説明

固体状のアミンのカルボジチオ酸塩の製造方法

【課題】従来の固体状のアミンのカルボジチオ酸塩を得る方法は効率的ではなく、特に溶解度の高いアミンのカルボジチオ酸塩の場合、固体状のものを効率的に得るのは困難であった。
【解決手段】水溶液中でアミン、二硫化炭素、金属水酸化物を混合して反応するアミンのカルボジチオ酸塩水溶液の製造方法において、水溶性の有機溶媒を共存させることにより、効率的に固体状のアミンのカルボジチオ酸塩を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属処理剤として有用なアミンのカルボジチオ酸塩を固体状で効率的に得る製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
アミンのカルボジチオ酸塩は飛灰、土壌、廃水等の重金属の固定化処理剤として用いられている。重金属処理剤としてのアミンのカルボジチオ酸塩は通常は20〜60重量%程度の水溶液が用いられているが、昨今、固体(粉末状)の重金属処理剤の要求が高まっている。
【0003】
これまで、アミンのカルボジチオ酸塩を含む固体状の重金属処理剤としては例えば、カルボジチオ酸塩3〜30重量部に対してアルカリ水酸化物やアルカリ土類水酸化物を100重量部用いる重金属処理剤(例えば特許文献1参照)、ケイ酸カルシウムを担体とした重金属処理剤(例えば特許文献2参照)、不溶性である遷移金属のカルボジチオ酸塩(例えば特許文献3参照)、カルボジチオ酸塩溶液を高温で噴霧乾燥したもの(例えば特許文献4参照)、デンプンにキレート剤を含ませて粉末状にしたもの(例えば特許文献5参照)等が報告されている。
【0004】
しかし、従来の濃縮や噴霧乾燥によって固体状の重金属処理剤を得る方法では、水溶液の蒸発に多大なエネルギーが必要であり、経済的でなかった。
【0005】
これに対して、固体状のピペラジンのカルボジチオ酸塩(例えば特許文献6,7参照)、固体状のジエチルアミンのカルボジチオ酸塩(例えば特許文献8参照)をアミンのカルボジチオ酸塩の飽和水溶液を循環することにより効率的に得る方法が提案されている。しかしながら、これらの方法ではピペラジンのカルボジチオ酸ナトリウム塩やジエチルアミンのカルボジチオ酸ナトリウム塩のような水への溶解度が約20重量%と比較的低いアミンのカルボジチオ酸塩では従来の方法に比べて効率的ではあったが、アミンのカルボジチオ酸カリウム塩のような水への溶解度が30重量%を超えるカルボジチオ酸塩の場合、収率が低くなり必ずしも効率的とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3895018号
【特許文献2】特開2004−97927号
【特許文献3】特開2003−301165号
【特許文献4】特開2003−336035号
【特許文献5】特開2003−113362号
【特許文献6】特開2010−150501号
【特許文献7】特開2010−150504号
【特許文献8】特開2010−167344号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重金属処理剤として有用なアミンのカルボジチオ酸塩、特に水への溶解度が30重量%を超えるアミンのカルボジチオ酸塩を固体状で効率的に得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、重金属処理剤として有用なアミンのカルボジチオ酸塩、特に溶解度が30重量%を超えるアミンのカルボジチオ酸塩を固体状で効率的に得る製造方法について鋭意検討を重ねた結果、水溶液中でアミン、二硫化炭素、金属水酸化物を混合して反応するアミンのカルボジチオ酸塩水溶液の製造方法において、水溶性の有機溶媒を共存させることにより、効率的に固体状のアミンのカルボジチオ酸塩を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
以下に本発明の固体状のアミンのカルボジチオ酸塩の製造方法について説明する。
【0010】
本発明の固体状のアミンのカルボジチオ酸塩の製造方法は、水溶液中でアミン、二硫化炭素、金属水酸化物を混合して反応するアミンのカルボジチオ酸塩水溶液の製造方法において水溶性の有機溶媒を共存させることにより、固体状のアミンのカルボジチオ酸塩を効率的に析出させ、分離することで固体状のアミンのカルボジチオ酸塩を得ることができる。
【0011】
本発明の製造方法で使用するアミンとしては特に限定はなく、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のポリエチレンポリアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン等のジアルキルアミン;モノメチルアミン、モノエチルアミン等のモノアルキルアミン;エタノールアミン等のアルカノールアミン等;ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、ピロリジン等の環状アミン等を挙げることができる。これらの中でもアミンのカルボジチオ酸塩の結晶性が高く、分離が容易であることからジメチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、ピロリジン等が好ましく、さらに重金属処理剤として実用的なジエチルアミン、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン等が好ましく、安定性が高いピペラジンが特に好ましい。
【0012】
本発明の製造方法で使用する金属水酸化物としては特に限定はなく、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等が挙げられる。中でもコスト面で安価な水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が好ましく、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0013】
本発明の製造方法で使用する水溶性の有機溶媒としては、例えば、酸素含有化合物、窒素含有化合物、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に酸素含有化合物が好ましく、該酸素含有化合物としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒド等のアルデヒド類等が挙げられ、コストの面でメタノール、エタノール、アセトン等が好ましい。
【0014】
本発明の製造方法で使用する水溶性の有機溶媒の量としては、得られる固体状のアミンのカルボジチオ酸塩の量及び反応過程でのハンドリングの観点から、使用する水に対して重量比で1:0.5〜1:10であることが好ましく、特に1:1〜1:3であることが好ましい。水溶性の有機溶媒を使用することにより、アミンのカルボジチオ酸塩の析出が促進され、効率的に固体状のアミンのカルボジチオ酸塩を得ることができる。
【0015】
本発明の製造方法における水溶性の有機溶媒の添加方法としては特に限定はなく、最初にアミンと水と水溶性の有機溶媒を溶解させる方法;アミンと水を溶解させた後、二硫化炭素、金属水酸化物を添加し反応終了後に水溶性の有機溶媒を添加する方法;二硫化炭素、金属水酸化物、水溶性の有機溶媒をと同時に添加する方法等が例示でき、特に最初にアミンと水と水溶性の有機溶媒を溶解させる方法が反応時のハンドリングが良好であることから好ましい。
【0016】
本発明の製造方法における水溶性の有機溶媒以外の原料の添加方法としては、特に限定はなく、分割添加、連続添加する方法等が例示でき、水にアミンを溶解させた後、二硫化炭素、金属水酸化物の順で交互に分割添加する方法又は時間差をつけて同時に添加する方法が好ましく、特に2分割以上に分割して交互に添加する方法が好ましい。
【0017】
本発明の製造方法における水溶性の有機溶媒以外の原料の量としては、特に限定はなく、二硫化炭素はアミンの二硫化炭素と反応するアミノ基に対して0.9〜1.2倍当量が好ましく、特に0.95〜1.1倍当量が好ましく、金属水酸化物はアミンの二硫化炭素と反応するアミノ基に対して0.95〜1.2倍当量が好ましく、特に0.97〜1.1倍当量が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法では反応により生成するアミンのカルボジチオ酸塩の濃度は特に限定はなく、得られる固体状のアミンのカルボジチオ酸カリウム塩の量及びハンドリングの観点から、10〜60重量%とすることが好ましく、特に30〜50重量%とすることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法において得られる固体状のアミンのカルボジチオ酸塩の分離方法には固体と液体を分離できれば特に限定はなく、例えば、遠心分離、フィルタープレス、重力ろ過、真空ろ過、減圧ろ過等を例示することができる。また、得られた固体状のアミンのカルボジチオ酸塩については、必要に応じ付着している水や水溶性の有機溶媒を除去する乾燥を行い、その乾燥方法としては特に限定はなく、例えば、真空乾燥、熱乾燥、流動乾燥等を例示することができる。
【0020】
本発明の製造方法において、反応時、及び熟成時の温度は特に限定はなく、20〜45℃が好ましく、特に25〜40℃が好ましい。
【0021】
本発明の製造方法はアミンのカルボジチオ酸塩であれば、特に限定なく、従来の方法に比べて効率的に固体状のアミンのカルボジチオ酸塩を得ることができ、特にアミンのカルボジチオ酸塩の水への溶解度が30重量%以上、さらに40重量%以上の場合、特にその効果が顕著である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法では重金属処理剤として有用なアミンのカルボジチオ酸塩を効率的に固体状で得ることができ、特にアミンのカルボジチオ酸塩の水への溶解度が30重量%以上の場合、特に効果的である。
【実施例】
【0023】
以下発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1
ピペラジン43.8g、純水34.3g、二硫化炭素76.7g(ピペラジンの二硫化炭素と反応するアミノ基に対して0.99倍当量)、48.5%水酸化カリウム121.8g(ピペラジンの二硫化炭素と反応するアミノ基に対して1.04倍当量)、エタノール123.4g(水:エタノール=1:1.3(重量比))とし、ピペラジンを純水及びエタノールに40℃で溶解させた後、攪拌しながら40℃にて二硫化炭素と48.5%水酸化カリウムをそれぞれ交互に4分割して滴下した。滴下終了後、30分熟成し、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムが析出したスラリー溶液が得られた。(反応により生成するピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムの濃度は39.6重量%)
析出したピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムを減圧ろ過にてろ別し、固体状のピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム191.8gを得た。
【0025】
水への溶解度が30重量%を超える39.6重量%であるアミンのカルボジチオ酸塩を固体状で効率的に得ることができた。
【0026】
実施例2
ピペラジン43.8g、純水28.6g、二硫化炭素76.7g(ピペラジンの二硫化炭素と反応するアミノ基に対して0.99倍当量)、48.5%水酸化カリウム121.8g(ピペラジンの二硫化炭素と反応するアミノ基に対して1.04倍当量)、アセトン129.1g(水:アセトン=1:1.4(重量比))とし、ピペラジンを純水及びアセトンに40℃で溶解させた後、攪拌しながら40℃にて二硫化炭素と48.5%水酸化カリウムをそれぞれ交互に4分割して滴下した。滴下終了後、30分熟成し、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムが析出したスラリー溶液が得られた。(反応により生成するピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムの濃度は39.6重量%)
析出したピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムを減圧ろ過にてろ別し、固体状のピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム165.6gを得た。
【0027】
水への溶解度が30重量%を超える39.6重量%であるアミンのカルボジチオ酸塩を固体状で効率的に得ることができた。
【0028】
実施例3
N−アミノエチルピペラジン55.6g、純水47.2g、二硫化炭素64.9g(N−アミノエチルピペラジンの二硫化炭素と反応するアミノ基に対して0.99倍当量)、48.5%水酸化ナトリウム75.1g(N−アミノエチルピペラジンの二硫化炭素と反応するアミノ基に対して1.06倍当量)、エタノール157.2g(水:エタノール=1:1.5(重量比))とし、N−アミノエチルピペラジンを純水及びエタノールに40℃で溶解させた後、攪拌しながら40℃にて二硫化炭素と48.5%水酸化ナトリウムをそれぞれ交互に4分割して滴下した。滴下終了後、30分熟成し、N−アミノエチルピペラジン−N’,N”−ビスカルボジチオ酸ナトリウムが析出したスラリー溶液が得られた。(反応により生成するN−アミノエチルピペラジン−N’,N”−ビスカルボジチオ酸ナトリウムの濃度は34.7重量%)
析出したN−アミノエチルピペラジン−N’,N”−ビスカルボジチオ酸ナトリウムを減圧ろ過にてろ別し、固体状のN−アミノエチルピペラジン−N’,N”−ビスカルボジチオ酸ナトリウム122.0gを得た。
【0029】
水への溶解度が30重量%を超える34.7重量%であるアミンのカルボジチオ酸塩を固体状で効率的に得ることができた。
【0030】
比較例1
ピペラジン43.8g、純水157.7g、二硫化炭素76.7g、48.5%水酸化カリウム121.8gとし、ピペラジンを純水に40℃で溶解させた後、攪拌しながら40℃にて二硫化炭素と48.5%水酸化カリウムをそれぞれ交互に4分割して滴下した。滴下終了後、30分熟成したところ、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムの析出は確認されなかった。(反応により生成するピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムの濃度は39.6重量%)
水溶性の有機溶媒を用いなかったことから、アミンのカルボジチオ酸塩を固体状で得ることができなかった。
【0031】
比較例2
N−アミノエチルピペラジン55.6g、純水204.4g、二硫化炭素64.9g、48.5%水酸化ナトリウム75.1gとし、N−アミノエチルピペラジンを純水に40℃で溶解させた後、攪拌しながら40℃にて二硫化炭素と48.5%水酸化ナトリウムをそれぞれ交互に4分割して滴下した。滴下終了後、30分熟成したところ、N−アミノエチルピペラジン−N’,N”−ビスカルボジチオ酸ナトリウムの析出は確認されなかった。(反応により生成するN−アミノエチルピペラジン−N’,N”−ビスカルボジチオ酸ナトリウムの濃度は34.7重量%)
水溶性の有機溶媒を用いなかったことから、アミンのカルボジチオ酸塩を固体状で得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造法で得られた固体状のアミンのカルボジチオ酸塩は、土壌、廃水、焼却灰、飛灰等の重金属含有物中の重金属処理に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中でアミン、二硫化炭素、金属水酸化物を混合して反応するアミンのカルボジチオ酸塩の製造方法において、水溶性の有機溶媒を共存させることでアミンのカルボジチオ酸塩を析出させ、当該塩を分離し、固体状のアミンのカルボジチオ酸塩を得ることを特徴とする固体状のアミンのカルボジチオ酸塩の製造方法。
【請求項2】
水溶性の有機溶媒の使用量が水に対して重量比で1:0.5〜1:10.0であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水溶性の有機溶媒が酸素含有化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
アミンを溶解した水溶液に二硫化炭素、金属水酸化物の順で2分割以上に分割して交互に添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
金属水酸化物が水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
アミンのカルボジチオ酸塩の水への溶解度が30重量%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
アミンがピペラジンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−167056(P2012−167056A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29338(P2011−29338)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)