説明

固体口腔用組成物

【解決手段】 カルシウム含有成分(A)、フッ素含有成分及び/又はリン酸塩(B)、有機酸(C)、炭酸塩及び/又は炭酸水素塩(D)を配合した固体口腔用組成物であり、組成物の溶解初期のpHが3乃至4であり、溶解終了時のpHが5乃至8に上昇することを特徴とする歯牙再石灰化効果のある口腔用組成物。
【効果】 本発明の固体口腔用組成物によれば、優れた再石灰化効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カルシウムイオンと、リン酸イオン及び/又はフッ素イオンとを口腔で有効に作用させることで、優れた歯牙再石灰化効果が得られる固体口腔用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】歯牙の主成分はハイドロキシアパタイト((Ca10(PO46(OH)2)であり、口中においては、通常、リン酸イオンやカルシウムイオンの溶出(脱灰)と、リン酸カルシウムやハイドロキシアパタイトヘの結晶化(再石灰化)が平衡状態にある。虫歯はこの平衡状態が口腔細菌の産生する有機酸により酸性化することで脱灰方向へと進むことから生じる。従って、平衡をハイドロキシアパタイト形成方向へ傾けることにより、即ち、カルシウムイオンやリン酸イオンを供給することで再石灰化を促進することができる。更に、虫歯の初期段階においては、ホワイトスポットと呼ばれる白斑が生じることが知られているが、フッ素イオンやカルシウムイオンなどは再石灰化を促進することにより、かかる白斑を消失させ修復する効果があることも知られている。
【0003】しかしながら、再石灰化成分であるカルシウムイオン、リン酸イオン、更にフッ素イオンは反応性が高く、共存させると歯牙に対して作用する以前にフッ化カルシウムやリン酸カルシウムなどの不溶性物質となり、十分な効果を発揮させることができない。
【0004】これに対し、例えば、フッ素イオン水溶液とカルシウムイオン水溶液とを別の容器に保持し、使用に際して適宜混合して用いる、2剤系の口腔衛生用品(特開昭52−61236号公報、特開昭58−219107号公報)などが報告されているが、使用に際して2液を混合しなければならず、簡便性の点で問題となる上、一定濃度以上では混合直後にフッ化カルシウムとなり、不溶化してしまうことから、必ずしも十分な効果が得られていないのが現状であり、より効果的に再石灰化を促進させられる技術が求められていた。
【0005】従って、本発明は、より有利に歯牙再石灰化効果を発揮する固体口腔用組成物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、カルシウム含有成分と、フッ素含有成分及び/又はリン酸塩との少なくとも2種の混合物を配合し、更に口腔内において溶解速度の差や弱酸遊離の反応(炭酸ガス発生)などを組み合わせることで、初期のpHを3乃至4まで低下させて再石灰化成分の溶存濃度を高めた状況を生み出した後、全てが溶解又は反応終了した段階でpHを5乃至8まで上昇させて再石灰化成分の過飽和状態を生み出すことにより、歯牙再石灰化効果が高められることを知見した。即ち、再石灰化成分として、カルシウム含有成分とフッ素含有成分及び/又はリン酸塩とを用い、有機酸及び炭酸塩などの混合物の溶解速度の差及び弱酸遊離反応を利用して、溶解初期のpHが3〜4、製剤の溶解終了時のpHが5〜8になるように調整することにより、歯牙再石灰化が促進されることを知見し、本発明をなすに至った。
【0007】なお、有機酸と炭酸塩を配合した固形製剤に関しては、直接口腔内に適用することで優れた清涼感が得られる口腔用組成物(特開平3−279321号公報)、更に吸熱剤を多量に配合することで清涼感を高めた製剤(特開平7−238008号公報)、口臭予防成分を添加した製剤(特開平10−236935号公報)などが知られているが、いずれも再石灰化促進に関する知見を示すものではなく、本発明の組成を満たすものはない。
【0008】以下、本発明につき更に詳述すると、本発明の固体口腔用組成物は、カルシウム含有成分(A)、フッ素含有成分及び/又はリン酸塩(B)、有機酸(C)、炭酸塩及び/又は炭酸水素塩(D)を配合した固体口腔用組成物であり、組成物の溶解初期のpHが3乃至4であり、溶解終了時のpHが5乃至8に上昇することを特徴とする歯牙再石灰化効果のある口腔用組成物である。
【0009】ここで、上記(A)、(B)成分は、再石灰化成分であり、これら再石灰化成分としては、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト((Ca10(PO462)を形成し得る成分であればよいが、カルシウム含有成分としては、塩化カルシウム、臭化カルシウム、硝酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、第2リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、フッ素含有成分としては、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸アンモニウム、モノフルオロリン酸カリウム、モノフルオロリン酸リチウム及びおきあみ、海草類、お茶などのフッ素を含有する天然物やこれらの抽出物等が挙げられ、リン酸塩としては、カルシウム塩を除くリン酸塩、例えばリン酸水素ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0010】本発明によれば、このようにフッ素含有成分とカルシウム含有成分の組合せ、カルシウム含有成分とリン酸塩の組合せ、及び3成分全てを含む組合せで高い再石灰化効果が得られる。これは初期のpHが3乃至4に低下することで再石灰化成分の溶存濃度が高まると共に、歯牙表面に対して酸エッチング効果が働き、再石灰化し易い表面に改質されたためと考えられる。
【0011】この場合、カルシウム含有成分の配合量は、組成物全体の0.005〜10%(質量百分率、以下同じ)、特に0.01〜5%とすることが好ましく、リン酸塩の配合量は、組成物全体の0.005〜10%、特に0.01〜5%とすることが好ましい。
【0012】また、フッ素含有成分を配合した場合には、再石灰化後の耐酸性効果が高まり、より優れたう蝕予防効果が得られるが、フッ素含有成分としては、組成物中の濃度が、フッ素イオンとして1〜10,000ppm、好ましくは10〜2,000ppmで優れた再石灰化効果が得られる。1ppm未満では十分な再石灰化効果は得られず、10,000ppmを超えると斑状歯などのフッ素症を引き起こすおそれがある。
【0013】次に、(C)成分の有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸等のカルボン酸が挙げられ、その配合量は、組成物全体の1〜60%、特に5〜50%とすることが好ましい。(D)成分の炭酸塩、炭酸水素塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、その配合量は、組成物全体の1〜60%、特に5〜50%とすることが好ましい。
【0014】この場合、本発明品を有効に作用させるには、口腔内において溶解速度の差や弱酸遊離の反応から初期のpHが3乃至4であり、溶解終了時のpHが5乃至8になるよう調整することが必要であり、例えば、有機酸と炭酸塩を口腔内で溶解させることで解離定数が一般的に3〜4である有機酸中のカルボキシル基が、唾液水分により解離することでpHは3〜4となり、次いで、炭酸塩との弱酸遊離の反応により、炭酸ガスの発生と共にpHが上昇し、有機酸及び炭酸塩の溶解終了時にpHを5〜8へと上昇させることが可能である。pH8を超えると再石灰化成分であるカルシウムと炭酸が反応し、不溶性の炭酸カルシウムが析出し、再石灰化効果が低下する。
【0015】なお、本発明で規定するpHは、本来、本発明の作用メカニズムからすると唾液で溶解された状況下を示すが、唾液成分や分泌量には個体差があることから、口腔ケア分野の研究で一般的に使用される人工唾液に対して溶解した場合のpHである。ここで、溶解初期のpHとは、本発明品に人工唾液を加えた後、10秒後のpHを示し、溶解終了時のpHとは人工唾液添加5分後のpHを示す。
【0016】本発明の固体口腔用組成物は、上記成分以外に任意成分を配合することができる。例えば、研磨剤として結晶質シリカ、非晶質シリカ、その他のシリカ系研磨剤、アルミノシリケート、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カリウム、酸化チタン、粘結剤としてカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体、カラギーナン、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の合成粘結剤、ゲル化性シリカ、ゲル化性アルミニウムシリカ、ビーガント、ラポナイト等の無機粘結剤、粘稠剤としてソルビット、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチットなどを本発明の効果を妨げない範囲で添加することができる。
【0017】また、界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル・ナトリウム、アルキルリン酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド類、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルジメチルアミンオキシドなどの非イオン性界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸べタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン型両性界面活性剤、N−脂肪酸アシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン塩などのイミダゾリン型両性界面活性剤、N−脂肪酸アシル−L−アルギネート塩等のアミノ酸型界面活性剤を本発明の効果を妨げない範囲で添加することができる。
【0018】更に、例えば、メントール、カルボン、アネトール、メチルサリシレート、リモネン等の香料、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル、ショ糖、果糖、サクラミン酸ナトリウム等の甘味料、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の殺菌剤、トリクロサン等の非カチオン性殺菌剤、カチオン化セルロース、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリドなどの水溶性高分子、イプシロンアミノカプロン酸、トラネキサム酸、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素、リテックエンザイム等の酵素、クロロヘキシジン塩類、グルコン酸銅、ヒドロコレステロール、グリチルリチン塩類、グリチルレチン酸、クロロフィル、カロペプタイド、ビタミン類、アズレン、塩化リゾチーム、歯石防止剤、歯垢防止剤、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム等を添加することができる。なお、これらの任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0019】本発明の固体口腔用組成物の形態は、特に制限されるものではなく、粉剤、錠剤、丸剤、顆粒剤等が挙げられるが、溶解性が早い粉状、顆粒状が特に好ましい。また、製剤中において発泡成分として用いる炭酸塩と有機酸が接触すると還元反応により水と二酸化炭素が生成され安定性に問題が生じる可能性があることから、炭酸塩と有機酸を分離した包装や錠剤化、直接の接触を抑える表面のコーティング、更に反応の媒体となる水分を排除するための乾燥状態の維持を図った製剤形態とすることが望まれる。
【0020】本発明の固体口腔用組成物は、直接口腔内に投与し、唾液に溶解させて使用することができる。
【0021】
【発明の効果】本発明の固体口腔用組成物によれば、優れた再石灰化効果が得られる。
【0022】
【実施例】以下、実験例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は質量百分率を示す。
【0023】[実験例]
[再石灰化効果]
(1)250mgのハイドロキシアパタイトパウダーに表1に示すサンプル5gを加え、45mlの0.5%塩化カリウムを加えた。
(2)37℃恒温水槽中で60分間撹拌し、溶液中のCa濃度を原子吸光光度法により測定し、液中のCa濃度(360ppm)からの減少量を再石灰化によるCaの消費量とした。
[pH測定]表1に示すサンプル1gに人工唾液(50mM塩化カリウム、1mMリン酸二水素一カリウム、1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム、pH7)10mlを加え、10秒後のpHを溶解初期のpH、5分後のpHを溶解又は反応終了のpHとした。
【0024】
【表1】


【0025】表1の結果より、本発明に係る実施列1〜4の本発明品はCaの減少量が大きく、即ち、再石灰化効果に優れた歯牙再石灰化効果があることが認められる。
【0026】以下、本発明の口腔用組成物の処方例として、実施例7〜11を調製した。これらいずれの実施例においても、そのpHは本発明で規定する範囲内であった。
【0027】


全量1gをポリエチレンラミネートアルミ箔袋に収容した粉末タイプの洗口剤を調製した。
【0028】


粉末からなる(a)、(b)組成(全量1g)を仕切が設けられたポリエチレンラミネートアルミ箔袋に別個に収容した粉末タイプの洗口剤を調製した。
【0029】


(a)、(b)を個別に顆粒造粒し、全量1.5gをポリエチレンラミネートアルミ箔袋に収容した顆粒の洗口剤を調製した。
【0030】


表面コートクエン酸はクエン酸に20%(対有機酸)のポリエチレングリコールをヘンシェルミキサーで撹拌吸着させたもの。上記組成1gを混合し、打錠機により直径15mmの錠剤型の洗口剤を調製した。
【0031】


表面コートクエン酸はクエン酸に20%(対有機酸)のポリエチレングリコールをヘンシェルミキサーで撹拌吸着させたもの。上記組成1gを混合し、打錠機により直径15mm錠剤型の歯磨剤を調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カルシウム含有成分(A)、フッ素含有成分及び/又はリン酸塩(B)、有機酸(C)、炭酸塩及び/又は炭酸水素塩(D)を配合した固体口腔用組成物であり、組成物の溶解初期のpHが3乃至4であり、溶解終了時のpHが5乃至8に上昇することを特徴とする歯牙再石灰化効果のある口腔用組成物。
【請求項2】 固体口腔用組成物が粉状又は顆粒状である請求項1記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2002−167318(P2002−167318A)
【公開日】平成14年6月11日(2002.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−364031(P2000−364031)
【出願日】平成12年11月30日(2000.11.30)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】