説明

固体物質の表面改質装置およびそれを用いた表面改質方法

【課題】燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化が少ない固体物質の表面改質装置を提供する。
【解決手段】固体物質の表面改質装置およびその表面改質方法であって、シラン原子等を含む改質剤化合物を貯蔵するための貯蔵室と、改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成するための気化室と、気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送部と、燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部と、を含むとともに、気化室の温度をT1(℃)とし、貯蔵室の温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、温度関係式T2−15℃≦T1≦T2+15℃を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体物質の表面改質装置およびそれを用いた表面改質方法に関する。特に、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化が少ない固体物質の表面改質装置およびそれを用いた表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体物質、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレン樹脂等の表面は、疎水性や撥水性であることが多く、他部材の接着、印刷、紫外線塗装等の表面処理が一般に困難である。また、ステンレスやマグネシウム等の金属表面は、金属の中では密着力や表面平滑性が不足しており、紫外線硬化型塗料等を直接的に適用した場合には、塗膜が容易に剥離してしまうという問題点が見られた。さらに、光触媒として、酸化チタンや酸化ジルコニウム等の無機粒子を、高分子物質中に添加することが試みられているが、分散性が乏しく、取り扱いが容易でないという問題が見られた。
【0003】
そこで、本発明の発明者は、所定の表面改質装置を用いた固体物質の表面改質方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
より具体的には、図12に示すように、固体物質250に対して、特定沸点を有する改質剤化合物214を含む燃料ガスの火炎234を吹き付け処理(ケイ酸化炎処理等)することにより、シラン原子等を含有する改質剤化合物を比較的多量に使用した場合であっても、燃焼しやすくして、酸化炎処理工程を省いた場合であっても、固体物質250に対する表面改質を均一かつ十分に実施できる固体物質の表面改質方法である。
【特許文献1】WO03/069017号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、改質剤化合物214を安定的に蒸発しやすくするため、気化室212の温度を、通常、50℃以上の比較的高い温度に設定しており、貯蔵室(図示せず)から改質剤化合物214を追加混合したような場合や、環境温度が大きく変化したような場合に、図13中にラインBに示すように、貯蔵室内の温度変化が生じ、その結果、気化室212における気液平衡状態が変化する場合が見られた。
また、気化室212の温度が比較的高いために、気化室212を出た直後の燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度は高い一方、燃焼部(バーナー)232の近辺では、環境温度が大きく変化したような場合に、改質剤化合物214の飽和蒸気圧の関係で、結露が生じやすいという問題も見られた。
すなわち、従来の表面改質装置200においては、気化室212における気液平衡状態が変化したり、移送部224における温度変化に起因した改質剤化合物214の結露が生じたりすることから、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物214の濃度変化が生じ、ひいては、固体物質250に対する表面改質効果がばらつくような現象が見られた。
もちろん、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を精度良くモニターして、それを制御しようとする試みもなされているが、改質剤化合物の濃度が相当微量であって、かつ、燃料ガスの流速が速いために、実用化されていない状況である。
【0005】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意努力した結果、気化室の温度(T1/℃)と、貯蔵室の温度(T2/℃)とが所定関係を満足することにより、貯蔵室から改質剤化合物を追加混合したような場合や、環境温度が大きく変化したような場合であっても、気化室の温度変化や気液平衡状態の変化が少なくなり、さらには結露現象も有効に防止できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の目的は、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化が少なく、安定的に、所定の表面改質効果が得られる固体物質の表面改質装置およびそれを用いた表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物を貯蔵するための貯蔵室と、改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成するための気化室と、気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送部と、燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部と、を含む表面改質装置であって、気化室の温度をT1(℃)とし、貯蔵室の温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、温度関係式(1)を満足することを特徴とする固体物質の表面改質装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)
すなわち、気化室の温度(T1/℃)と、貯蔵室の温度(T2/℃)とを、所定関係を満足するように制御することにより、改質剤化合物を追加混合したような場合や、環境温度が大きく変化したような場合であっても、気化室内の気液平衡状態の変化を少なくすることができるばかりか、移送部における結露現象についても有効に防止することができる。
したがって、気化室内の気液平衡状態の変化や結露現象が少なくなることから、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化が少なくなり、安定的に、所定の表面改質効果を得ることができる。
【0007】
また、本発明の固体物質の表面改質装置を構成するにあたり、移送部の温度をT3(℃)としたときに、温度関係式(2)を満足することが好ましい。
T3−15℃≦T1≦T3+15℃ (2)
このように構成することにより、移送部の温度(T3/℃)と、気化室の温度(T1/℃)とを、所定関係を満足するように制御することにより、移送路中での結露をさらに有効に防止することができる。
【0008】
また、本発明の固体物質の表面改質装置を構成するにあたり、気化室の温度(T1)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、気化室の温度(T1/℃)、ひいては、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化を、経済的、かつ迅速にさらに小さくすることができる。
【0009】
また、本発明の固体物質の表面改質装置を構成するにあたり、貯蔵室の温度(T2)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、貯蔵室の温度(T2/℃)、ひいては、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化を、経済的、かつ迅速にさらに小さくすることができる。
【0010】
また、本発明の固体物質の表面改質装置を構成するにあたり、移送部の温度(T3)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、移送部の温度(T3/℃)、ひいては、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化を、経済的、かつ迅速にさらに小さくすることができる。
【0011】
また、本発明の固体物質の表面改質装置を構成するにあたり、気化室に、液面計としてのプリズムセンサーを備えるとともに、当該プリズムセンサーによって、所定基準以下の液面であると検知された場合には、貯蔵室から、改質剤化合物を供給することが好ましい。
このように構成することにより、気化室内の改質剤化合物量の制御が容易になって、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化を、さらに小さくすることができる。
【0012】
また、本発明の固体物質の表面改質装置を構成するにあたり、貯蔵室から、気化室に対して、改質剤化合物を供給するためのマイクロポンプを備えることが好ましい。
このように構成することにより、気化室内の改質剤化合物におけるいわゆる液面のゆらぎを防止しつつ、改質剤化合物量の制御が容易になって、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化を、さらに小さくすることができる。
【0013】
また、本発明の固体物質の表面改質装置を構成するにあたり、噴射部において、燃料ガスを測定するためのIRセンサーを備えることが好ましい。
このように構成することにより、燃料ガスの供給量、ひいては改質剤化合物の濃度をIRセンサーからの情報をもとに調整することができる。
たとえば、従来は、火炎の色を目視しながら、経験的に、噴射部における燃料ガスの供給量等を制御していた。それに対して、IRセンサーからの信号を利用して、燃料ガスの供給量、ひいては改質剤化合物の濃度を微妙かつ迅速に調整することができる。
【0014】
また、本発明の別の態様は、シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物を貯蔵するための貯蔵室と、改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成するための気化室と、気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送部と、燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部と、を含む表面改質装置を用いた固体物質の表面改質方法であって、気化室の温度をT1(℃)とし、貯蔵室の温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、以下の温度関係式(1)を満足するように、当該T1およびT2の値を調整する固体物質の表面改質方法である。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)
このように気化室の温度(T1/℃)と、貯蔵室の温度(T2/℃)とを、所定関係を満足するように制御しながら、表面改質方法を実施することにより、改質剤化合物を追加混合したような場合や、環境温度が大きく変化したような場合であっても、気化室内の気液平衡状態の変化を少なくすることができるばかりか、移送部における結露現象についても有効に防止することができる。
したがって、気化室内の気液平衡状態の変化や結露現象が少なくなることから、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化が少なくなり、安定的に、所定の表面改質効果を得ることができる。
【0015】
また、本発明の固体物質の表面改質方法を実施するに際して、気化室に空気を導入し、当該空気と、気体状態の改質剤化合物と、の混合物を生成した後、燃料ガスの一部として、噴射部に移送することが好ましい。
このように、気化室に導入した空気を利用して、気体状態の改質剤化合物を外部に取り出すことにより、特別な制御装置を用いることなく、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化がさらに少なくなる。
したがって、噴射部において、改質剤化合物が、燃料ガスの一部として、均一に燃焼し、さらに安定的に、所定の表面改質効果を得ることができる。
【0016】
また、本発明の固体物質の表面改質方法を実施するに際して、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を23以上の値とすることが好ましい。
このように改質剤化合物と、空気と、炭化水素ガスと、を含む燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を所定範囲内の値とすることにより、改質剤化合物の沸点の相違や、周囲の環境条件等にかかわらず、固体物質に対して、所定の表面改質効果を安定的に発揮することができる。
【0017】
また、本発明の固体物質の表面改質方法を実施するに際して、燃料ガス中の改質剤化合物の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
このような改質剤化合物の含有量であれば、安定的に蒸発させたり、流量制御したりすることができ、移送部の温度変化や濃度変化に基づく、結露現象の発生を効果的に抑制することができる。また、このような改質剤化合物の含有量であれば、安定的に熱分解するため、固体物質の表面に対して、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を安定的に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1に示すように、シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物23を貯蔵するための貯蔵室21と、改質剤化合物23を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物23´を生成するための気化室11と、気体状態の改質剤化合物23´を、燃料ガスの一部として、噴射部41に移送するための移送部31eと、燃料ガスに由来した火炎42を吹き付けるための噴射部41と、を含む表面改質装置10であって、気化室11の温度をT1(℃)とし、貯蔵室21の温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、以下の温度関係式(1)を満足する固体物質の表面改質装置10である。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)
【0019】
1.表面改質装置
(1)基本的構成
図1に示すように、表面改質装置10としては、特定の改質剤化合物23を貯蔵する貯蔵室21と、気化室11と、移送部31eと、噴射部41と、を基本的に含んで構成されている。
そして、気化室の温度(T1)、貯蔵室の温度(T2)、移送部の温度(T3)をそれぞれモニターし、調整するために、温度センサー12、22、43をそれぞれ備えた構成である。
ここで、このような温度センサー12、22、43の態様としては、特に制限されるものではないが、具体的に、熱電対、サーミスタ、IC化温度センサー、水晶温度計、水銀、アルコール温度計等が挙げられる。
【0020】
(2)気化室
また、図1に示すように、気化室11は、矩形状の小部屋であって、表面改質量等によるが、通常、10〜1000cm3の容積を有している。
また、かかる気化室11は、改質剤化合物23の気液平衡状態を利用すべく、所定温度範囲に制御されるとともに、貯蔵室21の温度(T2)を考慮して、所定の温度関係式(1)を満足するように調整されている。
そして、気化室11は、微量の気体状態の改質剤化合物23´を安定的に生成するために、温度センサー12、図2に示すようなプリズムセンサー14や、図3に示すようなマイクロポンプ(シリンジポンプ)18を備えることが好ましい。
【0021】
まず、気化室11の温度(T1)の制御について、説明する。すなわち、気化室11の温度(T1)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、気化室の温度(T1)をこのような温度範囲に制御することにより、気化室11の温度(T1/℃)を所定範囲に制御し、ひいては、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御し、その濃度変化を、経済的、かつ迅速にさらに小さく抑制することができるためである。
例えば、気化室11の温度(T1)を10℃未満に制御しようとすると、比較的大規模な冷却装置が必要になったり、冷却時間が長時間になったりする場合がある。さらには、改質剤化合物の気化量が著しく低下し、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御すること自体が困難となる場合があるためである。
一方、気化室11の温度(T1)を40℃以上に制御しようとすると、貯蔵室から改質剤化合物を追加混合したような場合や、環境温度が大きく変化したような場合に、気化室内での温度変化が生じ、その結果、気化室内の気液平衡状態が大きく変化する場合があるためである。
したがって、空気との混合が不均一になって、外部への取り出しが困難となるばかりか、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御すること自体が困難となる場合があるためである。
また、比較的大規模な加熱装置が必要になったり、加熱装置に起因した温度むらが生じたりする場合があり、同様に、空気との混合が不均一になって、外部への取り出しが困難となり、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御すること自体が困難となる場合があるためである。
したがって、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御のさらなる容易さ等から、気化室11の温度(T1)を15〜35℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜30℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0022】
また、気化室には、改質剤化合物の液面レベルを測定するための液面計を備えていることが好ましい。
このような液面計としては、静電容量式液面計、フロー式液面計、超音波式液面計、圧力式液面計、プリズムセンサー(プリズム式液面計)等が挙げられる。
但し、設備の小型化や、軽量化が容易であることから、図2(a)に示すように、プリズムセンサー14を用いることが好ましい。
かかるプリズムセンサー14は、図2(b)に示すように、発光素子14aと、受光素子14bとから基本的に構成されており、ステンレス等の防錆材料から構成してあることが好ましい。
【0023】
また、気化室には、移送部から気化室へ改質剤化合物を循環させるに際して使用する送液ポンプを備えることが好ましい。
例えば、送液ポンプとして、ギヤポンプ、渦流ポンプ、渦流タービンポンプ等が挙げられるが、特に、図3(a)に示すように、マイクロポンプ18を備えることが好ましい。
この理由は、このようなマイクロポンプ18であれば、移送路から気化室への改質剤化合物の量を微調して調節し、移送することができるためである。
なお、かかるマイクロポンプ18は、図3(b)に示すように、基本的に、一定速度で動いて、所定方向に移動するピストン18aによって、シリンダ18b内部に収容された改質剤化合物を、微量であって、かつ、一定速度で送液できるように構成されている。
【0024】
(3)貯蔵室
図1に示すように、改質剤化合物23を貯蔵するための貯蔵室21には、温度センサー22を設けて、貯蔵室内の温度(T2)をモニターし、所定温度範囲に調整することが好ましい。
この理由は、気化室内における改質剤化合物の蒸発量等は、温度に敏感であって、温度が実質的に等しい改質剤化合物を、気化室へと追加混合することを意図するためである。逆に、貯蔵室内の温度(T2)が、気化室の温度(T1)と過度に異なると、気化室11の気液平衡状態が大きく変化して、気化室11における空気との混合が不均一になって、外部への取り出しが困難となるばかりか、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御すること自体が困難となる場合があるためである。
【0025】
したがって、貯蔵室21の温度(T2)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、貯蔵室21の温度(T2)をこのような温度範囲に制御することにより、貯蔵室の温度(T2/℃)、ひいては、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化を、経済的、かつ迅速にさらに小さくすることができるためである。
例えば、貯蔵室21の温度(T2)を10℃未満に制御しようとすると、比較的大規模な冷却装置が必要になったり、冷却時間が長時間になったりする場合がある。さらには、気化室の温度も対応して低下させるために、改質剤化合物の気化量が著しく低下し、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御すること自体が困難となる場合があるためである。
一方、貯蔵室21の温度(T2)を40℃以上に制御しようとすると、比較的大規模な加熱装置が必要になったり、加熱装置に起因した温度むらが生じたりする場合があり、貯蔵室から改質剤化合物を追加混合したような場合に、貯蔵室内の温度変化が生じやすいためである。したがって、貯蔵室21の温度(T2)に起因して、気化室11の気液平衡状態が大きく変化する場合があり、気化室11における空気との混合が不均一になって、外部への取り出しが困難となるばかりか、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御すること自体が困難となる場合があるためである。
したがって、貯蔵室21の温度(T2)を、気化室11の温度(T1)により対応させるべく、15〜35℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜30℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0026】
(4)移送部
移送部は、図1に示すように、通常、ジョイント31f等を含む管構造31eであって、気化室11から移送されてきた気体状の改質剤化合物23´と、第2の貯蔵タンク(図示せず)から移送されてきた空気(Air2)と、を均一に混合し、噴射部において火炎42として燃焼させるべく、移送するための部位である。
したがって、空気(Air2)と混合して、燃料ガスとするための混合室であるジョイント31fを備えるとともに、流量を制御するための弁や流量計、あるいは燃料ガスの圧力を制御するための圧力計を備えている。
【0027】
また、移送部の温度(T3)をモニターし、調整するために、温度センサー43を備えることが好ましい。
すなわち、このような温度範囲に調整することにより、気化室で生成された燃料ガスが気化室内で冷却された場合であっても、燃料ガスの結露を有効に防止するためである。逆に、移送路中に液体の状態で滞留してしまうと、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度を制御すること自体が困難となる場合があるためである。
したがって、具体的には、移送部の温度(T3)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように制御することにより、移送部の温度(T3/℃)、ひいては、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化を、経済的、かつ迅速にさらに小さくすることができるためである。
なお、移送部の温度(T3)を、貯蔵室21の温度(T2)および気化室11の温度(T1)に対応させるべく、15〜35℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜30℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0028】
また、噴射部へ移送される燃料ガス中の改質剤化合物の濃度を測定するために、ガス濃度計を備えていることが好ましく、図4(a)に示すように、赤外線を用いたIRセンサー44およびそのモニター等を含む制御部44aを備えることが好ましい。
この理由は、IRセンサーからのデータ信号を利用して、非接触であっても燃料ガス中の改質剤化合物の濃度を測定することができ、それから改質剤化合物の濃度を調整することによって、噴射部への燃料ガスの供給量をコントロールすることができるためである。したがって、IRセンサーからの信号をもとに、燃料ガス中の改質剤化合物の濃度を微妙かつ迅速に調整することが可能となる。
より具体的には、所定波長領域に赤外線を照射して、燃料ガス中の改質剤化合物に帰属した赤外線の吸収ピークの高さを測定し、予め作成しておいた検量線(改質剤化合物の濃度と、所定波長ピークの高さ)に照らして、燃料ガス中の改質剤化合物の濃度を算出することができる。
【0029】
(5)噴射部
噴射部は、図1に示すように、移送部を経て送られてきた燃料ガスを燃焼させ、得られた火炎42を、被処理物である固体物質に吹き付けるためのバーナー41を備えている。
かかるバーナーの種類も特に制限されるものでないが、例えば、予混合型バーナー、拡散型バーナー、部分予混合型バーナー、噴霧バーナー、蒸発バーナー、微粉炭バーナー等のいずれであっても良い。
また、バーナーの形態についても特に制限されるものでなく、例えば、図1に示すように、先端部に向かって拡大し、全体として扇型の構成であっても、長方形等であっても良い。
また、バーナーへ送られる燃料ガスの濃度をモニターし、調整するためのIRセンサー(赤外線センサー)を備えることが好ましい。IRセンサーからの信号をもとに、燃料ガスの量を調整することによって、噴射部への燃料ガスの供給量をコントロールすることが可能となる。
すなわち、IRセンサーからの信号をもとに微妙な調整が可能となり、当該表面改質装置を用いて、固体物質を表面改質するときの、仕上がりの安定性につながるためである。
【0030】
2.温度関係式
次いで、本発明の表面処理装置における特徴の一つである所定の温度関係式について、説明する。
すなわち、表面処理装置における気化室の温度T1(℃)とし、貯蔵室の温度をT2(℃)としたときに、T1及びT2が、以下の温度関係式(1)を満足することを特徴とする。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)
この理由は、気化室の温度T1と、貯蔵室の温度T2の差が15℃を越えると、貯蔵室から改質剤化合物を追加混合したような場合や、環境温度が大きく変化したような場合であっても、気化室内の気液平衡状態変化が少なくなるためである。
したがって、かかる気液平衡状態変化が少なくなると、気化室で、空気と混合される改質剤化合物量が一定になって、気化室を出た直後の燃料ガス中に含まれる改質剤化合物濃度はもちろんのこと、移送部や、燃焼部における燃料ガス中に含まれる改質剤化合物濃度についても、所定範囲内の値に制御することができる。
また、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物濃度が一定となるため、改質剤化合物濃度を結露する濃度以下の値に制御しやすくなって、移送部における結露現象についても有効に防止することができるためである。
よって、気化室の温度(T1)と、貯蔵室の温度(T2)の差を所定範囲以内とすることにより、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化が少なくなり、ひいては、貯蔵室から改質剤化合物を追加混合したような場合や、環境温度が大きく変化したような場合であっても、安定的に、所定の表面改質効果を得ることができる。
【0031】
ここで、図6を参照して、気化室の温度(T1)および貯蔵室の温度(T2)の差と、表面改質効果のばらつきと、の関係を説明する。
図6の横軸には、気化室の温度(T1)および貯蔵室の温度(T2)の差(T1−T2/℃)を採ってあり、縦軸に、ポリプロピレンフィルムに対して、表面改質処理を施した場合の濡れ指数(dyn/cm)を採ってある。
なお、表面改質処理装置としては、イシマット・ジャパン(株)製のイトロ処理装置(シラン化合物:テトラメチルシラン)を用い、表面改質処理条件として、5秒間/100cm2の割合でポリプロピレンフィルムに施した場合の濡れ指数(dyn/cm)を採ってある。
そして、同一条件で、3回繰り返して表面改質処理を行い、各処理条件で得られた最大値と、最小値を結んで、二本の特性曲線を描いたものである。
これらの二本の特性曲線から容易に理解されるように、T1−T2の温度差が±15℃以内であれば、最大値と、最小値の差が比較的小さくなるものの、かかる温度差が±15℃を超えると、急に、最大値と、最小値の差が大きくなる傾向がある。
したがって、T1−T2の温度差を所定値以下にすることにより、気化室における気液平衡状態を一定に保持して、表面改質効果のばらつきを少なくできると言える。
【0032】
また、図7を参照して、気化室の温度(T1)および移送部の温度(T3)の差と、表面改質効果のばらつきと、の関係を説明する。
図7の横軸には、気化室の温度(T1)および移送部の温度(T3)の差(T1−T3/℃)を採ってあり、縦軸に、ポリプロピレンフィルムに対して、表面改質処理を施した場合の濡れ指数(dyn/cm)を採ってある。なお、表面改質処理装置および表面改質処理条件としては、図6の場合と同様である。
そして、同一条件で、3回繰り返して表面改質処理を行い、各処理条件で得られた最大値と、最小値を結んで、二本の特性曲線を描いたものである。
これらの二本の特性曲線から容易に理解されるように、T1−T3の温度差が±15℃以内であれば、最大値と、最小値の差が比較的小さくなるものの、かかる温度差が±15℃を超えると、急に、最大値と、最小値の差が大きくなる傾向がある。
したがって、T1−T3の温度差を所定値以下にすることにより、気化室における気液平衡状態を一定に保持して、表面改質効果のばらつきを少なくできると言える。
【0033】
3.表面改質剤
また、表面処理装置に用いる改質剤化合物については、第2の実施形態で具体的に説明する。
【0034】
4.固体物質
また、表面処理装置が適用される固体物質については、第2の実施形態で具体的に説明する。
【0035】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物を貯蔵するための貯蔵室と、改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成するための気化室と、気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送部と、燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部と、を含む表面改質装置を用いた固体物質の表面改質方法であって、気化室の温度をT1(℃)とし、貯蔵室の温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、以下の温度関係式(1)を満足するように、当該T1およびT2の値を調整する固体物質の表面改質方法である。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)
以下、表面改質方法を実施するに際しての各工程に分けて説明する。但し、第2の実施形態の特徴部分について中心に説明するものとし、第1の実施形態で説明した内容は、適宜省略するものとする。
(1)貯蔵室において、改質剤化合物を貯蔵する貯蔵工程
(2)気化室において、改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成する気化工程
(3)気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送工程
(4)燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射工程
【0036】
1.貯蔵工程
貯蔵室において、改質剤化合物を貯蔵する工程である。
ここで、かかる改質剤化合物としては、以下のとおりである。
【0037】
(1)沸点
改質剤化合物の沸点(大気圧下)を10〜200℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる改質剤化合物の沸点が10℃未満の値であっては、揮発性が激しくて、取り扱いが困難となる場合があるためである。
一方、かかる改質剤化合物の沸点が200℃を超えると、空気流との混合性が低下し、固体物質の表面改質が不均一になったり、長時間にわたって、改質効果を持続させることが困難になったりする場合があるためである。
したがって、かかる改質剤化合物の沸点を15〜180℃の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜120℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、かかる改質剤化合物の沸点は、改質剤化合物自体の構造を制限することによっても調整することができるが、その他、共沸現象を利用して、比較的沸点が低いアルキルシラン化合物等と、比較的沸点が高いアルコキシラン化合物等とを適宜混合使用することによっても調整することができる。
【0038】
あるいは、後述する改質剤化合物とともに、アルコール化合物、例えば、メタノール、エタノール、メタノール、ブタノール、アミノアルコール、ベンジルアルコール、グリコール等を添加することも好ましい。
この理由は、このようなアルコール化合物を添加することにより、改質剤化合物の沸点を調整することができるとともに、改質剤化合物と比較して蒸発しやすいために、安定的に表面改質を行うことができるためである。
また、このようなアルコール化合物を添加することにより、炎色反応によって、確実に、固体物質の表面に対して、改質剤化合物が吹き付けていることを目視で確認することができるためである。
さらに、このようなアルコール化合物を添加することにより、後述する図9に示すように、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子を均一に形成することができるためである。
なお、後述する改質剤化合物にアルコール化合物を添加する場合、改質剤化合物100重量部に対して、アルコール化合物を1〜80重量部の範囲内の値とすることが好ましく、5〜50重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、8〜30重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
(2)種類
また、改質剤化合物の種類についても特に制限されるものではないが、例えば、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、及びアルコキシアルミニウム化合物等が挙げられる。
また、これらの化合物のうち、アルキルシラン化合物、アルキルチタン化合物、及びアルキルアルミニウム化合物は、一般に沸点が低いものが多く、加熱により容易に気化して、空気等と均一に混合できることから好ましい改質剤化合物である。
このようなアルキルシラン化合物の好適例としては、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジフェニルシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリフェニルシラン、ジメチルジエチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0040】
また、アルキルチタン化合物の好適例としては、テトラメチルチタン、テトラエチルチタン、ジメチルジクロロチタン、ジメチルジフェニルチタン、ジエチルジクロロチタン、ジエチルジフェニルチタン、メチルトリクロロチタン、メチルトリフェニルチタン、ジメチルジエチルチタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、ジメチルジメトキシチタン、フェニルトリメトキシチタン、ジクロロジメトキシチタン、ジクロロジエトキシチタン、ジフェニルジメトキシチタン、ジフェニルジエトキシチタン、トリクロロメトキシチタン、トリクロロエトキシチタン、トリフェニルメトキシチタン、トリフェニルエトキシチタン等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0041】
さらに、アルキルアルミニウム化合物の好適例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジメチルクロロアルミニウム、ジメチルフェニルアルミニウム、ジエチルクロロアルミニウム、ジエチルフェニルアルミニウム、メチルジクロロアルミニウム、メチルジフェニルアルミニウム、ジメチルエチルアルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、メチルジメトキシアルミニウム、ジメチルメトキシアルミニウム、フェニルジメトキシアルミニウム、ジクロロメトキシアルミニウム、ジクロロエトキシアルミニウム、ジフェニルメトキシアルミニウム、ジフェニルエトキシアルミニウム、ジクロロメトキシアルミニウム、ジクロロエトキシアルミニウム、ジフェニルメトキシアルミニウム、ジフェニルエトキシアルミニウム等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0042】
また、シラン化合物等において、分子内又は分子末端に窒素原子、ハロゲン原子、ビニル基及びアミノ基の少なくとも一つを有する化合物、あるいは分子内にシロキサン結合を有する化合物であることがより好ましい。
より具体的には、ヘキサメチルジシラザン(沸点:126℃)、ビニルトリメトキシシラン(沸点:123℃)、ビニルトリエトキシシラン(沸点:161℃)、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(沸点:144℃)、トリフルオロプロピルトリクロロシラン(沸点:113〜114℃)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(沸点:215℃)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(沸点:217℃)、ヘキサメチルジシロキサン(沸点:100〜101℃)、及び3−クロロプロピルトリメトキシシラン(沸点:196℃)の少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
この理由は、このようなシラン化合物であれば、キャリアガスとの混合性が向上するとおもに、水酸基が表面に現われやすくて、固体物質の表面に、図9に示すように、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子を均一に形成することができるためである。
また、これらの化合物における沸点等の関係で、かかるシラン化合物が固体物質の表面に一部残留しやすくなるため、固体物質と、各種紫外線硬化型樹脂等からなる塗膜との間で、より優れた密着力を得ることができるためである。
【0043】
(3)平均分子量
また、改質剤化合物の平均分子量を、マススペクトル測定において、50〜1、000の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる改質剤化合物の平均分子量が50未満となると、揮発性が高くて、取り扱いが困難となる場合があるためである。一方、かかる改質剤化合物の平均分子量が1、000を超えると、加熱により気化して、空気等と容易に混合することが困難となる場合があるためである。
したがって、改質剤化合物の平均分子量を、マススペクトル測定において、60〜500の範囲内の値とすることがより好ましく、70〜200の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0044】
(4)密度
また、改質剤化合物の液体状態での密度を、0.3〜0.9g/cm3の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる改質剤化合物の密度が0.3g/cm3未満となると、取り扱いが困難となったり、エアゾール缶に収容したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかる改質剤化合物の密度が0.9g/cm3を超えると、気化しにくくなるとともに、エアゾール缶に収容した場合に、空気等と完全に分離した状態となる場合があるためである。
したがって、改質剤化合物の密度を0.4〜0.8g/cm3の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜0.7g/cm3の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0045】
2.気化工程
気化工程は、気化室において、改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成する工程である。
そして、気化室に空気等のキャリアガスを連続的に導入し、改質剤化合物と均一な状態になるように混合した後、所定量の改質剤化合物を含む気体状物として、気化室から、移送部に取り出す工程である。
【0046】
3.移送工程
移送工程は、気化室から取りだされた所定量の改質剤化合物を含む気体状物を、そのまま燃料ガスとして、噴射部に移送するための工程である。あるいは、気化室から取りだされた所定量の改質剤化合物を含む気体状物と、空気等の酸化物とを、さらに均一混合し、それを燃料ガスとして、噴射部に移送するための工程である。
ここで、移送工程における燃料ガスに含まれる改質剤化合物の添加量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる改質剤化合物の添加量が1×10-10モル%未満の値になると、固体物質に対する改質効果が発現しない場合があるためである。一方、かかる改質剤化合物の添加量が10モル%を超えると、改質剤化合物と空気等との混合性が低下し、それにつれて改質剤化合物の酸化が不十分となる場合があるためである。
したがって、改質剤化合物の添加量を、気体状物の全体量を100モル%としたときに、1×10-9〜5モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、1×10-8〜1モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0047】
4.噴射工程
(1)流体フロー
噴射工程は、少なくとも改質剤化合物、空気、および炭化水素ガスを含む燃料ガスに由来した火炎を、固体物質に対して、吹き付けるための工程である。
そして、図8に、かかる噴射工程において、空気/炭化水素ガスの混合モル比を制御する上で使用した表面改質装置100に基づく流体フローを示す。
この表面改質装置100は、貯蔵タンク部102と、移送路105と、燃料ガスの貯蔵タンク106、圧縮空気源107と、から基本的に構成されており、それらが配管によって結合されている。
すなわち、貯蔵タンク部102には、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物等の改質剤化合物101が貯蔵してある。したがって、気液平衡を利用したベーパライザー(図示せず)において、改質剤化合物の存在量が低下すると、貯蔵タンク102から、暫時、追加されることになる。
なお、貯蔵タンク部102の内部あるいは外部に、加熱手段103あるいは自然蒸発により気化させる、気液平衡を利用したベーパライザー(図示せず)が設けてある。そして、加熱手段103には、自然蒸発によるベーパライザーを含んで意味する場合がある。
【0048】
また、移送路105は、ベーパライザー(図示せず)において、加熱手段103あるいは自然蒸発により気化した改質剤化合物101を、噴射部(バーナー)104に向かって移送させるための配管である。
そして、表面改質装置100は、後述するプロパンガスやLPGガス等の炭化水素ガスの貯蔵タンク106や、当該炭化水素ガスの燃焼用空気、並びに改質剤化合物を搬送するための空気(キャリア)をそれぞれ供給するための圧縮空気源107をさらに備えている。
【0049】
また、移送路105の途中には、第1のミキサ(サブミキサと称する場合がある。)108や、第2のミキサ(メインミキサと称する場合がある。)109が設けてある。
ここで、第1のミキサ108は、ベーパライザー(図示せず)において気化した改質剤化合物(一部、気化した改質剤化合物の移送用空気を含む)と、圧縮空気源107からの空気と、を均一に混合して、一次燃料ガスとする混合装置である。
また、第2のミキサ109は、一次燃料ガスと、貯蔵タンク106より移送されてくる炭化水素ガスと、を均一に混合して、最終的な燃料ガス(二次燃料ガスと称する場合がある。)とするための混合装置である。
さらには、貯蔵タンク部102と、圧縮空気源107、および貯蔵タンク106のそれぞれの出口には、流体物の流量をコントロールするための流量計付き流量調節バルブ110、111、112がそれぞれ設けられている。
【0050】
(2)空気
また、噴射工程において、火炎の温度制御やキャリア効果の発揮等のみならず、図9に示すように、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子を均一に形成することができるために、所定量の空気を用いることが好ましい。すなわち、燃料ガス中に、所定量の空気を導入し、火炎の燃料ガスの一部として用いることが好ましい。
ここで、このような空気の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、80〜99.9モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる空気の含有量が80モル%未満となると、ケイ素含有化合物の燃焼が不完全になるばかりか、水酸基の生成が不十分となる場合があるためである。一方、かかる空気の含有量が99.9モル%を超えると、表面改質効果が十分に発揮されない場合があるためである。
したがって、空気の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、90〜99.5モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、93〜99モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、空気は、キャリアガスとして用いるほか、燃料ガスの最終段階で加えても良く、空気/炭化水素ガスの値を最終的に所定範囲に調整することができれば良い。
【0051】
(2)炭化水素ガス
また、噴射工程において表面改質方法を実施するにあたり、炭化水素ガスとして、例えば、プロパンガスまたはLPG(プロパンガス単独以外の液化石油ガス)を用いることが好ましい。
この理由は、このような種類の炭化水素ガスであれば、安価である一方、所定温度で燃焼することができるためである。したがって、ケイ素含有化合物等を安定的に熱分解させて、いずれの固体物質に対しても、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子を、強固かつ均一に積層することができる。
なお、LPGとしては、ブタン(ノルマルブタン、イソブタン)、ブタン/プロパンの混合ガス、エタン、ペンタン(ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン)等が挙げられる。
一方、このような炭化水素ガスの含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、0.1〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる炭化水素ガスの含有量が0.1モル%未満となると、火炎温度が低下して、ケイ素含有化合物等の燃焼が不完全になるばかりか、水酸基の生成が不十分となる場合があるためである。一方、かかる炭化水素ガスの含有量が10モル%を超えると、不完全燃焼して、同様に、表面改質効果が十分に発揮されない場合があるためである。
したがって、炭化水素ガスの含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、0.5〜8モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.8〜5モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0052】
(3)空気/炭化水素ガスの混合モル比
次いで、噴射工程で使用する燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比について、図9〜11を参照して、詳細に説明する。
まず、図9(a)は、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子51による固体物質50の表面改質状況の概念図である。
また、図9(b)は、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子51の概念図である。
すなわち、特定の燃料ガスを用いることによって、このような水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、強固かつ均一に積層されやすくなることから、ケイ素含有化合物等の沸点の相違や、周囲の環境条件にかかわらず、いずれの固体物質に対しても、所定の表面改質効果を得ることができる。
なお、かかる水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子の平均粒径は特に制限されるものではないが、例えば、0.001〜10μmの範囲内の値とすることが好ましく、0.01〜2μmの範囲内の値とすることがより好しく、0.05〜0.8μmの範囲内の値とすることがさらに好しい。
【0053】
また、図10(a)〜(d)は、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子10による表面改質状況が、処理程度に準じて変化する様子の概念図である。
図10(a)は、未処理のポリプロピレンフィルム(厚さ:50μm)の表面状態を表しており、図10(b)は、それに対して、実施例1に基づく表面処理を0.6秒間実施した場合の表面改質状況を示している。
したがって、両者を比較することにより、ポリプロピレンフィルムの表面に、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子がまばらに付着していることが理解される。
すなわち、特定の燃料ガスを用いることによって、このような水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、ポリプロピレンフィルムの表面に、強固かつ均一に積層されやすくなることから、ケイ素含有化合物等の沸点の相違や、周囲の環境条件にかかわらず、いずれの固体物質に対しても、所定の表面改質効果が得られると言うことができる。
【0054】
ここで、図10(c)は、図10(a)のポリプロピレンフィルムに対して、実施例1に基づく表面処理を1秒間実施した場合の表面改質状況を示している。したがって、両者を比較することにより、ポリプロピレンフィルムの表面に、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子がかなり均一かつ相当量付着していることが理解される。
さらに、図10(d)は、図10(a)のポリプロピレンフィルムに対して、実施例1に基づく表面処理を2秒間実施した場合の表面改質状況を示している。したがって、両者を比較することにより、ポリプロピレンフィルムの表面に、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、一部連続的に、かつ多量に付着していることが理解される。
すなわち、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、例えば、図10(b)〜(d)の状態で付着していると、濡れ指数の値が高くなり、所定の表面改質効果が得られると言える。
但し、図10(d)に示すシリカ粒子の場合、その表面における水酸基の量が、図10(b)〜(d)のシリカ粒子と比較して、元素分析方法によって、少ない傾向が見られている。
したがって、本発明において重要なことは、あくまで水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、固体物質の表面に付着していることであって、水酸基を表面に多数有しないシリカ粒子が多量に付着していたとしても、優れた表面改質効果は得られないと言える。
【0055】
また、シリカ粒子の表面の水酸基量は、例えば、FT−IRを用いて推定することができる。すなわち、FT−IRで得られる赤外吸収チャートにおいて、吸着水に帰属する3400cm-1付近のピーク高さ(P2)と、遊離水酸基に帰属する3600cm-1付近のピーク高さ(P1)とを比較して、所定範囲内の値であれば、優れた表面改質効果を得る上で、好ましいと言える。
例えば、P1/P2で表される数値が0.2〜1.0程度であれば好ましく、0.3〜0.9程度であればより好ましく、0.4〜0.8程度であればさらに好ましいと言える。
逆に、このような範囲のP1/P2の数値が得られれば、少なくとも水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子ということができる。
【0056】
また、シリカ粒子の表面の水酸基量は、XPS(X線光電子分光分析)によっても、推定することができる。すなわち、XPSで得られる粒子表面の元素分析データにおいて、Si:Oの比率が、1:2.2〜1:3.2の範囲内であれば、シリカ粒子の表面の水酸基量が多くて、優れた表面改質効果を得る上で、好ましいと言える。
したがって、Si:Oの比率が、1:2.5〜1:3.0の範囲内であれば、より好ましく、1:2.6〜1:2.9の範囲内であればさらに好ましいと言える。
逆に、このような範囲のSi:Oの比率が得られれば、少なくとも水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子ということができる。
なお、XPSで得られる粒子表面の元素分析データにおいて、同時に、C(炭素)のデータも取得し、Si:Cの比率が、1:0.0001〜0.1の範囲であれば、シリカ粒子の表面のカルボキシル基量ではなくて、水酸基量が多いとさらに推定していうことができる。
【0057】
次いで、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を23以上の値とする理由を、図11を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
かかる図11は、実施例1等に準拠したデータであって、横軸に空気/炭化水素ガスの混合モル比(−)を採って示してあり、縦軸に、ポリプロピレンフィルムの表面における濡れ指数(dyn/cm)を採って示してある。
【0058】
かかる図11から理解されるように、空気/炭化水素ガスの混合モル比が10〜20程度であると、ほとんど表面改質効果が得られていない。すなわち、表面処理を実施しているにもかかわらず、未処理のポリプロピレンに対する濡れ指数である30dyn/cm程度の値しか得られていない。
次いで、空気/炭化水素ガスの混合モル比が20超〜22程度の範囲になると、濡れ指数の値がわずかに増加する傾向があるものの、結局、30dyn/cm程度であって、その増加幅は少なく、表面改質効果が未だ得られていないことが理解される。
【0059】
それに対して、空気/炭化水素ガスの混合モル比が23〜25程度の範囲になると、著しく濡れ指数が増加し、45〜58dyn/cm程度になっていることから、所定の表面改質効果が得られることが理解される。
さらに、空気/炭化水素ガスの混合モル比が25〜38程度の範囲になると、さらに著しく濡れ指数が増加し、70〜72dyn/cm程度になっていることから、優れた表面改質効果が安定的に得られることが理解される。
したがって、図11から、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比が23未満となると、表面改質効果が安定的に発揮されなかったり、あるいは、火炎が消火しやすくなったり、不完全燃焼したりするため、好ましくないといえる。
【0060】
但し、空気/炭化水素ガスの混合モル比が40を超えると、今度は、逆に、得られる濡れ指数の値が若干ばらつく傾向が見られている。これは、空気/炭化水素ガスの混合モル比の関係で、空気があまりに過剰に存在すると、火炎が安定しないためであると推定される。
【0061】
よって、このように空気/炭化水素ガスの混合モル比が23以上である燃料ガスを用いることによって、ケイ素含有化合物等の沸点の相違や、周囲の環境条件にかかわらず、いずれの固体物質に対しても、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子を、強固かつ均一に積層することができる。したがって、表面処理した固体物質上に、熱硬化性樹脂塗料や紫外線硬化性塗料からなる塗膜を形成した場合であっても、固体物質と、塗膜との間で、優れた密着性を得ることができる。
但し、ばらつきが少なく、より安定的に表面改質効果が発揮されることから、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を24〜45の範囲内の値とすることがより好ましく、25〜38の範囲内の値とすることがさらに好ましく、28〜35の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0062】
(4)固体物質
噴射工程で表面改質処理する固体物質としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、ネオプレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、オレフィンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリルーブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレンープロピレン−ジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびウレタン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも一つのゴム類が挙げられる。
また、別な固体物質として、ポリエチレン樹脂(高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高圧法ポリエチレン、中圧法ポリエチレン、低圧法ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、高圧法線状低密度ポリエチレン、超固体量ポリエチレン、架橋ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリトリフルオロクロロエチレン樹脂、およびエチレン−トリフルオロクロロエチレン共重合体等が挙げられる。
また、固体物質として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂等の熱硬化型樹脂が挙げられる。
【0063】
また、固体物質として、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、ニッケル、クロム、タングステン、金、銅、鉄、銀、亜鉛、スズ、鉛等の一種単独または二種以上の金属材料の組み合わせが挙げられる。
例えば、アルミニウムは軽量金属として多用されているが、表面に酸化膜を形成しやすく、紫外線硬化型塗料等を直接適用しても容易に剥離してしまうという問題が見られた。そこで、アルミニウム表面に対してケイ酸化炎処理等を施すことにより、紫外線硬化型塗料等を直接適用しても剥離することを有効に防止することができるようになった。
また、マグネシウムはリサイクル可能な金属部材として、パ−ソナルコンピューター等の筐体に近年多用されているが、表面の平滑性が乏しいことから、紫外線硬化型塗料等を直接適用しても容易に剥離してしまうという問題が見られた。そこで、マグネシウム表面に対してケイ酸化炎処理等を施すことにより、紫外線硬化型塗料等を直接適用した場合であっても、剥離することを有効に防止することができ、カラー化マグネシウム板等を提供できるようになった。
さらに、従来、半導体素子における金バンプや半田バンプを、フィルムキャリアや回路基板に電気接続した場合、高温高湿条件で、界面剥離が生じるという問題が見られた。そこで、金バンプや半田バンプにケイ酸化炎処理等を施すことにより、あるいは、フィルムキャリアや回路基板の導体部分にケイ酸化炎処理等を施すことにより、これらの界面剥離を有効に防止することができるようになった。
なお、ケイ酸化炎処理等とは、ケイ素原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む火炎を用いた処理であって、基材の炎熱分解によって、基材の全部または一部に、酸化ケイ素層、酸化チタン層あるいは酸化アルミナ層を形成することができる火炎処理のことである。
【0064】
また、固体物質として、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、石灰、ゼオライト、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、半田、ガラス、セラミック等の一種単独または二種以上の組み合わせも挙げられる。
このように無機フィラーを添加することにより、無機フィラーの種類によって、固体物質の機械的強度、耐熱性、導電性あるいは電気絶縁性等の物理特性を向上させることができる。
なお、固体物質に対して、無機フィラーを添加する場合、全体量に対して、その添加量を0.01〜80重量%の範囲内の値とすることが好ましく、0.1〜50重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、1〜30重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0065】
さらに、被処理物である固体物質の形態は特に制限されるものではないが、例えば、板状、シート状、フィルム状、テープ状、短冊状、パネル状、紐状などの平面構造を有するものであってもよいが、筒状、柱状、球状、ブロック状、チューブ状、パイプ状、凹凸状、膜状、繊維状、織物状、束状等の三次元構造を有するものであっても良い。
例えば、繊維状のガラスやカーボンファーバーに対して、ケイ酸化炎処理等を施すことにより、表面改質をして、活性化することができ、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等のマトリクス樹脂中に均一に分散することができる。したがって、FRPやCFRPにおいて、優れた機械的強度や耐熱性等を得ることができる。
【0066】
また、このような被処理物の形態として、このような固体物質からなる構造体と、金属部品、セラミック部品、ガラス部品、紙部品、木部品等と組み合わせた複合構造体であることも好ましい。
例えば、金属管やセラミック管の内面に、ケイ酸化炎処理等を施すことにより、表面改質をして、活性化することができ、樹脂ライナーが極めて強固に積層されたパイプを得ることができる。
また、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス装置、プラズマディスプレイ装置、あるいはCRT等における基板としてのガラス基板やプラスッチク基板の全面または一部に、ケイ酸化炎処理等を施すことにより、カラーフィルター、偏向板、光散乱板、ブラックマトリクス板、反射防止膜、帯電防止膜等の有機フィルムを極めて均一かつ強固に積層することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、気化室の温度(T1/℃)と、貯蔵室の温度(T2/℃)とが所定関係を満足することにより、貯蔵室から改質剤化合物を追加混合したような場合や、環境温度が大きく変化したような場合であっても、図13中にラインAに示すように、気化室内の温度変化がほとんど観察されなくなった。したがって、気液平衡状態の変化が少なくなり、さらには、移送部における結露現象も有効に防止できるようになった。
よって、本発明によれば、燃料ガス中に含まれる改質剤化合物の濃度変化が少なく、固体物質において、安定的に、所定の表面改質効果が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の表面改質装置の構造を説明するために供する図である。
【図2】(a)〜(b)は、プリズムセンサーを備えた表面改質装置を説明するために供する図である。
【図3】(a)〜(b)は、マイクロポンプを備えた表面改質装置を説明するために供する図である。
【図4】(a)〜(b)は、IRセンサーを備えた表面改質装置を説明するために供する図である。
【図5】温度制御装置(加熱装置および冷却装置)を備えた表面改質装置を説明するために供する図である。
【図6】気化室の温度(T1)および貯蔵室の温度(T2)の差と、表面改質効果のばらつきと、の関係を説明するために供する図である。
【図7】気化室の温度(T1)および移送部の温度(T3)の差と、表面改質効果のばらつきと、の関係を説明するために供する図である。
【図8】表面改質装置に基づく流体フローを説明するために供する図である。
【図9】(a)〜(b)は、固体物質の表面改質状況および水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子を説明するために供する図である。
【図10】(a)〜(d)は、表面改質状況を説明するために供する図である。
【図11】空気/炭化水素ガスの混合モル比と、濡れ指数との関係を説明するために供する図である。
【図12】従来の表面改質装置の構造を説明するために供する図である。
【図13】気化室の温度変化を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0069】
10:表面改質装置
11:気化室
12:温度センサー
13:改質剤化合物
14:プリズムセンサー
14a:発光素子
14b:受光素子
18:マイクロポンプ
21:貯蔵室
22:温度センサー
23:改質剤化合物
31a〜31d:配管(移送部の一部)
31e:移送部
31f:ジョイント(混合室)
32a、32b、32c:調量弁
33a、33b、33c:加熱手段
41:噴射部(バーナー部)
42:火炎
44:IRセンサー
44a:制御部
50:固体物質
51:水酸基を有するシリカ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物を貯蔵するための貯蔵室と、
前記改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成するための気化室と、
前記気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送部と、
前記燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部と、
を含む表面改質装置であって、
前記気化室の温度をT1(℃)とし、前記貯蔵室の温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、以下の温度関係式(1)を満足することを特徴とする表面改質装置。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)
【請求項2】
前記移送部の温度をT3(℃)としたときに、前記T1および当該T3が、以下の温度関係式(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面改質装置。
T3−15℃≦T1≦T3+15℃ (2)
【請求項3】
前記気化室の温度(T1)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の表面改質装置。
【請求項4】
前記貯蔵室の温度(T2)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面改質装置。
【請求項5】
前記移送部の温度(T3)を10〜40℃未満の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面改質装置。
【請求項6】
前記気化室に、液面計としてのプリズムセンサーを備えるとともに、当該プリズムセンサーによって、所定基準以下の液面であると検知された場合には、前記貯蔵室から、前記改質剤化合物を供給することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の表面改質装置。
【請求項7】
前記貯蔵室から、前記気化室に対して、前記改質剤化合物を供給するためのマイクロポンプを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の表面改質装置。
【請求項8】
前記噴射部において、前記燃料ガスを測定するための赤外線センサー(IRセンサー)を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の表面改質装置。
【請求項9】
シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物を貯蔵するための貯蔵室と、前記改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成するための気化室と、前記気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送部と、前記燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部と、を含む表面改質装置を用いた固体物質の表面改質方法であって、
前記気化室の温度をT1(℃)とし、前記貯蔵室の温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、以下の温度関係式(1)を満足するように、当該T1およびT2の値を調整することを特徴とする固体物質の表面改質方法。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)
【請求項10】
前記気化室に空気を導入し、当該空気と、前記気体状態の改質剤化合物と、の混合物を生成した後、前記燃料ガスの一部として、前記噴射部に移送することを特徴とする請求項9に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項11】
前記燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を23以上の値とすることを特徴とする請求項9または10に記載の固体物質の表面改質方法。
【請求項12】
前記燃料ガス中の改質剤化合物の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項9〜11のいずれか一項に記載の固体物質の表面改質方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−50629(P2008−50629A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225507(P2006−225507)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(502139552)株式会社イトロ技術研究所 (2)
【Fターム(参考)】