説明

回転試験機

【課題】 現車に近い高速での回転試験時に、駆動装置が発する騒音の測定や評価を精度よく行う。
【解決手段】 駆動装置4の回転試験を行う装置である。駆動装置4の小歯車軸4a又は車軸4bに連結される駆動モータ11と、駆動装置4の車軸4b又は小歯車軸4aに連結されるダイナモ14と、これら駆動モータ11及びダイナモ14と、駆動装置4の小歯車軸4a又は車軸4bを、継手22を介して連結する連結軸部12,16とを備える。前記連結軸部12,16の連結軸を油膜軸受によって支持すると共に、これら連結軸部12,16と駆動装置4を無響音室17内に設置する。
【効果】 時速300kmを超える現車に近い高速での無負荷・負荷回転試験を、軸受からの大きな騒音なく良好な環境下で可能になり、回転試験時における駆動装置の騒音測定やその評価も精度良く行えるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば鉄道車両用駆動装置の負荷試験や騒音評価試験を精度よく行うことができる回転試験機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば車両の回転駆動系の試験は、試験の種類を問わず、工場内で実施されるのが一般的である。そして、工場内で実施する点は、鉄道車両における駆動装置の負荷試験や騒音評価試験も同様である。
【特許文献1】特開平5−302870号公報
【特許文献2】特開平8−43260号公報
【特許文献3】特開2002−181666号公報
【0003】
ところで、近年、鉄道車両の高速化は目覚しいものがあるが、現在の鉄道車両用駆動装置の回転試験は、回転源及び負荷源と駆動装置を連結する連結軸がころ軸受けによって支持されているので、せいぜい時速300km程度の無負荷試験を実施しているに過ぎなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
すなわち、現車に近い高速で回転試験を行った場合には、前記ころ軸受部での騒音が大きく、試験環境が悪くなるなどの問題から実施していないのが実情である。
また、前述のように、この回転試験は工場内で実施されていたので、工場内の暗騒音(工場が稼動している時の通常の騒音)があり、また、駆動装置の入力軸である小歯車軸や出力軸である車軸と連結軸を連結する継手1の継手本体1a,1b同士を、図6に示すように、ただ単に平板状のフランジ部でボルト2とナット3で連結しているだけであるため、回転試験時にこの露出したボルト2とナット3から風切音が発生し、駆動装置が発する騒音の測定や評価を精度よく行うことができなかった。
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は、現在は、試験環境が悪化する等の問題があり、現車に近い高速での回転試験を実施できなかったと言う点、及び、回転試験時、駆動装置が発する騒音の測定や評価を精度よく行うことができなかったという点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転試験機は、
現車に近い高速での回転試験を良好な環境で実施でき、かつ、回転試験時に、駆動装置が発する騒音の測定や評価をも精度よく行えるようにするため、
駆動装置の回転試験を行う装置において、
前記駆動装置の入力軸又は出力軸に連結される回転源と、
前記駆動装置の出力軸又は入力軸に連結される負荷源と、
これら回転源及び負荷源と、前記駆動装置の入力軸及び出力軸を、継手を介して連結する連結軸部とを備え、
前記連結軸部の連結軸を油膜軸受によって支持すると共に、これら連結軸部と前記駆動装置を無響音室内に設置したことを最も主要な特徴としている。
【0007】
本発明の回転試験機は、試験対象である駆動装置と、この駆動装置の入力軸及び出力軸と回転源及び負荷源を連結する連結軸部のみを無響音室内に設置すると共に、前記連結軸部の連結軸を、従来のころ軸受と異なり油膜軸受で支持したので、時速300kmを超える現車に近い高速での運転が、軸受からの大きな騒音なく行えるようになる。
【0008】
そして、その際、騒音を発する回転源や負荷源も無響音室の外に設置されているので、無響音室内で音を発するのは駆動装置のみとなって、回転試験時における駆動装置の騒音測定やその評価を精度良く行うことができるようになる。
【0009】
前記本発明の回転試験機において、前記連結軸部の一方と回転源又は負荷源を、前記駆動装置の入力軸又は出力軸と直角の方向にスライドが可能なように設けた場合には、小歯車軸と車軸との軸間距離が異なる駆動装置であっても容易に回転試験を行うことができる。
【0010】
また、前記本発明の回転試験機において、前記連結軸部の他方と負荷源又は回転源との間に伸縮が可能なスライド軸を介在させると共に、前記他方の連結軸部を、前記駆動装置の出力軸又は入力軸の軸方向にスライドが可能なように設けた場合には、車軸の長さが異なる駆動装置であっても容易に回転試験を行うことができる。
【0011】
また、前記本発明の回転試験機において、前記無饗音室内に位置する前記継手の連結部品を、当該継手本体内に埋没させた構成とした場合には、回転試験時、継手からの風切音を低減することができ、回転試験時における駆動装置の騒音測定精度やその評価精度がさらに良くなる。
【0012】
また、前記本発明の回転試験機において、前記無饗音室内に位置する前記連結軸部及び前記継手部の回転部分を防音カバーで覆った場合には、回転試験時、回転部分から発生する騒音を低減することができ、回転試験時における駆動装置の騒音測定精度やその評価精度のさらなる向上が図れる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の回転試験機では、時速300kmを超える現車に近い高速での無負荷・負荷回転試験を、軸受からの大きな騒音なく良好な環境下で可能になり、回転試験時における駆動装置の騒音測定やその評価も精度良く行えるようになる。
【0014】
そして、その際、連結軸部の一方と回転源又は負荷源を、駆動装置の入力軸又は出力軸と直角の方向にスライドが可能なように設けた場合には、小歯車軸と車軸との軸間距離が異なる駆動装置であっても、また、連結軸部の他方と負荷源又は回転源との間に伸縮が可能なスライド軸を介在させると共に、他方の連結軸部を、駆動装置の出力軸又は入力軸の軸方向にスライドが可能なように設けた場合には、車軸の長さが異なる駆動装置であっても容易に回転試験を行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図5を用いて説明する。
図1〜図3は本発明の回転試験機を回転源側、試験部、負荷源側の3つに分けて示した拡大平面図、図4は本発明の回転試験機の全体を示した平面図、図5は本発明の回転試験機に採用した継手の説明図である。
【0016】
図1〜図4において、11は試験対象である例えば鉄道車両用の駆動装置4に回転を付与する回転源である駆動モータであり、たとえば時速500km相当の回転試験を実施できるように、毎分10000回転が可能なものである。
【0017】
12は前記駆動モータ11の回転軸に接続されて前記駆動装置4のたとえば入力側の小歯車軸4aに回転を伝達する一方の連結軸部であり、本例では、この連結軸部12と前記駆動モータ11の回転軸間にさらに第2の連結軸部13を介在させている。
【0018】
14は、回転試験時、前記駆動装置4に負荷をかける負荷源として設置された、たとえばダイナモであり、毎分3000回転用のものである。そして、このダイナモ14は、本例ではたとえばその軸方向に伸縮が可能なように2重管構成されたスライド軸部15と他方の連結軸部16を介して前記駆動装置4の出力側である車軸4bに連結されている。
【0019】
以上の構成部品を備えた本発明の回転試験機では、前記駆動装置4の小歯車軸4aに接続される一方の連結軸部12と、車軸4bに接続される他方の連結軸部16のみを無響音室17内に設置し、試験時に騒音を発する駆動モータ11やダイナモ14、潤滑ポンプ(図示せず)などを無響音室17の外に配置すると共に、これら両連結軸部12,16の連結軸を回転自在に支持する軸受として、毎分10000回転もの高回転時においても騒音を発生することなく支持できる油膜軸受を採用している。
【0020】
このようにすることで、毎分10000回転もの高速で回転試験を行った場合にも、工場内の暗騒音や試験時の軸受から発生する騒音を可及的に抑制した条件下で駆動装置4の回転試験を実施できるようになる。なお、第2の連結軸部13やスライド軸部15の無響音室17への貫通部分は、2重のスライド式の防音壁構造と成しておけば、工場内の騒音がこの貫通部分から無饗音室17内に侵入することを効果的に防止することができる。
【0021】
ところで、前記駆動モータ11、一方の連結軸部12、第2の連結軸部13は、それぞれの架台11a,12a,13a上に、駆動装置4の小歯車軸4aと直角の方向(図1、図2及び図4における紙面上下方向)に敷設した、たとえばレール11b,12b,13b上を移動が自在なように載置されており、油圧ジャッキ18、モータ19,20の駆動により、それぞれが前記方向にスライドできるように構成されている。
【0022】
そして、小歯車軸4aと車軸4bとの軸間距離が異なる駆動装置4を試験する場合には、これらの油圧ジャッキ18、モータ19,20を駆動して、駆動モータ11、一方の連結軸部12、第2の連結軸部13を駆動装置4の小歯車軸4aと直角の方向に接離移動させて位置合わせする。この時、移動方向にディスタンスピースを位置させておき、このディスタンスピースに当接するまで移動させるようにすれば、停止位置での位置決め精度がよくなる。
【0023】
また、他方の連結軸部16も、同様に架台16a上に、駆動装置4の車軸4bと同方向(図1及び図4における紙面左右方向)に敷設した、たとえばレール16b上を移動が自在なように載置されており、モータ21の駆動により、それぞれ前記方向にスライドできるように構成されている。
【0024】
そして、車軸4bの長さが異なる駆動装置4を試験する場合には、車軸4bの長さの変化量に応じて、スライド軸部15の長さを伸縮すると共に、モータ21を駆動して他方の連結軸部16を移動させる。この場合の位置決めも、前述の位置決めと同様にすればよい。
【0025】
また、(1)駆動モータ11と第2の連結軸部13、(2)第2の連結軸部13と一方の連結軸部12、(3)一方の連結軸部12と駆動装置4の小歯車軸4a、(4)駆動装置4の車軸4bと他方の連結軸部16、(5)他方の連結軸部16とスライド軸部15、(6)スライド軸部15とダイナモ14を接続する継手22のうち、無響音室17内に位置するもの、すなわち、前記(2)〜(5)の継手22の継手本体22a,22bを連結するボルト2とナット3を、図5に示したように、そのフランジ部に嵌入孔22cを設けて継手本体22a,22bの内部に埋没させるような構成としておけば、回転試験時、これらのボルト2とナット3の風切音を抑制することができる。
【0026】
なお、図1〜図4の例では、一方の連結軸部12は2本の連結軸を繋いだ構成のものを示しているが、このような場合、2本の連結軸を繋ぐ継手22も同様の構成としておくことは言うまでもない。
【0027】
また、同様に、前記(2)〜(5)の連結部分における連結軸や継手部分を防音カバー23で覆うようにしておけば、回転試験時、回転部分から発生する騒音を低減することができる。
【0028】
以上の本発明の回転試験機では、駆動装置4と一方の連結軸12及び他方の連結軸16との接続は、図1〜図4に示したような継手22を介して接続したものに限らず、直接撓み板継手、ギアカップリング等の電車用継手を接続しても良い。この場合、より現車に近い回転試験が可能である。また、回転試験は、必ずしも負荷源と接続した状態で行わなければならないものでもない。さらに、駆動装置4の小歯車軸4a及び車軸4bの連結を前記例と逆に行った場合には、現車の回生ブレーキを模擬した試験が行える。
【0029】
ちなみに、従来の回転試験機を用いた時速300km相当の回転試験(毎分6000回転)での騒音は103dB(A)であったものが、前述の本発明回転試験機を使用した時速500km相当の回転試験(毎分10000回転)の場合は、70dB(A)と、大幅に騒音が低減できた。防音カバーを設置しなかった場合には、99dB(A)と騒音が大きくなっているが、それでも回転数を考慮すると従来の回転試験機を使用した場合よりも大幅に低減できていることが判る。
【0030】
なお、本発明の回転試験機を使用した場合における前記の騒音計測は、一方の連結軸部の小歯車軸との連結部近傍で測定したものであり、従来の回転試験機を使用した場合の測定値も略同様の測定位置で行った。
【0031】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。たとえば、本例では駆動モータ11、一方の連結軸部12、第2の連結軸部13、他方の連結軸部16の移動を油圧ジャッキ18やモータ20,21によって行うものを示したが、手動で行っても良く、また、第2の連結軸部13を介在させなくても良いなどである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上の本発明は、鉄道車両の駆動装置の回転試験に限らず、各種車両や船舶などの駆動装置の回転試験機にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の回転試験機を構成する試験部の拡大平面図である。
【図2】本発明の回転試験機を構成する回転源側の拡大平面図である。
【図3】本発明の回転試験機を構成する負荷源側の拡大平面図である。
【図4】本発明の回転試験機の全体を示した平面図である。
【図5】本発明の回転試験機に採用した継手の説明図である。
【図6】従来の回転試験機で採用されている継手の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
4 駆動装置
4a 小歯車軸
4b 車軸
11 駆動モータ
11b レール
12 一方の連結軸部
12b レール
14 ダイナモ
15 スライド軸部
16 他方の連結軸部
16b レール
17 無響音室
18 油圧ジャッキ
20,21 モータ
22 継手
22a,22b 継手本体
23 防音カバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置の回転試験を行う装置であって、
前記駆動装置の入力軸又は出力軸に連結される回転源と、
前記駆動装置の出力軸又は入力軸に連結される負荷源と、
これら回転源及び負荷源と、前記駆動装置の入力軸及び出力軸を、継手を介して連結する連結軸部とを備え、
前記連結軸部の連結軸を油膜軸受によって支持すると共に、これら連結軸部と前記駆動装置を無響音室内に設置したことを特徴とする回転試験機。
【請求項2】
前記連結軸部の一方と前記回転源又は負荷源が、前記駆動装置の入力軸又は出力軸と直角の方向にスライドが可能なように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転試験機。
【請求項3】
前記連結軸部の他方と前記負荷源又は回転源との間に伸縮が可能なスライド軸を介在させると共に、前記他方の連結軸部が、前記駆動装置の出力軸又は入力軸の軸方向にスライドが可能なように設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転試験機。
【請求項4】
前記無響音室内に位置する前記継手の連結部品を、当該継手本体内に埋没させたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の回転試験機。
【請求項5】
前記無響音室内に位置する前記連結軸部及び前記継手部の回転部分を覆う防音カバーを設けたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の回転試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−3123(P2006−3123A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177334(P2004−177334)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000182993)住金関西工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】