説明

回転速度検出装置付き車輪用軸受装置

【課題】密封性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】外方部材32にキャップ33が装着され、このキャップ33が、外方部材32のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部33aと、この嵌合部33aから径方向内方に延び、パルサリング11に僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部14cと、この円板部14cから屈曲部14dを介して内方部材31のインナー側の端部を覆う底部14eとを備えると共に、このキャップ33が塗装により防錆皮膜が形成され、円板部14cに回転速度センサ18が近接されて当該キャップ33を介してパルサリング11に対向配置され、回転速度センサ18とのエアギャップAが0.3〜1.0mmの範囲に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承する車輪用軸受装置、特に、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵され、密封性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承すると共に、アンチロックブレーキシステム(ABS)を制御し、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置が一般的に知られている。従来、このような車輪用軸受装置は、転動体を介して転接する内方部材および外方部材の間にシール装置が設けられ、円周方向に磁極を交互に並べてなる磁気エンコーダを前記シール装置に一体化させると共に、磁気エンコーダと、この磁気エンコーダに対面配置され、車輪の回転に伴う磁気エンコーダの磁極変化を検出する回転速度センサとで回転速度検出装置が構成されている。
【0003】
前記回転速度センサは、懸架装置を構成するナックルに車輪用軸受装置が装着された後、当該ナックルに装着されているものが一般的である。しかし、この回転速度センサと磁気エンコーダとのエアギャップの調整作業の煩雑さを解消すると共に、よりコンパクト化を狙って、最近では回転速度センサをも軸受に内蔵した回転速度検出装置付き車輪用軸受装置が提案されている。
【0004】
このような回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の一例として図13に示すような構造が知られている。この回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、図示しないナックルに支持固定され、固定部材となる外方部材51と、この外方部材51に複列のボール53、53を介して内挿された内方部材52とを有している。内方部材52は、ハブ輪55と、このハブ輪55に外嵌された内輪56とからなる。
【0005】
外方部材51は、外周に車体取付フランジ51bを一体に有し、内周には複列の外側転走面51a、51aが形成されている。一方、内方部材52は、前記した外方部材51の外側転走面51a、51aに対向する複列の内側転走面55a、56aが形成されている。これら複列の内側転走面55a、56aのうち一方の内側転走面55aはハブ輪55の外周に一体形成され、他方の内側転走面56aは内輪56の外周に形成されている。この内輪56は、ハブ輪55の内側転走面55aから軸方向に延びる軸状の小径段部55bに圧入されている。そして、複列のボール53、53がこれら両転走面間にそれぞれ収容され、保持器57、57によって転動自在に保持されている。
【0006】
ハブ輪55は、外周に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ54を一体に有し、小径段部55bの端部を径方向外方に塑性変形して加締部58が形成され、この加締部58によって前記内輪56が軸方向に固定されている。そして、外方部材51の端部にはシール59およびカバー63が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から軸受内部に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0007】
内輪56の外周には磁気エンコーダ60が圧入されている。この磁気エンコーダ60は、磁性金属板により断面が略L字状の円環状に形成された支持環61と、この支持環61の側面に添着されたエンコーダ本体62とで構成されている。このエンコーダ本体62は、フェライトの粉末を混入させたゴム等の永久磁石からなり、円周方向にS極とN極とが交互に等間隔に着磁されている。
【0008】
カバー63は、合成樹脂で有蓋円筒状に形成され、その筒部63aが外方部材51の内方側の端部内周に圧入され、蓋部63bで外方部材51の開口部を閉塞している。筒部63aには外方部材51の端面と当接するフランジ64が形成されており、これによりカバー63全体が外方部材51に対して軸方向に精度よく位置決めされ、カバー63に取り付けられたセンサ69の位置管理が容易に行える。
【0009】
また、図14に示すように、カバー63の蓋部63bには筒状のセンサ取付部65が形成され、その内周側に形成されたセンサ取付穴66にセンサ69の挿入部69aが挿入されている。一方、カバー63には、その筒部63aの内周面から蓋部63bの内側面にかけて、有蓋円筒状に形成された芯金67が一体にモールドされている。この芯金67は、カバー63の筒部63aにモールドされた筒状部67aと、この筒状部67aの底部をなす蓋部67bからなり、センサ取付穴66のエンコーダ本体62と対向する側の開口部が閉塞されている。
【0010】
芯金67は、厚さが略0.3mmの非磁性鋼の板材で形成され、蓋部67bを有している分、カバー63の強度を高めると共に、非磁性であるため、回転速度の検出精度には影響を及ぼさない。
【0011】
センサ69は、外装部分が合成樹脂で、挿入部69aをカバー63のセンサ取付穴66に挿入することによりカバー63に取り付けられている。その挿入部69aは、芯金67の蓋部67bを挟んでエンコーダ本体62の一部と所定の軸方向すきまを介して対向し、エンコーダ本体62との対向面の近傍に、磁気エンコーダ60の回転によって発生する磁界変動を検出する検出部(図示せず)を内蔵している。この検出部は、センサ69内で出力ケーブル68の一端の電気信号をケーブル68を介して出力するようになっている。
【0012】
このように、カバー63のセンサ取付穴66のエンコーダ本体62と対向する側の開口部を、非磁性鋼板で有蓋円筒状に形成された芯金67の蓋部67bで閉塞しているので、センサ取付穴66がカバー63を貫通していない分、装置内部への異物の侵入経路が少なく、装置全体の密封性が優れている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4286063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような従来の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、芯金67と合成樹脂からなるカバー63の接合部、すなわち、芯金67の筒状部67aとカバー63の筒部63aおよび芯金67とカバー63の蓋部67b、63bの接合部が、冷熱衝撃等による温度変化で線膨張係数の差により剥れや微小すきまが生じ、長期間に亘って当初の密封性を維持するのが難しい。
【0015】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、密封性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、前記外方部材のインナー側の端部に嵌着され、鋼板からプレス加工により形成されたカップ状のセンサキャップ、およびこのセンサキャップの径方向外方部に装着された回転速度センサとを備え、当該回転速度センサが前記パルサリングに所定の軸方向エアギャップを介して対峙されている回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記外方部材にカップ状のキャップが装着され、このキャップが非磁性体の鋼板からプレス加工により形成され、前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記パルサリングに僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部と、この円板部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部とを備えると共に、このキャップが塗装により防錆皮膜が形成され、前記円板部に前記回転速度センサが近接されて当該キャップを介して前記パルサリングに対向配置されている。
【0017】
このように、内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、外方部材のインナー側の端部に嵌着され、鋼板からプレス加工により形成されたカップ状のセンサキャップ、およびこのセンサキャップの径方向外方部に装着された回転速度センサとを備え、当該回転速度センサがパルサリングに所定の軸方向エアギャップを介して対峙されている回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、外方部材にカップ状のキャップが装着され、このキャップが非磁性体の鋼板からプレス加工により形成され、外方部材のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、パルサリングに僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部と、この円板部から屈曲部を介して内方部材のインナー側の端部を覆う底部とを備えると共に、このキャップが塗装により防錆皮膜が形成され、円板部に回転速度センサが近接されて当該キャップを介してパルサリングに対向配置されているので、煩雑なエアギャップ調整を省いて組立作業性の向上が図れると共に、キャップにより軸受内部を密封することができ、また、塗装による防錆皮膜により嵌合部の気密性が向上し、密封性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することができる。
【0018】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記防錆皮膜がカチオン電着塗装で形成され、この下地処理としてリン酸亜鉛処理が施されていれば、リン酸亜鉛処理により素材となる鋼材の表面が化学反応で粗面化されるため、塗料の食い付きが良くなって付着性が向上し、防錆皮膜が剥がれ落ちることなく長期間に亘って発錆するのを防止することができる。
【0019】
また、請求項3に記載の発明のように、前記キャップの嵌合部の外周面に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着により一体に接合されていれば、外方部材との嵌合部の気密性が高くなり、密封性が向上する。
【0020】
また、請求項4に記載の発明のように、前記キャップの少なくとも円板部の肉厚が他の部分の肉厚よりも薄く形成されていれば、エアギャップを小さく設定することが可能になり、検出精度を高めることができる。
【0021】
また、請求項5に記載の発明のように、前記キャップと回転速度センサとのエアギャップが0.3〜1.0mmの範囲に設定されていれば、荷重を受けて軸受が変形してもキャップと回転速度センサが接触することなく、また、回転速度センサの検出精度を安定して確保することができる。
【0022】
また、請求項6に記載の発明のように、前記センサキャップが、前記外方部材の端部に嵌着される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記外方部材のインナー側の端面に密着する底部とを備え、この底部に嵌挿孔が路面に対して水平位置に形成されると共に、この嵌挿孔に前記回転速度センサが着脱自在に装着されていれば、センサキャップの位置決め精度が向上すると共に、車輪からの横方向荷重により外方部材と内方部材が相対的に傾いた状態においても、回転速度センサとパルサリングのエアギャップ変動を抑制することができ、安定した検出精度を得ることができる。
【0023】
また、請求項7に記載の発明のように、前記センサキャップの嵌合部が前記外方部材の端部外周に圧入されると共に、前記外方部材の端部外周に環状溝が形成され、この環状溝に前記嵌合部の端部が加締られていれば、車輪からの入力荷重により前記嵌合部が変形を繰り返すことによるセンサキャップの軸方向抜けを防止することができ、当初のエアギャップを維持することができる。また、車輪入力荷重による外方部材の嵌合部変形量は、外方部材の肉厚が薄い方が大きく軸方向抜けには不利であるが、センサキャップの端面を加締ることにより軸方向抜けを防止できるため、一層軸受部の軽量化が可能となる。
【0024】
また、請求項8に記載の発明のように、前記センサキャップが耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼板から形成されていれば、長期間に亘って発錆を防止し、耐久性を向上させることができる。
【0025】
また、請求項9に記載の発明のように、前記センサキャップの嵌合部と底部の隅部で、路面に近い側にドレーンが形成されていれば、例えセンサキャップ内に外部から雨水等の異物が浸入したとしてもこの異物がセンサキャップ内を流動落下し、底部の径方向下部から異物を効果的に排出させることができる。
【0026】
また、請求項10に記載の発明のように、前記センサキャップの底部の中心部またはその周辺に穿孔が形成され、前記底部の軸受内方側に固定ナットが圧入されると共に、この固定ナットに取付部材を介して取付ボルトを締結することによって前記回転速度センサが固定されていれていれば、取付ボルトの締結により固定ナットが底部の内側面に引き込まれるため、固定ナットの圧入だけで脱落を防止することができる。また、固定ナットの圧入部に軸方向溝等の回り止め形状が施されていれば、取付けボルト締結時のナットスリップに対しても有利である。
【0027】
また、請求項11に記載の発明のように、前記複列の転動体列のうちアウター側の転動体列のピッチ円直径がインナー側の転動体列のピッチ円直径よりも大径に設定されると共に、アウター側の転動体列の転動体径がインナー側の転動体列の転動体径よりも小径に設定され、かつ、アウター側の転動体列の転動体数がインナー側の転動体列の転動体数よりも多く設定されていれば、インナー側に比べアウター側部分の軸受剛性を増大させることができ、軸受の長寿命化を図ることができると共に、外方部材のアウター側の外径寸法を抑えつつ高剛性化を図ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、前記外方部材のインナー側の端部に嵌着され、鋼板からプレス加工により形成されたカップ状のセンサキャップ、およびこのセンサキャップの径方向外方部に装着された回転速度センサとを備え、当該回転速度センサが前記パルサリングに所定の軸方向エアギャップを介して対峙されている回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記外方部材にカップ状のキャップが装着され、このキャップが非磁性体の鋼板からプレス加工により形成され、前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記パルサリングに僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部と、この円板部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部とを備えると共に、このキャップが塗装により防錆皮膜が形成され、前記円板部に前記回転速度センサが近接されて当該キャップを介して前記パルサリングに対向配置されているので、煩雑なエアギャップ調整を省いて組立作業性の向上が図れると共に、キャップにより軸受内部を密封することができ、また、塗装による防錆皮膜により嵌合部の気密性が向上し、密封性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の検出部を示す要部拡大図である。
【図3】本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す図4のIII−O−III線に沿った縦断面図である。
【図4】図3の側面図である。
【図5】図3の検出部を示す要部拡大図である。
【図6】図4のドレーン部を示す要部拡大図である。
【図7】図5の変形例を示す要部拡大図である。
【図8】本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す縦断面図である。
【図9】図8の検出部を示す要部拡大図である。
【図10】図8のドレーン部を示す要部拡大図である。
【図11】本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の第4の実施形態を示す縦断面図である。
【図12】図11のドレーン部を示す要部拡大図である。
【図13】従来の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図14】図13の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、前記外方部材のインナー側の端部に嵌着され、鋼板からプレス加工により形成されたカップ状のセンサキャップ、およびこのセンサキャップの径方向外方部に装着された回転速度センサとを備え、当該回転速度センサが前記パルサリングに所定の軸方向エアギャップを介して対峙されている回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記外方部材にキャップが装着され、このキャップが、前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記パルサリングに僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部と、この円板部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部とを備えると共に、このキャップが塗装により防錆皮膜が形成され、前記円板部に前記回転速度センサが近接されて当該キャップを介して前記パルサリングに対向配置され、前記回転速度センサとのエアギャップが0.3〜1.0mmの範囲に設定されている。
【実施例1】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の検出部を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0032】
図1に示す回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は従動輪側の第3世代と呼称され、内方部材31と外方部材32と複列の転動体(ボール)3、3とを備えている。内方部材31は、ハブ輪34と、このハブ輪34に固定された別体の内輪5とからなる。
【0033】
ハブ輪34は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから軸方向に延びる小径段部4bが形成されている。車輪取付フランジ6の円周等配位置には車輪を固定するためのハブボルト6aが植設されている。
【0034】
内輪5は、外周に他方(インナー側)の内側転走面5aが形成され、ハブ輪34の小径段部4bに所定のシメシロを介して圧入されている。そして、小径段部4bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部4cによって所定の軸受予圧が付与された状態で軸方向に固定されている。
【0035】
ハブ輪34はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aをはじめ、後述するシール9のシールランド部となる車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部4bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部4cは、鍛造後の素材表面硬さ25HRC以下の未焼入れ部としている。また、内輪5および転動体3はSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。
【0036】
一方、外方部材32は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ2cを一体に有し、内周に内方部材31の複列の内側転走面4a、5aに対向する複列の外側転走面2a、2aが一体に形成されている。この外方部材32は、ハブ輪34と同様、S53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面2a、2aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。そして、これら両転走面2a、4aおよび2a、5a間に保持器7を介して複列の転動体3、3が転動自在に収容されている。
【0037】
外方部材32と内方部材31間に形成される環状空間の開口部のうちアウター側の開口部にはシール9が装着され、インナー側の開口部にはキャップ33が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0038】
なお、ここでは、車輪用軸受装置として、転動体3をボールとした複列アンギュラ玉軸受で構成されたものを例示したが、これに限らず転動体に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成されたものであっても良い。また、第3世代の構造を例示したが、一対の内輪をハブ輪に圧入した、所謂第2世代の構造であっても良い。
【0039】
アウター側のシール9は、外方部材32のアウター側端部の内周に所定のシメシロを介して圧入された芯金35と、この芯金35に加硫接着によって一体に接合されたシール部材36とからなる一体型のシールで構成されている。芯金35は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)や冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面略L字状に形成されている。
【0040】
一方、シール部材36はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して形成され、車輪取付フランジ6のインナー側の側面に所定の軸方向シメシロをもって摺接するサイドリップ36aと、断面が円弧状に形成された基部6bに所定の軸方向シメシロをもって摺接するダストリップ36bと、軸受内方側に傾斜して形成され、基部6bに所定の径方向シメシロを介して摺接するグリースリップ36cとを有している。
【0041】
なお、シール部材36の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0042】
ここで、内輪5の外径にパルサリング11が圧入されている。このパルサリング11は、強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)や防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工によってL字状に、全体として円環状に形成された支持環12と、この支持環12のインナー側の側面に加硫接着等で一体に接合された磁気エンコーダ13とで構成されている。
【0043】
支持環12は、図2に拡大して示すように、内輪5の外径に圧入される円筒状の嵌合部12aと、この嵌合部12aから径方向内方に延びる立板部12bとを備えている。そして、この立板部12bに磁気エンコーダ13が一体に接合されている。この磁気エンコーダ13は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向に交互に磁極N、Sが着磁されて車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。
【0044】
なお、ここでは、ゴム磁石からなる磁気エンコーダ13を有するパルサリング11を例示したが、これに限らず、円周方向に交互に、かつ等間隔に特性が変化する構成であれば良く、複数の透孔や凹凸が形成された鋼板製のパルサリングであっても良いし、焼結合金で形成されたものでも良い。また、プラスチック磁石が接合されたものでも良い。
【0045】
本実施形態では、外方部材32のインナー側の端部内周にキャップ33が圧入され、外方部材32のインナー側の開口部を閉塞している。このキャップ33は、後述する回転速度センサ18の感知性能に悪影響を及ぼさないように、耐食性を有する非磁性体の鋼板、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板にカチオン電着塗装により防錆皮膜が形成されたものが使用されている。そして、この防錆皮膜の下地処理(前処理)としてリン酸亜鉛処理が施されている。これにより、リン酸亜鉛処理により素材となる鋼材の表面が化学反応で粗面化されるため、塗料の食い付きが良くなって付着性が向上し、防錆皮膜が剥がれ落ちることなく長期間に亘って発錆するのを防止することができると共に、外方部材32との嵌合部の気密性が向上する。なお、ここでは、防錆皮膜としてカチオン電着塗装を例示したが、これ以外にも、例えば、アニオン電着塗装やフッ素電着塗装等でも良い。
【0046】
キャップ33は、外方部材32の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部33aと、この嵌合部33aから径方向内方に延び、磁気エンコーダ13に僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部14cと、この円板部14cから屈曲部14dを介して内方部材1のインナー側の端部を覆う底部14eとを備えている。
【0047】
本実施形態では、キャップ33のインナー側に、さらにセンサキャップ37が装着されている。このセンサキャップ37は耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼板からプレス成形してカップ状に形成され、そして、カチオン電着塗装等の防錆処理され、外方部材32のインナー側の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部16aと、外方部材32のインナー側の端面32aに密着する底部37aとを備えている。
【0048】
センサキャップ37の底部37aの径方向外方部で、磁気エンコーダ13と対向する部分には嵌挿孔17が形成され、この嵌挿孔17に回転速度センサ18が挿入されている。この回転速度センサ18はPA66等の射出成形可能な合成樹脂で形成され、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁束の流れ方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子およびこの磁気検出素子の出力波形を整える波形整形回路が組み込まれたIC(図示せず)等が包埋され、車輪の回転速度を検出してその回転数を制御する自動車のABSを構成している。
【0049】
また、嵌挿孔17の近傍に軸方向に貫通する穿孔19が穿設され、この穿孔19の内側に固定ナット20が圧入されている。そして、センサキャップ37の嵌挿孔17に嵌挿された回転速度センサ18が、取付部材38を介して取付ボルト39を固定ナット20に締結することによって固定されている。このように、取付ボルト39の締結により固定ナット20が底部37aの内側面に引き込まれるため、固定ナット20の圧入だけで脱落を防止することができる。なお、センサキャップ37の穿孔19に固定ナット20を加締固定しても良い。
【0050】
ここで、回転速度センサ18がキャップ33の円板部14cに近接するまで挿入されている。これにより、所望のエアギャップが得られ、煩雑なエアギャップ調整を省いて組立作業性の向上が図れるとともに、キャップ33により軸受内部を密封することができ、密封性の向上を図った回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することができる。また、本実施形態では、キャップ33が外方部材32の端部内周に圧入されているので、外嵌タイプに比べキャップ33自体の剛性が高くなると共に、塗装による防錆皮膜により外方部材32との嵌合部の気密性が向上する。
【0051】
図2において、エアギャップA(キャップ33と回転速度センサ18との軸方向すきま)は0.3〜1.0mmの範囲に設定されている。これは、エアギャップAが0.3mm未満であると、荷重を受けて軸受が変形した際、キャップ33と回転速度センサ18が接触してしまう恐れがあるためである。一方、エアギャップAが1.0mmを超えると、回転速度センサ18の検出が不安定になって好ましくない。
【0052】
エアギャップAの範囲は各部品と組立精度を管理することによって行われるが、例えば、キャップ33の圧入位置L1を8mmとして、その交差を±0.1mm、センサキャップ37の板厚tを1mmとして、その交差を±0.1mm、さらに、回転速度センサ18の首下長さL2を8.35mmとして、その交差を±0.15mmに規制した場合、エアギャップA=L1+t−L2=0.65mm±0.35mmとなる。したがって、エアギャップAのバラツキを0.3〜1.0mmの範囲に設定することができる。
【実施例2】
【0053】
図3は、本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す図4のIII−O−III線に沿った縦断面図、図4は、図3の側面図、図5は、図3の検出部を示す要部拡大図、図6は、図4のドレーン部を示す要部拡大図、図7は、図5の変形例を示す要部拡大図である。なお、前述した実施形態と同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0054】
この回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は従動輪側の第3世代と呼称され、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)3a、3b列とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0055】
ハブ輪4は、アウター側の端部に車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方の内側転走面4aと、この内側転走面4aから軸方向に延びる軸状部4dを介して小径段部4bが形成されている。
【0056】
また、ハブ輪4のアウター側端部には軸方向に延びるすり鉢状の凹所10が形成されている。この凹所10は鍛造加工によってアウター側の端面から内側転走面4aの溝底部に対応する深さまで形成され、ハブ輪4のアウター側の肉厚が略均一に設定されている。
【0057】
内輪5は、外周に他方の内側転走面5aが形成され、ハブ輪4の小径段部4bに圧入されて背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成すると共に、小径段部4bの端部を塑性変形させて形成した加締部4cによって内輪5が軸方向に固定されている。これにより、軽量・コンパクト化を図ることができる。なお、転動体3a、3bはSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0058】
ハブ輪4はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aをはじめ、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部4bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。これにより、車輪取付フランジ6に負荷される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、内輪5の嵌合部となる小径段部4bの耐フレッティング性が向上する。
【0059】
外方部材2は、外周に車体取付フランジ2cを一体に有し、内周にハブ輪4の内側転走面4aに対向するアウター側の外側転走面2aと、内輪5の内側転走面5aに対向するインナー側の外側転走面2bが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3a、3b列が収容され、保持器7、8によって転動自在に保持されている。そして、外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のアウター側の開口部にシール9が装着されると共に、インナー側の開口部には後述するキャップ14が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0060】
外方部材2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、複列の外側転走面2a、2bが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0061】
本実施形態では、アウター側の転動体3a列のピッチ円直径PCDoがインナー側の転動体3b列のピッチ円直径PCDiよりも大径に設定されると共に、アウター側の転動体3a列の転動体径doがインナー側の転動体3b列の転動体径diよりも小径(do<di)に設定されている。このピッチ円直径PCDo、PCDiと転動体径do、diの違いにより、アウター側の転動体3a列の転動体数Zoがインナー側の転動体3b列の転動体数Ziよりも多く設定されている(Zo>Zi)。これにより、インナー側に比べアウター側部分の軸受剛性を増大させることができ、軸受の長寿命化を図ることができる。なお、ここでは、アウター側の転動体3aとインナー側の転動体3bがサイズの異なるものを例示したが、これに限らず、両列同じサイズであっても良い。
【0062】
本実施形態では、内輪5の外周にパルサリング11が圧入されている。このパルサリング11は、図5に拡大して示すように、円環状に形成された支持環12と、この支持環12の側面に加硫接着等で一体に接合された磁気エンコーダ13とで構成されている。
【0063】
ここで、外方部材2にキャップ14が装着され、外方部材2のインナー側の開口部を閉塞している。このキャップ14は、耐食性を有し、回転速度センサ18の感知性能に悪影響を及ぼさないように、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板からなり、カチオン電着塗装により防錆皮膜が形成されたものが使用され、外方部材2のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部14aと、この嵌合部14aから縮径部14bを介して磁気エンコーダ13に僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部14cと、この円板部14cから屈曲部14dを介して内方部材1のインナー側の端部を覆う底部14eとを備えている(図3参照)。
【0064】
本実施形態では、キャップ14の縮径部14bにNBR等の合成ゴムからなる弾性部材15が加硫接着によって一体に接合されている。この弾性部材15は、キャップ14の円板部14cの側面からインナー側に突出して回転速度センサ18に干渉しないように接合され、嵌合部14aの外径より径方向外方に突出する環状突起15aを備えている。そして、外方部材2の端部内周の嵌合面がビビリ高さ3μm以下に規制されると共に、この環状突起15aがキャップ14の嵌合時に外方部材2の端部内周に弾性変形して圧着され、嵌合部14aの気密性を高めている。
【0065】
また、キャップ14のインナー側に、さらにセンサキャップ16が装着されている。このセンサキャップ16は耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼板からプレス成形してカップ状に形成され、そしてカチオン電着塗装され、外方部材2のインナー側の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部16aと、外方部材2のインナー側の端面に密着する底部16bとを備えている。
【0066】
このセンサキャップ16の底部16bには、図4に示すように、磁気エンコーダ13に対応する水平位置に嵌挿孔17が形成され、この嵌挿孔17に回転速度センサ18が嵌挿される。このように、嵌挿孔17が水平位置に形成され、この嵌挿孔17に回転速度センサ18が装着されていれば、車輪からの横方向荷重により外方部材2と内方部材1が相対的に傾いた状態においても、回転速度センサ18と磁気エンコーダ13のエアギャップ変動を抑制することができ、安定した検出精度を得ることが出来る。
【0067】
また、本実施形態では、センサキャップ16の底部16bの径方向外方側にドレーン21が形成されている(図4、図6参照)。このドレーン21は、図4に示すように、嵌合部16aと底部16bの路面に近い側の隅部に形成されている。これにより、例えセンサキャップ16内に外部から雨水等の異物が浸入したとしてもこの異物がセンサキャップ16内を流動落下し、底部16bの径方向下部から異物を効果的に排出させることができる。なお、このドレーン21として矩形状の孔を例示したが、これに限らず、例えば、円孔であっても良いし、まゆ形であっても良い。
【0068】
図7に、図5のキャップ14の変形例を示す。この実施形態は、前述したものと基本的にはキャップの構成が一部異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0069】
外方部材2にキャップ22が装着され、外方部材2のインナー側の開口部を閉塞している。このキャップ22は、耐食性を有し、回転速度センサ18の感知性能に悪影響を及ぼさないように、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成され、外方部材2のインナー側の端部内周に圧入される合成ゴムからなる弾性部材15が設けられた円筒状の嵌合部22aと、この嵌合部22aから縮径部22bを介して磁気エンコーダ13に僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部22cとを備えている。
【0070】
そして、嵌合部22aから円板部22cに亙って、他の部分の肉厚H1よりも肉厚H2が薄く形成されている。具体的には、他の部分の肉厚H1が1.0〜1.5mmに対して、少なくとも円板部22cの肉厚H2が0.2〜1.0mmに形成されている。これにより、エアギャップを小さく設定することが可能になり、検出精度を高めることができる。なお、この肉厚H2が0.2mm未満では、円板部22cの形状を精度良く成形するのが難しくなると共に、1.0mmを超えると、エアギャップが大きくなって所望の磁気特性を得ることができず検出精度が低下する。
【実施例3】
【0071】
図8は、本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す縦断面図、図9は、図8の検出部を示す要部拡大図、図10は、図8のドレーン部を示す要部拡大図である。なお、この実施形態は、前述した第2の実施形態(図3)と基本的にはセンサキャップの構成が異なるだけで、その他同一部品、同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0072】
センサキャップ24は外方部材2の端部内周に圧入され、外方部材2のインナー側の開口部を閉塞している。このセンサキャップ24は、耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やカチオン電着塗装、あるいは亜鉛メッキ等、防錆処理された冷間圧延鋼板等をプレス成形してカップ状に形成され、外方部材2のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部24aと、外方部材2のインナー側の端面に密着する底部24bとを備えている。このセンサキャップ24の底部24bの中心部またはその近傍に固定ナット20が圧入されている。本実施形態では、センサキャップ24が外方部材2の端部内周に圧入されているため、外嵌タイプよりもセンサキャップ24自体の剛性が高まり、走行中に飛石等が衝突しても変形や損傷するのを防止することができる。
【0073】
ここで、図9に拡大して示すように、センサキャップ24の底部24bの磁気エンコーダ13に対応する位置に嵌挿孔17が形成され、この嵌挿孔17に回転速度センサ18が嵌挿されている。また、図10に拡大して示すように、センサキャップ24の底部24bの径方向外方側にドレーン25が形成されている。このドレーン25は、嵌合部24aと底部24bの路面に近い側の隅部に形成されている。これにより、センサキャップ24内に外部から雨水等の異物が浸入したとしてもこの異物がセンサキャップ24内を流動落下し、効果的に排出させることができる。
【実施例4】
【0074】
図11は、本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の第4の実施形態を示す縦断面図、図12は、図11のドレーン部を示す要部拡大図である。なお、この実施形態は、前述した第2の実施形態(図3)と基本的にはセンサキャップの構成が異なるだけで、その他同一部品、同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0075】
センサキャップ26は外方部材2の端部外周に圧入され、外方部材23のインナー側の開口部を閉塞している。このセンサキャップ26は、耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形してカップ状に形成されてカチオン電着塗装されたものが使用され、外方部材23のインナー側の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部26aと、外方部材23のインナー側の端面に密着する底部26bとを備えている。そして、このセンサキャップ26の底部26bの中心部またはその近傍に固定ナット20が圧入されている。
【0076】
ここで、図12に拡大して示すように、センサキャップ26の底部26bの径方向外方側にドレーン21が形成されている。また、本実施形態では、外方部材23の端部外周に環状溝27が形成され、センサキャップ26が外方部材23の端部内周に圧入されると共に、嵌合部26aの端部が環状溝27に塑性変形により加締部28が形成され、この加締部28によって車輪からの入力荷重により嵌合部が変形を繰り返すことによるセンサキャップ26が軸方向に移動するのを防止することができ、長期間に亘って当初のエアギャップを維持することができる。また、車輪入力荷重による外方部材23の嵌合部変形量は、外方部材23の肉厚が薄い方が大きく軸方向抜けには不利であるが、センサキャップ26の端面を加締ることにより軸方向抜けを防止できるため、一層の軸受軽量化が可能となる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、従動輪用、あるいは転動体がボール、円錐ころ等、あらゆる構造の内輪回転タイプの車輪用軸受装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1、31 内方部材
2、23、32 外方部材
2a、2b 外側転走面
2c 車体取付フランジ
3 転動体
3a アウター側の転動体
3b インナー側の転動体
4、34 ハブ輪
4a、5a 内側転走面
4b 小径段部
4c、28 加締部
4d 軸状部
5 内輪
6 車輪取付フランジ
6a ハブボルト
6b 車輪取付フランジのインナー側の基部
7、8 保持器
9 シール
10 凹所
11 パルサリング
12 支持環
12a、14a、16a、22a、24a、26a、33a 嵌合部
12b 立板部
13 磁気エンコーダ
14、22、33 キャップ
14b、22b 縮径部
14c、22c 円板部
14d 屈曲部
14e、16b、24b、26b、37a 底部
15 弾性部材
15a 環状突起
16、24、26、37 センサキャップ
17 嵌挿孔
18 回転速度センサ
19 穿孔
20 固定ナット
21、25 ドレーン
27 環状溝
32a 外方部材のインナー側の端面
35 芯金
36 シール部材
36a サイドリップ
36b ダストリップ
36c グリースリップ
38 取付部材
39 取付ボルト
51 外方部材
51a 外側転走面
51b 車体取付フランジ
52 内方部材
53 ボール
54 車輪取付フランジ
55 ハブ輪
55a、56a 内側転走面
55b 小径段部
56 内輪
57 保持器
58 加締部
59 シール
60 磁気エンコーダ
61 支持環
62 エンコーダ本体
63 カバー
63a 筒部
63b、67b 蓋部
64 フランジ
65 センサ取付部
66 センサ取付穴
67 芯金
67a 筒状部
68 ケーブル
69 センサ
69a 挿入部
A エアギャップ
di インナー側の転動体列の転動体径
do アウター側の転動体列の転動体径
H1 キャップの肉厚
H2 キャップの円板部の肉厚
L1 キャップの圧入位置
L2 回転速度センサの首下長さ
PCDi インナー側の転動体列のピッチ円直径
PCDo アウター側の転動体列のピッチ円直径
t センサキャップの板厚
Zi インナー側の転動体列の転動体数
Zo アウター側の転動体列の転動体数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪とからなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記内輪に外嵌され、円周方向に特性を交互に、かつ等間隔に変化させたパルサリングと、
前記外方部材のインナー側の端部に嵌着され、鋼板からプレス加工により形成されたカップ状のセンサキャップ、およびこのセンサキャップの径方向外方部に装着された回転速度センサとを備え、
当該回転速度センサが前記パルサリングに所定の軸方向エアギャップを介して対峙されている回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、
前記外方部材にカップ状のキャップが装着され、このキャップが非磁性体の鋼板からプレス加工により形成され、前記外方部材のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記パルサリングに僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部と、この円板部から屈曲部を介して前記内方部材のインナー側の端部を覆う底部とを備えると共に、
このキャップが塗装により防錆皮膜が形成され、前記円板部に前記回転速度センサが近接されて当該キャップを介して前記パルサリングに対向配置されていることを特徴とする回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記防錆皮膜がカチオン電着塗装で形成され、この下地処理としてリン酸亜鉛処理が施されている請求項1に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記キャップの嵌合部の外周面に合成ゴムからなる弾性部材が加硫接着により一体に接合されている請求項1または2に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記キャップの少なくとも円板部の肉厚が他の部分の肉厚よりも薄く形成されている請求項1乃至3いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記キャップと回転速度センサとのエアギャップが0.3〜1.0mmの範囲に設定されている請求項1乃至4いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記センサキャップが、前記外方部材の端部に嵌着される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記外方部材のインナー側の端面に密着する底部とを備え、この底部に嵌挿孔が路面に対して水平位置に形成されると共に、この嵌挿孔に前記回転速度センサが着脱自在に装着されている請求項1に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記センサキャップの嵌合部が前記外方部材の端部外周に圧入されると共に、前記外方部材の端部外周に環状溝が形成され、この環状溝に前記嵌合部の端部が加締られている請求項6に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記センサキャップが耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼板から形成されている請求項6または7に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記センサキャップの嵌合部と底部の隅部で、路面に近い側にドレーンが形成されている請求項6乃至8いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記センサキャップの底部の中心部またはその周辺に穿孔が形成され、前記底部の軸受内方側に固定ナットが圧入されると共に、この固定ナットに取付部材を介して取付ボルトを締結することによって前記回転速度センサが固定されていれている請求項6乃至9いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項11】
前記複列の転動体列のうちアウター側の転動体列のピッチ円直径がインナー側の転動体列のピッチ円直径よりも大径に設定されると共に、アウター側の転動体列の転動体径がインナー側の転動体列の転動体径よりも小径に設定され、かつ、アウター側の転動体列の転動体数がインナー側の転動体列の転動体数よりも多く設定されている請求項1に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−106547(P2012−106547A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255554(P2010−255554)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】