説明

固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材

【課題】接合強度を高められて脱落の虞を低減させ得る固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材を提供すること。
【解決手段】摺動部材1は、摺動面2に凹部3が形成されている摺動部材基体4と、摺動部材基体4の凹部3に埋め込まれた固体潤滑剤5と、固体潤滑剤5の固体潤滑剤本体17及び凸部18によって規定される接着剤溜まり6に収容されていると共に固体潤滑剤5を摺動部材基体4の凹部3に接着している接着剤7とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体潤滑剤及び摺動部材に関し、詳しくは、摺動部材基体の摺動面に形成された凹部、孔又は溝に埋め込まれる固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1においては、摺動部材基体の摺動面に形成された孔または溝に埋め込まれる固体潤滑剤であって、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステルおよび高級脂肪酸アミドから選択される1種または2種以上のワックス類、四ふっ化エチレン樹脂等から成る固体潤滑剤が提案されている。また、例えばご引用文献4及び5においては、摺動部材基体の摺動面に形成された孔または溝に埋め込まれる固体潤滑剤であって、ポリエチレン樹脂、炭化水素系ワックス、メラミンシアヌレート、ポリアミド樹脂、変性ポリエチレン樹脂等から成る固体潤滑剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−179392号公報
【特許文献2】特開2005−171111号公報
【特許文献3】特開2004−339259号公報
【特許文献4】国際公開第2008/029510号
【特許文献5】国際公開第2004/046285号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、斯かる固体潤滑剤は、摺動部材基体の摺動面に形成された孔または溝に接着されることによって接合されるが、斯かる接合強度は、固体潤滑剤の摺動部材基体からの脱落防止の観点より更に高められることが望ましい。
【0005】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、接合強度を高められて脱落の虞を低減させ得る固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固体潤滑剤は、摺動部材基体の摺動面に形成された凹部、孔又は溝に埋め込まれる固体潤滑剤であって、摺動部材基体の凹部、孔又は溝に対して周面で隙間をもって挿入される固体潤滑剤本体と、固体潤滑剤本体が摺動部材基体の凹部、孔又は溝に挿入された際に当該凹部、孔又は溝と固体潤滑剤本体との隙間に配されると共に当該凹部、孔又は溝に突出端で圧接するように、固体潤滑剤本体の周面から突出している凸部とを具備している。
【0007】
本発明の固体潤滑剤によれば、特に、固体潤滑剤本体が摺動部材基体の凹部、孔又は溝に対して周面で隙間をもって挿入されるように形成されており、凸部が、固体潤滑剤本体が摺動部材基体の凹部、孔又は溝に挿入された際に当該凹部、孔又は溝と固体潤滑剤本体との隙間に配されると共に当該凹部、孔又は溝に突出端で圧接するように、固体潤滑剤本体の周面から突出しているために、凸部の突出端が摺動部材基体の凹部、孔又は溝に対して圧接することによって固体潤滑剤を摺動部材基体に接合させることができ、凸部と固体潤滑剤本体の周面とによって規定される空間に接着剤を収容することで固体潤滑剤を摺動部材基体に接合させることができ、しかも、固体潤滑剤の摺動部材基体の凹部、孔又は溝に対する挿抜方向に関して凸部が前記凹部、孔又は溝に接着された接着剤に係合することによって固体潤滑剤を摺動部材基体に接合でき、而して、接合強度を高められて固体潤滑剤の脱落の虞を低減させ得る。
【0008】
本発明の固体潤滑剤の凸部は、摺動部材基体の凹部、孔又は溝に圧接するように固体潤滑剤本体の周面に挿入方向に関して間隔をもって並んで形成された複数の環状凸部又は摺動部材基体の凹部、孔又は溝に圧接するように固体潤滑剤本体の周面に形成された螺旋状凸部からなっていてもよく、斯かる場合には、複数の環状凸部又は螺旋状凸部が摺動部材基体の凹部、孔又は溝に対して圧接することによって固体潤滑剤を摺動部材基体に接合させることができ、複数の環状凸部又は螺旋状凸部と固体潤滑剤本体の周面とによって規定される空間を接着剤溜まりとして用いて当該接着剤溜まりに接着剤を収容することで固体潤滑剤を摺動部材基体に接合させることができ、しかも、固体潤滑剤の摺動部材基体の凹部、孔又は溝に対する挿抜方向に関して複数の環状凸部又は螺旋状凸部を接着剤溜まりにおいて前記凹部、孔又は溝に接着された接着剤に係合させ得ることによって固体潤滑剤を摺動部材基体に接合でき、而して、接合強度を更に高められて固体潤滑剤の脱落の虞を低減させ得る。
【0009】
本発明の固体潤滑剤は、難接着性材料を含んでいてもよく、斯かる場合においても、摺動部材基体の凹部、孔又は溝に対して、凸部の突出端が圧接すると共に接着剤による接着によって接合させることができ、また、仮に固体潤滑剤と接着剤との接着強度が低い場合においても、当該接着剤は、摺動部材基体の凹部、孔又は溝に強固に接着されるために凸部と係合するので、固体潤滑剤が摺動部材基体から脱落する虞をなくし得る。
【0010】
本発明の摺動部材は、摺動面に凹部、孔又は溝が形成されている摺動部材基体と、摺動部材基体の凹部、孔又は溝に埋め込まれた上述の本発明の固体潤滑剤と、当該固体潤滑剤の固体潤滑剤本体及び凸部によって規定される空間に収容されていると共に固体潤滑剤を摺動部材基体の凹部、孔又は溝に接着している接着剤とを具備している。
【0011】
本発明の摺動部材によれば、上述同様に、高い接合強度をもって固体潤滑剤が埋め込まれているために、摺動部材基体の凹部、孔又は溝から固体潤滑剤が脱落する虞をなくし得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合強度を高められて脱落の虞を低減させ得る固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態の例の全体説明図である。
【図2】図1に示す例のII−II線断面矢視説明図である。
【図3】図1に示す例の固体潤滑剤の説明図である。
【図4】図3に示す固体潤滑剤の平面説明図である。
【図5】本発明の実施の形態の例に用いられる他の固体潤滑剤の説明図である。
【図6】図5に示す他の固体潤滑剤の平面説明図である。
【図7】図1に示す例の固体潤滑剤の挿入に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【実施例】
【0015】
図1から図4において、本例の摺動部材1は、高荷重条件下で使用されるものであり、摺動面2に凹部、孔又は溝、本例では凹部3が形成されている摺動部材基体4と、摺動部材基体4の凹部3に埋め込まれた固体潤滑剤5と、固体潤滑剤5の後述の固体潤滑剤本体17及び凸部18によって規定される空間としての接着剤溜まり6に収容されていると共に固体潤滑剤5を摺動部材基体4の凹部3に接着している接着剤7とを具備している。
【0016】
摺動部材基体4は、金属製であり、鉄又は銅合金からなっていてもよい。摺動部材基体4は、例えば板状、円筒状に形成されるが、本例では外周面を摺動面2としてなる円筒状ブッシュの形態からなる。摺動面2には、ドリル、バイト等により加工されて凹部3が複数個形成されているが、他の手段によって凹部3が形成されていてもよい。凹部3は、摺動面2から摺動部材基体4の内周面に向かって窪んでおり、該凹部3の底面10及び周面11において円柱状の空間を規定している。
【0017】
固体潤滑剤5は、四ふっ化エチレン樹脂、インジウム、亜鉛、錫等の軟質金属及びワックス等を含んでなり、特に四ふっ化エチレン樹脂、ワックス等の難接着性材料を主成分としている。前記ワックスは、炭化水素系ワックス、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アルキルベンゼン、マイクロクリスタリンワックス又はこれら2種以上の混合物である炭化水素系ワックスからなっていてもよい。斯かる固体潤滑剤5は、例えば、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステルおよび高級脂肪酸アミドから選択される1種または2種以上のワックス類10〜30重量%と、酸化スズ10〜40重量%と、残部の四ふっ化エチレン樹脂とから成っていてもよい。複数個の凹部3に埋め込まれる固体潤滑剤5の夫々は、凹部3に対して周面15で隙間16をもって挿入される固体潤滑剤本体17と、固体潤滑剤本体17が凹部3に挿入された際に当該凹部3と固体潤滑剤本体17との隙間16に配されると共に当該凹部3に突出端で圧接するように、固体潤滑剤本体17の周面15から突出している凸部18とを具備している。
【0018】
固体潤滑剤本体17は、凹部3に対して相補的な形状を有しており、本例では、円柱状である。固体潤滑剤本体17の外径は凹部3の内径よりも小さくなるように形成されている。
【0019】
凸部18は、例えば図2から図4に示すように、突出端としての突出端縁21で凹部3に圧接するように固体潤滑剤本体17の周面15に形成された環状凸部、好ましくは、挿入方向Aに関して間隔をもって並んで周面15に形成された複数の環状凸部22からなっている。複数の環状凸部22は、全体として蛇腹形状である。
【0020】
複数の環状凸部22は、その突出端縁21の外径が凹部3の内径よりも大きく、凹部3に対して締め代をもって形成されており、固体潤滑剤5が凹部3に挿入された際に凹部3の周面11に締まりばめされている。突出端縁21は、断面において三角形状、台形状を含む四角形状、円形状であってもよい。固体潤滑剤5は、締め代を有する部分が複数の環状凸部22だけであるので、凹部3への挿入時に環状凸部22に弾性変形を生じさせて簡単に挿入することができる。
【0021】
斯かる固体潤滑剤5は、固体潤滑剤本体17と複数の環状凸部22とが一体的に圧縮成形されてなり、例えば図7に示すように凹部3に挿入されると、締め代を有する複数の環状凸部22が弾性変形を生じて凹部3に締まりばめされる。
【0022】
凸部18は、上述の複数の環状凸部22に代えて、例えば図5及び図6に示すように、突出端としての突出端縁23で凹部3に圧接するように固体潤滑剤本体17の周面15に形成された螺旋状凸部24からなっていてもよく、斯かる螺旋状凸部24も複数の環状凸部22の場合と同様に、締め代をもって形成されていてもよく、突出端縁23が断面において三角形状、台形状を含む四角形状、円形状であってもよい。凸部18が螺旋状凸部24からなる場合には、固体潤滑剤5の周面15には螺旋状溝も形成され、当該螺旋状溝が接着剤溜まり6となる。
【0023】
接着剤溜まり6は、挿入方向Aにおいて間隔をもって互いに隣接する環状凸部22間に形成されており、当該環状凸部22と固体潤滑剤本体17の周面15とによって規定されている。斯かる接着剤溜まり6では、固体潤滑剤5が凹部3に挿入された際に、環状凸部22と固体潤滑剤本体17の周面15と凹部3の周面11とによって密封されるため、硬化途中の接着剤7を好適に保持することができる。
【0024】
接着剤7には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられてもよく、常温硬化型の液状エポキシ樹脂若しくは熱硬化型の液状又は粉末状エポキシ樹脂が用いられてもよい。接着剤7は、上述の接着剤溜まり6を含む凹部3と固体潤滑剤5との隙間16に充填されている。
【0025】
本例の摺動部材1によれば、摺動部材基体4の摺動面2に形成された凹部3に埋め込まれる固体潤滑剤5が、凹部3に対して周面15で隙間16をもって挿入される固体潤滑剤本体17と、固体潤滑剤本体17が凹部3に挿入された際に当該凹部3と固体潤滑剤本体17との隙間16に配されると共に当該凹部3に突出端で圧接するように、固体潤滑剤本体17の周面15から突出している凸部18とを具備しているために、凸部18の突出端が凹部3に対して圧接することによって固体潤滑剤5を摺動部材基体4に接合させることができ、凸部18と固体潤滑剤本体17の周面15とによって規定される空間に接着剤7を収容することで固体潤滑剤5を摺動部材基体4に接合させることができ、しかも、固体潤滑剤5の凹部3に対する挿抜方向に関して凸部18が前記凹部3に接着された接着剤7に係合することによって固体潤滑剤5を摺動部材基体4に接合でき、而して、接合強度を高められて固体潤滑剤5の脱落の虞を低減させ得る。
【0026】
摺動部材1によれば、凸部18は、凹部3に圧接するように固体潤滑剤本体17の周面15に挿入方向Aに関して間隔をもって並んで形成された複数の環状凸部22又は摺動部材基体4の凹部3に圧接するように固体潤滑剤本体17の周面15に形成された螺旋状凸部24からなっているために、複数の環状凸部22又は螺旋状凸部24が凹部3に対して圧接することによって固体潤滑剤5を摺動部材基体4に接合させることができ、複数の環状凸部22又は螺旋状凸部24と固体潤滑剤本体17の周面15とによって規定される空間を接着剤溜まり6として用いて当該接着剤溜まり6に接着剤7を収容することで固体潤滑剤5を摺動部材基体4に接合させることができ、しかも、固体潤滑剤5の凹部3に対する挿抜方向に関して複数の環状凸部22又は螺旋状凸部24を接着剤溜まり6において前記凹部3に接着された接着剤7に係合させ得ることによって固体潤滑剤5を摺動部材基体4に接合でき、而して、接合強度を更に高められて固体潤滑剤5の脱落の虞を低減させ得る。
【0027】
摺動部材1の固体潤滑剤5は、本例では難接着性材料を含んでいるが、斯かる場合においても、凹部3に対して、凸部18の突出端が圧接すると共に接着剤7による接着によって接合させることができ、また、仮に固体潤滑剤5と接着剤7との接着強度が低い場合においても、当該接着剤7は、凹部3に強固に接着されるために凸部18と係合するので、固体潤滑剤5が摺動部材基体4から脱落する虞をなくし得る。
【0028】
本例の摺動部材1では、例えば図1に示すように摺動面2が円筒状の摺動部材基体4の外周面に設けられているが、例えば、摺動面2が円筒状の摺動部材基体4の内周面に設けられてもよく、斯かる場合には、固体潤滑剤5は当該摺動部材基体4の内周面側に配設される。また、本例の摺動部材1では、摺動面2に凹部3が形成されているが、これに代えて例えば孔が形成されている場合においても、当該孔に固体潤滑剤5を高い接合強度をもって接合することができるために摺動部材基体4から固体潤滑剤5が脱落する虞をなくし得る。
【符号の説明】
【0029】
1 摺動部材
2 摺動面
3 凹部
4 摺動部材基体
5 固体潤滑剤
6 接着剤溜まり
7 接着剤
18 凸部
22 環状凸部
24 螺旋状凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部材基体の摺動面に形成された凹部、孔又は溝に埋め込まれる固体潤滑剤であって、摺動部材基体の凹部、孔又は溝に対して周面で隙間をもって挿入される固体潤滑剤本体と、固体潤滑剤本体が摺動部材基体の凹部、孔又は溝に挿入された際に当該凹部、孔又は溝と固体潤滑剤本体との隙間に配されると共に当該凹部、孔又は溝に突出端で圧接するように、固体潤滑剤本体の周面から突出している凸部とを具備している固体潤滑剤。
【請求項2】
凸部は、摺動部材基体の凹部、孔又は溝に圧接するように固体潤滑剤本体の周面に挿入方向に関して間隔をもって並んで形成された複数の環状凸部又は摺動部材基体の凹部、孔又は溝に圧接するように固体潤滑剤本体の周面に形成された螺旋状凸部からなっている請求項1に記載の固体潤滑剤。
【請求項3】
難接着性材料を含んでいる請求項1又は2に記載の固体潤滑剤。
【請求項4】
摺動面に凹部、孔又は溝が形成されている摺動部材基体と、摺動部材基体の凹部、孔又は溝に埋め込まれた請求項1から3のいずれか一項に記載の固体潤滑剤と、当該固体潤滑剤の固体潤滑剤本体及び凸部によって規定される空間に収容されていると共に固体潤滑剤を摺動部材基体の凹部、孔又は溝に接着している接着剤とを具備している摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−208100(P2011−208100A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79786(P2010−79786)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】