説明

回転駆動用伝動装置

【課題】本発明は、油の流路及び流通孔を形成する場合に油の流通経路を短くすることができるとともに油をスムーズに必要な個所に流通させることが可能な回転駆動用伝動装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】回転駆動用伝動装置であるトルクコンバータ1は、カップリングハウジング2に連動するポンプスリーブ6と、ポンプスリーブ6と同軸に配置された出力シャフト9と、出力シャフト9に設けられた取付部11と、カップリングハウジング2に連結されたフランジ部材12とを備え、取付部11に形成された流入孔11b及びフランジ部材12に形成された連通孔12bを軸方向に対して傾斜するように設定し、ステータシャフト7に沿う流路7aから供給された油を流入孔11b及び連通孔12bを通してクラッチ内に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の自動変速装置に用いられるトルクコンバータ、流体継手装置等の回転駆動用伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の自動変速装置では、車両の運転状態に対応して自動的に変速比を選択して変速するようになっている。変速比を選択する際に有段の変速段を選択して行う場合に、エンジンからの動力を伝達する入力軸と選択された変速段に動力を伝達する伝達軸の間に、伝動装置としてトルクコンバータを介在させて入力軸及び選択された伝達軸をスムーズに接続するようになっている。
【0003】
こうしたトルクコンバータでは、動力の伝達を円滑かつ確実に行うために、複数枚の摩擦板を用いたクラッチ装置が用いられている。例えば、特許文献1では、ケーシング内にクラッチハブ及びクラッチドラムに対して交互にクラッチプレート及びクラッチディスクを取り付けて組み立てた多板クラッチ装置が記載されており、クラッチハブはセンターピースにスプライン嵌合されるとともにクラッチドラムはダンパ機構のホルダに保持され、クラッチプレートを押圧するピストンをセンターピースに移動自在に設けた点が記載されている。また、特許文献2では、中空円筒体の形状を有するクラッチハウジングと、クラッチハウジングに対して同軸状に取り付けられた中空円筒体の形状を有するクラッチハブと、外側摩擦板及び内側摩擦板を交互に軸方向に設けた摩擦パックと、クラッチハブに対し同軸状に設けられた力付与ピストンとを備えた湿式クラッチが記載されている。また、特許文献3では、クラッチドラム及びディスクキャリアの間に複数枚のディスクを保持してピストンによりディスクを押圧するようにしたクラッチ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−262236号公報
【特許文献2】特開2004−053023号公報
【特許文献3】特開2004−347120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献に記載されたトルクコンバータでは、クラッチ板であるクラッチプレート及びクラッチディスクを交互に重ね合わせてセットし、重ね合わせたクラッチ板を押圧してクラッチの接断動作を行っているので、クラッチ板の間に冷却用の油を流通させて摩擦熱を放熱するようにしている。油を流通させるためには、トルクコンバータ内へ油を供給する流路及び供給した油を排出する流路を設ける必要があり、さらに、トルクコンバータ内の全域にスムーズに油を流通させるためにトルクコンバータ内に収容した部材に流通孔等を形成する必要がある。
【0006】
こうした流路や流通孔を設ける場合、トルクコンバータが回動動作することを考慮して流路の開口部や流通孔を回転軸と直交する方向に形成し、回動動作に伴う遠心力を利用してトルクコンバータの中心部から周縁部へ放射状に油が流通するようにしている。しかしながら、流路の開口部や流通孔を回転軸と直交する方向に形成することは、流路を形成する経路の制約となり、流路を長く形成する必要が生じる。また、流通孔を形成する箇所についても回転軸と直交する部分に形成するため、形成箇所の制約となる。
【0007】
トルクコンバータのコンパクト化を図る場合に、こうした流路及び流通孔の制約が設計上の課題となる。
【0008】
そこで、本発明は、油の流路及び流通孔を形成する場合に油の流通経路を短くすることができるとともに油をスムーズに必要な個所に流通させることが可能な回転駆動用伝動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る回転駆動用伝動装置は、エンジンの回転駆動軸に連結された一体ケースと、前記一体ケースの回転軸と同軸に配置されるとともに前記一体ケースに対して回動自在に取り付けられた出力シャフトと、前記一体ケース内に収容されるとともにエンジンの回転駆動力を前記出力シャフトに伝達する伝動機構とを備えた回転駆動用伝動装置において、前記伝動機構は、前記一体ケース内に収容された流体を介して回転駆動力を伝達する流体伝動機構を少なくとも含み、前記流体は、前記出力シャフトの軸方向に沿って形成された供給路から前記一体ケース内に供給されるようになっており、前記出力シャフトの外周には、前記伝動機構の一部の部材を取り付ける取付部が外方に突出するように設けられており、前記取付部には、前記回転軸の軸方向に対して傾斜するように前記流体の流入孔が形成されるとともに前記供給路より供給された油が流出する供給口から当該流入孔へ連通する隙間を外周側から覆うように油の流通方向に沿って突出するガイド部が形成されており、前記供給路より供給された油が前記流入孔を通して前記一体ケース内に流入して外方に向かって拡がるように流通するように設定されていることを特徴とする。さらに、前記一体ケースに連結されて外方に突出するように設けられるとともに前記取付部に対して前記回転軸の軸方向に隣接配置されたフランジ部材を備え、前記フランジ部材には、前記回転軸の軸方向に対して傾斜するように連通孔が形成されるとともに前記流入孔から当該連通孔へ連通する隙間を外周側から覆うように油の流通方向に沿って突出する外側ガイド部が形成されており、前記取付部には、前記外側ガイド部と重なり合うように内周側において油の流通方向に沿って突出する内側ガイド部が形成されており、前記流入孔より流入した油が前記連通孔を通して前記一体ケース内を外方に向かって拡がるように流通するように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記のような構成を有することで、回転軸の軸方向に対して傾斜するように流入孔が形成されているので、油の流通経路を回転軸と直交する方向に設定する必要がなくなり、設計の自由度を大きくすることができる。また、軸方向に対して傾斜した流入孔に対応して供給路の供給口も軸方向に対して直交する方向に形成する必要がなくなり、供給口の開口位置についても制約が少なくなる。
【0011】
そして、油の流通経路を回転軸に対して傾斜して設定することができるので、流通経路の距離を短くすることができる。すなわち、出力シャフトの軸方向に沿って油の供給路を形成した場合、油を流通させる箇所に対応する位置まで軸方向に供給路を延長した後回転軸に対して直交する方向に供給路をさらに延長して供給口を開口し流通孔に接続する必要がある。これに対して、流入孔が回転軸に対して傾斜して設定することができれば、供給路の供給口から油を流通させる箇所まで直線距離で油の流通経路を設定でき、供給路を回転軸に対して直交する方向に形成する必要がなくなり、流通経路を短くすることができるとともに流通経路の設計の自由度を大きくすることが可能となる。
【0012】
また、供給路より供給された油が流出する供給口から流入孔へ連通する隙間を外周側から覆うように油の流通方向に突出するガイド部を設けることで、傾斜した油の流通経路において隙間から回転軸と直交する方向に流出しやすい油をガイド部により流通方向に誘導することで必要な個所に油を十分流通させることができるようになる。そのため、供給路より供給された油が流入孔を通して一体ケース内に流入して外方に向かって拡がるように流通し、一体ケース内の全域にスムーズに油が流通するようになる。
【0013】
また、一体ケースに連結したフランジ部材を取付部に隣接配置した場合には、フランジ部材に回転軸に対して傾斜した連通孔を形成して流入孔とともに傾斜した油の流通経路に沿って配列することで、油を流通させる箇所に向かって軸方向に対して傾斜する方向に油を流通させることができる。そして、流入孔から連通孔へ連通する隙間を外周側から覆うように油の流通方向に突出する外側ガイド部をフランジ部材に形成し、外側ガイド部と重なり合うように内周側において油の流通方向に突出する内側ガイド部を取付部に形成することで、隙間から回転軸と直交する方向に流出しやすい油を両ガイド部で流通方向に誘導して必要な個所に油を十分流通させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施形態に関する断面図である。
【図2】図1に示す実施形態における油の流通経路に関する拡大断面図である。
【図3】図1に示す実施形態におけるピストン部材、ハブ部材及びクラッチプレートの組合せに関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に関する断面図である。なお、図1では、回転駆動用伝動装置であるトルクコンバータ1の構造が中心軸Tを中心に線対称となるため、上半分の断面構造のみを描画している。
【0017】
トルクコンバータ1は、一体ケースであるカップリングハウジング2を備えており、その前側(図面では左側)は内燃エンジン機関が配置され、後側(図面では右側)には多段変速機構が配置されて、それぞれ接続されるようになっている。そして、カップリングハウジング2内には、エンジンの回転駆動力を出力シャフト9に伝達する複数の伝動機構が収容されており、この例では、後述するように、カップリングハウジング2内に収容された油を介してエンジンの回転駆動力を伝達する流体伝動機構の他に、ダンパ機構、クラッチ機構等の伝動機構が収容されている。
【0018】
トルクコンバータ1は、カップリングハウジング2を構成するフロントカバー3及びリアカバー4を備えており、両者は溶接により一体化されている。フロントカバー3の中心部には回転駆動軸であるエンジンクランクシャフト(図示せず)が嵌合してフロントカバー3と接続される。
【0019】
フロントカバー3は、外周側端部が軸方向に沿ってリアカバー4側に折れ曲がるように湾曲して外周面部3aが形成されており、エンジンクランクシャフトが接続される中心部から外周面部3aまでの側面部3bには、内部部品を収容するように外方に向かって突出した段差部が形成されている。
【0020】
リアカバー4の外周部には、流体伝動機構に用いられるポンプインペラ5の外殻を形成するように外方に向かって湾曲しており、その内周端にはポンプスリーブ6が溶接により固着されている。ポンプスリーブ6は、多段変速機構の枠体Mの内周面にブッシュ6a及びシール部材6bを介して回動可能に保持されている。また、ポンプスリーブ6の内周面には、ステータシャフト7が多段変速機構に固定されて同心円状に配置されている。
【0021】
ステータシャフト7の内部は中空に形成されており、その内部には多段変速機構への出力軸である出力シャフト9がブッシュ9bを介して回動可能に保持されている。そして、出力シャフト9は、中心軸が回転中心軸Tと同軸になるように配置されている。出力シャフト9の中心部には軸方向に貫通孔9aが形成されており、後述する作動用油路として用いられる。貫通孔9aは、図示せぬ油圧制御装置に接続されて油の供給制御が行われる。
【0022】
ステータシャフト7と出力シャフト9との間には、軸方向に沿って複数の流路7aが形成されており、ポンプスリーブ6とステータシャフト7との間には、軸方向に沿って複数の流路7bがそれぞれ独立して形成されている。流路7aは、後述する冷却油を供給する供給用油路として用いられ、供給された油がカップリングハウジング2内を循環して流路7bを通って排出するようになっている。流路7a及び7bは、図示せぬ油圧制御装置に接続されて油の供給制御が行われる。
【0023】
出力シャフト9の先端部の外周には、フロントカバー3の内面側の中心部に突出した円筒状の接続部10がシール部材9cを介して嵌合している。接続部10は、接続部材に相当するもので、回転中心軸Tと同軸となるように形成されており、後端部が軸方向に沿って延設されて支持部10aが形成されている。また、接続部10の前方にはフロントカバー3の内周面に沿うように流通孔10bが形成されており、貫通孔9aから供給された作動油を外周に向かって流通させるようになっている。
【0024】
接続部10の内周面に形成された段差部には、出力シャフト9の先端部の外周に連結された取付部11が挿着されており、取付部11の後端部から外方に向かって支持部11aが延設されている。また、取付部11には、支持部11aの根元部分に流入孔11bが形成されており、流路7aから供給された循環用の油が流入孔11bを通り、カップリングハウジング2内に導入される。
【0025】
図2は、流路7aから供給される油の流通経路に関する拡大断面図である。流入孔11bは、回転中心軸Tに対して前後方向に傾斜して形成されており、前側の開口から後側の開口に向かって下方に傾斜している。そして、流路7aの供給口7cが回転中心軸Tに沿って開口しているが、供給口7cに対して流入孔11bの後側の開口が対向配置されている。そのため、供給口7cから流出した油は、流入孔11bの後側の開口に流入して前側の開口からカップリングハウジング2内に導入される。
【0026】
取付部11を取り付けた出力シャフト9はステータシャフト7に対して回動自在に設けられているので、流入孔11bの後側の開口と供給口7cとの間には、隙間S1が形成されている。そのため、供給口7cから流入孔11bに流通する油の一部が隙間S1を通ってカップリングハウジング2内に導入されてしまい、流入孔11bを通って導入される油の量が減ってしまうことになる。そこで、取付部11には、隙間S1を外周側から覆うように突出した筒状のガイド部11cが形成されている。ガイド部11cは油の流通経路の流通方向に沿って突出しているので、隙間S1から漏出する油の量が少なくなって供給口7cから流出した油が流入孔11bにスムーズに誘導されるようになり、十分な油の量が流入孔11bからカップリングハウジング2内に導入される。
【0027】
接続部10の後端部に延設された支持部10aの外周には、フランジ部材12が連結されている。フランジ部材12は、所定の肉厚を有する円板状に形成されており、中心部の内周端は内歯が形成されて支持部10aの外周に形成された外歯に嵌合してスプライン結合している。そのため、フランジ部材12は、軸方向に移動可能に取り付けられている。支持部10aの外周の後端側にはスナップリング13が固定されており、フランジ部材12の移動範囲を規制するようになっている。
【0028】
フランジ部材12の前面側は平面状の圧接面12aに形成されており、内周側が突出して段差部を形成している。段差部の外周面には、筒状のハブ部材14が嵌合されて軸方向に沿って前方側に突出するように固定されている。ハブ部材14は、所定の厚みでジグザグに折れ曲がるように形成されて、その外周側には外歯が全周にわたって形成され、内周側には外歯に対応して内歯が形成されている。また、段差部には、油の連通孔12bが形成されており、流入孔11bを通過した循環用の油が流通するようになっている。
【0029】
図2に示すように、連通孔12bは、回転中心軸Tに対して前後方向に傾斜して形成されており、流入孔11bと同様に前側の開口から後側の開口に向かって下方に傾斜している。そして、流入孔11bの前側の開口に対して、連通孔12bの後側の開口が対向配置されている。そのため、流入孔11bからカップリングハウジング2内に導入された油は、連通孔12bの後側の開口に流入して前側の開口から後述するクラッチ機構内に導入される。
【0030】
取付部11はフランジ部材12に対して回動自在に設けられているので、連通孔12bの後側の開口と流入孔11bとの間には、隙間S2が形成されている。そのため、流入孔11bから連通孔12bに流通する油の一部が隙間S2を通ってカップリングハウジング2内に導入されてしまい、連通孔12bを通ってクラッチ機構内に導入される油の量が減ってしまうことになる。そこで、取付部11及びフランジ部材12には、隙間S2を外周側から覆うように突出した筒状のガイド部が形成されている。フランジ部材12には、油の流通経路の流通方向に沿って隙間S2を外周側から覆う外側ガイド部12cが突出しており、取付部11には、外側ガイド部12cの内径側に流通方向に沿うように内側ガイド部11dが突出している。両ガイド部は油の流通経路の流通方向に沿って突出しているので、隙間S2から漏出する油の量が少なくなって流入孔11bを通過した油が連通孔12bにスムーズに誘導されるようになり、十分な油の量が連通孔12bからクラッチ機構内に導入される。
【0031】
接続部10のフロントカバー3からの立上り部分である根元部には、ピストン部材15がフロントカバー3の内周面に沿って取り付けられている。ピストン部材15は、内周縁部が接続部10との間にシール部材を介して密着した状態に取り付けられ、外周縁部が側面部3bの段差部との間にシール部材を介して密着した状態に取り付けられており、ピストン部材15が軸方向に移動可能に設定されている。そして、フロントカバー3の内面とピストン部材15との間に油圧室が形成され、流通孔10bから油圧室に作動油を導入して充満すると、ピストン部材15に油圧が加わってピストン部材15をフランジ部材12に向かって移動するように圧力が加えられる。
【0032】
ピストン部材15のフランジ部材12側の側面には、中央部分にリング状に突出した段差部15aが形成されており、段差部15aの表面には平面状の圧接面15bが形成されている。そして、圧接面15bは、フランジ部材12の圧接面12aと対向配置されて互いにほぼ平行になるように設定されている。また、圧接面15bが形成された部分の反対側の側面には複数個所にリブ15cが形成されている。
【0033】
ピストン部材15の内周側には、軸方向に沿って筒状に突出した係合部15dが一体形成されている。係合部15dは、所定の厚みでジグザグに折れ曲がるように形成されて、その外周側に外歯が全周にわたって形成されており、形成された外歯がハブ部材14の内歯と噛み合うように配置されている。したがって、ピストン部材15は、係合部15dにおいてハブ部材14とスプライン結合しており、両者は一体的に回動するようになっている。
【0034】
係合部15dの内周側には、弾性部材であるコイルバネ16が配設されている。コイルバネ16は、フランジ部材12の内周側の段差部の側面及びそれに対向するピストン部材15の内周側の側面の間に圧縮した状態で嵌め込まれており、フランジ部材12及びピストン部材15を互いに離間する方向に常時付勢している。そのため、フランジ部材12は、後方側に付勢されて内周縁がスナップリング13に当接した状態に保持される。また、ピストン部材15のフロントカバー3側の側面には、内周側に突起15eが形成されて外周側に突起15fが形成されており、コイルバネ16によりピストン部材15が前方側に付勢された場合に、フロントカバー3の内周面に突起15e及び15fが当接してピストン部材15とフロントカバー3の間にわずかな隙間が空いた状態で保持されるようになる。
【0035】
フランジ部材12の圧接面12a及びピストン部材15の圧接面15bの間には、複数枚のクラッチ板であるクラッチプレート17及びクラッチディスク18が交互に重合するように配置されている。図3に示すように、クラッチプレート17は、リング状の板状体で、内径側にハブ部材14の外周側の外歯に嵌合する内歯が形成されており、ハブ部材14の外周にスプライン結合により取り付けられている。したがって、クラッチプレート17はハブ部材14を介してフランジ部材12とともに一体的に回動するようになっている。
【0036】
複数枚のクラッチプレート17の間には、それぞれクラッチディスク18が配置されている。クラッチディスク18は、リング状の板状体で、両面にシート状で湿式の摩擦材が接着されている。フランジ部材12の外周に沿って回転中心軸Tと同軸に筒状のドラム部材19が配設されており、ドラム部材19は、クラッチディスク18を囲むようにその外周側に配置されている。ドラム部材19の内周側に形成された内歯には、クラッチディスク18の外径側に形成された外歯が噛み合うように設定されてスプライン結合しており、クラッチディスク18は、ドラム部材19とともに一体的に回動するようになっている。
【0037】
クラッチプレート17及びクラッチディスク18は摩擦材を介して接離することで、クラッチの接断動作を行うようになっており、両者の接触部分である摩擦材を含む領域に対向するようにフランジ部材12の圧接面12a及びピストン部材15の圧接面15bが配置されている。
【0038】
そのため、ピストン部材15とフロントカバー3との間の油圧室に作動油が導入されて充満することでピストン部材15に圧力が加わった場合、クラッチプレート17に圧接面15bが面状に当接して圧接面全体に圧力が分散して押圧するようになる。ピストン部材15の径方向の中間部に配置された圧接面15bがクラッチプレート17に圧接されるため、中間部である圧接面15bの裏面側で支持された状態でその内径側及び外径側で油圧を受けるようになり、ピストン部材15の油圧による変形が抑えられる。そのため、油圧が変化しても圧接面15b全体に加わる圧力分布の変化が抑えられて安定した圧接状態を実現することができる。また、フランジ部材の圧接面12aは、クラッチディスク18の摩擦材に直接圧接するようになっており、摩擦材に圧力を分散して圧接するようになる。したがって、クラッチプレート17がクラッチディスク18の摩擦材に対して圧力を分散して圧接されるようになって確実に接続されるようになる。
【0039】
また、油圧室から作動油が排出されることで、ピストン部材15及びフランジ部材12がコイルスプリング16により互いに離間する方向に付勢されて、ピストン部材15はフロントカバー3の内周面に押し付けられるように保持されるようになり、クラッチプレート17から離間する。そのため、クラッチプレート17及びクラッチディスク18が離間してクラッチが切断されるようになる。クラッチが切断された状態では、ピストン部材15は、ハブ部材14とスプライン結合しているため、別個に回動することがなく、常時フランジ部材12と一体的に回動するようになっている。
【0040】
以上の構成を備えることで、クラッチ機構では、ピストン部材15に加えられる圧力が大きくなっても安定した状態でクラッチの接続動作を行うことができる。また、フランジ部材12を肉厚なものにすることで、大きな押圧力に対しても十分な耐久性を備えることができ、簡単な構造で安定した動作を実現することが可能となる。そのため、クラッチ板の枚数を少なくすることができ、さらに、フランジ部材の圧接面12aをクラッチディスク18の摩擦材に直接圧接するようにしてクラッチプレート17の機能を兼ねさせれば、クラッチ板の枚数の減少により軸方向のスペースの節減も可能となる。
【0041】
ドラム部材19の外周側には、ダンパ機構が配設されている。ダンパ機構は、ドラム部材19の前端部から外周側に折れ曲がるように拡がる保持枠20、保持枠20内に保持される複数のコイルスプリング21、コイルスプリング21に係合する中間プレート22及び出力側プレート23を備えている。出力側プレート23の内径側は、取付部11の支持部11aに固定されている。支持部11aには、ポンプインペラ5に対向配置されるタービンランナ24の内径側の延設部24aが出力側プレート23とともに固定されている。
【0042】
循環用の油は、流路7aから供給されて、傾斜する流入孔11b及び連通孔12bを通過してクラッチ内のフランジ部材12及びピストン部材15の間に流入して外周側に向かって拡がるように流通する。
【0043】
流路7aの供給口7cからクラッチに向けて油を供給する場合、従来のように、供給口7cから回転軸と直交する方向に油が流出するように設定するためには、流路7aを接続部10にまで延長する必要があるが、本実施形態ように出力シャフト9に取り付けた取付部11がステータシャフト7と接続部10の間に配置されている構成では、流路7aを延長することは困難である。
【0044】
本実施形態では、取付部11及びフランジ部材12にそれぞれ流入孔11b及び連通孔12bを傾斜して形成することで、供給口7cから傾斜した流通経路を経由して油がクラッチ内に導入されるようになり、流通経路を傾斜して設定することで流通距離を短くできるとともに流通経路の設計の自由度を大きくすることが可能となる。
【0045】
そして、クラッチ内に導入された油は、中心部から周辺部に向かって拡がるように流通し、図1において矢印で示すように、ハブ部材14に穿設された貫通孔からクラッチプレート17及びクラッチディスク18の間を通過するように流れる。クラッチプレート17及びクラッチディスク18の間を通過した油は、主にドラム部材19に穿設された貫通孔を通過してダンパ機構内に流入する。ダンパ機構に流入した油は、ポンプインペラ5及びタービンランナ24内に流通し、流路7bから排出されるようになる。こうして循環用の油が流通して常時カップリングハウジング2内に油が充満した状態となっている。
【0046】
ピストン部材15とフロントカバー3との間の油圧室に作動油が導入されておらずクラッチが接続されていない状態では、ポンプインペラ5とタービンランナ24との間に油が充満した状態となっているので、ポンプインペラ5の回動に追随してタービンランナ24が回動するようになる。タービンランナ24の回動により延設部24aを固定した取付部11が回動するようになり、カップリングハウジング2に連動して出力シャフト9が回転するようになる。
【0047】
車両の発進時にポンプインペラ5及びタービンランナ24が相対的に回動する場合に、発熱量が大きくなるが、ポンプインペラ5とタービンランナ24との間に油が循環するため、発生した熱は油により効率よく放熱されるようになる。
【0048】
タービンランナ24による出力シャフト9の回転動作中に、ピストン部材15とフロントカバー3との間の油圧室に作動油を導入してピストン部材15をコイルスプリング16の付勢力に抗してフランジ部材12に向かって移動させ、ピストン部材15の圧接面15bとフランジ部材12の圧接面12aとの間のクラッチプレート17及びクラッチディスク18を押圧してクラッチを接続させる。クラッチの接続により、カップリングハウジング2の回動動作に連動する接続部10、フランジ部材12及びハブ部材14を介してドラム部材19が回動するようになる。そして、ドラム部材19の回動に連動してダンパ機構を介して出力側プレート23が回動することで、出力シャフト9が回転するようになる。
【0049】
クラッチの接続動作によりクラッチ内で発熱するが、クラッチ内を通って循環する油により放熱されるようになる。そして、ピストン部材15とフロントカバー3との間の油圧室から作動油を排出してピストン部材15をコイルスプリング16の付勢力によってフランジ部材12から離間させるように移動させることで、ピストン部材15の圧接面15bとフランジ部材12の圧接面12aとの間のクラッチプレート17及びクラッチディスク18が離間してクラッチを切断する。
【0050】
以上説明した例では、回転駆動用伝動装置としてトルクコンバータを例に挙げて説明したが、流体継手装置の場合でも同様に油の流通経路を回転中心軸に対して傾斜するように設定して流通経路を短くすることができる。
【符号の説明】
【0051】
S1 隙間
S2 隙間
T 回転中心軸
1 トルクコンバータ
2 カップリングハウジング
3 フロントカバー
4 リアカバー
5 ポンプインペラ
6 ポンプスリーブ
7 ステータシャフト
8 ステータ
9 出力シャフト
10 接続部
11 取付部
11b 流入孔
11c ガイド部
11d 内側ガイド部
12 フランジ部材
12b 連通孔
12c 外側ガイド部
13 スナップリング
14 ハブ部材
15 ピストン部材
16 コイルスプリング
17 クラッチプレート
18 クラッチディスク
19 ドラム部材
20 保持枠
21 コイルスプリング
22 中間プレート
23 出力側プレート
24 タービンランナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転駆動軸に連結された一体ケースと、前記一体ケースの回転軸と同軸に配置されるとともに前記一体ケースに対して回動自在に取り付けられた出力シャフトと、前記一体ケース内に収容されるとともにエンジンの回転駆動力を前記出力シャフトに伝達する伝動機構とを備えた回転駆動用伝動装置において、前記伝動機構は、前記一体ケース内に収容された流体を介して回転駆動力を伝達する流体伝動機構を少なくとも含み、前記流体は、前記出力シャフトの軸方向に沿って形成された供給路から前記一体ケース内に供給されるようになっており、前記出力シャフトの外周には、前記伝動機構の一部の部材を取り付ける取付部が外方に突出するように設けられており、前記取付部には、前記回転軸の軸方向に対して傾斜するように前記流体の流入孔が形成されるとともに前記供給路より供給された油が流出する供給口から当該流入孔へ連通する隙間を外周側から覆うように油の流通方向に沿って突出するガイド部が形成されており、前記供給路より供給された油が前記流入孔を通して前記一体ケース内に流入して外方に向かって拡がるように流通するように設定されていることを特徴とする回転駆動用伝動装置。
【請求項2】
前記一体ケースに連結されて外方に突出するように設けられるとともに前記取付部に対して前記回転軸の軸方向に隣接配置されたフランジ部材を備え、前記フランジ部材には、前記回転軸の軸方向に対して傾斜するように連通孔が形成されるとともに前記流入孔から当該連通孔へ連通する隙間を外周側から覆うように油の流通方向に沿って突出する外側ガイド部が形成されており、前記取付部には、前記外側ガイド部と重なり合うように内周側において油の流通方向に沿って突出する内側ガイド部が形成されており、前記流入孔より流入した油が前記連通孔を通して前記一体ケース内を外方に向かって拡がるように流通するように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の回転駆動用伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−117516(P2011−117516A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274556(P2009−274556)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(594079143)アイシン・エィ・ダブリュ工業株式会社 (119)