説明

固体潤滑剤系硬化被膜の剥離剤及び剥離方法

【課題】アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜に対して、優れた剥離性と部品への防食性を有し、硬化被膜の剥離後に、部品の再利用を可能にする剥離剤及び剥離方法を提供すること。
【解決手段】アミン系溶剤と、1価アルコール系溶剤及び/または2価アルコール系溶剤と、リン酸エステル系化合物と、水とを含む剥離剤で、高温高圧下の厳しい環境下でも使用されるアルミウニウムまたはアルミニウム合金製の部品に強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離除去し、かつ、部品を溶解または変色または劣化させることなく、再度硬化被膜を形成することが可能な状態に戻すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離する剥離剤及び剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、「アルミニウム合金」という)を素材とする部品または部材は、軽量ですぐれた耐蝕性、高電気伝導性、高伝熱性、無毒性を有し、各種構造材料、建築用材料、機械部品、内燃機関などに広く使用されている。特に、近年車両用内燃機関において、軽量化、燃費向上性のためエンジン部品としても多く用いられている。
【0003】
そのなかでも摺動、摺接部品としての内燃機関におけるピストン部品、シリンダ部品、軸受メタル部品は、高加重かつ高温の中で高速で相対運動するため、材料の表面が摩擦・摩耗して損傷しやすいという問題がある。これを防止するため、従来から二硫化モリブデンやグラファイトに代表される固体潤滑剤が使用されている。固体潤滑剤をオイルやグリースに分散したものを用いて潤滑性を上げる方法と、固体潤滑剤をPTFE樹脂やエポキシ樹脂やポリイミド樹脂などに混ぜたものを部品に塗装またはフィルム状に接着させて潤滑性を上げる方法があり、いずれも固体潤滑剤が接触面に硬化被膜を作り、発熱や焼付きを防いで耐摩耗性を上げるものである。
【0004】
特に自動車エンジン用ピストン部品は主に後者の方法(特許文献1)を取っているが、ピンホール発生などの塗装不良やフィルム被膜の密着不良が生じる場合が数十%も生じ、被膜を剥離し、再塗装する必要が生じていたり、または硬化被膜の耐摩耗性が経時的に低下した場合など、それを除去、剥離することが必要となってきている。
従来から各種除去、剥離方法が検討されているが、いずれも十分満足できるものではなく、簡易で十分な除去が困難なため、廃棄するか、高温で溶解してアルミニウムの合金塊に戻す方法が取られているのが実情である。
【0005】
従来の被膜除去、剥離方法としては、各種方法が検討されてきており、大きくは機械的除去方法と化学的除去方法の2種類に区別できる。
機械的除去方法として、(1)プラスチックや金属の粒を高速噴射して衝撃力で剥離する方法、化学的除去方法として、(2)一般的な塗装剥離剤すなわち塩化メチレンに代表されるハロゲン系溶剤(特許文献2)、(3)トルエンに代表されるシンナー系溶剤、(4)アルコール系溶剤及びグリコール系溶剤及びピロリドン系溶剤(特許文献3)、(5)水酸化ナトリウムに代表される無機アルカリ液または2-アミノエタノールに代表される有機アルカリ液に浸漬して剥離する方法(特許文献4)や、アルミウニムおよびスチールなどの金属用として、(6)テトラヒドロフルフリルアルコール、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンおよびジエチレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選ばれる剥離剤(特許文献5)、(7)有機酸類、芳香族アルコール類、グリコールエーテル類、及びグリコール類から選ばれる二種以上と、無機酸類を含有する水溶液からなる塗膜剥離剤組成物(特許文献6)などがある。
【0006】
しかし、上記の従来技術では、次の各種技術的問題がある。
(1)プラスチックや金属の粒子を高速噴射して衝撃力で剥離する方法は、比較的柔らかいアルミニウム合金の表面を傷つけるという問題がある。また、剥がれた皮膜片が混ざるため、一度使用した粒子を再使用できず、大量の粒子を必要とするという問題がある。
(2)ハロゲン系溶剤は、不燃性で、かつ、剥離性も優れている。しかし、毒性が高くオゾン層破壊や地下水汚染等、環境への影響の問題がある。
(3)シンナー系溶剤は、常温でも引火の危険性が高い上、剥離性が低いという問題がある。
(4)アルコール系溶剤及びグリコール系溶剤及びピロリドン系溶剤は、引火の危険性が低く、水を一定割合混ぜて引火点をなくすことができる。しかし剥離性が低いという問題がある。
(5)無機アルカリ液は、不燃性だが、剥離性が低いという問題がある。また、アルミニウム合金を溶かすという問題があり、また有機アルカリ液は、引火の危険性が低く、水を一定割合混ぜて引火点をなくすことができる。しかし剥離性が低いという問題や、アルミニウム合金を溶かすという問題がある
(6)アルミおよびスチール製の缶および管等を、効率よく再生するため剥離効率の良いとしているものの、ピロリドン系溶剤を使用しているので剥離性が低いという問題がある。
(7)アルミニウム系材料を素材とする塗装品に対する塗膜剥離剤であるが、有機酸類及び無機酸類を使用しており、使用環境上問題があり、アルミニウム部品を溶解ないし変色させるという問題もある。
さらに(6)(7)とも、アルミウニムおよびスチールなどの金属用、アルミニウムを対象とするものの一般の塗装被膜の剥離用であって、本発明のような高温高圧下の厳しい環境下でも使用されるアルミウニウム合金製の部品に強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離除去するものは対象とはしておらず、強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を十分剥離することはできない。
【0007】
特に、上記の固体潤滑剤系の硬化被膜を従来の剥離剤を使用して剥離するのには長時間を要したり、たとえ剥離できたとしても、材質の表面が変色してしまい、そのままでは再塗装することもできないという問題が生じていた。また剥離剤自体に使用環境上問題あったり、剥離処理後の廃液処理にも問題が生じていた。
【0008】
【特許文献1】特開平7−97517号公報
【特許文献2】特公昭62−59749号公報
【特許文献3】特開平10−7954号公報
【特許文献4】特開2002−275394号公報
【特許文献5】特開平9−87879号公報
【特許文献6】特開平11−21482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜に対して、優れた剥離性と部品への防食性を有し、硬化被膜の剥離後に部品の再塗装などの再利用を可能とする、使用環境にも優しく、処理後の廃液処理にも問題のない剥離剤または剥離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アミン系溶剤と、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤と、リン酸エステル系化合物と、水とを含む剥離剤で、アルミニウム合金製の部品に強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離除去し、かつ、部品を溶解または変色または劣化させることなく、再度被膜形成可能な再利用可能な状態に戻すことができ、かつ使用環境上悪影響せず、処理液の処分にも問題が生じないことを見出し、本発明に至った。
また本発明者らは、剥離剤が、アミン系溶剤5〜45重量%と、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤30〜65重量%と、リン酸エステル系化合物0.5〜25重量%と、水5〜45重量%とを含む場合、アルミニウム合金製の部品に強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を確実に剥離除去し、かつ、部品を溶解または変色または劣化させることなく、再度被膜形成可能な再利用可能な状態に戻すことができ、かつ使用環境上悪影響せず、処理液の処分にも問題が生じないことを見出し、本発明に至った。
【0011】
さらに本発明者らは、アミン系溶剤と、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤と、リン酸エステル系化合物と、水とを含む剥離剤を、50〜100℃に加温して、アルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離する剥離方法により、アルミニウム合金製の部品に強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離除去し、かつ、部品を溶解または変色または劣化させることなく、再度被膜形成可能な再利用可能な状態に戻すことができ、かつ使用環境上悪影響せず、処理液の処分にも問題が生じないことを見出し、本発明に至った。
このアルミニウム合金製の部品が、内燃機関におけるピストン部品、シリンダ部品、軸受メタル部品である場合には、強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を確実に剥離除去し、かつ、部品を溶解または変色または劣化させることなく、再度被膜形成可能な再利用可能な状態に戻すことができ、かつ使用環境上悪影響せず、処理液の処分にも問題が生じないことが明らかとなった。
【0012】
すなわち、本発明は、次に関するものである。
(1)アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離する剥離剤であって、アミン系溶剤と、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤と、リン酸エステル系化合物と、水とを含むことを特徴とする剥離剤。
(2)アミン系溶剤が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン及びN,N-ジエチルエタノールアミンのうち、少なくとも一つを含む上記(1)記載の剥離剤。
(3)1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤が、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル及びジエチレングリコールモノベンジルエーテルのうち、少なくとも一つを含む上記(1)または(2)記載の剥離剤。
(4)リン酸エステル系化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸及びその塩、及びアルキルリン酸及びその塩のうち、少なくとも一つを含む上記(1)〜(3)のいずれかに記載の剥離剤。
(5)剥離剤が、アミン系溶剤5〜45重量%と、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤30〜65重量%と、リン酸エステル系化合物0.5〜25重量%と、水5〜45重量%とを含む上記の(1)〜(4)いずれかに記載の剥離剤。
(6)上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の剥離剤を、50〜100℃に加温して、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離する剥離方法。
(7)アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品が、内燃機関におけるピストン部品、シリンダ部品、軸受メタル部品である上記(6)記載の剥離方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の固体潤滑剤系の硬化被膜の剥離剤及び剥離方法は、アルミニウム合金製の部品に強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜に対して、優れた剥離性と部品への防食性を有し、硬化被膜の剥離後に、そのままで部品に再度硬化被膜を形成することができ、かつ使用環境上悪影響せず、処理液の処分にも問題が生じないで再利用を可能とする剥離剤及びその剥離方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
本発明において剥離剤は、アミン系溶剤と、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤と、リン酸エステル系化合物と、水とを含む剥離剤である。
アミン系溶剤は、塗膜に対して濡れ性を与える作用をなすものである。アミン系溶剤としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン及びジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロオキシド、トリイソプロパノールアミン、モルホリン、2-(ジエチルアミノ)エタノール、2-(ジメチルアミノ)エタノールなどが挙げられるが、これらのうち、少なくとも一つを含むものである。特に、好ましくは濡れ性、安全衛生および経済性から第1級アミンとしてのモノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミンである。
【0015】
本発明におけるアミン系溶剤の配合量は、剥離剤全体の5〜45重量%が好ましく、5重量%未満では剥離性が低すぎて、実使用に耐えなくなる。45重量%を超えると、アルカリ性のアミン系溶剤が、アルミニウム合金の材質に及ぼす影響が強まる恐れがあり、また1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤の割合を維持する場合は水の割合が少なくなって分離しやすくなり、取扱いが難しくなる。また、水の割合を維持する場合は1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤の割合が少なくなって剥離性が低くなってしまうという問題が生じる。アミン系溶剤の配合量は、剥離剤全体の5〜45重量%が好ましく、さらに好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは10〜30重量%である。
【0016】
本発明の剥離剤に配合される1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤は、塗膜に対して濡れやすく膨潤させる作用をなすものである。1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤としての1価アルコール系溶剤は、炭素数1〜4のメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、4-メチルベンジルアルコール、2-エチルベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどの芳香族アルコールのうちから少なくとも一つを含むものであり、好ましくは芳香族アルコールであり、特に好ましくは、ベンジルアルコールである。 2価アルコール系溶剤としては、モノ、ジ、あるいはトリエチレングリコール、及びそれらのメチル、エチル、プロピル、及びブチルエーテルの群から選ばれる少なくとも一つを含むものであり。具体的には、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコールなどが挙げられる。このうち少なくとも一つを含むものであり、好ましくはジエチレングリコールモノエチルエーテル及びジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテルである。
【0017】
本発明における1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤の配合量は、好ましくは他の成分の割合を踏まえて剥離剤全体の30〜65重量%が好ましい。特に好ましくは、45〜65重量%である。本発明の剥離剤は1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤の少なくとも2種を含むのが好ましく、より好ましくは安価なベンジルアルコールとジエチレングリコールモノエチルエーテル、ベンジルアルコールとジエチレングリコールモノブチルエーテルとの組み合わせで配合されるのがよい。
【0018】
本発明の剥離剤に配合されるリン酸エステル系化合物は、通常防錆剤として用いられるものであるが、アルミニウム合金の表面にゆるやかに作用し変色するのを防いでいると思われる。リン酸エステル系化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸及びその塩(アルキルの炭素数4〜18。エチレンオキサイドのモル数1〜8。ナトリウム塩及びカリウム塩及びアミン塩)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸及びその塩(アルキルの炭素数4〜18。エチレンオキサイドのモル数1〜8。ナトリウム塩及びカリウム塩及びアミン塩)、アルキルリン酸及びその塩(アルキルの炭素数4〜18。ナトリウム塩及びカリウム塩及びアミン塩)等が挙げられるが、これらのうち、少なくとも一つを含むものである。特に、好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩である。
【0019】
本発明におけるリン酸エステル系化合物の配合量は、剥離剤全体の0.5〜25重量%が好ましい。0.5重量%未満ではアルミニウム及びアルミニウム合金の材質に影響して、実使用に耐えなくなる可能性がある。25重量%を超えると、アミン系溶剤及び、1価及び/または2価のアルコール系溶剤の割合を維持する場合は水の割合が少なくなるため、リン酸エステル系化合物が溶けにくくなって分離しやすくなり、取扱いが難しくなることがある。また、水の割合を維持する場合は、アミン系溶剤及び、1価及び/または2価のアルコール系溶剤の割合が少なくなるため、剥離性が低くなる。好ましくは1〜25重量%である。
【0020】
本発明の剥離剤における水としては、上記各溶剤成分を希釈するものであるが、剥離剤全体の5〜45重量%含まれるものが好ましい。5重量%未満では、リン酸エステル系化合物が溶けにくくなって分離しやすくなるし、アミン系溶剤及び、1価及び/または2価のアルコール系溶剤による引火点が低くなり火災が発生する危険性がたかくなる。45重量%を超えると、剥離性が低すぎて実使用に耐えなくなる。
また各成分の割合が上記最適量の範囲をはずれると、剥離液は各成分が均一に溶解せず、分離してしまう。しかし、わずかな微分離程度ならば、剥離性や材質影響は少なく、また加温したり、軽く撹拌することなどにより均一に混合するため特に、問題はない。ただ、完全に各成分が均一に溶解せず、完全に分離すると、剥離対象物品の剥離液に接触した場所に応じて、まだらに塗膜が剥離したり、まだらに変色したりするという問題が生じるものである。
【0021】
本発明における剥離剤には必要に応じて適宜、従来の剥離剤に配合されている各種界面活性剤、キレート剤、防食剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、増粘剤、顔料などの着色剤、香料などを添加してもよい。また剥離操作の際、蒸発や空気中の酸素との酸化反応による剥離剤の組成変化・劣化を最小限に抑えるために、パラフィンなどを使用して剥離剤の表面をシールすることもできる。
【0022】
本発明の剥離剤は、上記した各成分を配合したものであるが、使用する各成分が比較的揮発性が低いため、組成変動が少なく、長期間安定して良好な剥離効果が発揮できる。また各成分は人体に有害な成分を含まないもので、操作上安全で、かつ剥離剤が水性処理剤であるので剥離処理後の廃液処理も容易である。
【0023】
本発明の剥離方法は、被剥離物品に本発明の剥離剤を接触させればいかなる方法でもよく、通常の浸漬、塗布、スプレー、シャワーなどの方法によって大気中で常温ないし加熱下で接触させればかまわないが、加熱下の方が剥離を促進することができる。特に本発明の剥離剤を加温した状態での剥離剤槽に被剥離物品を浸漬あるいは揺動浸漬して剥離する剥離方法が最も好ましい。これにより、アルミニウム合金製の部品に強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離除去し、かつ、部品を溶解または変色または劣化させることなく、再度被膜形成可能な再利用可能な状態に戻すことができるものである。
【0024】
本発明の剥離方法は、剥離剤を常温又は常温〜100℃に加温した剥離剤槽、特に50〜100℃に加温した剥離剤槽に、硬化被膜を有するアルミニウム合金製の部品を、好ましくは1分から4時間浸漬あるいは揺動浸漬し、その後通常の洗浄・乾燥で剥離剤を除去すればよく、例えば水、アセトン、イソプロピルアルコールなどを用いて洗浄したのち、室温で乾燥すればよい。
【0025】
本発明の剥離剤を使用し得る対象としての被剥離物は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品または部材を対象とするのが最適である。剥離される塗装物の例としては、内燃機関部品、車両用部品、機械部品、電気電子部品、建材、構造物など各種分野の部品を対象とすることができる。そのなかでも、本発明の剥離剤は、アルミニウム合金からなる部品に強固に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を有する部品であって、このアルミニウム合金製の部品が、内燃機関におけるエンジン用ピストン部品、シリンダ部品、軸受メタル部品である場合に特に有効である。
【実施例】
【0026】
以下には、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0027】
<剥離対象物品、試料被膜>自動車用エンジンピストン部品:AC8A(JISH5202)(銅:0.8〜1.3%、ニッケル:0.8〜1.5%、マグネシウム:0.7〜1.3%、ケイ素:11〜13%、アルミニウム:残量)のスカート部分(面積約10cm)に、固体潤滑剤(二硫化モリブデン20重量%とグラファイト5重量%とポリアミドイミド樹脂50重量%とポリテトラフルオロエチレン樹脂5重量%を、N-メチル-2-ピロリドンに混ぜた物)を乾燥時の膜厚が約20μmになるようスプレー塗装して、200℃で120分間焼き付けた物を剥離対象物品(以下「対象物品」という)とした。図1には、ピストン部品の斜視図を示す。スカート部分の黒い部分が固体潤滑剤硬化被膜を形成した個所であり、本発明では、この部分の固体潤滑剤硬化被膜を剥離するものである。
【0028】
<剥離方法>固体潤滑剤が付着したピストン部品を、剥離剤としての下記液剤1〜25、比較液剤1〜19にそれぞれ液温25℃〜100℃で浸漬して、4時間を限度に塗膜が剥離するまでの時間を調べた。その後、水洗して室温で乾燥させてから、材質影響を調べた。
【0029】
<評価手段、方法>剥離時間は、目視により塗膜が完全に剥離するまでの時間で評価した。表面の変色状態を目視により、材質に影響しているか、ないし変色の状態を見て評価した。また、液剤の各成分が均一に溶解しているか、いないかを液剤の外観として評価した。
【0030】
[実施例1〜6、比較例1]
液剤1〜6は、Aモノイソプロパノールアミン25重量%、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル15重量%、ベンジルアルコール30重量%、CフォスファノールRA600(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸)を0.5〜25添加して、残部を水として調整したもの、比較液剤1としてフォスファノールRA600を入れず、残りを水とし調整したものを表1に示す。液剤1〜6、比較液剤1は、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。
実施例1〜6は、液剤1〜6を用い、比較例1は比較液剤1を用い、液剤の温度を90℃として、対象物品について、剥離処理を行った。剥離処理の結果を以下に示す。
【表1】

【0031】
結果:実施例1〜6は、いずれもリン酸エステル系化合物(フォスファノールRA600)の配合割合0.5〜25重量%の範囲であり、この範囲内なら、30分で完全に剥離でき、材質にも変色などの影響は全くなかった。リン酸エステル系化合物を配合していない比較例1は30分で完全に剥離したが、材質表面が茶色に変色してしまい、再塗装することはできなかった。
【0032】
[実施例7〜11]
液剤7〜11は、Aモノイソプロパノールアミン25重量%、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル15重量%、ベンジルアルコール30重量%、C各種リン酸エステル系化合物として、フォスファノールRA600(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸)、フォスファノールBH650(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸)、フォスファノールML240(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸)、フォスファノールRB410(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸)、フォスファノールLP700、フォスファノールML200をそれぞれ5重量%添加して、残部を水として調整したもので表2に示す。液剤7〜11は、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。
実施例7〜11は、液剤7〜11を用い、液剤の温度を90℃とし、対象物品について、剥離処理を行った。剥離処理の結果を以下に示す。
【表2】

【0033】
結果:実施例7〜11、及び上記実施例2は、各種リン酸エステル系化合物を5重量%配合して調整した液剤7〜11、2を使用して剥離処理したものであるが、材質に影響なく、30分で完全に剥離できていた。したがって、各種リン酸エステル系化合物の種類にかかわらず、剥離時間は30分で剥離でき、材質にも変色など影響しないことが理解できた。
【0034】
[実施例12〜18]
液剤12〜18は、A各種アミン系溶剤として、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミンを25重量%、Bジエチレングリコールモノブチルエーテル15重量%、ベンジルアルコール30重量%、CフォスファノールRA600(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸)を10重量%添加して、残部を水として調整したもので表3に示す。液剤12〜18は、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。
実施例12〜18は、液剤12〜18を用い、液剤の温度を90℃とし、対象物品について、剥離処理を行った。剥離処理の結果を表4に示す。
【表3】

【0035】
【表4】

結果:実施例12〜18のいずれのアミン系溶剤でも、20分から120分以内には完全に剥離でき、材質にも変色など影響しなかった。なかでも、剥離時間からするとモノエタノールアミン(剥離時間20分)、ジエタノールアミン(剥離時間20分)、ジイソプロパノールアミン(剥離時間30分)を用いることが最適である。
【0036】
[実施例19〜21]
液剤19〜21は、アミン系溶剤として、Aモノイソプロパノールアミン45、5、10重量%、Bエチレングリコールモノベンジルエーテル30重量%、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル45重量%、ベンジルアルコール40重量%とジエチレングリコールモノブチルエーテル25重量%、CフォスファノールRA600(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸)を5重量%添加して、残部を水とし調整したもので表5に示す。液剤19〜21は、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。
実施例19〜21は、液剤19〜21を用い、液剤の温度を90℃とし、対象物品について、剥離処理を行った。剥離処理の結果を以下に示す。
【表5】

【0037】
結果:実施例19〜21とも、材質には変色などの影響はなく剥離できた。実施例19の場合、剥離時間120分に対して、実施例20の場合、剥離時間240分かかり、アミン系溶剤の多い場合の方が、剥離時間が短くできる。また、一価アルコールと二価アルコールを併用の液剤21を用いた実施例21の場合、剥離時間30分であるのに対して、二価アルコールのみの液剤19の場合である実施例19は、剥離時間120分、液剤20の場合である実施例20は、剥離時間240分であり、一価アルコールと二価アルコールを併用した方が、剥離時間は短く剥離性は良好なものである。
【0038】
[実施例22]
実施例22は、液剤2、液剤6を用い対象物品について、液剤の温度を100℃、90℃、50℃と変えて剥離処理をした。液剤2、6は、50℃〜100℃においては、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。剥離処理の結果を表6に示す。
【0039】
【表6】

処理温度が50℃、90℃、100℃と上昇するにつれて、剥離時間は240分、30分、30分と短くなることがわかった。
【0040】
[比較例2〜5]
剥離剤を、従来から用いられている塩化メチレン100重量%(比較液剤2)、トルエン100重量%(比較液剤3)、N-メチル-2-ピロリドン100重量%(比較液剤4)、水酸化ナトリウム70重量%と水30重量%(比較液剤5)とし表7に示す。比較液剤2〜5は、いずれも単一溶剤系または均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。
比較例2〜5は、比較液剤2〜5を用い対象物品について剥離処理した。塩化メチレンは揮発性が高く常温でしか使用できないため、比較例2は、剥離液の温度25℃で剥離処理をした。比較例3、5も同様、剥離液の温度25℃で剥離処理をした。また比較例4は、剥離液の温度90℃で剥離処理をした。剥離処理の結果を以下に示す。
【0041】
【表7】

【0042】
結果 比較例2、3、4は、240分処理しても剥離できなかった。比較例5は、対象物品が、30分たつと、激しく泡を出して溶けだしてしまい、これ以上処理することは困難であった。
【0043】
[比較例6〜9]
剥離剤を、従来から用いられているモノエタノールアミン100重量%(比較液剤6)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル100重量%(比較液剤7)、ベンジルアルコール100重量%(比較液剤8)、水100重量%(比較液剤9)とし表8に示す。比較液剤6〜9は、いずれも単一溶剤系であり、液剤の外観は透明であった。
比較例6〜9は、比較液剤6〜9を用い、対象物品について剥離液の温度90℃で剥離処理をした。剥離処理の結果を表9に示す。
【表8】

【0044】
【表9】

結果 比較例6、9は、240分処理しても剥離できず、対象物品が30分で茶色に変色してしまった。比較例7、8は、240分処理しても剥離できなかった。
【0045】
[比較例10〜13]
剥離剤を、従来からアルミニウム用防錆剤として用いられている脂肪酸アミン塩、有機酸アミン塩、メタケイ酸ナトリウム、ピロリン酸カリウムとし、Aモノイソプロパノールアミン25重量%、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル15重量%、ベンジルアルコール30重量%添加して、残部を水として調整したものを比較液剤10〜13として表10に示す。比較液剤10、11は、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。比較液剤12、13は、いずれもメタケイ酸ナトリウム、ピロリン酸カリウムが溶けず分離したままであった。
比較例10〜13は、比較液剤10〜13を用い、対象物品について剥離液の温度90℃で剥離処理をした。剥離処理の結果を表11に示す。
【0046】
【表10】

【0047】
【表11】

比較例10、11は、リン酸系エステル系化合物にかえて、従来からアルミニウム用防錆剤として用いられている脂肪酸アミン塩、有機酸アミン塩を10重量%に調整した剥離剤を用いたものであるが、30分経過で剥離できたが、30分すると材質表面が茶色に変色してしまった。比較例12、13は、リン酸系エステル系化合物にかえて、従来からアルミニウム用防錆剤として用いられているメタケイ酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム1重量%に調整した剥離剤を用いたものであって、30分経過で剥離できたが、30分すると材質表面が白色に変色してしまった。
【0048】
[比較例14〜19]
剥離剤を、Aモノイソプロパノールアミン25重量%、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル20重量%、ベンジルアルコール30重量%、CフォスファノールRA60025重量%添加して調整(比較液剤14)、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル20重量%、ベンジルアルコール25重量%、CフォスファノールRA600 5重量%、残部を水として調整(比較液剤15)、Aモノイソプロパノールアミン50重量%、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル10重量%、ベンジルアルコール25重量%、CフォスファノールRA600 5重量%、残部を水として調整(比較液剤16)、Aモノイソプロパノールアミン35重量%、Bベンジルアルコール25重量%、CフォスファノールRA600 5重量%、残部を水とて調整(比較液剤17)、Aモノイソプロパノールアミン15重量%、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル30重量%、ベンジルアルコール40重量%、CフォスファノールRA600 5重量%、残部を水として調整(比較液剤18)、Aモノイソプロパノールアミン25重量%、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル10重量%、ベンジルアルコール30重量%、CフォスファノールRA600 30重量%、残部を水として調整(比較液剤19)して、比較液剤14〜19として表12に示す。
【0049】
このときの液剤の外観は次のとおりである。比較液剤14は、各成分が混ざらず分離した。比較液剤15は、25℃では、各成分が均一に溶解せず微分離したが、50〜100℃では、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。比較液剤16〜18は、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。比較液剤19は、25℃では、均一に溶解し、液剤の外観は透明であったが、50〜100℃では、各成分が均一に混ざらず分離した。
比較例14〜19は、比較液剤14〜19を用い、対象物品について剥離液の温度90℃で剥離処理をした。剥離処理の結果を表13に示す。
【0050】
【表12】

【0051】
【表13】

比較例14は、水を含まない剥離剤であり、液剤の外観は、各成分が分離し透明にならないものであって、剥離状態は、まだらに剥離したもの、即ち一部は30分から1時間で剥離したが、全体剥離には至らなかったもので、材質表面もまだらに変色した状態であった。
比較例15は、アミン系溶剤を含まず、水が多い剥離剤であるが、240分処理しても剥離できなかった。
比較例16は、アミン系溶剤が多い剥離剤であって、120分処理で剥離できたが、材質表面は茶色に変色してしまった。
比較例17は、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤が少ない剥離剤であり、比較例18は、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤が多い剥離剤であるが、いずれも240分処理しても剥離できなかった。
比較例19は、リン酸エステル系化合物が多い剥離剤であるが、液剤の外観は、25℃では、均一に溶解し透明であったが、50〜100℃では、各成分が分離し透明にならないものであって、剥離状態は、まだらに剥離したもの、即ち一部は30分から1時間で剥離したが、全体剥離には至らなかったもので、材質表面もまだらに変色した状態であった。
【0052】
[実施例23〜26]
液剤22〜25は、アミン系溶剤として、Aモノイソプロパノールアミン5、45、35、20重量%、Bジエチレングリコールモノエチルエーテル20、10、0、30重量%、ベンジルアルコール25、25、30、35重量%、CフォスファノールRA600(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸)を5重量%添加して、残部を水とし調整したもので表14に示す。液剤22〜25は、いずれも均一に溶解し、液剤の外観は透明であった。
実施例23〜26は液剤22〜25を用い、液剤の温度を90℃とし、対象物品について、剥離処理を行った。剥離処理の結果を表15に示す。
【表14】

【0053】
【表15】

結果:実施例23〜26とも、材質には変色などの影響はなく剥離できた。実施例23、25の場合剥離時間240分、実施例24の場合剥離時間120分かかり、実施例26の場合剥離時間180分であった。
実施例23と比較例15とを対比すると、実施例23はアミン系溶剤5重量%であるが、比較例15はアミン系溶剤を含まず、その分水が多くなっている。実施例23では、240分で剥離できて、材質にも影響していないが、比較例15では、240分で剥離できなかった。
実施例24と比較例16とを対比すると、実施例24はアミン系溶剤45重量%であるが、比較例16はアミン系溶剤を50重量%と多く含み、その分水が少なくなっている。実施例24では、120分で剥離できて、材質にも影響していないが、比較例16では、120分で剥離できているが、材質が茶色に変色してしまい、そのままでは再塗装することはできなかった。
実施例25と比較例17とを対比すると、実施例25は1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤30重量%であるが、比較例17は1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤を25重量%と少なく含み、その分水が多くなっている。実施例25では、240分で剥離できて、材質にも影響していないが、比較例17では、240分でも剥離できなかった。
以上のとおり、アミン系溶剤、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤が最適量の範囲をはずれると、剥離性は一般的に悪くなることが理解できる。しかし、その場合でもリン酸エステル系化合物の配合量が最適範囲内では、材質には影響しない場合もあることも理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、アルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を、使用環境上悪影響することなく、優れた剥離性と部品への変色などの影響ない防食性をもって容易に剥離・除去することができ、再度硬化被膜を形成することが簡便にできるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ピストン部品の斜視図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離する剥離剤であって、アミン系溶剤と、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤と、リン酸エステル系化合物と、水とを含むことを特徴とする剥離剤。
【請求項2】
アミン系溶剤が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン及びN,N-ジエチルエタノールアミンのうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載の剥離剤。
【請求項3】
1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤が、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル及びジエチレングリコールモノベンジルエーテルのうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の剥離剤。
【請求項4】
リン酸エステル系化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸及びその塩、及びアルキルリン酸及びその塩のうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の剥離剤。
【請求項5】
剥離剤が、アミン系溶剤5〜45重量%と、1価アルコール系及び/または2価アルコール系溶剤30〜65重量%と、リン酸エステル系化合物0.5〜25重量%と、水5〜45重量%とを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の剥離剤。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の剥離剤を、50〜100℃に加温して、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品に付着した固体潤滑剤系の硬化被膜を剥離する剥離方法。
【請求項7】
アルミニウムまたはアルミニウム合金製の部品が、内燃機関におけるピストン部品、シリンダ部品、軸受メタル部品であることを特徴とする請求項6記載の剥離方法。


【図1】
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