説明

回転霧化頭

【課題】従来より容易に塗料部屋内の全体を清掃することが可能な回転霧化頭を提供する。
【解決手段】本発明の回転霧化頭20は、塗料部屋27を内側に備えたインナーハウジング50と、そのインナーハウジング50を前方から受容可能な中央組付孔41を有したアウターハウジング40とに分割されると共に、インナーハウジング50が、フロントインナー構成体73と1対のサイドインナー構成体71,72と合体保持リング74とに分割されている。これにより、回転霧化頭20が分解されると、塗料部屋27の全体が側方に開放し、従来より容易に塗料部屋27内の全体を清掃することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ガンに着脱可能に取り付けられて回転駆動されると共に、回転中心部分に、塗料の通過経路の一部としての塗料部屋を有した回転霧化頭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回転霧化頭として、塗料部屋の前面を閉塞する前面区画壁を、それ以外の本体部から取り外し可能な構成とすることで、塗料部屋の前面を開放して、その内部の清掃可能としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−166199号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の回転霧化頭では、前面を開放した塗料部屋の奥側に位置する後端部を清掃することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来より容易に塗料部屋内の全体を清掃することが可能な回転霧化頭の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る回転霧化頭は、塗装ガンに着脱可能に取り付けられて回転駆動されると共に、回転中心部分に、塗料の通過経路の一部としての塗料部屋を有した回転霧化頭であって、塗料部屋を内側に備えたインナーハウジングと、そのインナーハウジングを前方から受容可能な中央組付孔を有したアウターハウジングとに分割されると共に、インナーハウジングが、回転中心軸と直行する方向又は回転中心軸回りの周方向で複数の縦割インナー構成体に分割され、インナーハウジングを中央組付孔に抜け止めしたインナー抜止係合手段を備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の回転霧化頭において、中央組付孔外で複数の縦割インナー構成体を互いに合体させた状態に位置決め可能なインナー合体位置決手段を備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の回転霧化頭において、中央組付孔外で複数の縦割インナー構成体を互いに合体した状態に保持可能なインナー仮保持手段を備えたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の回転霧化頭において、インナーハウジングとアウターハウジングとを螺合結合した螺合結合手段を、インナー抜止係合手段として備えたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4に記載の回転霧化頭において、インナーハウジングのうち中央組付孔を通して後方に露出した後端面に形成されて、インナーハウジングを回転させるための工具を係合可能な工具係合部を備えたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1乃至5の何れかに1の請求項に記載の回転霧化頭において、インナーハウジングは、塗料部屋の前面側の前面区画壁の一部又は全体を構成するフロントインナー構成体と、複数の縦割インナー構成体とに分割されたところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項6に記載の回転霧化頭において、形状が異なる複数種類のフロントインナー構成体を備え、それら複数種類のフロントインナー構成体のうち任意の1つを1対の縦割インナー構成体に合体可能としたところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1又は2に記載の回転霧化頭において、インナーハウジングの前端外縁部から前方に突出し、先端に向かって徐々に薄くなった可撓筒壁を備え、可撓筒壁を縮径変形させて中央組付孔の内面に押し付けたところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明は、請求項1乃至8の何れか1の請求項に記載の回転霧化頭において、形状が異なる複数種類のインナーハウジングを備え、それら複数種類のインナーハウジングのうち任意の1つをアウターハウジングに合体可能としたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0015】
[請求項1,4及び5の発明]
請求項1の回転霧化頭の構成によれば、インナー抜止係合手段による係合を解除してインナーハウジングをアウターハウジングの中央組付孔から取り出してから複数の縦割インナー構成体に分解することで、塗料部屋の全体を側方に開放することができ、従来より容易に塗料部屋内の全体を清掃することができる。また、複数の縦割インナー構成体を合体させてインナーハウジングとした上で、アウターハウジングの中央組付孔内に組み付けてインナー抜止係合手段にて抜け止めすれば、インナーハウジングがアウターハウジングによって周囲を囲まれて縦割インナー構成体同士が合体した状態に固定される。
【0016】
なお、上記したインナー抜止係合手段は、インナーハウジングとアウターハウジングとを圧入結合した圧入結合手段であってもよいし、請求項4の構成のように、インナーハウジングとアウターハウジングとを螺合結合した螺合結合手段であってもよい。インナー抜止係合手段が螺合結合手段であれば圧入結合手段である場合に比べて、回転霧化頭が強く加圧されることがなく、分解及び合体に伴う回転霧化頭の変形・損傷が防がれる。また、インナー抜止係合手段が螺合結合手段である場合には、螺合操作用の工具を係合可能な工具係合部をインナーハウジングの前面側に設ける構成も考え得るが、請求項5の回転霧化頭のように、インナーハウジングのうち中央組付孔を通して後方に露出した後端面に工具係合部を備えれば、工具係合部が塗料の霧化に悪影響を及ぼすこともない。
【0017】
[請求項2の発明]
請求項2の構成によれば、中央組付孔外で複数の縦割インナー構成体がインナー合体位置決手段によって互いに合体した状態に位置決めされるので、アウターハウジングとインナーハウジングとの合体操作中に、複数の縦割インナー構成体が位置ずれすることが防がれ、アウターハウジングとインナーハウジングとの合体操作を容易に行うことができる。
【0018】
[請求項3の発明]
請求項3の構成によれば、中央組付孔外で複数の縦割インナー構成体がインナー仮保持手段によって合体状態に保持されるので、アウターハウジングとインナーハウジングとの合体操作中に、そのインナーハウジングが複数の縦割インナー構成体に分離することが防がれ、アウターハウジングとインナーハウジングとの合体操作を容易に行うことができる。また、インナーハウジングとアウターハウジングとの合体完了時には、インナーハウジングがアウターハウジングによって周囲を囲まれて、複数の縦割インナー構成体が合体状態に固定されるので、複数の縦割インナー構成体をインナー仮保持手段によって仮保持後に、合体完了時には本保持されることになる。これにより、インナー仮保持手段の保持力(仮保持力)を小さくして、その仮保持操作及び仮保持解除操作を容易に行えるようにすることが可能になる。
【0019】
[請求項6の発明]
請求項6の構成によれば、フロントインナー構成体を複数の縦割インナー構成体から分離することで塗料部屋の前方に向けて開放することができ、清掃がより一層容易になる。
【0020】
[請求項7の発明]
請求項7の構成によれば、複数種類のフロントインナー構成体に対して複数の縦割インナー構成体を兼用して使用することができる。
【0021】
[請求項8の発明]
請求項8の構成によれば、インナーハウジングから前方に突出した可撓筒壁が、回転霧化頭の合体状態で縮径変形されて、その弾発力で中央組付孔の内面に押し付けられるので、回転霧化頭の前端面におけるインナーハウジングとアウターハウジングとの間の分割面の隙間を確実に塞ぐことができる。
【0022】
[請求項9の発明]
請求項9の構成によれば、複数種類のインナーハウジングに対してアウターハウジングを兼用して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る回転霧化頭の側断面図
【図2】筒形回転駆動シャフトから外された回転霧化頭の側断面図
【図3】回転霧化頭の一部を拡大した側断面図
【図4】インナーハウジングの前面図
【図5】インナーハウジングの後面図
【図6】本発明の第2実施形態に係る回転霧化頭の側断面図
【図7】その回転霧化頭のインナーハウジングの前面図
【図8】本発明の第3実施形態に係る回転霧化頭の側断面図
【図9】本発明の変形例に係る回転霧化頭の側断面図
【図10】本発明の変形例に係る回転霧化頭の側断面図
【図11】本発明の変形例に係る回転霧化頭の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。図1には、塗装ガン10の先端部が示されている。この塗装ガン10は、本発明に係る回転霧化頭20を先端部に備え、その回転霧化頭20以外は、公知な構造になっている。即ち、塗装ガン10は、筒形ボディ11の中心部に筒形回転駆動シャフト12を回転可能に支持して備え、その筒形回転駆動シャフト12が図示しないエアーモーターから動力を受けて回転駆動されるようになっている。また、筒形回転駆動シャフト12の中心部には、塗料供給管13が遊嵌されかつその後端部が筒形ボディ11に対して固定されている。そして、塗料供給管13の内側の第1供給路13Aを通して、塗料が前方に向けて供給されると共に、塗料供給管13の外側面と筒形回転駆動シャフト12の内側面との間の第2供給路12Aを通して溶剤が前方に向けて供給される。また、筒形回転駆動シャフト12の外周面には、前端部に雄螺子部12Nが設けられると共に、その後側には、後方に向かって拡径したテーパー軸部12Tが設けられている。また、塗料供給管13の前端部には、全体より外径が小さいノズル部13Cが備えられ、そのノズル部13Cが筒形回転駆動シャフト12の先端面より前方に突出している。
【0025】
図2に示すように、回転霧化頭20は、略円筒状のシャフト結合部24の前端にベル形鍔部23を備えてなる。また、シャフト結合部24の内側は、ベル形鍔部23によって前端を閉塞された結合凹部24Eになっている。その結合凹部24Eの内周面には、奥部に雌螺子部24Nが形成されると共に、その雌螺子部24Nの後側には、後方に向かって拡径したテーパー孔部24Tが形成されている。そして、図1に示すように、シャフト結合部24の雌螺子部24Nと筒形回転駆動シャフト12の雄螺子部12Nとが螺合されかつ、シャフト結合部24のテーパー孔部24Tと筒形回転駆動シャフト12のテーパー軸部12Tとが摩擦係合して、回転霧化頭20が筒形回転駆動シャフト12と一体回転可能に結合されている。
【0026】
図2に示すように、ベル形鍔部23の前面は、前方に向かって拡径した前端凹面26になっている。前端凹面26は、中央円形部26Aと、その外側を囲む中間環状部26Bと、さらにその外側を囲む外側環状部26Cとからなる。中央円形部26Aは、回転霧化頭20の回転中心線と直行する平坦面に対して僅かに傾斜して前方に向かって拡径したテーパー面になっている。また、中間環状部26Bは、前端凹面26のうち中央寄り位置の狭い範囲に設けられ、回転霧化頭20の回転中心と平行な円筒面に対して僅かに傾斜して前方に向かって拡径したテーパー面になっている。外側環状部26Cは、中間環状部26Bより大きな傾斜角で前方に向かって拡径したテーパー面になっている。なお、中間環状部26Bと外側環状部26Cとの間は緩やかに湾曲している。また、外側環状部26Cの外縁部には、径方向に延びた複数の溝26Dが形成されている。
【0027】
図1に示すように、ベル形鍔部23には、前端凹面26における中央円形部26Aの後方に塗料部屋27が形成されている。塗料部屋27の内部側面27Sは、前方に向かって拡径したテーパー面になっている。また、塗料部屋27と前端凹面26とを区画する前面区画壁28の内面、即ち、塗料部屋27の内部前面27Fの中央部からは、円錐形突部28Tが突出している。さらに、前面区画壁28には、複数の中央排出孔30と複数の外縁排出孔31とが貫通形成されている。複数の中央排出孔30は、円錐形突部28Tの中腹部分から中央円形部26Aの中心に向かって延び、それら複数の中央排出孔30の前面開口は1つに纏められている。一方、複数の外縁排出孔31は、前面区画壁28の円形の外縁部に沿って円環状に等間隔に並べられている(図4参照)。そして、それら複数の外縁排出孔31の中心軸が全て、塗料部屋27の内部側面27Sと平行になって延びている。さらには、各外縁排出孔31の中心と回転霧化頭20の中心とを含む平面で回転霧化頭20を切断した切断面(図2に示した切断面)では、外縁排出孔31のうち回転霧化頭20の中心から最も離れた部分が塗料部屋27の内部側面27Sと面一になっている。
【0028】
図1に示すように、塗料部屋27と結合凹部24Eとを区画する後面区画壁29の中央には、後部センター孔32が貫通形成されている。そして、後部センター孔32に、塗料供給管13のノズル部13Cの先端部が突入している。また、塗料部屋27の内部後面27Rは、後部センター孔32の開口縁に向かって迫り上がるように湾曲している。
【0029】
図2に示すように、回転霧化頭20は、インナーハウジング50とアウターハウジング40とに分割されると共に、そのインナーハウジング50が、1対の縦割インナー構成体71,72とフロントインナー構成体73と合体保持リング74とに分割されている。具体的には、回転霧化頭20のうち結合凹部24Eより前側部分には、結合凹部24Eより内径が段付き状に大きくなった中央組付孔41が形成されている。そして、中央組付孔41と結合凹部24Eとが連通し、それら中央組付孔41と結合凹部24Eの外側部分が筒状のアウターハウジング40になっている。また、インナーハウジング50は、塗料部屋27を内側に備え、中央組付孔41内に組み付けられている。なお、本実施形態では、アウターハウジング40は、例えばアルミ製であって、インナーハウジング50は、例えば樹脂製となっている。
【0030】
中央組付孔41のうち結合凹部24Eとの境界部分には、後方当接面41Aが備えられ、その後方当接面41Aは、回転霧化頭20の回転軸方向に直交する平坦面になっている。また、中央組付孔41の内周面には、後側から順番に、奥側円筒部41B、雌螺子部41C(本発明の「螺合結合手段」及び「インナー抜止係合手段」に相当する)、中間円筒部41D及び前端当接部41Eが備えられている。そして、雌螺子部41Cの螺子山が、奥側円筒部41Bより内側に突出している。また、中間円筒部41Dは、奥側円筒部41Bより内径が大きな円筒面になっていて、中間円筒部41Dと雌螺子部41Cとの間の段差部分は、テーパー状になっている。前端当接部41Eは、回転霧化頭20の回転中心と平行な円筒面に対して僅かに傾斜して前方に向かって拡径したテーパー面になっている。さらに、前端当接部41Eの前端部は、外側環状部26Cのうち中間環状部26B寄り位置に配置されている。
【0031】
インナーハウジング50は、前端部と後端部に前面区画壁28と後面区画壁29とを備えかつ、前面区画壁28より前方に可撓筒壁52が張り出した構造になっている。インナーハウジング50の外周面のうち前後方向の中間部には、前面区画壁28の側方部分に傾斜段差部50Dが設けられ、その傾斜段差部50Dより後方に雄螺子部55(本発明の「螺合結合手段」及び「インナー抜止係合手段」に相当する)が設けられ、さらに後方に、合体保持リング74が組み付けられている。一方、インナーハウジング50のうち傾斜段差部50Dより前方には雄螺子部55より外径が大きな嵌合軸部53が備えられ、さらに、その嵌合軸部53より前側が前記した可撓筒壁52になっている。
【0032】
インナーハウジング50は、中央組付孔41に対して前方から組み付けられ、嵌合軸部53が中央組付孔41の中間円筒部41Dに嵌合されることでアウターハウジング40に対して心だしされている。また、インナーハウジング50は、雄螺子部55がアウターハウジング40の雌螺子部41Cに螺合することで中央組付孔41内に保持され、図3に示すように、インナーハウジング50の後端面29Rが後方当接面41Aに当接することでアウターハウジング40に対して軸方向で位置決めされている。さらに、インナーハウジング50の可撓筒壁52は、縮径変形した状態で前端当接部41Eに密着している。
【0033】
詳細には、以下の通りである。即ち、図3には、インナーハウジング50が中央組付孔41内に組み付けられかつ、可撓筒壁52が縮径変形していない状態が拡大して示されている。同図に示すように、可撓筒壁52の外周面であるテーパー面52Tは、可撓筒壁52の基端部で中央組付孔41の前端当接部41Eから僅かに離間し、可撓筒壁52の先端部で前端当接部41Eと干渉する形状になっている。即ち、可撓筒壁52の先端部の外径は、前端当接部41Eの最大の外径より僅かに大きくなっていて、それら可撓筒壁52の先端部の外径と、前端当接部41Eの最大の外径との差分だけ可撓筒壁52が縮径変形して前端当接部41Eに密着し、インナーハウジング50と中央組付孔41の内面との隙間が前端凹面26側で閉塞されている。
【0034】
インナーハウジング50は、上述したように、1対の縦割インナー構成体71,72とフロントインナー構成体73と合体保持リング74とに分割されている。フロントインナー構成体73は、インナーハウジング50の前面区画壁28のうち径方向の中央より内側部分を構成する円盤体であって、前述した中央排出孔30と円錐形突部28Tとを有している。また、フロントインナー構成体73の外周面には係合溝73Bが全周に形成されている。
【0035】
縦割インナー構成体71,72は、インナーハウジング50を回転中心線を含む面で2分割した形状になっている。また、縦割インナー構成体71,72には、インナーハウジング50の前面区画壁28のうち径方向の中央より外側部分を構成する半リング部71A,72Aが一体に備えられ、それら半リング部71A,72Aの内面には、角形突条71B,72Bが形成されている。そして、角形突条71B,72Bがフロントインナー構成体73の係合溝73Bに嵌合している。なお、角形突条71B,72Bの突出量は、係合溝73Bの奥行きより小さくなっている。
【0036】
図4における上側に示された一方の縦割インナー構成体71には、他方の縦割インナー構成体72との接合面に1対の位置決め突起75,75が形成されている。それら1対の位置決め突起75,75は、インナーハウジング50の軸回りの180度離れた位置に配置されると共に、図2に示すようにインナーハウジング50の軸方向においては、前寄り位置(具体的には、可撓筒壁52に相当する部分)に配置されている。また、図4における下側に示された縦割インナー構成体72には、1対の位置決め突起75,75と凹凸係合可能な1対の位置決め孔76,76が形成されている。
【0037】
図3に示すように、縦割インナー構成体71,72の後端部は、互いに合体した状態で外周面の後端部にリング嵌合部56が形成されるようになっている。リング嵌合部56は、雄螺子部55より段付き状に径が小さくなっている。そして、合体保持リング74がリング嵌合部56に嵌合され、雄螺子部55とリング嵌合部56との段差面に当接している。より詳細には、合体保持リング74は、全体が円形のリングであって、そのリングを構成する部材の断面は、略四角形になっている。そして、合体保持リング74の内周面がリング嵌合部56に嵌合し、合体保持リング74の前端面が雄螺子部55とリング嵌合部56との段差面に当接する一方、合体保持リング74の後端面がアウターハウジング40の後方当接面41Aに当接するようになっている。また、合体保持リング74とリング嵌合部56との嵌め合いは、例えば、圧入操作を要しない隙間嵌めになっていて、摩擦係合によって合体保持リング74がリング嵌合部56に嵌合した状態が維持されるようになっている。
【0038】
なお、本実施形態では、合体保持リング74とリング嵌合部56との嵌合機構が、本発明に係る「インナー仮保持手段」に相当し、この「インナー仮保持手段」によって後に説明するようにインナーハウジング50が中央組付孔41外でも合体状態に保持される。
【0039】
本実施形態の回転霧化頭20の構成に関する説明は以上である。次に、この回転霧化頭20の作用効果について説明する。回転霧化頭20は、塗装ガン10の筒形回転駆動シャフト12に取り付けられて使用される。即ち、塗装ガン10は、回転霧化頭20を筒形回転駆動シャフト12と共に回転駆動させた状態で、塗料部屋27に第1供給路13Aから塗料、第2供給路12Aから溶剤を供給する。すると、塗料が塗料部屋27内で溶剤と混合され、中央排出孔30及び外縁排出孔31から前端凹面26上に排出される。そして、遠心力を受けた塗料が前端凹面26の外縁部から前方に霧状になって放出される。
【0040】
ところで、塗装ガン10の使用中に塗料の色替え等を行う場合には、第1供給路13Aから塗料の代わりに洗浄用の溶剤が塗料部屋27に供給されて、回転霧化頭20における塗料の通過経路が洗浄される。しかしながら、そのような簡易的な洗浄では、回転霧化頭20を十分に洗浄することができないことがあるので、必要に応じて回転霧化頭20を分解し、塗料部屋27内を清掃する。
【0041】
回転霧化頭20を分解するには、回転霧化頭20を塗装ガン10の筒形回転駆動シャフト12から取り外し、インナーハウジング50の工具係合孔61を、アウターハウジング40の中央組付孔41及び結合凹部24Eを通して後方に露出させる。そして、図2に示すように、工具係合孔61に工具90の係合突部91を係合させて、インナーハウジング50をアウターハウジング40に対して一方向に回転すればよい。すると、インナーハウジング50がアウターハウジング40の前方に離脱する。
【0042】
次いで、インナーハウジング50を分解する。そのためには、合体保持リング74をインナーハウジング50全体から抜き取り、1対の縦割インナー構成体71,72を分離して、それら縦割インナー構成体71,72からフロントインナー構成体73を取り外す。これにより、塗料部屋27の全体が側方と前方とに開放した状態になり、従来より容易に塗料部屋27内の全体を清掃することができる。
【0043】
また、回転霧化頭20を合体状態に戻すには、縦割インナー構成体71,72の一方の接合面を上に向けた状態にしてフロントインナー構成体73を組み付けてから、縦割インナー構成体71,72の他方を一方に上方から合体させる。すると、図3に示すように、位置決め突起75と位置決め孔76との凹凸係合によって縦割インナー構成体71,72が互いに位置決めされると共に係合溝73Bと角形突条71B,72Bとの凹凸係合によってフロントインナー構成体73と縦割インナー構成体71,72とが位置決めされる。
【0044】
次いで、合体した縦割インナー構成体71,72のリング嵌合部56に合体保持リング74を嵌合して、インナーハウジング50を合体状態に仮保持し、アウターハウジング40の中央組付孔41に前方から挿入する。そして、中央組付孔41に後方から挿入した工具90をインナーハウジング50の工具係合孔61に係合させて、分解時と逆側に回転させる。すると、インナーハウジング50の雄螺子部55とアウターハウジング40の雌螺子部41Cとの螺合が深まるに従ってインナーハウジング50が後方に移動し、インナーハウジング50の嵌合軸部53がアウターハウジング40の中間円筒部41Dに嵌合する。これにより、インナーハウジング50がアウターハウジング40に対して心だしされると共に、インナーハウジング50がアウターハウジング40によって周囲を囲まれて、縦割インナー構成体71,72及びフロントインナー構成体73が分離不能に固定される。
【0045】
さらに、雄螺子部55と雌螺子部41Cとの螺合が深まってインナーハウジング50が中央組付孔41の奥部に移動すると、インナーハウジング50の合体保持リング74がアウターハウジング40の後方当接面41Aに当接する。これにより、合体保持リング74がインナーハウジング50のリング嵌合部56から離脱不能になる。これにより、インナーハウジング50が合体状態に固定されると共に、アウターハウジング40に対して位置決めされ、合体作業が完了する。
【0046】
上記したように本実施形態の構成によれば、回転霧化頭20をアウターハウジング40と縦割インナー構成体71,72とフロントインナー構成体73と合体保持リング74とに分解することで、回転霧化頭20の塗料部屋27の全体が側方と前方とに開放した状態になり、従来より容易に塗料部屋27内の全体を清掃することができる。また、インナーハウジング50がアウターハウジング40に対して螺合結合されることで中央組付孔41内に抜け止めされているので、圧入結合にて抜け止めする構成のものに比べて、回転霧化頭20が強く加圧されることがなく、分解及び合体に伴う回転霧化頭20の変形・損傷が防がれる。しかも、その螺合操作用の工具90を係合させる工具係合孔61が、インナーハウジング50のうち中央組付孔41を通して後方に露出した後端面に配置されているので、工具係合孔61が塗料の霧化に悪影響を及ぼすこともない。
【0047】
また、インナーハウジング50に備えた合体保持リング74とリング嵌合部56との嵌合によって、中央組付孔41外でもインナーハウジング50が合体状態に仮保持されるので、アウターハウジング40とインナーハウジング50との合体操作中に、インナーハウジング50が分解されてしまうことが防がれる。さらに、合体状態に仮保持されたインナーハウジング50は、アウターハウジング40との合体完了時にはアウターハウジング40によって周囲を囲まれ、縦割インナー構成体71,72、フロントインナー構成体73及び合体保持リング74が合体状態に固定されるので、これにより合体保持リング74とリング嵌合部56による嵌合抵抗を小さくして、それらの嵌合操作(即ち、仮保持操作及びその解除操作)を容易に行えるようにすることが可能になる。
【0048】
また、インナーハウジング50から前方に突出した可撓筒壁52が、回転霧化頭20の合体状態で縮径変形されて、その弾発力で中央組付孔41の内面に押し付けられるので、回転霧化頭20の前端面におけるインナーハウジング50とアウターハウジング40との間の分割面の隙間を確実に塞ぐことができる。
【0049】
さらに、本実施形態の回転霧化頭20の構成によれば、形状が異なる複数種類のフロントインナー構成体73を備え、それら複数種類のフロントインナー構成体73のうち任意の1つを、例えば、塗料の粘性や塗料の噴出量等に応じて選択し、1対の縦割インナー構成体71,72に合体可能とすることもできる。そうすれば、複数種類のフロントインナー構成体73の間で、1対の縦割インナー構成体71,72を兼用することができ、コスト低減が図られる。また、形状が異なる複数種類のインナーハウジング50のうち任意の1つをアウターハウジング40に合体可能とした場合にも同様の効果を奏することができる。
【0050】
なお、本実施形態の回転霧化頭20では、フロントインナー構成体73の係合溝73Bと縦割インナー構成体71,72の角形突条71B,72Bとの係合によって縦割インナー構成体71,72及びフロントインナー構成体73が互いに位置決めされるので、位置決め突起75及び位置決め孔76を廃止してもよい。即ち、本実施形態では、係合溝73B及び角形突条71B,72Bも本発明に係る「インナー合体位置決手段」に相当する。
【0051】
[第2実施形態]
本実施形態の回転霧化頭20Vは、図6及び図7に示されており、インナーハウジング50Vにおける前面区画壁28の分割面が第1実施形態と異なる。即ち、前記第1実施形態では、インナーハウジング50における前面区画壁28のうち中央部分がフロントインナー構成体73になって他の部分から分離可能であったが、本実施形態の回転霧化頭20Vでは、前記第1実施形態のフロントインナー構成体73に相当する部分が一方の縦割インナー構成体71Vと一体になっている。具体的には、図7に示すように、前面区画壁28のうち径方向の中間部より外側部分は、縦割インナー構成体71V,72Vの分割面と面一の分割面で分割されると共に、前面区画壁28のうち径方向の中間部より内側部分は、縦割インナー構成体71Vから縦割インナー構成体72V側に膨らんだ半円形の分割面で分割されている。これにより、一方の縦割インナー構成体71Vには半円形突部71Dが突出形成される一方、他方の縦割インナー構成体72Vには半円形凹部72Dが陥没形成されている。
【0052】
また、図6に示すように、半円形突部71Dの外周面には、その幅方向の両端部から中央に向かうに従って徐々に深くなるように陥没したV字溝71Eが形成される一方、半円形凹部72Dの内周面は、幅方向の両端部から中央に向かうに従って突出した山形突部72Eが形成されている。そして、これらV字溝71Eと山形突部72Eとの係合によって縦割インナー構成体71V,72Vがインナーハウジング50Vの軸方向で互いに位置決めされている。本実施形態における上記以外の構成は、第1実施形態と同じである。この本実施形態の回転霧化頭20Vの構成によっても、インナーハウジング50Vを分解すれば、塗料部屋27全体が側方に開放し、容易に清掃することができるようになる。
【0053】
[第3実施形態]
本実施形態の回転霧化頭20Wは、図8に示されており、前面区画壁28全体がフロントインナー構成体73になって、縦割インナー構成体71W,72Wから分離可能になっている。具体的には、フロントインナー構成体73と縦割インナー構成体71W,72Wとの分割面は、インナーハウジング50Wのうち前端凹面26における中央円形部26Aと中間環状部26Bとの円形の境界線に一端が位置して、そこから後方に向かって徐々に径を広がったテーパー面28Jと、前面区画壁28の後面でもある塗料部屋27の内部前面27Fをテーパー面28Jと交差するまで延長してなる円環状平坦面28Kとからなる。本実施形態における上記以外の構成は、第1実施形態と同じである。
【0054】
本実施形態の回転霧化頭20Wの構成によれば、フロントインナー構成体73は、前端部より後端側の外径が大きな形状をなし、縦割インナー構成体71W,72Wの間に挟まれてインナーハウジング50の回転軸方向で位置決めされると共に、縦割インナー構成体71W,72Wもフロントインナー構成体73によってインナーハウジング50の回転軸方向及びそれと直交する方向で位置決めされている。また、本実施形態の回転霧化頭20Vの構成によって、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
[他の実施形態]
【0055】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0056】
(1)前記第1実施形態の回転霧化頭20を変形して、図9に示した回転霧化頭20Xのように、インナーハウジング50をアウターハウジング40に対して圧入して抜け止めする構成としてもよい。具体的には、図9に示した回転霧化頭20Yにおける中央組付孔41の内周面には、中央組付孔41の奥側円筒部41Bより前側にその奥側円筒部41Bより内径が小さい中間小径部41Pが設けられている。その中間小径部41Pは、後側の奥側円筒部41Bに対して緩やかに傾斜して繋がると共に、前側の中間円筒部41Dに対して緩やかに傾斜して繋がっている。これに対し、インナーハウジング50の外周面には、中間小径部41Pに対応した凹部50Pが形成されている。そして、凹部50Pより後端側の後端円柱部50Rが中間小径部41Pに前方から圧入され通過し、中間小径部41Pが凹部50Pに係合した状態でインナーハウジング50が中央組付孔41に抜け止めされているようになっている。これと同様に、図10に示した回転霧化頭20Yのように、前記第2実施形態の回転霧化頭20Vにおけるインナーハウジング50Vをアウターハウジング40に対して圧入して抜け止めする構成としてもよいし、図11に示した回転霧化頭20Zのように、前記第3実施形態の回転霧化頭20Wにおけるインナーハウジング50Wをアウターハウジング40に対して圧入して抜け止めする構成としてもよい。
【0057】
(2)前記第1実施形態では、インナーハウジング50が、回転中心軸と直行する方向で1対の縦割インナー構成体71,72に2分割されていたが、インナーハウジングを回転中心軸回りの周方向で例えば、3つ又は4つの縦割インナー構成体に分割してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 塗装ガン
20,20V〜20Z 回転霧化頭
27 塗料部屋
28 前面区画壁
40 アウターハウジング
41 中央組付孔
50,50V,50W インナーハウジング
52 可撓筒壁
55 雄螺子部
56 リング嵌合部
61 工具係合孔
71,71V,71W,72,72V,72W 縦割インナー構成体
71B,72B 角形突条
73,73W フロントインナー構成体
73B 係合溝
74 合体保持リング
75 位置決め突起
76 位置決め孔
90 工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ガンに着脱可能に取り付けられて回転駆動されると共に、回転中心部分に、塗料の通過経路の一部としての塗料部屋を有した回転霧化頭であって、
前記塗料部屋を内側に備えたインナーハウジングと、そのインナーハウジングを前方から受容可能な中央組付孔を有したアウターハウジングとに分割されると共に、前記インナーハウジングが、回転中心軸と直行する方向又は回転中心軸回りの周方向で複数の縦割インナー構成体に分割され、
前記インナーハウジングを前記中央組付孔に抜け止めしたインナー抜止係合手段を備えたことを特徴とする回転霧化頭。
【請求項2】
前記中央組付孔外で前記複数の縦割インナー構成体を互いに合体させた状態に位置決め可能なインナー合体位置決手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の回転霧化頭。
【請求項3】
前記中央組付孔外で前記複数の縦割インナー構成体を互いに合体した状態に保持可能なインナー仮保持手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の回転霧化頭。
【請求項4】
前記インナーハウジングと前記アウターハウジングとを螺合結合した螺合結合手段を、前記インナー抜止係合手段として備えたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の回転霧化頭。
【請求項5】
前記インナーハウジングのうち前記中央組付孔を通して後方に露出した後端面に形成されて、前記インナーハウジングを回転させるための工具を係合可能な工具係合部を備えたことを特徴とする請求項4に記載の回転霧化頭。
【請求項6】
前記インナーハウジングは、前記塗料部屋の前面側の前面区画壁の一部又は全体を構成するフロントインナー構成体と、前記複数の縦割インナー構成体とに分割されたことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに1の請求項に記載の回転霧化頭。
【請求項7】
形状が異なる複数種類の前記フロントインナー構成体を備え、それら複数種類のフロントインナー構成体のうち任意の1つを前記1対の縦割インナー構成体に合体可能としたことを特徴とする請求項6に記載の回転霧化頭。
【請求項8】
前記インナーハウジングの前端外縁部から前方に突出し、先端に向かって徐々に薄くなった可撓筒壁を備え、前記可撓筒壁を縮径変形させて前記中央組付孔の内面に押し付けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転霧化頭。
【請求項9】
形状が異なる複数種類の前記インナーハウジングを備え、それら複数種類のインナーハウジングのうち任意の1つを前記アウターハウジングに合体可能としたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1の請求項に記載の回転霧化頭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−187527(P2012−187527A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53785(P2011−53785)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】