説明

固体インクプリンタにおける溶融した固体インクの制御冷却用装置

【課題】プリントヘッドにおいて、固化したインクに気泡を閉じ込めることなく、溶融したインクを固化させる。
【解決手段】画像受領基板上に溶融インクを噴出するプリントヘッド100であって、ハウジング104と、プリントヘッド100から噴出する溶融インクを貯蔵するように構成された、ハウジング内のタンクまたはチャンバ108と、タンク108内において溶融インクの固化を制御するために溶融インクと熱的に連結している熱導体112とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下に開示される装置及び方法は一般に、固体インク作像装置に関する。より詳細には、溶融したインクを固体インク作像装置のプリントヘッドにおいて固化させる固体インク作像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体インク又は相変化インクプリンタは、従来、ペレット又はインクスティックのどちらかの固体状でインクを受け取る。固体インクペレット又はインクスティックは通常、プリンタ用のインクローダの挿入口を介して挿入され、インクスティックはフィード機構及び/又は重力によってヒータアッセンブリの溶融プレートに向かって、供給路に沿って押し込まれるか、又は滑らされる。溶融プレートは、そのプレートに衝突する固体インクを溶かして液体にし、この液体はインクタンクへと運ばれる。インクタンクは、インクを、記録媒体状に噴出するためのプリントヘッドへと搬送するために、溶融した状態で保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/129808号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/66747号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/102906号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体インクプリンタの動作中に直面する一つの問題は、プリンタによって消費される電気エネルギーである。特に、電気エネルギーは溶融装置が固体インクを溶融インクへ変換するのに必要である。また、プリントヘッドも、溶融したインクを液体状に保持するために電気エネルギーを必要とする。エネルギーを節約するために、固体インクプリンタは、異なるレベルのエネルギーを消費する様々なモードで運転される。これらの各種モードでは、溶融したインクを液状に保持するためのヒータを含む一又は複数の構成部材の動作が停止させられ、溶融したインクを「凝固」させる、すなわち固体の状態に戻すことがある。
【0005】
溶融したインクを凝固させることによって生じる問題の一つは、固化したインクの中に気泡が形成されることである。このような閉じ込められた気泡は、固化したインクを液体化させるために構成部材に電気エネルギーが与えられる際に、取り除かれるはずである。しかし、このパージ工程により、印刷システムからインクを破棄することになる。顧客は通常、インクが失われることを好ましく思わない。よって、固化したインクに気泡を閉じ込めることなく、溶融したインクを固化させることができれば有用であろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
プリントヘッド中の溶融インクを、固化したインク中に気泡がほとんど、又は全く生じることなく固化させることができる装置が開発された。この装置は、ハウジングと、溶融したインクを貯蔵するように構成された前記ハウジング内の通路と、前記ハウジング及び前記通路と機械的に接続されており、溶融したインクが前記通路中で冷却する際に該溶融したインクに空隙が生成されるのを軽減するように構成された温度調節コネクタと、を含んでいる。
【0007】
プリントヘッド内のタンクにおける溶融したインクを、固化したインク中に気泡がほとんど、又は全く生じることなく固化させることができるプリントヘッドも開発された。このプリントヘッドは、ハウジングと、前記プリントヘッドから噴出させるために溶融したインクを貯蔵するように構成されたハウジング内のタンクと、応答によってタンク内の溶融したインクの固化を制御するために前記タンク内の溶融したインクに熱的に接続された熱導体と、を含む。
【0008】
本開示の前述の構成及びその他の特徴を、添付の図面を参照しつつ以下の記述において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】複数のインク用通路を含むプリントヘッドハウジングの部分断面図である。
【図2】インクマニホールドハウジングの断面図である。
【図3】先細通路及びタンクの一部を含むプリントヘッドの部分断面図である。
【図4】インクを一又は複数のプリントヘッドに運搬するように構成されたインクタンクの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中において「プリンタ」は、例えば、プリンタ、ファクシミリ機、コピー機、そして関連する多機能製品といった、複写装置のことを指す。本明細書では、プリンタにおける相変化インクの固化過程を制御するシステムに焦点を合わせるが、このシステムはいかなる相変化インク画像生成装置に関しても用いることができる。固体インクは、インク、インクスティック、又はスティックと称することがある。本明細書において「経路」なる語は一つのチャンバから他のチャンバへとインクを搬送するあらゆる通路のことを指す。また、画像受領基板には、用紙、シート等が含まれる。
【0011】
プリントヘッドに保持された固化されたインク中に気泡が生成されるのを軽減するプリントヘッドハウジングの一例を、図1の断面図に示す。プリントヘッド100は、典型的にはステンレス鋼又はアルミニウムといった金属、又はポリマー材料から成るハウジング104を有する。このハウジング104の中には、一又は複数の、インクを保持するチャンバがある。本例ではチャンバ108A、108B、108Cである。これらのチャンバはこの断面の位置では見ることができない通路を介して互いに液通している。チャンバは、各プリントヘッド100のインクの流れ方への要求によって規定される様々な形状及びサイズをとり得る。図1のプリントヘッドでは、様々な熱導体112A〜Cが、チャンバ108A〜C内に、またこれらに関して設けられている。各熱導体112は、ハウジング104を通過して、ハウジング104の外部へとつながっている。熱導体112は各チャンバ108に位置するインクからハウジング104の外部への熱伝導速度を制御する熱制御コネクタとして作用する。本明細書では、熱導体とは、温度差がある方へ熱が材料を流れるような、比較的高い熱伝導率kを有する材料のことを指す。図1では、熱導体112は各チャンバ108の様々な領域が略等しい熱的質量又は熱容量(thermal mass)を有するように位置している。例えば、熱導体112Cはチャンバ108Aにおける周囲のインク路を分岐させ、ほぼ同等な熱的質量を有する二つの領域を形成している。所望の熱伝達の速度に応じて、一部又は全ての熱導体112はハウジング104の外部のヒートシンク(非図示)に接続することができる。このヒートシンクは典型的には、伝導熱をプリントヘッド100から放射するのを助ける金属製のフィンを任意に有することができる金属板である。
【0012】
所望の熱伝導特性に応じて、熱導体は様々な形状及びサイズを取ることができる。図1では、熱導体112Aは円柱形状であるが、熱導体112Bは同じく円柱状でありながら直径が異なっている。熱導体は、例えば、熱導体112Cが傾いたような、各種の形状を有することもできる。熱導体は、熱導体112Aのようにインクチャンバに隣接して設けることもできるし、又は、熱導体112B及び112Cのようにインクタンクの中に配置することもできる。熱導体は種々の熱伝導性材料によって構成することができ、銅は一つの好ましい材料である。熱導体を設計する際に使用される特定の材料は、各熱導体の熱伝導率によって左右される。よって、代わりに使用できるプリントヘッドでは、異なる金属又は熱可塑性樹脂を含む、異なる伝導度を有する他の材料を用いても良いし、単一のプリントヘッドハウジングにおいて二以上の材料から成る熱導体を採用することもできる。熱導体の正確なサイズ、形状、及び位置は、熱的質量が固化するのに必要な時間、又は固化が生じる方向、又はこれらの両方に影響を及ぼすように選択される。インクはプリントヘッドにおける熱分布に影響を及ぼすため、熱導体を適切に選択して配置することにより、インクがよりいっそう、空隙を形成することなく冷却して固化しやすいようにインクの温度を制御するのに役立つ。
【0013】
以下の式は、所定のインクの熱的質量の伝導に関する特性時間を規定する。
【0014】
【数1】

式1では、熱的質量に対する熱伝導の特性時間teffが、その質量の、特性寸法Lの熱拡散性αに対する比として表現されている。熱的質量の特性寸法Lは、その熱的質量の体積対表面積比(V/A)と関連している。球体では、V/Aは半径又は直径によって概算することができ、立方体の場合は辺の長さによって概算できる。表面積が大きく、体積が小さい物体は、熱伝導に対して小さな特性長さを有しており、表面積が小さくて体積が大きな物体よりもずっと早く冷却する。一例として、半径2Rの球体の中心は、半径Rの球体の中心と比べて、所定の温度に達するのに約4倍の時間を要する。インク又は周囲の材料の熱容量又は熱伝導性を修正することで、温度を変更する時間にも影響が及ぶが、伝導経路長と熱応答時間との関係が非線形的であるため、熱導体を体積対表面積比を変えるために用いることは、プリントヘッドでの熱分布を制御するのにより有効な方法である。
【0015】
熱導体は、プリントヘッド中の溶融したインクの各熱質量に対して望ましいteffを生成するように配置される。効果性を高めるために、熱導体は、熱的質量の実効冷却長を、チャンバの中に又は外につながる通路内で最小の特性寸法と等しくできるように配置される必要がある。同様に、上述したように、熱導体は体積対表面積比を適切に変更するのに用いることができる。又は、熱導体は、より厚みのあるマス又は塊が、より高い温度勾配を受けるより小さなマス又は塊と同等に冷却できるようにする局部温度を与える必要がある。図1の実施形態では、プリントヘッドの狭い経路116付近のプリントヘッドの部分のインクに関するteff時間の値は、チャンバの、又はプリントヘッドを通るより広い通路のteff時間の値よりも短い。従って、熱導体はチャンバの様々な位置で熱的質量を均等化させるために配置され、よって、プリントヘッド100の様々な位置においてインクが固化する時間の均等化を促進し、又は、気泡又は空隙が固化中のインクから取り除かれる方向に冷却が生じるように働きかける。
【0016】
引き続き図1を参照すると、一又は複数の経路116は、プリントヘッド100内のチャンバ108へ、またチャンバ108からインクを搬送する。図1の経路116は、経路116の一端における開口120においてより広く、経路の他端におけるより狭い開口124へ向かって細くなる形状を有している。このテーパの向きは、冷却する際に、経路116でどのようにインクが固化するかを制御するために選択される。テーパは、温度調節コネクタの異なる形態として機能し、経路116のインクが予測できる仕方で冷却するようにする。好ましい選択は、各経路の細い端部が、インクが最初に固化するプリントヘッドの位置に向かって配置されていることである。なぜならば、経路116のより細い部分には、経路のより広い部分におけるインクよりも前に固化する可能性が高いインクの、より低い熱的質量があるからである。
【0017】
プリントヘッド内での熱伝達を制御する別の構造が図2に示されている。図2では、インクマニホールド200は、外部ハウジング204と、互いに分離してインクを貯蔵するタンク208とを含む。マニホールドハウジング204は例えば金属または伝熱性熱可塑性樹脂といった伝熱材料によって形成される。発熱体212はタンク208に貯蔵されたインクを熱する熱源として機能する。発熱体212は典型的にはマニホールド200内で所望の温度を維持するために選択的に制御され得る、電気的に抵抗性のある発熱体である。発熱体により、タンクの絶対温度とタンク208の温度変化速度との両方を制御することが可能となる。この制御によって、狭い経路216から開始して、より広いタンク208へと進行するインクの固化をより均一で、方向性のあるものとすることができる。
【0018】
再び図2を参照する。任意で断熱層224をハウジング204の周囲に設けることができる。この断熱層224は伝熱性ハウジング204から熱が逃げる速度の差を減少させることができ、結果としてより均一な冷却が行える。断熱層224はマニホールドタンク208内で不均一にインクが固化してしまう原因となり得る「熱い箇所」と「冷たい箇所」とを減少させる温度制御コネクタとしての働きをする。図2に示されている断熱層224はマニホールドハウジング204全体に亘っているが、この断熱材は熱伝導の速度を均一にするために、マニホールドハウジング204の選択された箇所のみに配置してもよい。
【0019】
図2には、タンク208からプリントヘッドの他のチャンバへとインクを運搬する経路216も含まれている。図1の場合と同様に、これらの経路は経路116の一端の開口でより広く、経路の他端におけるより狭い開口124で先細(テーパ)となる形状を有している。テーパの方向は冷却の際に経路216でインクがどのように固化するかを制御するために選択される。テーパは温度制御コネクタの別の形態としての働きをし、経路216のインクを予想できる仕方で冷却させることができる。好ましい選択は、各経路の細い端部が、インクが最初に固化するプリントヘッドの位置に向かって配置されていることである。なぜならば、経路216のより細い部分には、経路のより広い部分よりも先に固化するインクの、より低い熱的質量があるからである。
【0020】
図1及び図2の実施形態で用いられる先細の経路の例が図3に示される。経路300はより狭い開口308へ向かって広がるより広い開口304を有している。図3の例では、経路の壁に近いインクが、固化前方面312A、312Bを形成しつつ最初に固化する。経路が先細形状となっていることは、狭い開口308に近いインクの部分が低い熱的質量を有し、より早く固化することを意味する。この形状により、狭い開口308から開始し、広い開口304へと移動する方向性固化が可能となる。幾つかの形態のインクは固化すると収縮する。これにより、空隙を埋める液体インクが存在しなければ、空隙が生じる可能性がある。図3の構造において収縮が生じれば、タンク320の液体インクは正の背圧を生じ、これにより液体インクがタンク320から経路300へと流れ、収縮過程が完了するまで固化前方面312Aと312Bの間の空隙を埋める熱的質量316を形成する。タンク320は狭い経路300よりも大きな熱的質量を有しているため、タンクに貯蔵されたインクは、経路300のインクの後に固化する。結果としてタンク320は、固化過程の間、経路300において形成されるあらゆる空隙を充填する付加的な液体インクを供給するライザ又は補給部として機能する。
【0021】
図1及び図2のプリントヘッドへ液体インクを供給するように構成されたインクタンクとインク導管が図4に描かれている。インクタンク404はプリンタの運転モードに応じて固体又は液体であるインク408を貯蔵している。図4の例では固化したインクを描いている。タンク404は先細コネクタ416を用いてプリントヘッド420に接続されている。図3に示された経路300と同様に、先細コネクタ416はプリントヘッド420に近い狭い端部からインクタンク404に近い広い端部へとインクが方向性をもって固化することを促進する。インクタンク404はコネクタ416の熱的質量よりも大きな熱的質量を有する。よって、インクタンク404は、インクが先細コネクタ416へ流れ込んでコネクタ416を形成する固化前方部に生じるかもしれない空隙を埋めることを可能にする正圧生成ライザとして機能する。結果として、溶融したインクは空隙や気泡が無い連続した塊として固化する。空隙や気泡はタンク404の内部の質量の表面へと昇る。もし何らかの気泡が形成することがあれば、それは符号412で示されるようにより広いタンク404内で形成する。運転中は、タンク404の気泡は、固化したインク408が溶融した際に排除される。これにより、気泡がプリントヘッド420に達することが防止される。
【0022】
上述した特徴、及び他の特徴、機能、又は代替的構成の様々なものが多くの他の異なるシステム又は用途に、望ましい仕方で組み合わせることができることがわかるであろう。他の実施形態の幾つかは、記載された方法及び技術を様々に組み合わせることで構成されるであろう。各種の現時点では予期していない代替構成、改良、変形、改良が当業者によって行われるかもしれないが、これらもまた、以下の特許請求の範囲に包含されるものである。
【符号の説明】
【0023】
100 プリントヘッド、104 ハウジング、108 チャンバ、112 熱導体、116 経路、120、124 開口、200 インクマニホールド、204 ハウジング、208 タンク、212 発熱体、216 経路、224 断熱層、300 経路、304、308 開口、312 固化前方部、320 タンク、404 タンク、408 インク、416 先細コネクタ、420 プリントヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像受領基板上に溶融インクを噴出するプリントヘッドであって、
ハウジングと、
前記プリントヘッドから噴出する溶融インクを貯蔵するように構成された、前記ハウジング内のタンクと、
前記タンク内において、前記タンク内の溶融インクの固化を制御するために溶融インクと熱的に連結している熱導体と、
を備えるプリントヘッド。
【請求項2】
前記タンク内の溶融インクから、前記熱導体によって伝導された熱を消散させるために前記熱導体と機械的に接続されたヒートシンクをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のプリントヘッド。
【請求項3】
通路内で前記溶融インクが冷却する際に、熱が、通路内で溶融インクへ流れることができるように熱源と機械的に接続された熱導体を含むことを特徴とする請求項1に記載のプリントヘッド。
【請求項4】
プリントヘッドの通路内において溶融インクから熱の消散を制御するための、プリントヘッドの通路の一部内におけるテーパ部を有することを特徴とする請求項1に記載のプリントヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−178164(P2011−178164A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34060(P2011−34060)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】