説明

回転電機のステータ

【課題】 ステータコアに巻装されるコイルと絶縁部材との密着を確保することにより、コイルの放熱性を向上させることが可能な回転電機のステータを提供する。
【解決手段】 本発明の回転電機のステータは、周方向に延在するヨーク部とヨーク部の内周側側面から径方向内側に突設され磁極を形成するティース部とを有するステータコアと、ティース部に巻装されるコイルと、ティース部とコイルとの間に配されティース部とコイルとを絶縁するボビンと、を備え、ボビンは、周方向に対向するティース部の両側面に面接触するティース接触部を有し、ティース接触部は、軸方向端部でティース部の両側面と接触する端部側接触部と、軸方向中央部でティース部の両側面と接触する中央部側接触部と、を有し、端部側接触部の肉厚は中央部側接触部の肉厚と比べて薄肉であり、ティース接触部の肉厚が端部側接触部から中央部側接触部にかけて徐変されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルの放熱性の向上を図る回転電機のステータに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルの放熱性の向上を図る回転電機のステータの一例として、例えば、特許文献1に挙げられる発明が知られている。特許文献1に記載の発明では、コイルとステータコアの磁極ティースとの間に配される筒状の絶縁部材に穴を設けて、穴に樹脂を充填させている。そして、樹脂を介してコイルの発熱を絶縁部材に熱伝達することにより、コイルの放熱性の向上を狙っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−12861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ステータコアにコイルを巻装するときに、コイルには、その剛性によりステータコアの周方向に巻き膨らみが生じる。そのため、特許文献1に記載の発明では、コイルと絶縁部材との間に空隙が生じて、コイルと絶縁部材との間の空気層によってコイルの放熱性が低下する。さらに、特許文献1に記載の発明では、絶縁部材に設けられる穴に樹脂を充填する工程が必要であり、作業工数が増加する。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ステータコアに巻装されるコイルと絶縁部材との密着を確保することにより、コイルの放熱性を向上させることが可能な回転電機のステータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る回転電機のステータは、周方向に延在するヨーク部とヨーク部の内周側側面から径方向内側に突設され磁極を形成するティース部とを有するステータコアと、ティース部に巻装されるコイルと、ティース部とコイルとの間に配されティース部とコイルとを絶縁するボビンと、を備える回転電機のステータにおいて、ボビンは、周方向に対向するティース部の両側面に面接触するティース接触部を有し、ティース接触部は、軸方向端部でティース部の両側面と接触する端部側接触部と、軸方向中央部でティース部の両側面と接触する中央部側接触部と、を有し、端部側接触部の肉厚は中央部側接触部の肉厚と比べて薄肉であり、ティース接触部の肉厚が端部側接触部から中央部側接触部にかけて徐変されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る回転電機のステータは、請求項1において、ボビンに接するコイルのコイル形状に合わせてティース接触部の肉厚が徐変されている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る回転電機のステータによれば、ティース接触部の肉厚が端部側接触部から中央部側接触部にかけて徐変されているので、コイルの剛性によりコイルに巻き膨らみが生じても、コイルとボビンの密着を確保することができる。そのため、ボビンは、コイルの発熱をステータコアに効率良く熱伝達することができ、コイルの放熱性を向上させることができる。
【0009】
請求項2に係る回転電機のステータによれば、ボビンに接するコイルのコイル形状に合わせてティース接触部の肉厚が徐変されているので、ティース接触部の肉厚を必要以上に厚くすることなく、コイルとボビンの密着を確保することができる。そのため、ボビンは、ティース接触部における熱伝達性が向上し、コイルの放熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ステータの一部を示す斜視図である。
【図2】ボビン及び分割コアの組立て方法を説明する説明図である。
【図3】図1の切断線I−Iにおける断面図である。
【図4】比較形態に係る第1ボビンの断面図である。
【図5】コイルの発熱特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図は概念図であり、細部構造の寸法まで規定するものではない。
【0012】
(1)ステータの構成
図1は、ステータの一部を示す斜視図である。図2は、ボビン及び分割コアの組立て方法を説明する説明図である。本実施形態の回転電機のステータは、ステータコア、コイル20、第1ボビン30及び第2ボビン40を備えている。ステータコアは、周方向Yに分割されており、本明細書では、分割されたステータコアを分割コア11と呼称する。分割コア11には、第1ボビン30及び第2ボビン40が軸方向両端から装着されており、集中巻き方式によりコイル20が巻装されている。図1では、説明の便宜上、1個の分割コア11が図示されているが、実際の回転電機のステータは、分割コア11が周方向Yに円環状に配されている。
【0013】
分割コア11は、電磁鋼板からなるコアシートを軸方向Xに複数枚積層して形成されている。図2に示すように、分割コア11は、周方向Yに延在するヨーク部12と、ヨーク部12の内周側側面から径方向内側に突設され磁極を形成するティース部13と、を有している。ティース部13の先端部には、図示しないロータの外周面と対向可能な周方向Yに突出する対向部131が形成されている。また、ティース部13は、周方向Yに対向するティース側面部132、132を有している。
【0014】
コイル20は、断面円形状の丸線が用いられ、導体表面がエナメルなどの絶縁層で被覆されている。丸線以外にも断面多角形状の角線など、種々の断面形状の細線を用いることができる。
【0015】
第1ボビン30及び第2ボビン40は、樹脂などの絶縁材料を用いて、射出成型によって形成される。本明細書において、「ボビン」とは、ステータコアとコイル20とを電気的に絶縁する絶縁部材をいい、インシュレータと呼称されることもある。図2に示すように、第1ボビン30は、コイル20が巻回される胴部31と、胴部31の内周側側面において軸方向Xに延在する内周側鍔部32と、胴部31の外周側側面において軸方向Xに延在する外周側鍔部33と、を有している。内周側鍔部32及び外周側鍔部33は、それぞれ対向しており、胴部31と一体に形成されている。第1ボビン30には、凹部が設けられており、軸方向Xからティース部13に被装可能になっている。胴部31は、ティース側面部132、132にそれぞれ面接触可能な第1ティース接触部311、311を有している。
【0016】
第2ボビン40は、ティース部13を周方向Yから狭持可能なコア狭持部41と、コア狭持部41と軸方向Xに一体に形成されてティース部13を支持可能なコア支持部42と、を有している。コア狭持部41は、内周側端部が周方向Yに折り曲げられて内周側折曲部411、411が形成されており、コア狭持部41の外周側端部は周方向Yに折り曲げられて外周側折曲部412、412が形成されている。内周側折曲部411、411は、対向部131の突出部と当接可能になっており、外周側折曲部412、412は、ヨーク部12の内周側側面と当接可能になっている。コア狭持部41は、ティース側面部132、132にそれぞれ面接触可能な第2ティース接触部413、413を有している。コア支持部42は、周方向側端部が軸方向Xに延在されており、側面支持部421、421が形成されている。側面支持部421、421は、内周側折曲部411、411とそれぞれ接合されており、第2ボビン40の剛性が高められている。
【0017】
図2に示す矢印A方向から第1ボビン30を分割コア11に装着し、矢印B方向から第2ボビン40を分割コア11に装着する。第1ボビン30及び第2ボビン40が装着された分割コア11にコイル20を巻装すると、分割コア11は、図1に示す状態になる。コイル20が巻装された複数の分割コア11を周方向Yに円環状に配して、図示しないステータハウジングに焼きばめ又は圧入固定してステータが形成される。なお、コイル20は、回転電機の相毎に接続される。
【0018】
(2)ティース接触部
図3は、図1の切断線I−Iにおける断面図である。同図では、コイル20は、その巻き膨らみを表すために誇張して図示されている。また、説明の便宜上、第1ティース接触部311の肉厚及び第2ティース接触部413の肉厚は、実際の肉厚と比べて厚肉に図示されている。
【0019】
第1ティース接触部311、311は、軸方向端部でティース側面部132、132と接触可能な第1端部側接触部312、312と、軸方向中央部でティース側面部132、132と接触可能な第1中央部側接触部313、313と、を有している。第1中央部側接触部313、313の肉厚t2は、第1端部側接触部312、312の肉厚t1の2倍の肉厚になっている。第1ティース接触部311、311の肉厚は、第1端部側接触部312、312から第1中央部側接触部313、313にかけて徐変されており、第1ボビン30に接するコイル20のコイル形状に合わせて徐変されている。
【0020】
第1中央部側接触部313、313には、第2ボビン40の第2ティース接触部413、413と係合可能な第1係合部314、314が形成されている。第1係合部314、314の肉厚t3は、第1中央部側接触部313、313の肉厚t2の半分の肉厚になっている。第1係合部314、314は、軸方向Xに離間しており、第1ボビン30のティース部13への装着が容易になっている。
【0021】
第2ティース接触部413、413は、軸方向端部でティース側面部132、132と接触可能な第2端部側接触部414、414と、軸方向中央部でティース側面部132、132と接触可能な第2中央部側接触部415、415と、を有している。第2中央部側接触部415、415の肉厚t5は、第2端部側接触部414、414の肉厚t4の2倍の肉厚になっている。第2ティース接触部413、413の肉厚は、第2端部側接触部414、414から第2中央部側接触部415、415にかけて徐変されており、第2ボビン40に接するコイル20のコイル形状に合わせて徐変されている。
【0022】
第2中央部側接触部415、415には、第1ボビン30の第1ティース接触部311、311と係合可能な第2係合部416、416が形成されている。第2係合部416、416の肉厚t6は、第2中央部側接触部415、415の肉厚t5の半分の肉厚になっている。第2係合部416、416は、軸方向Xに離間しており、第2ボビン40のティース部13への装着が容易になっている。第1係合部314、314と第2係合部416、416とが係合されることにより、係合部分におけるコイル20とティース部13との絶縁が高められている。
【0023】
本実施形態では、第1ティース接触部311、311の肉厚が第1端部側接触部312、312から第1中央部側接触部313、313にかけて徐変されており、第2ティース接触部413、413の肉厚が第2端部側接触部414、414から第2中央部側接触部415、415にかけて徐変されている。これにより、コイル20の剛性によってコイル20に巻き膨らみが生じても、コイル20と第1ボビン30及びコイル20と第2ボビン40の密着を確保することができる。そのため、コイル20の発熱を分割コア11に効率良く熱伝達することができ、コイル20の放熱性を向上させることができる。
【0024】
また、本実施形態では、第1ボビン30に接するコイル20のコイル形状に合わせて第1ティース接触部311、311の肉厚が徐変されており、第2ボビン40に接するコイル20のコイル形状に合わせて第2ティース接触部413、413の肉厚が徐変されている。これにより、第1ティース接触部311、311及び第2ティース接触部413、413の肉厚を必要以上に厚くすることなく、コイル20と第1ボビン30及びコイル20と第2ボビン40の密着を確保することができる。そのため、第1ティース接触部311、311及び第2ティース接触部413、413における熱伝達性が向上し、コイル20の放熱性を向上させることができる。
【0025】
(3)比較形態
比較形態に係る回転電機のステータは、本実施形態に係る回転電機のステータと比べて、第1ボビン30及び第2ボビン40が異なる。本節では、第1ボビン30を図示して説明するが、後述するように、第2ボビン40についても同様の相違点を有する。なお、本実施形態に係る第1ボビン30と共通の箇所には共通の符号を付して対応させることにより重複する説明を省略する。
【0026】
図4は、比較形態に係る第1ボビンの断面図である。同図は、図1の切断線I−Iに相当する切断線における断面図を示している。比較形態に係る第1ボビン(以下、第1比較ボビン50という。)は、コイル20が巻回される比較胴部51と、比較胴部51の内周側側面において軸方向Xに延在する内周側鍔部32と、比較胴部51の外周側側面において軸方向Xに延在する外周側鍔部33と、を有している。比較胴部51は、ティース側面部132、132にそれぞれ面接触可能な第1比較ティース接触部511、511を有している。
【0027】
第1比較ティース接触部511、511は、軸方向端部でティース側面部132、132と接触可能な第1比較端部側接触部512、512と、軸方向中央部でティース側面部132、132と接触可能な第1比較中央部側接触部513、513と、を有している。第1比較中央部側接触部513、513の肉厚t7は、第1比較端部側接触部512、512の肉厚t7と同じ肉厚になっている。つまり、第1比較ティース接触部511、511の肉厚は、徐変されておらず一定である。そのため、第1比較ボビン50を装着した分割コア11にコイル20が巻装されると、第1比較ボビン50とコイル20との間に空隙S0が生じる。
【0028】
比較形態に係る第2ボビン(以下、第2比較ボビンという。)は、第1比較ボビン50と同様に、ティース側面部132、132と接触する部分の肉厚が徐変されておらず一定である。具体的には、第2比較ボビンは、本実施形態に係る第2中央部側接触部415、415に相当する第2比較中央部側接触部の肉厚が、本実施形態に係る第2端部側接触部414、414に相当する第2比較端部側接触部の肉厚と同じ肉厚になっている。つまり、第2ティース接触部413、413に相当する第2比較ティース接触部の肉厚は、徐変されておらず一定である。そのため、第2比較ボビンを装着した分割コア11にコイル20が巻装されると、第2比較ボビンとコイル20との間に空隙が生じる。
【0029】
(4)コイルの発熱特性
図5は、コイルの発熱特性を示す図である。同図に示す横軸は、回転電機を駆動後の経過時間を表し、縦軸は、コイル20のコイル温度を表している。曲線L1は、本実施形態に係るステータを備える回転電機を駆動させたときのコイル20の発熱特性を示している。曲線L2は、比較形態に係るステータを備える回転電機を駆動させたときのコイル20の発熱特性を示している。回転電機の駆動前はコイル20のコイル温度はいずれもTH0である。
【0030】
回転電機が駆動されると、コイル20のコイル温度が上昇する。同図に示すように、本実施形態に係るステータを備える回転電機は、比較形態に係るステータを備える回転電機と比べて、コイル20の温度上昇が抑制されている。比較形態に係るステータは、第1比較ボビン50とコイル20との間及び第2比較ボビンとコイル20との間に空隙S0が生じるので、第1比較ボビン50とコイル20との間及び第2比較ボビンとコイル20との間の空気層によって、コイル20の放熱性が低下する。一方、本実施形態に係るステータは、コイル20と第1ボビン30及びコイル20と第2ボビン40の密着が確保されており、コイル20の発熱を分割コア11に効率良く熱伝達して、コイル20の放熱性を向上させることができる。
【0031】
(5)その他
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施することができる。例えば、本実施形態では、ステータコアが周方向Yに分割された分割コア11を例に詳説したが、ステータコアは一体に形成することもできる。また、複数の分割コア11をひとつの単位として、第1ボビン30及び第2ボビン40の分割コア11への装着及びコイル20の巻装を行うこともできる。さらに、第1ボビン30及び第2ボビン40は、一体に形成することもできる。この場合は、第1係合部314、314及び第2係合部416、416は不要である。
【符号の説明】
【0032】
11:分割コア 12:ヨーク部 13:ティース部
20:コイル
30:第1ボビン 311:第1ティース接触部
312:第1端部側接触部 313:第1中央部側接触部
40:第2ボビン 413:第2ティース接触部
414:第2端部側接触部 415:第2中央部側接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に延在するヨーク部と前記ヨーク部の内周側側面から径方向内側に突設され磁極を形成するティース部とを有するステータコアと、
前記ティース部に巻装されるコイルと、
前記ティース部と前記コイルとの間に配され前記ティース部と前記コイルとを絶縁するボビンと、
を備える回転電機のステータにおいて、
前記ボビンは、前記周方向に対向する前記ティース部の両側面に面接触するティース接触部を有し、
前記ティース接触部は、軸方向端部で前記ティース部の前記両側面と接触する端部側接触部と、軸方向中央部で前記ティース部の前記両側面と接触する中央部側接触部と、を有し、
前記端部側接触部の肉厚は前記中央部側接触部の肉厚と比べて薄肉であり、前記ティース接触部の肉厚が前記端部側接触部から前記中央部側接触部にかけて徐変されていることを特徴とする回転電機のステータ。
【請求項2】
前記ボビンに接する前記コイルのコイル形状に合わせて前記ティース接触部の前記肉厚が徐変されている請求項1に記載の回転電機のステータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−115974(P2013−115974A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261581(P2011−261581)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】