トルクとは逆方向のトルクであって且つ負荷トルクに見合ったトルクが指令モータトルクTm*として定められることとなる。ここで、減磁が生じると、上述したように、モータジェネレータ10に所定トルクを生成させるために要求される指令電流(例えばq軸指令電流Iq*)が増大する傾向にあり、これにより指令モータトルクTm*が増大する傾向にある。このため、回転速度FB制御が行われる状況下、負荷トルクに見合ったトルクをモータジェネレータ10に生成させるために要求される指令モータトルクTm*が増大する。換言すれば、減磁量が大きくなると、指令モータトルクTm*に対する負荷トルクのずれ量が大きくなり、さらに換言すれば、上記指令トルク比の絶対値が小さくなる。したがって、減磁量と相関のある指令トルク比を用いることで、減磁の有無を判断することができる。
【0053】
ここで、回転速度FB制御が行われる場合の指令モータトルクTm*は、回転速度制御部B9及び切替部B10を介して指令電流設定部B2に入力される。
【0054】
詳しくは、回転速度制御部B9は、まず、実モータ回転速度Nmrと、指令モータ回転速度Nm*との偏差ΔNmを算出する。ここで、上記偏差ΔNmは、指令モータ回転速度Nm*から実モータ回転速度Nmrを減算した値である。そして、上記偏差ΔNmに基づく比例積分制御(PI制御)によって指令モータトルクTm*を算出する。ちなみに、指令モータ回転速度Nm*としては、例えば、MGECU34内のメモリ(不揮発性メモリ)に予め記憶される値を採用したり、HVECU40から入力される値を採用したりすることができる。
【0055】
切替部B10は、指令電流設定部B2に出力する指令モータトルクTm*を、通常時における指令モータトルクTm*、又は減磁検出処理時における指令モータトルクTm*のいずれかに切り替える。詳しくは、HVECU40からの減磁検出処理の実行指示がなされたと判断された場合、減磁検出処理時における指令モータトルクTm*に切り替える。
【0056】
ちなみに、減磁検出処理は、例えば、停車中であるとの条件を含む所定の実行条件が成立したとHVECU40が判断した場合に、HVECU40からMGECU34へと減磁検出処理の実行指示がなされることで行われる。ここで、所定の実行条件としては、停車中であるとの条件以外に、例えば、HVECU40を起動させるための指令信号(ECUウェークアップ信号)が入力されたとの条件を採用することができる。このウェークアップ信号は、例えば、携帯機43からのドア解錠指示信号や、車両のドアの開操作がなされた旨の信号、更にはユーザの運転席への着座がなされた旨の信号を採用することができる。
【0057】
図3に、本実施形態にかかる減磁検出処理の手順を示す。この処理は、MGECU34によって実行される。
【0058】
この一連の処理では、まずステップS10において、クラッチ機構12aによってモータジェネレータ10及び駆動輪16の間の動力が遮断されているか否かを判断する。この処理は、減磁検出処理が行われる状況下においてモータジェネレータ10に付与される負荷トルクを容易に把握したり、減磁検出処理の実行に起因するユーザの意図しない発車を回避したりするための処理である。
【0059】
上記負荷トルクの把握の容易化について説明すると、例えば車両が走行中であって且つモータジェネレータ10及び駆動輪16の間の動力が伝達される状況であると、エンジン18の生成トルクに加えて、駆動輪16からのトルクが負荷トルクとしてモータジェネレータ10に印加されることとなる。ここで、減磁検出処理においては、上記負荷トルクの値を把握する必要があることから、駆動輪16からモータジェネレータ10に伝達されるトルク(駆動輪伝達トルク)を把握することが要求される。しかしながら、この場合、駆動輪伝達トルクの算出のための新たな処理が必要となったり、駆動輪伝達トルクの算出のための新たなセンサ等が必要となったりする等の不都合が生じることが懸念される。こうした事態を回避すべく、本ステップの処理を設ける。これにより、上記負荷トルクをエンジン18の生成トルクとして容易に把握することが可能となる。
【0060】
なお、本実施形態では、停車中であると判断された場合、クラッチ機構12aによってモータジェネレータ10及び駆動輪16の間の動力が遮断される処理が行われることとする。すなわち、HVECU40からの減磁検出処理の実行指示がなされる状況下においては、モータジェネレータ10及び駆動輪16の間の動力が遮断されている。
【0061】
ステップS10において肯定判断された場合には、ステップS12に進み、指令モータ回転速度Nm*を設定する。ここで、本実施形態では、指令モータ回転速度Nmが、予め定められた固定値(例えば1000rpm)とされ、より詳しくは、絶対値が0よりも大きい固定値とされる。
【0062】
続くステップS14では、回転速度FB制御モードに移行する。すなわち、先の図2の回転速度制御部B9によって算出された指令モータトルクTm*を指令電流設定部B2に入力させるように切替部B10にて切替処理がなされる。
【0063】
続くステップS16では、指令エンジントルクTe*をHVECU40を介してEGECU36に出力する。本実施形態では、指令エンジントルクTe*が、予め定められた固定値(例えば50Nm)とされ、より詳しくは、絶対値が0よりも大きい固定値とされる。本ステップの処理の実行により、エンジン18の生成トルクを指令エンジントルクTe*に制御すべくエンジン18の燃焼制御が開始される。そして、燃焼制御の開始に伴って、実モータ回転速度Nmrを指令モータ回転速度Nmにフィードバック制御すべく、エンジン18によってモータジェネレータ10に付与される負荷トルクの向きとは逆方向のトルクがモータジェネレータ10によって生成されることとなる。なお、実モータ回転速度Nmrが指令モータ回転速度Nm*に収束する場合には、上記負荷トルクの絶対値及びモータジェネレータ10の生成トルクの絶対値が略同一となる。
【0064】
続くステップS18では、以下の条件(A)〜(C)の論理積が真であるか否かを判断する。これら条件は、減磁の有無の判断精度を向上させるために設定される。
【0065】
(A)実モータ回転速度Nmrが安定したとの条件:ここで、実モータ回転速度Nmrが安定したか否かは、例えば、実モータ回転速度Nmrと指令モータ回転速度Nm*との差の絶対値が規定値以下となる状態が規定時間継続されているか否かで判断すればよい。
【0066】
(B)エンジン18に異常が生じていないとの条件:ここで、エンジン18に異常が生じていないか否かは、例えば、エンジン18の生成トルクと指令エンジントルクTe*との差の絶対値が規定値以下であるか否かに基づき判断すればよい。
【0067】
(C)インバータ24に異常が生じていないとの条件:ここで、インバータ24に異常が生じていないか否かは、例えば、実電流Idr,Iqrと指令電流Id*,Iq*との差の絶対値が規定値以下であるか否かに基づき判断すればよい。
【0068】
ステップS18において肯定判断された場合には、ステップS20に進み、減磁率を算出する。本実施形態では、減磁率を、規定値α(>0)を用いて下式(e2)によって算出する。
減磁率=1−(|Te*/Tm*|)/α …(e2)
上記減磁率は、減磁量が大きいほど「1」に漸近し、減磁量が小さいほど「0」に漸近することとなる。これは、減磁量が大きいほど、指令モータトルクTm*の絶対値よりも指令エンジントルクTe*の絶対値が小さくなって上記指令トルク比の絶対値が「0」に漸近し、一方、減磁量が小さいほど、上記指令トルク比の絶対値が「1」に漸近するためである。
【0069】
ちなみに、上記規定値αは、エンジン18の生成トルクをモータジェネレータ10への入力トルクに変換するための係数である。本実施形態では、クランク軸20とモータジェネレータ10とが同一軸で連結されているため、クランク軸20に対するモータジェネレータ10の回転速度比が「1」となることから、規定値αが「1」とされる。また、上式(e2)中の指令モータトルクTm*が、回転速度FB制御するために要求される操作量の実際の値に相当し、上式(e2)中の指令エンジントルクTe*が、回転速度FB制御するために要求される操作量の負荷トルクに応じた基準値に相当する。
【0070】
続くステップS22では、減磁率が閾値β(0<β<1)よりも大きいか否かを判断する。この処理は、減磁の有無を判断するための処理である。なお、上記閾値βは、減磁量が大きくなることに起因するモータジェネレータ10の信頼性の低下を回避する観点から設定すればよい。
【0071】
ステップS22において肯定判断された場合には、減磁が生じた旨判断し、ステップS24に進む。ステップS24では、減磁が生じた旨を外部に通知するフェール処理を行う。ここで、フェール処理としては、例えば、車両に備えられる警告灯を点灯させる等、その旨をユーザに通知する処理とすればよい。
【0072】
なお、上記ステップS10、S18、S22において否定判断された場合や、ステップS24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0073】
図4に、本実施形態にかかる減磁検出処理の一例を示す。詳しくは、図4(a)に、実モータ回転速度Nmr及び指令モータ回転速度Nm*の推移を示し、図4(b)に、指令モータトルクTm*及び指令エンジントルクTe*の推移を示す。なお、図中、時刻t1以前において、回転速度FB制御が開始されている。また、時刻t1以前において、エンジン18からの負荷トルクやモータジェネレータ10の生成トルクが無いにもかかわらず、実モータ回転速度Nmrが指令モータ回転速度Nm*(1000rpm)に維持されているのは、モータジェネレータ10の回転に伴うフリクションロス等が非常に小さいためである。
【0074】
まず、減磁が生じていない場合について説明する。
【0075】
図示されるように、時刻t1において、エンジン18の生成トルクを指令エンジントルクTe*(50Nm)に制御すべくエンジン18の燃焼制御が開始されることで、回転速度FB制御によって指令モータトルクTm*の絶対値が増大される。その後、上記条件(A)〜(C)の論理積が真であると判断される時刻t2において、指令エンジントルクTe*が50Nmに設定される状況下、回転速度FB制御における実際の指令モータトルクTm*が「−50Nm」となる。このため、上式(e2)から減磁率は「0」(0%)となる。
【0076】
これに対し、減磁が生じている場合には、時刻t2において、実際の指令モータトルクTm*が「−71Nm」となっている。このため、上式(e2)から減磁率は約「0.295」(約30%)となる。
【0077】
このように、本実施形態では、上記減磁検出処理によってモータジェネレータ10の減磁の有無を適切に判断することができる。
【0078】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0079】
(1)モータジェネレータ10にエンジン18から負荷トルクが付与される状況下、上式(e2)にて表される減磁率が閾値βよりも大きいと判断された場合、減磁が生じている旨判断した。これにより、減磁の有無を適切に判断することができる。
【0080】
さらに、減磁の有無の判断に、指令エンジントルクTe*及び指令モータトルクTm*から算出される減磁率を用いた。このため、減磁の有無の判断に用いるパラメータの数を、例えば特開2005−51892号公報(特に段落「0057」)に記載されている技術で用いられるパラメータの数よりも少なくすることができる。これにより、減磁検出処理に伴うMGECU34の演算負荷の増大を好適に抑制することなどもできる。
【0081】
(2)クラッチ機構12aによってモータジェネレータ10及び駆動輪16の間の動力が遮断される状況下において、減磁検出処理を行った。これにより、減磁検出処理時における負荷トルクを容易に把握することができる。
【0082】
(3)上記条件(A)〜(C)の論理積が真であると判断された場合、減磁検出処理を行った。これにより、減磁の有無の判断精度を向上させることができる。
【0083】
(4)減磁が生じている旨判断された場合、その旨をユーザに通知するフェール処理を行った。これにより、ユーザにその後の対応を適切にとらせることができ、モータジェネレータ10の信頼性が低下した状態で、継続して車両が使用されることを回避することなどができる。
【0084】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0085】
図5に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図5において、先の図1に示した部材と同一の部材については、便宜上同一の符号を示している。
【0086】
図示されるように、エンジン18のクランク軸20は、クラッチ44を介してモータジェネレータ10に機械的に連結されている。クラッチ44は、エンジン18及びモータジェネレータ10の間の締結状態及び解除状態を切り替えることで、エンジン18及びモータジェネレータ10の間の動力の伝達及び遮断を切り替える電子制御式の動力伝達遮断手段である。なお、クラッチ44は、基本的にはクラッチ機構12aと同様の構造を有する。また、クラッチ44は、MGECU34によって通電操作される。
【0087】
ここで、本実施形態では、減磁検出処理を行う場合、クラッチ44によってエンジン18及びモータジェネレータ10の間を締結状態とする。これにより、モータジェネレータ10に付与される負荷トルクをエンジン18の生成トルクとして把握することができる。すなわち、負荷トルクの把握の容易化を図ることができる。
【0088】
これに対し、クラッチ44の伝達効率が低く、クラッチ44の有する対となる円板状の部材同士のすべりが大きい等、クラッチ44によってエンジン18及びモータジェネレータ10の間が締結状態とされない場合、負荷トルクの把握の容易化を図ることができないおそれがある。これは、上記締結状態とされない場合には、エンジン18の生成トルクのうちクラッチ44のトルク伝達容量に見合ったトルクがモータジェネレータ10に付与される負荷トルクとなることから、クラッチ44の操作状態に応じて変化するクラッチ44のトルク伝達容量を都度把握する必要が生じるからである。
【0089】
このように、本実施形態では、上記構成の車両に搭載されるモータジェネレータ10の減磁の有無を適切に判断することができる。
【0090】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0091】
本実施形態では、減磁検出装置を、パラレルシリーズハイブリッド車両(スプリット方式のハイブリッド車両)に適用する。
【0092】
図6に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図6において、先の図1に示した部材と同一の部材については、便宜上同一の符号を示している。
【0093】
図示されるように、車両には、エンジン18に加えて、さらに、発電機兼電動機である第1のモータジェネレータ46及び第2のモータジェネレータ48と、動力分割機構50とが備えられている。
【0094】
第2のモータジェネレータ48は、動力分割機構50の有するリングギアRと機械的に連結されて且つ、デファレンシャルギア14を介して駆動輪16に機械的に連結されており、エンジン18とともに車両の走行動力源としての機能を有する。
【0095】
動力分割機構50は、互いに連動して回転する回転体であって且つ、エンジン18、第1のモータジェネレータ46及び第2のモータジェネレータ48間で互いに動力伝達を可能とする複数の動力伝達用回転体を備えている。詳しくは、動力分割機構50は、1つの遊星歯車機構によって構成されており、そのサンギアSに第1のモータジェネレータ46が機械的に連結され、キャリアCにエンジン18のクランク軸20が機械的に連結され、リングギアRに第2のモータジェネレータ48が機械的に連結されている。
【0096】
こうした構成によれば、クランク軸20及びキャリアCは同一の回転速度で回転し、第1のモータジェネレータ46及びサンギアSは同一の回転速度で回転し、更には第2のモータジェネレータ48及びリングギアRは同一の回転速度で回転する。また、第1のモータジェネレータ46、クランク軸20(エンジン18)及び第2のモータジェネレータ48の回転速度の順に、これら回転速度が共線図上において一直線上に並ぶこととなる。
【0097】
第1のモータジェネレータ46は、エンジン18を動力供給源とする発電機の機能及びエンジン18の始動時においてクランク軸20に初期回転を付与するための電動機の機能等を有するものである。
【0098】
上記車両には、さらに、ユーザのブレーキ操作によって駆動輪16を含む車輪に制動力を付与する電子制御式のブレーキ装置52が設けられている。
【0099】
MGECU34は、第1のモータジェネレータ46及び第2のモータジェネレータ48の制御量を所望に制御すべくインバータ24等を通電操作する。また、HVECU40は、ブレーキ装置52等を通電操作する。
【0100】
次に、図7を用いて、本実施形態にかかる減磁検出処理について説明する。
【0101】
図7は、動力分割機構50のサンギアS、キャリアC及びリングギアRの回転速度の共線図である。なお、図中、矢印は、トルクの向きを示すものである。トルクの向きは、回転速度と同様、図中上側を正としており、これにより、動力分割機構50に動力が入力される場合の動力の符号を正と定義している。また、本実施形態では、減磁検出処理の適用対象を第1のモータジェネレータ46とする。
【0102】
まず、先の図2のステップS10に相当する処理として、本実施形態では、ブレーキ装置52の制動力を車輪に付与することによって第2のモータジェネレータ48(リングギアR)の回転を禁止させる(ロックさせる)処理を行う。詳しくは、ロックさせる旨の指令信号をMGECU34からHVECU40に出力する処理を行う。これにより、第2のモータジェネレータ48の回転速度が0に固定され、第2のモータジェネレータ48及び駆動輪16の間の動力が遮断される。
【0103】
次に、エンジン18によって第1のモータジェネレータ46に負荷トルクが付与される状況下、回転速度FB制御によって第1のモータジェネレータ46の実モータ回転速度Nmrを指令モータ回転速度Nm*に制御する。
【0104】
ここで、減磁率の算出に用いる上記規定値αを、リングギアRの歯数Zrに対するサンギアSの歯数Zsの比ρ(Zs/Zr)を用いて下式(e3)によって定める。
α=(1+ρ)/ρ …(e3)
この規定値αの設定は、動力分割機構50を介して動力伝達が行われる状況下におけるサンギアSのトルクTs、キャリアCのトルクTc及びリングギアRのトルクTrの関係に、下式(e4)によって表現される比例関係があることに基づくものである。
Tr:Tc:Ts=1:{−(1+ρ)}:ρ …(e4)
このように、本実施形態では、上記構成の車両に搭載される第1のモータジェネレータ46の減磁の有無を適切に判断することができる。
【0105】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0106】
・上記各実施形態では、減磁検出処理をMGECU34が行うこととしたがこれに限らない。例えば、この処理を、HVECU40が行うこととしてもよい。この場合、減磁検出処理に必要な演算情報(回転角度センサ17の検出値等)をMGECU34から取得することとなる。
【0107】
・減磁の有無を判断するためのパラメータ(回転速度FB制御するために要求される操作量について、その実際の値と、負荷トルクに応じた基準値とのずれ)としては、上記第1の実施形態に例示したもの(減磁率)に限らない。例えば、指令トルク比の絶対値「|Te*/Tm*|」を用いてもよい。この場合、上述したように、指令トルク比の絶対値は、減磁量が大きいほど0に漸近し、減磁量が小さいほど1に漸近することから、指令トルク比の絶対値が規定量以下になると判断された場合、減磁が生じている旨判断すればよい。
【0108】
また、例えば、上記パラメータとして、d軸指令電流Id*を0としつつ上記回転速度FB制御を行う場合において、実際のq軸指令電流Iq*と、指令エンジントルクTe*に見合ったトルクを生成するために要求されるq軸指令電流とのずれを用いてもよい。これは、減磁量が大きいほど、回転速度FB制御が行われる場合におけるq軸指令電流Iq*の絶対値が大きくなる傾向にあることに鑑みたものである。以下、指令電流を用いた減磁の有無の判断手法について説明する。
【0109】
まず、減磁が生じていないモータジェネレータ10が、負荷トルクに見合ったトルクを生成するために要求されるq軸指令電流Iq*(閾値電流)を算出する。ここで、閾値電流は、例えば、負荷トルクと関係付けられた閾値電流が規定されるマップを用いて設定すればよい。
【0110】
次に、実際のq軸指令電流Iq*に対する閾値電流の比率である電流比率を算出する。ここで、電流比率は、減磁量が大きいほど「0」に漸近し、減磁量が小さいほど「1」に漸近するパラメータである。そして、電流比率が所定値以下であると判断された場合に、減磁が生じている旨判断する。
【0111】
さらに、例えば、上記パラメータとしては、指令エンジントルクTe*と指令モータトルクTm*との差を用いてもよい。この場合、例えば、上記差の絶対値が規定値を上回ると判断された場合、減磁が生じている旨判断すればよい。
【0112】
・上記第1の実施形態において、先の図2のステップS18における条件(B)が成立しないと判断された場合、減磁率の算出に際し、指令エンジントルクTe*に代えて、エンジン18の実際の生成トルクを用いる制御ロジックを採用してもよい。
【0113】
・上記各実施形態では、停車中であることを条件として減磁検出処理を行ったがこれに限らない。例えば、車両の走行中において減磁検出処理を行ってもよい。
【0114】
具体的には、例えば、上記第1の実施形態の車両構成を用いて説明すると、車両が一定速度で走行中であるとの条件、及びエンジン18の生成トルクが一定であるとの条件の論理積が真であると判断された場合、減磁検出処理を行えばよい。なお、この場合、車両走行のためにクラッチ機構12aによってモータジェネレータ10及び駆動輪16の間が締結状態とされていることから、先の図2のステップS10の処理は不要となる。
【0115】
なお、こうした車両の走行中における減磁検出処理を、上記第3の実施形態の第1のモータジェネレータ46に適用することもできる。
【0116】
また、車両の走行中の減磁検出処理における回転機への負荷トルクとしては、エンジン18の生成トルクに限らない。例えば、上記第1の実施形態において、車両が一定速度で走行中であるとの条件、及びエンジン18のトルク生成指示がなされない(燃料噴射弁からの燃料の噴射を停止させる燃料カット制御の実行中である)との条件の論理積が真であると判断された場合、駆動輪16からモータジェネレータ10に付与されるトルク(上記駆動輪伝達トルク)を負荷トルクとして用いてもよい。この場合、駆動輪伝達トルクを、例えば、車両の走行速度、路面傾斜角及び車両の重量等に基づき算出すればよい。そして、減磁率の算出に際し、指令エンジントルクTe*に代えて、駆動輪伝達トルクを用いればよい。
【0117】
ちなみに、車両の走行中における減磁検出処理は、例えば外部情報取得手段(例えばナビゲーション装置)によって取得された情報(例えば道路情報)に基づき、車両がしばらく平坦路を走行する蓋然性が高いと判断される状況下において行われるのが望ましい。
【0118】
・上記第3の実施形態において、上述した車両の走行中における減磁検出処理を用いれば、第2のモータジェネレータ48の減磁の有無を判断することができる。なお、この場合、第2のモータジェネレータ48への負荷トルクの供給源を駆動輪16とすべく、第1のモータジェネレータ46及びエンジン18のうち少なくとも1つの生成トルクを0とする。
【0119】
・永久磁石の温度によって減磁量が変化することに鑑み、上記第1の実施形態において、永久磁石の温度に基づき上記閾値βを可変設定してもよい。
【0120】
・上記第1の実施形態において、クランク角度センサ22を設けない構成としてもよい。この場合、EGECU36は、HVECU40を介して取得される回転角度センサ17の検出値に基づき、エンジン回転速度を算出すればよい。
【0121】
・上記第1の実施形態において、d軸上の指令電圧Vd*,q軸上の指令電圧Vq*を、例えば比例積分微分制御(PID制御)によって算出してもよい。
【0122】
・モータジェネレータ10に負荷トルクを付与する装置としては、上記第1の実施形態に例示したもの(エンジン18)に限らない。例えば、さらに電動機を備え、これを用いてもよい。
【0123】
・本願発明が適用される車両としては、上記各実施形態に例示したものに限らず、例えば車載主機として回転機のみを備える電気自動車(EV)であってもよい。この場合、上記回転機に負荷トルクを付与する装置を更に設ける構成とすればよい。また、本願発明の適用対象としては、車両に限らない。
【符号の説明】
【0124】
10…モータジェネレータ、12a…クラッチ機構、16…駆動輪、18…エンジン、24…インバータ、34…MGECU(回転機の減磁検出装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を備える回転機に適用され、
前記回転機に負荷トルクを付与する処理を行うトルク付与処理手段と、
前記トルク付与処理手段によって前記回転機に前記負荷トルクが付与される状況下、前記回転機の回転速度をその目標値にフィードバック制御するために要求される操作量について、その実際の値と、前記負荷トルクに応じた基準値とのずれに基づき、前記永久磁石の磁束の減少の有無を判断する処理を行う減磁判断手段とを備えることを特徴とする回転機の減磁検出装置。
【請求項2】
前記回転機は、車両に備えられる主機回転機であり、
前記車両には、前記回転機及び駆動輪の間の動力を伝達又は遮断する動力伝達遮断手段と、前記回転機にトルクを付与するトルク付与装置とが備えられ、
前記トルク付与処理手段は、前記トルク付与装置によって前記回転機に前記負荷トルクを付与する処理を行うものであり、
前記減磁判断手段は、前記動力伝達遮断手段によって動力が遮断される状況下において、前記判断する処理を行うことを特徴とする請求項1記載の回転機の減磁検出装置。
【請求項3】
前記車両には、内燃機関が備えられ、
前記トルク付与装置は、前記内燃機関であることを特徴とする請求項2記載の回転機の減磁検出装置。
【請求項4】
前記内燃機関の出力軸と前記回転機とは機械的に連結され、
前記操作量とは、前記回転機への指令トルクであり、
前記負荷トルクとは、前記内燃機関の生成トルクであることを特徴とする請求項3記載の回転機の減磁検出装置。
【請求項5】
前記車両には、さらに、前記内燃機関及び前記回転機の間の動力を伝達又は遮断するクラッチが備えられ、
前記減磁判断手段は、前記クラッチが締結状態とされる状況下において、前記判断する処理を行うことを特徴とする請求項4記載の回転機の減磁検出装置。
【請求項6】
前記回転機を、第1の回転機とし、
前記車両には、さらに、第2の回転機と、前記内燃機関、前記第1の回転機及び前記第2の回転機の間の動力伝達を可能とする遊星歯車機構とが備えられ、
前記第2の回転機は、前記駆動輪と機械的に連結されて且つ、前記遊星歯車機構を介して前記内燃機関及び前記第1の回転機のそれぞれと機械的に連結され、
前記動力伝達遮断手段は、前記第2の回転機の回転を禁止させることで前記第1の回転機及び前記駆動輪の間の動力を遮断することを特徴とする請求項3記載の回転機の減磁検出装置。
【請求項7】
前記ずれとは、前記フィードバック制御するために要求される前記回転機への指令トルクに対する前記負荷トルクの比率であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転機の減磁検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−1185(P2013−1185A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132215(P2011−132215)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】