説明

固体支持体からの金属補助切断を介する固相技法によるM(CO)3錯体の製造

本発明は、水溶性金属錯体化物質の生成方法に関する。その方法は、式Iで表される固相結合有機コンジュゲートを、[M(HO)(CO)n+と、[M(HO)(CO)n+と固相結合有機コンジュゲートの三級アミンの窒素原子との間に配位結合を形成させ、それによりかくして形成された金属錯体化物質を支持体から放出させるのに適する条件下で、接触させることを含む。本発明はさらに、式Iのコンジュゲートおよび本方法を実施するためのキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、放射性医薬の分野に関する。特に、本発明は、固体支持体からの金属補助切断を介する、金属錯体化物質(metal complexed agent)の製造方法に関する。
【0002】
さらなる態様では、本発明は、リガンドおよび生体分子の新しい固相結合コンジュゲート(conjugate)類に関する。
【0003】
なおさらなる態様では、本発明は、新しい金属錯体化配位子−生体分子コンジュゲート類、これらの新しい錯体を含む組成物およびそれらの使用に関する。
【0004】
またさらなる態様では、本発明は、診断または治療的医薬組成物の調製用のキットに関する。
【0005】
放射線標識されたペプチド類などの生体活性(bioactive)分子を臨床上の日常的診断または治療において適用するためには、対応するインビボの受容体の飽和または「コールド」の非標識化合物からの毒性の副作用を避けるために、標識された化合物のみを注射することが非常に望ましい。さらに、該受容体への大量の非標識生体分子の結合は、鮮明な像(シンチグラム)を得る可能性を損ね、従って、しばしば明確な診断を不能にする。
【0006】
当技術の事情によると、通常の均一な標識手法における高い比活性は、定量的な標識化をまだもたらす、可能な限り少ない量(濃度)の誘導体化された生体分子(または生体分子に結合した99mTcの配位子)を使用することによってのみ、達成できる。配位子および錯体前駆物質に応じて、これらの量はしばしば比較的高くなくてはならない。なぜなら、低濃度では、錯体化の速度は二次的動力学(second order kinetic)に支配され、従って、標識化が遅すぎて配位子または99mTc前駆物質の分解を伴うからである。下限濃度は、日常的使用にはしばしば不便である。なぜなら、そのような濃度では、わずかな条件(温度、時間)の変化でも、定量的標識化の獲得に至らないからである。対応して、副産物および分解産物並びに出発物質が依然として最終的溶液に存在する。
【0007】
「ホット」の化合物から「コールド」を物理的に分離する便利なやり方は、配位子−生体分子コンジュゲートを固相物質に付着させ、錯体形成と同時にそこから切断することによる。そのような固相からの金属補助切断の例はまれである。
【0008】
アメリカの特許US−5,789,555(Pollak et al.)は、テクネチウム−99m、レニウム−186またはレニウム−188によるペプチドの標識方法を記載している。その方法は、マレイミドリンカーによるチオエーテル結合を利用して、ペプチドを固体支持体に共有結合させる工程を含む。過テクネチウム酸塩を支持体に導入することにより、99mTc(=O)−ペプチド錯体が形成される。錯体形成の際に、99mTc(=O)が、C−S結合を破壊し、かくして支持体から99mTc(=O)−ペプチド錯体を放出させることにより、ペプチドの支持体からの切断を触媒する。
【0009】
保護チオール類がTc=O中心への配位により保護基を放出することが、文献から知られている。これらの知見に基づき、Pollak et. al. (J. Am. Chem. Soc. 121, 11593-11594 (1999) は、チオエーテル結合を介して四座キレーターを金表面に結合させた。この配位子へのTc(V)の配位の際に、Tcに配位した硫黄としてのS−Au結合を破壊することにより、99mTc−錯体が選択的に溶液に放出される。
【0010】
より最近になって、Dunn-Dufault, et. al. (Nucl. Med. Biol. 27, 803-807 (2000)) は、キレーターを有機重合性支持体に共有結合させることによる、この方法の変法を記載した。
【0011】
TcおよびRe標識有機錯体を製造するための上記の各方法は、全てC−SまたはAu−S結合の切断に依存している。このC−SおよびAu−S結合は、それにより配位子が固体支持体に共有結合しているものであるが、酸化に敏感である。従って、C−S結合を介して共有結合した配位子を含む固体支持体を、還元条件下で保存することが必要である。これは、長期保存について特に該当する。還元条件下での保存の必要性は、保存のためにさらなる措置をとることを要する。さらに、支持体が医薬適用に適する化合物の生成に使用されるものである場合、還元剤の存在は、医薬的安全性の立場から非常に望ましくない。従って、そのような適用のための既知の固体結合配位子の使用には、一定の制約がある。
【0012】
加えて、これらの金属酸化物種の使用は、それと共に利用可能な配位子に制限を伴い、即ち、四座である。故に、99mTcV(=O)中心と共に使用するためのペプチド配位子の先行技術における唯一の開示となっている。
【0013】
従って、医薬的に許容し得る条件下で先行技術のコンジュゲートよりも安定な固相結合生体分子−配位子コンジュゲートを用いる、固体支持体からの金属補助切断を介する固相技法による、金属標識錯体の新しい製造方法に対する要望がある。
【0014】
加えて、金属補助切断を介する固相技法を利用する金属錯体化配位子−生体分子コンジュゲートの形成に使用できる配位子をより多く利用できることは、この技法のより柔軟な使用をもたらすので、有利である。本発明の目的は、標識された診断および治療化合物の製造の改良技法を提供することである。
【0015】
本発明に至る研究において、金属に配位でき、三級アミン基を介して固体支持体に結合するいくつかの有機分子(配位子)が、[Tc(HO)(CO)の存在下で、[Tc(CO)−配位子]−錯体の形成の際に固体支持体から離れることが判明した。選択的、加水分解的なC−N結合の切断は、錯体形成中に形成される低価のカルボニル[Tc(HO)(CO)中心に明らかに媒介されており、[Tc(HO)(CO)が存在しない同じ反応条件では起こらない。固体支持体からの放出後、以前の三級アミンは配位した二級アミンとして存在する。
【0016】
この[Tc(CO)−配位子]−錯体のメカニズムは、以下の通りに提唱されている。固体に結合したキレーター(いわゆる配位子)の三級アミノ基が、[M(HO)(CO)n+の陽イオン性金属中心に配位しながら、部分的に陽性になり、それ故に隣接する炭素原子が求核攻撃について活性化される。残っているヒドロキシ基がキレーターのメチレン基を攻撃し、C−N結合の切断を誘導する(図2)。キレーターの第三のドナー部位が金属中心に配位し、この生成物の錯体が溶液に放出される。錯体化しなかったキレーターおよび切断されなかった錯体は、固相に結合したままである。
【0017】
上記のように[99mTc(HO)(CO)による固体支持体からの配位子の加水分解的切断によって得られた標識化合物が、非常に高い比活性を有することが判明した。即ち、錯体化していない配位子が溶液中にほとんどない。溶液中の錯体化していない配位子の量は、10−7Mの桁であった。従って、この特異的切断反応は、テクネチウムおよび類似の化学反応性を有する他の金属のいわゆる「担体無添加」(n.c.a.)錯体の製造に魅力的に活用され得る。
【0018】
従って、本発明は、金属錯体化物質の新しい生成方法に関する。その方法は、(I)式により表される固相結合有機コンジュゲート
【化1】

[式中、球は固相であり;
Cは、1個または2個の基R4およびR5(これらは、特に脂肪族または芳香族性置換基、またはRO、RSもしくはRNであり得る(ここで、Rは脂肪族またはアリールの基である))により置換されていてもよいメチレン基であり、
Lは、存在してもしなくてもよい、固体支持体に結合しているリンカーであり、C基への求核攻撃に対する活性化特性を有し、好ましくはフェニル、アルキル、アリルまたはアリールである;そして、
R1およびR2は、同じであるかまたは異なり、金属配位基または配位していない有機の基であり、
この固相結合有機コンジュゲートは、R1およびR2の一方または両方で生物学的に活性な分子により誘導体化されていることもある]
を、
(II)[M(HO)(CO)n+
[式中、Mは、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)および銅(Cu)からなる群から選択され、nは、金属に応じて1、2または3である]
と、[M(HO)(CO)n+と固相結合有機コンジュゲートの三級アミンの窒素原子との間に配位結合を形成させ、それによりかくして形成された金属錯体化物質を支持体から放出させるのに適する条件下で、接触させることを含む。
【0019】
リンカーは、存在してもしなくてもよい。それは、入手可能な固体支持体に既に存在してもよく、あるいは後で導入されてもよい。存在する場合、それは、好ましくはCでの求核攻撃用の良好な活性化基(activating group)であり、フェニル、ビニル、アリールおよび他の非脂肪族または脂肪族の基からなる群から選択される。フェニル、ビニル、アリール、他の非脂肪族または脂肪族の基は、置換されていてもよく、そうであるならば、好ましくは、OR、R、NR(ここで、Rは、脂肪族またはアリールの基である)から選択される電子吸引基により置換されている。
【0020】
好ましい実施態様では、リンカーは、式IIに示す通りである:
【化2】

式中、X1は、CまたはOであり、X2は、電子吸引性の置換基、好ましくは−OCH基である。
【0021】
R1およびR2またはR1およびR2の一方が、配位していない有機の基である場合、それらは、アルキル、フェニルもしくはベンジルまたはそれらの誘導体から選択され得る。
【0022】
好ましくは、R1および/またはR2は、以下からなる群から選択される;
【化3】

式中、R3は、直接的に三級アミンであるか、または1個ないし3個の炭素を含有する脂肪族鎖である。
【0023】
金属Mは、いかなる金属でもよく、好ましくは、Tc、Re、Ru、Rh、Ir、CuおよびPtからなる群から選択される。金属は、最も好ましくは、99mTc、186Reまたは188Reである。
【0024】
好ましくは、金属は、例えば、高エネルギー粒子の透過または常磁性特性により、または放射性核種として、造影剤としての使用に適するものである。
【0025】
[M(HO)(CO)n+は、当分野で知られている任意の適する手段により生成できる。[M(HO)(CO)n+の生成に適する手段は、例えば、Alberto et al. (J. Am. Chem. Soc. 123, 3135-3136 (2001)) またはWO98/48848(Alberto et al.)に開示された過金属酸塩形態からのものである。
【0026】
固体支持体のない式Iに示される分子は、本明細書において配位子と呼ばれる。配位子は、特に、R1およびR2が
【化4】

からなる群から選択される場合、三座配位子であり得るが、R1およびR2または両者の一方が脂肪族または芳香族性の配位していない基である場合、二座キレーターでもあり得る。
【0027】
本発明に従って[M(H2O)3(CO)n+と組み合わせて使用される配位子は、多様な三座配位子であり得る。その主要な要件は、配位子の中心部としての三級アミン基の存在であり、それが固体支持体と結合し錯体形成の際に切断されるC−N結合を形成する。好ましくは、使用される配位子は、ドナーとして、脂肪族または芳香族性アミン類、またはカルボン酸塩およびそれらの組合せをベースとするものである。配位子は、R1およびR2、しかし両方ではない、が、配位していない脂肪族または芳香族性の基である場合、二座キレーターでもあり得る。これは、実施例10に示されている。
【0028】
特に、ジエチレントリアミン、ピコリルアミン−N−酢酸、N−(2−アミノエチル)−グリシンまたはイミド−二酢酸は、本発明の配位子として使用できる。
【0029】
配位子を、例えば Ngu および Patel (Tet. Lett. 38, 973 - 976 (1997)) により記載された方法により、最初にハロゲン化樹脂を形成させることで、固体支持体に共有結合させることができる。このハロゲン化樹脂を、続いて、保護配位子と反応させることができる。脱保護後、配位子結合樹脂が得られる。配位子がこの方法により固相に付着している場合、それを固体支持体に付着させている共有結合は、C−N結合である。配位子は、アミノ樹脂から出発して、例えば実施例5、6、8および9に記載の還元的アミノ化および/またはハロゲン化アルキルを用いるアルキル化により、固体支持体上で合成することもできる。充填樹脂の製造は、実施例1−9でより詳細に論じる。
【0030】
本明細書において、配位子の用語は、金属と配位結合を形成して安定な金属−配位子錯体を形成する能力のある、少なくとも1つの金属配位原子を含む化合物を表す。1つより多い金属配位原子を含む配位子は、キレーターまたは多座配位子と表されることもある。二座配位子は、2個の金属配位原子を有する配位子であり、三座配位子は、3個の金属配位原子を有する配位子であり、四座配位子は、4個の金属配位原子を有する配位子である。
【0031】
配位子に結合し得る生物学的に活性な分子(本明細書では「生体分子」とも呼ばれる)は、診断または治療において活性ないかなる分子であってもよい。この分子は、固体支持体に連結している窒素以外のいかなる位置で結合してもよい。それは、診断または処置される必要がある部位へ放射性産物を導く標的化分子であってもよく、あるいは、それは放射性標識から独立した治療活性を有していてもよい。生物学的に活性な分子は、アミノ酸;ステロイド;タンパク質、特に構造タンパク質、酵素または抗体;炭水化物;多糖類およびオリゴ糖類;ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド;脂質、ペプチドおよび中枢神経系受容体結合化合物などの医薬的に活性な低分子からなる群から選択され得る。
【0032】
生体分子は、当分野で既知の任意の適する手段で、例えば、配位子の一級アミン基へのアルデヒドの還元的アミノ化により、またはアリール系に結合部位を導入することにより、配位子に連結させることができる。生体分子は、配位子の固体支持体への結合の前または後に、配位子に連結させることができる。
【0033】
固体支持体の選択が、本発明の方法の効率をさらに改良し得ることが判明した。固体支持体は、水中で膨張できなくてはならず、反応条件下で安定でなければならず、そして金属配位性単位を含有してはならない。このことは、固体支持体がポリエチレングリコール樹脂、またはポリエチレングリコールとポリスチレンの混成物、例えばベンジルアルコール固着基(anchoring group)を有するポリエチレングリコールスペーサーを有するポリスチレン樹脂である場合に特に該当する。
【0034】
本発明の方法は、さらなる使用のために金属錯体化物質(即ち、放射性医薬)を回収する工程をさらに含んでもよい。
n.c.a.99mTc放射性医薬の製造後、固相ポリマーを回収し、洗浄し、再使用できる。
【0035】
好ましくは、本方法は、約6.0−11.0の範囲、好ましくは約7.5−9.5の範囲のpHで実施する。
反応の実施に適する温度は、約40−100℃の範囲内である。好ましくは、反応は、約70−82℃の範囲内で実施する。
【0036】
そのさらなる態様によると、本発明は、式Iの固相結合配位子−生体分子コンジュゲート、およびそのような化合物を含む組成物に関する。好ましくは、これらの組成物は医薬的に許容し得る条件で長期間保存できる形態にある。
【0037】
本発明による方法を用いて、金属錯体化配位子-生体分子コンジュゲートを、高い比活性で、濾過により、さらなる標識後精製をせずに得ることができる。
【0038】
そのさらなる態様によると、本発明は、本発明による方法で得ることができる金属錯体化配位子−生体分子コンジュゲートに関する。通常、そのコンジュゲートは、本発明の方法の結果である、錯体化していない配位子−生体分子コンジュゲートを本質的に含まない(例えば、それらを含有する組成物中の錯体化していない配位子−生体分子コンジュゲートのレベルが10−7Mの範囲である)ことを特徴とする、組成物に含まれる。そのような特徴を有する組成物は、本発明のさらなる態様である。
【0039】
放射性医薬で使用されるいくつかの同位元素、例えば99mTc、の半減期が短いために、配位子−生体分子コンジュゲートを使用直前に標識化することは、錯体化コンジュゲートの比活性のために重要であり得る。標識したての組成物中の崩壊した錯体の量は、使用前に十分な期間をおいてコンジュゲートを錯体化する状況と比較して低いであろう。
【0040】
従って、なおさらなる態様では、本発明は、式(I)の分子を有するコンテナを含む診断または治療用医薬組成物を調製するためのキットに関し、その中で[M(HO)(CO)n+の溶液との反応を行う。そのコンテナは、容器またはカラムであり得る。[M(HO)(CO)n+の溶液をその容器またはカラムに導入して反応を開始させる。その溶液は、キットの一部であってもよく、あるいは他の手段により提供されてもよい。別の実施態様では、金属カルボニル[M(HO)(CO)n+調整用の試薬がキットに含まれる。加えて、キットは、濾過設備を含み得る。
【0041】
適する金属の選択を錯体化反応の直前に行うことができるので、キットの使用は、形成させられる金属錯体にさらに柔軟性をもたらす。
【0042】
本発明による担体無添加(n.c.a.)金属錯体化化合物調製の原理を、図1で説明する。三座配位子(例えば、ジエチレントリアミン)を、リンカー(ここではベンジル誘導体)を介して、三級アミンを介して固相に結合させる。キレーター(配位子)に生体分子を結合させ、かくして配位子−生体分子コンジュゲートを形成させる。[Tc(HO)(CO)を導入すると、錯体形成が起こり、三座配位子が2個の水の配位子を置換する。[Tc(HO)(OH)(CO)上に残っているヒドロキシ配位子は、この時、活性化メチレン基を攻撃してC−N結合の切断を誘導できる。メチレン基の活性化は、三級アミノ基のテクネチウム中心への錯体化により起こり、それはキレーターから電子密度を吸引し、それを求核攻撃可能にする。
【0043】
固相結合した生体分子−配位子コンジュゲートの三級アミン原子に対する反応性を有する主な種は、[M(OH)(HO)(CO)]である。溶液中で、[M(OH)(HO)(CO)]は、溶液のpHに依存して、[M(HO)(CO)n+の形態にあるコンジュゲートおよびさらに解離した形態と平衡状態にある。pHに依存して、[M(OH)(HO)(CO)]は、平衡のためにこれらの種と少なくとも部分的に交換可能であることが理解される。
【0044】
以下の非限定的実施例を用いて本発明をさらに説明する。実施例では、以下の図を参照する:
図1:本発明による担体無添加(n.c.a.)金属錯体化化合物の調製の原理。
図2:錯体形成のメカニズム。
図3:切断反応のpH依存性。
図4:切断収率の温度依存性。
図5:実施例1、2、3、4および10の反応スキーム。
図6:実施例5、6、7、8および9の反応スキーム。
図7:実施例11、12および13の反応スキーム。
図8:実施例14および表1の化合物の構造式。
図9:生物学的に活性な分子を有する化合物の構造式。
【実施例】
【0045】
実施例1
モデル配位子を適切な固相樹脂に共有結合させた。固相樹脂は、水中で膨張してTc種の拡散を可能にしなければならず、配位子が結合している固着基は、求核攻撃のための活性化基でなければならない。ポリスチレン/ポリエチレングリコール樹脂 TentaGel S AC(Rapp Polymere GmbH, Tuebingen, Germany)は、これらの要請を満たす。その活性部位であるベンジルアルコール誘導体は、対応する臭化物1に変換された(Ngu and Patel, Tet. Lett. 38, 973 - 976 (1997))。
【0046】
N,N''−ビス(1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)エチル)ジエチレントリアミン(2)(101.8mg、235.9μmol)を、DMF(5ml)に溶解し、樹脂1(196.6mg、47.2mol)を添加し、混合物を室温で22時間穏やかに撹拌した。反応混合物を濾過し、樹脂を、DMF(3回)、DMFおよびメタノール(交互に3回)およびDMF(5回)で洗浄した。ヒドラジン水和物の2%DMF溶液(1ml)で5分間、10回樹脂を洗浄することにより、保護基を除去した。反応混合物を濾過し、樹脂をDMF(3回)、DMFおよびメタノール(交互に5回)、DMF(3回)並びにジエチルエーテル(3回)で洗浄した。樹脂を高真空で乾燥させ、生成物3を192.3mg(97.8%;収容量(capacity)0.236mmol/g、結合効率100%)の収量で得た。
【0047】
固相樹脂上の遊離アミノ基を、色素試験により可視化した:アルカリ性樹脂用にブロモフェノールブルー水溶液、および専ら一級アミン用にDMF/ジイソプロピルエチルアミン10:1中のトリニトロトルエンスルホン酸(TNBS)。樹脂3は、両試験で陽性であり、一方保護された中間体は、TNBS染色で陰性であった。樹脂の収容量(結合したキレーターのmmol/グラム)およびキレーターの固体支持体への結合効率を、元素分析により測定した樹脂のN含量から算出した。
【0048】
樹脂3のキレート化収容量を、それを1mM[99Tc(HO)(CO)溶液(7当量)中、室温で撹拌することにより確認した。β液体シンチレーション計測による濾液の分析は、14%の活性の減少を示し、これは、樹脂上の定量的錯体形成と合致した。HPLC分析は、出発物質のピークのみを示した。このことは、これらの穏やかな条件下では、固相からの切断は起こらないことを示している。一度形成された99Tc−錯体は、標識に使用される条件下で安定であることが分かった。80℃、5時間、リン酸緩衝液pH7.5中での長い加熱でさえ、溶液に3%のベータ−活性を与えたにすぎず、これは予想より少なくとも1桁低かった。
【0049】
実施例2
非荷電錯体をもたらす他の三座配位子を、実施例1と同じ樹脂に付着させた。N−ピコリルアミン酢酸エチルエステル(54mg、280μmol)をDMF(3ml)に溶解し、樹脂1(280mg、67μmol)を添加した。混合物を室温で15時間穏やかに撹拌し、反応混合物を濾過し、樹脂をDMF(3回)、DMFおよびメタノール(交互に3回)およびジエチルエーテル(3回)で洗浄した。保護中間体は、ブロモフェノールブルーで陽性であり、TNBS染色で陰性であった。水(5ml)と1M水酸化ナトリウム(0.30ml)の混合物中で28時間穏やかに樹脂を撹拌することにより、保護基を除去した。樹脂を濾過し、DMF(3回)、DMFおよびメタノール(交互に3回)、DMF(3回)、並びにジエチルエーテル(3回)で洗浄し、高真空で乾燥させ、生成物4を268mgの収量(96%;収容量0.209mmol/g、結合効率87.1%)で得た。樹脂4は、全染色反応で陰性であった。
【0050】
実施例3
負荷電錯体をもたらす他の三座配位子を、実施例1と同じ樹脂に付着させた。ジメチルイミノジアセテート塩酸塩(6.4mg、33μmol)およびジイソプロピルエチルアミン(11.2μl、66μmol)をDMF(0.5ml)に溶解し、樹脂1(280mg、67μmol)を添加した。混合物を室温で24時間穏やかに撹拌し、反応混合物を濾過し、樹脂をDMF(3回)、DMFおよびメタノール(交互に3回)、メタノールおよび水(交互に3回)で洗浄した。保護中間体は、ブロモフェノールブルー試験で陽性であり、TNBS染色で陰性であった。樹脂を水性NaOHですすいで(0.1Mで3時間、次いで0.01Mで12時間)保護基を除去した。樹脂を濾過し、0.1M NaOH(2回)、水(5回)、水およびメタノール(交互に3回)、メタノール(3回)並びにジエチルエーテル(3回)で洗浄し、高真空で乾燥させ、生成物5を35mg(100%;収容量4mmol/g、結合効率18%)の収量で得た。樹脂5は、全染色反応で陰性であった。
【0051】
実施例4
非荷電錯体をもたらす他の三座配位子を、実施例1と同じ樹脂に付着させた。N−tert−ブチルオキシカルボニル)−5−アミノ−3−アザペンタン酸エチルエステル(74mg、280μmol)をDMF(3ml)に溶解し、樹脂1(300mg、72μmol)を添加した。混合物を室温で15時間穏やかに撹拌し、反応混合物を濾過し、樹脂をDMF(3回)、DMFおよびメタノール(交互に3回)およびジエチルエーテル(3回)で洗浄した。保護中間体は、ブロモフェノールブルーで陽性であり、TNBS染色で陰性であった。樹脂を水(5ml)および1M水酸化ナトリウム(1.40ml)の混合物中で28時間穏やかに撹拌することにより、エチルエステル基を除去した。樹脂を濾過し、DMF(3回)、DMFおよびメタノール(交互に3回)、DMF(3回)並びにジエチルエーテル(3回)で洗浄し、高真空で乾燥させ、Boc保護酸を得た。TFAおよびDCM(1:1)の混合物中で5分間樹脂を撹拌し、濾過し、樹脂をTFAおよびDCM(1:1)の混合物中で再度、今度は10分間撹拌することにより、Boc基を除去した。上記の通りに洗浄し、生成物6を72mg(96%、収容量22mmol/g、結合効率94%)の収量で得た。樹脂6は、TNBS染色で陽性であった。
【0052】
実施例5
NovaSyn TG 樹脂は、脂肪族アミノ固着基を有する。この実施例には、キレーターのピコリルアミン酢酸の固体支持体上での合成を記載する。
NovaSyn TG 樹脂(100mg、30μmol)およびピリジン−2−カルボアルデヒド(14.3μl、150μmol)をメタノール(3ml)中、室温で20時間撹拌した。反応混合物を濾過し、樹脂をDMF(3回)、並びにDMFおよびメタノール(交互に3回)で洗浄した。DMF(2ml)中のナトリウムトリアセトキシ−ボロヒドリド(31.8mg、150μmol)を、樹脂に添加した。室温で5時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、樹脂をDMF(4回)およびメタノール(3回)で洗浄した。NaHCO(水中10%)を樹脂に添加した。3時間後、樹脂をDMF(3回)、水(3回)、エタノール(3回)、およびジエチルエーテル(3回)で洗浄し、乾燥させ、アミノピリジン中間体を得た。それはブロモフェノールブルーで陽性であり、TNBS染色でわずかに陽性であった。
【0053】
エタノール(2.5ml)中のブロモ酢酸エチルエステル(16.6μl、150μmol)およびジイソプロピルエチルアミン(5.1μl、30μmol)の混合物を樹脂に添加した。室温で24時間撹拌した後、反応混合物を濾過し、樹脂をエタノール(5回)で洗浄し、乾燥させた。NaOH(1M)を樹脂に添加し、エチルエステル保護基を除去した。室温で一日撹拌した後、反応混合物を濾過し、樹脂を水(5回)、エタノール(3回)およびジエチルエーテル(2回)で洗浄し、乾燥させ、8を86.4mg(83.7%;収容量0.10mmol/g、結合効率43%)の収量で得た。
【0054】
実施例6
NovaSyn TG 樹脂(100mg、30μmol)、エチルブロモアセテート(33.2μl、300μmol)およびジイソプロピルエチルアミン(12.9μl、75μmol)を実施例5の2番目の部分に記載した通りに反応させ、9を96.2mg(93%)の収量で得た。
【0055】
実施例7
NovaSyn TGT 樹脂は、ヒドロキシトリチル固着基を有する。そのヒドロキシ基を、記載された通りに(J.M.J Frechert et al., Tetrahedron Lett. 1975, 3055)、塩化物に変換した。
【0056】
ジメチルイミノジアセテート塩酸塩(16.2mg、82μmol)およびジイソプロピルエチルアミン(21μl、123μmol)を、DMF(2ml)に溶解した。塩素化した Novasyn TGT 樹脂(41μmol)を添加した。実施例3に記載の通りに、但し、ジイソプロピルエチルアミン(14μl、82μmol)を3時間の反応時間の後に添加して、カップリング反応並びにエステル加水分解を行った。生成物10を、132mg(81%;収容量0.015mmol/g、結合効率6%)の収量で得た。
【0057】
実施例8
NovaSyn TGR 樹脂は、メチレン基上に2個のアリール置換基を有するアミノメチル固着基を有する。樹脂11を、実施例5に記載の8の合成と同様に製造した。
NovaSyn TGR 樹脂(166mg、30μmol)を、実施例5と同量の試薬と反応させ、11を153mg(90%;収容量0.08mmol/g、結合効率44%)の収量で得た。
【0058】
実施例9
樹脂12を、実施例6に記載の9の合成と同様に製造した。
NovaSyn TGR 樹脂(166mg、30μmol)を、実施例6と同量の試薬と反応させ、12を142.2mg(84%)の収量で得た。
【0059】
実施例10
この実施例では、二座キレーターを、Tentagel S AC ブロミド1に結合させる。
N,N'−ジメチルエチレンジアミン(110μl、1040μmol)をDMF(1ml)に溶解し、樹脂1(108.6mg、26μmol)を添加し、混合物を室温で24時間穏やかに撹拌した。反応混合物を濾過し、樹脂をDMF(3回)、DMFおよびメタノール(交互に3回)、水(3回)、DMFおよびイソプロパノール(交互に3回)、水(3回)、イソプロパノール(3回)、並びにジエチルエーテル(3回)で洗浄した。樹脂を高真空で乾燥させ、生成物13を101.6mg(98.1%;収容量0.24mmol/g、結合効率100%)の収量で得た。樹脂13は、ブロモフェノールブルーで陽性であり、TNBS染色で陰性であった。
【0060】
実施例11
この実施例には、二本鎖DNAに入り込む生体活性錯体をもたらすコンジュゲートの合成を記載する。生体活性単位であるピレン誘導体を、固体支持体上のキレート化単位に付着させる。
【0061】
N−Boc−N''−Dde保護ジエチレントリアミンを、3の製造で記載した通りに1に結合させる。二保護(bisprotected)中間体は、ブロモフェノールブルーで陽性であり、TNBS染色で陰性であった。樹脂をヒドラジン水和物(1.5ml、DMF中2%)中で5回、10分間撹拌し、続いて濾過することにより、Dde保護基を除去した。TNBSでの陽性染色により、Dde保護基の除去を確認した。還元的アミノ化によりピレン基を導入した。1−ピレンアルデヒド(28.5mg、120μmol)およびメタノール(4ml)を一脱保護(mono-deprotected)樹脂(103mg、24μmol)に添加し、混合物を室温で20時間撹拌した。濾過およびDMFによる洗浄の後、DMF(5ml)中のナトリウムトリアセトキシボロヒドリド(25mg、120μmol)を添加し、混合物を24時間室温で撹拌した。DMFおよびメタノール(上記の通り)で洗浄し、Boc−保護樹脂結合ピレンジエチレントリアミン誘導体を得、それはブロモフェノールブルーで陽性であり、TNBS染色で陰性であった。最後に、樹脂をトリフルオロ酢酸(CHCl中50%)中で5分間撹拌し、続いて濾過し、トリフルオロ酢酸(CHCl中50%)で10分間もう一度処理することにより、Boc保護基を除去した。洗浄(上記の通り)し、生成物7(収容量0.18mmol/g、結合効率82%)を得た。樹脂7は、ブロモフェノールブルーおよびTNBS染色で陽性であった。
【0062】
実施例12
この実施例では、ビオチン(ビタミンH)をキレート化単位に付着させる。実施例11と対照的に、キレーター/生体分子−コンジュゲートを、固体支持体への結合に先立ち合成する。
【0063】
トリエチレンテトラミン(0.150ml、1.00mmol)をTHF(30ml)に溶解し、その溶液を−78℃に冷却した。エチルトリフルオロアセテート(0.109ml、1.00mmol)のTHF溶液(5ml)を30分以内に−78℃で添加し、溶液をその温度で4時間撹拌した。次いでそれを0℃に温めた。
【0064】
その間に、DMF(8ml)中の(+)−ビオチン(244mg、1.00mmol)を80℃に加熱し、無色の溶液を得た。N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド(216mg、1.05mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(121mg、1.05mmol)を熱い溶液に添加した。混合物をゆっくりと室温に放冷した。白色粉末が沈殿した。撹拌を4時間継続した。
【0065】
2つの混合物を0℃で混合し、30分間撹拌して白色ゲルを得た。THFを蒸発させ、白色懸濁液を得た。室温で18時間撹拌した後、溶媒を真空で除去し、残渣に水を添加した。pHを3−4に合わせた。混合物を濾過し、抽出物を中性化し、水を真空で除去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカ、ジクロロメタン/メタノール/トリエチルアミン5:1:0.1)により精製し、N−ビオチニル−N'''−トリフルオロアセチル−トリエチルテトラミンを60.5mg(0.129mmol、12.9%)の収量で得た。その構造を、質量分析およびNMRで確認した。
【0066】
N−ビオチニル−N'''−トリフルオロアセチル−トリエチルテトラミン(40.3mg、86μmol)、トリエチルアミン(1.8μl、17μmol)および樹脂1(71.7mg、17μmol)を、実施例1に記載の通りに反応させた。TFA−樹脂を高真空で乾燥させ、生成物14を67mg(85%、収容量3mmol/g、結合効率13%)の収量で得た。樹脂14は、ブロモフェノールブルーで陽性であり、TNBS染色で陰性であった。炭酸ナトリウム(水中10%)を用いてTFA保護基を除去する試みは、TNBS染色の陰性の結果によると、失敗した。
【0067】
実施例13
この実施例には、標識化ペプチド誘導体の製造方法を記載する。カルボキシル末端の基で保護されているジペプチドを、部分的に保護されているポリアミンに結合させた。全ての保護基を除去し、Dde保護を導入して、ペプチドおよびキレーターの一級アミノ基を選択的に妨害した。このことは、キレーターの保護されていない二級アミノ基の1つからの三級アミノ基の形成を介して、コンジュゲートを固体支持体に選択的に結合させることを可能にした。
【0068】
N,N',N''−トリ(tert−ブチルオキシカルボニル)トリエチレンテトラミン(103.3mg、234.5μmol)、Boc−Phe−Gly−OH(75.6mg、234.5μmol)、PyBOP(183mg、352μmol)およびジイソプロピルエチルアミン(20μl、117μmol)をジクロロメタン(2.5ml)に溶解した。溶液を室温で4時間撹拌した。定期的にジイソプロピルエチルアミン(20μl、117μmol)を添加し、pH>7を維持した。溶媒を真空で除去し、残渣を酢酸エチルに溶解し、塩水(3回)、冷0.5M HCl(3回)、10%NaHCO(2回)、および塩水(3回)で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥させ、溶媒を真空で除去し、N−(tertブチルオキシカルボニル−フェニルアラニル−グリシル)−N',N'',N'''−トリ(tertブチルオキシカルボニル)−トリエチレンテトラミンを、175.2mg(231.6μmol、98.8%)の収量で得た。構造を質量分析およびNMRで確認した。
【0069】
生成物(162.2mg、0.169mmol)を酢酸エチル中のHCl(ca.1M、3ml)の中で撹拌することにより、Boc保護基を除去した。室温で9時間撹拌した後、溶媒を真空で除去した。残渣を水に溶解し、1時間撹拌し(pHは2−3であった)、次いでNaOH(1M、313mmol)を添加して溶液を中和し、溶媒を真空で蒸発させ、H−Phe−Gly−NH−C−NH−C−NH−C−NHを定量的収量で得た。構造を質量分析およびNMRで確認した。
【0070】
H−Phe−Gly−NH−C−NH−C−NH−C−NH(113mg、0.152mmol)および2−アセチルジメドン(Dde−OH)(70.0mg、0.335mmol)を、エタノール(4ml)に溶解した。室温で20時間撹拌した後、TLCによる分析は、アミンの単一の生成物への完全な変換を示した。溶媒を除去し、Dde−Phe−Gly−NH−C−NH−C−NH−C−NH−Ddeを得た。構造を質量分析で確認した。粗生成物を過剰の2−アセチルジメドンから分離せずに使用した。
【0071】
Dde−Phe−Gly−NH−C−NH−C−NH−C−NH−Dde(76μmol)および樹脂1(79.2mg、19μmol)を、実施例1に記載の通りに反応させた。保護中間体は、ブロモフェノールブルーで陽性であり、TNBS染色で陰性であった。実施例1に記載のものと同様にDde保護基を除去し、生成物15を得た。樹脂15は、ブロモフェノールブルーおよびTNBS染色で陽性であった。
【0072】
実施例14
標識条件:[99mTc(HO)(CO)を、[99mTcOから、ボロンカルボネートキット(Alberto et al, J. Am. Chem. Soc. 123, 3135-3136 (2001))を使用して製造した。固相結合キレーター1mg(0.2mmole)を、[99mTc(HO)(CO)溶液(1ml)に与え、混合物を短く超音波処理し(sonificated)、次いで、82℃で30分間加熱した。溶液を固相樹脂から濾過により分離し、ガンマ−検出を伴うHPLCにより分析した。
全ての固相結合キレーターについて、可溶性錯体の形成が確認された。収率は、キレーターのタイプおよび反応条件により、5ないし50%で変動した(表1)。
【0073】
実施例15
樹脂3および4も、[99mTc(HO)(CO)の形成と切断反応を組み合わせて、ワンポット手法で標識した。固相結合キレーター1mg(0.2mmole)をボロカルボネートキット(Mallinckrodt Medical, Petten, the Netherlands; Alberto et al., J. Am. Chem. Soc. 123, 3135-3136 (2001))に添加した。ジェネレーターから抽出したままのNaTcOをバイアルに添加し、混合物を78℃ないし82℃で20ないし60分間維持した。pHは11であった。切断収率は、8ないし32%であり、過テクネチウム酸塩の変換は40ないし54%であった。
【0074】
実施例16
樹脂4の標識化反応のために、pH値および反応温度などの反応条件を変化させて最適反応条件を見出した。放射性トレーサーとして使用するために、出発物質[99mTc(HO)(CO)の完全な変換と、単一の生成物の形成が必要とされる。サンプルの放射活性およびそれらの急速な崩壊(t1/2=6.2時間)のために、標識手法後の生成工程は避けなければならない。高い放射活性の溶液を得るには、高い切断収率が望ましい。
【0075】
切断反応のpH依存性を図3に示す。切断収率は、pH6から上昇し、pH8.5で最大である。このことは、[99mTc(HO)(CO)の[99mTc(OH)(HO)(CO)]への脱プロトン化と合致し(レニウム類似体のpK:7.5;Egli et al, Organometallics 16, 1833-1840 (1997))、従って、Tc−配位ヒドロキシイオンがCH基を攻撃してC−N結合を切断する求核原子であるという理論と合致する。pHを11まで上げると再度切断収率は低下する。これは、配位したアミノ基の親電子性を低下させる負荷電種[99mTc(OH)(HO)(CO)の形成のためであり得る。
【0076】
樹脂4の[99mTc(HO)(CO)との反応の温度依存性を、[99mTc(HO)(CO)の完全な変換後の反応生成物を分析することにより研究した。室温では、樹脂上での錯体形成のみが起こり、固相からの濾過後の溶液は、放射活性を示さなかった。43℃では、切断収量は観察可能であったが、低かった。その後、それは温度の上昇と共に増加した(図4)。このことは、樹脂上の錯体形成と切断反応との間に競合があり、切断反応の方が高い活性化エネルギー障壁を有することを明確に示している。しかしながら、固相樹脂および付着している生体分子の安定性の観点から、非常に高い温度は不利であろう。70℃ないし82℃の温度範囲が樹脂4に好ましい。
【0077】
【表1】


【0078】
【表2】


【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明による担体無添加(n.c.a.)金属錯体化化合物の調製の原理。
【図2】錯体形成のメカニズム。
【図3】切断反応のpH依存性。
【図4】切断収率の温度依存性。
【図5】実施例1、2、3、4および10の反応スキーム。
【図6】実施例5、6、7、8および9の反応スキーム。
【図7】実施例11、12および13の反応スキーム。
【図8】実施例14および表1の化合物の構造式。
【図9】生物学的に活性な分子を有する化合物の構造式。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体化物質の生成方法であって、(I)式により表される固相結合有機コンジュゲート
【化1】

[式中、球は固相であり;
Cは、1個または2個の基R4およびR5(これらは、特に脂肪族または芳香族性置換基、またはRO、RSもしくはRNであり得る(ここで、Rは脂肪族またはアリールの基である))により置換されていてもよいメチレン基であり、
Lは、存在してもしなくてもよい、固体支持体に結合しているリンカーであり、C基への求核攻撃に対する活性化特性を有し、好ましくはフェニル、アルキル、アリルまたはアリールである;そして、
R1およびR2は、同じであるかまたは異なり、金属配位基または配位していない有機の基であり、
この固相結合有機コンジュゲートは、R1およびR2の一方または両方で生物学的に活性な分子により誘導体化されていることもある]
を、
(II)[M(HO)(CO)n+
[式中、Mは、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)および銅(Cu)からなる群から選択され、nは、金属に応じて1、2または3である]
と、[M(HO)(CO)n+と固相結合有機コンジュゲートの三級アミンの窒素原子との間に配位結合を形成させ、それによりかくして形成された金属錯体化物質を支持体から放出させるのに適する条件下で、接触させることを含む、方法。
【請求項2】
リンカーが、フェニル、ビニル、アリール並びに他の非脂肪族および脂肪族の基からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フェニル、ビニル、アリールまたは他の非脂肪族および脂肪族の基が、OR、R、NR(ここで、Rは、脂肪族またはアリールの基である)から選択される電子吸引基により置換されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
リンカーが、式II
【化2】

式中、X1は、CまたはOであり、X2は、電子吸引性の置換基、好ましくは−OCH基である、
に示す通りである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
R1および/またはR2が、
【化3】

からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
R1およびR2が、−CH、CまたはCHなどの脂肪族または芳香族性の置換基である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Mが、Tc、Re、Ru、Rh、Ir、CuおよびPtからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
金属が、99mTc、186Reおよび188Reからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
生体分子が、アミノ酸;ステロイド;ペプチド;タンパク質、特に構造タンパク質、酵素または抗体;炭水化物;多糖類およびオリゴ糖類;ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド;脂質、ペプチドおよび中枢神経系受容体結合化合物などの医薬的に活性な低分子からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
固相支持体が、ポリエチレングリコール樹脂、またはポリエチレングリコールとポリスチレンの混成物、例えばベンジルアルコール固着基を有するポリエチレングリコールスペーサーを有するポリスチレン樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
さらなる使用のために金属錯体化物質を回収する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該方法を、約6.0−11.0の範囲、好ましくは約7.5−9.5の範囲のpHで実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該方法を、約40−100℃の範囲内、好ましくは、約70−82℃の範囲内で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
回収した金属標識コンジュゲートを、医薬的に適する形態にすることをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】

【化4】

式中、L、C、R1、R2、R4およびR5は、請求項1で定義の通りである、
により表される、固相結合有機コンジュゲート。
【請求項16】
生物学的に活性な分子が、アミノ酸;ステロイド;ペプチド;タンパク質、特に構造タンパク質、酵素または抗体;炭水化物;多糖類およびオリゴ糖類;ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド;脂質、ペプチドおよび中枢神経系受容体結合化合物などの医薬的に活性な低分子からなる群から選択される、請求項15に記載の固相結合有機分子。
【請求項17】
固相支持体が、ポリエチレングリコール樹脂、またはポリエチレングリコールとポリスチレンの混成物、例えばベンジルアルコール固着基を有するポリエチレングリコールスペーサーを有するポリスチレン樹脂である、請求項15に記載の固相結合有機分子。
【請求項18】
表1に記載の通りである、請求項15に記載の固相結合有機分子。
【請求項19】
請求項1に記載の方法により得ることができる金属錯体化有機分子。
【請求項20】
式(I)の分子を有するコンテナを含む診断または治療用医薬組成物を調製するためのキットであって、その中で[M(HO)(CO)n+の溶液との反応を行うことができる、キット。
【請求項21】
コンテナが、容器またはカラムである、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
[M(HO)(CO)n+の溶液をさらに含む、請求項20に記載のキット。
【請求項23】
金属カルボニル[M(HO)(CO)n+調整用の試薬をさらに含む、請求項20に記載のキット。
【請求項24】
濾過設備をさらに含む、請求項20に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−514612(P2006−514612A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−534549(P2004−534549)
【出願日】平成15年9月2日(2003.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2003/027665
【国際公開番号】WO2004/022105
【国際公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【出願人】(505077231)ユニバーシティ・オブ・ズーリック (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF ZURICH
【Fターム(参考)】