説明

固体パルスレーザ装置

【課題】大きなエネルギーを持ったパルスレーザを出力することなく温度チューニングを行う。
【解決手段】温度チューニング中は、まず、RF信号制御機構10が音響光学素子4に十分なパワーのRF信号を与えて共振器20のロスを十分に大きくし、固体レーザ媒質2を高ゲインの状態にする。次に、RF信号制御機構10がRF信号のパワーを急速に小さくして共振器20のロスを例えば半分にして共振器20でレーザ発振可能とし、パルスレーザを出力する。このパルスレーザの出力エネルギーを検出して温度チューニングする。
【効果】共振器20のロスを実働時のような最小値にしないため、パルスレーザの出力エネルギーは実働中に比べて小さくなる。従って、温度チューニング中に大きなエネルギーのレーザパルスがレーザ照射対象物などに不要に照射されてしまうことを回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体パルスレーザ装置に関し、さらに詳しくは、大きなエネルギーを持ったパルスレーザを出力せずに温度チューニングを行うことが出来る固体パルスレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動的に又は指示されたタイミングで波長変換用光学素子の温度チューニングを行う固体パルスレーザ装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−251448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実働中の固体パルスレーザ装置のパルスレーザは大きなエネルギーを持っているが、上記従来の固体パルスレーザ装置では、温度チューニング中に出力されるパルスレーザも実働中と同じように大きなエネルギーを持つものであった。
しかし、温度チューニング中に大きなエネルギーのレーザパルスがレーザ照射対象物あるいはレーザ照射対象物以外の物に不要に照射されてしまうと、それらを破損しかねない問題点があった。
そこで、本発明の目的は、大きなエネルギーを持ったパルスレーザを出力せずに温度チューニングを行うことが出来る固体パルスレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、励起レーザ光を発生する半導体レーザ(1)と、前記励起レーザ光によって励起され基本波を出射する固体レーザ媒質(2)と、前記固体レーザ媒質(2)を含んで形成される共振器(20)内に設置された音響光学素子(4)と、前記基本波を波長変換し波長変換光を出射する波長変換用光学素子(5)と、前記共振器(20)から出力される出力光を検出するための光検出手段(6,7,8)と、前記波長変換用光学素子(5)の温度を目標値に制御する温度制御手段(9)と、パルス出力を得るために前記音響光学素子(4)を制御して前記共振器(20)のロスを変化させる音響光学素子制御手段(10)と、前記光検出手段(6,7,8)による検出結果に基づいて前記温度制御手段(9)の目標値を更新する温度チューニング手段(12)とを具備し、前記音響光学素子制御手段(10)は、前記温度制御手段(9)の目標値を更新中は、実働中よりも前記共振器(20)のロスの変化分を小さくして前記パルス出力の出力エネルギーを小さくすることを特徴する固体パルスレーザ装置(100)を提供する。
上記第1の観点による固体パルスレーザ装置(100)では、実働中は、共振器(20)でレーザ発振が起こらないように音響光学素子(4)により共振器(20)のロスを大きくして固体レーザ媒質(2)を高ゲインにしておき、次いで共振器(20)でレーザ発振が起こるように音響光学素子(4)により共振器(20)のロスを急速に小さくし、それまでの固体レーザ媒質(2)の高ゲインに応じた大きなエネルギーのパルスレーザを出力する。一方、温度チューニング中は、共振器(20)のロスの変化分を、実働中よりも小さくする。これにより、それまで固体レーザ媒質(2)が高ゲインであっても共振器(20)のロスが大きいままであるか(実施例1参照)、又は、それまで固体レーザ媒質(2)が低ゲインであるか(実施例2参照)のいずれかとなり、パルスレーザは小さなエネルギーで出力されることになる。そして、その状態でエネルギーがピークになるように波長変換用光学素子(5)の温度チューニングを行えばよいので、温度チューニングには支障を生じない。また、温度チューニング中に大きなエネルギーのレーザパルスがレーザ照射対象物などに不要に照射されてしまうことがなくなるため、それらを破損してしまうような問題を回避できる。
【0006】
第2の観点では、本発明は、励起レーザ光を発生する半導体レーザ(1)と、前記励起レーザ光によって励起され基本波を出射する固体レーザ媒質(2)と、前記固体レーザ媒質(2)を含んで形成される共振器(20)内に設置された音響光学素子(4)と、前記基本波を波長変換し波長変換光を出射する波長変換用光学素子(5)と、前記共振器(20)から出力される出力光を検出するための光検出手段(6,7,8)と、前記波長変換用光学素子(5)の温度を目標値に制御する温度制御手段(9)と、パルス出力を得るために前記音響光学素子(4)を制御して前記共振器(20)のロスを変化させる音響光学素子制御手段(10)と、前記光検出手段(6,7,8)による検出結果に基づいて前記温度制御手段(9)の目標値を更新する温度チューニング手段(12)とを具備し、前記音響光学素子制御手段(10)は、前記温度制御手段(9)の目標値を更新中は、前記共振器(20)を連続発振させるように前記共振器(20)のロスを下げることを特徴する固体パルスレーザ装置(100)を提供する。
上記第2の観点による固体パルスレーザ装置(100)では、実働中は、共振器(20)でレーザ発振が起こらないように音響光学素子(4)により共振器(20)のロスを大きくして固体レーザ媒質(2)を高ゲインにしておき、次いで共振器(20)でレーザ発振が起こるように音響光学素子(4)により共振器(20)のロスを急速に小さくし、それまでの固体レーザ媒質(2)の高ゲインに応じた大きなエネルギーのパルスレーザを出力する。一方、温度チューニング中は、共振器(20)を連続発振させるように共振器(20)のロスを小さくする。連続発振のため、小さなエネルギーのレーザの連続出力になる(実施例3参照)が、その状態でエネルギーがピークになるように波長変換用光学素子(5)の温度チューニングを行えばよいので、温度チューニングには支障を生じない。そして、温度チューニング中に大きなエネルギーのレーザパルスがレーザ照射対象物などに不要に照射されてしまうことがなくなるため、それらを破損してしまうような問題を回避できる。さらに、温度チューニング中の小さなエネルギーを検出するために光検出手段(7,8)の増幅度を上げる必要があるが、レーザが連続出力であるので周波数応答性を考慮せずに増幅度を上げることが可能となり、容易に実施できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固体パルスレーザ装置によれば、温度チューニング中に大きなエネルギーのレーザパルスがレーザ照射対象物などに不要に照射されてしまうことがなくなるため、それらを破損してしまうような問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1に係る固体パルスレーザ装置を示す構成説明図である。
【図2】実働中における共振器のロスと固体レーザ媒質のゲインとパルスレーザの出力エネルギーの変化を示すグラフである。
【図3】実施例1に係る温度チューニング中における共振器のロスと固体レーザ媒質のゲインとパルスレーザの出力エネルギーの変化を示すグラフである。
【図4】実施例2に係る温度チューニング中における共振器のロスと固体レーザ媒質のゲインとパルスレーザの出力エネルギーの変化を示すグラフである。
【図5】実施例3に係る温度チューニング中における共振器のロスと固体レーザ媒質のゲインとパルスレーザの出力エネルギーの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0010】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る固体パルスレーザ装置100を示す構成説明図である。
この固体パルスレーザ装置100は、励起レーザ光を発生する半導体レーザ1と、共振器20を構成するためのミラー3,3と、励起レーザ光によって励起され基本波を出射する固体レーザ媒質2と、共振器20内に設置された音響光学素子4と、基本波を波長変換し波長変換光を出射する波長変換用光学素子5と、共振器20から出力される出力光の一部を分岐するビームスプリッタ6と、ビームスプリッタ6で分岐された光を受光する光検出器7と、光検出器7での光検出信号を読み出す読出し回路8と、温度波長変換用光学素子5の温度を目標値に制御するための温調ユニット(ペルチェ素子および温度センサを含む)9aおよび素子温度調整機構9と、音響光学素子4を制御して共振器20のロスを変化させるためのRF信号制御機構10と、半導体レーザ1を駆動するための半導体レーザ駆動機構11と、読出し回路8で読み出した光検出信号に基づいて素子温度調整機構9の目標値を更新する温度チューニング機構12とを具備している。
【0011】
素子温度調整機構9と、RF信号制御機構10と、半導体レーザ駆動機構11と、温度チューニング機構12とは、CPU30により構成される。
読出し回路8は、AD変換回路を含んでいる。
【0012】
図2は、実働中における共振器20のロスと固体レーザ媒質2のゲインとパルスレーザの出力エネルギーの変化を示すグラフである。
RF信号制御機構10が音響光学素子4に十分なパワーのRF信号を与えて共振器20のロスを十分に大きくすると、レーザ発振が起こらないため、固体レーザ媒質2が高ゲインの状態になる。なお、この時の共振器20のロスを100%とする。
この状態で、RF信号制御機構10がRF信号を急速にオフすると共振器20のロスが小さくなり、共振器20でレーザ発振可能となり、固体レーザ媒質2の高ゲインに応じた大きな出力エネルギーのパルスレーザが出力される。
【0013】
図3は、温度チューニング中における共振器20のロスと固体レーザ媒質2のゲインとパルスレーザの出力エネルギーの変化を示すグラフである。
RF信号制御機構10が音響光学素子4に十分なパワーのRF信号を与えて共振器20のロスを十分に大きくすると、共振器20でレーザ発振が起こらないため、固体レーザ媒質2が高ゲインの状態になる。
この状態で、RF信号制御機構10がRF信号のパワーを急速に小さくして共振器20のロスを例えば50%にすると、共振器20でレーザ発振可能となり、パルスレーザが出力される。このパルスレーザの出力エネルギーは、それまで固体レーザ媒質2が高ゲインであっても、共振器20のロスが例えば50%もあるため、実働中に比べて小さくなる。
【0014】
温度チューニング機構12は、半導体レーザ駆動回路11を介して半導体レーザ1を一定電流で駆動しておき、読出し回路8を介してパルスレーザの出力エネルギーを得ながら、素子温度調整機構9および温調ユニット9aを介して波長変換素子5を温度スイープし、出力エネルギーが最大となる温度を目標値に設定する。
【0015】
あるいは、温度チューニング機構12は、読出し回路8を介してパルスレーザの出力エネルギーを得て、その出力エネルギーが一定になるように半導体レーザ駆動回路11を介して半導体レーザ1の駆動電流を制御しながら、素子温度調整機構9および温調ユニット9aを介して波長変換素子5を温度スイープし、半導体レーザ1の駆動電流が最小となる温度を目標値に設定する。
【0016】
なお、電源オン時や一定時間経過時などのタイミングで自動的に温度チューニングが行われる場合もあり、操作者の指示に応じて任意時に温度チューニングが行われる場合もある。
【0017】
実施例1の固体パルスレーザ装置100によれば、温度チューニング中に大きなエネルギーのレーザパルスがレーザ照射対象物などに不要に照射されてしまうことがなくなるため、それらを破損してしまうような問題を回避できる。
【0018】
−実施例2−
固体パルスレーザ装置の構成は、実施例1に係る固体パルスレーザ装置100と同様である。
【0019】
図4は、温度チューニング中における共振器20のロスと固体レーザ媒質2のゲインとパルスレーザの出力エネルギーの変化を示すグラフである。
RF信号制御機構10が音響光学素子4に実働時に比べて小さなパワーのRF信号を与えて共振器20のロスを例えば30%に小さくすると、ある程度は共振器20でレーザ発振可能であるため、固体レーザ媒質2が、実働中に比べると低いが、ある程度は高いゲインの状態になる。
この状態で、RF信号制御機構10がRF信号を急速にオフすると共振器20のロスが小さくなり、共振器20からパルスレーザが出力される。このパルスレーザの出力エネルギーは、固体レーザ媒質2のゲインが実働中に比べて低かったため、実働中に比べて小さくなる。
【0020】
温度チューニング機構12は、半導体レーザ駆動回路11を介して半導体レーザ1を一定電流で駆動しておき、読出し回路8を介してパルスレーザの出力エネルギーを得ながら、素子温度調整機構9および温調ユニット9aを介して波長変換素子5を温度スイープし、出力エネルギーが最大となる温度を目標値に設定する。
【0021】
あるいは、温度チューニング機構12は、読出し回路8を介してパルスレーザの出力エネルギーを得て、その出力エネルギーが一定になるように半導体レーザ駆動回路11を介して半導体レーザ1の駆動電流を制御しながら、素子温度調整機構9および温調ユニット9aを介して波長変換素子5を温度スイープし、半導体レーザ1の駆動電流が最小となる温度を目標値に設定する。
【0022】
実施例2の固体パルスレーザ装置よれば、温度チューニング中に大きなエネルギーのレーザパルスがレーザ照射対象物などに不要に照射されてしまうことがなくなるため、それらを破損してしまうような問題を回避できる。
【0023】
−実施例3−
固体パルスレーザ装置の構成は、実施例1に係る固体パルスレーザ装置100と同様である。
【0024】
図5は、温度チューニング中における共振器20のロスと固体レーザ媒質2のゲインとパルスレーザの出力エネルギーの変化を示すグラフである。
RF信号制御機構10がRF信号をオフにしたままにすると共振器20のロスが最小になり、共振器20は連続発振状態になり、レーザが連続出力される。このレーザの出力エネルギーは、固体レーザ媒質2のゲインが低いままであるため、実働中に比べて小さくなる。
【0025】
温度チューニング機構12は、半導体レーザ駆動回路11を介して半導体レーザ1を一定電流で駆動しておき、読出し回路8を介してレーザの出力エネルギーを得ながら、素子温度調整機構9および温調ユニット9aを介して波長変換素子5を温度スイープし、出力エネルギーが最大となる温度を目標値に設定する。
【0026】
あるいは、温度チューニング機構12は、読出し回路8を介してレーザの出力エネルギーを得て、その出力エネルギーが一定になるように半導体レーザ駆動回路11を介して半導体レーザ1の駆動電流を制御しながら、素子温度調整機構9および温調ユニット9aを介して波長変換素子5を温度スイープし、半導体レーザ1の駆動電流が最小となる温度を目標値に設定する。
【0027】
実施例3の固体パルスレーザ装置よれば、温度チューニング中に大きなエネルギーのレーザパルスがレーザ照射対象物などに不要に照射されてしまうことがなくなるため、それらを破損してしまうような問題を回避できる。
また、実施例3でのレーザの出力エネルギーは、実施例1や実施例2に比べても小さくなるため、光検出器7や読出し回路8の増幅度を上げる必要があるが、レーザが連続出力であるので周波数応答性を考慮せずに増幅度を上げることが可能であり、容易に実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の固体パルスレーザ装置は、バイオエンジニアリング分野や計測分野で利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 半導体レーザ
2 固体レーザ媒質
9a 温調ユニット
3 ミラー
4 音響光学素子
5 波長変換用光学素子
6 ビームスプリッタ
7 光検出器
8 読出し回路
9 素子温度調整機構
10 RF信号制御機構
11 半導体レーザ駆動機構
12 温度チューニング機構
100 固体パルスレーザ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起レーザ光を発生する半導体レーザ(1)と、前記励起レーザ光によって励起され基本波を出射する固体レーザ媒質(2)と、前記固体レーザ媒質(2)を含んで形成される共振器(20)内に設置された音響光学素子(4)と、前記基本波を波長変換し波長変換光を出射する波長変換用光学素子(5)と、前記共振器(20)から出力される出力光を検出するための光検出手段(6,7,8)と、前記波長変換用光学素子(5)の温度を目標値に制御する温度制御手段(9)と、パルス出力を得るために前記音響光学素子(4)を制御して前記共振器(20)のロスを変化させる音響光学素子制御手段(10)と、前記光検出手段(6,7,8)による検出結果に基づいて前記温度制御手段(9)の目標値を更新する温度チューニング手段(12)とを具備し、
前記音響光学素子制御手段(10)は、前記温度制御手段(9)の目標値を更新中は、実働中よりも前記共振器(20)のロスの変化分を小さくして前記パルス出力の出力エネルギーを小さくすることを特徴する固体パルスレーザ装置(100)。
【請求項2】
励起レーザ光を発生する半導体レーザ(1)と、前記励起レーザ光によって励起され基本波を出射する固体レーザ媒質(2)と、前記固体レーザ媒質(2)を含んで形成される共振器(20)内に設置された音響光学素子(4)と、前記基本波を波長変換し波長変換光を出射する波長変換用光学素子(5)と、前記共振器(20)から出力される出力光を検出するための光検出手段(6,7,8)と、前記波長変換用光学素子(5)の温度を目標値に制御する温度制御手段(9)と、パルス出力を得るために前記音響光学素子(4)を制御して前記共振器(20)のロスを変化させる音響光学素子制御手段(10)と、前記光検出手段(6,7,8)による検出結果に基づいて前記温度制御手段(9)の目標値を更新する温度チューニング手段(12)とを具備し、
前記音響光学素子制御手段(10)は、前記温度制御手段(9)の目標値を更新中は、前記共振器(20)を連続発振させるように前記共振器(20)のロスを下げることを特徴する固体パルスレーザ装置(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−65750(P2013−65750A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204190(P2011−204190)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】