説明

固体材料ガスの供給装置および供給方法

【課題】 簡便な手法・構成で、固体材料ガスを安定した濃度で供給し、固体材料の残量を簡便に精度よく検知することができること。
【解決手段】 キャリアガスCにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料Sを処理対象とし、キャリアガスCの供給部1と、キャリアガスCの分散手段2と、分散手段2を収容し、供給されたキャリアガスCを分散させる分散室3と、固体材料Sが充填される充填層4と、充填層4から供出される固体材料ガスGを合流させる供出室5と、固体材料ガスGの供出部6と、分散室3と充填層4を仕切る第1メッシュ部7と、充填層4と供出室5を仕切る第2メッシュ部8と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料ガスの供給装置および供給方法に関し、例えば、半導体や太陽電池等の生産装置や研究設備等において使用される固体有機化合物や固体有機金属化合物の固体材料ガスの供給装置および供給方法に関するものである。なお、本願にいう「固体材料」とは、広く工業的に用いられるキャリアガスにより所定量の昇華(気化)・供給が可能な固体材料をいい、例えば、塩化ハフニウム等の無機金属化合物、トリメチルインジウム等の固体有機金属化合物、あるいはフタル酸等の固体有機化合物を挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
半導体や太陽電池等を生産する製造装置や新たな素材を開発する研究設備、あるいは高純度品が要求される半導体の材料等(例えば成膜材料等)として、気体材料や液体材料が多用されてきたが、近年では、昇華させた上記のような固体材料をキャリアガスに同伴させて使用することも多い。こうした固体材料は、ヘリウムやアルゴン等の希ガス等の反応性が低く安定性の高い不活性ガスによって昇華・搬送され、上記製造装置等に供給されて消費される。
【0003】
例えば、図7(A),(B)に示すような、化学気相成長(CVD)法、原子層化学気相成長(ALCVD)法およびイオン注入法において用いられる液体および固体ソース試薬などの液体および固体材料の蒸発のために、拡大した表面積を提供する多数の容器を有する蒸発器配送システム110の構成例を挙げることができる(例えば特許文献1参照)。アンプル112には、内室を形成する底部114および側壁116が含まれる複数の垂直に積重された容器122が、アンプルの内室内に配置されている。積重された容器は、容易な洗浄および補充のために互いに分離可能でアンプルから着脱自在である。内部キャリヤガス部材123がアンプル内に配置されているが、この内部キャリヤガス部材123は、キャリヤガス入口120に接続(溶接)され、内室の底部および垂直に積重された容器における最も下側の容器の下にキャリヤガスを導く。内部キャリヤガス部材123は、各容器キャビティ127および容器底部124を通過している。個別容器122は、それぞれ、底部124および側壁126を備えて、好ましいソース材料128を配置するための容器キャビティ127を形成する。個別容器のそれぞれには、複数の突出部130が含まれ、各突出部には、突出部を通してキャリヤガスが移動するための通路132が含まれる(特許文献1段落0018〜0023参照)。ここで、138は封止用O−リング、140はガス出口バルブを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−503178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような固体材料ガスの供給装置(方法)においては、以下の課題が生じることがあった。
(i)一般的に、固体材料は、固体材料ガス中の供給成分濃度(以下「材料濃度」という)がキャリアガスとの接触面積に影響されやすく、キャリアガスのショートパスや流量の局部的なムラによって、材料濃度が不安定になりやすく、また、容器内の固体材料残量の減少とともにキャリアガス中の材料濃度は低下する。
(ii)また、上記蒸発器配送システム110の構成にあっては、容器傾斜時にトレー上の材料配置が不均一となり、材料濃度が不安定となる恐れがあるほか、容器構造が複雑であるため材料の充填および容器の洗浄が簡便ではないという問題点がある。
(iii)一般的に、充填材料の残量を検知する方法としては、気体材料では圧力測定、液体材料では液面計が広く使用され、材料の均一性が高いことから精度よく検知することができる。一方、固体材料では、重量測定や、供給時の材料濃度と使用時間を積算する方法が使用されているが、安定な材料濃度を確保するには、所定容量の空間に貯留し拡散による安定時間の確保が必要とされることがある。また、重量測定においては、固体材料の局部的な減少に伴う材料濃度の変化を検知することができず、容器が配管に接続されていることおよび一般的には加熱環境下に容器が設置されることから測定誤差が大きい。さらに、材料濃度の測定は、超音波式、熱伝導度式、赤外線式等の検出装置が必要である。検出装置は高価であるだけでなく、各固体材料に対して校正が必要である。
【0006】
本発明の目的は、簡便な手法・構成で、固体材料ガスを安定した濃度で供給し、固体材料の残量を簡便に精度よく検知することができる固体材料ガスの供給装置および供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す固体材料ガスの供給装置および供給方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、固体材料ガスの供給装置であって、
キャリアガスにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料を処理対象とし、キャリアガスの供給部と、該キャリアガスの分散手段と、該分散手段を収容し、供給されたキャリアガスを分散させる分散室と、前記固体材料が充填される充填層と、該充填層から供出される固体材料ガスを合流させる供出室と、該固体材料ガスの供出部と、前記分散室と前記充填層を仕切る第1メッシュ部と、前記充填層と前記供出室を仕切る第2メッシュ部と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記供給装置を用いた固体材料ガスの供給方法であって、
キャリアガスにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料を充填層に設置するとともに、分岐された複数の流路によって1次分散され、さらに前記充填層への供給側に配設された第1メッシュ部によって2次分散されたキャリアガスを、前記充填層に供給し、前記充填層から供出され、前記充填層の供出側に配設された第2メッシュ部によって3次分散された固体材料ガスを供出することを特徴とする。
【0010】
上記のように、固体材料を昇華させて安定な材料濃度の固体材料ガスを供給することには、いくつかの課題があった。本発明は、1つに固体材料と接触するキャリアガスを分散させて均一な流れを形成するとともに均一な熱分布を形成し、固体材料を均一に昇華させること、2つに充填層で形成された固体材料ガスを均一な材料濃度となるように、分散させて供出させることによって、こうした課題を解消することができることを見出したものである。つまり、分散手段や分散室あるいは分岐流路による1次分散、第1メッシュ部による2次分散、第2メッシュ部による3次分散によって、固体材料を均一に昇華させるとともに、材料濃度の均一な固体材料ガスを取り出すことができる。また、固体材料を均一に昇華させることによって、固体材料を均一に減量させ、固体材料の均一な昇華を維持することができ、簡便な手法・構成で、長期間固体材料ガスを安定した濃度で供給することができる固体材料ガスの供給装置および供給方法を提供することが可能となった。
【0011】
本発明は、上記固体材料ガスの供給装置であって、前記第1メッシュ部あるいは第2メッシュ部のいずれかが、前記充填層の上部に配設され、かつ自重により下方向に移動可能に配設されることを特徴とする。
充填層を仕切る部材(本発明においては第1メッシュ部あるいは第2メッシュ部)が固定されている場合には、固体材料の減量に伴い、充填層上部に空間が生じる。このとき、充填層内に生じた固体材料の減量差があれば、負荷の少ないところにキャリアガスが流れやすくなることから、こうした減量差が拡大される可能性がある。本発明は、第1あるいは第2メッシュ部を充填層と常に接する位置からキャリアガスが均等に充填層に導入される構成を確保することによって、長期間固体材料ガスを安定した濃度で供出することを可能とした。
【0012】
本発明は、上記固体材料ガスの供給装置であって、前記分散手段が、前記供給部と接続され、キャリアガスを分岐する複数の分岐流路と、各分岐流路に設けられた1以上の噴出口を有することを特徴とする。
均一な固体材料ガスの形成には、充填層に導入されるキャリアガスの1次分散機能が重要な役割を果たす。本発明は、キャリアガスを分岐し、分岐流路に設けられた1以上の噴出口から分散されたキャリアガスを供給することによって、優れた1次分散機能を形成し、固体材料を均一に昇華させるとともに、材料濃度の均一な固体材料ガスを取り出すことを可能とした。
【0013】
本発明は、上記固体材料ガスの供給装置であって、前記分散手段が、前記分散室と前記充填層のそれぞれに1以上の噴出口を有することを特徴とする。
こうした構成によって、キャリアガスを、分散手段,分散室を介して充填層に導入するとともに、充填層に挿入された分散手段から充填層に直接供給することができ、充填層での固体材料とキャリアガスの接触をさらに均一に行なうことを可能とした。このとき、充填層に挿入された分散手段と充填層を仕切るメッシュ部を設けることによって、充填層に直接供給されたキャリアガスは、分散室からのキャリアガスと相俟って1次分散およびメッシュ部による2次分散機能を確保することが可能である。
【0014】
本発明は、上記固体材料ガスの供給装置であって、前記充填層の側壁に、監視窓または複数の光センサが配設され、目視による視認あるいは該光センサの出力により、前記固体材料の充填量が監視されることを特徴とする。
上記のように、固体材料の充填量(残量)は、固体材料ガスの材料濃度に大きな影響を与えるとともに、従前の方法においては、その正確な量的把握のために高いコストを必要としていた。本発明は、上記のような構成を有する固体材料ガスの供給装置において、監視窓または複数の光センサを配設することによって、直接第1メッシュ部と第2メッシュ部の間の充填層内の固体材料の残量および残量のバラツキ状態を確認できることを実証したものである。簡便な手法・構成によって、精度よく固体材料の充填量を検知することが可能となった。
【0015】
本発明は、上記固体材料ガスの供給方法であって、前記充填層の1以上の部位における固体材料の充填量を監視し、前記分岐された複数の流路のキャリアガス流量を調整することを特徴とする。
充填層内の固体材料の残量およびそのバラツキ状態は、固体材料ガスの材料濃度に大きな影響を与える。本発明は、監視された充填層内の残量あるいはそのバラツキ状態を基に、1次分散段階でのキャリアガス流量を調整することによって、固体材料ガスの材料濃度の安定化を図るものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る固体材料ガスの供給装置の基本構成例を示す概略図
【図2】本発明に係る固体材料ガスの供給装置の第2,第3構成例を示す概略図
【図3】本発明に係る固体材料ガスの供給装置の第4の構成例を示す概略図
【図4】本発明に係る固体材料ガスの供給装置を用いた検証結果を示す説明図
【図5】本発明に係る固体材料ガスの供給装置を用いた検証結果を示す説明図
【図6】本発明に係る固体材料ガスの供給装置を用いた検証結果を示す説明図
【図7】従来技術に係る液体および固体材料の蒸発のための蒸発器配送システムを例示する概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る固体材料ガスの供給装置(以下「本装置」という)およびこれを用いた固体材料ガスの供給方法(以下「本方法」という)の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本装置は、キャリアガスにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料を処理対象とし、キャリアガスあるいは固体材料ガスに対し、分散手段や分散室あるいは分岐流路による1次分散、第1メッシュ部による2次分散、第2メッシュ部による3次分散によって、固体材料を均一に昇華させるとともに、材料濃度の均一な固体材料ガスを取り出すことを特徴とする。また、固体材料の充填量が監視できる構成が好ましい。
【0018】
ここでいう「固体材料」は、既述のように、広く工業的に用いられる所定の温度で昇華(気化)する固体の材料をいい、具体的には、例えば塩化ハフニウム(HfCL)や塩化ジルコニウム(ZrCL)等の無機金属化合物、トリメチルインジウム((CHIn),ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(ZnI(C)等の固体有機金属化合物、あるいはフタル酸(C(COOH))やナフタレン(C10)あるいはアントラセン(C1410)等の固体有機化合物を挙げることができる。一般に常温(20〜30℃)常圧(約0.1MPa)で固体の材料(例えば塩化ハフニウム等)に加え、ここでは、広く加圧条件下あるいは低温条件下において固体の材料をも含む。下表1に、固体材料、設定温度およびそのときの蒸気圧を例示する。むろん、これらの物質および設定条件に限定されるものではない。
【0019】
【表1】

【0020】
また、キャリアガスは、反応性が低く安定性の高いガスが好ましく、例えばヘリウムやアルゴン等の希ガスあるいは窒素ガス等を用いることができる。また、固体材料の昇華を安定的に行なうためには、熱容量の大きなキャリアガスが好ましく、アルゴンガスが好適である。
【0021】
<固体材料ガスの供給装置の基本構成例>
図1は、本装置の基本構成例(第1構成例)を示す概略図である。容器10は、キャリアガスCの供給部1と、キャリアガスCの分散手段2と、分散手段2を収容し、供給されたキャリアガスCを分散させる分散室3と、固体材料Sが充填される充填層4と、充填層4から供出される固体材料ガスGを合流させる供出室5と、固体材料ガスGの供出部6と、分散室3と充填層4を仕切る第1メッシュ部7と、充填層4と供出室5を仕切る第2メッシュ部8と、を有する。また、充填層4を容器10の外部から加熱する加熱部Hが設けられることが好ましい。上表1のように、各固体材料Sに応じた設定温度に加熱することによって固体材料Sの昇華(気化)を促し、所定の材料濃度の固体材料ガスGを供給することが可能となる。ここでは、さらに固体材料Sの減少量あるいは充填層4内部の充填量(減少量)のバラツキを把握可能なように、監視窓Wが、容器10の充填層4側部に設けられている。
【0022】
ここでは、供給部1,分散手段2や分散室3が容器10の上部にあり、充填層4の上部からキャリアガスCを供給する容器10を例示するが、容器10の下部にこれらの構成要素を配設した構成を含め、これに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、図2(A)のように、水平方向からキャリアガスCを供給する構成(第2構成例)等を挙げることができる。この構成においては、上部の材料供給弁4aから減少した固体材料Sを補充する機能、あるいは下部の材料排出弁4bから不要となった固体材料Sを排出する機能を設けることができる。
【0023】
処理対象となる固体材料Sは、容器10の材料供給部(図示せず)から充填層4に所定量充填される。固体材料Sの形状等は、特に制限されないが、キャリアガスCとの接触面積が大きく、流通抵抗の少ない粒状体やペレットあるいは多孔質体やハニカム等に成形されたもの、あるいはこうした担体に担持されたものが好ましい。充填層4に充填された固体材料は、昇華された減少量を把握し、所定時間ごとに補充あるいは交換される。
【0024】
〔各部の機能〕
本装置の分散手段2は、キャリアガスCを分岐する複数の分岐流路2a,2a・・(以下「分岐流路2a」と示す)と、各分岐流路2aに設けられた1以上の噴出口2b,2b・・(以下「噴出口2b」と示す)を有することが好ましい。分散室3の水平断面において分散室3内の各所に分岐するとともに、分散室3の垂直断面においても分散室3内の各所から噴出させることによって、分散室3内に広く分散させることができる。分岐流路2aは、1〜20本の範囲が好ましいが、容器10の容量と固体材料Sの物性によってはこの範囲に限らない。噴出口は、直径0.2mm〜3mmの範囲が好ましいが、容器10の容量,固体材料Sの物性,分岐流路2aの配管径によってはこの範囲に限らない。噴出口2bの位置は、分岐流路2aの末端部分から上流数cmの範囲に設けることができる。噴出口2bの個数は、1の分岐流路2aあたり1〜数10程度が好ましい。なお、供給部1からガス噴出孔までの構造はシャワーヘッド状としてもよい。
【0025】
本装置の第1メッシュ部7,第2メッシュ部8は、伝熱性が高く、耐食性のある多孔性の部材が好ましい。例えば、数10〜数100メッシュの孔径を有し、所定の厚み(例えば数mm程度)を有するステンレスその他の材質からなる金網、細孔付き金属板、金属焼結体、グラスウール等あるいは多孔質セラミックス等を用いることができる。第1メッシュ部7は、分散室3と充填層4を仕切るとともに、キャリアガスCの均一な2次分散機能と同時に、キャリアガスCの均一加熱機能(熱拡散機能)を有することができる。これによって、充填層4の固体材料SとキャリアガスCの均等な接触かつ均一な熱伝導を形成することができる。また、第2メッシュ部8は、充填層4と供出室5を仕切るとともに、固体材料ガスGの均一な3次分散機能と同時に、固体材料ガスGの均一加熱機能(熱拡散機能)を有することができる。これによって、均一な材料濃度と均一な温度特性を有する固体材料ガスSを形成し、供出することができる。
【0026】
ここで、充填層4の上部に配設された第1メッシュ部7が、容器10に固定されず、自重により下方向に移動可能に配設されることが好ましい。ただし、既述のように容器10の下部からキャリアガスCが供給される場合には、第2メッシュ部8が充填層4の上部に配設され、同様の機能を有することが好ましい。充填層4を仕切る機能に加え、固体材料Sの減量に伴い生じる充填層4上部の空隙を詰め、充填層4と常に接する位置からキャリアガスCが均等に充填層4に導入される構成を確保することによって、長期間安定した濃度の固体材料ガスGを供出することができる。充填層4の層内に生じた固体材料Sの減量差によって負荷の少ない部位へのキャリアガスCのショートパスが生じることを防止し、こうした固体材料Sの減量差の拡大を防止することができる。
【0027】
監視窓Wは、充填層4の側壁に配設され、目視により、第1メッシュ部と第2メッシュ部の間の固体材料Sの充填量が監視される。後述する検証実験結果のように、固体材料Sの充填量(残量)は、固体材料ガスGの材料濃度に大きな影響を与える。また、残量のバラツキも固体材料ガスGの材料濃度に大きな影響を与える。視認により直接充填層4内の固体材料Sの残量および残量のバラツキ状態を確認することによって、従前の方法のように高いコストを必要とすることなく、簡便な手法・構成によって、精度よく固体材料の充填量を検知することができる。
【0028】
固体材料Sの充填量の監視は、さらに各分岐流路2aのキャリアガスCの流量を調整することに用いることができる。つまり、1次分散段階でのキャリアガスCの流量を調整することによって、固体材料ガスの材料濃度の安定化を図ることができる。具体的には、監視された充填層4内の残量が設定量よりも少なくなり、補充までに所定の時間が必要な場合には、全体のキャリアガスCの流量を減少させることによって、所定の材料濃度を確保することができる。あるいは充填層4内の充填量にバラツキ状態があれば、残量が少ない部位の近傍の分岐流路2aのキャリアガスCの流量を減少させて残量のバラツキ状態の解消を図ることができる。キャリアガスCの流量は、分岐流路2aに設けられた絞り弁や開閉弁あるいはダンバー等(図示せず)によって調整することができる。
【0029】
また、監視窓Wによる視認に代え、図2(B)のように、複数の光センサPを充填層4の側壁に配設し、光センサPの出力によって固体材料Sの充填量を監視する構成(第3構成例)も好適である。自動的に固体材料Sの残量および残量のバラツキ状態を確認することができる。光センサPは、1つのセンサを複数配設する構成あるいは複数のセンサを有するセンサレイによる構成のいずれも可能である。光センサPは、充填層4の1つの側壁に配設されて充填層4によって反射する光を検知する反射式、あるいは充填層4を対向する位置に配設されて充填層4を透過する光を検知する透過式等を用いることができる。
【0030】
〔本装置による固体材料ガスの供給方法〕
次に、図1示す構成を有する本装置において、充填層4に所定量の固体材料Sが充填され、充填層4が所定温度に加温された状態で、キャリアガスCを導入し、所定の材料濃度の固体材料ガスGを取り出すプロセス(1)〜(6)について詳述する。
【0031】
(1)キャリアガスの供給
キャリアガスCが、供給部1から容器10内に供給される。供給されるキャリアガスCの圧力および流量は、予め仕様により設定された所定の値に調整される。圧力および流量条件の調整は、容器10への供給前、容器10からの供出後のいずれにも限定されるものではない。
【0032】
(2)キャリアガスの1次分散
容器10内に供給されたキャリアガスCは、まず供給部1に接続された分散手段2によって分散された状態で、分散室3に導入される。このとき、キャリアガスCは、分岐流路2aによって分散室3の水平断面において分岐され、噴出口2bによって分散室3の垂直断面においても分配され、分散室3内の各所から噴出させることによって、分散室3内に広く分散させることができる。こうした1次分散において得られた高度な分散状態が、後述する2次,3次分散処理をより効果的に機能させることができる。
【0033】
(3)キャリアガスの2次分散
分散室3内に導入されたキャリアガスCは、次に第1メッシュ部7を介して充填層4に導入される。このとき、分散室3において分散されたキャリアガスCが、第1メッシュ部7の細孔によって、細かく分散されるとともに、第1メッシュ部7の温熱を吸収して設定温度に維持あるいは加温される。第1メッシュ部7から導出されたキャリアガスCは、第1メッシュ部7のどの部位であっても、ほぼ均一な温度および流速を有する状態を形成することができる。
【0034】
(4)固体材料ガスの作製
第1メッシュ部7を通過したキャリアガスCは、充填層4に導入され、充填層4内の固体材料Sとの接触により、昇華された所望の固体材料Sの蒸気圧を有する固体材料ガスGが作製される。予め所望の空間速度となるように、キャリアガスCの流量と充填層4の容積を設定することによって、十分な接触時間を確保し、安定した材料濃度の固体材料ガスGを得ることができる。固体材料ガスGの作製に伴い、充填層4の上層部から固体材料Sの減少が生じる。固体材料Sの減少は、監視窓Wによる目視の監視あるいは後述する光センサ出力による監視によって把握することができる。固体材料Sの減少に伴う材料濃度の低下は、所定量以上の充填層4の厚みを維持することによって防止することができる。また、充填層4内部の固体材料Sの減少量のバラツキの発生も、監視によって把握することができ、固体材料Sの補充や交換によって補うことができる。
【0035】
(5)固体材料ガスの3次分散
充填層4において作製された固体材料ガスGは、次に第2メッシュ部8を介して供出室5に導入される。このとき、充填層4において作製された固体材料ガスGは、所定の均一性を有するものの、厳密には平面方向の流量や材料濃度のバラツキ(実際には、昇華熱の吸収によって温度のバラツキも生じる可能性がある)が生じている。第2メッシュ部8に導入された固体材料ガスGは、第2メッシュ部8の細孔によって、細かく分散される(3次分散)とともに、第2メッシュ部8の温熱を吸収して設定温度に維持あるいは加温される。第2メッシュ部8から導出された固体材料ガスGは、第2メッシュ部8のどの部位であっても、ほぼ均一な温度,材料濃度および流速を有する状態を形成することができる。
【0036】
(6)固体材料ガスの供出
第2メッシュ部8を通過した固体材料ガスGは、供出室5に合流し、混合・均一化されて所望の材料濃度の固体材料ガスGが作製される。作製された固体材料ガスGは、供出部6から供出される。
【0037】
<固体材料ガスの供給装置の他の構成例>
図3(A),(B)は、本装置の他の構成例(第4構成例)を示す概略図である。上記第1〜3構成例では、分散室2から充填層4にキャリアガスCを供給しているために、分散室3と充填層4を仕切る第1メッシュ部7近傍から固体材料Sの減量が大きくなる。第4構成例は、分散手段2として分散室2と充填層4のそれぞれに1以上の噴出口を有する構成を用いることによって、分岐流路2からのキャリアガスCを充填層4にも直接供給し、分散室3からのキャリアガスCと相俟って充填層4での固体材料SとキャリアガスCの接触をさらに均一に行なうことができる。ここで、分岐流路2は、図3(B)のように、分散室3内において噴出口2bを、充填層4内において噴出口2c,2c・・(以下「噴出口2c」という)を有する。
【0038】
具体的には、図3(A)のように、第1メッシュ部7に分岐流路2aが挿入可能な孔部7a,7a・・(以下「孔部7a」という)が設けられ、充填層4内部に分岐流路2aが挿入可能な空間部4c,4c・・(以下「空間部4c」という)が形成され、各孔部7aを介して各空間部4cに分岐流路2aが挿入される。このとき、空間部4cの周囲が、第1メッシュ部7と同様の部材(以下「第3メッシュ部9」という)によって充填層4と仕切られることが好ましい。分散室3での噴出口2bによる1次分散機能,第1メッシュ部7による2次分散機能を経て均一に分散されたキャリアガスCが、充填層4に導入されると同時に、充填層4内での噴出口2cによる1次分散機能,第3メッシュ部9による2次分散機能を経て均一に分散されたキャリアガスCが、充填層4に導入される。ここで、第3メッシュ部9は第1メッシュ部7と接続されることによって、キャリアガスCを双方に分散させることができ、より2次分散機能を上げることができる。
【0039】
〔本装置および本方法における機能の検証〕
本装置および本方法における機能を、固体材料として塩化ハフニウム(HfCl)について、第1構成例に係る装置を用い、以下の通り検証した。
【0040】
(i)検証条件
分岐流路を4本、各分岐流路に20個のガス噴出孔を有する分散手段を用いた。第1,第2メッシュ部として100meshのステンレス製平織金網を用い、第1メッシュ部を充填層上部に載置した状態とした。塩化ハフニウム350gが充填された充填層をヒータにより150℃に加熱した。供出された固体材料ガス中のHfCl濃度は、容器後段に設置したTCDセンサ(Valco社製 型式TCD2−NIFE−110)を使用して測定した。
【0041】
(ii)検証項目
以下の項目について検証した。
(ii−1)監視窓の機能の検証を行うとともに、
(ii−2)キャリアガス流量を50,200,500[SCCM]と変化させた場合のHfClの濃度変化を確認した。
(ii−3)次に、最大量のHfCl充填時(この時のHfCl残量を100%とする)から残量10%となるまでHfCl導出を継続し、この間のHfCl導出濃度を測定した。
【0042】
(iii)検証結果
(iii−1)監視窓の機能の検証
図4(A)に示すように、HfClが容器上部まで充填されている初期の状態では、監視窓W全面にHfClが視認された。残量低下時には、図4(B)に示すように、監視窓Wから充填層4の上部表面および載置された第1メッシュ部7が視認できた。このように、監視窓Wからの目視によって、HfClが容器に充填されている状態を確認することができた。
(iii−2)キャリアガス流量の材料濃度に対する影響の検証
図5に示すように、キャリアガス流量50〜500[SCCM]の範囲内で、HfCl濃度は約370[ppm]と安定しており、飽和蒸気圧のHfClが同伴されて導出されたことを確認することができた。
(iii−3)固体材料の残量の材料濃度に対する影響の検証
図6に示すように、残量20%まで飽和量である約370ppmのHfClがキャリアガスに同伴され、高い濃度安定性を示した。従って、HfClについては、残量20%以上を確認できる範囲において監視窓の設置が必要となることを確認することができた。
【符号の説明】
【0043】
1 供給部
2 分散手段
2a 分岐流路
2b 噴出口
3 分散室
4 充填層
5 供出室
6 供出部
7 第1メッシュ部
8 第2メッシュ部
9 第3メッシュ部
10 容器
C キャリアガス
G 固体材料ガス
H 加熱部
P 光センサ
S 固体材料
W 監視窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料を処理対象とし、キャリアガスの供給部と、該キャリアガスの分散手段と、該分散手段を収容し、供給されたキャリアガスを分散させる分散室と、前記固体材料が充填される充填層と、該充填層から供出される固体材料ガスを合流させる供出室と、該固体材料ガスの供出部と、前記分散室と前記充填層を仕切る第1メッシュ部と、前記充填層と前記供出室を仕切る第2メッシュ部と、を有することを特徴とする固体材料ガスの供給装置。
【請求項2】
前記第1メッシュ部あるいは第2メッシュ部のいずれかが、前記充填層の上部に配設され、かつ自重により下方向に移動可能に配設されることを特徴とする請求項1記載の固体材料ガスの供給装置。
【請求項3】
前記分散手段が、前記供給部と接続され、キャリアガスを分岐する複数の分岐流路と、各分岐流路に設けられた1以上の噴出口を有することを特徴とする請求項1または2記載の固体材料ガスの供給装置。
【請求項4】
前記分散手段が、前記分散室と前記充填層のそれぞれに1以上の噴出口を有することを特徴とする請求項3記載の固体材料ガスの供給装置。
【請求項5】
前記充填層の側壁に監視窓または複数の光センサが配設され、目視による視認あるいは該光センサの出力により、前記固体材料の充填量が監視されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の固体材料ガスの供給装置。
【請求項6】
請求項1〜5記載の固体材料ガスの供給装置を用い、キャリアガスにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料を充填層に設置するとともに、
分岐された複数の流路によって1次分散され、さらに前記充填層への供給側に配設された第1メッシュ部によって2次分散されたキャリアガスを、前記充填層に供給し、
前記充填層から供出され、前記充填層の供出側に配設された第2メッシュ部によって3次分散された固体材料ガスを供出することを特徴とする固体材料ガスの供給方法。
【請求項7】
前記充填層の1以上の部位における固体材料の充填量を監視し、前記分岐された複数の流路のキャリアガス流量を調整することを特徴とする請求項6記載の固体材料ガスの供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−190828(P2012−190828A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50431(P2011−50431)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】