説明

固体材料ガスの供給装置および供給方法

【課題】 簡便な手法・構成で、固体材料ガスを安定した濃度で供給することができるとともに、固体材料の残量を簡便に精度よく検知することができること。
【解決手段】 キャリアガスCにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料に溶剤を添加してペースト状に加工し、該溶剤を蒸発除去させて固体試料Sを作製する固体試料作製手段を有し、キャリアガスCが供給される供給部1と、供給されたキャリアガスCを分散させる分散部2と、固体試料Sが設置される試料設置部3と、試料設置部3から供出される固体材料ガスGが供出される供出部4と、を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料ガスの供給装置および供給方法に関し、例えば、半導体や太陽電池等の生産装置や研究設備等において使用される固体有機化合物や固体有機金属化合物の固体材料ガスの供給装置および供給方法に関するものである。なお、本願にいう「固体材料」とは、広く工業的に用いられるキャリアガスにより所定量の昇華(気化)・供給が可能な固体材料をいい、例えば、塩化ハフニウム等の無機金属化合物、トリメチルインジウム等の固体有機金属化合物、あるいはフタル酸等の固体有機化合物を挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
半導体や太陽電池等を生産する製造装置や新たな素材を開発する研究設備、あるいは高純度品が要求される半導体の材料等(例えば成膜材料等)として、気体材料や液体材料が多用されてきたが、近年では、昇華させた上記のような固体材料をキャリアガスに同伴させて使用することも多い。こうした固体材料は、ヘリウムやアルゴン等の希ガス等の反応性が低く安定性の高い不活性ガスによって昇華・搬送されたガス(以下「固体成分ガス」という)、上記製造装置等に供給されて消費される。
【0003】
例えば、図5(A),(B)に示すような、化学気相成長(CVD)法、原子層化学気相成長(ALCVD)法およびイオン注入法において用いられる液体および固体ソース試薬などの液体および固体材料の蒸発のために、拡大した表面積を提供する多数の容器を有する蒸発器配送システム110の構成例を挙げることができる(例えば特許文献1参照)。アンプル112には、内室を形成する底部114および側壁116が含まれる複数の垂直に積重された容器122が、アンプルの内室内に配置されている。積重された容器は、容易な洗浄および補充のために互いに分離可能でアンプルから着脱自在である。内部キャリアガス部材123がアンプル内に配置されているが、この内部キャリアガス部材123は、キャリアガス入口120に接続(溶接)され、内室の底部および垂直に積重された容器における最も下側の容器の下にキャリアガスを導く。内部キャリアガス部材123は、各容器キャビティ127および容器底部124を通過している。個別容器122は、それぞれ、底部124および側壁126を備えて、好ましいソース材料128を配置するための容器キャビティ127を形成する。個別容器のそれぞれには、複数の突出部130が含まれ、各突出部には、突出部を通してキャリアガスが移動するための通路132が含まれる(特許文献1段落0018〜0023参照)。ここで、138は封止用O−リング、140はガス出口バルブを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−503178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような固体材料ガスの供給装置や供給方法においては、以下の課題が生じることがあった。
(i)固体材料は、常態として粉状または顆粒状であり、供給装置への移送や設置等の操作における固体材料の飛散や偏在を回避することは難しく、キャリアガスによる均一な昇華・供給が困難であった。その結果、固体材料ガス中の供給成分濃度(以下「材料濃度」という)の安定性を確保することが困難であった。
(ii)また、特に粉状体の場合には、設置された状態で乾燥されたキャリアガスとの接触によって生じる静電気の発生に伴う周辺への飛散や付着が生じることがあった。付着した固体材料は、供給装置への次なる固体材料の設置を妨げるだけでなく、固体材料の残量を正確に把握することを困難にする。
(iii)さらに、固体材料の残量が材料濃度に大きな影響を与えるだけではなく、固体材料の形状や形態が材料濃度に大きな影響を与える。特に、粉状または顆粒状の固体材料にあっては、所定の残量があっても、その表面でのキャリアガスとの接触状態の変化等から十分な材料濃度を得ることできないことが判った。
(iv)上記蒸発器配送システム110の構成にあっては、容器傾斜時にトレー上の材料配置が不均一となり、材料濃度が不安定となる恐れがあるほか、容器構造が複雑であるため材料の設置および容器の洗浄が簡便ではないという問題点がある。
(v)一般的に、固体材料の残量を検知する方法として、重量測定が用いられることがあるが、重量管理だけでは、固体材料の局部的な減少に伴う材料濃度の変化を検知することができない。
【0006】
本発明の目的は、簡便な手法・構成で、固体材料ガスを安定した濃度で供給することができるとともに、固体材料の残量を簡便に精度よく検知することができる固体材料ガスの供給装置および供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す固体材料ガスの供給装置および供給方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、固体材料ガスの供給装置であって、キャリアガスにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料に溶剤を添加してペースト状に加工し、該溶剤を蒸発除去させて固体試料を作製する固体試料作製手段を有し、キャリアガスが供給される供給部と、供給されたキャリアガスを分散させる分散部と、前記固体試料が設置される試料設置部と、該試料設置部から供出される固体材料ガスが供出される供出部と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記のように、固体材料を昇華させて安定な材料濃度の固体材料ガスを供給することには、いくつかの課題があった。本発明は、1つに固体材料と接触するキャリアガスを分散させて均一な流れを形成し、固体材料を均一に昇華させとともに、溶剤を添加してペースト状に加工し、該溶剤を蒸発除去させて固体試料を作製することによって、こうした課題を解消することができることを見出したものである。つまり、こうして作製された固体試料は、操作あるいは静電気による飛散や偏在を生じることもなく、分散されたキャリアガスを接触させることによって、固体材料を均一に昇華させるとともに、材料濃度の均一な固体材料ガスを取り出すことができる。また、固体材料を均一に昇華させることによって、固体材料を均一に減量させ、固体材料の均一な昇華を維持することができ、簡便な手法・構成で、長期間固体材料ガスを安定した濃度で供給することができる固体材料ガスの供給装置を提供することが可能となった。
【0010】
本発明は、上記固体材料ガスの供給装置であって、前記固体試料作製手段が、不活性ガス導入部および固体試料設置用のトレーを有し、ペースト状に加工された固体材料を該不活性ガス雰囲気中に大気圧下で静置し、前記溶剤を蒸発除去させて前記トレーに載置された固体試料を作製することを特徴とする。
安定した濃度の固体材料ガスの供給には、キャリアガスが接触する固体試料の形状や細孔の状態が影響する。本発明は、ペースト状に加工され、固体材料が均一に分散した固体試料から溶剤を蒸発除去させることによって、操作あるいは静電気による飛散や偏在を生じることもなく、細孔な内部まで均一に分布し表面積の大きな固体試料を作製することを可能とした。また、こうして作製された固体試料から固体材料成分を均一に昇華させることによって、材料濃度が均一な固体材料ガスを取り出すことができる。
【0011】
本発明は、上記固体材料ガスの供給装置であって、前記分散部が前記供給部と接続され、キャリアガスを分岐する複数の分岐流路と、各分岐流路に設けられ、前記トレーに載置され、前記試料設置部に設置された固体試料に対してキャリアガスが噴射される1以上の噴出口を有することを特徴とする。
均一な固体材料ガスの形成には、試料設置部に導入されるキャリアガスの分散機能が重要な役割を果たす。本発明は、キャリアガスを分岐し、分岐流路に設けられた1以上の噴出口から分散されたキャリアガスをトレーに載置された固体試料に対して供給することによって、優れた分散機能を形成し、固体材料を均一に昇華させるとともに、材料濃度の均一な固体材料ガスを取り出すことを可能とした。
【0012】
また、本発明は、上記供給装置を用いた固体材料ガスの供給方法であって、
以下の前置工程によって作製された固体試料を設置し、キャリアガスにより所定量の固体材料の昇華・供給を行うことを特徴とする。
(1)粉状または顆粒状の固体材料を準備する工程
(2)所定容量の容器内に、所定量の前記固体材料を採取する工程
(3)前記容器内に、所定量の溶剤を添加し、前記固体材料と混合・攪拌し、ペースト状の固体材料を作製する工程
(4)前記ペースト状の固体材料を、平坦面を有する成型体に形成する工程
(5)前記固体試料を、所定の密閉容器に静置し、不活性ガス雰囲気下で溶剤を蒸発除去させて固体試料を作製する工程
材料濃度の安定性を確保するためには、固体試料からの個体材料成分の安定した昇華が1つの重要な要素となる。本発明は、所定の溶剤による固体材料のペースト状の形成、その後の溶剤の蒸発除去を行なうことによって、操作あるいは静電気による飛散や偏在を生じることもなく、固体試料の表面から固体材料を均一に昇華させるとともに、均一に分散されたキャリアガスに同伴させることによって、安定した濃度の固体材料ガスを供給することが可能となった。
【0013】
本発明は、上記固体材料ガスの供給方法であって、前記固体試料が載置された固体試料設置用のトレーを試料設置部に設置し、分散されたキャリアガスを該試料設置部に供給し、前記試料設置部から供出され、固体材料を同伴するキャリアガスを分散・混合し、固体材料ガスとして供出することを特徴とする。
上記のような前置工程によって作製された固体試料は、固体試料の表面から固体材料を均一に昇華させることが可能であり、専用のトレーに載置された状態で、均一に分散されたキャリアガスに同伴させることによって、安定した濃度の固体材料成分を含む固体材料ガスを作製し、供出することができる。
【0014】
本発明は、上記固体材料ガスの供給方法であって、前記固体材料ガス中の固体材料の濃度と前記キャリアガスの流量を監視するとともに、予め求めた前記固体試料の残量と前記固体材料ガス中の固体材料の濃度との関係を基に、前記固体試料中の固体材料の残量を管理することを特徴とする。
試料設置部内の固体材料の残量は、固体材料ガスの材料濃度に大きな影響を与える。つまり、後述するように、固体材料の残量が所定量以下となると、昇華された固体材料の総量だけではなく、残量自体および固体材料の形状や形態等(性状)によって、材料濃度の低下を招来することが判った。本発明は、固体材料ガス中の固体材料の濃度とキャリアガスの流量を監視することによって昇華された固体材料の総量を把握するとともに、予め求めた前記固体試料の残量と前記固体材料ガス中の固体材料の濃度との関係を基に固体試料中の固体材料の残量を管理することによって、固体材料ガスの材料濃度の安定化を図るものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る固体材料ガスの供給装置の基本構成例を示す概略図
【図2】本発明に係る固体試料の作製手順を例示する説明図
【図3】本発明に係る固体材料ガスの供給装置の第2の構成例を示す概略図
【図4】固体材料ガス中の固体材料成分濃度の固体試料の残量に対する依存度を例示する説明図
【図5】従来技術に係る液体および固体材料の蒸発のための蒸発器配送システムを例示する概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る固体材料ガスの供給装置(以下「本装置」という)およびこれを用いた固体材料ガスの供給方法(以下「本方法」という)の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本装置は、固体試料を作製する固体試料作製手段と、キャリアガスが供給される供給部と、供給されたキャリアガスを分散させる分散部と、固体試料が設置される試料設置部と、試料設置部から供出される固体材料ガスが供出される供出部と、を有することを特徴とする。固体材料に溶剤を添加してペースト状に加工し、溶剤を蒸発除去させて作製された固体試料に分散されたキャリアガスを接触させることによって、操作あるいは静電気による飛散や偏在を生じることもなく、固体材料を均一に昇華させるとともに、材料濃度の均一な固体材料ガスを取り出すことができる。
【0017】
ここでいう「固体材料」は、既述のように、広く工業的に用いられる所定の温度で昇華(気化)する固体の材料をいい、具体的には、例えば塩化ハフニウム(HfCL)や塩化ジルコニウム(ZrCL)等の無機金属化合物、トリメチルインジウム((CHIn),ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(MgH[(CH])等の固体有機金属化合物、あるいはフタル酸(C(COOH))やナフタレン(C10)あるいはアントラセン(C1410)等の固体有機化合物を挙げることができる。一般に常温(20〜30℃)常圧(約0.1MPa)で固体の材料(例えば塩化ハフニウム等)に加え、ここでは、広く加圧条件下あるいは低温条件下において固体の材料をも含む。下表1に、固体材料、設定温度およびそのときの蒸気圧を例示する。むろん、これらの物質および設定条件に限定されるものではない。
【0018】
【表1】

【0019】
また、キャリアガスは、反応性が低く安定性の高いガスが好ましく、例えばヘリウムやアルゴン等の希ガスあるいは窒素ガス等を用いることができる。また、固体材料の昇華を安定的に行なうためには、熱容量の大きなキャリアガスが好ましく、アルゴンガスが好適である。
【0020】
<固体材料ガスの供給装置の基本構成例>
図1は、本装置の基本構成例(第1構成例)の供給装置本体を示す概略図である。本装置は、前置処理手段となる固体試料作製手段(図示せず、詳細は後述する)を含め、キャリアガスCの供給部1と、キャリアガスCの分散手段2と、固体試料Sが設置される試料設置部3と、試料設置部3から供出される固体材料ガスGを合流させる供出室4と、から構成される。また、試料設置部3を容器10の外部から加熱する加熱部5が設けられることが好ましい。上表1のように、各固体試料Sに応じた設定温度に加熱することによって固体試料Sの昇華(気化)を促し、所定の材料濃度の固体材料ガスGを供給することが可能となる。
【0021】
供給部1から供給されたキャリアガスCは、試料設置部3の中心部に配設された分散手段2によって、試料設置部3内全体に放射状に噴出される。キャリアガスCの噴出の方向は、トレー3aに載置された固体試料Sの表面を掃くように、試料設置部3の水平方向となるようにすることが好ましい。試料設置部3内に均等に分散されたキャリアガスCは、固体試料Sと接触し、昇華する固体材料成分を同伴し、混合・攪拌されながら試料設置部3から、これに繋がる供出室4を介して、固体材料ガスGとして供出される。
【0022】
処理対象となる固体試料Sは、操作あるいは静電気による飛散や偏在を生じることもなく、トレー3aに載置された状態で、試料設置部3に所定量設置される。固体試料Sの形状は、特に制限されないが、キャリアガスCとの接触面積が大きく、ペレットあるいは多孔質体やハニカム等に成形されたものが好ましい。試料設置部3に設置された固体試料Sは、昇華された減少量が把握され、所定時間ごとに補充あるいは交換される。
【0023】
本装置のキャリアガスCの分散手段2は、キャリアガスCを試料設置部3の垂直断面において試料設置部3内の各所から噴出させる構成を有することによって、分散室3内に広く分散させることができる。分散手段2は、供給部1と接続され、試料設置部3との境界に分散機能を有する部材を設けた構成が好ましい。分散機能を有する部材は、例えば、数10〜数100メッシュの孔径を有し、所定の厚み(例えば数mm程度)を有するステンレスその他の材質からなる金網、細孔付き金属板、金属焼結体、グラスウール等あるいは多孔質セラミックス等を用いることができる。キャリアガスCの供給流路と試料設置部3を仕切るとともに、キャリアガスCの均一な分散機能と同時に、キャリアガスCの均一加熱機能(熱拡散機能)を有することができる。これによって、試料設置部3に設置された固体試料SとキャリアガスCの均等な接触かつ均一な熱伝導を形成することができ均一な材料濃度と均一な温度特性を有する固体材料ガスGを形成し、供出することができる。
【0024】
トレー3aは、試料設置部3の水平方向に、中心部から外周部に対して放射状にかつ複数の固体試料Sが均等に載置できる構成が好ましい。均一に分散されたキャリアガスCとの均等な接触を図り、均一な材料濃度を有する固体材料ガスGを形成することができる。また、トレー3aは、試料設置部3の垂直方向に複数段のトレー3aが配設できる構成が好ましい。所定の容量の容器内に複数の固体試料Sを効率よく収容しながら、キャリアガスCとの均等な接触を確保し、均一な材料濃度を有する固体材料ガスGを形成することができる。
【0025】
固体試料Sの残量は、後述する〔検証〕結果を利用することによって監視することができる。つまり、固体材料の残量が所定量以下となると、昇華された固体材料の総量だけではなく、残量自体および固体材料の形状や形態等(性状)によって、材料濃度の低下を招来するとの知見から、固体材料ガスG中の材料濃度とキャリアガスCの流量を監視するとともに、予め求めた固体試料Sの残量と固体材料ガス中Gの材料濃度との関係を基に、固体試料S中の固体材料の残量を管理することができる。具体的な残量の算出および管理方法の詳細については、後述する。また、得られた固体試料Sの残量情報を利用して、キャリアガスCの流量を調整することによって、安定した材料濃度を有する固体材料ガスGを供給することができる。つまり、監視された試料設置部3内の残量が設定量よりも少なくなり、補充までに所定の時間が必要な場合には、全体のキャリアガスCの流量を減少させることによって、所定の材料濃度を確保することができる。キャリアガスCの流量は、分岐流路2aに設けられた絞り弁や開閉弁あるいはダンバー等(図示せず)によって調整することができる。
【0026】
〔固体試料作製手段〕
固体試料Sは、不活性ガス導入部および固体試料設置用のトレー3aを有する固体試料作製手段において作製される(図示せず)。溶剤を添加してペースト状に加工された固体材料を不活性ガス雰囲気中に大気圧下で静置し、溶剤を蒸発除去させてトレー3aに載置された固体試料Sが作製される。ペースト状に加工され、固体材料が均一に分散した固体試料から溶剤を蒸発除去させることによって、操作あるいは静電気による飛散や偏在を生じることもなく、細孔な内部まで均一に分布し表面積の大きな固体試料Sを作製することができる。
【0027】
<本装置による固体材料ガスの供給方法>
次に、本装置において、固体試料Sを作製するプロセス、および試料設置部3に所定量の固体試料Sが設置され、試料設置部3が所定温度に加温された状態で、キャリアガスCを導入し、所定の材料濃度の固体材料ガスGを取り出すプロセスについて詳述する。
【0028】
〔固体試料を作製するプロセス〕
固体材料ガスGの供給プロセスにおいて、以下の前置工程によって固体試料Sが作製される。所定の溶剤による固体材料のペースト状の形成、その後の溶剤の蒸発除去を行なうことによって、表面から固体材料を均一に昇華させることができる固体試料Sを作製することができる。
【0029】
図2に例示する手順に従い、詳細を説明する。
(1)固体材料を準備する工程
常態として粉状または顆粒状の固体材料を、所定量準備する。不揃いの粒状の固体材料の場合には、粉砕して粉状または顆粒状とすることが好ましい。また、反応性を有する固体材料の場合には、以下の操作は不活性ガス雰囲気中で行なわれる。
(2)固体材料を採取する工程
所定容量の容器を準備し、所定量の固体材料を採取し容器内に投入する。固体材料の成型にバインダーが必要な場合には、予め所定量のバインダーを準備して容器内に投入し、固体材料と混合する。
(3)溶剤を添加し、固体材料と混合・攪拌する工程
容器内に、所定量の溶剤を添加し、固体材料と混合・攪拌する。混合・攪拌時に発熱する固体材料にあっては、溶剤の添加速度および混合・攪拌速度を制御する。
(4)ペースト状の固体材料を作製する工程
容器内で、固体材料と溶剤を均一に混合・攪拌し、ペースト状の固体材料を作製する。
(5)成型体を形成する工程
ペースト状の固体材料から、平坦面を有する成型体を形成する。所定の型枠にペースト状の固体材料を流し込む方法や容器を型枠として用いる方法等を用いることができる。
(6)溶剤を蒸発除去する工程
固体試料を、所定の密閉容器に静置し、不活性ガス雰囲気下で溶剤を蒸発除去させる。不活性ガスを流通させる方法や密閉容器を減圧する方法等を用いることができる。本装置では、成型されたペースト状の固体材料が、固体試料充填用のトレーに載置された状態で溶剤を蒸発・除去処理される。
(7)固体試料を作製する工程
溶剤を蒸発除去させて固体試料Sを作製する。成型体を構成する平坦面から昇華した個体材料成分をキャリアガスに同伴させることによって、安定した濃度の固体材料ガスを供給することができる。
【0030】
〔固体試料を設置し固体材料ガスを供給するプロセス〕
(1)固体試料の設置
作製された固体試料Sは、平坦面を上面としてトレー3aに載置した状態で、供給装置本体の試料設置部3内に設置される。キャリアガスCとの接触を効率よく行なうことができる。このとき、トレー3aは、上記のように、試料設置部3の水平方向に中心部から外周部に対して放射状にかつ複数の固体試料Sが均等に載置され、垂直方向に複数段のトレー3aが配設されることが好ましい。
【0031】
(2)キャリアガスの供給
固体試料Sが設置された状態で、キャリアガスCが、供給部1から供給される。供給されるキャリアガスCの圧力および流量は、所望の設定値に調整される。圧力および流量条件の調整は、供給装置への供給前後のいずれにも限定されるものではない。
【0032】
(3)キャリアガスの分散
供給されたキャリアガスCは、まず供給部1に接続された分散手段2によって分散された状態で、試料設置部3に導入される。このとき、キャリアガスCは、試料設置部3の水平断面において分散しながら噴射されるとともに、試料設置部3の垂直断面においても分配され試料設置部3内に噴出させることによって、試料設置部3内に広く分散させることができる。
【0033】
(4)固体材料ガスの作製
試料設置部3内に広く分散されたキャリアガスCは、各固体試料Sに応じた設定温度に加熱された条件で、トレー3aにおいて固体試料Sとの接触により、昇華された所望の固体材料成分の蒸気圧を有する固体材料ガスGが作製される。予め所望の空間速度となるように、キャリアガスCの流量と試料設置部3の容積を設定することによって、十分な接触時間を確保し、安定した材料濃度の固体材料ガスGを得ることができる。固体材料ガスGの作製に伴い、固体試料Sの上表面から固体試料Sの減量が生じる。固体試料Sの減少は、監視窓Wによる目視の監視あるいは後述する光センサ出力による監視によって把握することができる。固体試料Sの減少に伴う材料濃度の低下は、所定量以上のトレー3a(固体試料S)を設置することによって防止することができる。
【0034】
(5)固体材料ガスの供給
試料設置部3において作製された固体材料ガスGは、試料設置部3の上部空間において合流し、混合・均一化されて所望の材料濃度の固体材料ガスGが作製される。作製された固体材料ガスGは、供出部4から供出される。
【0035】
<固体材料ガスの供給装置の他の構成例>
図3は、本装置の第2構成例を示す概略図である。本装置は、試料設置部3内部に、分散部2が供給部1と接続されキャリアガスCを分岐する複数の分岐流路6と、各分岐流路6に設けられ、トレー3aに載置され、試料設置部3に設置された固体試料Sに対してキャリアガスCが噴射される1以上の噴出口6aを有する。トレー3aに載置された固体試料Sの上表面に対して、分散部2において分散されたキャリアガスCによる水平方向からの接触と同時に、噴出口6aからの分岐・分散されたキャリアガスCによる垂直方向からの接触によって、優れた分散機能を形成し、固体材料を均一に昇華させるとともに、材料濃度の均一な固体材料ガスGを取り出すことができる。各固体試料Sの昇華効率の向上は、試料設置部3内の配置による各固体試料Sにおける固体材料の昇華率のバラツキをなくし、より均一化された固体材料ガスGを形成することができる。
【0036】
分岐流路6は、1〜20本の範囲が好ましいが、試料設置部3の容量と固体試料Sの物性によってはこの範囲に限らない。噴出口6aは、直径0.2mm〜3mmの範囲が好ましいが、試料設置部3の容量,固体試料Sの物性,分岐流路6の配管径によってはこの範囲に限らない。噴出口6aの位置は、分岐流路6の末端部分から上流数cmの範囲に設けることができる。噴出口6aの個数は、1の分岐流路6当り1〜数10程度が好ましい。なお、供給部1からガス噴出口6aまでの構造はシャワーヘッド状としてもよい。また、噴出口6aに伝熱性が高く、耐食性のある多孔性の部材を設けることも可能である。固体試料Sに対する垂直方向から噴射されるキャリアガスCを、さらに分散させることによって、固体試料Sに接触するキャリアガスCの均一性をさらに向上させることができる。
【0037】
〔本装置および本方法の検証〕
本装置あるいは本方法において作製された固体試料Sの機能を、固体材料として、四塩化ハフニウム(HfCl)を用い、以下の通り検証した。
【0038】
(i)検証条件
常態である粉状のHfCl(以下「粉体試料」という)と、本装置あるいは本方法において作製された固体試料S(以下単に「固体試料S」という)を各々750g採取し、ステンレス製トレー(トレー3aに相当)8個に分取してステンレス特殊容器(本装置本体に相当、以下「容器」という)に挿入した。
【0039】
(ii)固体試料Sの作製
固体試料Sは、窒素雰囲気としたグローブボックス内において、ステンレス容器中に固体材料である粉状のHfCl750gを採取し、溶剤としてn−ヘキサン100gを添加した。テフロン(TM)製スパチュラを用いてHfCl/ヘキサン混合物を攪拌し、ペースト状とした。得られたペーストをステンレス製トレー8個に分取し、ペースト表面をテフロン(TM)製ヘラを用いて平坦にした。このトレーをグローブボックス内に12時間静置してn−ヘキサンを蒸発させた。蒸発前後の重量差を計測することによりn−ヘキサンの蒸発完了を確認した(設置時には850gであったペーストの重量はn−ヘキサン蒸発後には750gとなった)。
【0040】
(iii)検証項目
固体試料Sと粉体試料を用いて「HfCLの残量のHfCL濃度に対する依存度」について検証した。具体的には、両試料が設置された容器を横90℃まで横転させ、10分間放置した後に両容器を起こし、容器から導出される固体材料濃度を測定した。恒温器を用いて150℃に加熱し、Nキャリアガス0.1SLMを導入した場合の固体材料濃度変化を追跡した。なお、固体材料濃度の計測にはTCD検出器(Valco社製、Microvolume TCD TCD2−NIFE−110)を使用した。
【0041】
(iv)検証結果
以上の検証条件の下で、固体試料Sと粉体試料について、図4に例示するような「HfCLの残量のHfCL濃度に対する依存度」に係る検証結果を得た。
(iv−1)固体試料Sの場合には、トレー内に均一にHfClが配置されていることから、残量100%(設置初期)から10%(90%消費時)まで、一定濃度の気化が確認された。HfClは容器内で昇華し、キャリアガスに同伴して導出されるが、キャリアガスは均一な固体材料HfClからなる固体試料Sの表面上を通過するため、濃度も一定となった。
(iv−2)一方、粉状試料の場合には、容器を傾斜させたことにより、トレー内のHfCl分布に偏りが発生したこと、トレーからHfClが落下したことにより、キャリアガスの流路がHfClの比較的少ない経路に偏るため全体的濃度が低くなった。また残量が40%以下になるとHfClに接触しない流路が増加する(HfClが乗っていないトレー部分を通過する)ことから、濃度が低下した。
【0042】
(v)まとめ
以上のように、ペースト状の固体試料Sを用いることによって、移送中の傾斜の影響を受けなくすることができるとともに、キャリアガスCとの均一な接触による安定した固体成分の昇華、その結果安定した材料濃度を有する固体材料ガスGの供給ができることを確認することができた。
【0043】
<固体試料の残量の算出および管理方法>
本装置においては、上記検証結果のように、予め供給対象となる固体材料について、固体試料Sの残量と固体材料ガスG中の材料濃度との関係を求めることによって、固体試料S中の固体材料の残量を管理することができる。
【0044】
〔固体試料の残量の算出〕
固体材料ガスG中の材料濃度MとキャリアガスCの流量Fを監視することによって、固体試料Sから昇華した固体材料の減量ΔSを算出することができる。つまり、下式1のように、材料濃度と流量により単位時間当りの減量が算出され、これを積算(Σ)することによって、減量ΔSが算出される。
ΔS=Σ(M×F) …(式1)
従って、固体材料の初期設定値Soから減量ΔSを減算することによって、固体試料Sの残量(通常、固体試料S中の固体材料の残量と等価となる)を算出することができる。
また、固体試料Sの追加あるいは交換が必要となる程度の固体試料Sの減量状態では、固体試料Sの減量の進行は、固体材料ガスG中の材料濃度の低下に伴うことから、予め求めた「固体試料の残量と固体材料ガス中の材料濃度との関係」を基に、固体試料中の固体材料の残量を得ることができる(関係式から演算可能な場合には、残量を算出することができる)。
【0045】
〔固体試料の管理方法〕
上記のように、固体試料S中の固体材料の残量を精度よく把握(算出)することができることは、本装置において長期間固体材料ガスGを安定した材料濃度で供給することを可能とする。つまり、固体材料の残量を監視することによって、予め求めた「固体試料の残量と固体材料ガス中の材料濃度との関係」を基に、材料濃度を精度よく予測し管理することができる。また、固体試料S中の固体材料の残量を基に、固体試料Sの追加あるいは交換が必要となる時期あるいは固体材料の量を推算することができることから、固体試料Sの準備等の保守管理することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 供給部
2 分散部
3 試料設置部
3a トレー
4 供出部
5 加熱部
6 分岐流路
6a 噴出口
C キャリアガス
G 固体材料ガス
S 固体試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスにより所定量の昇華・供給が可能な固体材料に溶剤を添加してペースト状に加工し、該溶剤を蒸発除去させて固体試料を作製する固体試料作製手段を有し、
キャリアガスが供給される供給部と、供給されたキャリアガスを分散させる分散部と、前記固体試料が設置される試料設置部と、該試料設置部から供出される固体材料ガスが供出される供出部と、を有することを特徴とする固体材料ガスの供給装置。
【請求項2】
前記固体試料作製手段が、不活性ガス導入部および固体試料設置用のトレーを有し、ペースト状に加工された固体材料を該不活性ガス雰囲気中に大気圧下で静置し、前記溶剤を蒸発除去させて前記トレーに載置された固体試料を作製することを特徴とする請求項1記載の固体材料ガスの供給装置。
【請求項3】
前記分散部が前記供給部と接続され、キャリアガスを分岐する複数の分岐流路と、各分岐流路に設けられ、前記トレーに載置され、前記試料設置部に設置された固体試料に対してキャリアガスが噴射される1以上の噴出口を有することを特徴とする請求項1または2記載の固体材料ガスの供給装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の固体材料ガスの供給装置を用い、以下の前置工程によって作製された固体試料を設置し、キャリアガスにより所定量の固体材料の昇華・供給を行うことを特徴とする固体材料ガスの供給方法。
(1)粉状または顆粒状の固体材料を準備する工程
(2)所定容量の容器内に、所定量の前記固体材料を採取する工程
(3)前記容器内に、所定量の溶剤を添加し、前記固体材料と混合・攪拌し、ペースト状の固体材料を作製する工程
(4)前記ペースト状の固体材料を、平坦面を有する成型体に形成する工程
(5)前記固体試料を、所定の密閉容器に静置し、不活性ガス雰囲気下で溶剤を蒸発除去させて固体試料を作製する工程
【請求項5】
前記固体試料が載置された固体試料設置用のトレーを試料設置部に設置し、分散されたキャリアガスを該試料設置部に供給し、前記試料設置部から供出され、固体材料を同伴するキャリアガスを分散・混合し、固体材料ガスとして供出することを特徴とする請求項4記載の固体材料ガスの供給方法。
【請求項6】
前記固体材料ガス中の固体材料の濃度と前記キャリアガスの流量を監視するとともに、予め求めた前記固体試料の残量と前記固体材料ガス中の固体材料の濃度との関係を基に、前記固体試料中の固体材料の残量を管理することを特徴とする請求項4または5記載の固体材料ガスの供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−255193(P2012−255193A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129312(P2011−129312)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】