説明

固体状光硬化性樹脂組成物

【課題】活性エネルギー線照射を行う前でも固体状であり、臭気を発せず、作業者の健康被害や室内環境汚染の問題が生じない光硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】光硬化性樹脂成分及び無機充填剤を含有し、且つ下記条件を満たす、固体状光硬化性樹脂組成物。
36≦0.745zx-0.02log10(y+22)≦46
(式中、xは、無機充填剤の体積平均粒径(μm)を示し、yは、光硬化性樹脂成分100質量部に対する無機充填剤の配合量(質量部)を示し、zは、40℃での光硬化性樹脂成分の粘度(Pa・s)を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体状光硬化性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、活性エネルギー線照射を行う前でも固体状であり、臭気を発せず、人体への健康被害や室内環境汚染の問題が生じない光硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂組成物(例えば特許文献1及び2参照)は、通常、活性エネルギー線照射前に液状であるため、任意の形状に硬化し易いという利点がある。そのため、光硬化性樹脂組成物は、例えば床やユニットバスのコーティング用途等、建築用品の補修に有効に活用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−300406号公報
【特許文献2】特開2007−211044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築用品の補修等、現場施工型の用途では、光硬化性樹脂組成物中に低分子量の揮発性有機化合物(VOC)等が含まれていると、臭気を発するのみならず、作業者の健康被害や室内環境汚染の問題が生じ得る。また、建築用品等の部分的な補修においては、垂直方向の部位の補修を考慮すると、液状の材料よりも固体状の材料の方が、利便性が高い。ゆえに、複雑な形状の部位を補修し易い、形状保持性が高く臭気の無い光硬化性樹脂組成物の開発が望まれている。
よって、本発明の課題は、活性エネルギー線照射を行う前でも固体状であり、臭気を発せず、人体への健康被害や室内環境汚染の問題が生じない光硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、光硬化性樹脂成分と無機充填剤とを、特定の条件を満たすように含有させた光硬化性樹脂組成物であれば、活性エネルギー線を照射する前であっても常温にて固体状であり、建築用品の補修等に有効に利用し得ることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[3]に関する。
[1]光硬化性樹脂成分及び無機充填剤を含有し、且つ下記条件を満たす、固体状光硬化性樹脂組成物。
36≦0.745zx-0.02log10(y+22)≦46
(式中、xは、無機充填剤の体積平均粒径(μm)を示し、yは、光硬化性樹脂成分100質量部に対する無機充填剤の配合量(質量部)を示し、zは、40℃での光硬化性樹脂成分の粘度(Pa・s)を示す。)
[2]前記光硬化性樹脂成分が、ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマー及び光重合開始剤を含有する、上記[1]に記載の固体状光硬化性樹脂組成物。
[3]前記無機充填剤がタルク又はシリカである、上記[1]又は[2]に記載の固体状光硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線を照射する前であっても常温にて固体状であり、臭気を発せず、且つ人体の健康被害や室内環境汚染等の問題が無いため、建築用品の補修等に有効に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[固体状光硬化性樹脂組成物]
本発明の固体状光硬化性樹脂組成物は、光硬化性樹脂成分及び無機充填剤を含有し、且つ下記条件を満たすものである。
36≦0.745zx-0.02log10(y+22)≦46
(式中、xは、無機充填剤の体積平均粒径(μm)を示し、yは、光硬化性樹脂成分100質量部に対する無機充填剤の配合量(質量部)を示し、zは、40℃での光硬化性樹脂成分の粘度(Pa・s)を示す。)
なお、本明細書において、「固体状」とは、常温(例えば5〜40℃)での降伏値が500Pa以上であることを言う。本発明の光硬化性樹脂組成物は固体状であり、粘度の測定ができないため、本発明では、粘度の代替値として、上記条件中の「0.745zx-0.02log10(y+22)」を用いて規定している。xは、小さいほど粘度が高くなり、少量でも固体状になり易いことを示す。これは、体積平均粒径が小さくなることで、比表面積が大きくなるためである。yは大きいほど固体状になり易い。zは大きいほど固体状になり易い。
以下、まず各成分について説明する。
【0009】
(光硬化性樹脂成分)
光硬化性樹脂成分としては、活性エネルギー線により硬化し得る光硬化性化合物を含有していれば特に制限はないが、(A)光硬化性樹脂及び(B)光重合開始剤、並びに必要に応じて(C)(メタ)アクリレートモノマーを含有するものが好ましい。
−(A)光硬化性樹脂−
(A)光硬化性樹脂としては、例えばウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマー;ポリエステル系(メタ)アクリレートオリゴマー;ポリエーテル系(メタ)アクリレートオリゴマー;エポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマー;共役ジエン重合体系(メタ)アクリレートオリゴマー及びその水素添加物等が挙げられるが、特にこれらに制限されない。これらの中でも、得られる固体状光硬化性樹脂組成物の形状保持性及び臭気の観点から、ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。(A)光硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0010】
ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールと、ポリイソシアナートとの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
ポリエステル系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる、両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0011】
ポリエーテル系(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、エポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。
また、共役ジエン重合体系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、液状スチレン−ブタジエン共重合体をアクリル変性して得られるSBRジアクリレート、ポリイソプレンをアクリル変性して得られるポリイソプレンジアクリレートなどが挙げられる。また、水素添加共役ジエン重合体系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば両末端に水酸基を有する、水素添加ポリブタジエン又は水素添加ポリイソプレンの前記水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
(A)光硬化性樹脂の粘度は、通常、40℃において、好ましくは5〜150Pa・s、より好ましくは10〜50Pa・sである。
【0012】
−(B)光重合開始剤−
(B)成分の光ラジカル重合開始剤としては、分子内開裂型及び/又は水素引き抜き型を用いることができる。
分子内開裂型としては、ベンゾイン誘導体類、ベンジルケタール類[例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、商品名:イルガキュア651]、α−ヒドロキシアセトフェノン類[例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、商品名:ダロキュア1173、イルガキュア184、イルガキュア127、イルガキュア2959]、α−アミノアセトフェノン類[例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、商品名:イルガキュア907、イルガキュア369]、α−アミノアセトフェノン類とチオキサントン類(例えば、イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン)との併用、アシルホスフィンオキサイド類[例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、商品名:イルガキュア819]などが挙げられる。
【0013】
水素引き抜き型としては、ベンゾフェノン類とアミンの併用、チオキサントンとアミンの併用などが挙げられる。また、分子内開裂型と水素引き抜き型を併用してもよい。中でもオリゴマー化したα−ヒドロキシアセトフェノン及びアクリレート化したベンゾフェノン類が好ましい。より具体的には、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン][例えば、Lamberti S.p.A製、商品名:ESACURE KIP150など]、アクリル化ベンゾフェノン[例えは、ダイセル・ユー・シー・ビー株式会社製、商品名:Ebecryl P136など]、イミドアクリレートなどが挙げられる。
【0014】
(B)成分の光重合開始剤としては、これらの他に、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンとベンゾフェノンの混合物、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[(4−メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾイルエチルエーテル、ベンゾイルブチルエーテル、ベンゾイルイソプロピルエーテル、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマーと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンの混合物、イソプロピルチオキサントン、o−ベンゾイル安息香酸メチル及び[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタンなども用いることができる。
【0015】
−(C)(メタ)アクリレートモノマー−
(メタ)アクリレートモノマーとしては、単官能の(メタ)アクリレートモノマー、多官能の(メタ)アクリレートモノマーを用いることができる。(C)(メタ)アクリレートモノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
単官能(メタ)アクリレートモノマーは、分子内に一つの(メタ)アクリロイル基を有
する化合物である。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートであればよく、特に制限はない。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス((メタ)アクリロキシ)ホスフェートなどの3官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能(メタ)アクリレート;プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2,2,4,4,6,6−ヘキサ{2−(メタクロイルオキシ)−エトキシ}−1,3,5−トリアザ−2,4,6−トリホスホリン(PPZ)などの6官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0017】
本発明の固体状光硬化性樹脂組成物に(C)成分を配合させる場合、その配合量は、(C)成分としていずれの化合物を用いるかによって適宜設定すればよいが、固体状光硬化性樹脂組成物の形状保持性及び臭気の観点から、(A)成分100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0018】
光硬化性樹脂成分としては、例えば「ライトタックPUA−KH32M」[共栄社化学株式会社製、成分;2官能ウレタン系アクリレートオリゴマー((A)成分)、光重合開始剤((B)成分)、イソボルニルアクリレート((C)成分)及びフェノキシエチルアクリレート((C)成分)の混合物]等の市販品をそのまま、又は、固体状光硬化性樹脂組成物の形状保持性及び臭気等の観点から、適宜、(C)成分である(メタ)アクリレートモノマーを除去してから用いることができる。
該光硬化性樹脂成分は、通常、液状(40℃における粘度が1,000Pa・s未満)であるが、前記条件を満たすようにして後述する無機充填剤と混合することにより、固体状となる。
【0019】
(無機充填剤)
本発明の固体状光硬化性樹脂組成物に含有させる無機充填剤としては、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、シリカ(SiO2)、アルミナ、チタニア及び粘土鉱物などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、タルク、シリカ(特に、シリカ粉末、疎水処理したシリカ粉末又はこれらの混合物)が好ましい。
タルクとしては、市販品、例えば日本タルク株式会社製の「MS−P」、「P−4」、「SG2000」(いずれも商品名)等を用いることができる。
また、シリカとしては、乾式法により微粉化したシリカ微粉末[例えば、日本アエロジル株式会社製、商品名:アエロジル300など]、このシリカ微粉末をトリメチルジシラザンで変性した微粉末[例えば、日本アエロジル株式会社製、商品名:アエロジルRX300など]及び上記シリカ微粉末をポリジメチルシロキサンで変性した微粉末[例えば、日本アエロジル株式会社製、商品名:アエロジルRY300など]などが挙げられる。
無機充填剤の体積平均粒径(D50)は、0.001〜100μmが好ましく、0.005〜20μmがより好ましい。
本発明の固体状光硬化性樹脂組成物に必須である無機充填剤の配合量は、光硬化性樹脂成分100質量部に対して、8〜70質量部が好ましく、9〜65質量部がより好ましく、9〜62質量部がさらに好ましい。無機充填剤を配合しない場合、通常、得られる光硬化性樹脂組成物は液状である。
【0020】
(任意成分)
本発明の固体状光硬化性樹脂組成物においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ、任意成分として、カップリング剤、酸化防止剤、光安定剤、接着性向上剤、補強剤、内部離型剤、軟化剤、着色剤、レベリング剤、難燃剤、帯電防止剤等を含有させることもできる。
【0021】
前述の通り、本発明の固体状光硬化性樹脂組成物を得るには、前記光硬化性樹脂成分と無機充填剤とを、下記条件を満たすようにして配合する必要がある。
36≦0.745zx-0.02log10(y+22)≦46
(上記式中、x、y及びzは、前記定義の通りである。)
上記式は、無機充填剤の体積平均粒径、光硬化性樹脂成分と無機充填剤の配合割合、そして光硬化性樹脂成分の粘度との関係式であり、これら3つの要素の関係が特定条件下にある場合に効果的に固体状の光硬化性樹脂組成物になることを示す。「0.745zx-0.02log10(y+22)」の値が36未満では、光硬化性樹脂組成物が液状又はペースト状となり、形状保持性が不十分であり、46を超えると、無機充填剤が十分に分散されていない非実用的な光硬化性組成物となる。この観点から、「0.745zx-0.02log10(y+22)」の値は、好ましくは37〜45.5であり、より好ましくは37.5〜45.5である。
【0022】
本発明の固体状光硬化性樹脂組成物は、例えばプラネタリーミキサー等の混合機によってよく混合されたものであることが好ましい。本発明の固体状光硬化性樹脂組成物は、塗布後に活性エネルギー線を照射することで、接着性をより高めることができる。該活性エネルギー線としては、粒子線、電磁波及びこれらの組み合わせが挙げられる。粒子線としては、電子線(EB)及びα線が挙げられ、電磁波としては、紫外線(UV)、可視光線、赤外線、γ線及びX線等が挙げられる。これらの中でも、活性エネルギー線としては、紫外線を使用することが好ましい。紫外線源としては、キセノンランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、マイクロ波方式エキシマランプ等を挙げることができる。
活性エネルギー線の照射温度は、通常、好ましくは10〜200℃である。照射時間に特に制限はないが、通常、好ましくは10秒〜60分である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、各例で得られた光硬化性樹脂組成物について、臭気、形状保持性及び硬化性の評価を以下の通りに実施した。
【0024】
(臭気)
高さ2m、縦横1m四方の官能評価用個室の床中央に、評価対象の光硬化性樹脂組成物5gを静置した後、一旦密室とし、30分後にパネラー5人が入室し、各例で得られた光硬化性樹脂組成物から10cm離れたところから臭いを嗅ぎ、以下の評価基準に従って評価した。
○:過半数が臭気を確認できなかった。
×:過半数が臭気を確認した。
(形状保持性)
各例で得られた光硬化性樹脂組成物の形状を常温で目視により確認し、以下の評価基準に従って形状保持性を評価した。A、B、Cの順に形状保持性が高い(Aが最も高い)ことを示す。
A:固体状(降伏値が500Pa以上)
B:固体状であるが、無機充填剤を全て均一に混合できていない。
C:液状(粘度1,000Pa・s未満)
【0025】
(硬化性)
各例で得られた光硬化性樹脂組成物を塗布した後、紫外線を照射(照度150mW/cm2、積算光量9J/cm2)して、厚さ1mmのシートを作成した。なお、活性エネルギー線の光源としては、メタルハライドランプ(装置名「SE−1500M」、センエンジニアリング株式会社製)を使用し、紫外線照射機としては、装置名「UV1501BA−LT」(センエンジニアリング株式会社製)を用い、空気雰囲気下で照射した。
FT−IRにより、得られたシートのビニル基残存量を調べ、以下の評価基準に従って評価した。ビニル基残存量が少ないほど、硬化性に優れ、接着性が高いことを示す。
○:ビニル基残存量が5%以下であった
×:ビニル基残存量が5%を超えた
【0026】
<実施例1〜8、比較例1〜9>
表1に示した配合量(単位:質量部)で各成分をプラネタリーミキサーにて混合し、光硬化性樹脂組成物を得た。得られた光硬化性樹脂組成物について、臭気、形状保持性及び硬化性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
*1:商品名「ライトタックPUA−KH32M」(共栄社化学株式会社製、成分:2官能ウレタン系アクリレートオリゴマー、イソボルニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート及び光重合開始剤の混合物)中の(メタ)アクリレートモノマー除去品であり、つまり、(A)2官能ウレタン系アクリレートオリゴマー(100質量部)及び(B)光重合開始剤(2質量部)に相当する。
40℃における粘度:28Pa・s
*2:商品名「MS−P」(日本タルク株式会社製、体積中位粒径:13.5μm)
*3:商品名「P−4」(日本タルク株式会社製、体積中位粒径:4.5μm)
*4:商品名「SG2000」(日本タルク株式会社製、体積中位粒径:1.0μm)
*5:商品名「アエロジル(登録商標)200」(日本アエロジル株式会社製、体積中位粒径:0.012μm)
*6:無機充填剤を全て混合する前に固体状となり、残りの無機充填剤の十分な配合ができなかった。
【0029】
表1より、本発明の固体状光硬化性樹脂組成物は臭気が無く、形状保持性に優れ、例えば建築用品等の複雑な形状の部位の補修に有用であることがわかる。一方、無機充填剤を配合していない光硬化性樹脂組成物(比較例1参照)では、形状保持性に乏しいことがわかる。また、無機充填剤を配合していても、「36≦0.745zx-0.02log10(y+22)≦46」の条件を満たさない光硬化性樹脂組成物(比較例2〜9参照)では、形状保持性が不十分であるものや、無機充填剤全てが均一に混合されていないものがあり、さらに硬化性に乏しく接着性が劣るものもあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線を照射する前であっても固体状であり、臭気を発せず、且つ人体の健康被害や室内環境汚染等の問題が無いため、建築用品の補修等に有効に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂成分及び無機充填剤を含有し、且つ下記条件を満たす、固体状光硬化性樹脂組成物。
36≦0.745zx-0.02log10(y+22)≦46
(式中、xは、無機充填剤の体積平均粒径(μm)を示し、yは、光硬化性樹脂成分100質量部に対する無機充填剤の配合量(質量部)を示し、zは、40℃での光硬化性樹脂成分の粘度(Pa・s)を示す。)
【請求項2】
前記光硬化性樹脂成分が、ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマー及び光重合開始剤を含有する、請求項1に記載の固体状光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填剤がタルク又はシリカである、請求項1又は2に記載の固体状光硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−219110(P2012−219110A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82912(P2011−82912)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】