説明

固体燃料の製造方法及び固体燃料

【課題】 木質系バイオマスを原料として、物質収率及び熱量収率が高く、石炭と同等の粉砕性を有し石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として使用できる固体燃料の製造方法を提供する。
【解決手段】 樹皮を原料として、酸素濃度10%以下で、かつ温度170〜350℃の条件下で焙焼することによって、ハードグローブ粉砕性指数(HGI)が30〜70で石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹皮(バーク)を焙焼(torrefaction)することによって得られる固体燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇化及びCO排出による地球温暖化への対策として、バイオマスを原料とする燃料の利用が検討されている。一般にバイオマスとは、エネルギー源又は工業原料として利用することのできる生物体をいい、代表的なものは木材、建築廃材、農産廃棄物等である。従来よりバイオマスを有効利用する方法が各種提案されている。その中でも、バイオマスを低コストで以って高付加価値物に転換できる有用な方法として、バイオマスを炭化して固体燃料を製造する方法がある。これは、バイオマスを炭化炉に投入して酸素欠乏雰囲気下で所定時間加熱して炭化処理し、固体燃料を製造するものである。
【0003】
このようにして製造された固体燃料は、発電設備や焼却設備等の燃焼設備の燃料に用いられるが、この場合、燃焼効率を向上させるために固体燃料を細かく粉砕して微粉燃料として用いることがある。固体燃料は単独であるいは石炭と混合して粉砕されるが、バイオマスのうち木質系バイオマスは大部分が繊維質であるため、粉砕性が悪く、燃焼効率の低下、粉砕機の運転性低下等の問題があった。
【0004】
特許文献1には、材廃材、間伐材、庭木、建築廃材等の木質系バイオマスを240℃以上300℃以下の温度で、15分以上90分以下の時間で熱分解した後に粉砕する方法が開示されている。加熱温度が240℃より低い温度であると破砕性、粉砕性が向上せず、300℃よりも高い温度であると破砕、粉砕時にサブミクロンオーダーの微粉量が増大して粉体トラブルを生じ易くなるため好ましくないとしている。
【0005】
また、特許文献2には穀類、実、種子を含むバイオマスを酸素濃度1〜5%、処理温度350〜400℃で30〜90分加熱して炭化処理することで、石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−26474号公報
【特許文献2】特開2009−191085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法で製造された炭化物は、物質収率及び熱量収率が低く、石炭に比較すると粉砕性が不十分であり、石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として使用することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、樹皮(バーク)を原料として、酸素濃度10%以下で、かつ温度170〜350℃の条件下で焙焼(torrefaction)することによって、石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料が製造できること見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法にて得られる固形燃料は、物質収率、熱量収率が高く、さらに石炭と同等の粉砕性を有するので、石炭と混合して粉砕処理して微粉炭ボイラーの燃料として使用することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、原料として樹皮(バーク)を使用する。樹皮はあまり利用されることなく、廃棄されることが多いの現状である。本発明者らは樹皮を有効利用することを検討したところ、樹皮を原料として焙焼した場合、木部のチップと比較して良好な性質を有する固形燃料が得られることが判明した。樹皮は木部と比較するとヘミセルロースの含有量が少ないので、焙焼した後の物質収率が高くなる。樹皮は0.1〜100mmのサイズに粉砕されたものを使用することが好ましく、0.1〜50mmのサイズのものを使用することがさらに好ましい。樹種は広葉樹、針葉樹のいずれも使用できるが、杉の樹皮が好ましい。なお、水分は10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることがさらに好ましい。
【0011】
本発明における焙焼(torrefaction)とは、低酸素雰囲気下で、所謂炭化処理よりも低い温度で加熱する処理のことである。通常の木材の炭化処理の温度は400〜700℃であるが、焙焼はより低い温度で行われる。焙焼を行うことによって、その出発原料よりも高いエネルギー密度を有する固体燃料が得られる。
【0012】
本発明における焙焼の処理条件は、酸素濃度10%以下で、温度170〜350℃である。酸素濃度が10%を超えると物質収率、熱量収率が低下する。また、温度が170℃未満では後述する粉砕性が不十分であり、350℃を超えると物質収率、熱量収率が低下する。温度は170〜300℃が好ましく、さらに200〜260℃がさらに好ましい。ヘミセルロースは270℃付近で熱分解が顕著になるのに対して、セルロースは355℃付近、リグニンは365℃付近で熱分解が顕著になるので、焙焼の処理温度を170〜300℃とすることで、ヘミセルロースを優先的に熱分解して、物質収率と粉砕性を両立できる固体燃料を製造することが可能になると推察される。
【0013】
本発明において、焙焼処理を行うための装置は特に限定されないが、ロータリーキルン、竪型炉が好ましい。なお、酸素濃度を10%以下に調整するため装置内を窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。処理時間は15〜180分が好ましい。
【0014】
本発明で得られる固体燃料は原料の樹皮に対して物質収率で60〜90%、熱量収率で70〜95%である。また、粉砕性の指標であるJIS M 8801:2004に規定のハードグローブ粉砕性指数(HGI)は30〜70が好ましく、40〜60がさらに好ましい。HGIが高くなるほど、粉砕され易いことを示している。HGIが30〜70の範囲であれば、石炭と混合して粉砕処理することが可能となる。石炭のHGIは通常40〜70であるので、本発明で得られた固体燃料は石炭と同等の粉砕性を有している。
【実施例】
【0015】
以下に実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
[実施例1]
100mm以下に粉砕した杉の樹皮20gを原料として小型キルン型炭化炉を用い、窒素パージして、処理温度225℃、処理時間30分で焙焼を行って生成物を得た。
【0017】
[実施例2]
処理温度を250℃とした以外は、実施例1と同様にして生成物を得た。
【0018】
[実施例3]
100mm以下に粉砕したブナの樹皮を原料として用いた以外は、実施例1と同様にして生成物を得た。
【0019】
[実施例4]
処理温度を250℃とした以外は、実施例3と同様にして生成物を得た。
【0020】
[実施例5]
100mm以下に粉砕したヒノキの樹皮を原料として用いた以外は、実施例1と同様にして生成物を得た。
【0021】
[実施例6]
処理温度を250℃とした以外は、実施例5と同様にして生成物を得た。
【0022】
[比較例1]
杉のチップを原料として用い、処理温度を250℃とした以外は、実施例1と同様にして生成物を得た。
【0023】
[比較例2]
ブナのチップを原料として用い、処理温度を250℃とした以外は、実施例1と同様にして生成物を得た。
【0024】
[比較例3]
ヒノキのチップを原料として用い、処理温度を250℃とした以外は、実施例1と同様にして生成物を得た。
【0025】
実施例1〜6、比較例1〜3で得られた生成物について下記の項目について評価し、結果を表1に示した。
・物質収率:焙焼前後の試料の重量から計算した。
・熱量収率:焙焼前後の試料を島津燃研式自動ボンベ熱量計CA-4PJにて測定した熱量から計算した。
・粉砕性:試料をボールミルで200rpm、4分間粉砕し、200メッシュをパスしたものの重量を測定し、石炭の粉砕性の指標であるハードグローブ粉砕性指数(HGI)の値から換算して、試料のHGIとした。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示されるように、樹皮を原料として焙焼によって製造した実施例1〜6の生成物は、物質収率及び熱量収率が高く、ハードグローブ粉砕性指数(HGI)が30〜70の範囲であり粉砕性が良好であった。特に、杉の樹皮を原料とした実施例1、2は粉砕され易かった。一方、チップを原料とした比較例1〜3の生成物はHGIが30未満で粉砕性に劣っていた。
【0028】
[実施例7]
60mm以下に粉砕した杉の樹皮を原料として、乾燥機で120℃、10分間乾燥処理を行った。続いて大型キルン型炭化炉を用い、窒素パージして、炭化炉入口温度310℃、炭化炉出口温度310℃、滞留時間30分で焙焼を行って生成物を得た。生成物の物質収率は73.7%、HGIは60.5であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹皮を酸素濃度10%以下で、かつ温度170〜350℃の条件下で焙焼することを特徴とする固体燃料の製造方法。
【請求項2】
樹皮のサイズが0.1〜100mmである請求項1記載の固体燃料の製造方法。
【請求項3】
樹皮を酸素濃度10%以下で、かつ温度170〜350℃の条件下で焙焼することによって得られる固体燃料。

【公開番号】特開2013−82879(P2013−82879A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−74996(P2012−74996)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23〜24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「バイオマスエネルギー技術研究開発/戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業(実用化技術開発)/石炭火力微粉炭ボイラーに混焼可能な新規バイオマス固形燃料の研究開発」に係る共同研究、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】