説明

固体の粘度を減少させるための分散剤

本発明は、ポリマー親水性部分に結合されたアンカー部分を有し、アンカー部分は少なくとも1つの塩基性基を含み、全体として塩基性を有し、かつポリマー部分はアンカー基よりも微粒子表面に対し低い親和性を有する化合物を含む、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の水性分散物のための分散剤を提供する。アンカー部分は3つまでの塩基性基、好ましくはジメチルアミノまたはエチルアミノ基を含んでもよい。これは、好ましくは非置換または置換アクリルアミドモノマユニットから誘導されるポリマー部分に、好ましくは硫黄原子により結合される。分散剤は負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の水性分散物の粘度を、pHを約9またはそれ以下で維持しながら、減少させることができ、得られた分散物がゲルまたは降伏応力材料を形成する傾向を減少させることができる。分散剤は製造作業における得られた組成物の処理を容易にし、例えば、コーティング材料、セラミック、塗料、耐火材料、フィラーの成分として、またはインクジェット記録紙またはフィルムにおいて使用されてもよい。さらに、分散剤により、より高濃度の固体微粒子の使用が可能となり、いくらかの応力は沈降を阻止または減少させるのにしばしば有益であるので、降伏応力の制御が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は国際公開第2006/067453号および国際公開第2006/067457号に関連する。
【0002】
本発明は水性固体分散物またはそれらから得られる組成物、特に負に帯電した、または帯電可能な固体粒子の分散物のための分散物に関し、これは粘度および/またはゲルまたは降伏応力材料を形成する傾向を、系のpHを約9を超えて増加させずに減少させることができる。固体微粒子分散物は、例えば、コーティング材料、インクジェット記録紙またはフィルム、化学−機械研磨/研削材料、セラミック、セメント、塗料、触媒系、耐火材料、表面摩擦調合物、フィラー、またはナノ粒子材料を組み入れた任意の生成物の成分として使用してもよい。
【背景技術】
【0003】
水性固体分散物を含む製造調合物はしばしば、1つまたは複数の下記理由のために高濃度の固体で処理される必要がある:輸送のコスト/効率を改善するため、レイダウンを増加させるため、または乾燥負荷を減少させるためであり、水の除去は無駄で経費がかかるからである。調合物はまた、低せん断速度〜高せん断速度に至る広範囲のせん断に対し安定である必要がある。混合後、微粒子の水性分散物、とりわけ、高濃度の固体を含むものは、せん断応力が緩和されるので「降伏応力材料」を形成する傾向があり、粘度はせん断減少に伴い劇的に上昇し、例えば、せん断が減少したゾーンにゲルが堆積する可能性がある。低せん断での分散物の高い粘度はその分散性および流動性に影響し、系を撹拌、ポンピング、輸送、コートするまたは注ぐのを困難にする。さらに、降伏応力材料を形成する、または低流動領域でゲル化する傾向はしばしばより問題となり、ゲル化はしばしば不可逆であるため、結果的に、系が流れることを基本とする製造プロセスでは全体として許容されない。
【0004】
塩基の無機、有機またはポリマー形態をシリカゾル調製物に添加して粒子成長を最小に抑え、微粒子分散物を安定化させてもよいことは当技術分野において公知である。このように、米国特許第3,346,334号は、塩基、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化アンモニウムを使用して粒子サイズ2〜3nmのかなり安定なシリカゾルを形成することを記載し、米国特許第3,714,064号はpH9〜11のアルカリ媒質を使用して25%までのシリカを含む、サイズが5nm未満の粒子を有するシリカゾルを調製することを開示する。非常に小さな粒子の場合、イオン安定化を補充するために立体安定化も使用されていた。
【0005】
特開昭54−043937号および特開昭54−043938号は、それぞれ、アルギニン酸のアルカリ溶液または可溶化スチレン−マレイン酸コポリマーとのポリエチレングリコール(t−ドデシルチオ)−または(t−トリデシルチオ)エチルエーテルまたはポリエチレングリコールソルビタンモノアルカノエート、マレイン酸またはビニルピロリドン樹脂エマルジョンに基づくシリカゾルコーティング組成物のための分散剤の組み合わせを記載する。これらの組み合わせは、記載された条件下で優れた保存性および顔料分散性を提供することが報告されている。
【0006】
特開昭61−118130号は(メタ)アクリル酸またはα,β−不飽和ジカルボン酸ホモポリマ類または、エステル類、酸アミド類、および/または親水性もしくは疎水性モノマー類とのコポリマー類に基づく微細シリカ粒子(平均直径〜0.1μm)懸濁液に対する水性分散剤を開示する。一例は、分散剤としてアクリル酸/メチルアクリレートコポリマ類を添加すると、シリカ分散物の粘度が一桁を超えて減少し、得られた分散物が90日を超えて安定化される。
【0007】
米国特許第3,360,954号は、無機または有機塩基と水溶性非芳香族ポリヒドロキシまたはヒドロキシエーテル化合物、例えば、ポリビニルアルコールとの組み合わせの使用による、非常に小さなシリカ粒子のゾルの安定化を記載する。
【0008】
特開平01−156594号は、ポリアルキレンポリアミン類および/またはそれらの誘導体を含む、粉末シリカ含有紙コーティング剤に対する分散剤を記載し、特開平04−272888号は、記録媒体のためのシリカを含むコーティング組成物を開示し、これはまた、ポリアルキレンポリアミンに基づく分散剤を開示する。
【0009】
特開2002−095949号は、50モル%を超える水溶性非イオン性モノマー類、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を含むポリマー類に基づく、高濃度および低粘度を有するシリカ粒子の分散物に対する分散剤を記載する。出願は、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)が、ポリ(ナトリウムアクリレート)に基づくポリマーよりも特別なシリカ分散物の粘度を減少させるのにより効果的であることを示す例を開示する。
【0010】
特開平05−064735号は、20%以上のエチレンα,β−不飽和カルボン酸またはそれらのアルカリ金属、アンモニウム、またはアミン塩を含むモノマー混合物から得られるポリマー類およびポリマー類100部あたり1〜150部のアルキレングリコール類を含む溶媒に基づく、無機微細粉末を分散させるための分散剤を記載する。ポリマー類はまた、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートをコモノマーとして含んでもよい。エチレングリコール中の球状シリカ粒子(直径0.2μm)の分散物に対する分散剤としてポリ(アクリル酸)ナトリウム塩の使用に基づく例が開示されている。
【0011】
【特許文献1】米国特許第3,346,334号明細書
【特許文献2】米国特許第3,714,064号明細書
【特許文献3】特開昭54−043937号公報
【特許文献4】特開昭54−043938号公報
【特許文献5】特開昭61−118130号公報
【特許文献6】米国特許第3,360,954号明細書
【特許文献7】特開平01−156594号公報
【特許文献8】特開平04−272888号公報
【特許文献9】特開2002−095949号公報
【特許文献10】特開平05−064735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子、とりわけ高濃度の固体での水性分散物のための、固体の濃度の増加による粘度増加が低くすることができ、ゲルまたは降伏応力材料を形成する傾向を減少させることができ、これにより得られた組成物の取り扱いおよび処理を容易にする、分散剤添加剤が必要である。上記従来技術で記載したように、単純な塩基および他の系を使用して、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の分散物の粘度を減少させることができるが、これを達成する能力はかなり制限され、または系が極端なpH値となる可能性があり、これにより腐食性または極度の反応性となる可能性があり、このため、多くの用途で許容されない。上記レオロジー問題により、組成物が扱いやすく、処理可能なままであり、許容可能なpHの中間範囲、すなわち約5〜9にあるべきである場合、分散調合物中に添加させることができる固体濃度が制限される。使用されるそのような固体微粒子の濃度をより高くすることができ、系を過剰なpH値にさせずに降伏応力の制御が可能な、適した分散剤が必要である(しかし、沈降を阻止または減少させるのを助けるのにいくらかの応力がしばしば有利である)。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このように、本発明は、ポリマー親水性部分に結合されたアンカー部分を有し、アンカー部分は少なくとも1つの塩基性基を含み全体として塩基性を有し、ポリマー部分はアンカーよりも微粒子表面に対し低い親和性を有する化合物を含む、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の水性組成物のための分散剤を提供する。
【0014】
上記に規定した1つまたは複数の分散剤を、水性分散媒質、および必要に応じてバインダ、と共に添加する工程を含む、pHを約9またはそれ以下に維持しながら、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の組成物の粘度およびゲルもしくは降伏応力材料を形成する傾向を減少させる方法もまた提供する。
【0015】
別の観点では、上記に規定した1つまたは複数の分散剤を、水性分散媒質、および必要に応じてバインダ、と共に含む、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子を含むコーティング組成物を提供する。
【0016】
別の観点では、
(a)負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の組成物を提供する工程と、
(b)前記組成物を、上記に規定した1つまたは複数の分散剤と、水性分散媒質と共に混合し、コーティング組成物を形成させる工程と、
(c)前記コーティング組成物を基材に適用しその上にコーティングを形成させる工程と、
(d)得られたコーティングを乾燥させる工程と、
を含む、基材をコートする方法を提供する。
【0017】
別の観点では、pHを約9またはそれ以下に維持しながら、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の組成物の粘度およびゲルまたは降伏応力材料を形成する傾向を減少させるための、特に広範囲のせん断応力にわたって安定性を提供するインクジェット記録要素の調製のための、前記で記載した1つまたは複数の分散剤を水性分散媒質と共に含む組成物の使用を提供する。
【0018】
さらに別の観点では、その上に少なくとも1つの画像受理層を有する支持体を備え、前記で規定したコーティング組成物を含むインクジェット記録要素を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[発明の有利な効果]
本発明は、分散剤が混合中に受ける高いせん断応力後に緩やかな緩和に曝されると、関連する粘度および降伏応力問題を大きく減少させる、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の水性分散物のための効果的な分散剤を提供する。本発明の分散剤の主な利点は、負に帯電した、または帯電可能な微粒子系、例えばシリカを、単純な塩基を添加して分散させる他の一般的な方法のように、系を高いpH、すなわち約9より高いpHにさせないことである。このように分散剤は、そのような塩基を用いて得られるものよりも低いpH値で、得られた組成物の、撹拌、ポンピング、輸送、コートまたは注ぐなどの、取り扱いを、高い固体濃度であっても、改善された分散性および流動性により容易にする。分散剤は、いくらかの応力は沈降を阻止または減少させるのを助けるのにしばしば有益であるので、固体微粒子のより高い濃度を可能とし、降伏応力の制御を可能とする。
【0020】
負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の、とりわけ高濃度の固体の水性分散物は混合後、ますます高くなる粘度を示す傾向がある。実際、せん断応力の減少に伴う粘度の増加速度はしばしば高くなり、系は降伏応力材料となり、そのためゲル化し、流動しなくなる傾向がある可能性がある。
【0021】
本明細書で使用されるように、「降伏応力」はそれより低いと塑性または粘塑性材料が固体のように挙動する(すなわち、流動しない)臨界せん断応力値として規定される。本明細書で使用されるように、「降伏応力材料」は「降伏応力」を示す材料として規定される。多くの場合、これはゲルとなるが、この用語はそれに限定されるものと考えるべきではなく、例えば別の固体形態、例えば、ペーストまたは「ケーク」であってもよい。
【0022】
いったん、降伏応力を超えると、塑性材料は曲がり、粘塑性材料は液体のように流動する。この問題は、そのような分散物を使用する全ての製造プロセスにおいて現れる可能性がある。
【0023】
本発明の目的は、そのため、従来技術で記載した他の分散物材料に比べ、系を著しいpH値にさせずにこれらの問題を軽減させ、そのため、製造プロセスでのこれらの分散物の有用性を増加させる水溶性分散剤を提供することであった。
【0024】
本発明は、分散物に添加されると、分散剤が存在しない系、または他の一般的な分散剤、とりわけ単純な塩基が存在する系に比べ、約9を超えるpHに系を誘導せずに、分散物の固有粘度を減少させ、分散物がゲルまたは降伏応力材料を形成する傾向を減少させる有効な分散剤を提供することにより、これを達成する。
【0025】
本発明の分散剤の有効性のために、本発明は、分散剤を有さない分散物または従来の分散剤を有する分散物のいずれかに比べ、粘度またはゲルもしくは降伏応力材料を形成する傾向を増加させずに、水性分散物中の固体濃度を増加させる方法を提供する。さらに、本発明は添加する分散剤および添加する固体の量を制御することにより水性分散物におけるゲルの降伏応力を制御し、このため、固体添加量が従来の分散剤を用いて得られるものより高くなる方法を提供する。このように、本発明は、系内で生じた、改善された分散性および流動性のために、製造プロセスにおけるそのような分散物の流体処理および一般的な流体管理を促進する。
【0026】
本発明の分散剤の利益を定量化するために、関連する水性分散物またはそれから得られる組成物のレオロジーを特徴づけることが有用である。ゲルのレオロジーは、ゲル構造はせん断下で崩壊し、再形成に関係する時間が限られるので、流体よりも特徴づけることが本質的により困難である。このように、ゲルの場合、平衡からのわずかな変位しか含まない振動特性のレオロジー測定を使用すると特に有用である。このように、ゲルの複素弾性率(応力対歪み)または「剛性」を定量化することができる。このアプローチは特にゲルに適しているが、これは同様に、高品質高感度レオメータ、例えば、ボーリン(Bohlin(商標))CS−50を使用すると、流体にうまく適用することができる。系の流体バージョンは単純に、ゲル状態のものよりも、典型的には数桁低い複素弾性率を有する。
【0027】
図1の曲線A、B、CおよびDは、以降でより詳細に説明するように、振動時間掃引(低〜高応力)を用いて、ボーリンCS−50レオメータを用いて測定した、ある範囲の濃度の水酸化ナトリウム塩基の非存在および存在下での、水性シリカ分散物のレオロジーデータから誘導したものである。より詳細には、レオロジーデータは複素弾性率対振動応力の観点で提供される。典型的には、系は応力範囲の低い端で、高い端よりも高い複素弾性率を提供する。また、典型的には、異なる系を比較すると、応力範囲の低い端で、高い端よりも複素弾性率の差異が大きくなる。そのため、単一のパラメータが、異なる分散物の「剛性」間で差別化されることが望ましい場合、振動応力の特定の低い値で複素弾性率の値を選択することが理にかなっている。いずれの機器であっても、その作用限度からわずかに離れた測定点を選択することが賢明である。0.04Paまでの応力を測定する本発明で使用されるボーリンCS−50機器の場合、そのため、キャラクタリゼーション点として0.1Paの応力を選択することが賢明で、好都合である。このパラメータに対し、CM0.01の略語を使用する。
【0028】
曲線Aは、せん断後、約4.1の自然のpHで静置すると著しいゲルを形成する、塩基が存在しないある水性シリカ分散物(水中11%w/wアエロジル(商標)200)に対するレオロジーデータを示す。曲線は、低い応力(0.04〜3Pa)で高い複素弾性率(約50Pa)、続いて、その後複素弾性率が急激に減少し、このように高い振動応力で流体様挙動への降伏を示す限りにおいて、弱いゲル構造と一致する。
【0029】
曲線Bは同じ系であるが、15mMの水酸化ナトリウムが存在する系の対応するレオロジーデータを示す。この系は、曲線Bに対する曲線Aの浅さにより特徴づけられるように、せん断後に静置すると、ずっと弱いゲルを形成する。明らかに、塩基は系の流動性を増加させるが、系のpHを大きく、すなわち4.1から9.1に変化させる。
【0030】
曲線CおよびDは同じ系であるが、それぞれ、25mMおよび40mMの水酸化ナトリウム塩基が存在する系に対する対応するレオロジーデータを示す。これらの系はせん断後静置すると流体系を形成し、複素弾性率が振動応力の急勾配関数でない浅い曲線により特徴づけられる。しかしながら、この流動性は、高い系のpHを犠牲にして達成される(曲線Cで表される系=pH9.6および曲線Dで表される系=pH10.1)。
【0031】
上記で示唆されるように、曲線A、B、CおよびDにより表される系の相対流動性は区別することができ、このように単一のパラメータ、すなわち振動応力の代表的な低い値、この場合0.1Paでの複素弾性率の値により特徴づけられる。この範囲の系を例として考えると、高いCM0.1値を示す分散物は非常に粘性の高い流体またはゲルのいずれかであり、低いCM0.1値を示す分散物はかなり流動的な系であるということができる。このように曲線A、B、CおよびDにより表される系は表1で示される複素弾性率により特徴づけられる。
【0032】
【表1】

【0033】
このように、代表的な負に帯電した、または帯電可能な固体、この場合シリカの高い固体量の水性分散物は中性に近いpH、例えば約5〜9、すなわち中性のpH単位の±2ででは自然の状態でゲルとなる。
【0034】
そのため本発明の分散剤に対する主目的は、公知の分散剤材料、特に水酸化ナトリウムなどの単純な塩基類よりも効果的に、系のpHを、約9を超えて上昇させずに、そのような系の複素弾性率値を減少させる、またはそのような系のゲルまたは降伏応力材料を形成する傾向を減少させることであった。
【0035】
本発明において使用するために負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子系の例は、等電点(IEP)より高いpHの、ある酸化物類/水酸化物類、これらは金属および非金属例を含む、セラミック類および金属類および負に帯電した、または帯電可能なラテックス類である。本発明は特に、二酸化炭素で飽和させた水のpHより低いIEP、すなわちpH<5.8、を有する無機固体微粒子に適しているが、この状態に限定されない。系のpHは適した塩基を添加することによりIEPより高く上昇させることができるからである。ただし、系および任意の関連する生成物またはプロセスは塩基の存在に耐えることができることを条件とする。IEPはまた、特異的吸着により、溶液中で異なるイオン型を使用することにより有利に操作することができる。
【0036】
IEP pH<5.8を有する酸化物の例は、例えば、ケイ素酸化物SiO(シリカ)、チタン酸化物TiO(アナターゼ)、テルル酸化物TeO、モリブデン酸化物HMoO、スズ酸化物SnOおよびジルコニウム酸化物Zr(ジルコニア)であり、シリカを使用することが好ましい。コバルトの酸化物、Coもまた、どのように調製されたかによってIEP pH<5.8を有することができる。IEP pH<5.8を有する金属は例えばMo、Pt、TeおよびSnである。
【0037】
本発明で使用するための分散剤はポリマー親水性部分に結合されたアンカー部分を有し、アンカー部分は少なくとも1つの塩基性基を含み、全体的に塩基性を有し、ポリマー部分はアンカー基よりも負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の表面に対し低い親和性を有する化合物を含む。
【0038】
塩基性基は好ましくは非置換または置換アミン、窒素、酸素および硫黄から選択される1つまたは複数の他の複素環原子を含んでもよい窒素含有複素環、または四級アンモニウムまたはピリジニウム塩の水酸化物から選択される。例示にすぎないが、塩基性基は、非置換または置換アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ピペリジン、ピペラジン、チオモルホリン、モルホリン、ベンゾイミダゾール、ベンゾピロリジン、ピリジンまたはピラゾール基であってもよい。このように、例えば、ジエチルアミン基は、例えば、1つまたは複数のヒドロキシまたはハロゲンまたはアリール基により置換されてもよく、複素環化合物は、例えば、アルキル、アラルキル、または他の複素環基、例えば、ピリジン基により置換されてもよい。より好ましくは、塩基性基はN,N−ジメチルアミノ基であり、最も好ましくは非置換アミノ基である。
【0039】
ポリマー親水性部分は好ましくは、例えば、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ−N−メチルアクリルアミドまたはポリ−N−メチルメタクリルアミドまたはそれらの混合物、またはポリ−N,N−ジ−メタクリルアミドを含む混合物から選択され、ただし、ポリ−N,N−ジ−メタクリルアミドは微量成分として存在することを条件とする。より好ましくは、ポリマーはポリアクリルアミドまたはポリメタクリルアミド、最も好ましくはポリアクリルアミドである。
【0040】
ポリマー部分は疎水性モノマー類を含んでもよく、ただし、全体としては親水性特性を維持すること、25%未満の疎水性基、好ましくは12%未満の疎水性基を含むことを条件とする。
【0041】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の分散剤は式(I)を有し:
【0042】
【化1】

【0043】
式(I)において、
Aは炭素または窒素であり、
R’は水素または非置換もしくは置換アルキル、アリールまたは複素環基であり、mはAが炭素である場合1であり、mはAが窒素である場合0であり、
Bは塩基性基であり、
DおよびEはそれぞれ、独立して水素、非置換もしくは置換アルキルまたは塩基性基であり、または酸性基またはエステルまたはそのアミドであり、yは0または1であり;
L、LおよびLは結合基であり、これは同じかまたは異なり、z、pおよびqはそれぞれ、独立して0または1であり、
B、L、D、LおよびLはAと結合して、1または複数の環を形成してもよく、この環は窒素、酸素および硫黄から選択される別のヘテロ原子を含んでもよく、
各Mはモノマーユニットであり、これは同じかまたは異なってもよく、非置換または置換アクリルアミドまたはメタクリルアミドを含み、xは10〜200であり;
Fは水素または置換基であり、
ただし、塩基性基の数はその中の任意の酸性基の数より大きいことを条件とする。
【0044】
好ましくは、Aは炭素であり、R’は水素またはメチルまたはエチル基である。
【0045】
Lは存在する場合、好ましくは硫黄原子でありz=1である。しかしながら、Lはまた、例えば、1つまたは複数の非置換または置換アルキレン、エステル、チオエステル、アミド、チオアミド、ケトン、チオケトン、エーテルまたはチオエーテル基を含んでもよい約20までの原子の鎖であってもよい。このようにLは、例えば、例示にすぎないが、ポリアルキレンチオ基[−(CH−S]基(式において、qは1〜20の整数、とりわけ9である)、−CONH−(CH−S基(式において、sは1〜20である)、(CHCO(CH−S基、−CONH−(CH−S基、または(CHNHCO(CHS基(それぞれrは独立して1〜5である)であってもよい。zはまた0であってもよく、そのため、結合基Lは存在しない。
【0046】
は存在する場合、例えば、1つまたは複数の非置換または置換アルキレン、アリーレン、エステル、チオエステル、アミド、チオアミド、ケトン、チオケトン、エーテルまたはチオエーテル基を含んでもよい1〜20の原子のフラグメントである。このように、Lは例示にすぎないが、非置換または置換メチレン、エチレンまたはプロピレン、ケト、CONH(CH、(CHNR’’(CH、(CHO(CH、CHRCOOR’’、(式において、R’’は水素またはアルキル基であり、Rは置換アルキレン基である)、(CHNHCOCHCHCONH(CH、フェニレン、CHCHROフェニレンまたはフェニレンCOO(CH基、(式において、各rは独立して1〜5であり、Rは独立して水素またはアルキル基である)であってもよい。pはまた、0であってもよく、そのため、結合基Lは存在しないが、好ましくはpは1であり、Lはメチレンまたはエチレン基である。
【0047】
は存在する場合、1つまたは複数の非置換または置換アルキレン、アリーレン、エステル、チオエステル、アミド、チオアミド、ケトン、チオケトン、エーテルまたはチオエーテル基を含んでもよい1〜20の原子のフラグメントである。このように、Lは例示にすぎないが、エチレン、CONH(CHまたは(CHCONR(CH、(式において、rは1〜5であり、Rは置換アルキレン基である)であってもよい。しかしながら、好ましくは、qは0であり、そのため、結合基Lは存在しない。
【0048】
Dは好ましくは水素または塩基性基、例えば、ジメチルアミノまたはジエチルアミノ基であるが、酸性基またはエステルもしくはアミド基であってもよい。一般に、yは0であり、そのため、E基は存在しないが、存在すると、これはDに対して規定された通りであってもよく、このように塩基性もしくは酸性基またはそれらのエステルもしくはアミド、好ましくはジメチルアミノまたはジエチルアミノ基を含んでもよい。式(I)の化合物はこのように、3つまでの塩基性基を含むことができるが、要求される全体の塩基性を提供するためには、塩基性基の数は任意の酸性基の数より大きいことが必要である。
【0049】
モノマーユニット(x)の数は好ましくは10〜100、より好ましくは15〜50、最も好ましくは15〜35である。前に述べたように、好ましくはポリマーはポリアクリルアミドであるが、他のポリマー類、例えば、ポリメタクリルアミド、ポリ−N−メチルアクリルアミドまたはポリ−N−メチルメタクリルアミドまたはその混合物、または少量のポリ−N,N−ジ−メチルアクリルアミドを含む混合物を使用してもよい。
【0050】
このように、Mは下記構造のいずれかを有してもよく、Fの結合点は右側にある:
【0051】
【化2】

【0052】
上式において、R、RおよびRは独立して、水素または1〜3の炭素を有する非置換もしくは置換低級アルキル基である。R、RおよびRがそれぞれ、水素である場合、Mは非置換アクリルアミド基であり、これが好ましい。しかしながら、RおよびRがそれぞれ独立してメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピルまたはt−ブチル基である場合、Rは通常水素またはメチル基である。
【0053】
一般にR、RおよびRのアルキル基上のいずれの置換も、1つまたは複数のヒドロキシル、酸性または塩基性基以外である。例えば、隣接する非吸着基により吸着が立体的に阻止されなければ、強い吸着ヒドロキシル基は避けるべきである。
【0054】
Fは一般に水素であるが、分子の水溶解度に大きく影響しないとして当業者に公知の末端置換基であってもよい。例えば、ハロゲン原子、非置換または置換アルキル基、チオール、中性チオエーテル、エーテル、エステル、またはアルキル−スルホン基もしくはアリール−スルホン基であってもよい。
【0055】
アンカー部分とポリマー部分の化学の組み合わせは本発明の材料が効果の高い分散剤として機能するために不可欠である。以後、例示するように、本発明の材料の1つを分離した2つの成分、例えば、ポリアクリルアミドおよび塩基性フラグメント2−N,N−ジメチルアミノエチル−と比較すると、成分部分は、本発明の定義および範囲内の適した分散剤として機能することができない。
【0056】
さらに、本発明で規定されるアンカー部分の化学構造は、効果の高い分散剤としての本発明の材料の機能にとって重要である可能性がある。前に示したように、アンカー部分は1つまたは少数の塩基性基を含む。しかしながら、アンカー部分中に過剰の塩基性基が存在する限り、酸性基もまた、塩基性基と共にアンカー基中に存在してもよい。
【0057】
本発明で規定した親水性ポリマー部分の化学構造もまた、本発明の材料が水性媒質中で効果の高い分散剤として機能するためには重要である可能性がある。固体微粒子の表面に対する親水性ポリマーの親和性は、アンカー部分よりも低い必要があり、そうでなければ、ポリマーは固体微粒子の表面に吸着される可能性があり、その後、粒子間で架橋が起こる可能性があり、これにより粒子の凝集に至る可能性がある。このように、水素結合供与および水素結合受容特性の両方を有する親水性ポリマー類が一般に好ましく、単に水素結合受容特性のみを有するもの、例えば、ポリエチレンオキシドおよびポリ−N,N−ジメチル−アクリルアミドは、微量成分として以外は、避けられる。しかしながら、水素結合供与および水素結合受容の両方である、ヒドロキシル基は負に帯電された酸化物類、例えばシリカに強く吸着されるので避けるべきである。ヒドロキシル基が隣接する非吸着基により吸着から立体的な阻止される場合は例外である。
【0058】
式(I)に関連する構造を下記例で示すが、それらに限定されない(上記で規定される、重合度xの観点から一般的であることに注意すること):
【0059】
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0060】
上記系のいくつかの特異的な構造(すなわち、平均重合度が規定されている場合)を下記に、例示として示す:
【0061】
【化8】

【0062】
一般に、本発明に関連する固体微粒子は粒子サイズ範囲が1nm〜100μm、好ましくは5nm〜10μm、より好ましくは10nm〜3μm、最も好ましくは50nm〜1μmである。
【0063】
基本組成物は、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子と水性分散媒質とを、1つまたは複数の本発明の分散剤、および必要に応じて水溶性バインダおよび/またはpH調整剤と共に含む。本発明によれば、基本組成物は、機械的混合装置、例えば、撹拌機、ホモジナイザ、ミリング装置または高圧分散機を用いて調製される。
【0064】
1つの(または複数の)水溶性バインダが存在する場合、目的に適していると当業者に公知の任意のバインダとしてもよい。このように、バインダはポリマー、たとえば、デンプンおよびその修飾生成物、ポリビニルアルコールおよびその修飾生成物(例えば、アセチルアセチル化ポリビニルアルコール)、ポリビニルアセテート、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、誘導体を含むポリビニルアセタールおよびタンパク質誘導ポリマー類、例えばゼラチンおよびその誘導体であってもよい。加水分解度が86〜89%のポリビニルアルコール類、例えば、日本の日本合成(Nippon Gohsei)から入手可能なゴーセノール(Gohsenol(商標))GH−17、ゴーセノール(Gohsenol(商標))GH−20、およびゴーセノール(Gohsenol(商標))GH−23が特に好ましい。ラテックスポリマー、例えば、スチレンアクリルラテックスまたはスチレンブタジエンラテックスなどとしてもよい。バインダの量は用途によって変動するが、一般に、固体粒子に対し0〜40%w/w、より好ましくは0の〜20%w/w、最も好ましくは0〜10w/wの量で存在する。
【0065】
pH調整剤は、添加量が分散剤の性能に悪影響を与えない限り、任意の適した有機または無機塩基または酸をすることができる。
【0066】
必要に応じ、組成物は他の添加物、例えば、フィラーまたは可塑剤、着色剤(顔料または染料)、霜防止剤、硬化剤、促進剤、抗酸化剤、殺菌剤、帯電防止剤、UV吸収剤、UV光安定化剤、および雰囲気ガスまたは容器の悪影響を制限する材料を含んでもよい。これらを、例えば、添加物を水溶液(または分散物)中に可溶化(または分散)させ、得られた添加物の溶液(または分散物)を固体微粒子の初めの基本水性組成物と混合することにより基本組成物に導入し、より複雑な組成物を生成させてもよい。
【0067】
本発明の分散物中の固体微粒子量は、普通、約0.02〜約0.8、好ましくは約0.1〜約0.6、より好ましくは約0.2〜約0.5の固体の体積分率の範囲である。%w/w量は分散させた固体の密度と共に変動するが、一般にレベルは分散物が本発明の分散剤とうまく分散できるように、最終分散物がその改善された分散性および流動性により処理および管理可能になるように選択される。最も一般的な天然由来の負に帯電した固体の1つはシリカ(二酸化ケイ素)である。シリカはほとんどの金属酸化物類よりもずっと低い密度を有し、グラムあたりの表面積が高い多くの源が存在し、そのため、良好な分散物を提供するために必要とされる重量に基づく分散剤対固体の比率は、正に帯電したまたは帯電可能な微粒子系に対し経験されるものよりずっと高いものとなりえる。
【0068】
分散物中の分散剤は典型的には、1:1000〜1000:1000w/w微粒子固体、好ましくは10:1000〜800:1000w/w微粒子固体、より好ましくは30:1000〜600:1000w/w微粒子固体、および最も好ましくは50:1000〜500:1000w/w微粒子固体の範囲で使用される。しかしながら、分散剤は粒子表面で作用することが当業者に周知であることを考えると、得られた表面積の増加のため粒子サイズがよりいっそう減少するので、より高濃度の分散剤が必要とされることもまた実行者によく許容される。
【0069】
本発明の分散物の特別な利点は、高いせん断を受けた後の改善された分散性および流動性の観点からのコーティング材料の成分としての使用である。
【0070】
本発明の分散剤を使用するコーティング組成物は前計量コーティング法または後計量コーティング法により基材表面の1つまたは両方に適用されてもよい。これらの方法は浸漬コーティング、巻線型ロッドコーティング、溝付きロッドコーティング、平滑ロッドコーティング、エアナイフコーティング、湾曲または斜めブレードコーティング、グラビアコーティング、フォワードロールコーティング、リバースロールコーティング、マルチプルロールコーティング、スライドコーティング、ビードコーティング、押し出しコーティングおよびカーテンコーティングを含んでもよい。公知のコーティングおよび乾燥法がさらに詳細に1989年12月に出版されたリサーチディスクロージャ(Reasearch Disclosure)No.308,119、p.1007〜1008に記載されている。コーティング組成物は水、水系混合物または有機溶媒のいずれかからコートすることができるが、水が好ましい。
【0071】
コーティングプロセスの選択は操作の経済性から決定され、これは、コーティング固体、コーティング粘度およびコーティング速度などの調合仕様を決定する。基材に適用した後、コーティング流体は一般に単純な蒸発により乾燥され、これは対流加熱などの公知の技術により促進される可能性がある。さらに、カレンダ加工などの処理を使用して、表面テクスチャを適用してもよい。
【0072】
基材は、提案された用途によって、例えば、織物、木材、金属またはプラスチックとしてもよい。好ましい実施形態では、本発明で使用するための基材または支持体は紙、樹脂コート紙または透明支持体である。厚さは約10〜約500μm、好ましくは約50〜約300μmであってもよい。所望であれば、抗酸化剤、帯電防止剤、可塑剤および他の公知の添加物を支持体中に組み込んでもよい。
【0073】
インクジェット記録要素において分散物を使用する場合、支持体はインクジェット容器のために通常使用されるもののいずれか、例えば樹脂コート紙、紙、または微細孔材料、例えば、商標名テスリン(TESLIN(商標))でペンシルベニア州ピッツバーグのPPG工業社から販売されているポリエチレンポリマ含有材料、タイベック(TYVEK(商標))合成紙(デュポン社)、およびオパライト(OPPalyte(商標))フィルム(モービルケミカル社)および米国特許第5,244,861号に列挙されている別の複合フィルムとしてもよい。不透明支持体としては、普通紙、コート紙、合成紙、写真紙支持体、溶融押し出しコート紙およびラミネート紙、例えば二軸配向支持体ラミネートが挙げられる。二軸配向支持体ラミネートは米国特許第5,853,965号、同第5、866,282号、同第5,874,205号、同第5,888,643号、同第5,888,681号、同第5,888,683号および同第5,888,714号に記載されており、これらの開示は参照により本明細書に組み入れられる。これらの二軸配向支持体は紙ベースおよび紙ベースの1つまたは両側に積層された二軸配向ポリオレフィンシート、典型的にはポリプロピレンを含む。透明支持体としては、ガラス、セルロース誘導体類、例えば、セルロースエステル、三酢酸セルロース、二酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース;ポリエステル類、例えばポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、およびそれらのコポリマー類;ポリイミド類;ポリアミド類;ポリカーボネート類;ポリスチレン;ポリオレフィン類、例えばポリエチレンまたはポリプロピレン;ポリスルホン類;ポリアクリレート類;ポリエーテルイミド類;およびそれらの混合物が挙げられる。上記で列挙した紙類は、写真紙などの高級紙類から新聞紙などの低級紙類までの広範囲の紙類を含む。
【0074】
本明細書で言及した特許および出版物は参照により全体が組み入れられる。
【0075】
本発明について、下記実施例を参照して以下、説明するが、実施例は本発明を制限するものと解釈するべきではない。
【実施例】
【0076】
[分散剤の合成]
分散剤は本明細書の実施例と類似する方法により、高分子化学(Makromoleculare Chemie)、(1992)、193(9)、2505−2517ページに従い、調製してもよい。
【0077】
[実施例A]
化合物(I−1a)の合成
2−(ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(1.00g、7.06mmol)、アクリルアミド(10.03g、0.141mol)および2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(0.23g)を、還流冷却器を備えた3つ口フラスコ内のメタノール(100mL)中に懸濁させた。混合物を20分間、アルゴンガスをバブリングすることにより脱ガスし、その後、アルゴン雰囲気下で還流させた。総16時間還流を続け、確実に、モノマーを完全消費させた。冷却で形成した白色の固形状集合体を濾過し、少量のメタノールで洗浄し、その後、真空、40℃で乾燥させると、白色固体が得られた(7.50g、66%)。分析は所望の構造と一致した。質量分析(MALDI−TOFS)により、ポリマー中にアンカー基が存在することが確認された。
【0078】
イオン交換カラムにアンバーリスト(Amberlyst)A26(OH)(25g)を入れ、脱イオン水で覆った。1M水酸化ナトリウム水溶液(10mL)をカラムに添加し、これに脱イオン水(300mL)を用いてフラッシングした。溶離剤の最終pHは6と7の間であった。上からのオリゴマー塩酸塩(7.5g)を水(70mL)に溶解し、カラムに添加した。これに、溶離剤のpHがわずかに酸性になるまで脱イオン水(300mL)を用いてフラッシングした。生成物を含む溶離剤カットを合わせ、凍結乾燥させると、自由アミン末端オリゴマーが得られた。分析により末端アミン基の存在が確認された。
【0079】
[実施例B]
化合物(I−2a)の合成
2−(ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(1.00g、7.06mmol)、メタクリルアミド(12.00g、0.141mol)および2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(0.23g)を、還流冷却器を備えた3つ口フラスコ内のメタノール(100mL)中に懸濁させた。混合物を20分間、アルゴンガスをバブリングすることにより脱ガスし、その後、アルゴン雰囲気下で還流させた。総16時間還流を続け、確実に、モノマーを完全消費させた。冷却で形成した固体の白色質量を濾過し、少量のメタノールで洗浄し、その後、真空、40℃で乾燥させると、白色固体が得られた(8.00g、61%)。分析は所望の構造と一致した。質量分析(MALDI−TOFS)により、ポリマー中にアンカー基が存在することが確認された。
【0080】
イオン交換カラムにアンバーリストA26(OH)(25g)を入れ、脱イオン水で覆った。1M水酸化ナトリウム水溶液(10mL)をカラムに添加し、これに脱イオン水(300mL)を用いてフラッシングした。溶離剤の最終pHは6と7の間であった。上からのオリゴマー塩酸塩(7.7g)を水(70mL)に溶解し、カラムに添加した。これに、溶離剤のpHがわずかに酸性になるまで脱イオン水(300mL)を用いてフラッシングした。生成物を含む溶離剤カットを合わせ、凍結乾燥させると、自由アミン末端オリゴマーが得られた。分析により末端アミン基の存在が確認された。
【0081】
[実施例C]
化合物(I−5a)の合成
2−アミノエタンチオール塩酸塩(0.80g、7.06mmol)、アクリルアミド(10.03g、0.141mol)および2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(0.23g)を、還流冷却器を備えた3つ口フラスコ内のメタノール(100mL)中に懸濁させた。混合物を20分間、アルゴンガスをバブリングすることにより脱ガスし、その後、アルゴン雰囲気下で還流させた。総16時間還流を続け、確実に、モノマーを完全消費させた。冷却で形成した固体の白色質量を濾過し、少量のメタノールで洗浄し、その後、真空、40℃で乾燥させると、白色固体が得られた(8.50g、78%)。分析は所望の構造と一致した。質量分析(MALDI−TOFS)により、ポリマー中にアンカー基が存在することが確認された。
【0082】
イオン交換カラムにアンバーリストA26(OH)(25g)を入れ、脱イオン水で覆った。1M水酸化ナトリウム水溶液(10mL)をカラムに添加し、これに脱イオン水(300mL)を用いてフラッシングした。溶離剤の最終pHは6と7の間であった。上からのオリゴマー塩酸塩(7.7g)を水(70mL)に溶解し、カラムに添加した。これに、溶離剤のpHがわずかに酸性になるまで脱イオン水(300mL)を用いてフラッシングした。生成物を含む溶離剤カットを合わせ、凍結乾燥させると、自由アミン末端オリゴマーが得られた。分析により末端アミン基の存在が確認された。
【0083】
[比較例]
本発明の分散剤の有効性を、それらの性能を下記対照群と比較することによりさらに試験した:
(a)分散剤なし;
(b)分散剤として代表的な従来塩基類−C1およびC2;
(c)本発明の分散剤の典型的な「アンカー」成分を単独で含む、すなわち「ブイ(buoy)」成分なしの分散剤−C3;
(d)本発明の分散剤の典型的な「ブイ」成分を単独で含む、すなわち「アンカー」成分なしの分散剤−C4;
(e)WO 2006/067453およびWO 2006/067457に開示されているような、負に帯電された、または帯電可能な微粒子分散物では効果的であると予測されない、正に帯電された、または帯電可能な微粒子分散物のために設計された代表的な分散剤−C5〜C8;
(f)塩基性アンカー基と、ヒドロキシル基を含むモノマーに基づくポリマー「ブイ」成分とを含む本発明の分散剤と同様の構造を有する代表的な分散剤−C9;
(g)N,N−ジ−メチルチオアンカー基がその対応する塩酸塩形態に変換された、本発明の代表的な分散剤−C10。
【0084】
上記リストで使用した化合物について下記で詳述する:
【0085】
【化9】

【0086】
[実施例1]
対照:分散剤無しの水中のアエロジル(商標)200分散物
本実施例は分散剤のない基本試験分散物を示し、そのため対照系として考えることができる。1.20gのアエロジル(商標)200(ヒュームドシリカ粉末、主粒子サイズ12nm、デグッサAGにより製造)をガラスバイアル中に計量して入れ、9.71gのミリポア(Millipore(商標))−精製水を添加し、バイアルを密閉し、得られた分散物を室温で、その密閉容器中で、系が流体かゲルかに関係なく、本質的に均一になるまで撹拌した。w/wに基づく最終組成はアエロジル(商標)200が11%、水が89%であった。サンプルを1時間以上放置し、その後、再び撹拌し、レオロジーおよびpH測定の準備をした。
【0087】
レオロジー試験を容易にするために−特にゲル化系に関し−系のレオロジー挙動をボーリン(商標)CS−50レオメータを用い振動モードで測定した。一般に、レオロジーは下記のように測定した:
【0088】
(i)振動時間掃引を実行し、短い時間スケールにわたってレオロジーが安定であることを確認した(サンプル負荷後)。時間に伴う変化はほとんどないことがわかり、そのため、この測定は必ずしも実行しなかった。
【0089】
(ii)振動における応力掃引(「上下」)をその後実行し、新たに負荷したサンプルに対する降伏応力を決定した。
【0090】
(iii)粘度における応力掃引をその後、応力を増減させて実行し、繰り返した。最初の「上」掃引は常に、その後の実行よりも高い粘度を有することが見出され、サンプルがその後の実行に対し破壊され、または良好に分散されたことが示された。最初の「上」掃引後、「上下」掃引は非常に類似し、応力により破壊された構造が迅速に再構築することが示唆される。
【0091】
(iv)最後に、第2の「上下」応力掃引を実行し、いったん高いせん断に暴露された(分散された)材料の降伏応力を決定した。不必要な混乱を避けるために、「上」掃引曲線データを使用して系間の比較および区別を実施した。さらに、問題を簡単にするために、0.1Pa振動応力での複素弾性率、CM0.1を、「上」掃引曲線データから系を特徴づける、系間の比較および区別を実施するための単一値パラメータとして記録した(前述したように)。
【0092】
振動測定を1rad・s−1の一定振動数で実行し、複素弾性率(応力/歪み)を適用応力の関数としてモニタした。全ての場合において、全ての系のpHもまたモニタした。
【0093】
実施例1の第2の「上」振動掃引を図1の曲線Aにより表す。最終サンプルは高い複素弾性率パラメータ(CM0.1=53Pa)および低いpH(4.1)を有する弱いゲルであると考えられる。
【0094】
この実施例ならびに実施例2〜9および15〜17に対するCM0.1およびpH値、ならびに物理状態を下記表2に示す。下記実施例の各々において、系のレオロジーをこの実施例で上述したのと同じように測定した。
【0095】
実施例2〜4は、代表的な無機塩基(水酸化ナトリウム)を対照分散物に段階的に添加した時の効果を示し、流動化およびpHに対する影響が決定される。
【0096】
[実施例2]
水中の15mM分散剤C1溶液におけるアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに15mM水酸化ナトリウム水溶液を使用することを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0097】
図1の曲線Bは、実施例2の第2の「上」振動掃引を示す。最終サンプルは中程度の複素弾性率パラメータ(CM0.1=6.7Pa)および実施例1に比べかなり高いpH(9.1)を有するかなり弱いゲル(すなわち、実施例1で見られたものより弱い)であると考えられる。
【0098】
[実施例3]
水中の25mM分散剤C1溶液におけるアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに25mM水酸化ナトリウム水溶液を使用することを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0099】
図1の曲線Cは、実施例3の第2の「上」振動掃引を示す。最終サンプルは低い複素弾性率パラメータ(CM0.1=0.15Pa)を有するpH9.6の流動系であると考えられる。この濃度の水酸化ナトリウムはCM0.1値を実施例1の「分散剤なし」の場合に比べ2.5を超える桁だけ減少させ、より低い濃度の水酸化ナトリウムを有する実施例2の場合に比べ1.5を超える桁だけ減少させた。しかしながら、流動性のこの増加は、系のpHを9.6まで上昇させることを代償に得られた。
【0100】
[実施例4]
水中の40mM分散剤C1溶液におけるアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに40mM水酸化ナトリウム水溶液を使用することを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0101】
図1の曲線Dは、実施例4の第2の「上」振動掃引を示す。最終サンプルは低い複素弾性率パラメータ(CM0.1=0.062Pa)を有するpH10.1の流動系であると考えられる。この濃度の水酸化ナトリウムはCM0.1値を実施例1の「分散剤なし」の場合に比べほとんど3桁だけ、実施例2の場合に比べ約2桁だけ、最後に、実施例3に比べ2倍減少させた(後者の2例はより低い濃度の水酸化ナトリウムを有する)。しかしながら、流動性のこの増加は、系のpHをさらに10.1まで上昇させることを代償に得られた。
【0102】
実施例5および6は、代表的な親水性有機塩基、この場合分散剤C2(N−メチルグルカミン)を添加した場合の効果を調べ、その流動化およびpHに対する影響が決定される。
【0103】
[実施例5]
0.256%w/w分散剤C2を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに分散剤C2の水溶液を使用し、このため、系中のC2濃度が0.256%w/w(13mM)であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0104】
最終サンプルは高い複素弾性率パラメータ(CM0.1=15Pa)および8.7のやや高いpHを有する弱いゲル(実施例1に対し見られたものよりもわずかに弱い)であると考えられる。このように、この濃度の塩基はアエロジル(商標)200分散物を流動化することができなかった。
【0105】
[実施例6]
0.639%w/w分散剤C2を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに分散剤C2の水溶液を使用し、このため、系中のC2濃度が0.639%w/w(33mM)であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0106】
最終サンプルは中程度〜低い複素弾性率パラメータ値(CM0.1=0.58Pa)および9.6の高いpH(これは実施例1および5よりはかなり高く、実施例3に匹敵する)を有する粘性流体であると考えられる。この濃度のC2はアエロジル(商標)200分散物を流動化することができたが、pHをかなり高いレベルまで上昇させることを代償に可能になったにすぎなかった。
【0107】
次の目的で以下の実施例7〜9を行った:
(i)実施例1の対照系に別の有機塩基を添加する効果を調べること、および
(ii)本発明の典型的なアンカー基を代表する塩基を調べる、すなわち孤立したアンカー化学を試験すること。
【0108】
[実施例7]
0.12%w/w分散剤C3を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに分散剤C3の水溶液を使用し、このため、系中のC3濃度が0.12%w/w(13mM)であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。C3はN,N−ジメチルエタノールアミンであり、N,N−ジメチルアミノエチル末端基は本発明のための典型的な塩基性アンカーである。
【0109】
最終サンプルは高い複素弾性率パラメータ値(CM0.1=96Pa)および実施例1よりもかなり高いpH(8.7)を有する弱いゲル(実施例1で見られるものよりわずかに強い)であると考えられる。このpHは、分散剤C2を等しい濃度で含む実施例5のpHと同様であった。実施例5のように、この濃度の塩基はアエロジル(商標)200分散物を流動化することができなかった。
【0110】
[実施例8]
0.17%w/w分散剤C3を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに分散剤C3の水溶液を使用し、このため、系中のC3濃度が0.17%w/w(19mM)であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0111】
最終サンプルは高い複素弾性率パラメータ値(CM0.1=21Pa、実施例1でみられるものよりわずかに弱いゲルかつ実施例5でみられるよりわずかに強いゲル)および実施例1よりも高いpH(8.9)を有する弱いゲルであると考えられる。このように、この濃度の塩基C3はアエロジル(商標)200分散物を流動化することができなかった。
【0112】
[実施例9]
0.29%w/w分散剤C3を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに分散剤C3の水溶液を使用し、このため、系中のC3濃度が0.29%w/w(33mM)であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0113】
最終サンプルは低い複素弾性率パラメータ値(CM0.1=0.21Pa)および実施例1および8よりもかなり高いpH(9.4)を有する粘性流体であると考えられる。このpHは等しい量の塩基分散剤C2を含む実施例6のpHおよび25mMのNaOHを含む実施例3のpHと同じであった。この類似性により、分散剤の流動性は、塩基を添加することによる系の高いpHを生成させることを代償によってのみ起こると示唆される。これはまたは、本発明の化合物のアンカー基を孤立して使用すると、かなり高いpHで流動性が生じさせるにすぎないことを示す。
【0114】
下記実施例の目的は、本発明の好ましいポリマー部分の化学が、化学的視野から(アンカー部分から)孤立させて使用された時の、系に対して有する影響を決定することであった。
【0115】
[実施例10]
分散剤C4を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
水の代わりに分散剤C4(ポリアクリルアミド−アメリカンシアナミド社により供給されるシアノマーN−10、MW=1.5kg・mol−1、固形分30%)の水溶液を使用し、このため、最終濃度範囲(w/w)が、182:1000〜455:1000分散剤対アエロジル(商標)200のw/w濃度範囲を表す、2.0%、3.0%および5.0%であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。ここで、C4は本発明の分散剤の好ましいポリマー部分を表した。
【0116】
アエロジル(商標)200粉末は、例え均一なゲル状態にしても、分散剤C4のこれらの濃度のいずれであっても、十分に分散されなかった。このように、本発明の好ましいポリマー部分は、化学的に孤立させて使用すると、すなわち、本発明の分散剤に対し規定されるような、適したアンカー部分に化学的に結合されていないと、分散剤として効果的でなかった。
【0117】
実施例11〜14の例では、目的は、正に帯電したまたは帯電可能な固体微粒子のための分散剤に関連する、WO2006/067453およびWO2006/067457に記載されている分散剤の流動化およびpHへの影響を、本発明の分散剤と比較することであった。
【0118】
[実施例11]
分散剤C5を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
分散剤C5は本発明の分散剤と同様の構造を有するが、2つのカルボン酸基を有するという違いがあり、これは、前記特許出願において正に帯電したまたは帯電可能な微粒子分散物を分散させることができることが証明されている。そのような分散剤は、負に帯電したまたは帯電可能な微粒子系、例えばアエロジル(商標)200を分散させるのに有効である可能性が低いと考えられた。
【0119】
水の代わりに分散剤C5の水溶液を使用し、このため、系中のC5濃度が5.0%w/wである、すなわちアエロジル(商標)200の分散物に関し本発明の分散剤に対し効果的であることがわかっている相当濃度であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0120】
分散剤C5はアエロジル(商標)200を分散させるのに有効でないことがわかった。混合すると、系は均一でない粘張性の剛性固体ペーストを形成した。
【0121】
[実施例12]
分散剤C6を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
C6は上記特許出願で開示されている正に帯電したまたは帯電可能な微粒子分散物に適していることがわかった分散剤の別の例であるが、これは、ジカルボン酸アンカー基ではなく単一のカルボン酸アンカー基を有するという点でC5とは異なる。そのような分散剤は、負に帯電したまたは帯電可能な微粒子系、例えばアエロジル(商標)200を分散させるのに有効である可能性が低いと考えられた。
【0122】
水の代わりに分散剤C6の水溶液を使用し、このため、系中のC6濃度が5.0%w/wである、すなわちアエロジル(商標)200の分散物に関し本発明の分散剤に対し効果的であることがわかっている相当濃度であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0123】
分散剤C6はアエロジル(商標)200を分散させるのに有効でないことがわかった。混合すると、系は均一でない粘張性の剛性固体ペーストを形成した。
【0124】
[実施例13]
分散剤C7を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
C7は上記特許出願で開示されている正に帯電したまたは帯電可能な微粒子分散物に適していることがわかった分散剤の別の例であるが、これは、アンカー基がカルボン酸基ではなくスルホン酸基を含むという点でC5およびC6とは異なる。そのような分散剤は、負に帯電したまたは帯電可能な微粒子系、例えばアエロジル(商標)200を分散させるのに有効である可能性が低いと考えられた。
【0125】
水の代わりに分散剤C7の水溶液を使用し、このため、系中のC7濃度が5.0%w/wである、すなわちアエロジル(商標)200の分散物に関し本発明の分散剤に対し効果的であることがわかっている相当濃度であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0126】
分散剤C7はアエロジル(商標)200を分散させるのに有効でないことがわかった。混合すると、系は均一でない粘張性の剛性固体ペーストを形成した。
【0127】
[実施例14]
分散剤C8を有する水性溶液中のアエロジル(商標)200分散物
C8は上記特許出願で開示されている正に帯電したまたは帯電可能な微粒子分散物に適していることがわかった分散剤の別の例であるが、これは、アンカー基が1つまたは複数の酸性基ではなく塩基性基と酸性基の両方を有するアミノ酸を含む、すなわち両性イオンであるという点でC5〜C7とは異なる。そのような分散剤は、負に帯電したまたは帯電可能な微粒子系、例えばアエロジル(商標)200を分散させるのに有効である可能性が低いと考えられた。
【0128】
水の代わりに分散剤C8の水溶液を使用し、このため、系中のC8濃度が1つの場合で2.7%w/w、第2の場合で5.0%w/wである、すなわちアエロジル(商標)200の分散物に関し本発明の分散剤に対し効果的であることがわかっている相当濃度であることを除き、実施例1で記載したのと同じように、アエロジル(商標)200の2つの水性分散物を作製した。
【0129】
分散剤C8はどちらの濃度でもアエロジル(商標)200を分散させるのに有効でないことがわかった。混合すると、サンプルは高い粘性を示し、明確な降伏応力を有した(分散剤の添加のないサンプルと同様)。しかしながら、サンプルはレオメータに注入することができるほど流動性がなく、より濃度の高いサンプルはスパチュラで押し込まなければならなかった。サンプルは粘度200Paまで、振動50Paまで、完全な固体であり、この場合10,000Paの弾性率を提供し、これは応力で変動しなかった。どちらのサンプルもそのため、事実上固体であった。
【0130】
<本発明の実施例>
実施例15〜17は全て、本発明I−1aの分散剤の使用を示す。各実施例では、この系のレオロジーを実施例1で記載した様式と同じように測定した。CM0.1およびpH値ならびに物理状態を、比較例1〜14と比較するために表2に示す。
【0131】
[実施例15]
対照+2%w/wの本発明の分散剤I−1a
水の代わりに分散剤I−1aの水溶液を使用し、このため、系中のI−1a濃度が2.0%w/w(アエロジル(商標)200に対し13mMまたは182:1000)であることを除き、実施例1で記載した対照系と同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0132】
最終サンプルは中程度の複素弾性率パラメータ値(CM0.1=3.0Pa)およびかなり低いpH7.7(中性pHよりも0.7高いにすぎない)を有する粘性流体であると考えられる。全てpH8.7〜9.1のゲルであり、大体等しい濃度の比較分散剤を含む実施例2、5および7に比べ、この実施例は流体であり、pHが一桁低かった。
【0133】
[実施例16]
対照+3%w/wの本発明の分散剤I−1a
水の代わりに分散剤I−1aの水溶液を使用し、このため、系中のI−1a濃度が3.0%w/w(アエロジル(商標)200に対し20mMまたは273:1000)であることを除き、実施例1で記載した対照系と同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0134】
最終サンプルは低い複素弾性率パラメータ値(CM0.1=0.21Pa)およびかなり低いpH8.0(中性pHよりも1.0単位高いにすぎない)を有する流体であると考えられる。pH8.9のゲルであり、大体等しい濃度の比較分散剤を含む実施例8に比べ、この実施例は流体であり、pHがほとんど一桁低かった。
【0135】
[実施例17]
対照+5%w/wの本発明の分散剤I−1a
水の代わりに分散剤I−1aの水溶液を使用し、このため、系中のI−1a濃度が5.0%w/w(アエロジル(商標)200に対し33mMまたは455:1000)であることを除き、実施例1で記載した対照系と同じように、アエロジル(商標)200の水性分散物を作製した。
【0136】
最終サンプルは低い複素弾性率パラメータ値(CM0.1=0.081Pa)およびかなり低いpH8.4(中性pHよりも1.4高いにすぎない)を有する流体であると考えられる。流体であり、同様の、または大体等しい濃度の比較分散剤を含む実施例3、4、6および9に比べ、この実施例はpHが1.0〜1.7桁低かった。
【0137】
【表2】

【0138】
要約すると、表2の結果から、本発明で使用するための分散剤I−1aは、分散剤の適した濃度が見出されると、とりわけ高い固体量を有する、負に帯電したまたは帯電可能な固体微粒子、本明細書ではヒュームドシリカにより説明される、の水性分散物の粘度を減少させることができることが証明される。さらに、本発明で使用するための分散剤の現実の長所は、塩基性の典型的な分散剤のように系のpHを中性よりずっと高くまで増加させずにこれを達成することであり、典型的な分散剤はかなりの流動性(すなわち、CM0.1=0.2〜0.6Pa)を提供するのに約9.5またはそれ以上の値までpHを増加させる必要がある。そのような従来の分散剤は強い塩基類、例えば、水酸化ナトリウム、またはアミン類に基づくより弱い有機塩基類を含む。対照的に、本発明の分散剤I−1aは約pH8で系に同じ程度の流動性(すなわち、CM0.1=0.2Pa)を提供する。ほとんどの分散剤と同様に、本発明で使用するための分散剤は最大性能のための最適濃度を有し、これは、固体微粒子系、その濃度、その粒子サイズ、pHおよび他の追加物に依存する。
【0139】
本発明で使用するための分散剤は、固体微粒子、特にそれらの等電位点(IEP)より高い無機酸化物と共に機能するように設計され、すなわち負に帯電されると、酸または塩基が存在しない水性系に対し実際面で、pH5.8、すなわち二酸化炭素で飽和させた水のpHより低いIEPを有する固体微粒子を意味する。シリカは約pH2のIEPを有するそのような系のよい例である。
【0140】
I−1aを用いた上記結果から、本発明の分散剤は、9よりかなり低い、すなわち8.5のまたは8.0と低い、または7.7とさらに低いpHで、分散物を限定的な低いせん断粘度を有する流体系にでき、一方、対照分散物、または比較分散剤(表2を参照されたい)を有する対照分散物はこれらのpHでゲル化され、またはよく分散されていない系となることが示唆される。実施例16および17から、本発明の分散剤が分散物系の粘度を効果的に低下させるので、分散剤が存在しない元の分散物系よりも粘度または降伏応力を高くすることなく、より多くの固体を系に添加することができることが証明される。このように、本発明で使用するための分散剤によりそのような分散剤に添加する固体を増加させることができることが証明される。
【0141】
このように、本発明で使用するための分散剤を塩基性の比較材料から区別するのに有用な別のパラメータはCMNO Disp0.1、すなわち、ゼロ分散剤濃度でのCM0.1の上限値と十分な材料が添加されて系のpHが8の値まで増加する点でのCM0.1(CMpH80.1と規定される)との間の差である。
【0142】
この差を表す有用な様式は関連因子RelCMpH80.1により、ここで、
RelCMpH80.1=CMpH80.1/CMNO Disp0.1
すなわち、添加物ゼロの最初のCM0.1値に対するpH8のCM0.1の相対的な減少である。このように、RelCMpH80.1≪1であれば、試験下の材料は8の近中性pH値で低い振動応力での複素弾性率の著しい減少(すなわち、低せん断応力でのより低い粘度)の観点から効果的な分散剤である。RelCMpH80.1=〜1であれば、試験下の材料はpH8で系のレオロジーを調整するのに効果的でない。RelCMpH80.1≫1であれば、試験下の材料は系の増粘剤として作用し、すなわち本発明の分散剤とは性質が反対である。本発明で使用するための分散剤、I−1aの場合、RelCMpH80.1=0.21/53=0.0040であり、そのため、I−1aはpH8で粘度を減少させるのに非常に効果的であることが証明される。
【0143】
表2の実施例15〜17から、本発明の好ましい分散剤の1つの構造のアンカーおよびポリマー部分、すなわち、N,Nジメチルアミノエチル部分およびポリアクリルアミドは本発明で規定されるようにアンカー−ポリマー構造で、この場合I−1aとして、一緒に化学的に結合されると、得られた化合物は9またはそれ以下のpHで、系に対し全体として予測されない大きさで分散物の粘度を減少させることが示される。対照的に、実施例7〜9+実施例10はそれぞれ、アンカー化学(N,Nジメチルアミノエチル部分)またはポリアクリルアミド化学(本発明の分散剤と同様の大きさの平均分子量を有する)を分離して使用すると、pH9またはそれ以下まで対照分散物を流動化することができず、または対照分散物をそれ自体、流動化することができないことを示す。最後に、実施例11〜14は、正に帯電したまたは帯電可能な固体微粒子のための分散剤に関する、WO2006/067453号およびWO2006/067457号で記載された分散剤を、本発明の負に帯電したヒュームドシリカ(アエロジル(商標)200)分散物対照系で分散剤として試すと、これらはこの系では分散剤として効果的ではないことを示す。混合すると、不均一な粘張性の剛性の固体ペーストが形成される。
【0144】
上記概要から、本発明においては、負に帯電したまたは帯電可能な微粒子系を、系のpHを9を超えて増加させずに、分散させるには、全体的に塩基性特性を有するアンカー基と安定化ポリマー部分との組み合わせが重要であることが示される。
【0145】
本発明において使用するための分散剤と一般的な塩基性化学薬品(例えば、水酸化ナトリウムのような強塩基類またはアミン類に基づくより弱い有機塩基離)の間の性能の差は表2およびパラメータRelCMpH80.1から明らかであるが、全体的な平均の状況を提供しない。これは、どちらも応答パラメータである、CM0.1およびpHに対する制御の欠如によるデータ点の正確でない整合に起因する。そのため、グラフによりデータを描くことが有用である。
【0146】
図2はlog[CM0.1]対pHのプロットで表した表2からの関連データを含む。データはS字状曲線の形態をとると思われ、そのようなものとして、σ形状曲線、例えば表面張力/log濃度データおよび対数レオロジーデータのためにしばしば使用される指数法則式を用いてモデル化することができる。式は下記形態をとり:
【0147】
CM0.1=(CMNo Disp0.1−CMLim0.1)/(1+[pH/pH
ここで、
CMLim0.1=CM0.1の下限値、すなわち高濃度の分散剤の増加レベルを伴う漸近CM0.1値であり、
pH=曲線の直線部分の大体中点である臨界pH、および
n=曲線の直線部分の勾配に関連する指数法則因子である。
【0148】
図2では、実際のデータが点で表され、実線は上記式をマイクロソフトエクセルの「ソルバ(solver)」と共に使用してデータに最小二乗適合させたものである。フィッテイングはほとんどの場合4つのデータ点に対してのみであり、全てのデータは0.4%以内で適合する。モデルの目的は曲線のS字性質を目が感じるのを助ける。
【0149】
曲線Eは発明I−1a(実施例15〜17)+対照系(実施例1)において使用するための分散剤のデータを示す。
【0150】
曲線Fは分散剤C1、すなわち水酸化ナトリウム(実施例2〜4)+対照系(実施例1)を用いて得られたデータを示す。
【0151】
曲線Gは分散剤C3、すなわち、発明のアンカー基化学を表すジメチルアミノエタノール(実施例7〜9)+対照系(実施例1)を用いて得られたデータを示す。
【0152】
曲線Hは分散剤C2、すなわち、親水性の弱い塩基を示すN−メチルグルカミン(実施例5〜6)+対照系(実施例1)を用いて得られたデータを示す。
【0153】
実線の曲線に対するフィッティングパラメータを表3に示す。
【0154】
【表3】

【0155】
図2は表3の関連データと共に、無機または有機に関係なく、本発明において使用するための分散剤と単純な塩基に基づく分散剤との差を明確に識別する別の方法を示す。このように、このアプローチは等価な流動性での平均pH差を示す単純で有用な方法を提供する。これらの観点で、無機および有機塩基は関数CM0.1として系のpHに対する効果の観点から非常に同様に挙動し、これは、実際に同じである臨界pH値(pH)の近似により適切に表される。本発明で使用するための分散剤を示す、系の曲線、曲線Eの直線部分と単純塩基系の曲線(曲線F、GおよびH)の間のギャップはpHの差によりよく表される。このように、本発明で使用するための分散剤と単純な塩基分散剤との間にはpH単位で1.2〜1.5の差があり、単純な塩基系は等価な流動性を達成するのにこの量によりpHを増加させる必要があることが示される。
【0156】
このように、比較材料と本発明の材料の両方が図2に示されるS字関係を生成する場合、本発明の材料はパラメータ、pHおよびRelCMpH80.1の両方により通常区別することができる。そのようなパラメータを確立するために、適した濃度範囲にわたりpHの関数としてCM0.1を測定することが明らかに必要である。本発明の材料が単純なS字曲線に従わない場合であっても、濃度増加に伴いpH増加を引き起こす系のpHに対する塩基特性の効果のため、依然としてRelCMpH80.1パラメータにより区別することができる。比較のために、実施例15〜17に由来するpHおよびRelCMpH80.1データを表4で、本発明の他の実施例および塩基性の比較材料、C1、C2、C3およびC9に由来する対応するデータと共に、記録する。
【0157】
下記の本発明の実施例は、小さな範囲の分散剤濃度にわたりレオロジーおよびpHデータを生成させることから構成され、そのため、上記方法に従い、図2に示したデータのようなデータが生成され、分析される。そのため、最終的な目的は、添加剤無しでの初期CM0.1値に対するpH8でのCM0.1(RelCM0.1pH8)の減少および/または臨界pHパラメータ(pH)により、任意の比較材料に対し、ヒュームドシリカ分散物中での分散剤の性能を特徴づけることであった。
【0158】
<発明の別の実施例>
[実施例18]
対照+本発明の分散剤I−2a
アエロジル(商標)200の水性分散物の小さなシリーズを、各々の場合、水の代わりに分散剤I−2aの水溶液を使用したことを除き、実施例1で記載した対照系と同じように作製した。I−2aの濃度は下記範囲にわたってシリーズに対し変動させた:0、2.0および5.0%w/w。各系のレオロジーは実施例1で概略を示したプロトコルに従い測定した。
【0159】
2%w/wのI−2aを含む系はpH6.8の濃厚な均一ゲルを形成し、これは非常に高い複素弾性率パラメータ値を提供し、すなわち、CM0.1は添加物なしの親シリカ分散物の20.4倍であった。このように、この分散剤はこの濃度では効果的ではなかった。しかしながら、5%w/wのI−2aを含む系は、pH8の非常に流動的な系を形成し、pH8で複素弾性率は非常に低く(CM0.1=0.065Pa)、これはpH8で非常に低い相対複素弾性率に変換される(RelCMpH80.1=0.0018)。このように分散剤I−2aはこの濃度で非常に効果的である。この特別な分散剤を用いると、CM0.1とpHとの間の関係が非S字形状となるのでpH値は上記で特定したように決定することができない。
【0160】
pHパラメータは、pHスケールで本発明のこの例と比較材料間での性能の違いを規定するのに利用できないが、この差の含意は、別の方法で、例えば、pH8でこの実施例で与えられるもの、すなわち0.0018−そのRelCMpH80.1値と同じCM0.1における相対減少で比較材料のpH値を比較することにより、規定することができる。図2の曲線Fを一例として考えると、これは比較材料C1(水酸化ナトリウム)を表し、0.0018のCM0.1の相対減少を得るには、pHを9.7まで上昇させなければならず、すなわち、本発明で使用するための化合物の性能に適合させるには、pHは水酸化ナトリウムで1.7単位だけ上昇させなければならない。
【0161】
本発明で使用するための化合物および比較材料C1、C2、C3およびC9に関連するパラメータRelCMpH80.1およびpH(適用可能な場合)を比較のために下記表4に示す。
【0162】
[実施例19]
対照+本発明の分散剤I−5a
アエロジル(商標)200の水性分散物の小さなシリーズを、各々の場合、水の代わりに分散剤I−5aの水溶液を使用したことを除き、実施例1で記載した対照系と同じように作製した。I−2aの濃度は下記範囲にわたってシリーズに対し変動させた:0、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0および8.0%w/w。各系のレオロジーは実施例1で概略を示したプロトコルに従い測定した。
【0163】
全ての濃度が高せん断に暴露させた後、系の粘度を減少させた。最も低い1%w/wの濃度は分散剤なしの場合に比べ、CM0.1パラメータを0.04倍だけ減少させ、これはpH6.7で達成された。分析では、これは、〜5.6のpH値および0.00425のRelCMpH80.1値という結果になった。pH推定値から、I−5aの一級アミノアンカー基は、どちらもジメチルアミノアンカー基を有するI−1aおよびI−2aに比べpHの関数として粘度を減少させるのにずっと効果的であることが示唆される。この実施例では、CM0.1値の潜在的な減少のほとんどがpH7、すなわち中性pHにより達成された。RelCMpH80.1値はI−1aおよびI−2aと同じ程度であり、低いせん断での複素弾性率の減少における全体的な効果は大体同じであることが示唆される。本発明の例示材料および塩基性特性を有する他の比較材料に関連するパラメータRelCMpH80.1およびpH(適用可能な場合)を比較のために下記表4で示す。
【0164】
【表4】

【0165】
<別の比較例>
これらの実施例は本発明において使用するための分散剤と類似した構造を有するが、本発明の範囲外にあるポリマー化合物に関する。
【0166】
[実施例20]
対照+比較分散剤C9
本発明の分散剤の構造の記載から判断すると、ポリマー部分は、粒子を安定化させるために低い親和性を有する必要がある。これに基づき、シリカ表面と強く相互作用することが公知のヒドロキシル基を含むポリマー類、例えばポリビニルアルコール類は、本発明の分散剤材料に対する安定化基として適していないと考えられる。この仮定を試験するために、ヒドロキシル基を含む、適したビニルモノマを、I−1aおよびI−2aと同様の構造のヒドロキシル化ポリマーを合成する目的で選択し、選択したモノマーはN−トリヒドロキシメチルメチルアクリルアミドであった。このモノマーを使用して、比較材料C9を実施例A、BおよびCと同様に合成し、最終構造は前で規定した通りであった。
【0167】
アエロジル(商標)200の水性分散物の小さなシリーズを、各々の場合、水の代わりに分散剤C9の水溶液を使用したことを除き、実施例1で記載した対照系と同じように作製した。C9の濃度は下記範囲にわたってシリーズに対し変動させた:0、3.0、4.0、5.0および6.0%w/w。各系のレオロジーは実施例1で概略を示したプロトコルに従い測定した。
【0168】
分散剤なしの対照を含む系は全てゲルを形成したが、分散剤C9を含む系は対照よりずっと濃密であった。分散剤C9を含む系は全て約20の相対CM0.1値を示し、すなわち、CM0.1値は分散剤なしの系よりも〜20倍高かった。このように、分散剤C9は系の粘性を減少させるには効果的ではなく、実際、この点では拮抗した。濃度シリーズ3.0、4.0、5.0および6.0%w/wに対する実際の相対CM0.1値はそれぞれ、19.5(pH7.1)、23.4(pH7.6)、21.2(pH8.1)および18.4(pH8.2)であり、結果的に、4%w/wのC9で最大拮抗効果を示した。このデータから、立体障害がないと、ヒドロキシル含有モノマ類は、本発明の材料のポリマー部分に対し不適当な構造成分であることが示される。
【0169】
濃度の関数としてC9の分散剤を用いて得られたレオロジーデータの非S字特性のために、pH値は決定できなかった。しかしながら、RelCMpH80.1に対する値は、その化学構造中のアミノアンカー基の塩基性特性およびそのpHへの結果的に得られる効果のために決定することができた(上記を参照されたい)。RelCMpH80.1値(明らかに4.0と5.0%w/w C9の間に存在する)は、外挿により22.65であると決定した。この値を表4で、本発明において使用するための分散剤において使用するための化合物および比較目的のための塩基性の比較材料からの対応するデータと共に記録する。
【0170】
[実施例21]
対照+比較分散剤C10
本発明の分散剤の構造の記載から判断すると、アンカー部分は、負に帯電した酸化物または水酸化物微粒子系に化学的に結合するために、塩基性特性を有する必要がある。これに基づき、本発明の材料の単純な塩、例えば対応するアミン塩酸塩類は、そのような微粒子系に対する分散剤としては適しておらず、そのようなものとして本発明の範囲内にないと考えられる。これを確認するために、I−2aの塩酸塩をテストケースとして使用した。塩酸塩は一般に本発明で使用するための材料までの合成経路における中間体であるので、これは容易に入手できる。I−2aは5%w/w濃度で粘度を減少させるのに非常に効果的であったので、この濃度をC10テストケースのために選択した。
【0171】
アエロジル(商標)200の分散物を、各々の場合、水の代わりに分散剤C10の水溶液を使用し、そのため、系におけるC10の最終濃度が5%w/wとなったことを除き、実施例1で記載した対照系と同じように作製した。この系のレオロジーは実施例1で概略を示したプロトコルに従い測定した。
【0172】
系は最初、著しく濃密なゲルを形成し、高せん断後であっても濃密なままであった。このため、振動レオロジーデータにおいて高せん断応力となり、高せん断応力、例えば40〜50Paの応力でのみ正確に測定可能となった。本発明の材料を用いると、高せん断後のせん断応力は最も高い歪み速度で4Paを超えなかった。これにより、一般的なせん断応力では意味のあるデータの比較をすることは実際にはできなかった。このように、本発明の基本材料をそのアミン塩形態に変換すると、負に帯電した酸化物(水酸化物)、例えばシリカのための分散剤としてのそれらの特性が完全に破壊された。
【0173】
明らかに、本発明の材料のアミン塩類などの本質的に非塩基性の比較材料はpHにほとんど影響しない。このように、比較材料は、本発明の材料と等しい濃度で、複素弾性率などのレオロジーパラメータへの効果に基づき、比較できるにすぎない。本発明の材料とアミン塩C−10との間の性能差の大まかな程度が、せん断応力の中間値、例えば3.6Paでの、CM3.6と符号化された、複素弾性率パラメータを比較することにより試みることができる。しかしながら、アミン塩C10に対し得られたCM3.6の値は、このせん断応力での著しく低い応力値(すなわち、0.000028)のため正確ではなく、これは、ボーリンCS50レオメータによる測定に対し通常許容されるものより一桁低いことを指摘すべきである。それにも関わらず、測定により正しい順序および差の大きさの意味が提供される。下記表5は実施例1の対照系に対するCM3.6データおよび相対CM3.6(RelCM3.6)を示す。
【0174】
【表5】

【0175】
表5のデータから、本発明において使用するための化合物の利点は、より高いせん断応力で依然として機能し、対照よりも低い粘性系を生成させることが確認される。データから、また、より高いせん断応力でのC9の拮抗効果も確認され、ここでC9のポリマー「ブイ」成分は、分散剤のない対照および本発明で使用するための化合物に対し、系を不安定化するヒドロキシル基を有する。しかしながら、重要な点は、本発明で使用するための化合物、例えばI−2aをそのアミン塩、C10へ変換すると、ポリマー「ブイ」成分上のヒドロキシル基よりも系の粘性にずっと悪い影響を与えることである。
【0176】
複素弾性率の許容される意味のある測定を約34Paのより高いせん断応力で実施することができる限り、C10を用いた効果の程度に対しチェックすることができる。そのようなせん断応力は本発明の材料を含む系では達成されなかったが、そのような高い応力は分散剤のない対照シリカ分散物で実に達成させることができる。34Paせん断応力での複素弾性率は、CM34と符号化される。実施例1由来の対照系に対するCM34とおよび相対CM34(RelCM34)を下記表6に記録する。データから、本発明で使用するための化合物を対応する塩酸塩へ変換すると、系の粘性が著しく増加し、これは本発明の化合物の使用に対し得られる効果と完全に反対の効果であることが確認される。
【0177】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】水単独中、および添加した水酸化ナトリウムおよび系のpHの関数としてのアエロジル(商標)200(市販のヒュームドシリカ)の11wt%分散物のレオロジーデータを示す図である。
【図2】本発明の分散物I−1a(曲線E)および比較の塩基性分散剤(曲線F〜H)の系のpHの関数としてのレオロジーデータを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー親水性部分に結合されたアンカー部分を有し、アンカー部分は少なくとも1つの塩基性基を含み、全体として塩基性を有し、かつポリマー部分はアンカー基よりも微粒子表面に対し低い親和性を有する化合物を含む、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の水性組成物のための分散剤。
【請求項2】
各塩基性基は、非置換または置換の、アミン、窒素、酸素および硫黄から選択される1つまたは複数の他の複素環原子を含んでもよい窒素含有複素環、または四級アンモニウムまたはピリジニウム塩の水酸化物から独立して選択される、請求項1に記載の分散剤。
【請求項3】
前記塩基性基は、非置換または置換の、アミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ピペリジノ、ピペラジノ、チオモルホリノ、モルホリノ、ベンズイミダゾール、ベンゾピロリジノ、ピリジノまたはピラゾロ基である、請求項2に記載の分散剤。
【請求項4】
前記塩基性基は、非置換アミノまたはN,N−ジメチルアミノ基である、請求項3に記載の分散剤。
【請求項5】
前記ポリマー親水性部分は、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ−N−メチルアクリルアミド、ポリ−N−メチルメタクリルアミドまたはそれらの混合物から選択される、前記請求項のいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項6】
前記化合物は式(I):
【化1】

(式(I)において、
Aは炭素または窒素であり、
R’は水素または非置換もしくは置換の、アルキル、アリールまたは複素環基であり、Aが炭素である場合には、mは1であり、Aが窒素である場合には、mは0であり、
Bは塩基性基であり、
DおよびEはそれぞれ、独立して水素、非置換もしくは置換の、アルキルまたは塩基性基であり、または酸性基またはエステルまたはそのアミドであり、yは0または1であり;
L、LおよびLは結合基であり、これは同じかまたは異なり、z、pおよびqはそれぞれ、独立して0または1であり、
B、L、D、LおよびLはAと結合して、1または複数の環を形成してもよく、この環は窒素、酸素および硫黄から選択される1つまたは複数の別のヘテロ原子を含んでもよく、
各Mはモノマーユニットであり、これは同じかまたは異なってもよく、非置換または置換の、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを含み、xは10〜200であり;
Fは水素または置換基であり、
ただし、塩基性基の数はその中の任意の酸性基の数より大きいことを条件とする)
を有する、前記請求項のいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項7】
Aは炭素であり、R’は水素またはメチル基である、請求項6に記載の分散剤。
【請求項8】
Bは非置換または置換の、アミノ、ジメチルアミノまたはジエチルアミノ基である、請求項6または7のいずれかに記載の分散剤。
【請求項9】
Dは水素または非置換もしくは置換ジメチルアミノまたはジエチルアミノ基である、請求項6から8のいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項10】
zは1であり、Lは硫黄である、請求項6から9のいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項11】
Fは水素である、請求項6から10のいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項12】
モノマーユニットの数は15から35である、請求項6から11のいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項13】
下記構造式:
【化2】

(上記構造式において、xは15〜35である)
を有する前記請求項のいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項14】
前記請求項のいずれか1項で規定された1つまたは複数の分散剤を、水性分散媒質と共に含む、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子を含むコーティング組成物。
【請求項15】
前記負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子は、等電点がpH5.8未満である、金属および非金属の酸化物類、水酸化物類、セラミック類、金属類およびラテックス類から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記酸化物はSiO、TiO、TeO、HMoO、SnO、ZrOおよびCoから選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子は、50nmから1μmの粒子サイズを有する、請求項14から16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物中の前記負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の量は、約0.2から約0.5の固体の体積分率である、請求項14から17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記分散剤量は50:1000から500:1000w/w負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子である、請求項14から18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物中にバインダも存在する、請求項14から19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
(a)負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の組成物を提供する工程と、
(b)請求項1から14のいずれか1項で規定された1つまたは複数の分散剤を有する組成物を、水性分散媒質と、必要に応じてバインダと共に混合し、コーティング組成物を形成させる工程と、
(c)前記コーティング組成物を基材に適用しその上にコーティングを形成させる工程と、
(d)得られたコーティングを乾燥させる工程と、
を含む、基材をコートする方法。
【請求項22】
請求項1から13のいずれか1項で規定された1つまたは複数の分散剤を、水性分散媒質と、必要に応じてバインダと共に添加することを含む、pHを約9またはそれ以下で維持しながら、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の分散物の粘度および/またはゲルもしくは降伏応力材料を形成する傾向を減少させる方法。
【請求項23】
請求項1から13のいずれか1項で規定された1つまたは複数の分散剤を、水性分散媒質と、必要に応じてバインダと共に含む、pHを約9またはそれ以下で維持しながら、負に帯電した、または帯電可能な固体微粒子の分散物の粘度および/またはゲルもしくは降伏応力材料を形成する傾向を減少させるための分散物の使用。
【請求項24】
広範囲のせん断応力にわたり安定性を提供するための、インクジェット記録要素を調製するための請求項23に記載の分散物の使用。
【請求項25】
少なくとも1つの画像受理層をその上に有する支持体を備え、請求項14から20のいずれか1項に記載のコーティング組成物を含む、インクジェット印刷要素。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−520863(P2009−520863A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546587(P2008−546587)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004752
【国際公開番号】WO2007/071960
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】