説明

回転防止用2ピースオイルリング及びそれを用いた2ピースオイルリングの回転防止構造

【課題】オイルリングのシリンダ内壁面におけるオイル掻き機能の低減防止を図ることができると共に、製造コストの増大を抑制し、且つ相手攻撃性を抑制することが可能な回転防止用2ピースオイルリング及びそれを用いた2ピースオイルリングの回転防止構造を提供する。
【解決手段】オイルリング本体の略H型状断面におけるウェブ位置と、上側レール又は下側レールの内周端部との間の領域に、当該合口部より所定距離離れた当該内周端部から当該合口端部に対し略平行に所定距離の切り込みを入れて形成した切り込み領域を備え、当該切り込み領域を折り曲げて、ピストンが備えるドレン孔に挿入係止可能な突出部を備え、当該突出部の先端のオイルリング周方向側端面の角部が、面取り加工されているものを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、内燃機関のエンジンの駆動時に、ピストンのオイルリング溝に装着したオイルリングがオイルリング溝に沿って回転することを防止するための2ピースオイルリング及びそれを用いた2ピースオイルリングの回転防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車用エンジンの性能の向上に伴い、内燃機関に用いられるオイルリングにも、摩擦力の低下とエンジンオイル消費量の低減とを共に満足するものが求められている。そのため、オイルリングの形状等に種々の工夫が施されている。例えば、摩擦力を低下させるためにシリンダボア内に配置するオイルリングを低張力化し、オイル消費改善のためにオイルリングの薄幅化を図ったもの等が用いられている。また、一般的にオイルリングには、2ピース形オイルリングと3ピース形オイルリングと呼ばれる構成の異なるオイルリングが存在している。しかし、3ピース形オイルリングの構造は、2ピース形オイルリングの構造と比較して複雑であるため、シリンダ軸方向の幅を薄幅化するためのスペーサエキスパンダ等の製造が困難であり、上述の課題に対して、主に2ピース形オイルリング(以下、2ピースオイルリングと称する。)が採用されてきた。
【0003】
この2ピースオイルリングにおけるオイルリング本体は、オイルリング本体の上側部分及び下側部分を構成する上側レール部及び下側レールと、これら各レールと連結するウェブとからなる。そして、当該オイルリング本体が備える上側レール及び下側レールは、ピストンが往復動作する際に、各々の外周摺動面がシリンダの内壁面に対して油膜を介した状態で摺動する。オイルリングは、シリンダ内壁面についている余分なエンジンオイルを掻き落とす機能と、シリンダ内壁面に適度な油膜を形成してピストンの焼付きを防止する機能とを有し、ピストンエンジンには必要不可欠なものである。
【0004】
オイルリングには、様々な種類又は形状の物が存在し、使用環境や耐久性等の要求特性によって適当な物が選択される。オイルリングは、その形状や材質等についての選択がエンジンの燃費や寿命に大きく影響を与え、エンジンの性能に影響を及ぼす部品である。ここで、オイルリング本体とコイルエキスパンダとから成る2ピースオイルリングには、構造上合口が切ってあり、シリンダ内壁面への追従性とピストンへの組付性が要求される。この2ピースオイルリングの構造により、例えば、水平対向エンジン等のように、シリンダの組み付け位置が、地面に対しほぼ水平となる内燃機関に2ピースオイルリングを使用する場合や、V型構造のエンジンの片側を水平に近づけて用いる場合に、オイルリングの合口部がシリンダ内壁面の下部に位置する領域にあると、オイルが合口部を通過し燃焼室に達しエンジンの始動時に白煙を生ずる他、潤滑油消費量が増大する恐れがある。
【0005】
上述の問題を回避すべく、例えば、特許文献1(特開平8−296738号)には、簡単な構成で回り止めを行える組合せオイルリングの回り止め構造について開示がされている。具体的には、特許文献1には、ピストンのオイルリング溝の底面からオイルリング溝内に突出する回り止めピンが、オイルリング溝内に装着された当該組合せオイルリングにおけるコイルエキスパンダに干渉するのを回避する形状を有し、オイルリング本体の合口端部の内周に形成されている切欠部に配置する構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献2(特開平9−317885号)には、ピストンへの装着性が良好であり、また、オイルリング上下面とリング溝側面とのシール性が良好であり、更に、オイルリングの回転を防止する回り止め部材が外れた場合でも回り止め機能を維持できる、組合せオイルリングの回り止め構造について開示がされている。具体的には、特許文献2には、オイルリングの下面のオイルリング外周に開口させて形成した凹部に回り止め部材を固着し、当該回り止め部材をオイルリング溝の下側面に形成した凹部に挿入させて配置させる構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−296738号公報
【特許文献2】特開平9−317885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述の特許文献1の組合せオイルリングの回り止め構造は、オイルリングのピストンのオイルリング溝における周方向への回転を防止するための回り止めピンの形状が複雑であることから、当該回り止めピンの加工も複雑となり、当該ピンの製造に要する時間や新たな設備の導入の必要性が生じること等により製造コストの増大を招くことは明らかである。また、特許文献1の組合せオイルリングの回り止め構造は、回り止めピンなる別部材を用いてオイルリングの固定を行っているため、部品数の増大に伴い、組付作業性の低下と製造コストの増大とを招く恐れがある。
【0009】
また、特許文献2のオイルリングの回り止め構造は、オイルリングの下面に回り止め部材を固着するための凹部を形成して当該回り止め部材を溶接等により固着し、更に、オイルリング溝の下側面に当該回り止め部材を挿入して配置させるための凹部を形成する必要があるため、特許文献1と同様に、加工が複雑になり製造コストの増大を招くことは明らかである。なお、特許文献2には、オイルリングの回り止め構造に用いる回り止め部材が長方形の平板材である実施形態が開示されているが、当該回り止め部材に長方形の平板材を採用した場合、ピストンが備えるドレン孔に対する攻撃性が増大し、双方部材に摩耗損傷が起こりやすくなる。
【0010】
以上のことから、本件発明は、オイルリングのシリンダ内壁面におけるオイル掻き機能の低減防止を図ることができると共に、製造コストの増大を抑制し、且つ相手攻撃性を抑制することが可能な回転防止用2ピースオイルリング及びそれを用いた2ピースオイルリングの回転防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、オイルリング本体に必要最小限の加工を施して、当該オイルリング本体に相手攻撃性を抑制可能となる形状を呈した回り止め部を形成することで、上述した課題を解決するに到った。以下、本件発明に関して説明する。
【0012】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング: 本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングは、内燃機関用エンジンに用いられ、ピストンのオイルリング溝に装着したオイルリングがオイルリング溝に沿って回転することを防止するための2ピースオイルリングであって、当該2ピースオイルリングは、オイル戻し孔を備えるウェブの一端側に上側レール、他端側に下側レールを配する断面が略H型状で、且つ、合口部を備えるオイルリング本体と、当該オイルリング本体を当該シリンダ内壁面に対して押圧付勢するようにオイルリング本体の内周側に配するコイルエキスパンダとからなり、当該オイルリング本体の略H型状断面におけるウェブ位置と、上側レール又は下側レールの内周端部との間の領域に、当該合口部より所定距離離れた当該内周端部から当該合口端部に対し略平行に所定長さの切り込みを入れて形成した切り込み領域を備え、当該切り込み領域を折り曲げて、ピストンが備えるドレン孔に挿入係止可能な突出部を備え、当該突出部の先端のオイルリング周方向側端面の角部が、面取り加工されていることを特徴とする。
【0013】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングにおいて、前記突出部の先端の角部に施される面取り加工は、R面取り加工であり、当該角部の曲率半径Rが0.1mm〜2.0mmであることが好ましい。
【0014】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングにおいて、前記突出部の先端の角部に施される面取り加工は、C面取り加工であり、当該角部の面取り量Cが0.1mm〜1.0mmであることが好ましい。
【0015】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングにおいて、前記突出部のオイルリング上面又は下面からの突出量Hが0.1mm以上であることが好ましい。
【0016】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングにおいて、前記突出部が挿入係止する前記ドレン孔は、その断面が略円形であることが好ましい。
【0017】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングにおいて、前記突出部が挿入係止する前記ドレン孔は、その断面が略四角形であることが好ましい。
【0018】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングにおいて、前記突出部が挿入係止する前記ドレン孔は、その断面が略楕円形であることが好ましい。
【0019】
本件発明に係る2ピースオイルリングの回転防止構造: 本件発明に係る2ピースオイルリングの回転防止構造は、前記回転防止用2ピースオイルリングのオイルリング本体を構成する、上側レール又は下側レールに連接して形成した突出部を、ピストンに設けたドレン孔内に挿入配置することで、オイルリングとピストンとを係止して、エンジンの駆動時に、ピストンのオイルリング溝に装着したオイルリングがオイルリング溝に沿った回転を防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングは、オイルリング本体の合口部近傍で、一方のレールに連接して、ピストンが備えるドレン孔に挿入係止可能な突出部を設けることで、製造コストの増加を招くことなく、また当該突出部が相手攻撃性を抑制可能な形状であることで、長期間安定してオイルリングのピストンのオイルリング溝における周方向への回転を防止することができる。また、本件発明に係る2ピースオイルリングの回転防止構造は、組付性及び作業性に優れる簡単な構造でありながらも、オイルリングのシリンダ内壁面におけるオイル掻き機能の低減防止を図ることができ、且つオイルリングのピストンのオイルリング溝における周方向への回転を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本件発明のオイルリング本体と、当該オイルリング本体の内周に配置されるコイルエキスパンダとから構成される2ピースオイルリングの斜視図である。
【図2】本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングの実施形態(回り止め用突出部)を例示した斜視図である。
【図3】図2に示した回転防止用2ピースオイルリングを説明するためにシリンダ軸方向で切断した状態を示す図である。
【図4】本件発明のオイルリング本体に回り止め用突出部を形成するための切り込み領域を示した斜視図である。
【図5】図4に示す切り込み領域を形成するための切り込みYの位置を説明する図である。
【図6】本件発明のオイルリング本体の一実施形態における要部正面図である。
【図7】本件発明のオイルリング本体の別の実施形態における要部正面図である。
【図8】本件発明のオイルリング本体を断面が略円形のドレン孔を備えたピストンに装着した状態をシリンダ径方向外方からみた正面図である。
【図9】本件発明のオイルリング本体を断面が略四角形のドレン孔を備えたピストンに装着した状態をシリンダ径方向外方からみた正面図である。
【図10】本件発明のオイルリング本体を断面が略楕円形のドレン孔を備えたピストンに装着した状態をシリンダ径方向外方からみた正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング及びそれを用いた2ピースオイルリングの回転防止構造のそれぞれの好ましい実施の形態について、以下に図を用いて示しながら本件発明を説明する。
【0023】
図1は、本件発明のオイルリング本体と、当該オイルリング本体の内周に配置されるコイルエキスパンダとから構成される2ピースオイルリングの斜視図である。2ピースオイルリングは、軽量でオイルコントロール作用が良好である特徴を備えるがゆえに、高回転、高出力、省燃費が要求されるピストンエンジンに好適に用いられるものである。
【0024】
図1に示すように、2ピースオイルリング1は、オイルリング本体2と、コイルエキスパンダ3とから構成されている。また、当該オイルリング本体2は、その断面が略H型状のリングであり、合口部2aを備えている。そして、このオイルリング本体2は、上側レール5と、下側レール6と、これらレールを連結してオイルリング本体2の中間部分に位置するウェブ4とが一体化して構成されている。当該上側レール5及び下側レール6は、円周方向に略円形に形成されている。この上側レール5及び下側レール6の各々の外周摺動面は、シリンダの内周壁と油膜を介して接触し、ピストン軸方向に摺動する。また、ウェブ4は、図1に示すように略円形(円周方向に沿った形状)であって、半径方向に貫通形成されたオイル戻し孔7を備え、且つ、そのオイル戻し孔7が周方向に複数配置されている。そして、図1に示すように、コイルエキスパンダ3は、スプリングのように螺旋状の形態のコイルを用いて、これを円弧状としたものである。
【0025】
以下に示す本件発明の実施の形態は、シリンダの組み付け位置が、運転中地面に対してほぼ水平となる横置き型、例えば水平対向エンジンに2ピースオイルリングを用いた場合を想定したものである。一般的に、オイルリングには、その外周摺動面をシリンダ内壁面に押圧付勢させる力を利用して燃焼室内の機密性と、オイル掻き機能とを向上させる働きがある。しかし、水平対向エンジンのように、シリンダの組み付け位置が運転中ほぼ水平となる内燃機関においては、シリンダ内のオイルが下方領域となる内壁面に溜まりやすい。このとき、仮に2ピースオイルリングの合口部がオイルの溜まった下方に位置すると、合口部からオイルが漏れるためオイル掻き機能を十分に発揮することができない。そのため、一般的に、水平対向エンジンのようにシリンダの組み付け位置が運転中ほぼ水平となる内燃機関の構造においては、オイルリングの合口部が下方に位置しないように、予め当該合口部を下方に位置しないようにすると共に、オイルリングの回転を防止するための手段が要求される。
【0026】
以上に述べた、例えば水平対向エンジンのような、シリンダの組み付け位置が運転中ほぼ水平となる横置き型の内燃機関に用いられる2ピースオイルリングの、ピストンのオイルリング溝内における周方向への回転を防止する、本件発明の2ピースオイルリングについて以下により詳細に説明する。
【0027】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング: 本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングは、オイルリング本体2を係止手段として、当該オイルリング本体の合口部2a近傍で、上側レール又は下側レールに連接して、ピストンが備えるドレン孔に挿入係止可能な突出部を設けたものである。このように、2ピースオイルリング本体に係止手段を設け、オイルリング溝内に配置した2ピースオイルリングの周方向への回転を防止することが、本件発明の基本的技術思想である。本件発明の2ピースオイルリングは、ピストンに設ける既存の孔(ドレン孔)を利用してオイルリング本体2を係止可能な形状をオイルリング本体に設けることで、製造コストの増大を抑制することができる。
【0028】
以上に述べた、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングのオイルリング本体における、上側レール又は下側レールに連接して、ピストンが備えるドレン孔に挿入係止可能な状態に形成される突出部について、その形状を以下に説明する。
【0029】
図2は、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングの実施形態(回り止め用突出部)を例示した斜視図である。また、図3は、図2に示した回転防止用2ピースオイルリングを説明するためにシリンダ軸方向で切断した状態を示した図である。図3に示すように、コイルエキスパンダ3は、オイルリング本体2の内周側に安定して配置されている。そして、コイルエキスパンダ3がオイルリング本体2をシリンダの内周壁11に押し付けることで上側及び下側レール5,6の外周摺動面8,9は、シリンダの内周壁の余分なオイルを掻き落とすことが可能となる。また、2ピースオイルリング1の掻き落としたオイルは、オイル戻し孔7からオイルリングの背面側に設けられたドレン孔22に逃がすことができるので、オイル消費量を低減することが可能となる。
【0030】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングは、図2及び図3に示すように、オイルリング本体2の合口部2a近傍に、ピストン20が備えるドレン孔22に挿入可能に連接形成された突出部2bを備えたものである。このように、オイルリング本体2の合口部2aの上側レール5又は下側レール6の一部位を加工して、ピストン20が備えるドレン孔22に挿入可能な突出部2bを、ドレン孔22が備えられている側のレールに連接形成することで、2ピースオイルリング1のオイルリング溝21内における周方向への回転を防止できると共に、回転防止用2ピースオイルリング1の製造コストの増大を抑制することができる。なお、当該突出部2bは、ドレン孔22に挿入配置させることが可能であって、オイルリング1がピストン20の往復運動(図3の矢印方向)に対する追従性を損なわせず、且つ当該ドレン孔22に係止可能な形状であれば良い。
【0031】
そして、例えば図2及び図3に示すように、当該突出部2bの先端のオイルリング周方向側端面の角部に面取り加工を施すことで、例えば当該角部に面取り加工を施さないものと比べて当該突出部2bによる相手攻撃性を抑制することができる。仮に、当該突出部2bの先端のオイルリング周方向側端面の角部に面取り加工を施さない場合には、当該角部がピストン20のドレン孔22に食い込んだり、当該角部が欠ける等の不具合が生じる恐れがある。このような不具合が生じると、オイルリング1のピストン20の往復運動に対する追従性が損なわれることとなる。なお、図2及び図3において、当該突出部2bは、オイルリング本体2の下側レール6に連接形成されているのが示されているが、上側レール5に連接されていても良い。本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングは、ドレン孔22に挿入配置させることが可能であって、当該突出部2bが、オイルリング1のピストンの往復運動に対する追従性を損なわせず且つ当該ドレン孔22に係止可能な突出量を有する限り、上側レール5と下側レール6のどちらに形成されていても良い。
【0032】
以上、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング1は、オイルリング本体2の上側レール5又は下側レール6に連接形成される突出部2bをピストンのドレン孔22内に配置させて係止することで、当該ドレン孔内における突起部2bの可動距離を超えてオイルリング1がオイルリング溝21に沿って回転するのを防止することができる。ここで、当該上側レール5又は下側レール6の折り曲げは、プレス加工や、バイスにオイルリング本体を固定した状態でプライヤやペンチ等の汎用工具を用いた折り曲げ加工による方法を用いることができる。ここで、当該折り曲げ加工を施すオイルリング本体の数量に応じて、プレス機器を用いる方法、又は汎用工具を用いる方法のいずれかを選択することで、製造コストの増大の抑制を図ることができる。
【0033】
図4は、本件発明のオイルリング本体に回り止め用突出部を形成するための切り込み領域を示した斜視図である。本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングの回り止め用突出部2bは、例えば図4に示すように、オイルリング本体2を構成する下側レールの合口部近傍において、当該合口部に位置する一方の端面側のオイルリング本体2の略H型状断面におけるウェブ4位置と下側レール6の内周端部との間の領域に所定長さの切り込み(図中Yで示す実線)を入れて切り込み領域2cを形成し、当該切り込み領域2cを(図中Xで示す点線を基準に)折り曲げて、ピストンが備えるドレン孔に挿入係止可能に突出させるものである。このように、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング1は、オイルリング本体2に突出部2bを形成する際に、上側レール5又は下側レール6に切り込みYを入れて切り込み領域2cを形成した後に、当該切り込み領域2cを折り曲げることで、当該オイルリング本体2に変形等が生じるのを抑制することができる。
【0034】
本件発明のオイルリング本体に連接形成される突出部2bは、オイルリング1のピストン20往復運動方向への動きを阻害せず、且つ当該ドレン孔22に係止可能な形状であれば良いことは既に述べた。但し、オイルリング本体2の耐久性や当該オイルリング本体2に当該突出部2bを連接形成する際の加工性等を考慮すると、本件発明のオイルリング本体2の上側レール5又は下側レール6に入れる切り込みYの位置及び長さは、経験則から予め条件範囲を設定することができる。
【0035】
図5は、図4に示す切り込み領域を形成するための切り込みYの位置を説明する図である。図5において、(a)で示す図が、オイルリング本体をシリンダ軸方向で切断した状態を示す図であり、(b)で示す図が、(a)の図のA−A’線における要部断面図である。本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングの回り止め用突出部2bを形成するための切り込み領域2cについて、図5を用いて説明すると、図4に示す切り込み領域2cは、上側レール5又は下側レール6の内周端部のオイルリング本体の合口端部より長さ(T1)が0.5mm〜4mmの位置であり、合口端部に対し略平行に入れる直線の切り込みYの長さ(T2)が当該上側レール5又は下側レール6の径方向幅(L)の50%以下の長さであり且つウェブ4迄達しない長さであることが好ましい。
【0036】
ここで、図5において、上側レール5又は下側レール6に対して入れる切り込みYの長さT2が、当該レール幅Lの50%を超える長さとなると、その後切り込み領域2cを折り曲げて形成される突出部2bのオイルリングの上面又は下面からの突出量が大きくなり過ぎてドレン孔に干渉し、オイルリングのピストンの往復運動に対する追従性を損ねる恐れがある。ちなみに、上側レール5又は下側レール6に対して入れる切り込みYの長さT2は、当該レール幅Lに対して10%〜40%であることがより好ましい。そして、当該レールに対して入れる切り込みYの位置(図5に示すT1の距離)は、当該レールの内周端部のオイルリング本体の合口端部からの長さが0.5mm未満となる場合、当該突出部2bの強度を十分に確保できず耐久性に劣ることとなり、当該長さが4mmを超える場合、その後の当該切り込み領域2cの折り曲げ加工が困難となると共に、ドレン孔に干渉してオイルリングの往復運動に対する追従性を損ねる恐れがある。なお、当該レールに対して入れる切り込みYの位置(図5に示すT1の距離)は、当該レールの内周端部のオイルリング本体の合口端部からの長さが1mm〜2mmの位置であることがより好ましい。
【0037】
なお、本件発明のオイルリング本体の上側レール又は下側レールに切り込み領域を形成するための切り込みは、回転円盤型カッターやレーザー切断加工機等を用いて形成することができる。ここで、レーザービームを用いた加工は、設備導入コストが高額になるものの、刃物を利用したマシニングや切削等のいわゆる機械加工に比べ優れた特徴として、(1)オイルリング本体の材質や形状を選ばず、複雑で微細な加工が行える、(2)オイルリング本体に対し物理的な応力がかからず、且つ短時間で作業可能であるため熱の影響を受け難く、オイルリング本体に生じる歪みを小さくすることができる等が挙げられる。
【0038】
そして、本件発明のオイルリング本体2は、上側レール5又は下側レール6に切り込みYを入れて形成された切り込み領域2cを折り曲げて、ピストンが備えるドレン孔に挿入係止可能な突出部2bを形成後、当該突出部2bの先端のオイルリング周方向側端面の角部に、面取り加工を施すものである。ここで、当該突出部2bの先端のオイルリング周方向側端面の角部に面取り加工を施す場合には、ヤスリや汎用の面取り工具を用いることができる。従って、本件発明のオイルリング本体2は、その形状を形成するに際し、特別なスキルも必要とせず、また製造コストの増大を招くことがない。
【0039】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング1は、オイルリング本体2に形成される突出部2bの先端の角部に施される面取り加工が、R面取り加工であり、当該角部の曲率半径Rが0.1mm〜2.0mmであることが好ましい。
【0040】
図6は、本件発明のオイルリング本体の一実施形態における要部正面図である。図6の(a)には、オイルリング本体2に形成される突出部2bの先端の角部にR面取り加工(図中に示すR1、R2)が施された状態を示している。ここで、当該突出部2bの先端の角部において、R面取り加工が施された後の曲率半径R(R1、R2)が0.1mm未満の場合、当該突出部2bによる相手攻撃性の抑制が十分に図れない。一方、当該突出部2bの先端の角部の曲率半径R(R1、R2)が2.0mmを超える場合、面取り加工に要する時間が増加し製造コストの増大を招くため好ましくない。なお、当該突出部2bの先端の角部にR面取り加工が施された後の曲率半径Rは、本件発明に規定する条件範囲内である限り、R1とR2との曲率半径が異なるものであっても良い。また、当該角部の曲率半径R(R1、R2)は、0.3mm〜1.0mmであることがより好ましい。
【0041】
また、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング1は、オイルリング本体2に形成される突出部2bの先端の角部に施される面取り加工が、C面取り加工であり、当該角部の面取り量Cが0.1mm〜1.0mmであることも好ましい。
【0042】
図7は、本件発明のオイルリング本体の別の実施形態における要部正面図である。図7の(a)には、オイルリング本体2に形成される突出部2bの先端の角部にC面取り加工(図中に示すC1、C2、C3、C4)が施された状態を示している。ここで、当該突出部2bの先端の角部において、C面取り加工が施された後の面取り量C(C1、C2、C3、C4)が0.1mm未満の場合、当該突出部2bによる相手攻撃性の抑制が十分に図れない。一方、当該突出部2bの先端の角部の面取り量C(C1、C2、C3、C4)が1.0mmを超える場合、面取り加工に要する時間が増加し製造コストの増大を招くため好ましくない。なお、当該突出部2bの先端の角部にC面取り加工が施された後の面取り量Cは、本件発明に規定する条件範囲内である限り、C1、C2、C3、C4の面取り量がそれぞれ異なるものであっても良い。また、当該角部の面取り量C(C1、C2、C3、C4)は、0.3mm〜1.0mmであることがより好ましい。
【0043】
また、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング1は、オイルリング本体2に形成される突出部2bのオイルリング上面又は下面からの突出量Hが0.1mm以上であることが好ましい。例えば、図6及び図7に示すように、オイルリング本体2に形成される突出部2bのオイルリング上面又は下面からの突出量Hが0.1mm未満の場合、当該突出部2bがピストンに形成されるドレン孔と十分に係止することができず、オイルリングのオイルリング溝に沿った回転を十分に防止することができない。なお、オイルリング本体2に連接形成される突出部2bのオイルリング上面又は下面からの突出量Hは、オイルリング1がピストン20の往復運動に対する追従性を損なわず、且つオイルリング1がオイルリング溝21内における周方向へ回転することを防止できる長さであれば良い。この点に鑑みると、突出部2bのオイルリング上面又は下面からの突出量Hは、0.3mm〜1.0mmであることがより好ましい。
【0044】
また、本件発明のオイルリング本体2に形成される突出部2bが挿入係止するドレン孔22は、その断面が略円形であることが好ましい。図8は、本件発明のオイルリング本体を断面が略円形のドレン孔を備えたピストンに装着した状態をシリンダ径方向外方からみた正面図である。ピストン20に形成される一般的なドレン孔22の断面形状は、形成が容易である理由から図8に示すような略円形であるものが一般的である。図8に示すような断面が略円形のドレン孔22に対して、本件発明のオイルリング本体2に形成される突出部2bの先端のオイルリング周方向側端面の角部に、本件発明に規定する条件を満たした面取り加工を施すことで、当該突出部2bによる相手攻撃性の抑制を十分に図ることができる。
【0045】
また、本件発明のオイルリング本体2に形成される突出部2bが挿入係止するドレン孔22は、その断面が略四角形であることも好ましい。図9は、本件発明のオイルリング本体を断面が略四角形のドレン孔を備えたピストンに装着した状態をシリンダ径方向外方からみた正面図である。ピストン20に形成されるドレン孔22の断面が図9に示すような略四角形の場合においても、本件発明に規定する条件を満たした形状の突出部2bによれば相手攻撃性を増大させることがない。
【0046】
また、本件発明のオイルリング本体2に形成される突出部2bが挿入係止するドレン孔22は、その断面が略楕円形であることも好ましい。図10は、本件発明のオイルリング本体を断面が略楕円形のドレン孔を備えたピストンに装着した状態をシリンダ径方向外方からみた正面図である。ピストン20に形成されるドレン孔22の断面が図10に示すような略楕円形の場合においても、本件発明に規定する条件を満たした形状の突出部2bによれば相手攻撃性を増大させることがなく、ドレン孔22の断面が図8及び図9に示す形状の場合について述べた効果と同じ効果を得ることができる。
【0047】
ちなみに、図8及び図10に示す断面形状(略円形、略楕円形)のドレン孔22は、ピストン成形後にドリル加工によって形成可能であるのに対し、図9に示す断面形状(略四角形)のドレン孔22は、ピストンが鋳造加工により作製されるものに限定され、当該ピストン成形時に鋳抜いて成形されるものである。なお、図8〜図10に示す各突出部2bの形状は、あくまで例示であって、これらの形状に限定されるものではない。上述したように、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング1は、本件発明に規定する条件を満たした突出部2bがオイルリング本体2に連接形成されている限り、ドレン孔22の断面が図8〜図10に示すもの全てに好適に用いることができる。
【0048】
本件発明に係る2ピースオイルリングの回転防止構造: 本件発明に係る2ピースオイルリングの回転防止構造は、回転防止用2ピースオイルリング1のオイルリング本体2を構成する、上側レール5又は下側レール6に連接して形成した突出部2bを、ピストンに設けたドレン孔22内に挿入配置することで、オイルリング1とピストン20とを係止して、エンジンの駆動時に、ピストンのオイルリング溝21に装着したオイルリング1がオイルリング溝21に沿って回転することを防止することを特徴とする。
【0049】
本件発明に係る2ピースオイルリングの回転防止構造は、以上に説明してきた回転防止用2ピースオイルリング1がオイルリング本体2を構成する、上側レール5又は下側レール6に連接配置した突出部2bを、ピストン20に設けたドレン孔22内に挿入配置することで、オイルリング1とピストン20とを係止して、エンジン駆動時に、ピストンのオイルリング溝21に装着したオイルリング1がオイルリング溝21に沿って回転することを長期間安定して防止する構造である。本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリング1によれば、ピストン20に形成されるドレン孔22のあらゆる断面形状に対応することができる。
【0050】
なお、本件発明に係る2ピースオイルリングの回転防止構造において、オイルリング1とピストン20とを長期間安定して係止するにあたり、オイルリング本体2とピストン20との硬度差が極力小さくなるように材質を選定して組み合わせることが好ましい。また、オイルリング1をピストンのドレン孔22に長期間安定して係止するために、例えばオイルリング本体2の外表面に硬質層として窒化処理層や、CrNやCrNや、Cr、CrN、CrN等の混合物からなるPVD(Physical Vapor Deposition)処理層を備えたり、ピストンの少なくともドレン孔22やオイルリング溝21の表面に硬質なアルマイト皮膜を備えることも好ましい。
【0051】
以上のことから、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングを、例えば、水平対向エンジン等のように、シリンダの組み付け位置が運転中ほぼ水平となる内燃機関に使用する場合、オイルリングの合口部がシリンダ内壁面の下部のオイルの溜まりやすい領域に位置することを長期間安定して防ぐことが可能で、オイル消費量の増大を抑制する効果を簡単な構成で実現させることができる。この結果、本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングを用いた2ピースオイルリングの回転防止構造を用いることで、高品質で低価格の内燃機関を市場に提供することができることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本件発明に係る回転防止用2ピースオイルリングは、ピストンのオイルリング溝内におけるオイルリングの回転を確実に防止すると共に、オイル掻き機能を十分に発揮することができる。また、オイルリング本体に連接形成される突出部の先端のオイルリング周方向側端面の角部に面取り加工を施すことで、当該突出部による相手攻撃性を軽減させることが可能となるため、上述した効果を長期間安定して得ることができる。更に、本件発明に係る2ピースオイルリングの回転防止構造は、その構造が簡単であり、当該構造を備えたオイルリングを形成するにあたって特別な設備が不要で、作業性にも優れるため製造コストの増大を抑制することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 2ピースオイルリング
2 オイルリング本体
2a 合口部
2b 突出部
3 コイルエキスパンダ
4 ウェブ
5 上側レール
6 下側レール
7 オイル戻し孔
R 曲率半径
C 面取り量
H 突出量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用エンジンに用いられ、ピストンのオイルリング溝に装着したオイルリングがオイルリング溝に沿って回転することを防止するための2ピースオイルリングであって、
当該2ピースオイルリングは、オイル戻し孔を備えるウェブの一端側に上側レール、他端側に下側レールを配する断面が略H型状で、且つ、合口部を備えるオイルリング本体と、当該オイルリング本体を当該シリンダ内壁面に対して押圧付勢するようにオイルリング本体の内周側に配するコイルエキスパンダとからなり、
当該オイルリング本体の略H型状断面におけるウェブ位置と、上側レール又は下側レールの内周端部との間の領域に、当該合口部より所定距離離れた当該内周端部から当該合口端部に対し略平行に所定長さの切り込みを入れて形成した切り込み領域を備え、
当該切り込み領域を折り曲げて、ピストンが備えるドレン孔に挿入係止可能な突出部を備え、
当該突出部の先端のオイルリング周方向側端面の角部が、面取り加工されていることを特徴とする回転防止用2ピースオイルリング。
【請求項2】
前記突出部の先端の角部に施される面取り加工は、R面取り加工であり、当該角部の曲率半径Rが0.1mm〜2.0mmである請求項1に記載の回転防止用2ピースオイルリング。
【請求項3】
前記突出部の先端の角部に施される面取り加工は、C面取り加工であり、当該角部の面取り量Cが0.1mm〜1.0mmである請求項1に記載の回転防止用2ピースオイルリング。
【請求項4】
前記突出部のオイルリング上面又は下面からの突出量Hが0.1mm以上である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の回転防止用2ピースオイルリング。
【請求項5】
前記突出部が挿入係止する前記ドレン孔は、その断面が略円形である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の回転防止用2ピースオイルリング。
【請求項6】
前記突出部が挿入係止する前記ドレン孔は、その断面が略四角形である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の回転防止用2ピースオイルリング。
【請求項7】
前記突出部が挿入係止する前記ドレン孔は、その断面が略楕円形である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の回転防止用2ピースオイルリング。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の回転防止用2ピースオイルリングのオイルリング本体を構成する、上側レール又は下側レールに連接して形成した突出部を、
ピストンに設けたドレン孔内に挿入配置することで、オイルリングとピストンとを係止して、エンジンの駆動時に、ピストンのオイルリング溝に装着したオイルリングがオイルリング溝に沿った回転を防止することを特徴とする回転防止用2ピースオイルリングを用いた2ピースオイルリングの回転防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−2340(P2012−2340A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140872(P2010−140872)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】