説明

固体状の陽イオン交換体及びその製造方法

【課題】本発明は、イオン交換能、機械的強度に優れた固体状の陽イオン交換体を低コストで提供する。
【解決手段】固体状のポリオレフィンに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入して得られたことを特徴とする陽イオン交換体。前記重合性混合物が重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリルを全体の1〜10質量%含有することが好ましい。陽イオン交換体の形態としては、粒状、ペレット状、膜状の各種の形状とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体状の陽イオン交換体及びその製造方法に関し、例えば膜状あるいは粒状、ペレット状の陽イオン交換体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換体には、無機イオン交換体と有機イオン交換体があり、そのうち合成樹脂を母体とする固体状の有機イオン交換体はイオン交換容量が大きいという利点から広く実用化されており、その形状からみると粒状のものや膜状のものが多くの技術分野で使用されている。固体状の陽イオン交換体としては、その形状については、その他に棒状のものや円筒状、ペレット状、粉状などの形態を取ることができ、その用途に適した形で使用されている。
【0003】
固体状の陽イオン交換体のうちでも粒状の陽イオン交換体は古くから知られ、はじめ石炭系のものがあり、次いで合成樹脂系の陽イオン交換体が知られており、広く用いられるようになっている。
実用的で有益な陽イオン交換膜として、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体と熱可塑性重合体の混合物からなる膜状重合物をスルホン化し、陽イオン交換基を導入した陽イオン交換膜が知られている。この膜は耐薬品性、耐熱性に加え、ジビニルベンゼンの含有量を変えることにより架橋の程度を調整することができ、イオン交換特性やイオン選択透過性を制御できることから、幅広い用途に用いられ、発展してきた。
【0004】
また、陽イオン交換膜としては、ポリ塩化ビニルやニトリルゴム等の熱可塑性樹脂と、スチレンモノマー及びジビニルベンゼンモノマーとを混合した粘稠液を、ポリ塩化ビニル製のクロスに含浸させ、重合させた膜状体を濃硫酸等でスルホン化して得られる陽イオン交換膜が知られている。この膜は、イオン交換樹脂からなる相と膜支持材料との親和性が高く、電気抵抗が低く、イオン選択透過性は優れているが、機械的強度については満足できる性質のものではなかった。
【0005】
一方、機械的性質の優れたポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系の無極性クロスを膜支持材料として用いた場合は、イオン交換樹脂相との親和性が充分ではなく、イオン選択透過性が低下し、イオン交換樹脂相が膜支持材料から剥離する場合もあった。
【0006】
この問題を解決する方法として、ポリオレフィン系の膜支持材料をパーオキサイド化処理する方法(特許文献1)やポリオレフィン系の膜支持材料にハロゲン基、ハロスルホン基、ニトロ基を導入する方法(特許文献2)等が提案されているが、イオン交換樹脂相と膜支持材料との親和性を高めようとすると膜支持材料の機械的性質が低下する問題があった。
【0007】
また、電離性放射線で処理する方法(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)等が提案されているが、電離性放射線照射の設備を整える必要があり、膨大なコストの上昇を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭44−19253号公報
【特許文献2】特開昭50−3088号公報
【特許文献3】特開昭51−52489号公報
【特許文献4】特開昭60−238327号公報
【特許文献5】特開昭60−238328号公報
【特許文献6】特開2003−12835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、イオン選択透過性、機械的強度に優れた固体状の陽イオン交換体を低コストで提供することを目的とする。
また、本発明は、イオン選択透過性、機械的強度に優れた粒状、ペレット状又は膜状の陽イオン交換体を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、固体状のポリオレフィンに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入することにより固体状の陽イオン交換体が得られることを見出した。その際、前記重合性混合物が重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリルを重合性混合物の全体の1〜10質量%含有すると、前記重合性混合物が固体状のポリオレフィンの内部に良く浸潤するため、加熱重合の時に前記重合性混合物からの重合体が固体状のポリオレフィンと一体化したものが得られる。
さらに、固体状のポリオレフィンの形態をフィルムとし、該フィルム内で重合することにより、上記したところと同様にして、構造的に一体化した膜状重合体が得られることを見出した。そして、得られた膜状重合体にクロロスルホン酸等でスルホン酸基を導入することにより、イオン交換樹脂相と基材とを一体化したイオン交換膜を形成させることができ、従来使用されているイオン交換膜と比較し、イオン選択透過性、機械的強度に優れた陽イオン交換膜を低コストで提供できることを見出した。この新しい知見を基礎として研究を進め、本発明を完成させた。
このような関係で、重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリルは、重合性混合物の全体の例えば1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%を含有することが好適である。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の構成とすることにより上記の目的を達成するに至った。
(1)固体状のポリオレフィンに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入して得られたことを特徴とする陽イオン交換体。
(2)前記重合性混合物が重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリルを全体の1〜10質量%含有することを特徴とする前記(1)記載の陽イオン交換体。
(3)前記重合性混合物が膨潤溶媒を含有するものであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の陽イオン交換体。
(4)前記陽イオン交換基を導入可能な官能基自体が陽イオン交換基でない場合には、熱重合後に、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理したものであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の陽イオン交換体。
(5)前記陽イオン交換基を導入可能な官能基自体が、陽イオン交換基であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項記載の陽イオン交換膜。
(6)前記ポリオレフィン体がフィルム状体であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項記載の陽イオン交換体。
(7)固体状のポリオレフィンに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入することを特徴とする陽イオン交換体の製造方法。
(8)前記重合性混合物が重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリルを全体の1〜10質量%含有することを特徴とする前記(7)記載の陽イオン交換体の製造方法。
(9)前記固体状のポリオレフィンがフィルム状体であることを特徴とする前記(7)又は(8)記載の陽イオン交換体の製造方法。
(10)前記重合性混合物が膨潤溶媒を含有するものであることを特徴とする前記(7)〜(9)のいずれか1項記載の陽イオン交換膜の製造方法。
【0012】
上記から明らかなように、本発明のポイントは、下記(a)〜(d)に存する。
(a)固体状のポリオレフィンに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを全体の1〜10質量%含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入することを特徴とする陽イオン交換体の製造方法。
(b)前記(a)に記載の方法で得た固体状の陽イオン交換体である。
(c)各種ポリエチレンフィルムに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを全体の1〜10質量%含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入することを特徴とする陽イオン交換体の製造方法である。
(d)前記(b)に記載の方法で得た陽イオン交換膜である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の固体状の陽イオン交換体は、十分なイオン交換性能を有し、かつ化学安定性に優れており、従来の粒状の陽イオン交換樹脂、或いは陽イオン交換膜と同様に使用することができる。
本発明の製造方法により得られる陽イオン交換膜は、海水濃縮、かん水の脱塩、酸の濃縮または回収、有価金属の回収などを目的とする電気透析、及びアルカリ回収などを目的とする拡散透析に用いられる他、燃料電池や2次電池用の隔膜としても有用であり、且つ簡便な手段により低コストで製造される。
高分子基材から陽イオン交換樹脂相が剥離するなどの問題が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例及び比較例における陽イオン交換膜の抵抗と濃縮液の塩化ナトリウム濃度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の固体状の陽イオン交換体は、固体状のポリオレフィンに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入して得られる。
また、本発明の陽イオン交換膜及びその製造方法は、具体的に言えば、例えば、ポリオレフィンフィルムに、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを含む、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体及び膨潤溶媒を含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、クロロスルホン酸等を用いてスルホン酸基を導入することが特徴である。
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明においてポリオレフィンとは、ポリエチレンやポリプロピレンなどをいうが、そのなかでもポリエチレンが最も好適である。ポリエチレンとは、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などを示す。これらのポリエチレンを単独で使用してもよいし、複数のポリエチレンを混合してもよい。また、電子線照射、プラズマ照射、紫外線照射、化学反応等により架橋構造を有するものでもよい。その中でも化学的安定性やコストの面等から超高分子量ポリエチレンが好ましく、特に分子量が160万〜630万であり、厚みが20〜100μmの超高分子量ポリエチレンを用いるのが好ましい。
【0017】
高分子基材の形態は、固体状の陽イオン交換体において、その形状として、粒状、ペレット状、粉状などのものや、棒状、円筒状、膜状の形態を取る場合に応じたものとする。その用途に適した形で使用されている。
本発明で用いるポリエチレンペレットとしては、例えば旭化成ケミカルズ株式会社製、サンテックLDなどが挙げられる。
陽イオン交換膜の場合、高分子基材の形態は、イオン交換樹脂相と膜支持材料との親和性を向上させるため、フィルムの形態であることが好ましい。
本発明で用いる超高分子量ポリエチレンフィルムとしては、例えば作新工業株式会社製、Saxinニューライトフィルム イノベート(製品名)や日東電工株式会社製、超高分子量ポリエチレンフィルム No.440などが挙げられる。
【0018】
本発明で使用する高分子量ポリエチレンは、超高分子量ポリエチレン単独以外にも低分子量ポリエチレン、高分子量ポリエチレン等を含有するものも使用可能であり、例えば特殊ポリエチレンリュブマー(商品名、三井石油化学工業(株)製)等を含有していてもよい。
また、低密度ポリエチレンとしては大倉工業株式会社製、LDPEローデンポリ(製品名)、高密度ポリエチレンとしては大倉工業株式会社製、HDPEハイデンポリ(製品名)などが挙げられる。
【0019】
本発明において使用することができる陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体(「重合性モノマー」ともいう)としては、以下に列記する単量体が挙げられる。
(1)スルホン酸基が導入されやすい芳香族環を有する単量体。例えば、スチレン、ビニルトルエン等。
(2)カルボン酸基、又はニトリル基を有する単量体。例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル等。
本発明では、前記単量体とともに、架橋性単量体を用いて重合性混合物を形成して、塗布に用いる。
(3)架橋性単量体(架橋構造を導入できる単量体)。すなわちビニル基を少なくとも2個有するもの。例えばジビニルベンゼン(DVB)、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、エチレングリコールジメタクリレート。
【0020】
本発明において、重合に際して膨潤溶媒を使用してもよい。重合性モノマーは、この溶媒中に希釈して用いてもよい。この膨潤溶媒(重合性モノマーを希釈する意義では「希釈溶媒」ということもできる)としては、特に限定されないが、ベンゼン、キシレン(Xy)、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、イソプロピルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の含窒素化合物等の溶媒が挙げられ、これらを適宜、少なくとも1種以上選択して使用することができる。重合性モノマーを溶媒中に希釈して用いる場合、モノマー濃度は特に限定されない。
【0021】
熱重合過程において、膜表面に重合性混合物が均一に塗布された状態を維持するため、重合性混合物にゴム等の弾性体を添加することもできる。ゴムとしては、重合性混合物に溶解できるものが何の制限もなく使用できるが、特にニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム等が好適である。
【0022】
熱重合に使用する重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いる。前記重合性混合物における重合開始剤の濃度は1〜10%(質量、以下同様)、好ましくは1〜5%である。この濃度範囲は、先に述べたように、前記重合性混合物が固体状のポリオレフィンの内部に浸潤していくために必要な条件であり、その作用により加熱重合の際に、前記重合性混合物から生成する重合体と固体状のポリオレフィンとが一体化したものを得る上で重要である。
【0023】
本発明において熱重合(「加熱重合」を「熱重合」ともいう)は、従来行われている広範な方法が何の制限もなく使用できる。陽イオン交換膜の場合には、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを添加した陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、架橋性単量体を含有する重合性混合物に高分子基材を浸漬した後、高分子基材をガラス板に挟んで、乾燥機中で加熱する方法等が好適である。熱重合の温度は30〜120℃、好ましくは50〜100℃である。
熱重合した高分子基材には、次の段階としてスルホン酸基等の陽イオン交換基を導入する。スルホン酸基の導入は、従来行われている広範な方法が何の制限もなく使用できるが、具体例を以下に示す。
【0024】
1,2−ジクロロエタンを溶媒とする濃度1質量%〜50質量%のクロロスルホン酸溶液に、熱重合後の高分子基材を25〜80℃で1〜72時間浸漬して反応させる。所定時間反応後、膜を十分に水洗する。その後、濃度1〜10質量%の水酸化ナトリウム水溶液に1〜24時間浸漬することで、加水分解した後、膜を十分に水洗する。スルホン化反応に必要なスルホン化剤としては、濃硫酸、三酸化硫黄、チオ硫酸ナトリウムなども使用することができ、これらのスルホン酸基を導入できるものであれば特に限定されない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の陽イオン交換体及びその製造方法を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
平均粒径3mmの粒状の低密度ポリエチレンペレット((旭化成ケミカルズ社製、サンテックLD(製品名))にモノマーとしてスチレンを98%、重合開始剤としてAIBN2%を混合した重合性混合物に24時間浸漬した後、ろ過によりペレットを回収した。回収したペレットは表面に混合物が塗布された状態のまま、機内温度を80℃とした乾燥機に所定時間入れた。重合後、得られたペレットを、メタノールで洗浄し、風乾した。重合率は8.5%であった。なお、重合前の試料重量に対する重合前後における重量増加量の割合を重合率とした。
【0027】
1,2−ジクロロエタンを溶媒とする濃度2質量%のクロロスルホン酸溶液に、重合後の高分子基材を室温で72時間浸漬した後、ペレットを十分に水洗した。その後、濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した。得られた粒状の陽イオン交換体はよく水洗し、0.5N−NaCl水溶液中に保存した。イオン交換容量は0.056meq/gであった。
重合温度、重合開始剤の種類などを第1表に示す。
【0028】
(実施例2)
モノマーとしてスチレンを95%、重合開始剤としてAIBN5%を用いた他は、実施例1と同様にして試験した。重合率は9.6%であった。イオン交換容量は0.062meq/gであった。
重合温度、重合開始剤の種類などを第1表に示す。
【0029】
(比較例1)
平均粒径3mmの粒状の低密度ポリエチレンペレット(旭化成ケミカルズ社製、サンテックLD(製品名))にモノマーとしてスチレン(重合開始剤を含有しない)を塗布し、ガラス皿に載せる。所定時間後、機内温度を80℃とした乾燥機に所定時間入れた。重合後、得られた粒状体を、メタノールで洗浄し、風乾した。重合率は0%であった。前記加熱重合後の粒状体は、表面にスチレンの重合体の被覆層を有するが、この被覆層はメタノール洗浄の際に剥がれて脱落しまったので、風乾して得られた粒状物は重量の増加がなかったので、重合率は0%となる。
【0030】
1,2−ジクロロエタンを溶媒とする濃度2質量%のクロロスルホン酸溶液に、重合後の高分子基材を室温で72時間浸漬した後、粒状体を十分に水洗した。その後、濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した。得られた粒状陽イオン交換体はよく水洗し、0.5N−NaCl水溶液中に保存した。イオン交換容量は0meq/gであった。
重合温度、重合開始剤の種類などを第1表に示す。
【0031】
(比較例2)
モノマーとしてスチレンを99.8%、重合開始剤としてAIBN0.2%を用いた他は、比較例1と同様にして試験した。
測定結果を第1表に示す。
第1表に示したとおり、重合開始剤を適量利用し、ペレットを重合させることにより、重合開始剤を従来程度もしくは未添加とした場合と比較し、重合率およびイオン交換容量を増加させる効果が得られた。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例3)
分子量160万、膜厚20μmの膜状超高分子量ポリエチレン基材(作新工業株式会社製、Saxinニューライトフィルム イノベート(製品名))にモノマーとしてスチレンを98%、重合開始剤としてAIBN2%を混合した重合性混合物に所定時間浸漬した後、フィルムを取り出し、膜表面に混合物が塗布された状態のまま、ガラス板に挟む。所定時間後、機内温度を80℃とした乾燥機に所定時間入れた。重合後、得られた膜を、メタノールで洗浄し、風乾した。重合率は27%であった。
【0034】
1,2−ジクロロエタンを溶媒とする濃度10質量%のクロロスルホン酸溶液に、重合後の高分子基材を室温で72時間浸漬した後、膜を十分に水洗した。その後、濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した。得られた陽イオン交換膜はよく水洗し、0.5N−NaCl水溶液中に保存した。得られた陽イオン交換膜の破裂強度はミューレン式破裂強度試験機により測定した。
【0035】
さらに、該陽イオン交換膜と市販の陰イオン交換膜(旭硝子(株)ASA)を小型電気透析装置(膜面積8cm)に装着し、濃縮試験を実施した。脱塩室流速は6cm/s、電流密度3A/dmの濃縮条件で供給液は0.5Mの塩化ナトリウム水溶液を用いた。
測定結果を第2表に示す。
【0036】
(実施例4〜16)
高分子基材の種類、膜厚、重合温度、モノマーのスチレンの濃度、添加剤の種類、重合開始剤のAIBNの濃度、クロロスルホン酸の濃度を第2表に示すように変えた他は、実施例3と同様にして試験した。
測定結果を第2表に示す。
【0037】
(比較例3)
分子量160万、膜厚50μmの超高分子量ポリエチレン基材(作新工業株式会社製、Saxinニューライトフィルム イノベート(製品名))にモノマーとしてスチレン(重合開始剤を含有しない)を塗布し、ガラス板に挟む。所定時間後、機内温度を80℃とした乾燥機に所定時間入れた。重合後、得られた膜を、メタノールで洗浄し、風乾した。重合率は0%であった。
【0038】
1,2−ジクロロエタンを溶媒とする濃度10質量%のクロロスルホン酸溶液に、重合後の高分子基材を室温で72時間浸漬した後、膜を十分に水洗した。その後、濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した。得られた陽イオン交換膜はよく水洗し、0.5N−NaCl水溶液中に保存した。得られた陽イオン交換膜の破裂強度はミューレン式破裂強度試験機により測定した。
測定結果を第2表に示す。
【0039】
(比較例4)
モノマー中に重合開始剤としてAIBNを一般的な重合に利用される割合である0.2%混合した他は比較例3と同様にして試験した。
測定結果を第2表に示す。
【0040】
(比較例5)
市販の製塩用陽イオン交換膜(旭硝子(株)CSO)と市販の陰イオン交換膜(旭硝子(株)ASA)を小型電気透析装置(膜面積8cm)に装着し、濃縮試験を実施した。脱塩室流速は6cm/s、電流密度3A/dmの濃縮条件で、供給液は0.5Mの塩化ナトリウム水溶液を用いた。なお、前記の膜は、市販されているものであるが、その合成条件などは公表されていないため、不明である。
【0041】
実施例3〜16、比較例3〜4で得られた陽イオン交換膜の合成条件及び膜特性を第2表に示す。比較例5については膜特性のみを示す。
なお、実施例13で用いた基材は、特殊ポリエチレンリュブマー(商品名、三井石油化学工業(株)製)を含有した超高分子量ポリエチレンフィルムである。
【0042】
【表2】

【0043】
また、濃縮試験の結果として膜抵抗と濃縮液の塩化ナトリウム濃度との関係を図1に示す。
第2表に示したとおり、本発明に従って製造したいずれの膜についても、市販されている製塩用陽イオン交換膜と比較し、高い破裂強度を示した。
また、膜抵抗も重合開始剤を従来程度もしくは未添加とした膜や市販膜と比較しほぼ同等か、それより低い値を示した。
さらに、図1に示したとおり、本発明に従って製造したいずれの陽イオン交換膜についても、市販されている陽イオン交換膜と比較し高い濃縮性能を示した。なお、図1中に示した直線は、市販イオン交換膜と同等の濃縮性能を示す直線であり、直線より上部に示される膜性能はすべて市販膜より高い濃縮性能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の固体状の陽イオン交換体は、従来から知られた広い技術分野に用いることができ、強度が高く、特にフィルム状の陽イオン交換膜として使用する場合には、強度も高く、電気伝導度も高いので、食塩水の濃縮において効率を高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状のポリオレフィンに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入して得られたことを特徴とする陽イオン交換体。
【請求項2】
前記重合性混合物が重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリルを全体の1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1記載の陽イオン交換体。
【請求項3】
前記重合性混合物が膨潤溶媒を含有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の陽イオン交換体。
【請求項4】
前記陽イオン交換基を導入可能な官能基自体が陽イオン交換基でない場合には、熱重合後に、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の陽イオン交換体。
【請求項5】
前記陽イオン交換基を導入可能な官能基自体が、陽イオン交換基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の陽イオン交換体。
【請求項6】
前記ポリオレフィン体がフィルム状体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の陽イオン交換体。
【請求項7】
固体状のポリオレフィンに、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体、又は該重合性単量体及び架橋性単量体を含有し、かつ重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを含有する重合性混合物を塗布し、加熱重合させた後、陽イオン交換基を付与できる化合物で処理することにより陽イオン交換基を導入することを特徴とする陽イオン交換体の製造方法。
【請求項8】
前記重合性混合物が重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリルを全体の1〜10質量%含有することを特徴とする請求項7記載の陽イオン交換体の製造方法。
【請求項9】
前記固体状のポリオレフィンがフィルム状体であることを特徴とする請求項7又は請求項8記載の陽イオン交換体の製造方法。
【請求項10】
前記重合性混合物が膨潤溶媒を含有するものであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項記載の陽イオン交換体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−227801(P2010−227801A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77239(P2009−77239)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(396021483)財団法人塩事業センター (18)
【Fターム(参考)】