説明

固体潤滑材の製造方法

【課題】 黒鉛よりも耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能を高めた固体潤滑材を効果的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 黒鉛材料をリン酸塩で被覆してなる固体潤滑材の製造方法であって、前記黒鉛材料にプラズマ処理およびリン酸塩水溶液による接触処理を同時に施すことを特徴とする、固体潤滑材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体潤滑材の製造方法、および該方法で得られた固体潤滑材を用いてなるブレーキ用摩擦材と摺動部品に関する。さらに詳しくは、本発明は、黒鉛よりも耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能を高めた固体潤滑材を効果的に製造する方法、および上記固体潤滑材を用いてなる、高温負荷における連続制動において、耐摩耗性を向上させたブレーキ用摩擦材と、摺動部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ノンアスベスト系ブレーキ用摩擦材や、その他摺動分野では、固体潤滑材として、例えば黒鉛、二硫化モリブデンなどの層状物質、ポリテトラフルオロエチレンのような有機物質などが使用されている。また、耐酸化性や耐熱性を向上させたC/Cコンポジットなどの黒鉛のセラミックス処理品(例えば、特許文献1参照)も利用され始めている。
【0003】
しかしながらノンアスベスト系ブレーキ用摩擦材において、大気中、500℃以上の高温域では、これらの潤滑特性は十分に満足できるものではなく、摩耗、異音などの発生につながっており、高温域での固体潤滑材の開発が課題となっている。
【0004】
ところで、リン酸若しくはリン酸塩処理による黒鉛の耐酸化性を向上させる技術は、耐火物や釉などで広く使用されている技術であるが、黒鉛の潤滑特性向上とはなんら関係がなく、固体潤滑材に適用される技術ではない。
【0005】
一方、リン酸アルミニウムで処理した黒鉛粒子は、耐摩耗性が向上することが確認されている。しかし、大気中、500℃以上の高温域では、これらの潤滑特性は充分に満足できるものではなかった。
【0006】
また、これまで、炭素材料の表面に耐熱性および耐酸化性に優れたSiC(炭化ケイ素)被覆層をコーティングする試みが多くなされているが、炭素とセラミックスの熱膨張の差により、被覆層にクラックが生じ安定した効果は期待できなかった。特許文献2において、炭素材表面にホウ素イオンをプラズマイマージョンイオン注入法で注入することにより炭化ホウ素を含む改質層を形成し炭素材料の密着性を向上させ、さらにCVD法にてSiC被覆層を形成させることで、炭素材料の高温域における耐酸化性を向上させる方法が提案されている。しかし、摩擦材料についての用途の記載はなく、直ちに摩擦材料へは応用できるとは考えられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−254486号公報
【特許文献2】特開2001−106585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、このような事情のもとで、黒鉛よりも耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能を高めた固体潤滑材を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、黒鉛粉末、好ましくは予め湿式法または乾式法、特に大気圧プラズマ処理による前処理が施された黒鉛粉末を、リン酸塩水溶液を用いて、特定の条件で被覆することにより、前記性状を有する固体潤滑材が得られることを見出し、先に特許を出願した(特願2010−139312号明細書)。
【0009】
この技術は、大気中で黒鉛粉末にプラズマを照射し、次いで該黒鉛粉末をリン酸塩水溶液中に混ぜて攪拌し、乾燥・熱処理を行うことにより、リン酸塩が黒鉛表面に被覆されてなる耐熱性に優れた固体潤滑材を得る技術であって、この固体潤滑材を含むブレーキ用摩擦材は、高温摩擦試験における耐摩耗性が飛躍的に向上する。
【0010】
しかしながら、この技術においては、大気中で黒鉛粉末にプラズマを照射させる場合、黒鉛粒子はプラズマ照射時にエアー圧力で吹飛ばされてしまうため、黒鉛粒子に均一にプラズマを照射させることは困難である。
【0011】
また、プラズマ照射時にエアー圧力で黒鉛粒子が吹飛ばされないように、プラズマ発生源と黒鉛粉末の距離を離す必要があり、プラズマ照射による黒鉛粉末表面の活性化効果が充分ではない、などの問題があり、必ずしも充分に満足し得るものではなく、その改良が望まれていた。
【0012】
本発明は、このような状況下になされたものであり、黒鉛よりも耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能を高めた固体潤滑材を効果的に製造する方法、および上記固体潤滑材を用いてなる、高温負荷における連続制動において、耐摩耗性を向上させたブレーキ用摩擦材と、摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、黒鉛材料に、プラズマ処理およびリン酸塩水溶液による接触処理を同時に施すことにより、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能を高めた固体潤滑材が効率よく得られ、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1) 黒鉛材料をリン酸塩で被覆してなる固体潤滑材の製造方法であって、前記黒鉛材料にプラズマ処理およびリン酸塩水溶液による接触処理を同時に施すことを特徴とする、固体潤滑材の製造方法、
(2) リン酸塩水溶液が、リン酸二水素アルミニウムおよび/またはリン酸二水素マグネシウム0.5〜10質量%を含む水溶液である、上記(1)項に記載の方法、
(3) リン酸塩水溶液100質量部に対し、黒鉛材料を30〜100質量部の割合で用いる、上記(1)または(2)項に記載の方法、
(4) プラズマ処理およびリン酸塩水溶液による接触処理が施された黒鉛材料を乾燥処理後、さらに熱処理する、上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の方法、
(5) 上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の方法で得られた固体潤滑材を含むことを特徴とする、ブレーキ用摩擦材、及び
(6) 上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の方法で得られた固体潤滑材を含むことを特徴とする摺動部品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、黒鉛よりも耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能を高めた固体潤滑材を効果的に製造する方法、および上記固体潤滑材を用いてなる、高温負荷における連続制動において、耐摩耗性を向上させたブレーキ用摩擦材と、摺動部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例における製造プロセスの説明図である。
【図2】比較例における製造プロセスの説明図である。
【図3】実施例1における実施形態の説明図である。
【図4】実施例2における実施形態の説明図である。
【図5】比較例における実施形態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の固体潤滑材の製造方法について説明する。
[固体潤滑材の製造方法]
本発明の固体潤滑材の製造方法は、黒鉛材料をリン酸塩で被覆してなる固体潤滑材の製造方法であって、前記黒鉛材料にプラズマ処理およびリン酸塩水溶液による接触処理を同時に施すことを特徴とする。
【0018】
(プラズマ処理)
プラズマ処理方法としては、当該プラズマ処理と同時にリン酸塩水溶液により接触処理される黒鉛粒子にプラズマを照射し得る方法であれば、特に限定されない。望ましくは大気圧又は大気圧近傍の圧力下で、高周波電圧を対向する電極間に印加することにより放電プラズマを発生させる大気圧プラズマ方法が簡便で有効である。プラズマ発生源と黒鉛粒子との距離は5〜50mmが好ましく、20〜30mmがより好ましい。処理時間は、30〜600秒が好ましく、180〜360秒がより好ましい。プラズマ照射時にエアー圧力によってリン酸塩水溶液自身も飛散するためプラズマ発生源と黒鉛粉末との距離は5mm以上とし、50mmより距離が大きくなる場合、プラズマ照射の効果が得られなくなるため、50mm以下に設定する。
【0019】
(リン酸塩水溶液による接触処理)
本発明の固体潤滑材の製造方法においては、黒鉛材料に前述したプラズマ処理と同時にリン酸塩水溶液による接触処理を施すことにより、プラズマ処理により活性化された黒鉛材料表面にリン酸塩を強固に被覆することができ、耐熱性に優れた固体潤滑材が得られる。
【0020】
<リン酸塩>
本発明の固体潤滑材の製造方法において、黒鉛材料に被覆されるリン酸塩としては、その塩を構成する金属が、周期表(長周期型)1族、2族、12族または13族に属する金属であることが好ましい。具体的には1族に属するNa、K;2族に属するMg;12族に属するZn;13族に属するAl;などを好ましく挙げることができる。黒鉛材料の被覆に用いるリン酸塩としては、例えばリン酸アルミニウム類、リン酸マグネシウム類、リン酸カルシウム類、リン酸カリウム類、リン酸ナトリウム類およびリン酸亜鉛類の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらのリン酸塩は、水溶性やpHなどの観点から、リン酸水素塩が好ましい。
【0021】
例えば、リン酸アルミニウム類としては、リン酸二水素アルミニウム[Al(HPO]、リン酸水素アルミニウム[Al(HPO]が、リン酸マグネシウム類としては、リン酸水素マグネシウム[MgHPO]、リン酸二水素マグネシウム[Mg(HPO]が、リン酸カルシウム類としては、リン酸二水素カルシウム[Ca(HPO]、リン酸水素カルシウム[CaHPO]、リン酸三カルシウム[Ca(PO]、リン酸亜鉛カルシウム[ZnCa(PO]が、リン酸カリウム類としては、リン酸二水素カリウム[KHPO]が、リン酸水素二カリウム[KHPO]が、リン酸ナトリウム類としては、リン酸二水素ナトリウム[NaHPO]、リン酸水素二ナトリウム[NaHPO]が、リン酸亜鉛類としては、リン酸水素亜鉛[ZnHPO]、リン酸二水素亜鉛[Zn(HPO]が挙げられる。
【0022】
これらのリン酸水素塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、性能の観点から、リン酸二水素アルミニウムおよびリン酸二水素マグネシウムが好ましく、特にリン酸二水素アルミニウムが好適である。
【0023】
本発明において、黒鉛材料に接触処理を施すのに用いるリン酸塩水溶液としては、前述したリン酸塩、特にリン酸二水素アルミニウムおよび/またはリン酸二水素マグネシウムを含む水溶液が好ましい。該水溶液の濃度は、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.8〜5質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0024】
(プラズマ処理とリン酸塩水溶液による接触処理とを同時に行う方法)
次に、プラズマ処理とリン酸塩水溶液による接触処理とを同時に行う方法について、2つの態様を例に挙げ、それぞれについて図3および図4に従って説明する。図3および図4は、それぞれ後述の実施例1および実施例2における実施形態の説明図であり、まず第1の態様について図3に従い説明する。
【0025】
まず、リン酸塩を、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.8〜5質量%、さらに好ましくは1〜5質量%含む水溶液2をガラスシャーレ5に載せ、該水溶液100質量部に対し、黒鉛粒子1を、好ましくは30〜100質量部、より好ましくは40〜70質量部の割合で該水溶液表面に浮遊させる。次いで、大気圧プラズマ発生装置4を用いて、該水溶液表面に浮遊している黒鉛粒子1にプラズマ3を、好ましくは30〜600秒間、より好ましくは180〜360秒間照射しながら、ガラスシャーレ5を1〜10Hz程度振動させることにより、プラズマ処理とリン酸塩水溶液による接触処理とを同時に行う。
【0026】
なお、前処理中の水溶液温度は、通常10〜80℃程度、好ましくは25〜60℃、より好ましくは40〜50℃である。
【0027】
このようにして処理された混合物を、通常大気中にて乾燥後、解砕したのち、500〜800℃程度の温度にて100〜500Pa程度の減圧下、1〜5時間程度熱処理することにより、黒鉛粒子表面に厚さ5〜500nm程度、好ましくは20〜100nmのリン酸塩被覆層を有する、耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能を高めた固体潤滑材が得られる。
【0028】
次に、第2の態様について、図4に従い説明する。
まず、リン酸塩を、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは0.8〜5質量%、さらに好ましくは1〜5質量%含む水溶液2と黒鉛粒子1とを、好ましくは質量比100:30〜100:100、より好ましくは質量比100:40〜100:70の割合でビーカー6に投入し、マグネットスターラーで混合しながら、黒鉛粒子とリン酸塩水溶液の混合物表面に、大気圧プラズマ発生装置4を用いてプラズマ3を照射することにより、プラズマ処理とリン酸塩水溶液による接触処理を同時に施す。なお、前記処理中の水溶液温度は、前記第1の態様の場合と同様である。
【0029】
このように処理された混合物を、前記第1の態様の場合と同様にして、大気中にて乾燥後、解砕したのち熱処理を行うことにより、黒鉛粒子表面に5〜500nm程度、好ましくは20〜100nmのリン酸塩被覆層を有する、耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能を高めた固体潤滑材が得られる。
【0030】
このようにして得られた本発明における固体潤滑材は、未処理の黒鉛材料に比べて、耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能が高く、ブレーキ用摩擦材や摺動部品などに好適に用いられる。
【0031】
次に、本発明のブレーキ用摩擦材及び摺動部品について説明する。
[ブレーキ用摩擦材]
本発明のブレーキ用摩擦材は、前述した本発明の方法で得られた固体潤滑材を含むことを特徴とする。
本発明のブレーキ用摩擦材は、バインダー樹脂、前述した本発明に係る固体潤滑材、繊維状補強材、摩擦調整材およびその他フィラーなどを含む摩擦材形成用材料を用い、常法に従って成形することにより、得ることができる。
【0032】
当該摩擦材形成用材料におけるバインダー樹脂としては、特に制限はなく、従来、ノンアスベスト系ブレーキ用摩擦材において、バインダー樹脂として知られている公知の熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂などの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0033】
当該摩擦材形成用材料における固体潤滑材としては、必須成分として、前述した本発明の方法で得られる固体潤滑材が用いられる。また、必要に応じ、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択して併用することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛、フッ化黒鉛、カーボンブラックや、硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化硼素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
当該摩擦材形成用材料における繊維状補強材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイトなどの他、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、当該摩擦材形成用材料における摩擦調整材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に摩擦調整材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この摩擦調整材の具体例としては、マグネシア、酸化鉄などの金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、真ちゅう、亜鉛、鉄などの金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッドなどのゴムダストや、カシューダストなど有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
当該摩擦材形成用材料においては、補強材や摩擦調整材などのその他フィラーとして、膨潤性粘土鉱物を含有させることができる。この膨潤性粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母などが挙げられる。
【0037】
また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウムなどを含有させることができる。
【0038】
なお、当該摩擦材形成用材料においては、前記の潤滑材、摩擦調整材およびその他フィラーの中で無機系フィラーは、当該材料中への分散性を良好なものとするために、有機化合物で処理されたフィラーを用いることができる。
【0039】
有機化合物で処理されたフィラーとしては、例えば膨潤性粘土鉱物を始め、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、アルミニウム粉、銅粉、亜鉛粉、黒鉛あるいは硫化スズ、二硫化タングステンなどの、有機化合物による処理物を挙げることができる。
【0040】
本発明の摩擦材を作製するには、前述した摩擦材形成用材料を金型などに充填し、常温にて5〜30MPa程度の圧力で予備成形し、次いで温度130〜190℃程度、圧力10〜100MPa程度の条件で、5〜35分間程度加熱・加圧成形したのち、必要に応じ160〜270℃程度の温度で1〜10時間程度、熱処理を行うことで、所望の摩擦材を作製することができる。
【0041】
このようにして作製された本発明の摩擦材は、高温域での耐摩耗性が向上し、製品寿命が延びる。
【0042】
また、本発明の摺動部品は、前述した本発明の方法で得られた固体潤滑材を含むことを特徴とする。当該摺動部品は、鋳鉄用相手材であるものが好ましく、このような摺動部品としては、例えば乗用車や二輪車の自動車用のものなどを挙げることができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
図1および図2に、それぞれ実施例および比較例における製造プロセスの説明図を示す。
【0044】
実施例1
<リン酸アルミニウム水溶液表面に黒鉛粉末を浮遊させた状態でプラズマ処理した潤滑材の作製>
【0045】
図3は、実施例1における実施形態の説明図である。
【0046】
第一リン酸アルミニウム(純正化学製「リン酸二水素アルミニウム(一級)」、形状:粉末)を蒸留水に混ぜて溶解した水溶液(リン酸二水素アルミニウム濃度は1.0質量%)を作製し、該リン酸アルミニウム水溶液2をガラスシャーレ5に載せ、該水溶液100質量部に対して、新日本テクノカーボン製人造黒鉛1(平均粒径75μm)43質量部を該水溶液2表面に浮遊させた。この状態で大気圧プラズマ発生装置4を用いて、該水溶液表面に浮遊している黒鉛粒子1にプラズマ3を300秒間照射しながら、ガラスシャーレ5を1〜10Hzで揺動させた。照射距離は30mmである。
【0047】
なお、プラズマ発生装置として、ウエッジ株式会社製プラズマ発生装置「PS−601SW」を用いた。以下、同様である。
【0048】
上記のように、プラズマ処理とリン酸塩水溶液による処理を同時に行ったのち、得られた混合物を大気中110℃、24時間乾燥後乳鉢で解砕し、800℃、3時間真空中で熱処理した。熱処理後、乳鉢にて粉砕し、目的とするリン酸アルミニウムが黒鉛表面に均一に結合、被覆された黒鉛粉末からなる固体潤滑材を得た。
【0049】
実施例2
<リン酸アルミニウム水溶液と黒鉛粉末を混合させた状態でプラズマ処理した潤滑材の作製>
【0050】
図4は、実施例2における実施形態の説明図である。
【0051】
第一リン酸アルミニウム(純正化学製「リン酸二水素アルミニウム(一級)」、形状:粉末)を蒸留水に混ぜて溶解した水溶液(リン酸二水素アルミニウム濃度は1.0質量%)2を作製し、新日本テクノカーボン製人造黒鉛粒子1(平均粒径75μm)と質量比率で100:43になるようにビーカー6に入れ、マグネットスターラーで混合、攪拌しながら黒鉛粒子1とリン酸アルミニウム水溶液2の混合物表面にプラズマ3を300秒間照射した。
【0052】
プラズマ発生源と混合物表面までの照射距離は5mmである。
【0053】
なお、混合物であるため、実施例1に比べ照射距離を小さくすることが可能であり、プラズマ発生源と黒鉛粒子との距離は5〜20mmが好ましく、5〜10mmがより好ましい。
【0054】
プラズマ処理とリン酸塩水溶液による処理とを同時に行った後の操作は、実施例1と同様である。
【0055】
比較例
<前処理(大気圧プラズマ処理)後リン酸アルミニウム処理した潤滑材の作製>
【0056】
図5は、比較例における実施形態の説明図である。
【0057】
黒鉛粒子1を容器(ステンレス製、アース8あり)7に載せ、大気圧プラズマ発生装置4を用いてプラズマ3を60秒間照射した。照射距離は30mmである。
【0058】
プラズマ発生装置4は実施例と同様である。プラズマ発生源と黒鉛粒子の距離は10〜50mmが好ましく、20〜30mmがより好ましい。処理時間は、30〜180秒間が好ましく、60〜120秒間がより好ましい。黒鉛粒子1はプラズマ処理時にエアー圧力で吹飛ばされるため、容器7はプラズマが照射する部分のみ孔が開いた容器を使用した。
【0059】
第一リン酸アルミニウム(純正化学製「リン酸二水素アルミニウム(一級)」、形状:粉末)を蒸留水に混ぜて溶解した水溶液(リン酸二水素アルミニウム濃度は1.0質量%)を作製し、プラズマ照射した黒鉛粒子と質量比率で100:43になるよう混合し、回転翼式攪拌機(アズワン製PM−203)にて1時間攪拌し水溶液温度は50℃で処理した。さらに得られた混合物を大気中110℃、24時間乾燥後乳鉢で解砕し、800℃、3時間真空中で熱処理した。熱処理後、乳鉢にて粉砕し、目的とする固体潤滑材を得た。
【0060】
本実施例は、図1および図2から分かるように、前処理工程を省略することができ、比較例に対し簡便で効率の良いプロセスであることが分る。
【0061】
また、図3および図4より、本実施例はプラズマ照射時に黒鉛粒子が飛散することなく、黒鉛粒子に均一にプラズマ照射することが可能であり、同時に表面が活性した黒鉛粒子にリン酸アルミニウムを強固に被覆することができる。
【0062】
上記実施例1、2及び比較例で得られた黒鉛粒子からなる固体潤滑材について、以下の条件により耐熱性を評価した。
分析装置: Mac Science社製 示差熱−熱重量分析(TG-DTA)2000S
条件: 室温〜1200℃、大気中、10℃/min
【0063】
また、上記実施例1、2及び比較例で得られた固体潤滑材について、ブレーキ用摩擦材中に添加したときの耐摩耗性評価を実施した。試験条件(JASO C403に準拠)および摩擦材配合内容を表1、表2に示す。耐熱性および耐摩耗性評価結果を表3に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
表3より、比較例(大気中でプラズマ処理した後リン酸アルミニウム処理した黒鉛)に対し、実施例1及び実施例2は耐熱性が向上し、摩擦材摩耗量がさらに減少した。ロータ摩耗量は同等であった。
【0068】
以上の結果から、大気中、高温域においても酸化、分解等を抑制することができ、潤滑特性を維持し得る固体潤滑材の製造方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の方法で得られる固体潤滑材は、黒鉛よりも耐熱、耐酸化性が著しく向上すると共に、高温での潤滑性能に優れており、この固体潤滑材を用いることにより、高温負荷における連続制動において、耐摩耗性を向上させたブレーキ用摩擦材を提供することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 黒鉛粒子
2 リン酸アルミニウム水溶液
3 プラズマ
4 大気圧プラズマ発生装置
5 ガラスシャーレ
6 ガラスビーカー
7 容器
8 アース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛材料をリン酸塩で被覆してなる固体潤滑材の製造方法であって、前記黒鉛材料にプラズマ処理およびリン酸塩水溶液による接触処理を同時に施すことを特徴とする、固体潤滑材の製造方法。
【請求項2】
リン酸塩水溶液が、リン酸二水素アルミニウムおよび/またはリン酸二水素マグネシウム0.5〜10質量%を含む水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リン酸塩水溶液100質量部に対し、黒鉛材料を30〜100質量部の割合で用いる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
プラズマ処理およびリン酸塩水溶液による接触処理が施された黒鉛材料を乾燥処理後、さらに熱処理する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で得られた固体潤滑材を含むことを特徴とする、ブレーキ用摩擦材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で得られた固体潤滑材を含むことを特徴とする摺動部品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−219252(P2012−219252A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89734(P2011−89734)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】