説明

回転機械の部品及び回転機械

【課題】シリカ、酸化鉄その他の微粒子を含む気体を取り扱う回転機械において、ローター等の回転する部品に付着する微粒子の量を抑制すること。
【解決手段】この動翼23は、表面に被覆層10が形成される。この被覆層10は、動翼23の基材1の表面に形成される溶射層2と、この溶射層2の表面に形成されるフッ素樹脂層5とを含む。そして、溶射層2は、内部に複数の気孔2aを有する。また、フッ素樹脂層5は、フッ素樹脂4が無機物3を含有するとともに、無機物3はフッ素樹脂4の表面から露出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン、圧縮機等の回転機械に関し、さらに詳しくは、微粒子を含む気体が動翼や静翼等の部品に接触した場合に、微粒子の付着を抑制できる回転機械の部品及び回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンは、作動流体である蒸気がタービンの動翼に噴射されて駆動される。蒸気タービンが備える動翼や静翼等の部品は、直接蒸気と接触する。また、化学プラント等で各種のガスを圧縮する圧縮機は、外部から動力を与えられてインペラが回転し、前記ガスを圧縮する。このような圧縮機では、インペラやデフューザー等の部品が直接ガスに接触する。
【0003】
蒸気タービンの作動流体である蒸気や、圧縮機の圧縮対象気体である各種ガスには、これらに含まれる微粒子状のシリカ、酸化鉄、あるいはハイドロカーボン等の微粒子が含まれている。前記動翼やインペラ等は、直接蒸気や各種ガスに接触するので、前記微粒子が動翼やインペラ等に付着して、効率が低下するという問題があった。この対策として、特許文献1には、蒸気タービンの動翼や圧縮機のインペラ等に、フッ素樹脂の防食コーティングを施す技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−40506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蒸気タービンの動翼や圧縮機のインペラは回転するため、回転による遠心力の作用によって被覆層の耐久性が不十分となる。このため、蒸気タービンの動翼や圧縮機のインペラその他の回転する部品に対する防食コーティングには改善の余地がある。そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、シリカ、酸化鉄その他の微粒子を含む気体を取り扱う回転機械において、気体中に含まれる微粒子の付着を効果的に抑制するとともに、被覆層の耐久性低下を抑制できる回転機械の部品及び回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る回転機械の部品は、回転体に用いられ、かつ微粒子を含む気体が接触する構造体であって、前記構造体の表面に形成され、かつ内部に複数の気孔を有する溶射層と、前記溶射層の表面に少なくとも一層が形成され、かつフッ素樹脂に無機物が含有されるとともに、前記フッ素樹脂の表面から露出した無機物の表面占有率は、50%以上80%以下であるフッ素樹脂層と、を含む被覆層が表面に設けられることを特徴とする。
【0007】
この回転機械の部品は、蒸気タービンや圧縮機等の回転機械に用いられる、動翼や静翼等の部品である。そして、内部に複数の気孔を有する溶射層と、この溶射層の表面に形成される前記無機物が表面から露出し、前記有機物の表面占有率は50%以上80%以下であるフッ素樹脂層とを備える被覆層で表面が被覆される。これによって、フッ素樹脂層の皮膜硬さを維持できる。また、この被覆層は、溶射層の気孔にフッ素樹脂層のフッ素樹脂が浸透するので、回転機械の部品に対する被覆層の密着性が向上する。これらによって、被覆層が遠心力を受けた場合における被覆層の耐久性低下が抑制される。また、無機物が露出するフッ素樹脂層が被覆層の表面に設けられるので、このフッ素樹脂層によって、シリカ、酸化鉄その他の微粒子を含む気体を取り扱う回転機械において、気体中に含まれる微粒子の付着が効果的に抑制される。
【0008】
なお、次の本発明に係る回転機械の部品のように、前記溶射層が含む気孔の含有率は、15%を超え30%以下であることが好ましい。これによって、溶射層とフッ素樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0009】
また、次の本発明に係る回転機械の部品のように、前記溶射層には、Ni、Co、Moのうちいずれか一つの純金属、又はNi合金、Co合金、Mo合金、鉄合金のうちいずれか一つを用いることができる。
【0010】
また、次の本発明に係る回転機械の部品のように、前記溶射層には、Ni、Co、Moのうちいずれか一つの純金属と、炭化物、酸化物、硼化物の少なくとも一種類以上とのサーメット、又はNi合金、Co合金、Mo合金、鉄合金のうちいずれか一つと、炭化物、酸化物、硼化物の少なくとも一種類以上とのサーメットを用いることもできる。
【0011】
また、次の本発明に係る回転機械の部品のように、前記フッ素樹脂層を構成するフッ素樹脂には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニデンフルオライド(PVDF)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)の少なくとも1種類を用いることができる。
【0012】
また、次の本発明に係る回転機械の部品のように、前記フッ素樹脂層を構成する前記無機物には、ガラス、セラミック、又は炭素のうち少なくとも1種類を用いることができる。
【0013】
次の本発明に係る回転機械は、前記回転機械の部品を、微粒子を含む気体が接触する回転部分に備えることを特徴とする。
【0014】
この回転機械は、前記回転機械の部品を備えるので、シリカ、酸化鉄その他の微粒子を含む気体を取り扱う回転機械において、気体中に含まれる微粒子の付着を効果的に抑制するとともに、被覆層の耐久性低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、この発明に係る回転機械の部品及び回転機械は、シリカ、酸化鉄その他の微粒子を含む気体を取り扱う回転機械において、気体中に含まれる微粒子の付着を効果的に抑制するとともに、被覆層の耐久性低下を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。本発明は、蒸気タービンや圧縮機等の回転機械であって、シリカ等の微粒子を含む気体が接触する前記回転機械の部品に対して好ましく適用できる。以下においては、回転機械の回転部品(例えば動翼やローター)を例として説明するが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
この実施例に係る回転機械の部品は、内部に複数の気孔を有する溶射層と、この溶射層の表面に形成される前記無機物が表面から露出するフッ素樹脂層とを備える被覆層で表面が被覆される点に特徴がある。
【0018】
図1は、この実施例に係るフッ素樹脂粒子含有めっき皮膜で表面を被覆した動翼を備える蒸気タービンのタービン室周辺を示す断面図である。この実施例に係る回転機械である蒸気タービン20は、蒸気入口弁21で開閉制御される蒸気供給管25から供給される蒸気の蒸気圧力を、回転動力に変換するものである。回転動力は、減速機を介して発電機等に使用される。回転動力を取り出すためのローター軸22には、タービンディスク26が複数取り付けられる。タービンディスク26の外周には、複数の動翼23が一列に取り付けられて動翼列を形成する。動翼23は、上記蒸気供給管25から供給される蒸気を受けてローター軸22を回転させる。
【0019】
動翼23間には、複数のノズルベーンを備えるノズル仕切り板24が配置され、ノズルベーンを蒸気が通過する際に、当該蒸気を整流して動翼23に効率よく当てる。図1に示すように、蒸気タービン20が複数の動翼列を備える場合は、ノズルベーンも複数枚設けられる。この場合、各ノズル仕切り板24が個々に有するノズルベーンの枚数、大きさは異なることが多いが、どれも同様の構成である。
【0020】
図2は、この実施例に係るフッ素樹脂粒子含有めっき皮膜で表面を被覆した、蒸気タービンの動翼を示す斜視図である。図3は、図2のA−A断面図である。回転機械である蒸気タービン20の部品である動翼23は、ベース23Bに翼23Wが取り付けられている。また、ベース23Bの翼23Wとは反対側に、翼固定部23Tが設けられる。翼固定部23Tは、タービンディスク26の外周部に形成される、翼固定部23Tと同形状の翼取り付け溝にはめ込まれて、タービンディスク26に取り付けられる。
【0021】
蒸気タービン20が備える動翼23は、高温、高圧の蒸気が動翼23へ噴射されて、タービンディスク26とともに回転する。このため、動翼23には、大きな遠心加速度が作用するとともに、高温にさらされる。したがって、動翼23は、高強度、かつ耐熱性を有する材料で製造される。この実施例において、動翼23は、マルテンサイト系のステンレス鋼で製造される。
【0022】
蒸気タービン20において、動翼23の表面23Sやノズルベーンの表面には、蒸気に含まれるSiO2や酸化鉄(Fe34)等の微粒子が付着する。また、圧縮機のような回転機械でも、圧縮対象のガスに含まれるハイドロカーボン(HC)やシリカ等の微粒子等が、ガスの接触する部品の表面に付着する。そして、長期間の運転により、前記微粒子が動翼23の表面23Sやノズルベーンの表面等に体積して、蒸気タービンの熱効率や、圧縮機の圧縮効率を低下させてしまう。
【0023】
かかる問題を解決するため、この実施例においては、基材である動翼23の表面23Sに、例えば、Ni、Co、Mo、鉄合金等の溶射層と、前記溶射層の表面に形成され、かつ所定の表面占有率で無機物を含有するフッ素樹脂層とで構成される被覆層で動翼23を被覆する。この被覆層によって、蒸気中の微粒子が、動翼23の表面23Sに付着することを抑制するとともに、基材に対するフッ素樹脂層の付着性を向上させる。次に、この実施例に係る被覆層について説明する。
【0024】
図4は、この実施例に係る動翼の表面を示す模式図である。この図は、この実施例に係る動翼23の表面23Sを拡大して(図3のBで囲んだ部分)、これを模式的に表したものである。この実施例に係る動翼23は、回転機械である蒸気タービン20の部品であって、微粒子を含む気体を取り扱う回転体に用いられ、かつ微粒子を含む気体が接触する構造体である。そして、動翼23は、基材(この実施例ではマルテンサイト系ステンレス鋼)1の表面に、被覆層10が成膜されている。この被覆層10は、動翼23の基材1の上に成膜される溶射層2と、溶射層2の表面に形成されるフッ素樹脂層5とで構成される。
【0025】
溶射層2は、金属や、金属と炭化物や酸化物等とのサーメットを、動翼23の表面にプラズマ溶射法等によって溶射することにより形成される。本発明に適用できる溶射の方法は特に限定されるものではない。フレーム溶射に代表される燃焼ガスを熱源とした溶射方法や、プラズマ溶射、アーク溶射に代表される電気エネルギーを熱源とした溶射方法や、レーザー光を熱源とした溶射方法等が本発明に対して適用できる。溶射方法は、溶射層2の材料や基材1の材料等によって、適宜選択する。
【0026】
溶射層2は、Ni、Co、Moのうちいずれか一つの純金属、又はNi合金、Co合金、Mo合金、鉄合金のうちいずれか一つを用いることができる。また、溶射層2は、Ni、Co、Moのうちいずれか一つの純金属と、炭化物、酸化物、硼化物の少なくとも一種類以上とのサーメット、又はNi合金、Co合金、Mo合金、鉄合金のうちいずれか一つと、炭化物、酸化物、硼化物の少なくとも一種類以上とのサーメットを用いることができる。
【0027】
溶射層2には、複数の気孔2aが形成される。溶射層2に形成された気孔2a中にフッ素樹脂4が浸透し、フッ素樹脂層5と溶射層2とが連結する。これによって、フッ素樹脂層5と溶射層2との密着性が向上する。このように、動翼23の基材1と強固に密着する溶射層2にフッ素樹脂層5を密着させるので、フッ素樹脂層5と基材1との密着性を向上させることができる。その結果、回転による大きな遠心力が被覆層10に作用した場合でも、フッ素樹脂層5の剥離を抑制して、被覆層10の耐久性低下を抑制できる。
【0028】
溶射層2に形成された気孔2a中へフッ素樹脂4を浸透させ、溶射層2とフッ素樹脂層5との密着性を向上させるため、溶射層2の気孔含有率は、15%を超えるようにすることが好ましい。溶射層2の気孔含有率が15%を超える、すなわち溶射層2の気孔含有率を15%よりも大きくする理由は、溶射層2の気孔に十分フッ素樹脂を浸透させるためであり、通常の5%〜15%よりも気孔含有率を大きくすることにより、フッ素樹脂の浸透効果を高めている。一方、溶射層2の気孔含有率が30%を超えると溶射層2自体の強度が低下して、溶射層2の割れを生ずるおそれがある。したがって、溶射層2の気孔含有率は30%以下とすることが好ましい。ここで、気孔含有率とは、溶射層2の全体積に占める気孔2aの体積の割合をいう。
【0029】
フッ素樹脂層5は、フッ素樹脂4に無機物3を含んで構成される。特に蒸気タービンの動翼は、高温環境下(例えば200℃〜300℃)おいて使用されるため、このような使用環境においてもフッ素樹脂層5の軟化、剥離を抑制する必要がある。表面占有率が50%未満であると、フッ素樹脂層5の皮膜硬さが急激に低下し、表面占有率が80%を超えると、フッ素樹脂層5の表面に付着する粒子量の低減効果が急激に減少する。このため、無機物3の表面占有率は、50%以上80%以下とすることが好ましい。ここで、表面占有率とは、平面視において、フッ素樹脂4の表面から露出する無機物3が、フッ素樹脂層5の表面を占有する割合をいう。
【0030】
この実施例において、フッ素樹脂4には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニデンフルオライド(PVDF)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)のうち、少なくとも一種類を用いることができる。なお、フッ素樹脂層5は、動翼23の基材1の表面に少なくとも一層形成することが必要であるが、2層、3層といった多層にフッ素樹脂層5を形成してもよい。また、フッ素樹脂層5に含まれる無機物は、ガラス、セラミック、又は炭素のうち少なくとも1種類を用いることができる。
【0031】
(評価1)
本発明の粒子低付着性皮膜の試験片を製作し、粒子付着性評価装置により粒子付着性を評価した。本発明の評価例1〜3、評価例4及び従来例に係る被服層を評価した試験片は、20mm×20mm×5mmのSUS410J1基材を用いた。この基材上に、次のように本発明の評価例1〜3、評価例4及び従来例に係る被覆層(粒子低付着性皮膜)を成膜した。本発明の評価例1〜3に係るフッ素樹脂含有めっき皮膜を成膜した試験片、及び評価例4に係る試験片皮膜構成と評価結果とを表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(1)評価例1(表1のNo.1)
基材の表面粗さを研磨によりRa=0.50μm、Ry=3.50μmに仕上げ、前処理としてアルミナによりブラストしハステロイC合金をプラズマ溶射法で70μmの厚さに成膜し、引き続き、アルミナ粒子を含有したPTFE塗料をスプレー法により50μm厚さに成膜した。塗装後約400℃で焼成した。この場合の溶射層気孔率は15%、弗素樹脂の無機物表面占有率は50%であり、溶射条件、塗料中のアルミナ粒子含有量をそれぞれ調整し成膜した。
【0034】
(2)評価例2(表1のNo.2)
基材の表面粗さを研磨によりRa=0.50μm、Ry=3.50μmに仕上げ、前処理としてアルミナによりブラストし、Ni−20Cr合金をプラズマ溶射法で70μm厚さに成膜し、引き続き、炭化ケイ素粒子を含有したPFA粉末を静電塗装法により50μm厚さに成膜した。成膜後約400℃で焼成した。この場合の溶射層気孔率は10%、弗素樹脂の無機物表面占有率は80%であり、溶射条件、塗料中の炭化珪素粒子含有量をそれぞれ調整し成膜した。
【0035】
(3)評価例3(表1のNo.3)
基材の表面粗さを研磨によりRa=0.50μm、Ry=3.50μmに仕上げ、前処理としてアルミナによりブラストし、Cr32−25NiCrサーメットをプラズマ溶射法で70μm成膜し、引き続き、グラファイト粒子を含有したFEP粉末を静電塗装法により50μm成膜した。成膜後約400℃で焼成した。この場合の溶射層気孔率は6%、弗素樹脂の無機物表面占有率は50%であり、溶射条件、塗料中のグラファイト粒子含有量をそれぞれ調整し成膜した。
【0036】
(4)評価例4(表1のNo.4)
基材の表面粗さを研磨によりRa=0.50μm、Ry=3.50μmに仕上げ、前処理としてアルミナによりブラストしハステロイC合金をプラズマ溶射法で70μm成膜し、引き続き、アルミナ粒子を含有したPTFE塗料をスプレー法により50μm成膜した。塗装後約400℃で焼成した。この場合の溶射層気孔率は15%、弗素樹脂の無機物表面占有率は90%であり、溶射条件、塗料中のアルミナ粒子含有量をそれぞれ調整し成膜した。
【0037】
(5)従来例(表1のNo.5)
基材の表面粗さを研磨によりRa=0.50μm、Ry=3.50μmに仕上げして、試験片の表面に、従来例に係るフッ素樹脂(PTFE)の被覆層を成膜した。
【0038】
(粒子付着評価試験方法)
図5は、粒子付着評価試験に用いる試験装置を示す装置構成図である。この試験装置30は、上記手順によって作製した試験片36を、ドラム31に嵌め込んで、粒子付着評価試験に供する。なお、この試験装置30が備えるドラム31の寸法は、直径が300mmで幅が100mmである。
【0039】
粒子付着評価試験は、ドラム31を回転させながら、窒素(N2)ガスにより搬送されたシリカ(SiO2)の超微粒子を試験片36の表面に吹き付け、付着させる試験である。窒素ガスは、ノズル33を通って噴射され、シリカ粒子は、粒子供給装置32からノズル33の出口近傍に供給される。ドラム31の下方には、水タンク34が設置されている。水タンク34内の水は、100℃で沸騰させられており、前記試験片36に水分が供給される。また、試験片36はドラム31の内側に設置したヒーター35により加熱される。
【0040】
(試験条件)
ドラム31の回転数は10rpmとし、試験片36も、ドラム31と同じ回転数で回転する。シリカ粒子は、日本アエロジル製のフュームドシリカ(グレード50)を用いた。試験片36の加熱温度は80℃とした。また、シリカ粒子の衝突速度は300m/sec.とし、試験時間は150時間とした。
【0041】
(評価方法)
試験前後における試験片36の質量差から、シリカ粒子の付着量を測定した。それぞれの試験片の表面に付着したシリカ粒子の付着量Y(g)と、試験片の基材(SUS410J1)そのものの表面(表面粗さRz=3.5μm)に付着したシリカ粒子の付着量X(g)との比を、粒子付着量倍率Zとして式(1)により算出した。
Z=Y/X・・・(1)
表1に示すように、本発明に係る被覆層(評価例1〜3)は、評価例4及び従来例に比べシリカ粒子の付着量が小さく、低付着性を有していることがわかる。
【0042】
(評価2)
本発明に係る被覆層の試験片を製作し、密着性を評価した。20mm×20mmで5mm厚さのSUS410J1基材上に、本発明に係る被覆層を成膜することにより、上記表1に示す構成の評価例1〜3(表1のNo.1〜No.3)の試験片を作製した。密着性の評価は、回転ドラムに作製したサンプルを嵌めこみ固定し、周速100m/sで所定時間回転し、回転後の状況を評価した。試験環境は、3%NaCl含有水を100℃で沸騰させたタンクを上記回転ドラムの下部に設置し、回転ドラムの周りはステンレス板で周囲を囲んだ。さらに、回転ドラムの内部から、ヒーターにより、サンプル表面温度が250℃となるように加熱した。
【0043】
評価例4(表1のNo.4)は、20mm×20mmで厚さ5mmのSUS410J1基材上に、評価例4の粒子低付着性皮膜を成膜した。また、従来例(表1のNo.5)は、20mm×20mmで厚さ5mmのSUS410J1基材上に、フッ素樹脂(PTFE)皮膜を成膜した。評価例4及び従来例についても、評価例1〜3と同様に、密着性を評価した。上記密着性評価の結果、評価例1〜3(表1のNo.1〜No.3)はふくれも認められず良好であった。これに対し評価例4では、皮膜の流動にともなう部分的な剥離が発生した。また、従来例に関しては、皮膜が全面剥離した。この結果、本発明は、基材に対する密着性が良好であることがわかる。
【0044】
図6は、フッ素樹脂層に含まれる無機物の表面占有率と、粒子付着量倍率及び皮膜硬さ比との関係を示す説明図である。図6は、フッ素樹脂層に含まれる無機物の表面占有率を変化させたときにおいて、粒子付着量と皮膜硬さとを評価した結果を示している。なお、図6の白丸が皮膜硬さ比Hpを示し、黒丸が粒子付着量倍率Zを示す。
【0045】
粒子付着量倍率は、上記式(1)で表される。皮膜硬さ比Hrは、無機物が表面に露出したフッ素樹脂皮膜の硬さHpを、無機物の表面占有率が0%のフッ素樹脂皮膜の硬さHbで除した値(Hp/Hb)である。なお、この評価では、フッ素樹脂が含有する無機物として、平均粒子径10μmのアルミナセラミックスを用いた。
【0046】
図6からわかるように、無機物の表面占有率が50%よりも小さい場合には、フッ素樹脂皮膜の硬度が急激に低下し、フッ素樹脂皮膜の割れが発生しやすくなる。大きな遠心力を受ける回転部品においては、割れを起点にフッ素樹脂皮膜の剥離が発生するので、無機物の表面占有率が50%よりも小さい場合、回転部品に対しては耐久性が不足するおそれが高い。一方、無機物の表面占有率が80%を超えると、粒子付着量が急激に増加するので、微粒子の付着を効果的に抑制する観点から不適である。したがって、無機物の表面占有率は、50%以上80%以下が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明に係る回転機械の部品及び回転機械は、シリカ、酸化鉄その他の微粒子を含む気体を取り扱う回転機械に有用であり、特に、ローター、インペラその他の回転部品に付着する前記微粒子の量を低減することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この実施例に係るフッ素樹脂粒子含有めっき皮膜で表面を被覆した動翼を備える蒸気タービンのタービン室周辺を示す断面図である。
【図2】この実施例に係るフッ素樹脂粒子含有めっき皮膜で表面を被覆した、蒸気タービンの動翼を示す斜視図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】この実施例に係る動翼の表面を示す模式図である。
【図5】粒子付着評価試験に用いる試験装置を示す装置構成図である。
【図6】フッ素樹脂層に含まれる無機物の表面占有率と、粒子付着量倍率及び皮膜硬さ比との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 基材
2 溶射層
2a 気孔
3 無機物
4 フッ素樹脂
5 フッ素樹脂層
10 被覆層
20 蒸気タービン
30 試験装置
36 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に用いられ、かつ微粒子を含む気体が接触する構造体であって、
前記構造体の表面に形成され、かつ内部に複数の気孔を有する溶射層と、
前記溶射層の表面に少なくとも一層が形成され、かつフッ素樹脂に無機物が含有されるとともに、前記フッ素樹脂の表面から露出した無機物の表面占有率は、50%以上80%以下であるフッ素樹脂層と、
を備える被覆層が表面に設けられることを特徴とする回転機械の部品。
【請求項2】
前記溶射層が含む気孔の含有率は、15%を超え30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の回転機械の部品。
【請求項3】
前記溶射層は、
Ni、Co、Moのうちいずれか一つの純金属、又はNi合金、Co合金、Mo合金、鉄合金のうちいずれか一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転機械の部品。
【請求項4】
前記溶射層は、
Ni、Co、Moのうちいずれか一つの純金属と、炭化物、酸化物、硼化物の少なくとも一種類以上とのサーメット、又はNi合金、Co合金、Mo合金、鉄合金のうちいずれか一つと、炭化物、酸化物、硼化物の少なくとも一種類以上とのサーメットであることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転機械の部品。
【請求項5】
前記フッ素樹脂は、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニデンフルオライド(PVDF)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)の少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転機械の部品。
【請求項6】
前記無機物は、
ガラス、セラミック、又は炭素のうち少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転機械の部品。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転機械の部品を、微粒子を含む気体が接触する回転部分に備えることを特徴とする回転機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−291307(P2006−291307A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115003(P2005−115003)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】