説明

固体レーザ装置

【課題】所望の波長のレーザ光を得るための波長変換を行う場合に、変換効率を高めることで高出力のレーザ光を得ること。
【解決手段】Nd:YAGロッド32と、Qスイッチ33と、Nd:YAGロッド32及びQスイッチ33を挟んで配置され、第1レーザ光をL1反射する全反射ミラー31及び第2部分反射ミラー36とを有する第1レーザ共振器K1と、第1レーザ光L1を波長変換して第2レーザ光L2に変換する第1非線形結晶35と、第1非線形結晶35を挟んで配置され、第2レーザ光L2を反射するミラー34及び第2部分反射ミラー36とを有する第2レーザ共振器K2とを備え、第2レーザ共振器K2のミラー34及び第1非線形結晶35は、第1レーザ共振器K1内に配置されるとともに、ミラー34は、第1レーザ光を透過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光の波長を変換する固体レーザ装置に関し、特に変換効率を向上させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
図3は一般的なNd:YAGレーザを用いた固体レーザ装置1を模式的に示す説明図である。レーザ媒質であるNd:YAGロッド3とレーザ光をパルス化するためのQスイッチ4を端面ミラー2及び出力ミラー5で構成された共振器で挟み込む形となる。端面ミラー2は全反射ミラーであり、出力ミラー5は部分反射鏡となっており、そこからレーザ光が出力される。ここで出力ミラー5の反射率は一般的に80%程度で、この場合レーザ共振器内部で共振しているレーザ光の20%がレーザ光として外部に出力されることとなる。したがって、共振器内部のレーザ高強度は出力されるレーザ光の5倍の強度となっている。
【0003】
OPO(光パラメトリック発振)を利用して高出力コヒーレント光を発生させる技術が知られている(例えば特許文献1参照)。例えば赤外光を発生させる場合には、励起光としてNd:YAGレーザ等の固体レーザを用い、赤外パラメトリック発振用の非線形光学結晶として、LiNbO,AgGaSe、KTP(KTiOPO)、ZGP(ZnGeP)等を用いる。
【0004】
図4は光パラメトリック発振を用いて波長変換を行う固体レーザ装置10の構成を模式的に示す説明図である。Nd:YAGレーザ光から波長4μmのレーザ光を得ようとした場合、2段階の波長変換を行う必要がある。
【0005】
このような固体レーザ装置10では、光軸Cに沿って、全反射ミラー11、Nd:YAGロッド12、Qスイッチ13、部分反射ミラー14、集光レンズ15、部分反射ミラー16、非線形結晶17、部分反射ミラー18、集光レンズ19、部分反射ミラー20、非線形結晶21、部分反射ミラー22が配置されている。このうち、全反射ミラー11、Nd:YAGロッド12、Qスイッチ13、部分反射ミラー14により、Nd:YAGレーザ発振器M1が構成されている。部分反射ミラー16、非線形結晶17、部分反射ミラー18により1段目光パラメトリック発振器M2が構成されている。部分反射ミラー20、非線形結晶21、部分反射ミラー22により2段目光パラメトリック発振器M3が構成されている。
【0006】
このような固体レーザ装置10では、Nd:YAGレーザ発振器M1からの発振光H1を集光レンズ15により集光し、1段目光パラメトリック発振器M2に導入することで、非線形結晶17を励起する。続いて、1段目光パラメトリック発振器M2からの発振光H2を集光レンズ19により集光して、2段目光パラメトリック発振器M3に導入することで、非線形結晶21を励起する。そして、発振光H3を外部に取り出す。
【特許文献1】特開平10−150238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した光パラメトリック発振を用いて波長変換を行う固体レーザ装置10であると次のような問題があった。すなわち、1段目光パラメトリック発振器M2及び2段目光パラメトリック発振器M3の変換効率は20%程度で、2段の波長変換を行うと変換効率はその積となりNd:YAGレーザ発振器M1で発生した波長1μmのレーザ光から波長4μmのレーザ光を得ようとした場合、全体の変換効率は4%と非常に低いものとなっていた。
【0008】
そこで本発明は、所望の波長のレーザ光を得るための波長変換を行う場合に、変換効率を高めることで高出力のレーザ光を得ることができる固体レーザ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し目的を達成するために、本発明の固体レーザ装置は次のように構成されている。
【0010】
(1)固体レーザ媒質と、Qスイッチ素子と、これら固体レーザ媒質及びQスイッチ素子を挟んで配置され、第1波長からなる第1レーザ光を反射する第1端面ミラー及び第1出力ミラーとを有する第1レーザ共振器と、上記第1レーザ光を波長変換して第2波長からなる第2レーザ光に変換する第1非線形結晶と、この第1非線形結晶を挟んで配置され、上記第2レーザ光を反射する第2端面ミラー及び第2出力ミラーとを有する第2レーザ共振器とを備え、上記第2レーザ共振器の上記第2端面ミラー及び上記第1非線形結晶は、上記第1レーザ共振器内に配置されるとともに、上記第2端面ミラーは、上記第1波長を透過するものであることを特徴とする。
【0011】
(2)上記(1)に記載された固体レーザ装置であって、上記第1出力ミラーと上記第2出力ミラーとは共通のミラーであることを特徴とする。
【0012】
(3)固体レーザ媒質と、Qスイッチ素子と、これら固体レーザ媒質及びQスイッチ素子を挟んで配置され、第1波長からなる第1レーザ光を反射する第1端面ミラー及び第1出力ミラーとを有する第1レーザ共振器と、上記第1レーザ光を波長変換して第2波長からなる第2レーザ光に変換する第1非線形結晶と、この第1非線形結晶を挟んで配置され、上記第2レーザ光を反射する第2端面ミラー及び第2出力ミラーとを有する第2レーザ共振器と、上記第2レーザ光を波長変換して第3波長からなる第3レーザ光に変換する第2非線形結晶と、この第2非線形結晶を挟んで配置され、上記第3レーザ光を反射する第3端面ミラー及び第3出力ミラーとを有する第2レーザ共振器とを備え、上記第2レーザ共振器の上記第2端面ミラー及び上記第1非線形結晶は、上記第1レーザ共振器内に配置されるとともに、上記第2端面ミラーは、上記第1波長を透過するものであり、上記第3レーザ共振器の上記第3端面ミラー及び上記第2非線形結晶は、上記第2レーザ共振器内に配置されるとともに、第3端面ミラーは、上記第2波長を透過するものであることを特徴とする。
【0013】
(4)上記(3)に記載された固体レーザ装置であって、上記第2出力ミラーと上記第3出力ミラーとは共通のミラーであり、上記第1出力ミラーと上記第3端面ミラーとは共通のミラーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所望の波長のレーザ光を得るための波長変換を行う場合に、変換効率を高めることで高出力のレーザ光を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る固体レーザ装置30の構成を模式的に示す説明図である。固体レーザ装置30は、光軸Cに沿って図1中左方から全反射ミラー31と、励起されることにより波長1μmのレーザ光L1を発生するNd:YAGロッド32と、例えば15kHzで光透過/光遮断が切り替わるQスイッチ33と、ミラー34と、第1非線形結晶35と、第2部分反射ミラー36とを備えている。
【0016】
全反射ミラー31は、波長1μmのレーザ光L1に対して全反射である。また、ミラー34は、レーザ光L1に対して全透過、波長2μmのレーザ光L2に対して全反射である。さらに、第2部分反射ミラー36はレーザ光L1に対して全反射、レーザ光L2に対して部分反射(透過率20%)である。また、第1非線形結晶35はKTP等で形成された波長変換用の非線形結晶であり、波長1μmのレーザ光L1を波長2μmのレーザ光L2へ波長変換する機能を有している。
【0017】
ここで、全反射ミラー31と第2部分反射ミラー36との間で第1レーザ共振器K1が構成され、ミラー34と第2部分反射ミラー36との間で第2レーザ共振器K2が構成されることになる。
【0018】
このように構成された固体レーザ装置30によれば、Nd:YAGロッド32が励起されることにより、波長1μmのレーザ光L1が発生する。レーザ光L1は、全反射ミラー31と第2部分反射ミラー36とで全反射し、第1レーザ共振器K1内で共振状態となる。
【0019】
一方、出力が増加したレーザ光L1は第1非線形結晶35により波長変換され、波長2μmのレーザ光L2が発生する。レーザ光L2は、ミラー34で全反射し、第2部分反射ミラー36で部分反射(透過率20%)することで第2レーザ共振器K2内で共振状態となる。そして、第2部分反射ミラー36からレーザ光L2の一部(約20%)が出力される。
【0020】
このように、第2レーザ共振器K2内にある第1非線形結晶35は、Nd:YAGレーザによる第1レーザ共振器K1内の強度の強いレーザ光L1が励起するため変換効率の高い波長変換を行うことが可能となる。最終的にはNd:YAGロッド32で発生したレーザ光L1から高い変換効率で波長2μmのレーザ光L2を得ることが可能となる。
【0021】
上述したように、本実施の形態に係る固体レーザ装置30によれば、光パラメトリック発振を用いて波長変換を行う場合に、高い変換効率(50%程度)で波長1μm光から波長2μm光への波長変換を行うことが可能となる。例えば、変換効率が低い(20%程度)の光パラメトリック発振器を用いたものに対して、2.5倍程度の変換効率が得られることとなる。
【0022】
図2は本発明の第2の実施の形態に係る固体レーザ装置40の構成を模式的に示す説明図である。固体レーザ装置40は、光軸Cに沿って図2中左方から全反射ミラー41と、励起されることにより波長1μmのレーザ光L1を発生するNd:YAGロッド42と、例えば15kHzで光透過/光遮断が切り替わるQスイッチ43と、ミラー44と、第1非線形結晶45と、第2部分反射ミラー46と、第2非線形結晶47と、第3部分反射ミラー48とを備えている。
【0023】
全反射ミラー41は、波長1μmのレーザ光L1に対して全反射である。また、ミラー44は、レーザ光L1に対して全透過、波長2μmのレーザ光L2に対して全反射である。さらに、第2部分反射ミラー46はレーザ光L1及びレーザ光L3に対して全反射、レーザ光L2に対して部分反射(透過率80%)である。また、第1非線形結晶45はKTP等で形成された波長変換用の非線形結晶であり、波長1μmのレーザ光L1を波長2μmのレーザ光へ波長変換する機能、第2非線形結晶47はZGP等で形成された波長変換用の非線形結晶であり、波長2μmのレーザ光L2を波長4μmのレーザ光L3へ波長変換する機能、を有している。
【0024】
ここで、全反射ミラー41と第2部分反射ミラー46との間で第1レーザ共振器K1が構成され、ミラー44と第3部分反射ミラー48との間で第2レーザ共振器K2が構成され、ミラー44と第3部分反射ミラー48との間で第3レーザ共振器K3が構成されることになる。
【0025】
このように構成された固体レーザ装置40によれば、Nd:YAGロッド42が励起されることにより、波長1μmのレーザ光L1が発生する。レーザ光L1は、全反射ミラー41と第2部分反射ミラー46とで全反射し、第1レーザ共振器K1内で共振状態となる。
【0026】
一方、出力が増加したレーザ光L1は第1非線形結晶45により波長変換され、波長2μmのレーザ光L2が発生する。レーザ光L2は、ミラー44で全反射し、第3部分反射ミラー48で全反射することで第2レーザ共振器K2内で共振状態となる。
【0027】
さらに、レーザ光L3は、第2部分反射ミラー46で全反射し、第3部分反射ミラー48で部分反射(透過率20%)することで第3レーザ共振器K3内で共振状態となる。そして、第3部分反射ミラー48からレーザ光L3の一部(約20%)が出力される。
【0028】
このように、第2レーザ共振器K2内にある第1非線形結晶45は、Nd:YAGレーザによる第1レーザ共振器K1内の強度の強いレーザ光L1が励起するため高い変換効率(50%程度)で波長変換を行うことが可能となる。さらに、第3レーザ共振器K3内にある第2非線形結晶45は、第2レーザ共振器K2内の強度の強いレーザ光L2が励起するため高い変換効率(50%程度)で波長変換を行うことが可能となる。したがって、最終的にはNd:YAGロッド42で発生したレーザ光L1から高い変換効率(25%程度)で波長4μmのレーザ光L4を得ることが可能となる。
【0029】
上述したように、本実施の形態に係る固体レーザ装置40によれば、光パラメトリック発振を用いて波長変換を行う場合に、高い変換効率(25%程度)で波長1μm光から波長4μm光への波長変換を行うことが可能となる。例えば、変換効率が低い(20%程度)の光パラメトリック発振器を用いたものに対して、6倍程度の変換効率が得られることとなる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る固体レーザ装置の構成を模式的に示す説明図。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る固体レーザ装置の構成を模式的に示す説明図。
【図3】固体レーザ装置を模式的に示す説明図。
【図4】光パラメトリック発振を用いて波長変換を行う固体レーザ装置の構成を模式的に示す説明図。
【符号の説明】
【0032】
30…固体レーザ装置、31…全反射ミラー、32…Nd:YAGロッド、33…Qスイッチ、34…ミラー、35…第1非線形結晶、36…第2部分反射ミラー、40…固体レーザ装置、41…全反射ミラー、42…Nd:YAGロッド、43…Qスイッチ、44…ミラー、45…第1非線形結晶、46…第2部分反射ミラー、47…第2非線形結晶、48…第3部分反射ミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体レーザ媒質と、Qスイッチ素子と、これら固体レーザ媒質及びQスイッチ素子を挟んで配置され、第1波長からなる第1レーザ光を反射する第1端面ミラー及び第1出力ミラーとを有する第1レーザ共振器と、
上記第1レーザ光を波長変換して第2波長からなる第2レーザ光に変換する第1非線形結晶と、この第1非線形結晶を挟んで配置され、上記第2レーザ光を反射する第2端面ミラー及び第2出力ミラーとを有する第2レーザ共振器とを備え、
上記第2レーザ共振器の上記第2端面ミラー及び上記第1非線形結晶は、上記第1レーザ共振器内に配置されるとともに、上記第2端面ミラーは、上記第1波長を透過するものであることを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項2】
上記第1出力ミラーと上記第2出力ミラーとは共通のミラーであることを特徴とする請求項1に記載の固体レーザ装置。
【請求項3】
固体レーザ媒質と、Qスイッチ素子と、これら固体レーザ媒質及びQスイッチ素子を挟んで配置され、第1波長からなる第1レーザ光を反射する第1端面ミラー及び第1出力ミラーとを有する第1レーザ共振器と、
上記第1レーザ光を波長変換して第2波長からなる第2レーザ光に変換する第1非線形結晶と、この第1非線形結晶を挟んで配置され、上記第2レーザ光を反射する第2端面ミラー及び第2出力ミラーとを有する第2レーザ共振器と、
上記第2レーザ光を波長変換して第3波長からなる第3レーザ光に変換する第2非線形結晶と、この第2非線形結晶を挟んで配置され、上記第3レーザ光を反射する第3端面ミラー及び第3出力ミラーとを有する第2レーザ共振器とを備え、
上記第2レーザ共振器の上記第2端面ミラー及び上記第1非線形結晶は、上記第1レーザ共振器内に配置されるとともに、上記第2端面ミラーは、上記第1波長を透過するものであり、
上記第3レーザ共振器の上記第3端面ミラー及び上記第2非線形結晶は、上記第2レーザ共振器内に配置されるとともに、第3端面ミラーは、上記第2波長を透過するものであることを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項4】
上記第2出力ミラーと上記第3出力ミラーとは共通のミラーであり、
上記第1出力ミラーと上記第3端面ミラーとは共通のミラーであることを特徴とする請求項3に記載の固体レーザ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−93560(P2006−93560A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279468(P2004−279468)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】