説明

回転機械

【課題】
運転中にすべり軸受の摺動面の摩耗量を診断する機能を備えた回転機械を提供する。
【解決手段】
駆動源から伝えられた回転力により回転するシャフトと、このシャフトを支持する軸受を有する回転機械において、軸受は、シャフトと対向する摺動面と、この摺動面に設けられ潤滑油の通路となる油溝と、油溝に連通して摺動面から外周側に凹となる基準段差面と、摺動面と異なる面であり摺動面と基準段差面との各々の法線上の軸受外周に設けられた超音波センサ設置面とを有し、シャフトと軸受との間に形成された油膜部と、超音波センサ設置面に対向して設けられ摺動面と基準段差面との各々に超音波パルスを伝播させるとともに、油膜部で反射した超音波パルスを受信する超音波センサと、超音波センサを駆動し、予め記憶された油膜部の超音波パルスの強度と、油膜部で反射した超音波パルスの強度とを比較する診断装置とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の回転力にて回転運動するシャフトと、シャフトと油膜を介して滑り摺動する軸受とを有する回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用いて回転機械の軸受の摩耗量を診断する技術においては、軸受の外面に超音波センサを取り付け、軸受の内周外周面での反射時間から軸受部材の厚み変化を算出する特開平5―34135号公報記載の計測技術があった。この計測技術においては、軸受の外面に超音波センサを取り付け、軸受に向けて超音波パルスを伝播させ、その超音波パルスが軸受の外周面および内周面に達して反射した信号を前記超音波センサにて受信し、受信した2つの反射波パルスの時間間隔から軸受の厚みを算出する手法となっている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−34135号公報
【特許文献2】特開2001−141617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の従来例においては計測器上で前記2つの反射波パルスを時間軸上に分離して時間間隔を高精度に測定することが必須であり、摩耗による50μm以下の微小な軸受厚み変化を伝播速度の速い音波を用いて測定するにあたっては、測定器の時間分解能不足や反射波パルスの認識誤差等から、軸受厚みの測定誤差が増大しやすい難点があった。このため、この従来法で摩耗量を測定する装置を搭載した回転機械としても、測定可能となる摩耗量は軸受の交換が必要な摩耗量に近く、50μm以下の摩耗量を測定して早期に軸受交換時期を予測することが困難であった。
【0005】
また、摺動部の一部に有底穴を形成し、摺動面と有底穴の背面に超音波センサを取り付けて各面に向けて同時に超音波を発信し、摺動面と有底穴底面とで反射する2つの超音波反射波による干渉を測定することにより摩耗量を算出する特開2001−141617号公報に記載の計測方法および計測装置があった。この計測方法においては、超音波を反射させて測定対象とする摺動面の面積と、同じく超音波を反射させる有底穴の底面の面積とを等しくし、両者に向けて同時に超音波を送受信することにより、摺動面の摩耗による有底穴の深さ変化を超音波の干渉状態に影響する主要素とさせて、干渉状態の変化から摩耗を測定する手法となっている。
【0006】
しかしながら、前記の従来例においては、測定対象の摺動面と有底穴底面との面積の比率が一定していることが必要であり、接触荷重による表面の変形、摩耗による有底穴近傍の損傷、摩耗粒子や外部からの異物の有底穴への侵入等により前記比率が変動すると摩耗状態の安定的な計測が困難となった。
【0007】
本発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、すべり摺動する軸受における摺動面の摩耗量を高精度かつ安定的に測定可能とする機能を有する回転機械を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、 駆動源から伝えられた回転力により回転するシャフトと、このシャフトを支持する軸受を有する回転機械において、軸受は、シャフトと対向する摺動面と、この摺動面に設けられ潤滑油の通路となる油溝と、油溝に連通して摺動面から外周側に凹となる基準段差面と、摺動面と異なる面であり摺動面と基準段差面との各々の法線上の軸受外周に設けられた超音波センサ設置面とを有し、シャフトと軸受との間に形成された油膜部と、超音波センサ設置面に対向して設けられ摺動面と基準段差面との各々に超音波パルスを伝播させるとともに、油膜部で反射した超音波パルスを受信する超音波センサと、超音波センサを駆動し、予め記憶された油膜部の超音波パルスの強度と、油膜部で反射した超音波パルスの強度とを比較する診断装置とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、すべり摺動する軸受における摺動面の摩耗量を高精度かつ安定的に測定可能とする機能を有する回転機械を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図1から図11を用いて説明する。図1は、本発明による遠心圧縮機の断面図である。駆動源1は電動モータであり、回転子2と、固定子3とからなっている。第1のシャフト4は回転子2に直結され、反駆動源1側の端部に大歯車5を嵌着するようになっている。この第1のシャフト4は軸受6−1,6−2にすべり摺動を伴い支持され、これら軸受6−1,6−2は軸受支持フレ−ム7に装着されている。軸受支持フレーム7は給油孔8を備え、この給油孔8を通じて各軸受に潤滑油が供給される。第2のシャフト9は大歯車5に噛合うピニオン10を有し、軸受部11−1,11−2に支持されて回転運動する。この第2のシャフト9は羽根車12に接続し、羽根車12を回転運動させることにより吸入口13から吸い込んだ気体の圧縮を行う。軸受6−1は外周部に超音波センサ設置面14を有し、その超音波センサ設置面14には軸受支持フレーム7のセンサ挿入孔15を貫通して超音波センサ16が着脱可能に取り付けられている。この超音波センサ16には、診断装置17が電気配線により接続されている。診断装置17は超音波センサ16を駆動して超音波パルスを軸受6−1内に伝播させ、第1のシャフト4と軸受6−1が潤滑油の油膜を介して摺動する油膜部で反射した超音波反射波を受信し、受信した反射波の強度を測定して予め記憶されている油膜厚さと超音波反射波の強度との関係と対照することにより油膜厚さを算出し、複数の油膜厚さ値の関係から摩耗量を算出して表示および出力する。
【0011】
図2は、軸受6−1の外形図である。円筒状のすべり軸受である軸受6−1の内周部が第1のシャフト4と油膜を介して摺動する。この内周部には最表面であり摩耗量測定対象となる摺動表面20と、摺動表面20から外周側に凹であり潤滑油の供給通路となる油溝21と、摺動表面20から外周側に凹となり油溝21に連通する基準段差面22と、油溝21内部に補正用段差面23とが設けられている。摺動表面20と基準段差面22と補正用段差面23との各段差面における法線方向の軸受外周部には超音波センサ設置面14が設けられている。超音波センサ設置面14は、複数の面で構成されており、各面の内周方向にはそれぞれ摺動表面20と基準段差面22と補正用段差面23とが存在する位置関係となっている。
【0012】
図3は、軸受6−1と超音波センサ16の接続部近傍の部分断面図である。この図を用いて、摺動表面20,基準段差面22,補正用段差面23,超音波センサ設置面14,超音波センサ16の位置関係および超音波の伝播経路を説明する。軸受6−1の外周部には、超音波センサ設置面14−a,14−b,14−cが設けられており、摺動表面20と超音波センサ設置面14−a,基準段差面22と超音波センサ設置面14−b,補正用段差面23と超音波センサ設置面14−cはそれぞれ法線を共有する位置関係となっている。着脱可能な超音波センサ16を各段差面に順に取り付けて軸受6−1内部に超音波パルスを伝播させ、摺動表面20と第1のシャフト4との間の油膜部、基準段差面22と第1のシャフト4との間の油膜部、補正用段差面23と第1のシャフト4との間の油膜部で反射された反射波パルス超音波センサを再び同じ超音波センサ16にて受信し、その反射波パルスの強度を測定する。
【0013】
摺動表面20の油膜部と、基準段差面22の油膜部と、補正用段差面23の油膜部とからの反射波の測定は、超音波の反射波強度を変化させる油膜厚さ以外の要素、例えば、超音波の伝播距離や、反射させる油膜部表面の形状や、超音波センサ16と各超音波センサ設置面との接触状態が各油膜部の測定時において同等の条件となるようにして行う。本実施例においては、摺動表面20と超音波センサ設置面14−aとの距離と、基準段差面22と超音波センサ設置面14−bとの距離と、補正用段差面23と超音波設置面14−cとの距離との差を各段差分のみとして、軸受6−1内部を伝播する超音波の伝播距離を管理し、伝播距離の違いによる超音波の減衰量の差が反射波の強度に影響するのを抑制している。超音波の伝播距離の違いによる超音波の減衰量の差については、反射波を測定した後で伝播距離の違いによる減衰率を考慮した補正を行い、その補正値を診断に用いるのも良いが、本実施例のように前記の各伝播距離を予め揃えておくことにより、測定精度の向上が図られる。同様に、摺動表面20、基準段差面22、補正用段差面23の形状の違いにおいても、反射波を測定した後で面形状の違いによる減衰率を考慮した補正を行い、その補正値を診断に用いるのも良いが、本実施例で各面を摺動面と同等の面形状としたように、超音波での測定範囲においては超音波反射への影響度合いを考慮して同質であることが望ましい。また、超音波センサ16と超音波センサ設置面14との接続部には弾性体あるいは粘性物質を介しするとともに、超音波センサ16の超音波センサ設置面14への押し当て力を均等に管理して測定を行い、超音波センサ16と各超音波センサ設置面との接触状態による測定値のばらつきを抑制する。
【0014】
図4は、前記の各油膜部における超音波の反射波を測定した際のパルス認識波形表示画面を例示したものである。はじめに、超音波センサ設置面14−aに超音波センサ16を接続し、軸受6−1内部に超音波のパルス状の入射波30を伝播させると、摺動表面20上の油膜部において反射された反射波が再び超音波センサ16により受信され、反射波31−aとして測定される。次に、超音波センサ設置面14−bに超音波センサ16を接続し、軸受6−1内に入射波30を伝播させると、基準段差面22上の油膜部において反射された反射波が再び超音波センサ16により受信され、反射波31−bとして測定される。同様に、超音波センサ設置面14−cに超音波センサ16を接続し、軸受6−1内部に入射波30を伝播させると、補正用段差面23上の油膜部において反射された反射波が再び超音波センサ16により受信され、反射波31−cとして測定される。本実施例においては、摺動表面20と基準段差面22との初期の段差を50μm、摺動表面20と補正用段差面23との初期の段差を100μmとしたので、摺動表面20上の油膜部と、基準段差面22上の油膜部とにおける油膜厚さ差は最大50μm、摺動表面20上の油膜部と補正用段差面23上の油膜部とにおける油膜厚さ差は最大100μmとみなせる。測定する周波数を固定すると、各反射波の強度は、測定対象である各油膜部の油膜厚さに対応して増減するため、各反射波の強度は、段差分の影響で反射波31−c,反射波31−b,反射波31−aの順に大きくなる。本実施例で使用した軸受と比較して前記の段差は1/30以下と小さいから、画面上の3つの反射波パルスは時間軸上のほぼ同位置に測定され、軸受内の伝播距離の違いによる減衰量の差も同程度に小さいとみなせる。
【0015】
図5は、診断装置17に予め記録されている軸受とシャフト間の油膜厚さと超音波の反射波強度との関係の一部を示したグラフである。反射波パルスの強度Iは数1から数2で示される関係にあり、図5のグラフ示した反射波パルスの強度は数1におけるIを百分率に換算したものである。診断装置17においては、診断装置17に含まれる設定回路を通じて入力した温度、油種等の条件から各音響インピーダンス、音速、および補正係数を変更し、回転機器の状態に合わせた油膜厚さと超音波の反射波強度との関係を参照する。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
但し、Iを反射波パルスの強度、Z1,Z2,Z3を軸受,油膜,シャフトの音響インピーダンス、hを油膜厚さ、c2を油膜中での音速、fを超音波の周波数、A,Bを補正係数とする。
【0019】
図6及び図7の測定例グラフを用いて、反射波の強度から摩耗量を診断する第1の手段を解説する。図6は、まだ摩耗していない初期の測定例、図7は、摩耗が進行した後での測定例である。はじめに、超音波測定を行いながら回転機械の運転条件を調節して、図6に示すように、補正用段差面23の油膜部からの反射波31−cの強度と、基準段差面22の油膜部からの反射波31−bの強度と、摺動表面20の油膜部からの反射波31−aの強度とがこの順に大きい値を示す関係となるよう油膜厚さを制御する。反射波31−aの強度値と、反射波31−bの強度値とを反射波31−cの強度値で除して相対化し、診断装置17に予め記憶された油膜厚さと超音波の反射波強度との関係に対照すると、摺動表面20の油膜部と基準段差面22の油膜部との油膜厚さの差が導き出される。摺動表面20の摩耗が進行すると、摺動表面20と基準段差面22との段差が小さくなるから、同様に超音波反射波の測定を行うと、図7に示すように、反射波31−aと反射波31−bとが示す油膜厚さの差が小さくなる。このように、摺動表面20の摩耗の進行による摩耗量の増加と、摺動表面20の油膜部と基準段差面22の油膜部との油膜厚さ差とは対応して変化するから、この関係を用いて摺動表面20の摩耗量を診断することが可能となる。
【0020】
このように、補正用段差面23の油膜部における反射波31−cの強度は、他の反射波の強度を補正するための基準値として用いるから、反射波31−cの強度は測定範囲内において油膜厚さを変化させても常に一定の値を維持することが望ましい。しかし、実際の反射波の強度測定においては、パルス状の反射波の認識精度から反射波強度が最大5%のばらつきを有することが判明したため、本実施例では測定範囲である50μmの油膜厚さ変動に対して、反射波31−cの強度の変化量が5%以内であるよう、測定時の油膜厚さを制御した。
【0021】
図8及び図9を用いて、反射波の強度から摩耗量を診断する第2の手段を解説する。はじめに、超音波測定を行いながら回転機械の運転条件を調節して摺動面上の油膜厚さを制御し、図8に示すように、測定対象の摩耗量相当だけ油膜厚さを変化さても基準段差面22の油膜部からの反射波31−bの強度変化が5%以内となる油膜厚さ範囲における反射波31−bの強度を基準値として測定しておく。次に、図9に示すように、基準段差面22の油膜部からの反射波31−bの強度と摺動表面20の油膜部からの反射波31−aの強度との関係がこの順に大きい値を取り、かつ、反射波31−bの強度が前記基準値以下となるよう、回転機械の運転条件を調節して摺動面上の油膜厚さを制御する。反射波31−aの強度値と、反射波31−bの強度値とを前記基準値で除して相対化し、診断装置17に予め記憶された油膜厚さと超音波反射波の強度との関係に対照すると、摺動表面20の油膜部と基準段差面22の油膜部との油膜厚さ差が導き出される。摺動表面20の摩耗が進行すると、摺動表面20と基準段差面22との段差が小さくなるから、反射波31−aと反射波31−bとが示す油膜厚さ差が小さくなる。このように、摺動表面20の摩耗の進行による摩耗量の増加と、摺動表面20の油膜部と基準段差面22の油膜部との油膜厚さ差とは対応して変化するから、この関係を用いて摺動表面20の摩耗量を診断することが可能となる。この第2の手段によると、測定時における回転機械の運転条件の調節が多く必要となるが、軸受の内周に設ける段差面が基準段差面のみでも良いから、構造を簡略化できる利点がある。
【0022】
また、本実施例の診断装置17においては、摩耗量の診断方法を切り替えて測定を行うことが可能となっている。前記のように超音波の反射波強度を利用した手法での摺動表面20の摩耗量の測定範囲を50μmと設定したから、50μm以上の摩耗量については、超音波センサ16が超音波パルスを軸受6−1に伝播させてから、摺動表面20で反射されて反射波が再び超音波センサ16に受信されるまでの時間、すなわち図4における入射波30と反射波31−aとの時間間隔から軸受6−1の厚みを算出してその厚みの変化量を摩耗量と換算して診断することも可能となっている。
【0023】
図1においては、先端部にセンサ部を有する長尺の棒状の着脱式の超音波センサ16をセンサ挿入孔15から挿入し、測定対象の面に応じた超音波センサ設置部14に対向させて接続して測定を行う構成としたが、図10の部分断面図に示すように、治具40を用いて超音波センサ16を各超音波センサ設置面14に固定したままの構成としても良い。このように固定する構造とした場合、複数の超音波センサを使用するため、異なる超音波センサ間の感度特性のばらつきを測定前に構成しておく必要があるが、測定の度に超音波センサ16を着脱する手間が省けるほか、着脱作業のばらつきにおける測定値のばらつきを除去して測定精度を向上させることが可能となる。また、図11の部分断面図に示すように、粘性物質や弾性体等からなる超音波伝播物41を介して超音波センサ16を超音波センサ設置面14に接続しても良い。このような構造とした場合、測定に十分な超音波の反射波強度が確保できれば、粘性物質や弾性体等により超音波センサ16と超音波センサ設置面14との間に残る部分的な隙間を除去して安定的な超音波反射波の測定が可能となるほか、超音波センサ16を直接軸受6−1の外周面に接触させずにすむ。
【0024】
以上においては、本発明の1つの実施例である遠心圧縮機について詳細に説明したが、他の形式の圧縮機やポンプ機器や機関等においても、同様に駆動源とシャフトと潤滑油を用いたすべり軸受を含む構成の回転機械であれば、本発明を適用した回転機械としての提供を図ることが可能であることは自明である。
【0025】
以上説明した本実施例によれば、まず、回転機械を所定の条件で運転させて、軸受の摺動面と基準段差面と、シャフトとの間を潤滑油で満たして油膜を形成させる。次に超音波センサを、測定対象の面に対応した超音波センサ設置面に接続し、診断装置により超音波センサを駆動して測定対象の面における油膜部に軸受を通じて超音波パルスを発信して、油膜部から軸受を通じて戻る反射波を同じ超音波センサで受信し、反射波の強度を測定する。前記測定を、摺動面の油膜部と、基準段差面の油膜部との両方について行い、各反射波の強度を、予め診断装置に記憶された油膜厚さと超音波反射波の強度との関係と対照して各油膜部における各油膜厚さに変換する。各油膜部における油膜厚さの差は、回転機械の使用歴に伴い軸受の摺動面の摩耗が増加すると、その増加分に応じて減少する関係を有することから、油膜厚さ差の減少量を摺動面の摩耗量として診断し、結果を出力する。
【0026】
シャフトと軸受との間に形成される油膜部の厚さと油膜部からの超音波の反射波の強度との関係においては、周波数に応じた変化率と範囲にて、油膜厚さが増加すると反射波の強度が増加する関係を示す範囲と油膜厚さを増加させても反射波の強度が増加しない関係を示す範囲とが存在する。特に、周波数0.1〜10MHzの超音波を用いることにより、50μm以下の油膜厚さ範囲内に前記油膜厚さが増加すると反射波の強度が増加する関係を示す範囲が存在する特性がある。よって、測定時における摺動面と基準段差面との段差の距離を50μm以下に設定し、この段差以下に定めた摩耗量測定範囲に合わせて測定に使用する超音波の周波数を0.1〜10MHzから選択することにより、50μm以下の摩耗量を高精度に診断することが可能となる。
【0027】
基準段差面は油溝に連通した構造としたため、油溝を移動する潤滑油により基準段差面に侵入した摩耗粒子や外部からの異物が洗い流されて清浄度が維持され、長期間安定した測定を行うことが可能となる。また、油溝の内部に基準段差面を形成することより、前記した洗い流し効果を増大できるとともに、基準段差面を設けることによる摺動面の面積減少を最小化できる。また、反射波の強度の測定は、測定対象とする面ごとに対応した超音波センサ設置面に超音波センサを接続して行うから、測定対象の面からの反射波が測定できれば、各面の面積関係が一定関係を維持する必要が無い。
【0028】
また、回転機械において、軸受は前記シャフトと潤滑油の油膜を介してすべり摺動し、摺動面側に潤滑油の通路となる油溝を有し、同じく摺動面側に油溝に連通して軸受の外周方向に凹となる段差を形成する基準段差面を有し、同じく摺動面側に基準段差面とは別に軸受の外周方向に基準段差面よりも深く凹となる段差を形成する補正用段差面を有し、外周側に摺動面と基準段差面と補正用段差面とのそれぞれと法線を共有する超音波センサ設置面を有し、摺動面と基準段差面との段差である第1の段差は前記第1の段差と等しい距離にてシャフトの表面と前記基準段差面との間を潤滑油で満たし、そこからシャフトの表面と基準段差面との距離を遠ざけた時に、超音波センサ設置面に取り付けた超音波センサにより受信した反射波の強度が増加する関係を示す範囲内であり、かつ、摺動面と補正用段差面との段差である第2の段差が、第2の段差と等しい距離にてシャフトと軸受の任意の超音波測定対象面との間を潤滑油で満たし、そこからシャフトの表面と軸受の超音波測定対象面との距離を設定した摩耗量測定範囲分だけ減少させた際に、超音波センサ設置面に取り付けた超音波センサにより受信した反射波の強度の減少が5%以下である関係を示す範囲内であることを特徴とする回転機械を得ることにより課題の解決を行う。
【0029】
この手段によると、まず、回転機械を所定の条件で運転させて、軸受の摺動面と基準段差面と補正用段差面と、シャフトとの間を潤滑油で満たして油膜を形成させる。次に、超音波センサを、測定対象の面に対応した超音波センサ設置面に接続し、診断装置により超音波センサを駆動して測定対象の面における油膜部に向けて軸受内部を伝播する超音波パルスを発信して、油膜部からの反射波を同じ超音波センサで受信し、反射波パルスの強度を測定する。前記した測定は、摺動面の油膜部と、基準段差面の油膜部と、補正用段差面の油膜部とのそれぞれについて行う。次に、摺動面の油膜部からの反射波の強度と基準段差面の油膜部からの反射波の強度とを、補正用段差面の油膜部からの反射波の強度で除して相対値化し、相対値化した各反射波の強度を、予め診断装置に記憶された油膜厚さと反射波の強度との関係と対照して各油膜部における各油膜厚さに変換する。摺動面の油膜部における油膜厚さと基準段差面の油膜部における油膜厚さとの差は、回転機械の使用歴に伴い軸受の摺動面の摩耗が増加すると、その増加分に応じて減少する関係を有することから、油膜厚さ差の減少量を摺動面の摩耗量として診断し、結果を出力する。
【0030】
段差量を規定して、摩耗量測定範囲に相当する油膜厚さの変化に対して、補正用段差面の油膜部からの反射波の強度の変化が5%以下であるよう構成したため、この最大5%の誤差を有する補正用段差面の油膜部からの反射波の強度を基準として、摺動面の油膜部からの反射波の強度と、基準段差面の油膜部からの反射波の強度とをそれぞれを相対値化することにより、超音波センサや計測器の感度特性の個体差や取り付けのばらつきによる反射波パルス測定値ばらつき、あるいは、回転機械を構成する材料の個体差による超音波の減衰のばらつき等による油膜厚さ差の測定誤差を低減し、全般的に補正無しの場合よりも高精度かつ安定的に摩耗深さを計測することが可能となる。
【0031】
摺動面と基準段差面との段差は、油膜厚さが増加すると超音波反射波の強度が増加する関係を示す範囲内であることを確認するには、シャフトと摺動面とを接触させた状態でシャフトと基準段差面との間を潤滑油で満たし、そこからシャフトの表面と基準段差面との距離を遠ざけていった時に、基準段差面の油膜部からの反射波の強度が増加する関係を示すことにより確認可能である。
【0032】
しかも、基準段差面と補正用段差面とは、油溝に連通した構造であるため、油溝を移動する潤滑油により各段差面に侵入した摩耗粒子や外部からの異物が洗い流されて清浄度が維持され、長期間安定した測定を行うことが可能となる。また、油溝の内部に基準段差面と補正用段差面とを形成することより、前記した洗い流し効果を増大できるとともに、基準段差面を設けることによる摺動面の面積減少を最小化できる。
【0033】
本実施例によれば、回転機械の軸受のすべり摺動部に段差面を設け、各段差面に対応した外周に超音波センサ設置面を設けた軸受構造を備えることにより、油膜を介して相対する2表面とから成る油膜部において反射する超音波の強度が油膜厚さに応じて変化する特性を利用して、摺動面の摩耗深さを測定することを可能とする。
【0034】
また、0.1〜10MHzの超音波が50μm以下の油膜厚さの油膜部にて反射したとき、油膜厚さが増加すると反射波の強度が増加する関係示す範囲を有する特性を利用可能とした段差構造により、50μm以下の油膜厚さ差を測定してその変化量を摩耗量に換算する手法を用いて、摩耗量を高精度に測定することが可能となる。これにより、一般の産業用回転機械において軸受交換が必要となる段階より小さい50μm以下の摩耗量から摩耗状態が把握できるようになるため、回転機械が摩耗による機能不全を発生するよりも早期に軸受の交換時期を予測すること、あるいは異常発生前に回転機械を停止させてメンテナンスを行う等の対応が可能となる。
【0035】
また、摩耗量測定範囲分の油膜厚さを増加させても超音波反射波の強度が5%以下しか変化しない関係を示すよう段差量を規定した補正用段差面を形成した構造により、補正用段差面上の油膜部で反射した超音波の反射の強度を用いて他の場所での反射の強度を相対値化し、超音波センサや計測器の感度および取り付け状態の個体差を補正することが可能となり、高精度かつ安定的な測定が可能となる。
【0036】
また、基準段差面と校正用段差面とを潤滑油の通路となる油溝の内部あるいは油溝と連通した場所に形成した構造としたことにより、潤滑油の流れが各面上に摩耗粉や外部からの異物が留まるのを防止し、表面を清浄に保つので、長期にわたり安定した測定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による軸受の摩耗量診断機能を有する遠心圧縮機の断面図である。
【図2】本発明による回転機械に含まれる軸受の外形図である。
【図3】軸受と超音波センサの接続部と超音波の伝播経路を示す部分断面図である。
【図4】本発明による回転機械に含まれる軸受と超音波センサとを接続して反射波を測定した時の反射波パルス認識波形の測定画面の一例を示す図である。
【図5】診断装置に予め記憶された油膜厚さと超音波の反射波強度との関係の一例である。
【図6】本発明による回転機械における反射波の強度から摩耗量を診断する第1の手段により摩耗初期に測定を行ったデータ例を示す図である。
【図7】本発明による回転機械における反射波の強度から摩耗量を診断する第1の手段により摩耗進行後に測定を行ったデータ例を示す図である。
【図8】本発明による回転機械における反射波の強度から摩耗量を診断する第2の手段により測定を行う際の基準値取得時のデータ例を示す図である。
【図9】本発明による回転機械における反射波の強度から摩耗量を診断する第2の手段により測定を行う際の油膜厚さ差取得時のデータ例を示す図である。
【図10】本発明による回転機械において、治具を用いて超音波センサ設置面に超音波センサを固定した構造を示す部分断面図である。
【図11】本発明による回転機械において、超音波伝播体を介して超音波センサ設置面に超音波センサを接続した構造を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 駆動源
2 回転子
3 固定子
4 第1のシャフト
5 大歯車
6,6−1,6−2 軸受
7 軸受支持フレーム
8 給油孔
9 第2のシャフト
10 ピニオン
11 軸受部
12 羽根車
13 吸入口
14,14−a,14−b,14−c 超音波センサ設置面
15 センサ挿入孔
16 超音波センサ
17 診断装置
20 摺動表面
21 油溝
22 基準段差面
23 補正用段差面
30 入射波
31,31−a,31−b,31−c 反射波
40 治具
41 超音波伝播物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から伝えられた回転力により回転するシャフトと、このシャフトを支持する軸受を有する回転機械において、軸受は、シャフトと対向する摺動面と、この摺動面に設けられ潤滑油の通路となる油溝と、油溝に連通して摺動面から外周側に凹となる基準段差面と、摺動面と異なる面であり摺動面と基準段差面との各々の法線上の軸受外周に設けられた超音波センサ設置面とを有し、シャフトと軸受との間に形成された油膜部と、超音波センサ設置面に対向して設けられ摺動面と基準段差面との各々に超音波パルスを伝播させるとともに、油膜部で反射した超音波パルスを受信する超音波センサと、超音波センサを駆動し、予め記憶された油膜部の超音波パルスの強度と、油膜部で反射した超音波パルスの強度とを比較する診断装置とを有することを特徴とする回転機械。
【請求項2】
請求項1に記載の回転機械において、
前記油膜部は潤滑油で満たされ、
前記摺動面と前記基準段差面との段差は、前記シャフトの表面と前記基準段差面との距離を遠ざけた場合に、前記超音波センサで受信した反射波の強度が増加する関係を有する段差であることを特徴とする回転機械。
【請求項3】
請求項1に記載の回転機械において、
前記軸受は、前記摺動面に、前記油溝に連通し、前記基準段差面よりも深い凹となる段差が設けられた補正用段差面を備えるとともに、前記補正用段差面の法線上には前記超音波センサ設置面が設けられたことを特徴とする回転機械。
【請求項4】
請求項3に記載の回転機械において、
前記油膜部は潤滑油で満たされ、
前記摺動面と前記基準段差面との段差である第1の段差は、前記シャフトの表面と前記基準段差面との距離を遠ざけた場合に、前記超音波センサで受信した反射波の強度が増加する関係を有する段差であるとともに、
前記摺動面と前記補正用段差面との段差である第2の段差は、前記シャフトの表面と前記超音波センサで測定する面との距離を摩耗量の診断範囲分減少させた場合に、前記超音波センサで受信した反射波の強度の減少が5%以下である関係を有する段差であることを特徴とする回転機械。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の回転機械において、
前記超音波センサは、前記超音波センサ設置面に機械的に固定されたことを特徴とする回転機械。
【請求項6】
請求項1から4の何れかに記載の回転機械において、
前記超音波センサは、前記超音波センサ設置面に粘性物を介して固定されたことを特徴とする回転機械。
【請求項7】
請求項1から4の何れかに記載の回転機械において、
前記超音波センサは、弾性体を介して固定されたことを特徴とする回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−243997(P2009−243997A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89159(P2008−89159)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】