説明

固体物質の表面改質方法および表面改質された固体物質

各種紫外線硬化型樹脂等からなるいずれの塗膜との間でも、優れた密着力が得られる固体物質の表面改質方法、および表面改質された固体物質を提供する。そのため、引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリオロメトキシシラン、3−クロロプロピルトリオロメトキシシラン等の特定のケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を、固体物質の表面に対して、全面的または部分的に吹き付け、ケイ酸化炎処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、固体物質の表面改質方法および表面改質された固体物質に関し、特に、各種紫外線硬化型樹脂等からなるいずれの塗膜に対しても、優れた改質効果を発揮できる固体物質の表面改質方法、および表面改質された固体物質に関する。
【背景技術】
固体物質、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレン樹脂等からなるフィルムや成形品の表面は、疎水性や撥水性であることが多く、他部材の接着、印刷、紫外線塗装等の表面処理が一般に困難である。また、ステンレスやマグネシウム等の金属表面は、金属の中では密着力や表面平滑性が不足しており、紫外線硬化型塗料等を直接的に適用した場合には、塗膜が容易に剥離してしまうという問題点が見られた。さらに、光触媒として、酸化チタンや酸化ジルコニウム等の無機粒子を、高分子物質中に添加することが試みられているが、分散性が乏しく、取り扱いが容易でないという問題が見られた。
そこで、このような固体物質の表面特性を改質する方法として、固体物質の表面にプライマー処理を施したり、溶剤に溶かしたシランカップリング剤やチタンカップリング剤を表面に塗布したりすることが行われている。
しかしながら、所定の改質効果を得るためには、比較的多量のプライマーやシランカップリング剤等を必要とし、しかも処理時間が長くかかるなどの製造工程上の問題点が見られた。
そこで、プライマー処理やカップリング剤処理にかわる固体物質の表面特性を改質する方法として、紫外線照射法、コロナ放電処理、プラズマ処理、表面感応基付与法、表面光グラフト法、サンドブラスト法、溶剤処理、クロム酸混液処理などが挙げられる。
例えば、特開平5−68934号公報には、疎水性プラスチックの表面に対し、合成石英製高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射して、塗装の濡れ性及び密着性を向上させる技術が開示されている。また、米国特許No.5098618によれば、混合ガス下で、疎水性プラスチックの表面に対し、185nmおよび254nmの波長を有する紫外線を選択的に照射して、塗装の濡れ性及び密着性を向上させる技術が開示されている。また、特開平10−67869号公報には、濡れ性に乏しいプラスチック表面に、気体を吹き付けながら、高電圧パルスによってコロナ処理を行う方法が開示されている。また、特開平8−109228号公報には、染色性を向上させるために、ポリオレフィン樹脂等の表面に、オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、高圧放電処理、紫外線照射等の表面活性化処理を施した後、ビニル単量体をグラフトする方法が開示されている。
しかしながら、これらの表面改質方法では、表面特性の改質が不十分であるばかりか、作業環境が汚染される、危険であるなどの環境上の問題点、水洗や廃液処理などが必要となる等の作業上の問題点、および設備が大規模、高価であるといった経済上の問題点も見られた。
一方、簡便で安価な表面改質方法として、固体物質の表面を長時間火炎処理することも考えられるが、濡れ指数や接触角に代表される表面特性の改質が不十分であるばかりか、効果が長期間持続しないといった問題点が見られた。さらに、特開平9−124810号公報に開示されているように、固体物質の表面を長時間火炎処理する場合、熱変形が生じやすいといった問題点が見られた。
そこで、DE0019926A1公報には、主として金属やガラス製品の固体基体の表面に対し、少なくとも1回の酸化炎処理で該表面を変性する工程と、少なくとも1回のケイ酸化炎処理で該表面を変性する工程と、を含む固体基体表面の変性方法が開示されている。かかる固体基体表面の変性方法によれば、固体基体の表面を確実に変性処理することができ、印刷用インキや紫外線硬化型塗料等を強固に接着できるという効果を得ることができる。
しかしながら、開示された固体基体表面の変性方法は、ケイ素含有化合物として、テトラメトキシシラン(沸点:121℃、引火点:22℃)等のアルコキシシラン化合物を単独使用していたため、各種紫外線硬化型樹脂からなる塗膜に対して、改質効果が安定して得られないという問題が見られた。また、アルコキシシラン化合物は、活性が高く、ポリカーボネート等の汎用樹脂を加水分解しやすいという問題が見られた。さらに、開示された固体基体表面の変性方法は、ケイ酸化炎処理を実施する前に、別途酸化炎処理工程を含むため、固体基体表面に対して、より優れた変性効果が得られるものの、その分処理時間が長くかかるという問題が見られた。
また、特表2001−500552号には、ポリマー基材の表面を改質するための火炎処理方法が開示されている。より具体的には、ケイ素含有化合物として、ヘキサメチルジシロキサン(沸点:100〜101℃、引火点:−1℃)を含む燃料および酸化剤混合物によって助燃される火炎に、ポリマー基材を曝露する火炎処理方法が開示されている。
しかしながら、開示されたポリマー基材の表面改質方法は、ケイ素含有化合物として、ヘキサメチルジシロキサンを使用していたため、エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂、およびポリエステルアクリレート系紫外線硬化型樹脂等からなる各種塗膜に対して、改質効果が安定して得られないという問題が見られた。また、かかるヘキサメチルジシロキサンによる改質効果は、比較的短時間で、低下するという問題が見られた。
そこで、本発明の発明者らは、鋭意努力した結果、固体物質や金属物質等の表面に対して、特定の沸点および引火点を有するケイ素含有化合物を用いて、ケイ酸化炎処理を実施することにより、幅広いタイプの紫外線硬化型樹脂等からなる塗膜に対しても、優れた改質効果を発揮できるとともに、酸化炎処理工程を省いた場合であっても、固体物質等の表面改質を均一かつ十分に実施できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、固体物質や金属物質等の固体物質の表面を、ケイ素含有化合物によって効果的にケイ酸化炎処理し、しかも各種紫外線硬化型樹脂等からなる塗膜に対して、優れた改質効果を発揮できる固体物質の表面改質方法および表面改質された固体物質をそれぞれ提供することにある。
【発明の開示】
[1] 本発明によれば、引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を、固体物質の表面に対して、全面的または部分的に吹き付け処理する固体物質の表面改質方法が提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、ケイ素含有化合物の引火点および沸点を所定範囲に制限し、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、および3−クロロプロピルトリメトキシシラン等の一種単独または二種以上の混合物を使用することにより、固体物質の表面改質が均一になるとともに、引火点および沸点の関係で、ケイ素含有化合物が固体物質の表面に一部残留するため、固体物質と、エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂、およびポリエステルアクリレート系紫外線硬化型樹脂等からなる各種塗膜との間で、いずれも優れた密着力を得ることができる。
[2] また、本発明の別の態様は、引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を、固体物質の表面に対して、全面的または部分的に吹き付け処理することにより、濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とする表面改質された固体物質である。
このように構成することにより、通常の接着剤はもちろんのこと、各種紫外線硬化型塗料等の種類を過度に選択することなく、極めて密着力に優れた塗膜を形成できる固体物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の表面改質装置の構造を説明するために供する図である。
図2は、本発明の表面改質装置による火炎の吹き付け方法を説明するために供する図である。
図3は、本発明の携帯型の表面改質装置の構造を説明するために供する図である。
図4は、火炎の吹き付け方を説明するために供する図である(その1)。
図5は、火炎の吹き付け方を説明するために供する図である(その2)。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を参照して、本発明の固体物質の表面改質方法、表面改質された固体物質および固体物質の表面改質装置に関する実施の形態について具体的に説明する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を、固体物質の表面に対して、全面的または部分的に吹き付け、ケイ酸化炎処理を施すことを特徴とする固体物質の表面改質方法である。
1.固体物質
第1の実施形態において表面改質される固体物質は、シリコーンゴムやフッ素ゴム等が典型的であるが、詳細については、第2の実施形態において説明する。
2.燃料ガス
(1)ケイ素含有化合物
▲1▼引火点
ケイ素含有化合物の引火点(密閉式または開放式)を0〜100℃の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の引火点が0℃未満では、保管時の取り扱いが困難となったり、燃焼速度の調整が困難になったりする場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の引火点が100℃を超えると、空気等の引火性ガスや助燃剤との混合性が著しく低下したり、ケイ素含有化合物が不完全燃焼しやすくなって、ケイ酸化炎処理により、各種紫外線硬化型樹脂等からなる塗膜に対して、優れた改質効果を発揮したりすることが困難になる場合があるためである。
したがって、かかるケイ素含有化合物の引火点を15〜90℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜85℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかるケイ素含有化合物の引火点は、ケイ素含有化合物自体の構造や種類を制限することによっても調整することができるが、その他、ケイ素含有化合物中に、アルコール化合物等を適宜混合使用することによっても調整することができる。
▲2▼沸点
ケイ素含有化合物の沸点を105〜250℃の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の沸点が105℃未満の値であっては、揮発性が激しくて、取り扱いが困難となる場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の沸点が250℃を超えると、空気等の引火性ガスや助燃剤との混合性が著しく低下し、ケイ素含有化合物が不完全燃焼しやすくなって、固体物質の表面改質が不均一になったり、長時間にわたって、改質効果を持続させることが困難になったりする場合があるためである。
したがって、かかるケイ素含有化合物の沸点を110〜220℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜200℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかるケイ素含有化合物の沸点は、ケイ素含有化合物自体の構造や種類を制限することによっても調整することができるが、その他、ケイ素含有化合物中に、アルコール化合物等を適宜混合使用することによっても調整することができる。
▲3▼種類
また、ケイ素含有化合物の種類についても特に制限されるものではないが、ケイ素含有化合物が、分子内または分子末端に窒素原子、ハロゲン原子、ビニル基およびアミノ基の少なくとも一つを有することが好ましい。
より具体的には、ケイ素含有化合物が、ヘキサメチルジシラザン(沸点:126℃、引火点:12〜14℃)、ビニルトリメトキシシラン(沸点:123℃、引火点:23℃)、ビニルトリエトキシシラン(沸点:161℃、引火点:54℃)、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(沸点:144℃、引火点:23℃)、トリフルオロプロピルトリクロロシラン(沸点:113〜114℃、引火点:25℃)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(沸点:215℃、引火点:88℃)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(沸点:217℃、引火点:98℃)、および3−クロロプロピルトリメトキシシラン(沸点:196℃、引火点:83℃)の少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
この理由は、このようなケイ素含有化合物であれば、引火性ガスとの混合性が向上し、シリカ層を形成して固体物質の表面改質がより均一になるとともに、沸点等の関係で、かかるケイ素含有化合物が固体物質の表面に一部残留しやすくなるため、固体物質と、各種紫外線硬化型樹脂等からなる塗膜との間で、より優れた密着力を得ることができるためである。また、このようなケイ素含有化合物であれば、保管性やボンベへの充填性も良好になって、比較的安価に提供することができるためである。
また、ヘキサメチルジシラザン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等の分子内に窒素原子およびハロゲン原子を含むケイ素含有化合物は、特に、エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂やウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂との相性が良く、被着体との間で優れた密着力を発揮しやすいという特性を有している。また、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等の分子末端にビニル基やアミノ基を有するケイ素含有化合物は、特に、ポリエステルアクリレート系紫外線硬化型樹脂との相性が良く、被着体との間で優れた密着力を発揮しやすいという特性を有している。
よって、窒素原子およびハロゲン原子を含むケイ素含有化合物と、ビニル基やアミノ基を有するケイ素含有化合物とを混合使用する、例えば、10:90〜90:10(重量比)において混合使用することにより、さらに安定して、各種紫外線硬化型樹脂からなる塗膜と、被着体との間で優れた密着力を得ることができる。
▲4▼平均分子量
また、ケイ素含有化合物の平均分子量を、マススペクトル測定において、50〜1、000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の平均分子量が50未満となると、揮発性が高くて、取り扱いが困難となる場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の平均分子量が1、000を超えると、加熱により気化して、空気等と容易に混合することが困難となる場合があるためである。
したがって、ケイ素含有化合物の平均分子量を、マススペクトル測定において、60〜500の範囲内の値とすることがより好ましく、70〜200の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
▲5▼密度
また、ケイ素含有化合物の液体状態での密度を、0.3〜1.5g/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の密度が0.3g/cm未満となると、取り扱いが困難となったり、エアゾール缶に収容したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の密度が1.5g/cmを超えると、気化しにくくなるとともに、エアゾール缶に収容した場合に、空気等と完全に分離した状態となる場合があるためである。
したがって、ケイ素含有化合物の密度を0.9〜1.3g/cmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.95〜1.2g/cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
▲6▼添加量
また、ケイ素含有化合物の添加量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10−10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるケイ素含有化合物の添加量が1×10−10モル%未満の値になると、固体物質に対する改質効果が発現しない場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の添加量が10モル%を超えると、ケイ素含有化合物と空気等との混合性が低下し、それにつれてケイ素含有化合物が不完全燃焼する場合があるためである。
したがって、ケイ素含有化合物の添加量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10−9〜5モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、1×10−8〜1モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
(2)引火性ガス
また、火炎温度の制御が容易にできることから、燃料ガス中に、通常、引火性ガスや可燃性ガスを添加することが好ましい。このような引火性ガスや可燃性ガスとして、プロパンガスや天然ガス等の炭化水素ガス、水素、さらには、酸素や空気等が挙げられる。なお、燃料ガスをエアゾール缶に入れて使用する場合には、このような引火性ガスとして、プロパンガスおよび圧縮空気等を使用することが好ましい。
また、このような引火性ガスの含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、80〜99.9モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる引火性ガスの含有量が80モル%未満の値になると、ケイ素含有化合物と空気等との混合性が低下し、それにつれてケイ素含有化合物が不完全燃焼する場合があるためである。一方、かかるケイ素含有化合物の添加量が99.9モル%を超えると、固体物質に対する改質効果が発現しない場合があるためである。
したがって、ケイ素含有化合物の添加量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、85〜99モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、90〜99モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
(3)キャリアガス
また、燃料ガス中に、ケイ素含有化合物を均一に混合するために、キャリアガスを添加することも好ましい。すなわち、ケイ素含有化合物と、キャリアガスとを予め混合し、次いで、空気流等の引火性ガスに混合することが好ましい。
この理由は、かかるキャリアガスを添加することにより、比較的分子量が大きく、移動しづらいケイ素含有化合物を用いた場合であっても、空気流と均一に混合することができるためである。すなわち、キャリアガスを添加することにより、ケイ素含有化合物を燃焼しやすくして、固体物質の表面改質を均一かつ十分に実施することができるためである。
なお、このような好ましいキャリアガスとして、引火性ガスと同種のガスを使用することが好ましく、例えば、空気や酸素、あるいはプロパンガスや天然ガス等の炭化水素を挙げることができる。
(4)添加物
▲1▼種類1
また、燃料ガス中に、沸点が100℃未満のアルキルシラン化合物やアルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を、改質補助剤として添加することが好ましい。
この理由は、このように若干沸点が低い化合物であっても、アルキルシラン化合物等のケイ素含有化合物と極めて相溶性に優れた改質補助剤を添加することにより、ケイ素含有化合物の沸点が低いことによる燃料ガスの取り扱いの悪さを改良することができるとともに、固体物質に対する表面改質効果をさらに高めることができるためである。さらに、このような改質補助剤を添加することにより、火炎の色の調整が容易になって、ケイ素含有化合物とともに、確実に燃焼していることを確認できるためである。
また、ケイ素含有化合物の全体量を100モル%としたときに、改質補助剤の添加量を0.01〜50モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる改質補助剤の添加量が0.01モル%未満の値になると、改質補助剤の添加効果が発現しない場合があるためである。一方、かかる改質補助剤の添加量が50モル%を超えると、燃料ガスの不完全燃焼が生じる場合があるためである。
したがって、ケイ素含有化合物の全体量を100モル%としたときに、改質補助剤の添加量を0.1〜30モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜20モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
▲2▼種類2
また、燃料ガス中に、上述したケイ素含有化合物とともに、アルコール化合物を添加することが好ましい。
この理由は、添加したアルコール化合物は、ケイ素含有化合物と均一に溶解して、ケイ素含有化合物を含む混合物としての沸点や引火点の調整が容易になるためである。また、このようなアルコール化合物を添加することにより、火炎の色の調整が容易になって、ケイ素含有化合物とともに、確実に燃焼していることを確認できるためである。
ここで、このようなアルコール化合物としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、ケイ素含有化合物とともに添加するアルコール化合物の添加量を、ケイ素含有化合物の全体量を100モル%としたときに、0.01〜30モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるアルコール化合物の添加量が0.01モル%未満の値になると、混合物としての沸点や引火点の調整が困難となる場合がるためである。一方、かかるアルコール化合物の添加量が30モル%を超えると、固体物質に対する表面改質効果が発揮されない場合があるためである。
3.火炎
(1)温度
また、火炎の温度を500〜1、500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる火炎の温度が500℃未満の値になると、ケイ素含有化合物の不完全燃焼を有効に防止することが困難になる場合があるためである。一方、かかる火炎の温度が1、500℃を超えると、表面改質する対象の固体物質が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な固体物質の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、火炎の温度を550〜1、200℃の範囲内の値とすることが好ましく、600〜900℃未満の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる火炎の温度は、使用する燃料ガスの種類や、燃料ガスの流量、あるいは、燃料ガスに添加するケイ素含有化合物の種類や量によって、適宜調節することができる。
(2)処理時間
また、火炎の処理時間(噴射時間)を0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる火炎の処理時間が0.1秒未満の値になると、ケイ素含有化合物による改質効果が均一に発現しない場合があるためである。一方、かかる火炎の処理時間が100秒を超えると、表面改質する対象の固体物質が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な固体物質の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、火炎の処理時間を0.3〜30秒の範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜20秒の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
4.塗膜形成工程
また、第1の実施形態の固体物質の表面改質方法を実施するにあたり、次工程として、塗膜形成工程を含むことが好ましい。すなわち、表面改質された固体物質の表面に、紫外線硬化型塗料からなる塗膜を形成することが好ましい。
そして、塗膜形成工程を実施し、JIS K−5400に準拠した碁盤目試験において、固体物質に対するエポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料、およびポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料からなる塗膜のはがれ数が10個/100碁盤目以下となることが好ましい。
すなわち、従来のケイ酸化炎処理では、エポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料、およびポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料からなるいずれかの塗膜に対しては、所定の改質効果を発揮することができたが、いずれの塗膜に対しても所定の改質効果を発揮することは困難であった。したがって、第1の実施形態では、このように塗膜形成工程を含んで、JIS K−5400に準拠した碁盤目試験を実施し、剥離する碁盤目数を規定することにより、所定の改質効果の基準を明確にして、固体物質の表面改質方法を確実かつ定量的に実施することができる。
なお、エポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、燐酸基等の極性基を有するエポキシアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、硬化剤とから基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
また、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、ウレタンアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、硬化剤とから基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
さらに、ポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料は、ポリエステルアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーと、硬化剤とから基本的に構成してある紫外線硬化型塗料であることが好ましい。
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を、全面的または部分的に吹き付け処理することにより、濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とする表面改質された固体物質である。
1.固体物質
(1)ゴム
また、表面改質された固体物質を構成するにあたり、固体物質が、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、ネオプレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、オレフィンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびウレタン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも一つのゴム類が挙げられる。
これらのゴム類のうち、特に接触角が大きく、濡れ指数が小さいシリコーンゴム、フッ素ゴム、オレフィンゴム、エチレン−プロピレンゴムに対して、本発明の表面改質を実施することにより、優れた改質効果を発現することができる。したがって、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等からなる防汚性ゴムや防汚性カバーの表面に、数字や文字等を用意に印刷することが可能となる。
(2)樹脂
また、表面改質された固体物質を構成するにあたり、固体物質が、ポリエチレン樹脂(高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高圧法ポリエチレン、中圧法ポリエチレン、低圧法ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、高圧法線状低密度ポリエチレン、超固体量ポリエチレン、架橋ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリトリフルオロクロロエチレン樹脂、およびエチレン−トリフルオロクロロエチレン共重合体等が挙げられる。
これらの樹脂のうち、特に接触角が大きく、濡れ指数が小さいポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等に対して本発明の表面改質を実施することにより、優れた改質効果を発揮することができる。したがって、例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂からなるフィルム、あるいはポリエステル樹脂からなる容器上に、文字や模様を印刷したり、ポリカーボネート樹脂からなるコンパクトディスク基板上に、アルミニウムの反射膜を強固に接着したり、さらには、ポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる防汚材料上に、数字や文字等を用意に印刷することが可能となる。
(3)熱硬化型樹脂
また、表面改質された固体物質を構成するにあたり、固体物質が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂等の熱硬化型樹脂が挙げられる。これらの熱硬化型樹脂のうち、例えば、エポキシ樹脂である場合、本発明の表面改質を実施することにより、半導体封止用樹脂におけるレーザーマーキングを用意に実施することができる。
(4)金属材料
また、表面改質された固体物質を構成するにあたり、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、ニッケル、クロム、タングステン、金、銅、鉄、銀、亜鉛、スズ、鉛等の一種単独または二種以上の金属材料の組み合わせが好ましい。
例えば、アルミニウムは軽量金属として多用されているが、表面に酸化膜を形成しやすく、紫外線硬化型塗料等を直接適用しても容易に剥離してしまうという問題が見られた。そこで、アルミニウム表面に対してケイ酸化炎処理を施すことにより、紫外線硬化型塗料等を直接適用しても剥離することを有効に防止することができるようになった。
また、マグネシウムはリサイクル可能な金属部材として、パーソナルコンピューター等の筐体に近年多用されているが、表面の平滑性が乏しいことから、紫外線硬化型塗料等を直接適用しても容易に剥離してしまうという問題が見られた。そこで、マグネシウム表面に対してケイ酸化炎処理を施すことにより、紫外線硬化型塗料等を直接適用した場合であっても、剥離することを有効に防止することができ、カラー化マグネシウム板等を提供できるようになった。
さらに、従来、半導体素子における金バンプや半田バンプを、フィルムキャリアや回路基板に電気接続した場合、高温高湿条件で、界面剥離が生じるという問題が見られた。そこで、金バンプや半田バンプにケイ酸化炎処理を施すことにより、あるいは、フィルムキャリアや回路基板の導体部分にケイ酸化炎処理等を施すことにより、これらの界面剥離を有効に防止することができるようになった。
なお、ケイ酸化炎処理とは、ケイ素含有化合物を含む燃料ガスを燃やしてなる火炎を用いた処理であって、ケイ素含有化合物の熱分解によって、基材の全部または一部に、酸化ケイ素層を形成する火炎処理のことである。
(5)金属材料以外の無機材料
固体物質を構成する金属材料以外の好適な無機材料として、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、石灰、ゼオライト、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、半田、ガラス、セラミック等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
(6)形態
被処理物である固体物質の形態は特に制限されるものではないが、例えば、板状、シート状、フィルム状、テープ状、短冊状、パネル状、紐状などの平面構造を有するものであってもよいが、筒状、柱状、球状、ブロック状、チューブ状、パイプ状、凹凸状、膜状、繊維状、織物状、束状等の三次元構造を有するものであっても良い。
例えば、繊維状のガラスやカーボンファイバーに対して、ケイ酸化炎処理等を施すことにより、表面改質をして、活性化することができ、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等のマトリクス樹脂中に均一に分散することができる。したがって、FRPやCFRPにおいて、優れた機械的強度や耐熱性等を得ることができる。
また、このような被処理物の形態として、このような固体物質からなる構造体と、金属部品、セラミック部品、ガラス部品、紙部品、木部品等と組み合わせた複合構造体であることも好ましい。
例えば、金属管やセラミック管の内面に、ケイ酸化炎処理等を施すことにより、表面改質をして、活性化することができ、樹脂ライナーが極めて強固に積層されたパイプを得ることができる。
また、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス装置、プラズマディスプレイ装置、あるいはCRT等における基板としてのガラス基板やプラスチック基板の全面または一部に、ケイ酸化炎処理等を施すことにより、カラーフィルター、偏向板、光散乱板、ブラックマトリクス板、反射防止膜、帯電防止膜等の有機フィルムを極めて均一かつ強固に積層することができる。
2.燃料ガス
第1の実施形態において説明したのと同様のケイ素含有化合物や引火性ガスを使用することができるため、ここでの説明は省略する。
3.火炎
また、第1の実施形態において説明したのと同様の火炎における温度や処理時間を使用することができるため、ここでの説明は省略する。
4.濡れ指数(表面エネルギー)
(1)表面改質後
また、表面改質された固体物質において、濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる固体物質の濡れ指数が45dyn/cm未満の値になると、接着、印刷、塗装などを容易に実施することが困難となる場合があるためである。一方、かかる固体物質の濡れ指数が80dyn/cmを超えると、過度に表面処理を実施することになり、固体物質を熱劣化させる場合があるためである。
したがって、表面改質された固体物質において、濡れ指数を45〜75dyn/cmの範囲内の値とすることがより好ましく、50〜70dyn/cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
ここで、表1に、25℃の基準液を用いて測定した表面処理前の固体物質の濡れ指数(dyn/cm)と、表面処理後(0.5秒間)の固体物質の濡れ指数の測定例を示す。
(2)表面改質前
また、表面改質前(表面処理前)の固体物質において、濡れ指数(測定温度25℃)を20〜45dyn/cmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる固体物質の濡れ指数が20dyn/cm未満の値になると、長時間にわたって表面処理を実施することになり、固体物質を熱劣化させる場合があるためである。一方、かかる固体物質の濡れ指数が45dyn/cmを超えると、火炎によって効率的に表面処理することが困難となる場合があるためである。例えば、改質処理前におけるポリエチレン樹脂の濡れ指数は、約40dyn/cmであって、ケイ酸化炎処理の温度等にもよるが、約1秒程度のケイ酸化炎処理によって、濡れ指数を約60dyn/cm以上の値に高めることができる。
したがって、表面改質前(表面処理前)の固体物質において、濡れ指数(測定温度25℃)を25〜38dyn/cmの範囲内の値とすることがより好ましく、28〜36dyn/cmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
5.接触角
(1)表面改質後
また、表面改質された固体物質において、水を用いて測定される接触角(測定温度25℃)を0.1〜30°の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる固体物質の接触角が0.1°未満の値になると、過度に表面処理を実施することになり、固体物質を熱劣化させる場合があるためである。一方、かかる固体物質の接触角が30°を超えると、接着、印刷、塗装などを容易に実施することが困難となる場合があるためである。
したがって、表面改質された固体物質において、水を用いて測定される接触角(測定温度25℃)を0.5〜20°の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜10°の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
(2)表面改質前
また、表面改質前(表面処理前)の固体物質において、水を用いて測定される接触角(測定温度25℃)を50〜120°の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる固体物質の接触角が50°未満の値になると、火炎によって効率的に表面処理することが困難となる場合があるためである。一方、かかる固体物質の接触角が120°を超えると、長時間にわたって表面処理を実施することになり、固体物質を熱劣化させる場合があるためである。例えば、改質処理前におけるポリテトラフロオロエチレン樹脂の接触角は、約108°であって、ケイ酸化炎処理の温度等にもよるものの、約1秒程度のケイ酸化炎処理によって、接触角を約20°未満の値に低下させることができる。
したがって、表面改質前(表面処理前)の固体物質において、水を用いて測定される接触角を60〜110°の範囲内の値とすることがより好ましく、80〜100°の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
6.塗膜
所定のケイ酸化炎処理された固体物質の表面に、エポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料、およびポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料からなるいずれかの塗膜(厚さ:約5〜500μm)を備えることが好ましい。
この理由は、第2の実施形態である固体物質は、塗料の種類を厳格に選択することなく、密着力に優れた塗膜が紫外線硬化処理によって形成できることから、各種塗膜を形成することにより、安価かつ迅速に、固体物質の商品価値等を高めることができるためである。
[第3の実施の形態]
第3の実施形態は、図1に示すように、引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるケイ素含有化合物14を貯蔵するための貯蔵タンク12と、燃料ガスを移送するための移送部24と、燃料ガスの火炎34を吹き付けるための噴射部32と、を含む固体物質の表面改質装置10である。
1.貯蔵タンク
図1に示すように、加熱手段16を有するケイ素含有化合物14を貯蔵するための第1の貯蔵タンク12と、圧縮空気等の引火性ガスを貯蔵するための第2の貯蔵タンク(図示せず)と、を備えることが好ましい。この例では、第1の貯蔵タンク12の下方に、ヒータや伝熱線、あるいは熱交換器に接続した加熱板等から加熱手段16を備えてあり、常温、常圧状態では液状のケイ素含有化合物14を気化することが好ましい。
そして、固体物質を表面処理する際には、加熱手段16によって、第1の貯蔵タンク12内のケイ素含有化合物14を所定温度に加熱し、気化させた状態で、引火性ガス(空気等)と混合し、燃料ガスとすることが好ましい。
なお、燃料ガス中におけるケイ素含有化合物の含有量は極めて重要であるため、当該ケイ素含有化合物の含有量を間接的に制御すべく、第1の貯蔵タンク12に圧力計(または液面のレベル計)18を設けて、ケイ素含有化合物の蒸気圧(またはケイ素含有化合物量)をモニターすることが好ましい。
2.移送部
移送部は、通常、管構造であって、図1に示すように、第1の貯蔵タンク12から移送されてきたケイ素含有化合物14および第2の貯蔵タンク(図示せず)から移送されてきた引火性ガス(空気)を均一に混合し、燃料ガスにするための混合室22を備えるとともに、流量を制御するための弁や流量計、あるいは燃料ガスの圧力を制御するための圧力計28を備えていることが好ましい。
また、ケイ素含有化合物および引火性ガスを均一に混合した上で、流量を厳格に制御できるように、混合室22に混合ポンプや、滞留時間を長くするための邪魔板等を備えることも好ましい。
3.噴射部
(1)構成
噴射部は、図1に示すように、移送部24を経て送られてきた燃料ガスを燃やし、得られた火炎34を、被処理物である固体物質に吹き付けるためのバーナー32を備えることが好ましい。かかるバーナーの種類も特に制限されるものでないが、例えば、予混合型バーナー、拡散型バーナー、部分予混合型バーナー、噴霧バーナー、蒸発バーナー、微粉炭バーナー等のいずれであっても良い。また、バーナーの形態についても特に制限されるものでなく、例えば、図1に示すように、先端部に向かって拡大し、全体として扇型の構成であっても良く、あるいは、図4に示すように、概ね長方形であって、噴射口64が横方向に配列されたバーナーであっても良い。
(2)配置
噴射部の配置、すなわち、バーナーの配置は、被処理物である固体物質の表面改質の容易さ等を考慮して決定することが好ましい。
例えば、図2に示すように、円形または楕円形に沿って配置することも好ましいし、図4に示すように、被処理物である固体物質の両側に近接して配置することも好ましい。
また、図5(a)に示すように、被処理物である固体物質の片側に所定距離だけ離して配置することも好ましいし、図5(b)に示すように、被処理物である固体物質の両側にそれぞれ所定距離だけ離して配置することも好ましい。
4.形態
(1)据付型
固体物質の表面改質装置の形態は、例えば、図1に示すように、貯蔵タンク12と、燃料ガスを移送するための移送部24と、燃料ガスから得られる火炎を吹き付けるための噴射部32と、を据え付けた状態で備える一方、図2に示すような回転テーブル36上の固定治具38に載置した状態で、被処理物である固体物質の位置を適宜変えながら、しかも固定治具38によって自転させながら、噴射部32から火炎34を吹き付けることが好ましい。
このような据付型の表面改質装置10であれば、大量にしかも効率的に、被処理物である固体物質の表面改質を実施することができる。
(2)携帯型
また、固体物質の表面改質装置42を、図3に示すように携帯型とすることも好ましい。すなわち、点線で囲まれた領域に示されるように、カートリッジ式の貯蔵タンク46と、配管パイプ47と、流量計や圧力計を備えたボックス44を用意し、さらに配管パイプ47の先端部にバーナー32を備えることが好ましい。このように構成すると、ボックス44を適宜移動させることによって、戸外に置かれた被処理物や、大面積、大容量の被処理物に対しても、容易に表面処理を実施することが可能となる。
なお、ボックス44の持ち運びが容易にできるように、ボックス44の上部に取手や片紐を付けたり、あるいはボックス44の総重量を20kg以下の値とすることが好ましい。
5.紫外線照射装置
固体物質の表面改質装置の近傍、あるいは併設させて紫外線照射装置を設けることが好ましい。すなわち、紫外線照射装置において、対象となる塗料の種類を厳格に選択することなく、所定のケイ酸化炎処理された固体物質の表面に対して、エポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料、およびポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料等のいずれの塗膜であっても、即座に形成できるためである。
【実施例】
【実施例1】
1.固体物質の表面改質
厚さ2mmのアルミニウムプレート(Alプレート、縦10cm×横5cm)および厚さ2mmのポリプロピレン樹脂からなるプレート(PPプレート、縦10cm×横5cm)をそれぞれ準備した。次いで、これらのプレートに対して、図3に示す携帯型の表面改質装置を用いて、ケイ酸化炎処理を単位面積当り(50cm)、0.2秒間実施した。なお、燃料ガスとして、ヘキサメチルジシラザンを0.01モル%、残りの99.99モル%が圧縮空気であるカートリッジ入りの混合ガスを用いた。
2.固体物質の評価
(1)濡れ指数
表面改質されたプレートの濡れ指数を、標準液を用いて測定した。また、表面改質前のプレートの濡れ指数についても同様に測定した。
(2)UV塗装性
エポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料(タイプ1)、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料(タイプ2)、およびポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料(タイプ3)をそれぞれ表面改質されたプレート上にスクリーン印刷した後、紫外線照射装置により300mJ/cmの紫外線を照射し、以下の基準で評価した。また、表面改質前のプレートに対するUV塗装性についても、同様に測定した。
◎:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、全く剥がれが無い。
○:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数は1〜2個である。
△:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数は3〜10個である。
×:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数は11個以上である。
【実施例2〜7】
実施例2〜7では、表1に示すように、改質剤の種類を変えて、実施例1と同様に、表面改質された固体物質の評価を行った。
[比較例1]
実施例1におけるヘキサメチルジシラザンと、圧縮空気とからなる混合ガスの代わりに、ヘキサメチルジシロキサンと、圧縮空気とからなる混合ガスを用いたほかは、実施例1と同様に、固体物質の表面改質および固体物質の評価を行った。

[実施例6〜8および比較例3〜4]
実施例6では、実施例1と同様に、ヘキサメチルジシラザン(HMDN)を用いたケイ酸化炎処理を実施した後、放置時間を2weekおよび4weekに変えて、濡れ指数およびUV塗装性(タイプ2)を評価した。また、実施例7および8では、それぞれヘキサメチルジシラザンの代わりに、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(TFTM)および3−クロロプロピルトリメトキシシラン(CITM)を用いたほかは、実施例6と同様に放置時間を変えて、濡れ指数およびUV塗装性(タイプ2)を評価した。
また、比較例3では、ヘキサメチルジシロキサンを用いたケイ酸化炎処理を実施した後、実施例6と同様に放置時間を変えて、濡れ指数およびUV塗装性(タイプ2)を評価した。さらに、比較例4では、ケイ酸化炎処理の代わりに、コロナ処理を実施し、実施例6と同様に放置時間を変えて、濡れ指数およびUV塗装性(タイプ2)を評価した。

【産業上の利用可能性】
以上の説明の通り、本発明の固体物質の表面改質方法によれば、特定のケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を固体物質に吹き付け、ケイ酸化炎処理を施すことによって、各種紫外線硬化型樹脂等からなるいずれの塗膜に対しても、優れた改質効果を発揮できる固体物質の表面改質方法、および表面改質された固体物質が得られるようになった。
したがって、本発明の表面改質された固体物質、例えば、難接着性材料の代表であるシリコーンゴムやフッ素ゴム、オレフィン樹脂やポリエステル樹脂、あるいはステンレスやマグネシウム等の金属上にも、従来、不可能であった各種紫外線硬化型樹脂等からなるいずれの塗膜を形成することが可能になった。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を、固体物質の表面に対して、全面的または部分的に吹き付け、ケイ酸化炎処理を施すことを特徴とする固体物質の表面改質方法。
【請求項2】
前記ケイ素含有化合物が、分子内または分子末端に窒素原子、ハロゲン原子、ビニル基およびアミノ基の少なくとも一つを有することを特徴とする請求項1に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項3】
前記ケイ素含有化合物が、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、および3−クロロプロピルトリメトキシシランの一種単独または二種以上の混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項4】
前記ケイ素含有化合物が、分子内に窒素原子およびハロゲン原子を含むケイ素含有化合物と、分子末端にビニル基やアミノ基を有するケイ素含有化合物との混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項5】
前記ケイ素含有化合物に、アルコール化合物を添加するとともに、当該アルコール化合物の添加量を、ケイ素含有化合物の全体量を100モル%としたときに、0.01〜30モル%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項6】
前記燃料ガス中のケイ素含有化合物の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10−10〜10モル%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項7】
前記ケイ素含有化合物が気液平衡状態にあって、気体状態のケイ素含有化合物を燃料ガス中に混合して、燃焼させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項8】
次工程として、紫外線硬化工程を含み、表面改質された固体物質上に、紫外線硬化型塗料からなる塗膜を形成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項9】
JIS K−5400に準拠した碁盤目試験において、固体物質に対するエポキシアクリレート系の紫外線硬化型塗料、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型塗料、およびポリエステルアクリレート系の紫外線硬化型塗料からなる塗膜のはがれ数が10個/100碁盤目以下であることを特徴とする請求項8に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項10】
引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるケイ素含有化合物を含む燃料ガスの火炎を、固体物質の表面に対して、全面的または部分的に吹き付け、ケイ酸化炎処理を施すことにより、濡れ指数(測定温度25℃)を40〜80dyn/cmの範囲内の値とすることを特徴とする表面改質された固体物質。
【請求項11】
前記固体物質における表面処理前の濡れ指数(測定温度25℃)を20〜45dyn/cmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項10に記載の表面改質された固体物質。
【請求項12】
前記表面改質された固体物質上に、紫外線硬化型塗料からなる塗膜が形成してあることを特徴とする請求項10または11に記載の表面改質された固体物質。

【国際公開番号】WO2004/098792
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571550(P2004−571550)
【国際出願番号】PCT/JP2003/005650
【国際出願日】平成15年5月6日(2003.5.6)
【出願人】(501163657)
【Fターム(参考)】