説明

回転電機のステータにおけるステータカバー構造

【課題】 絶縁フィルムを一切使用せずに、ステータコアとコイルとの絶縁に加え、コモン線結線部の固定と絶縁が可能な回転電機のステータにおけるステータカバー構造を提供する。
【解決手段】 ステータコイル30が巻回される複数の磁極12を内周面側に突出形成したステータコア10に、絶縁材料で形成されたステータカバー20を装着し、該ステータカバー20で覆われた前記磁極部分22にステータコイル30を巻回した回転電機のステータにおけるステータカバー構造において、前記ステータカバー20に、前記ステータコイル30のコモン線結線部30aを係止する係止部を形成したことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアの磁極にコイルを巻回して形成する回転電機のステータにおけるステータカバー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコアの磁極にコイルを巻回して形成する回転電機のステータ構造では、従来、ステータコアの磁極にコイル保持体を介してコイルを巻回する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1のステータは、ステータコアとコイルの間を、絶縁フィルム(絶縁シート)を用いて絶縁している。
そのため、絶縁フィルムが薄いと容易に曲がり、絶縁フィルムがステータコアの角で損傷し、接触がひどいと、さらにコイルが損傷する恐れがあった。
逆に、絶縁フィルムが厚いとコイルの自由度がなくなり、コイルが損傷する恐れがあった。
【0004】
そこで現在では、ステータコアとコイルの絶縁に、ステータカバーやインシュレータなどと呼ばれる、ステータコアの形状に合わせて成型された樹脂製の絶縁部材を用いることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平2−2044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のステータカバーは、巻線端部、特にコモン線結線部の絶縁チューブを固定する機能を有していなかった。
そのため、コモン線結線部の絶縁チューブを固定するために小さな絶縁フィルムが依然として使用されており、コイルの絶縁被覆を損傷する原因となっていた。
【0007】
本発明は、こうした従来の問題を解決し、絶縁フィルムを一切使用せずに、ステータコアとコイルとの絶縁に加え、コモン線結線部の固定と絶縁が可能な回転電機のステータにおけるステータカバー構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を達成するため、ステータコイルが巻回される複数の磁極を内周面側に突出形成したステータコアに、絶縁材料で形成されたステータカバーを装着し、該ステータカバーで覆われた前記磁極部分にステータコイルを巻回した回転電機のステータにおけるステータカバー構造において、前記ステータカバーに、前記ステータコイルのコモン線結線部を係止する係止部を形成したことにある。
また、本発明は、前記磁極部分の先端部を円弧状に形成し、該磁極部分の先端部の背面側に位置する前記ステータカバーに、前記ステータコイルのコモン線結線部を係止する係止部を形成したことにある。
さらに、本発明は、互いに隣接する前記磁極部分の先端部相互間に形成され、かつ前記ステータコイルの巻回時に巻線ノズルの通路となるスリット部を覆う前記ステータカバーに、該スリット部を遠心方向に延長する延長部を前記ステータカバーのスリット部に設け、該延長部に前記ステータコイルを係止する係止部を形成したことにある。
またさらに、本発明は、前記係止部として、前記延長部の先に前記コモン線結線部を収納する円筒状の保持部を軸方向に形成し、該保持部の開口端部に前記コモン線結線部を係止する溝を形成したことにある。
また、本発明は、前記コモン線結線部を収納する絶縁チューブを、ステータカバーの遠心方向に押圧する押し当て部を前記延長部に形成し、該絶縁チューブの周方向の動きを抑える左右のストッパー部を前記ステータコアの環状部内周面を覆うステータカバーの内周面に形成したことにある。
さらに、本発明は、前記係止部の押し当て部の先端に、前記絶縁チューブが上下方向に動くことを防止するための突起部を形成したことにある。
またさらに、本発明は、前記係止部の押し当て部のステータコイル接触面を、ステータコイルに合わせて湾曲させたことにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
請求項1の発明によれば、コイルのコモン線結線部を固定・絶縁するための絶縁フィルムが不要なため、絶縁フィルムによってコイルが損傷する恐れがない。また作業時間を短縮できる。
請求項2の発明によれば、ステータカバーのコイル係止部が、コイル巻回動作に制約を与えることがない。
請求項3の発明によれば、ステータコイルを係止部によって確実に保持することができる。
請求項4の発明によれば、コモン線結線部を円筒部の保持部内で確実に保持することができる。
請求項5の発明によれば、絶縁チューブをより確実に固定できる。
請求項6の発明によれば、絶縁チューブの上下方向への動きを係止することができる。
請求項7の発明によれば、ステータコイルを湾曲部によって確実に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ステータコアを示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態による回転電機のステータにおけるステータカバー構造を示す平面図である。
【図3】巻線とコモン線結線部の係止が完了した状態の平面図である。
【図4】図2のステータカバー構造の変形例を示す部分拡大斜視図で、(a)は外側から見た斜視図、(b)は内側から見た斜視図である。
【図5】本発明の他の実施の形態による回転電機のステータにおけるステータカバー構造を示す部分拡大斜視図で、(a)は保持部の上部外側から見た斜視図、(b)は保持部の下部外側から見た斜視図である。
【図6】本発明の他の実施の形態による回転電機のステータにおけるステータカバー構造を示す平面図である。
【図7】図6の部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は隈取コイル型単相誘導電動機のステータコアを示したものである。このステータコア10は、薄い鉄板11を重ねた積層鉄板で構成され、環状の周囲から内周側に突出して先端部12aを両側周縁に沿って半円を形成するように円弧状に延出した複数の磁極12が形成されている。図示例では単相なので互いに対向する一対の磁極12が形成されている。この磁極12の円周方向の端面12b相互間には、スリット13が設けられ、このスリット13の内部には、スリット13を通して後述するコイルが巻回されるスロット14が設けられている。前記磁極12の内周12c側と外周12d側には、後述する隈取コイルを巻回するための切り欠き15a,15bが形成されている。前記磁極12の内周12c側相互間によって形成される中央の空間部16には、図示しないロータが配置される。
【0012】
図2は前記ステータコア10に組付けられる合成樹脂製の絶縁材料で一体成形されたステータカバーを示したものである。このステータカバー20は、例えばステータコア10の外形形状に形成された成形型を用いてステータコアの片面ごとに射出成型されており、ステータコア10に片面ずつ組付けて一体に合わせて構成されている。ステータカバー20には、ステータコア10の外形に合わせて磁極部分22と、スリット部分23と、スロット部分24と、隈取コイル用の切り欠き部分25a,25bがそれぞれ形成されている。また、ステータカバー20の一方のスリット部分23の両側には、スロット部分24に向けて、スリット部分23を遠心方向に延長する延長部26が設けられ、延長部26の先を互いに離れる方向に湾曲させて湾曲部27を形成するとともに、湾曲部27の半径方向外側面に、後述する絶縁チューブを押すための押し当て部27aを形成している。延長部26に対向するスロット部分24の内壁面24aには、円周方向に一定間隔で中心側に突出した一対の軸方向のストッパー28が設けられており、このストッパー28相互間によって後述する絶縁チューブの両端を係止するようにしている。
【0013】
図3は図1のステータコア10に図2のステータカバー20を組付け、ステータカバー20で覆われた磁極部分22にステータコイル30を巻回した状態を示したものである。ステータコイル30は、図示しないコイル巻線機のノズル部分をスリット部分23からスロット部分24に挿入し、コイル巻線機を作動して磁極部分22にコイルを巻回したものである。ステータコイル30間のコモン線結線部30aは絶縁チューブ31に挿入して保護し、ステータカバー20のスリット部分23の延長部26の先に配置され、押し当て部27aによって絶縁チューブ31を半径方向外側に押圧し、ストッパー28によって絶縁チューブ31の両端を係止している。ステータコイル30の折り返し部は、ステータカバー20の延長部26の先に設けられた湾曲部27の曲面によって円周方向の端面を係止され、広がりを防止されている。延長部26が設けられていないスロット部分24には、電源等に接続された外部ケーブル32が導入されており、この外部ケーブル32のリード線33が基板34を介して設置されて、ステータコイル30に接続されている。35は隈取コイル用の切り欠き部分25a,25bに巻回された隈取コイルである。この隈取コイル35は、ステータコイル30の磁束の一部が通過して、隈取コイル35に磁界が発生して、ステータコイル30の磁界と合わせて回転磁界を発生させ、回転子を回転させることができる。
【0014】
上記構成によると、コモン線結線部30aを挿入した絶縁チューブ31はステータカバー20のスリット部分23の延長部26の先の押し当て部27a(係止部)に係止することで、コモン線結線部30aを半径方向外側に押しつけることにより確実に保持することができる。また、絶縁チューブ31の両端をストッパー28(係止部)によって係止することができるので、コモン線結線部30aの円周方向の位置決めを確実に行うことができる。
【0015】
図4(a)(b)は図2の変形例で、図2と同一部分は同符号を付して同一部分の説明は省略して説明する。この場合、延長部26の押し当て部27aに半径方向先端上下に遠心方向に向けて突出する突片26a、26bを互いに一定間隔で突出している。これにより、上下の突片26a、26b相互間で絶縁チューブ31を上下方向(軸方向)に係止することができる。
【0016】
図5(a)(b)は、本発明の他の実施の形態で、図2と同一部分は同符号を付して同一部分の説明は省略して説明する。この場合、延長部26の先に湾曲部27に代えて円筒状の保持部(係止部)29Aを軸方向に設けたものである。保持部29Aの半径方向外側には、コイルの浮き上がりを防止するための円周方向の突起部29aが設けられている。この実施の形態では、コモン線結線部30aを保持部29Aの円筒部内部に挿入して係止することができる。保持部29Aの開口端部には、軸方向の切り溝29bを形成しておくことで、コモン線結線部30aのコイルを係合させて抜け止めを図ることができる。この実施の形態では、コモン線結線部30aを直接、保持部29A内に収納することができることから、絶縁チューブ31を省略できるので、部品点数の削減を図ることができる。なお、保持部29Aの円筒部の片側に図5(b)に示すように蓋29cをして塞ぐことでコモン線結線部30aの抜けを防止し、絶縁をより確保することができる。
【0017】
図6および図7は、本発明の別の他の実施の形態で、図2と同一部分は同符号を付して同一部分の説明は省略して説明する。この場合、ステータカバー20のスリット部分23に対向するスロット部分24には、内壁面24aに軸方向の円筒状の保持部(係止部)29Bが一体成形されている。この保持部29Bには、円筒部内にコモン線結線部30aが挿入されて保持されている。保持部29Bの開口端には、一定の間隙Lをあけてコモン線結線部30aの抜け止め用の係止片29dが設けられている。
【0018】
この図6および図7の実施の形態では、コモン線結線部30aを保持部29Bの円筒部内に収納する。この場合、絶縁チューブを省略することができる。また、保持部29Bには、円筒部上方に、コモン線結線部30aの抜け止め用の係止片29dが蓋として設けられているので、コモン線結線部30aが円筒部内からずれて離脱する虞がない。
【0019】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、ステータコアにステータコイルを巻回するタイプの回転電機であれば、隈取コイル型単相誘導電動機に限らず各種のモータあるいは発電機などにも適用することができる。また、コモン線結線部30aを直接収納する円筒状の保持部あるいは係止部には、コモン線結線部30aの絶縁を確保できる形状であれば、どのような形状のものにも適用することができる。さらに、コモン線結線部30aを絶縁チューブに収納するタイプのものでは、絶縁チューブを移動しないように係止できるものであれば、図4ないし図7の構造を合わせて用いることにより、どのような係止部であっても適用することができる。図4ないし図7の構造を合わせて用いることにより、より絶縁チューブ31またはコモン線結線部30aの保持あるいは絶縁を確保することができる。等、その他本発明の要旨を変更しない範囲内で適宜変更して実施しうることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0020】
10 ステータコア
11 薄い鉄板
12 磁極
12a 先端部
12b 端面
12c 内周
12d 外周
13 スリット
14 スロット
15a,15b 切り欠き
16 空間部
20 ステータカバー
22 磁極部分
23 スリット部分
24 スロット部分
24a 内壁面
25a,25b 切り欠き部分
26 延長部(係止部)
27 湾曲部
27a 押し当て部
28 ストッパー
29A,29B 保持部(係止部)
30 ステータコイル
30a コモン線結線部
31 絶縁チューブ
32 外部ケーブル
33 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコイルが巻回される複数の磁極を内周面側に突出形成したステータコアに、絶縁材料で形成されたステータカバーを装着し、該ステータカバーで覆われた前記磁極部分にステータコイルを巻回した回転電機のステータにおけるステータカバー構造において、
前記ステータカバーに、前記ステータコイルのコモン線結線部を係止する係止部を形成したことを特徴とする回転電機のステータにおけるステータカバー構造。
【請求項2】
前記磁極部分の先端部を円弧状に形成し、該磁極部分の先端部の背面側に位置する前記ステータカバーに、前記ステータコイルのコモン線結線部を係止する係止部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の回転電機のステータにおけるステータカバー構造。
【請求項3】
互いに隣接する前記磁極部分の先端部相互間に形成され、かつ前記ステータコイルの巻回時に巻線ノズルの通路となるスリット部を覆う前記ステータカバーに、該スリット部を遠心方向に延長する延長部を前記ステータカバーのスリット部に設け、該延長部に前記ステータコイルを係止する係止部を形成したことを特徴とする請求項2に記載の回転電機のステータにおけるステータカバー構造。
【請求項4】
前記係止部として、前記延長部の先に前記コモン線結線部を収納する円筒状の保持部を軸方向に形成し、該保持部の開口端部に前記コモン線結線部を係止する溝を形成したことを特徴とする請求項3に記載の回転電機のステータにおけるステータカバー構造。
【請求項5】
前記コモン線結線部を収納する絶縁チューブを、ステータカバーの遠心方向に押圧する押し当て部を前記延長部に形成し、該絶縁チューブの周方向の動きを抑える左右のストッパー部を前記ステータコアの環状部内周面を覆うステータカバーの内周面に形成したことを特徴とする請求項2または3に記載の回転電機のステータにおけるステータカバー構造。
【請求項6】
前記係止部の押し当て部の先端に、前記絶縁チューブが上下方向に動くことを防止するための突起部を形成したことを特徴とする請求項5に記載の回転電機のステータ構造。
【請求項7】
前記係止部の押し当て部のステータコイル接触面を、ステータコイルに合わせて湾曲させたことを特徴とする請求項5または6に記載の回転電機のステータ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−175777(P2012−175777A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34369(P2011−34369)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】