説明

固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材

【課題】凹所において固体潤滑剤を当該固体潤滑剤の周りでほぼ均等に接着剤を介して摺動部材基体に接着固着でき、しかも、摺動部材基体への接合強度を高められて摺動部材基体からの脱落の虞を低減させ得る上に、使用中での摺動部材基体に対しての変位を防止できる固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材を提供すること。
【解決手段】摺動部材1は、円筒状の摺動面2において開口した貫通孔3を有している円筒状の摺動部材基体4と、摺動部材基体4の貫通孔3の夫々に埋め込まれた固体潤滑剤5と、貫通孔3を規定する摺動部材基体4の円筒状面6及び固体潤滑剤5の外面7によって規定された空間8に収容されていると共に摺動部材基体4の円筒状面6に固体潤滑剤5を接着している接着剤9とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体潤滑剤及びこれを具備した摺動部材に関し、詳しくは、摺動部材基体の摺動面に形成された凹所に埋め込まれる固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1においては、摺動部材基体の摺動面に形成された孔または溝に埋め込まれる固体潤滑剤であって、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステルおよび高級脂肪酸アミドから選択される1種又は2種以上のワックス類、四ふっ化エチレン樹脂等から成る固体潤滑剤が提案されている。また、例えば特許文献4及び5においては、摺動部材基体の摺動面に形成された孔または溝に埋め込まれる固体潤滑剤であって、ポリエチレン樹脂、炭化水素系ワックス、メラミンシアヌレート、ポリアミド樹脂、変性ポリエチレン樹脂等から成る固体潤滑剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−179392号公報
【特許文献2】特開2005−171111号公報
【特許文献3】特開2004−339259号公報
【特許文献4】国際公開第2008/029510号
【特許文献5】国際公開第2004/046285号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、斯かる固体潤滑剤は、摺動部材基体の摺動面に形成された凹所を規定する面に接着されることによって摺動部材基体に接合されるが、斯かる接合強度は、固体潤滑剤の摺動部材基体からの脱落防止の観点より更に高められることが望ましく、加えて、使用中に摺動部材基体に対して固体潤滑剤が変位しないことが望ましい。
【0005】
しかも、固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材を製造する場合、摺動部材基体に埋め込む固体潤滑剤の外径よりも若干大径の凹所を摺動部材基体に予め形成し、この凹所に外周面に接着剤を塗布した固体潤滑剤を中心位置合わせを行って挿入して、挿入後、凹所において固体潤滑剤の周りの接着剤を自然又は強制乾燥させて硬化させ、而して、凹所において固体潤滑剤を摺動部材基体に接着固定を行っているが、接着剤は、固体潤滑剤を摺動部材基体の凹所に挿入する時点から、ある一定時間が経過するまでは、流動性を有した半固形状の状態を呈しているので、例えば、上方に向かって開口された凹所に、外周に接着剤を塗布した固体潤滑剤を鉛直方向の上方から中心位置合わせを行って挿入して当該凹所において接着剤を介して摺動部材基体に固体潤滑剤を接着固定する場合には、外力が加えられない限り、固体潤滑剤が凹所で偏って摺動部材基体に接着固定されることはなく、固体潤滑剤の周りの全体でほぼ均一の厚みをもった接着剤を介して凹所において摺動部材基体に接着固定されて、脱落の虞のない良好に固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材を得ることができるが、これに代えて、水平方向であって横方向に向かって開口された凹所に、同じく、外周に固体潤滑剤を塗布した潤滑剤を水平方向から中心位置合わせを行って挿入して当該凹所において接着剤を介して摺動部材基体に固体潤滑剤を接着固定する場合には、固体潤滑剤の挿入直後では接着剤が流動性を有しているために、固体潤滑剤の自重により当該固体潤滑剤が凹所において変位して、中心位置合わせにも拘らず、凹所において固体潤滑剤が偏って摺動部材基体に接着固定されて、固体潤滑剤の周りにおいて不均一な厚みをもった接着剤を介して凹所において固体潤滑が摺動部材基体に接着固定される虞を有し、したがって、所望する接着強度をもって固体潤滑剤を摺動部材基体に接着固定できない場合があり、最悪の場合には、固体潤滑剤を埋め込んだ摺動部材の使用中に、固体潤滑剤が摺動部材基体から抜け落ちて、摺動部材の摺動性能が急激に劣化する虞がある。
【0006】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、凹所において固体潤滑剤を当該固体潤滑剤の周りでほぼ均等に接着剤を介して摺動部材基体に接着固着でき、しかも、摺動部材基体への接合強度を高められて摺動部材基体からの脱落の虞を低減させ得る上に、使用中での摺動部材基体に対しての変位を防止できる固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の固体潤滑剤は、円筒状周面、一方の端面及びこの一方の端面に対向する他方の端面を有した円柱状の固体潤滑剤本体と、この固体潤滑剤本体の円筒状周面から径方向に一体的に突出していると共に周方向において等角度間隔をもって配置されている少なくとも三個の凸部とを具備している。
【0008】
本発明の固体潤滑剤によれば、固体潤滑剤本体の円筒状周面から径方向に一体的に突出していると共に周方向において等角度間隔をもって配置された少なくとも三個の凸部を具備しているために、周方向における凸部間に空間(接着剤溜り)を形成できるために、摺動部材の製造において、接着剤を塗布した固体潤滑剤を摺動部材基体の円形の凹所に横方から挿入しても、流動する接着剤を凸部間の空間に確保できる結果、接着剤の硬化後も固体潤滑剤本体の周りに接着剤をほぼ均等に配置でき、而して、凹所においてほぼ均等に接着剤を介して摺動部材基体に固体潤滑剤を接着固着でき、したがって、上方に向かって開口された凹所に鉛直方向の上方から接着剤を塗布して挿入する場合は勿論のこと、横方向に向かって開口された凹所に接着剤を塗布した固体潤滑剤を挿入する場合でも、摺動部材基体に強固に固体潤滑剤を接合させることができ、而して、摺動部材基体への固体潤滑剤の接合強度を高め得て、摺動部材基体からの固体潤滑剤の脱落の虞を低減させ得る上に、使用中での摺動部材基体に対しての固体潤滑剤の変位を効果的に防止できる。
【0009】
少なくとも三個の凸部は、好ましくは、固体潤滑剤本体の一方の端面側から当該一方の端面に対向する固体潤滑剤本体の他方の端面側まで連続して伸びており、より好ましくは、固体潤滑剤本体の一方の端面から当該一方の端面に対向する固体潤滑剤本体の他方の端面まで連続して伸びている。
【0010】
本発明において、凹所は、有底の凹部及び溝並びに貫通孔のうちのいずれであってもよい。
【0011】
固体潤滑剤本体の円筒状面は、好ましい例では、少なくとも摺動部材の摺動部材基体の摺動面において開口して当該摺動部材基体に形成された円形の凹所を規定する摺動部材基体の円筒状面の径よりも小さい径を有している。
【0012】
好ましい例では、少なくとも三個の凸部は、固体潤滑剤本体の軸心に関して軸対称に配されており、斯かる例では、摺動部材基体に対しての固体潤滑剤の変位をより効果的に阻止し得て、固体潤滑剤を摺動部材基体により強固に接合させることができ、摺動部材基体からの固体潤滑剤の脱落の虞をより低減させ得る上に、使用中での摺動部材基体に対しての固体潤滑剤の変位をより効果的に防止できる。
【0013】
本発明の固体潤滑剤の凸部の夫々は、その伸びる方向において、相互に異なった長さであってもよいが、好ましい例では、互いに同じ長さであって、固体潤滑剤本体の一方の端面から他方の端面まで伸びており、他の好ましい例では、その突出端で該凹所を規定する摺動部材基体の円筒状面に接触する径方向の高さを有しているが、本発明は、これに限定されず、その突出端と該凹所を規定する摺動部材基体の円筒状面との間に隙間を形成するような径方向の高さを有していても、これに代えて、その突出端で該円筒状面に圧接するような径方向の高さを有していてもよい。
【0014】
本発明の摺動部材は、少なくとも摺動面において開口した凹所を有した摺動部材基体と、この摺動部材基体の凹所に埋め込まれた上述の本発明の固体潤滑剤と、この固体潤滑剤の固体潤滑剤本体の円筒状周面及び凸部の外周面によって規定された少なくとも三個の空間に充填されていると共に凹所を規定する摺動部材基体の円筒状面に固体潤滑剤を接着している接着剤とを具備している。
【0015】
本発明の摺動部材によれば、固体潤滑剤本体の周りの少なくとも三個の空間に充填された接着剤により固体潤滑剤が凹所を規定する摺動部材基体の円筒状面に接着されているために、摺動部材基体の凹所から固体潤滑剤が脱落する虞をなくし得る上に、使用中での摺動部材基体に対する固体潤滑剤の変位を効果的に防止できる。
【0016】
本発明において、摺動部材基体は、板状であっても円筒状であってもよく、また、鉄又は銅合金等からなる金属製であってもよいが、場合により、合成樹脂製であってもよい。
【0017】
好ましい例では、摺動部材基体の凹所は、摺動面において開口した一方の端面と、摺動面に対向した摺動部材基体の他方の外面において開口した他方の端面とを有した貫通孔を具備しており、貫通孔は、その一方の端面からその他方の端面まで同径であり、少なくとも三個の凸部の夫々において、その一方の端面は、摺動部材基体の摺動面と面一になって露出しており、その他方の端面は、摺動部材基体の他方の外面と面一になって露出しており、この場合、少なくとも三個の凸部の夫々の突出端は、貫通孔を規定する摺動部材基体の円筒状面に接していてもよいが、当該円筒状面に対して接着剤が充填された多少の隙間をもって対峙していてもよい。
【0018】
他の好ましい例では、摺動部材基体の凹所は、小径の貫通孔と、この小径の貫通孔よりも大径であって当該小径の貫通孔に連通した大径の貫通孔とを具備しており、凹所を規定する円筒状面は、小径の貫通孔を規定する小径円筒状面と、大径の貫通孔を規定する大径円筒状面とを有しており、固体潤滑剤本体は、該小径の貫通孔に配されていると共に該小径円筒状面に密着している円筒状周面を有した一の本体部と、該大径の貫通孔に配されていると共に少なくとも三個の凸部が一体的に突出している円筒状周面を有した他の一の本体部とを具備しており、該接着剤は、他の一の本体部の円筒状周面及び凸部の外周面によって規定された少なくとも三個の空間に充填されていると共に大径の貫通孔を規定する大径円筒状面に他の一の本体部を接着しており、この場合、少なくとも三個の凸部の夫々の突出端は、大径の貫通孔を規定する大径円筒状面に接していてもよいが、当該大径円筒状面に対して接着剤が充填された多少の隙間をもって大径円筒状面に対峙していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、凹所において固体潤滑剤を当該固体潤滑剤の周りでほぼ均等に接着剤を介して摺動部材基体に接着固着でき、しかも、摺動部材基体への接合強度を高められて摺動部材基体からの脱落の虞を低減させ得る上に、使用中での摺動部材基体に対しての変位を防止できる固体潤滑剤及び該固体潤滑剤が埋め込まれた摺動部材を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の例の全体斜視説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例の固体潤滑剤の正面説明図である。
【図3】図3は、図2に示す例の固体潤滑剤の平面説明図である。
【図4】図4は、図1に示す例のIV−IV線矢視断面説明図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態の他の例の説明図である。
【図6】図6は、図5に示す例の摺動部材の内周面の一部拡大説明図である。
【図7】図7は、図5に示す例のVII−VII線矢視断面説明図である。
【図8】図8は、図5に示す例の固体潤滑剤の埋込み方法の説明図である。
【図9】図9は、図5に示す例の固体潤滑剤の埋込み方法の説明図である。
【図10】図10は、図5に示す例をハウジングに装着した滑り軸受装置の例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【実施例】
【0022】
図1から図4において、本例の摺動部材1は、一方の外面である円筒状の摺動面2において開口した凹所としての複数、本例では四個の貫通孔3を有している円筒状の摺動部材基体4と、摺動部材基体4の貫通孔3の夫々に埋め込まれた固体潤滑剤5と、貫通孔3を規定する摺動部材基体4の円筒状面6及び固体潤滑剤5の外面7によって規定された四個の円弧状の空間8に収容されていると共に摺動部材基体4の円筒状面6に固体潤滑剤5を接着している接着剤9とを具備している。
【0023】
鉄又は銅合金からなる金属製であって円筒状の内周面を摺動面2としていると共に円筒状ブッシュの形態からなる摺動部材基体4にドリル、バイト等により穿孔されていると共に摺動部材基体4の円筒状面6で規定された四個の円形の貫通孔3の夫々は、その一方の端面では摺動面2で開口しており、その他方の端面では摺動面2に対向した摺動部材基体4の他方の外面である円筒状の外周面10で開口して、当該一方の端面から他方の端面まで同径をもって伸びている。
【0024】
固体潤滑剤5は、焼成された人造黒鉛を主成分としたものであってもよく、またこれに代えて、四ふっ化エチレン樹脂、インジウム、亜鉛、錫等の軟質金属及びワックス等を含んでなるものであってもよく、特に四ふっ化エチレン樹脂、ワックス等の難接着性材料を主成分としており、ワックスが、炭化水素系ワックス、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アルキルベンゼン、マイクロクリスタリンワックス又はこれら2種以上の混合物である炭化水素系ワックスからなっていてもよい。斯かる固体潤滑剤5は、例えば、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステルおよび高級脂肪酸アミドから選択される1種または2種以上のワックス類10〜30重量%と、酸化スズ10〜40重量%と、残部の四ふっ化エチレン樹脂とからなっていてもよい。
【0025】
貫通孔3の夫々に埋め込まれる固体潤滑剤5の夫々は、円筒状周面15、円形の一方の端面16及び端面16に対向する円形の他方の端面17を有した円柱状の固体潤滑剤本体18と、固体潤滑剤本体18の円筒状周面15から径方向に一体的に突出していると共に端面16から端面17まで連続して伸びた少なくとも三個、本例では四個の凸部19とを具備している。
【0026】
固体潤滑剤5において、円筒状周面15は、貫通孔3を規定する摺動部材基体4の円筒状面6の径よりも小さい径を有しており、端面16は、摺動部材基体4の摺動面2と面一になって露出しており、端面17は、摺動部材基体4の外周面10と面一になって露出しており、四個の凸部19は、固体潤滑剤本体18の軸心Oに関して軸対称であってR周方向において等角度間隔(等中心角度間隔)をもって配置されており、凸部19の夫々は、その突出端20で円筒状面6に接触する径方向の高さを有しており、凸部19の夫々において、端面16と面一になっているその一方の端面22は、摺動部材基体4の摺動面2とも面一になって露出しており、端面17と面一になっているその他方の端面23は、摺動部材基体4の外周面10とも面一になって露出している。
【0027】
端面16及び端面16と面一になっている凸部19の一方の端面22は、円筒状の摺動面2と同一の曲率をもって凹に湾曲しており、端面17及び端面17と面一になっている凸部19の他方の端面23は、円筒状の外周面10と同一の曲率をもって凸に湾曲している。
【0028】
固体潤滑剤5の外面7は、固体潤滑剤本体18の円筒状周面15と凸部19の表面21とからなり、而して、固体潤滑剤本体18の円筒状周面15の周り配された四個の空間8は、円筒状面6、円筒状周面15及び表面21とによって規定されており、空間8の夫々に隙間なしに充填された接着剤9には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられてもよく、常温硬化型の液状エポキシ樹脂若しくは熱硬化型の液状又は粉末状エポキシ樹脂が用いられてもよく、接着剤9は、これらが硬化されて、端面16及び17から外部に突出することなしに空間8に配されて、摺動部材基体4の円筒状面6に固体潤滑剤5を接着している。
【0029】
以上の摺動部材1は、摺動面2、端面16、端面22及び接着剤9の一方の端面で規定される円孔25に配される回転軸26(図10参照)を回転自在に支持し、回転軸26の回転において摺動面2に適宜固体潤滑剤5を供給して回転軸26の滑らかな回転を確保するようになっている。
【0030】
摺動部材1においては、固体潤滑剤5は、固体潤滑剤本体18の円筒状周面15から径方向に一体的に突出して固体潤滑剤本体18の一方の端面16から他方の端面17まで連続して伸びていると共に周方向Rにおいて等角度間隔をもって配置された四個の凸部19を具備しているために、斯かる固体潤滑剤5においては、周方向Rにおける凸部19間に径方向寸法がほぼ同じ空間8(接着剤9溜り)を形成できるために、摺動部材1の製造において、硬化前の接着剤9を周りに塗布した固体潤滑剤5を摺動部材基体4の貫通孔3に横方から挿入しても空間8に硬化前の流動する接着剤9を確保できる結果、接着剤9の硬化後も固体潤滑剤本体18の周りに接着剤9をほぼ均等に配置でき、而して、貫通孔3においてほぼ均等に接着剤9を介して摺動部材基体4に固体潤滑剤5を接着固着でき、したがって、上方に向かって開口された貫通孔3に鉛直方向の上方から硬化前の接着剤9を塗布した固体潤滑剤5を挿入する場合は勿論のこと、横方向に向かって開口された貫通孔3に接着剤9を塗布した固体潤滑剤5を挿入する場合でも、摺動部材基体4に固体潤滑剤5を強固に接合させることができ、而して、摺動部材基体4への接合強度を高め得て、摺動部材基体4からの固体潤滑剤5の脱落の虞を低減させ得る上に、使用中での摺動部材基体4に対しての固体潤滑剤5の変位を効果的に防止できる。
【0031】
上記の摺動部材1では、円筒状の摺動部材基体4の内周面を摺動面2としたが、これに代えて、円筒状の摺動部材基体4の外周面10を摺動面としてもよく、また、凹所として、貫通孔3を摺動部材基体4に形成したが、これに代えて、例えば摺動面でのみ開口する有底の凹部又は溝を摺動部材基体4に形成してもよい。
【0032】
上記の摺動部材1では、凹所は、一方の端面から他方の端面まで同径である貫通孔3を具備しているが、これに代えて、図5から図7に示すように、凹所は、摺動部材基体4の摺動面2において固体潤滑剤本体18の一方の端面16を露出させるように当該摺動面2において開口した小径の円形の貫通孔31と、貫通孔31に連通すると共に外周面10において固体潤滑剤本体18の他方の端面17及び凸部19の他方の端面23を露出させるように当該外周面10において開口した大径の円形の貫通孔32とを具備していてもよく、この場合、貫通孔32の径よりも小径の貫通孔31は、摺動部材基体4の小径円筒状面33によって規定されており、大径の貫通孔32は、小径円筒状面33より大径の摺動部材基体4の円形の大径円筒状面34によって規定されており、摺動部材基体4の円筒状面6は、小径円筒状面33と大径円筒状面34とからなり、固体潤滑剤本体18は、小径の貫通孔31に配されていると共に該小径円筒状面33に密着している円筒状周面15を有した本体部41と、大径の貫通孔32に配されていると共に四個の凸部19が一体的に突出している円筒状周面15を有した本体部42とを一体的に具備しており、接着剤9は、本体部42の円筒状周面15及び凸部19の表面21によって規定された四個の空間8の夫々に充填されていると共に大径の貫通孔32を規定する大径円筒状面34に本体部42を接着しており、凸部19の夫々は、その突出端20で大径円筒状面34に接している。
【0033】
図5から図7に示す摺動部材1は、硬化前の接着剤9を周囲に塗布した図1から図4に示す固体潤滑剤5を、図8及び図9に示すように、外周面10側から貫通孔32及び貫通孔31に押し込んで、この押し込みにおいて、小径円筒状面33によって凸部19の夫々を固体潤滑剤本体18の円筒状周面15から削り取るようにして、本体部41を形成するようにしてもよく、この場合、固体潤滑剤本体18の円筒状周面15も若干削り取るようにして、本体部41を小径円筒状面33に隙間なしにぴったりと埋め込むようにしてもよく、これに代えて、接着剤9を塗布していない固体潤滑剤5の押し込み後、空間8に接着剤9を流し込むようにしてもよい。
【0034】
図5から図7に示す摺動部材1においても、摺動面2、端面16及び接着剤9の一方の端面で規定される円孔25に配される回転軸26(図10参照)を回転自在に支持し、回転軸26の回転において摺動面2に適宜固体潤滑剤5を供給して回転軸26の滑らかな回転を確保するようになっている。
【0035】
図5から図7に示す摺動部材1の製造において、硬化前の接着剤9を周りに塗布した固体潤滑剤5を摺動部材基体4の貫通孔32に横方から挿入しても、空間8に硬化前の流動する接着剤9を確保できる結果、接着剤9の硬化後も貫通孔32において固体潤滑剤本体18の周りに接着剤9をほぼ均等に配置でき、而して、貫通孔32においてほぼ均等に接着剤9を介して摺動部材基体4に本体部42を接着固着でき、したがって、上方に向かって開口された貫通孔32に鉛直方向の上方から硬化前の接着剤9を塗布した固体潤滑剤5を挿入する場合は勿論のこと、横方向に向かって開口された貫通孔32に接着剤9を塗布した固体潤滑剤5を挿入する場合でも、摺動部材基体4に本体部42を強固に接合させることができ、加えて、図5から図7に示す摺動部材1においては、固体潤滑剤5は、本体部41では貫通孔31に中心位置決めされて小径円筒状面33に隙間なしにぴったりと嵌合されて埋め込まれている一方、本体部42では貫通孔32に中心位置決めされて周りにほぼ均等に配置された接着剤9でもって大径円筒状面34に接着されて埋め込まれている結果、摺動部材基体4への固体潤滑剤5の接合強度を更に高め得て、摺動部材基体4からの固体潤滑剤5の脱落の虞を大きく低減させ得る上に、使用中での摺動部材基体4に対しての固体潤滑剤5の変位をより効果的に防止できる上に、本体部42により本体部41の摺動面2からの意図しない抜け出しを確実に防止できる。
【0036】
斯かる摺動部材1を図10に示すように円筒状のハウジング50内に嵌着して回転軸26を摺動面2で回転自在に支持するようした滑り軸受装置に用いると、本体部42による本体部41の摺動面2からの突出、抜け出し防止作用を効果的に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 摺動部材
2 摺動面
3 貫通孔
4 摺動部材基体
5 固体潤滑剤
6 円筒状面
7 外面
8 空間
9 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状周面、一方の端面及びこの一方の端面に対向する他方の端面を有した円柱状の固体潤滑剤本体と、この固体潤滑剤本体の円筒状周面から径方向に一体的に突出していると共に周方向において等角度間隔をもって配置されている少なくとも三個の凸部とを具備している固体潤滑剤。
【請求項2】
少なくとも三個の凸部は、固体潤滑剤本体の一方の端面側から当該一方の端面に対向する固体潤滑剤本体の他方の端面側まで連続して伸びている請求項1に記載の固体潤滑剤。
【請求項3】
固体潤滑剤本体の円筒状周面は、少なくとも摺動部材の摺動部材基体の摺動面において開口して当該摺動部材基体に形成された円形の凹所を規定する摺動部材基体の円筒状面の径よりも小さい径を有している請求項1又は2に記載の固体潤滑剤。
【請求項4】
少なくとも三個の凸部は、固体潤滑剤本体の軸心に関して軸対称に配されている請求項1から3のいずれか一項に記載の固体潤滑剤。
【請求項5】
凸部の夫々は、その突出端で前記凹所を規定する摺動部材基体の円筒状面に接触する径方向の高さを有している求項1から4のいずれか一項に記載の固体潤滑剤。
【請求項6】
少なくとも摺動面において開口した凹所を有した摺動部材基体と、この摺動部材基体の凹所に埋め込まれた請求項1から5のいずれか一項に記載の固体潤滑剤と、この固体潤滑剤の固体潤滑剤本体の円筒状周面及び凸部の外周面によって規定された少なくとも三個の空間に充填されていると共に凹所を規定する摺動部材基体の円筒状面に固体潤滑剤を接着している接着剤とを具備している摺動部材。
【請求項7】
摺動部材基体の凹所は、摺動面において開口した一方の端面と、摺動面に対向した摺動部材基体の他方の外面において開口した他方の端面とを有した貫通孔を具備しており、貫通孔は、その一方の端面からその他方の端面まで同径であり、少なくとも三個の凸部の夫々において、その一方の端面は、摺動部材基体の摺動面と面一になって露出しており、その他方の端面は、摺動部材基体の他方の外面と面一になって露出している請求項6に記載の摺動部材。
【請求項8】
少なくとも三個の凸部の夫々の突出端は、貫通孔を規定する摺動部材基体の円筒状面に接している請求項6又は7に記載の摺動部材。
【請求項9】
摺動部材基体の凹所は、小径の貫通孔と、この小径の貫通孔よりも大径であって当該小径の貫通孔に連通した大径の貫通孔とを具備しており、凹所を規定する円筒状面は、小径の貫通孔を規定する小径円筒状面と、大径の貫通孔を規定する大径円筒状面とを有しており、固体潤滑剤本体は、該小径の貫通孔に配されていると共に該小径円筒状面に密着している円筒状周面を有した一の本体部と、該大径の貫通孔に配されていると共に少なくとも三個の凸部が一体的に突出している円筒状周面を有した他の一の本体部とを具備しており、該接着剤は、他の一の本体部の円筒状周面及び凸部の外周面によって規定された少なくとも三個の空間に充填されていると共に大径の貫通孔を規定する大径円筒状面に他の一の本体部を接着している請求項6に記載の摺動部材。
【請求項10】
少なくとも三個の凸部の夫々は、その突出端で大径の貫通孔を規定する大径円筒状面に接している請求項9に記載の摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−14645(P2013−14645A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146809(P2011−146809)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】