説明

回転霧化頭

【課題】分解及び合体を繰り返しても塗料の通過経路が変形・損傷することがなく、安定して塗料を霧化することが可能な回転霧化頭を提供する。
【解決手段】本発明の回転霧化頭20は、塗料部屋27を内側に備えたインナーハウジング50と、それを前方から受容可能な中央組付孔41を有したアウターハウジング40とに分割され、さらに、インナーハウジング50が、前部と後部にインナーハウジング51,60に分割されている。そして、前部と後部のインナーハウジング51,60が回転係合突部57と回転係合凹部63とにより一体回転可能に結合され、中央組付孔41の後方から挿入した工具90にて後部インナーハウジング60を一方か他方に回転させると、前部インナーハウジング51とアウターハウジング40とが中央組付孔41内で螺合結合又は螺合解除されて、回転霧化頭20を合体及び分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ガンに着脱可能に取り付けられて回転駆動されると共に、回転中心部分に、塗料の通過経路の一部としての塗料部屋を有した回転霧化頭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回転霧化頭として、塗料部屋を内側に備えたインナーハウジングと、そのインナーハウジングを前方から受容可能な中央組付孔を有したアウターハウジングとに分割されたものが知られている。また、そのインナーハウジングは、塗料部屋の前面を閉塞する前面区画壁とそれ以外のインナー本体とに分割され、インナー本体が中央組付孔に挿入された後、前面区画壁が中央組付孔に圧入されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−186883号公報(図2、段落[0043])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の回転霧化頭では、塗料の通過経路である前面区画壁の前面及び後面が、圧入を伴う回転霧化頭の合体及び分解時に強く押されて変形又は損傷し、塗料の霧化に悪影響を及ぼすことがあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、分解及び合体を繰り返しても塗料の通過経路が変形・損傷することがなく、安定して塗料を霧化することが可能な回転霧化頭の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る回転霧化頭は、塗装ガンに着脱可能に取り付けられて回転駆動されると共に、回転中心部分に、塗料の通過経路の一部としての塗料部屋を有した回転霧化頭であって、塗料部屋を内側に備えたインナーハウジングと、そのインナーハウジングを前方から受容可能な中央組付孔を有したアウターハウジングとに分割されると共に、インナーハウジングが、前後方向で前部インナーハウジングと後部インナーハウジングとに分割されて塗料部屋を開放可能な回転霧化頭において、前部インナーハウジングとアウターハウジングとを螺合結合した螺合結合手段と、前部インナーハウジングと後部インナーハウジングとを一体回転可能に結合した回転結合手段と、後部インナーハウジングのうち中央組付孔を通して後方に露出した後端面に形成されて、後部インナーハウジングを回転させるための工具を係合可能な工具係合部と、アウターハウジングに形成されて、前部インナーハウジングとの間で後部インナーハウジングを前後方向で挟持した後方当接部とを備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の回転霧化頭において、中央組付孔外で前部インナーハウジングと後部インナーハウジングとを合体状態に保持可能なインナー仮保持手段を備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の回転霧化頭において、前部インナーハウジングの前端外縁部から前方に突出し、先端に向かって徐々に薄くなった可撓筒壁を備え、可撓筒壁を縮径変形させて中央組付孔の内面に押し付けたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の回転霧化頭において、前部インナーハウジングと後部インナーハウジングとの分割面は、塗料部屋の前後方向における中間部に配置され、前部インナーハウジング及び後部インナーハウジングの何れか一方の分割面における塗料部屋の開口縁に、内側に向かって徐々に薄くなった環状可撓壁を設け、他方の分割面を、環状可撓壁の先端部に前後方向から当接させて環状可撓壁の基端部から浮かせたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載の回転霧化頭において、形状が異なる複数種類のインナーハウジングを備え、それら複数種類のインナーハウジングのうち任意の1つをアウターハウジングに合体可能としたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
[請求項1の発明]
請求項1の回転霧化頭を分解するには、回転霧化頭を塗装ガンから取り外し、アウターハウジングの中央組付孔に後方から挿入した工具を、後部インナーハウジングの工具係合部に係合して一方に回転させればよい。すると、後部インナーハウジングと一体に前部インナーハウジングも回転してアウターハウジングとの螺合が外れ、前部及び後部のインナーハウジングがアウターハウジングの前方に離脱する。そして、前部及び後部のインナーハウジングを分離すれば、塗料部屋が開放して、その内部を容易に清掃することができるようになる。一方、回転霧化頭を合体するには、前部及び後部のインナーハウジングを中央組付孔に前方から挿入した状態で、中央組付孔に後方から挿入した工具を後部インナーハウジングの工具係合部に係合させて、分解時と逆側に回転させればよい。すると、前部インナーハウジングとアウターハウジングとの螺合が深まるに従って前部インナーハウジングが後方に移動し、アウターハウジングの後方当接部と前部インナーハウジングとの間で後部インナーハウジングが挟まれる。これにより、前部及び後部のインナーハウジングが合体状態に固定されると共に、アウターハウジングに対して位置決めされて、合体作業が完了する。このように本発明の回転霧化頭では、分解操作時及び合体操作時に、従来のように、塗料の通過経路が強く押されることがないので、分解及び合体を繰り返しても塗料の通過経路が変形・損傷することがなく、安定して塗料を霧化することが可能になる。また、分解及び合体に必要な工具を係合するための工具係合部が、後部インナーハウジングの後端面に配置されているので、工具係合部が塗料の霧化に悪影響を及ぼすこともない。
【0012】
[請求項2の発明]
請求項2の構成によれば、前部インナーハウジングと後部インナーハウジングとがインナー仮保持手段によって合体状態に保持されるので、アウターハウジングとインナーハウジングとの螺合操作中に、そのインナーハウジングが前部と後部のインナーハウジングに分離することが防がれ、螺合操作を容易に行うことができる。また、インナーハウジングとアウターハウジングとの合体完了時には、アウターハウジングの後方当接部と前部インナーハウジングとの間で後部インナーハウジングが挟まれて、前部及び後部のインナーハウジングが合体状態に固定されるので、前部と後部のインナーハウジングをインナー仮保持手段によって仮保持後に、合体完了時には本保持されることになる。これにより、インナー仮保持手段の保持力(仮保持力)を小さくして、その仮保持操作及び仮保持解除操作を容易に行えるようにすることが可能になる。
【0013】
[請求項3の発明]
請求項3の構成によれば、前部インナーハウジングから前方に突出した可撓筒壁が、回転霧化頭の合体状態で縮径変形されて、その弾発力で中央組付孔の内面に押し付けられるので、回転霧化頭の前端面における前部インナーハウジングとアウターハウジングとの間の分割面の隙間を確実に塞ぐことができる。
【0014】
[請求項4の発明]
請求項4の構成によれば、前部インナーハウジング及び後部インナーハウジングの何れか一方の分割面に設けた環状可撓壁のうち薄くなった先端部に他方の分割面が当接し、環状可撓壁の基端部からは他方の分割面が浮いているので、環状可撓壁が弾性変形して他方の分割面に密着し、塗料部屋の内面における分割面の隙間を確実に塞ぐことができる。
【0015】
[請求項5の発明]
請求項5の構成によれば、複数種類のインナーハウジングに対してアウターハウジングを兼用して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る回転霧化頭の側断面図
【図2】筒形回転駆動シャフトから外された回転霧化頭の側断面図
【図3】(A)前部インナーハウジングの前面図,(B)その側断面図,(C)その後面図
【図4】(A)後部インナーハウジングの前面図,(B)その側断面図,(C)その後面図
【図5】回転霧化頭の一部を拡大した側断面図
【図6】本発明の第2実施形態に係る回転霧化頭の側断面図
【図7】その回転霧化頭におけるインナーハウジングの分解側断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。図1には、塗装ガン10の先端部が示されている。この塗装ガン10は、本発明に係る回転霧化頭20を先端部に備え、その回転霧化頭20以外は、公知な構造になっている。即ち、塗装ガン10は、筒形ボディ11の中心部に筒形回転駆動シャフト12を回転可能に支持して備え、その筒形回転駆動シャフト12が図示しないエアーモーターから動力を受けて回転駆動されるようになっている。また、筒形回転駆動シャフト12の中心部には、塗料供給管13が遊嵌されかつその後端部が筒形ボディ11に対して固定されている。そして、塗料供給管13の内側の第1供給路13Aを通して、塗料が前方に向けて供給されると共に、塗料供給管13の外側面と筒形回転駆動シャフト12の内側面との間の第2供給路12Aを通して溶剤が前方に向けて供給される。また、筒形回転駆動シャフト12の外周面には、前端部に雄螺子部12Nが設けられると共に、その後側には、後方に向かって拡径したテーパー軸部12Tが設けられている。また、塗料供給管13の前端部には、全体より外径が小さいノズル部13Cが備えられ、そのノズル部13Cが筒形回転駆動シャフト12の先端面より前方に突出している。
【0018】
図2に示すように、回転霧化頭20は、略円筒状のシャフト結合部24の前端にベル形鍔部23を備えてなる。また、シャフト結合部24の内側は、ベル形鍔部23によって前端を閉塞された結合凹部24Eになっている。その結合凹部24Eの内周面には、奥部に雌螺子部24Nが形成されると共に、その雌螺子部24Nの後側には、後方に向かって拡径したテーパー孔部24Tが形成されている。そして、図1に示すように、シャフト結合部24の雌螺子部24Nと筒形回転駆動シャフト12の雄螺子部12Nとが螺合されかつ、シャフト結合部24のテーパー孔部24Tと筒形回転駆動シャフト12のテーパー軸部12Tとが摩擦係合して、回転霧化頭20が筒形回転駆動シャフト12と一体回転可能に結合されている。
【0019】
図2に示すように、ベル形鍔部23の前面は、前方に向かって拡径した前端凹面26になっている。前端凹面26は、中央円形部26Aと、その外側を囲む中間環状部26Bと、さらにその外側を囲む外側環状部26Cとからなる。中央円形部26Aは、回転霧化頭20の回転中心線と直行する平坦面に対して僅かに傾斜して前方に向かって拡径したテーパー面になっている。また、中間環状部26Bは、前端凹面26のうち中央寄り位置の狭い範囲に設けられ、回転霧化頭20の回転中心と平行な円筒面に対して僅かに傾斜して前方に向かって拡径したテーパー面になっている。外側環状部26Cは、中間環状部26Bより大きな傾斜角で前方に向かって拡径したテーパー面になっている。なお、中間環状部26Bと外側環状部26Cとの間は緩やかに湾曲している。また、外側環状部26Cの外縁部には、径方向に延びた複数の溝26Dが形成されている。
【0020】
図1に示すように、ベル形鍔部23には、前端凹面26における中央円形部26Aの後方に塗料部屋27が形成されている。塗料部屋27の内部側面27Sは、前方に向かって拡径したテーパー面になっている。また、塗料部屋27と前端凹面26とを区画する前面区画壁28の内面、即ち、塗料部屋27の内部前面27Fの中央部からは、円錐形突部28Tが突出している。さらに、前面区画壁28には、複数の中央排出孔30と複数の外縁排出孔31とが貫通形成されている。複数の中央排出孔30は、円錐形突部28Tの中腹部分から中央円形部26Aの中心に向かって延び、それら複数の中央排出孔30の前面開口は1つに纏められている。一方、複数の外縁排出孔31は、前面区画壁28の円形の外縁部に沿って円環状に等間隔に並べられている(図3(A)参照)。そして、それら複数の外縁排出孔31の中心軸が全て、塗料部屋27の内部側面27Sと平行になって延びている。さらには、各外縁排出孔31の中心と回転霧化頭20の中心とを含む平面で回転霧化頭20を切断した切断面(図2に示した切断面)では、外縁排出孔31のうち回転霧化頭20の中心から最も離れた部分が塗料部屋27と内部側面27Sと面一になっている。
【0021】
図1に示すように、塗料部屋27と結合凹部24Eとを区画する後面区画壁29の中央には、後部センター孔32が貫通形成されている。そして、後部センター孔32に、塗料供給管13のノズル部13Cの先端部が突入している。また、塗料部屋27の内部後面27Rは、後部センター孔32の開口縁に向かって迫り上がるように湾曲している。
【0022】
図2に示すように、回転霧化頭20は、インナーハウジング50とアウターハウジング40とに分割されると共に、そのインナーハウジング50が、前部インナーハウジング51と後部インナーハウジング60とに分割されている。具体的には、回転霧化頭20のうち結合凹部24Eより前側部分には、結合凹部24Eより内径が段付き状に大きくなった中央組付孔41が形成されている。そして、中央組付孔41と結合凹部24Eとが連通し、それら中央組付孔41と結合凹部24Eの外側部分が筒状のアウターハウジング40になっている。また、インナーハウジング50は、塗料部屋27を内側に備え、中央組付孔41内に組み付けられている。なお、本実施形態では、アウターハウジング40は、例えばアルミ製であって、インナーハウジング50は、例えば樹脂製となっている。
【0023】
中央組付孔41のうち結合凹部24Eとの境界部分には、本発明に係る「後方当接部」に相当する後方当接面41Aが備えられ、その後方当接面41Aは、回転霧化頭20の回転軸方向に直交する平坦面になっている。また、中央組付孔41の内周面には、後側から順番に、奥側円筒部41B、雌螺子部41C(本発明の「螺合結合手段」に相当する)、中間円筒部41D及び前端当接部41Eが備えられている。そして、雌螺子部41Cの螺子山が、奥側円筒部41Bより内側に突出している。また、中間円筒部41Dは、奥側円筒部41Bより内径が大きな円筒面になっていて、中間円筒部41Dと雌螺子部41Cとの間の段差部分は、テーパー状になっている。前端当接部41Eは、回転霧化頭20の回転中心と平行な円筒面に対して僅かに傾斜して前方に向かって拡径したテーパー面になっている。さらに、前端当接部41Eの前端部は、外側環状部26Cのうち中間環状部26B寄り位置に配置されている。
【0024】
インナーハウジング50は、前端部と後端部に前面区画壁28と後面区画壁29とを備えかつ、前面区画壁28より前方に可撓筒壁52が張り出した構造になっている。インナーハウジング50の外周面のうち前後方向の中間部には、前面区画壁28の側方部分に段差部50Dが設けられ、インナーハウジング50のうち段差部50Dより後方に備えたベース軸部54の中間位置に、雄螺子部51N(本発明の「螺合結合手段」に相当する)が形成されている。また、段差部50Dより前方にはベース軸部54より外径が大きな嵌合軸部53が備えられ、さらに、その嵌合軸部53より前側が前記した可撓筒壁52になっている。
【0025】
そして、インナーハウジング50は、中央組付孔41に対して前方から組み付けられ、嵌合軸部53が中央組付孔41の中間円筒部41Dに嵌合されることでアウターハウジング40に対して心だしされている。また、インナーハウジング50は、雄螺子部51Nがアウターハウジング40の雌螺子部41Cに螺合することで中央組付孔41内に保持され、インナーハウジング50の後端面29Rが後方当接面41Aに当接することでアウターハウジング40に対して軸方向で位置決めされている。さらに、インナーハウジング50の可撓筒壁52は、縮径変形した状態で前端当接部41Eに密着している。
【0026】
詳細には、以下の通りである。即ち、図5には、インナーハウジング50が中央組付孔41内に組み付けられかつ、可撓筒壁52が縮径変形していない状態が拡大して示されている。同図に示すように、可撓筒壁52の外周面であるテーパー面52Tは、可撓筒壁52の基端部で中央組付孔41の前端当接部41Eから僅かに離間し、可撓筒壁52の先端部で前端当接部41Eと干渉する形状になっている。即ち、可撓筒壁52の先端部の外径は、前端当接部41Eの最大の外径より僅かに大きくなっていて、それら可撓筒壁52の先端部の外径と、前端当接部41Eの最大の外径との差分だけ可撓筒壁52が縮径変形して前端当接部41Eに密着し、インナーハウジング50と中央組付孔41の内面との隙間が前端凹面26側で閉塞されている。
【0027】
インナーハウジング50は、塗料部屋27における前後方向の中間位置で前部インナーハウジング51と後部インナーハウジング60とに2分割されている。具体的には、図5に示すように、前部インナーハウジング51の後端部には、嵌合筒部51Zが形成され、その嵌合筒部51Zの奥部には、接合平坦面51Sが形成されている。前部インナーハウジング51の接合平坦面51Sは、インナーハウジング50の軸方向と直交した平坦面であって、塗料部屋27における前後方向の略中央に位置している。また、前部インナーハウジング51における塗料部屋27の開口縁は、本発明の環状可撓壁55になっていて、環状可撓壁55のうち接合平坦面51Sと塗料部屋27の内部側面27Sとが交差した角部は鋭角になっている。即ち、環状可撓壁55は内側に向かうに従って薄くなっている。
【0028】
嵌合筒部51Zの内周面には、複数(例えば、4つ)の回転係合突部57が周方向に等間隔に突出形成されている。それら回転係合突部57は、図3(B)に示すように、接合平坦面51Sから嵌合筒部51Zの後端寄り位置に亘って延びている。また、図3(C)に示すように、各回転係合突部57は、インナーハウジング50の軸方向から見ると略台形になっている。なお、その略台形の上辺は、インナーハウジング50の中心軸を中心とした円の一部をなしかつ、台形の両側辺は窪むように湾曲した円弧になっている。また、図3(B)に示すように、嵌合筒部51Zの内周面のうち回転係合突部57より後端側には、係止溝59が全周に亘って形成されている。
【0029】
一方、後部インナーハウジング60の先端部には、図5に示すように、前部インナーハウジング51の嵌合筒部51Zの内側に嵌合された嵌合軸部60Zが設けられている。嵌合軸部60Zの外周面のうち前後方向の中間位置から前端面にかけては、前記した複数の回転係合突部57に対応させて、複数の回転係合凹部63が陥没形成されている。それら回転係合凹部63は、図4(A)に示すように、後部インナーハウジング60の軸方向から見た形状が、略台形になっていて、前部インナーハウジング51と後部インナーハウジング60とが合体すると、回転係合突部57が回転係合凹部63が係合して前部インナーハウジング51と後部インナーハウジング60とが一体回転可能に連結される。即ち、本実施形態では、これら回転係合突部57と回転係合凹部63とから本発明に係る「回転結合手段」が構成されている。
【0030】
図4(B)に示すように、後部インナーハウジング60の先端面は、内縁部が全体より前方に突出して当接平坦面60Sになっている。そして、図5に示すように、当接平坦面60Sが、環状可撓壁55の先端部に後方から当接した状態で、環状可撓壁55の基端部からは後部インナーハウジング60の先端面が浮きかつ、回転係合突部57も回転係合凹部63内の後端面から浮くようになっている。
【0031】
嵌合軸部60Zの外周面の基端寄り位置には、係止突条64が嵌合軸部60Zの全周に形成されている。そして、後部インナーハウジング60の係止突条64が前部インナーハウジング51の係止溝59に凹凸係合して前部インナーハウジング51と後部インナーハウジング60とが合体状態に仮保持される。即ち、本実施形態では、係止溝59と係止突条64とから本発明に係る「インナー仮保持手段」が構成されている。
【0032】
図5に示すように、後部インナーハウジング60の後端部の外周面からは側方に向かって後端フランジ62が張り出している。そして、後部インナーハウジング60の後端面29Rは、後面区画壁29から後端フランジ62の先端まで面一の平坦面になっていて、その平坦面のうち後端フランジ62寄り位置から後端フランジ62の先端位置に亘る範囲が後方当接面41Aに当接している。また、後部インナーハウジング60の後面のうち結合凹部24Eに臨んだ部分には、複数(例えば、4つ)の工具係合孔61(本発明の「工具係合部」に相当する)が陥没形成されている。図4(C)に示すように、工具係合孔61は、後部インナーハウジング60の中心軸を中心として円弧状をなしている。そして、図2に示すように、工具90に備えた複数の係合突部91を複数の工具係合孔61に係合させてインナーハウジング50をアウターハウジング40に対して螺合操作することができる。
【0033】
本実施形態の回転霧化頭20の構成に関する説明は以上である。次に、この回転霧化頭20の作用効果について説明する。回転霧化頭20は、塗装ガン10の筒形回転駆動シャフト12に取り付けられて使用される。即ち、塗装ガン10は、回転霧化頭20を筒形回転駆動シャフト12と共に回転駆動させた状態で、塗料部屋27に第1供給路13Aから塗料、第2供給路12Aから溶剤を供給する。すると、塗料が塗料部屋27内で溶剤と混合され、中央排出孔30及び外縁排出孔31から前端凹面26上に排出される。そして、遠心力を受けた塗料が前端凹面26の外縁部から前方に霧状になって放出される。
【0034】
ところで、塗装ガン10の使用中に塗料の色替え等を行う場合には、第1供給路13Aから塗料の代わりに洗浄用の溶剤が塗料部屋27に供給されて、回転霧化頭20における塗料の通過経路が洗浄される。しかしながら、そのような簡易的な洗浄では、回転霧化頭20を十分に洗浄することができない場合があるので、必要に応じて回転霧化頭20を分解し、塗料部屋27内を清掃する。
【0035】
回転霧化頭20を分解するには、回転霧化頭20を塗装ガン10の筒形回転駆動シャフト12から取り外し、後部インナーハウジング60の工具係合孔61を、アウターハウジング40の中央組付孔41及び結合凹部24Eを通して後方に露出させる。そして、図2に示すように、工具係合孔61に工具90の係合突部91を係合させて、後部インナーハウジング60をアウターハウジング40に対して一方向に回転すればよい。すると、後部インナーハウジング60と一体に前部インナーハウジング51も回転してアウターハウジング40との螺合が外れて、前部及び後部のインナーハウジング51,60がアウターハウジング40の前方に離脱する。
【0036】
次いで、前部及び後部のインナーハウジング51,60を分離する。そのためには、例えば、前部インナーハウジング51の段差部50Dと後部インナーハウジング60の後端フランジ62とに指又は図示しない工具を引っ掛けて引き離せばよい。すると、係止溝59と係止突条64との係合が解除されて、前部及び後部のインナーハウジング51,60が分離する。これにより、塗料部屋27が開放して、その内部を容易に清掃することができるようになる。
【0037】
一方、回転霧化頭20を合体させるには、分解操作とは逆に、前部インナーハウジング51の嵌合筒部51Z内に後部インナーハウジング60の嵌合軸部60Zを押し込んで係止溝59と係止突条64とを係合させて、それら前部と後部のインナーハウジング51,60を合体状態に仮保持する。そして、前部インナーハウジング51と後部インナーハウジング60とからなるインナーハウジング50をアウターハウジング40の中央組付孔41に前方から挿入し、中央組付孔41に後方から挿入した工具90をインナーハウジング50(詳細には、後部インナーハウジング60)の工具係合孔61に係合させて、分解時と逆側に回転させる。すると、前部インナーハウジング51とアウターハウジング40との螺合が深まるに従って前部インナーハウジング51が後方に移動し、アウターハウジング40の後方当接面41Aと前部インナーハウジング51との間で後部インナーハウジング60が挟まれる。これにより、前部及び後部のインナーハウジング51,60が合体状態に本保持(固定)されると共に、アウターハウジング40に対して位置決めされ、合体作業が完了する。
【0038】
このように本実施形態の回転霧化頭20では、分解操作時及び合体操作時に、従来のように、塗料の通過経路が強く押されることがないので、分解及び合体を繰り返しても塗料の通過経路が変形・損傷することがなく、安定して塗料を霧化することが可能になる。また、分解及び合体に必要な工具90を係合するための工具係合孔61が、後部インナーハウジング60の後端面29Rに配置されているので、工具係合孔61が塗料の霧化に悪影響を及ぼすこともない。
【0039】
しかも、本実施形態の回転霧化頭20では、前部インナーハウジング51と後部インナーハウジング60とが係止溝59と係止突条64によって合体状態に仮保持されるので、アウターハウジング40とインナーハウジング50との螺合操作中に、そのインナーハウジング50が前部と後部のインナーハウジング51,60に分離することが防がれ、螺合操作を容易に行うことができる。また、回転霧化頭20が合体した状態では、アウターハウジング40の後方当接面41Aと前部インナーハウジング51との間で後部インナーハウジング60が挟まれて、前部及び後部のインナーハウジング51,60が合体状態に本保持(固定)されるので、係止溝59及び係止突条64による仮保持力を小さくして仮保持操作及びその解除操作を容易に行うことができる。
【0040】
さらには、前部インナーハウジング51から前方に突出した可撓筒壁52が、回転霧化頭20の合体状態で縮径変形されて、その弾発力で中央組付孔41の内面に押し付けられるので、回転霧化頭20の前端面における前部インナーハウジング51とアウターハウジング40との間の分割面の隙間を確実に塞ぐことができる。また、前部インナーハウジング51のうち塗料部屋27の分割開口面に設けた環状可撓壁55のうち薄くなった先端部に後部インナーハウジング60の当接平坦面60Sが当接し、環状可撓壁55の基端部からは後部インナーハウジング60が浮いた状態になるので、環状可撓壁55が弾性変形して後部インナーハウジング60に密着し、塗料部屋27の内面における分割面の隙間を確実に塞ぐことができる。
【0041】
[第2実施形態]
本実施形態の回転霧化頭20Vは、図6及び図7に示されており、本発明に係る「回転結合手段」及び「インナー仮保持手段」の構成が第1実施形態と異なる。即ち、図7に示すように、前部インナーハウジング51Vのうち嵌合筒部51Zの内周面における後端部からは、例えば、断面円形の複数(例えば、4つ)の連結突部58が内側に向かって突出形成されている。
【0042】
一方、後部インナーハウジング60Vのうち嵌合軸部60Zの外周面には、連結突部58に対応させて複数(例えば、4つ)の連結溝64Vが形成されている。各連結溝64Vは、後部インナーハウジング60Vの前端面に開放しかつ後部インナーハウジング60Vの軸方向に延びた縦溝部64Aと、その連結溝64Vの後端部から周方向に延びた横溝部64Bとを備えたL字形状をなしている。そして、例えば、嵌合筒部51Z内に嵌合軸部60Zを嵌合することで、各連結溝64Vにおける縦溝部64Aの後部まで各連結突部58を受容することができ、前部インナーハウジング51Vに対して後部インナーハウジング60Vを一方向(例えば、回転霧化頭20Vの合体操作時に後部インナーハウジング60Vを回転させる方向)に回転させることで、各連結突部58を連結溝64Vにおける横溝部64Bの奥部まで受容することができる。
【0043】
そして、連結突部58と連結溝64Vとの係合によって、図6に示すように、前部インナーハウジング51Vと後部インナーハウジング60Vとが一体回転可能に連結されかつ合体状態に仮保持される。即ち、本実施形態では、本発明に係る「回転結合手段」及び「インナー仮保持手段」が共に連結突部58及び連結溝64Vによって構成されている。このような構成にすれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
[他の実施形態]
【0044】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0045】
(1)前記第1実施形態の回転霧化頭20から係止溝59と係止突条64とを排除して、前部と後部のインナーハウジング51,60が合体状態に仮保持されない構成にしてもよいし、前記第2実施形態の回転霧化頭20Vの連結溝64Vから横溝部64Bを排除して、前部と後部のインナーハウジング51V,60Vが合体状態に仮保持されない構成にしてもよい。
【0046】
(2)前記第1実施形態では、塗料部屋27の前後方向における略中央に前部と後部のインナーハウジング51,60の分割面が配置されていたが、それら前部と後部のインナーハウジングの分割面は塗料部屋の前端部又は後端部に配置されていてもよい。
【0047】
(3)また、例えば、塗料の粘性や塗料の噴出量等に応じて、中央排出孔30及び外縁排出孔31の形状、孔径、数等を異ならせた複数種類のインナーハウジングを備えておき、それら複数種類のインナーハウジングを共通のアウターハウジングに合体可能としてもよい。そうすれば、複数種類のインナーハウジングの間でアウターハウジングを兼用することができ、コスト低減が図られる。
【符号の説明】
【0048】
10 塗装ガン
20,20V 回転霧化頭
27 塗料部屋
40 アウターハウジング
41 中央組付孔
41A 後方当接面(後方当接部)
41C 雌螺子孔(螺合結合手段)
50 インナーハウジング
51,51V 前部インナーハウジング
51N 雄螺子部(螺合結合手段)
51V 前部インナーハウジング
51V,60V インナーハウジング
52 可撓筒壁
55 環状可撓壁
57 回転係合突部(回転結合手段)
58 連結突部(回転結合手段、インナー仮保持手段)
59 係止溝(インナー仮保持手段)
60,60V 後部インナーハウジング
61 工具係合孔(工具係合部)
63 回転係合凹部(回転結合手段)
64 係止突条(回転結合手段、インナー仮保持手段)
64V 連結溝
90 工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ガンに着脱可能に取り付けられて回転駆動されると共に、回転中心部分に、塗料の通過経路の一部としての塗料部屋を有した回転霧化頭であって、
前記塗料部屋を内側に備えたインナーハウジングと、そのインナーハウジングを前方から受容可能な中央組付孔を有したアウターハウジングとに分割されると共に、前記インナーハウジングが、前後方向で前部インナーハウジングと後部インナーハウジングとに分割されて前記塗料部屋を開放可能な回転霧化頭において、
前記前部インナーハウジングと前記アウターハウジングとを螺合結合した螺合結合手段と、
前記前部インナーハウジングと前記後部インナーハウジングとを一体回転可能に結合した回転結合手段と、
前記後部インナーハウジングのうち前記中央組付孔を通して後方に露出した後端面に形成されて、前記後部インナーハウジングを回転させるための工具を係合可能な工具係合部と、
前記アウターハウジングに形成されて、前記前部インナーハウジングとの間で前記後部インナーハウジングを前後方向で挟持した後方当接部とを備えたことを特徴とする回転霧化頭。
【請求項2】
前記中央組付孔外で前記前部インナーハウジングと前記後部インナーハウジングとを合体状態に保持可能なインナー仮保持手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の回転霧化頭。
【請求項3】
前記前部インナーハウジングの前端外縁部から前方に突出し、先端に向かって徐々に薄くなった可撓筒壁を備え、前記可撓筒壁を縮径変形させて前記中央組付孔の内面に押し付けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転霧化頭。
【請求項4】
前記前部インナーハウジングと前記後部インナーハウジングとの分割面は、前記塗料部屋の前後方向における中間部に配置され、
前記前部インナーハウジング及び前記後部インナーハウジングの何れか一方の分割面における前記塗料部屋の開口縁に、内側に向かって徐々に薄くなった環状可撓壁を設け、
他方の分割面を、前記環状可撓壁の先端部に前後方向から当接させて前記環状可撓壁の基端部から浮かせたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の回転霧化頭。
【請求項5】
形状が異なる複数種類の前記インナーハウジングを備え、それら複数種類のインナーハウジングのうち任意の1つを前記アウターハウジングに合体可能としたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1の請求項に記載の回転霧化頭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−187525(P2012−187525A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53754(P2011−53754)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】