説明

固体絶縁体の異常検出方法及び異常検出装置

【課題】実用化に適した固体絶縁体の異常検出方法及び異常検出装置を提供する。
【解決手段】可視光に対して不透明な固体絶縁体1の内部の異常を検出する固体絶縁体1の異常検出装置であって、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長の電磁波を固体絶縁体1に照射する電磁波源3と、固体絶縁体1の透過波2の透過率を計測する透過率計測装置4と、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化と、異常部分の誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づいて異常部分を検出する検出手段5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体絶縁体の異常検出方法及び異常検出装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、固体絶縁体の内部異常を非破壊、非接触で検出する異常検出方法及び異常検出装置に関するものである。なお、本出願において、テラヘルツ波(THz波)とは周波数が1THz〜30THzを中心とし、その上下に若干の誤差を含む範囲の電磁波をいい、サブミリ波とは波長が0.1mm〜1mm(周波数が300GHz〜3THz)を中心とし、その上下に若干の誤差を含む範囲の電磁波をいい、ミリ波とは波長が1mm〜10mm(周波数が30GHz〜300GHz)を中心とし、その上下に若干の誤差を含む範囲の電磁波をいう。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波の利用技術として提案されているのは、テラヘルツ波の透過・吸収率の差を利用した内部計測技術である。例えばテラヘルツ波は金属を透過できないため、プラスチック材料でモールドされたICパッケージを対象に、モールド部の透視画像を得て配線チェックを行うというアプリケーションが提案されている(非特許文献1)。
【0003】
また、これに関する発明として、特開2004−108905号公報に開示されたテラヘルツ波を用いた差分イメージング装置がある。この差分イメージング装置を図17に示す。テラヘルツ波発生装置101で約0.5〜3THzの周波数範囲において異なる2波長のテラヘルツ波102を発生させ、2波長のテラヘルツ波102を被対象物103に照射してそれぞれの透過率を透過率計測装置104によって計測し、その透過率の相違からテラヘルツ波102の吸収に波長依存性のあるターゲットの有無をターゲット検出装置105によって検出している。また、二次元走査装置106によって被対象物103の表面に異なる2波長のテラヘルツ波102をそれぞれ二次元的に走査し、2波長の透過率が相違する位置を二次元的に画像表示するようにしている。
【0004】
ところで近年、変電所等の電力設備では固体絶縁体の使用を拡大する傾向にある。固体絶縁体を有効に活用するためには、内部の空隙発生や電気的、機械的ひずみの集中等の異常を非破壊で確実に検出する技術の開発が必要である。
【0005】
【特許文献1】特開2004−108905号
【非特許文献1】川瀬晃道、伊藤弘昌、「テラヘルツ波光源のイメージング応用可能性」、日本放射線技術学会雑誌、第58巻第4号、p441−447、2002年4月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、固体絶縁体にはテラヘルツ波に対して不透明なものもあり、この場合には上述の差分イメージング装置を使用することができない。このため、使用できる固体絶縁体の種類に大きな制限がある。また、上述の差分イメージング装置では、電気的、機械的ひずみ等の異常を検出することができない。これらのため、固体絶縁体の異常検出としては実用性に劣る。さらに、実用化のためには、固体絶縁体中の異常が例えば気泡や亀裂等の微細なものであってもその異常を確実に検出できるようにする必要があり、検出性能の更なる向上が望まれている。
【0007】
本発明は、固体絶縁体の異常検出への実用化に適した固体絶縁体の異常検出方法及び異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、固体絶縁体中に存在する気泡等の異常部分の検出をより確実なものにすべく鋭意研究を行った結果、固体絶縁体中に気泡が存在する場合、固体絶縁体の部分(正常部分)と気泡の部分(異常部分)とでテラヘルツ波の透過率が異なることの他、固体絶縁体部分と気泡部分との境界部分でもテラヘルツ波の透過率が変化することを見出した。
【0009】
即ち、固体絶縁体として代表的なポリエチレンを使用し、その内部に空隙がある場合を模擬して実験を行った。空気とポリエチレンでは若干の透過率差があるため、テラヘルツ波を用いてポリエチレン中の気泡を検出できる可能性があり、空気とポリエチレンの透過率差がどの程度判別できるものなのか確認するため、厚さ5mmのポリエチレン板に2つの孔をあけたサンプル(図9)を使用し、1.3THzのテラヘルツ波を使って2次元スキャン(サンプルを動かしてスキャンする方式)画像を取得してみた。
【0010】
その結果を図10〜図12に示す。ポリエチレン部分と孔(空気)部分とでは透過率の差がある程度観測されたが、それ以上にポリエチレン部分と空気部分との境界部分で透過率が激減する現象が観測された。これはポリエチレンと空気との境界面でテラヘルツ波が屈折・散乱したことに起因すると考えられる。そして、境界面での屈折・散乱現象は、ポリエチレンと空気の境界面に限らず、他の物質の境界面でも起きると考えられる。また、このような現象は、テラヘルツ波を使用した場合に限らず、テラヘルツ波と同じ電磁波であるサブミリ波やミリ波を使用した場合にも生じると考えられる。そこで、異常部分と正常部分の透過率の変化に加え、この変化よりも大きな変化である両者の境界部分の透過率の変化に基づいて異常部分を検出することで、その検出がより容易・確実になることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
請求項1記載の発明は、可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出方法において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体に照射して、透過波の透過率を計測し、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化に基づいて異常部分を検出するものである。
【0012】
したがって、固体絶縁体に照射された電磁波は固体絶縁体を透過する。固体絶縁体の内部に異常がなければ、全ての部分で透過率は一定となる。一方、固体絶縁体の内部に例えば空隙等の異常がある場合には、その異常部分で透過波の透過率が変化すると共に、異常部分と正常部分の境界部分でも透過波の透過率が変化する。境界部分での透過率の変化は異常部分の透過率の変化よりも大きい。このため、異常部分がその周囲の境界部分の透過率変化で強調される。即ち、異常部分を強調しながら検出することができる。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出方法において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体に照射して、透過波の偏波変動を計測し、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分を検出するものである。
【0014】
したがって、固体絶縁体に照射された電磁波は固体絶縁体を透過する。固体絶縁体の内部に異常がなければ、全ての部分で誘電率テンソルの変化量はゼロとなる。一方、固体絶縁体の内部に例えば電気的、機械的ひずみ等の異常がある場合には、その異常部分で誘電率テンソルが変化する。この誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づき異常部分を検出する。
【0015】
さらに、請求項3記載の発明は、可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出方法において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体に照射して、透過波の透過率と偏波変動を計測し、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化と、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分を検出するものである。
【0016】
したがって、固体絶縁体に照射された電磁波は固体絶縁体を透過する。固体絶縁体の内部に異常がなければ、全ての部分で透過率は一定で、誘電率テンソルの変化量はゼロである。一方、固体絶縁体の内部に例えば空隙等の異常がある場合には、その異常部分で透過波の透過率が変化すると共に、異常部分と正常部分の境界部分でも透過波の透過率が変化する。境界部分での透過率の変化は異常部分の透過率の変化よりも大きい。このため、異常部分がその周囲の境界部分の透過率変化で強調されることになり、異常部分を強調しながら検出する。また、固体絶縁体の内部に例えば電気的ひずみ、機械的ひずみ、温度不均一によるひずみ等の異常がある場合には、その異常部分で誘電率テンソルが変化する。この変化に基づき異常部分を検出する。即ち、透過率の変化と誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づいて異常部分を検出することができる。
【0017】
また、請求項4記載の発明は、可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出装置において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を固体絶縁体に照射する電磁波源と、固体絶縁体の透過波の透過率を計測する透過率計測装置と、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化に基づいて異常部分を検出する検出手段を備えるものである。
【0018】
したがって、電磁波源から固体絶縁体に向けて照射された電磁波は固体絶縁体を透過する。透過率計測装置は透過波の透過率を計測する。固体絶縁体の内部に異常がなければ、透過率は全ての部分で一定である。一方、固体絶縁体の内部に例えば空隙等の異常がある場合には、その異常部分で透過波の透過率が変化すると共に、異常部分と正常部分の境界部分でも透過波の透過率が変化する。境界部分での透過率の変化は異常部分の透過率の変化よりも大きい。このため、異常部分がその周囲の境界部分の透過率変化で強調される。検出手段は、強調された異常部分を検出する。
【0019】
また、請求項5記載の発明は、可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出装置において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を固体絶縁体に照射する電磁波源と、固体絶縁体の透過波の偏波変動を計測する偏波計測装置と、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分を検出する検出手段を備えるものである。
【0020】
したがって、電磁波源から固体絶縁体に向けて照射された電磁波は固体絶縁体を透過する。偏波計測装置は透過波の偏波変動を計測する。固体絶縁体の内部に異常がなければ、誘電率テンソルの変化量は全ての部分でゼロである。一方、固体絶縁体の内部に例えば電気的、機械的ひずみ等の異常がある場合には、その異常部分で誘電率テンソルが変化するので、異常部分では透過波の偏波面が変化する。検出手段は、この変化に基づき異常部分を検出する。
【0021】
さらに、請求項6記載の発明は、可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出装置において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を固体絶縁体に照射する電磁波源と、固体絶縁体の透過波の透過率を計測する透過率計測装置と、固体絶縁体の透過波の偏波変動を計測する偏波計測装置と、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化と、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分を検出する検出手段を備えるものである。
【0022】
したがって、電磁波源から固体絶縁体に向けて照射された電磁波は固体絶縁体を透過する。透過率計測装置は透過波の透過率を計測する。固体絶縁体の内部に異常がなければ、透過率は全ての部分で一定である。一方、固体絶縁体の内部に例えば空隙等の異常がある場合には、その異常部分で透過波の透過率が変化すると共に、異常部分と正常部分の境界部分でも透過波の透過率が変化する。境界部分での透過率の変化は異常部分の透過率の変化よりも大きい。このため、異常部分がその周囲の境界部分の透過率変化で強調される。検出手段は、強調された異常部分を検出する。また、偏波計測装置は透過波の偏波変動を計測する。固体絶縁体の内部に異常がなければ、誘電率テンソルの変化は全ての部分でゼロである。一方、固体絶縁体の内部に例えば電気的、機械的ひずみ等の異常がある場合には、その異常部分で誘電率テンソルが変化するので、異常部分では透過波の偏波面が変化する。検出手段は、この変化に基づき異常部分を検出する。即ち、検出手段は、透過率の変化と誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づいて異常部分を検出する。
【発明の効果】
【0023】
請求項1記載の固体絶縁体の異常検出方法では、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体に照射して、透過波の透過率を計測し、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化に基づいて異常部分を検出するので、異常部分をその周囲の境界部分の透過率変化で強調することができる。このため、異常部分の検出が容易になり、より確実に異常部分を検出することができる。また、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を選択して使用するので、より多くの固体絶縁体に適用することができ、汎用性を高めることができる。これらのため、固体絶縁体の異常検出方法をより実用的なものにすることができる。
【0024】
また、請求項2記載の固体絶縁体の異常検出方法では、テラヘルツ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体に照射して、透過波の偏波変動を計測し、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分を検出するので、異常部分を容易に検出することができる。このため、異常部分をより確実に検出することができる。また、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を選択して使用するので、より多くの固体絶縁体に適用することができ、汎用性を高めることができる。これらのため、固体絶縁体の異常検出方法をより実用的なものにすることができる。
【0025】
さらに、請求項3記載の固体絶縁体の異常検出方法では、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体に照射して、透過波の透過率と偏波変動を計測し、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化と、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分を検出するので、透過率の変化と誘電率テンソルの変化による透過波の偏波面の変化に基づいて異常部分を検出することができる。このため、異なる2つの手法を併用することになり、異常部分をより確実に検出することができて信頼性をより向上させることができる。また、様々な異常に対応することができ、汎用性、信頼性をより向上させることができる。
【0026】
また、請求項4記載の固体絶縁体の異常検出装置では、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を固体絶縁体に照射する電磁波源と、固体絶縁体の透過波の透過率を計測する透過率計測装置と、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化に基づいて異常部分を検出する検出手段を備えているので、異常部分をその周囲の境界部分の透過率変化で強調することができる。このため、異常部分の検出が容易になり、より確実に異常部分を検出することができる。また、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を選択して使用するので、より多くの固体絶縁体に適用することができ、汎用性を高めることができる。これらのため、固体絶縁体の異常検出装置をより実用的なものにすることができる。
【0027】
また、請求項5記載の固体絶縁体の異常検出装置では、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を固体絶縁体に照射する電磁波源と、固体絶縁体の透過波の偏波変動を計測する偏波計測装置と、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分を検出する検出手段を備えているので、異常部分を容易に検出することができる。このため、異常部分をより確実に検出することができる。また、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を選択して使用するので、より多くの固体絶縁体に適用することができ、汎用性を高めることができる。これらのため、固体絶縁体の異常検出装置をより実用的なものにすることができる。
【0028】
さらに、請求項6記載の固体絶縁体の異常検出装置では、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体を透過する波長の電磁波を固体絶縁体に照射する電磁波源と、固体絶縁体の透過波の透過率を計測する透過率計測装置と、固体絶縁体の透過波の偏波変動を計測する偏波計測装置と、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化と、異常部分の誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づいて異常部分を検出する検出手段を備えるので、透過率の変化と誘電率テンソルの変化による偏波面の変化とに基づいて異常部分を検出することができる。このため、異なる2つの手法を併用することになり、異常部分をより確実に検出することができて信頼性をより向上させることができる。また、様々な異常に対応することができ、汎用性、信頼性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1に、本発明の固体絶縁体の異常検出方法とこれを実施する異常検出装置の第1の実施形態を示す。固体絶縁体の異常検出方法(以下、単に異常検出方法という)は、可視光に対して不透明な固体絶縁体1の内部の異常を検出するもので、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体1に照射して、その透過波2の透過率を計測し、異常部分の透過率の変化と、異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化に基づいて異常部分を検出するものである。
【0031】
つまり、固体絶縁体1に照射された電磁波は固体絶縁体1を透過する。固体絶縁体1の内部に異常がなければ、透過率は全ての部分で一定である。一方、固体絶縁体1の内部に例えば空隙等の異常がある場合には、その異常部分で透過波2の透過率が変化すると共に、異常部分と正常部分の境界部分でも透過波2の透過率が変化する。例えば、図9〜図12に示すように固体絶縁体1としてのポリエチレン板に空隙を模擬した孔25をあけたサンプルにテラヘルツ波を照射した実験では、ポリエチレン部分(正常部分1a)と比べて空気部分即ち孔25部分(異常部分1b)の透過率は大きく、ポリエチレン部分と空気部分との境界部分1cの透過率は極めて小さくなった。なお、図12は図11の透過率の分布を概念的に示したもので、領域12は正常部分1aの透過率が現れた領域、領域13は異常部分1bの透過率が現れた領域、領域14は境界部分1cの透過率が現れた領域である。
【0032】
そして、空気部分(異常部分1b)の透過率の変化と境界部分1cの透過率の変化を比べると、境界部分1cの透過率の方が大きく変化しており、空気部分1bがその周囲の境界部分1cの透過率変化で強調された結果となっている。この現象はポリエチレンと空気との境界面26でテラヘルツ波が屈折・散乱したことに起因するものであり、この現象が発生するのは材料に関してはポリエチレンと空気の組み合わせに限るものではなく、また、透過波2に関してはテラヘルツ波に限るものではないと考えられる。
【0033】
本発明はかかる現象を利用しており、異常部分1bの透過率の変化と、異常部分1bと正常部分1aとの境界部分1cの透過率の変化に基づいて異常部分1bを検出することで、異常部分1bを強調しながら検出を行うことができる。このため、異常部分1bが目立つようになり、たとえ異常部分1b自体の透過率の変化が僅かな場合であっても異常部分1bを見逃さずに検出することができる。
【0034】
固体絶縁体1の異常検出では、製造時の不良や経時的な劣化に起因した異常を発見することが目的であることが多く、この場合には異常の有無を検出できれば良く、異常の正確な発生位置や大きさを測定する必要はないことが多い。本発明では異常部分1bを目立たせて検出するので、異常の有無を検出できれば目的を達成できる固体絶縁体1の異常検出に特に適している。ただし、使用する波長によっては異常部分1bの正確な位置や大きさを測定できるので、その場合には異常部分1bの位置や大きさを測定するようにしても良い。
【0035】
この異常検出方法は、例えば図1に示す固体絶縁体1の異常検出装置(以下、単に異常検出装置という)によって実施される。なお、この異常検出装置では、検出手段5を備えることで、異常部分1bの検出まで自動的に行うようにしている。この異常検出装置は、可視光に対して不透明な固体絶縁体1の内部の異常を検出するもので、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長の電磁波を固体絶縁体1に照射する電磁波源3と、固体絶縁体1の透過波2の透過率を計測する透過率計測装置4と、異常部分1bの透過率の変化と、異常部分1bと正常部分1aとの境界部分1cの透過率の変化に基づいて異常部分1bを検出する検出手段5を備えるものである。また、固体絶縁体1を透過波2に対して垂直で互いに直交する方向に移動させる二次元走査装置6を備えている。
【0036】
本実施形態では、電磁波源3として例えばテラヘルツ波を照射するテラヘルツ波照射装置とミリ波を照射するミリ波照射装置とサブミリ波を照射するサブミリ波照射装置を有しており、これらを必要に応じて使い分けている。即ち、検査を行う固体絶縁体1の種類によって透過できる電磁波の波長が異なるので、検査対象となる固体絶縁体1を透過する電磁波の波長を選択し、その波長の電磁波を照射できる電磁波照射装置を使用する。電磁波照射装置の使い分けや使用波長の選択は手動操作で行っても良く、あるいは固体絶縁体1の材料の入力により自動的に行われるようにしても良い。ただし、1つの電磁波照射装置でテラヘルツ波、サブミリ波とミリ波を照射できるものがあればその電磁波照射装置を使用しても良い。また、1つのテラヘルツ波照射装置で全ての波長範囲のテラヘルツ波をカバーできなくても、異なる波長のテラヘルツ波を照射する複数の照射装置を組み合わせて使用し、全体として広い波長範囲をカバーするようにしても良い。同様に、1つのミリ波照射装置で全ての波長範囲のミリ波をカバーできなくても、異なる波長のミリ波を照射する複数の照射装置を組み合わせて使用し、全体として広い波長範囲をカバーするようにしても良い。同様に、1つのサブミリ波照射装置で全ての波長範囲のサブミリ波をカバーできなくても、異なる波長のサブミリ波を照射する複数の照射装置を組み合わせて使用し、全体として広い波長範囲をカバーするようにしても良い。つまり、検出に使用する周波数の電磁波を照射できる電磁波源3を準備すれば良い。
【0037】
固体絶縁体1は、例えば高電圧ケーブルや変電所等の電力設備で使用されるものであり、例えば、CVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ケーブル)の絶縁体(ポリエチレン)、モールド変圧器の巻き線を覆う固体絶縁体(エポキシ)、ポリマーがいしやブッシング(シリコーンゴム)等である。ただし、適用可能な固体絶縁体1はこれに限るものではなく、例えば塩化ビニル絶縁ケーブルの固体絶縁体(塩化ビニル),OFケーブルの油浸紙絶縁体等でも良く、その他でも良い。
【0038】
固体絶縁体1の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、四フッ化エチレン、エポキシ、シリコーンゴム、アクリル、ポリ塩化ビニル、EPゴム等である。ただし、検査対象となる固体絶縁体1の材料はこれらに限るものではない。テラヘルツ波、サブミリ波やミリ波が透過する固体絶縁体1であれば検査可能である。
【0039】
透過率計測装置4は、例えば分割器7、反射ミラー8、強度計測器9、透過率算出手段10を備えている。電磁波源3から照射された照射波11を分割器7で所定比率pで計測波11aと参照波11bに分割する。計測波11aは固体絶縁体1を透過して強度計測器9に入射する。一方、参照波11bは反射ミラー8によって反射され、固体絶縁体1を迂回して強度計測器9に入射する。強度計測器9の測定結果は透過率算出手段10に供給される。
【0040】
二次元走査装置6は、透過波2に垂直な平面内で固体絶縁体1を移動させ、固体絶縁体1の表面に沿って透過波2を二次元的に走査させるもので、例えば固体絶縁体1を支持するホルダーと、当該ホルダーを二次元方向に移動させる駆動装置より構成されている。透過波2の走査位置に関する情報は、検出手段5に供給される。
【0041】
透過率算出手段10と検出手段5は、例えばコンピュータによって実現されている。つまり、少なくとも1つのCPUやMPUなどの中央演算装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶するメモリを備えるコンピュータと所定の制御ないし演算プログラムによって、透過率算出手段10と検出手段5を実現している。即ち、中央演算装置は、メモリに記憶されたOS等の制御プログラム、透過波2と参照波11bの強度に基づいて透過率を算出する手順を規定したプログラム、異常部分1bの透過率の変化と、異常部分1bと正常部分1aとの境界部分1cの透過率の変化に基づいて異常部分1bを検出する手順を規定したプログラム、所要データ等により、透過率算出手段10と検出手段5を実現している。また、コンピュータには、例えばディスプレイやプリンター等の出力装置が接続されている。
【0042】
固体絶縁体1の種類に応じて選択された波長の電磁波が電磁波源3から照射されると、固体絶縁体1を透過した透過波2と固体絶縁体1を迂回した参照波11bが強度計測器9に入射し、計測された強度データが透過率算出手段10に供給される。透過率算出手段10は、例えば、参照波11bの強度Irと分割器7の分割比率pより照射波11の強度I(=Ir/p)を求める。また、照射波11の強度Iと参照波11bの強度Irから計測波11aの強度Iin(=I−Ir)を求め、透過波2の強度をIoutとすると、透過率η=(Iin−Iout)/Iinより固体絶縁体1の透過率を求める。次いで、求めた透過率を二次元走査装置6から供給される透過波2の走査位置と関連させて記憶する。そして、二次元走査装置6によって固体絶縁体1を移動させて照射波11が当たる位置を所定距離(スキャンステップ)だけずらし、上述の手順を繰り返して当該位置における固体絶縁体1の透過率を求める。そして、二次元走査装置6は、例えば図2に示すように、照射波11が固体絶縁体1の表面を二次元的に走査するように固体絶縁体1を順次移動させ、各位置P1,P2,…における固体絶縁体1の透過率を求める。
【0043】
検出手段5は、透過率の計測結果に基づき、透過率の変化している領域を検出する。例えば、図9〜図12の例では、ポリエチレン部分の透過率が現れた領域12の透過率に比べて空気部分(孔部分)の透過率が現れた領域13の透過率は大きく、境界部分1cの透過率が現れた領域14の透過率は極めて小さい。検出手段5は、各領域12〜14の透過率の変化に基づいて異常があることを検出する。空気部分に対応する領域13と比べ、境界部分1cに対応する領域14では透過率が大きく変化しており、空気部分を強調する結果となっている。このため、空気部分が目立つようになり、空気部分を確実に検出することができる。なお、図11では、透過率の大小を色の濃さで示しており、色の濃い部分ほど透過率が大きいことを示している。
【0044】
また、本発明では、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長の電磁波を選択して使用するので、より多くの固体絶縁体1に適用することができ、汎用性及び実用性を高めることができる。
【0045】
特に、大容量(使用電圧の高い)の固体絶縁電力設備を作製、運用するには、固体絶縁体1内部を非破壊、非接触でモニタリングすることが必要である。固体絶縁体1内部の異常は設備製造時に発生し、また設備使用中の経年劣化によっても発生するので、固体絶縁電力設備を使用する上で、本発明は不可欠となる。固体絶縁体1内部の空隙や亀裂等の異常を検出することができる。
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図3に、本発明の固体絶縁体1の異常検出方法とこれを実施する異常検出装置を示す。この異常検出方法は、可視光に対し不透明な固体絶縁体1の内部の異常を検出するもので、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体1に照射して、その透過波2の偏波変動を計測し、異常部分1bの誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分1bを検出するものである。
【0047】
つまり、固体絶縁体1に照射された電磁波は固体絶縁体1を透過する。固体絶縁体1の内部に異常がなければ、誘電率テンソルの変化量は全ての部分でゼロである。一方、固体絶縁体1の内部に例えば電気的ひずみ、機械的ひずみ、温度不均一によるひずみ等の異常がある場合には、光弾性効果、ポッケルス効果、カー効果等によりその異常部分1bで誘電率テンソルが変化する。この変化に基づき異常部分1bを検出する。
【0048】
図4に基づいてさらに説明すると、いま、参照波11として、例えば縦と横で位相のそろった波即ち位相差0の波を誘電率異方性(直線複屈折)を示す固体絶縁体1に入射させると、固体絶縁体1の直線複屈折によって透過波2に位相差Γが生じる。これは斜め45度の直線偏光(図5)が同じ方向に傾いている楕円偏光(図6)になることに対応している。位相差Γは固体絶縁体1に生じている電界(電気的なひずみ)や応力(機械的なひずみ)等で変化するので、楕円偏光のふくらみ具合を観測することで電界や応力を知ることができる。
【0049】
即ち、電界や応力が作用していない状態の固体絶縁体1に電界や応力が部分的に作用した場合(この場合は異常が発生した部分の誘電率テンソルが電界や応力に応じて変化するため、透過波2の縦と横の波の間の位相差が異常の発生によって0からΓに変化する。すわなち偏波面が変化する。換言すると、正常部分1aの透過波2の縦と横の波の間の位相差が0であり、異常の発生した部分の透過波2の縦と横の波の間の位相差がΓになり、偏波面に違いが生じる。)や、固体絶縁体1に全体的に電界や応力が作用しているときにその一部分の電界や応力が変化した場合(この場合も異常が発生した部分の誘電率テンソルが変化するため、透過波2の縦と横の波の間の位相差が異常の発生によってΓからΓ+αに変化し、偏波面が変化する。換言すると、正常部分1aの透過波2の縦と横の波の間の位相差はΓであり、異常の発生した部分の透過波2の縦と横の波の間の位相差がΓ+αになり、偏波面に違いが生じる。)に、透過波2の縦と横の波の間の位相差の変化に基づいて部分的な電界や応力の発生や変化を検出することができる。これにより、電気的なひずみや機械的なひずみ等の異常の存在や発生を検出することができる。

【0050】
この異常検出方法は、例えば図3に示す異常検出装置によって実施される。なお、この異常検出装置では、検出手段5を備えることで、異常部分1bの検出まで自動的に行うようにしている。この異常検出装置は、可視光に対し不透明な固体絶縁体1の内部の異常を検出するもので、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長の電磁波を固体絶縁体1に照射する電磁波源3と、固体絶縁体1の透過波2の偏波変動を計測する偏波計測装置15と、異常部分1bの誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づいて異常部分1bを検出する検出手段5を備えるものである。また、図1の異常検出装置と同様に、固体絶縁体1を透過波2に対して垂直で互いに直交する方向に移動させる二次元走査装置6を備えている。なお、電磁波源3、固体絶縁体1、二次元走査装置6は、図1の異常検出装置のものと同じであり、それらの説明を省略する。
【0051】
偏波計測装置15は、例えば偏光子16、検光子17、光検出器18を備えている。偏光子16は電磁波源3と固体絶縁体1の間に設けられ、照射波11を例えば斜め45度の直線偏波にする。検光子17は固体絶縁体1と光検出器18の間に設けられ、偏光子16の直線偏波に対して90度傾いた透過波2を通過させる。光検出器18は透過波2を検出し、その信号を検出手段5に供給する。
【0052】
検出手段5は、例えばコンピュータによって実現されている。つまり、少なくとも1つのCPUやMPUなどの中央演算装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶するメモリを備えるコンピュータと所定の制御ないし演算プログラムによって、検出手段5を実現している。即ち、中央演算装置は、メモリに記憶されたOS等の制御プログラム、異常部分1bの誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づいて異常部分1bを検出する手順を規定したプログラム、所要データ等により、検出手段5を実現している。また、コンピュータには、例えばディスプレイやプリンター等の出力装置が接続されている。
【0053】
固体絶縁体1の種類に応じて選択された波長の電磁波が電磁波源3から照射されると、この照射波11は偏光子16によって斜め45度の直線偏波に偏波される。固体絶縁体1を透過した透過波2は検光子17に入射する。
【0054】
いま、固体絶縁体1に電気的なひずみや機械的なひずみ等の異常が発生していなければ、照射波11は固体絶縁体1によって偏光されずに、あるいは検光子17を透過する程には偏光されずに固体絶縁体1を透過する。したがって、透過波2は検光子17を透過することができず、光検出器18によって透過波2が検出されることはない。
【0055】
一方、固体絶縁体1に電気的なひずみや機械的なひずみ等の異常が発生している場合には、固体絶縁体1の誘電率テンソルの変化に応じて決まる誘電率異方性によって透過波2の偏波面が変化する。このため、透過波2は検光子17を透過し、光検出器18によって検出される。検出手段5は光検出器18からの出力によって透過波2の偏波面が変化したことを認識し、二次元走査装置6から供給される透過波2の走査位置と関連させて固体絶縁体1の異常を検出する。そして、二次元走査装置6によって固体絶縁体1を移動させて照射波11が当たる位置を所定距離だけずらし、上述の手順を繰り返して当該位置における偏波面の変化を観測して異常を検出する。そして、二次元走査装置6は、例えば図2に示すように、照射波11が固体絶縁体1の表面を二次元的に走査するように固体絶縁体1を順次移動させ、各位置における固体絶縁体1の誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化、即ち異常を検出する。
【0056】
本発明では、正常部分1aについては透過波2を検出することができず、異常部分1bでのみ透過波2を検出することになるので、異常の有無の判断が容易であり、異常部分1bを確実に検出することができる。なお、異常部分1bで透過波2を検出し、正常部分1aでは透過波2を検出できない構成に代えて、正常部分1aで透過波2を検出し、異常部分1bでは透過波2を検出できない構成にしても良い。
【0057】
また、透過波2の検出を二次元走査装置6から供給される透過波2の走査位置と関連させることで、異常の発生位置も検出することができる。ただし、二次元走査装置6を省略しても良い。この場合には、定点観測を行うことになるが、定期的に観測を行うことで、当該位置における異常の発生を検出することができる。異常の発生する位置が予め予測できる場合等に有効である。
【0058】
また、本発明では、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長の電磁波を選択して使用するので、より多くの固体絶縁体1に適用することができ、汎用性及び実用性を高めることができる。
【0059】
特に、大容量(使用電圧の高い)の固体絶縁電力設備を作製、運用するには、固体絶縁体1内部を非破壊、非接触でモニタリングすることが必要である。固体絶縁体1内部の異常は設備製造時に発生し、また設備使用中の経年劣化によっても発生するので、固体絶縁電力設備を使用する上で、本発明は不可欠となる。固体絶縁体1内部の機械的ひずみ、電気的ひずみ、温度不均一によるひずみ等の異常を検出することができる。
【0060】
本発明では、例えば固体絶縁体1としてポリエチレンを使用しているCVケーブル、エポキシ使用しているモールド変圧器、シリコーンゴムを使用しているポリマーがいし等を検査の対象とすることができる。ただし、これらの電気設備に限るものではないことは勿論である。
【0061】
例えば 図7に、電気設備として例えばモールド変圧器に適用した例を示す。この例では、二次元走査装置6を省略している。電磁波源3と偏光子16を備える発信器19と、検光子17と光検出器18を備える受信器20とを、モールド変圧器21の巻き線22を覆う固体絶縁体1の検査位置23を挟んで対向配置している。検査位置23は、例えば巻き線22部分のエッジ部等、電界や応力の異常集中が起きやすいと考えられる位置である(図7(B))。つまり、発信器19及び受信器20は、例えば固体絶縁体1の異常の起きそうな位置に設置することが好ましい。このようにすることで、モールド変圧器21の固体絶縁体1の異常を検出することができる。観測は、モールド変圧器21の稼働中に定期的に行うことができる。また、モールド変圧器21の停止中に観測を行っても良い。
【0062】
現在、液体や気体の絶縁体を使用しない全固体変電所が開発されつつある等、固体絶縁体1の使用要求が高まっている。固体絶縁体1は可視光線に対し不透明なものが多く、この場合には内部の気泡等の異常を目視することができない。また、機械的ひずみ、電気的ひずみ、温度不均一によるひずみ等の異常は、もともと目視によって確認し難い。したがって、可視光に対し不透明な固体絶縁体1の内部の異常を非破壊、非接触で検出できる本発明は、非常に有用である。
【0063】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0064】
例えば、上述の説明では、固体絶縁体1の異常部分1b及び境界部分1cの透過率の変化に基づいて異常部分1bを検出し(図1)、または固体絶縁体1の異常部分1bの誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づいて異常部分1bを検出していた(図3)が、固体絶縁体1の異常部分1b及び境界部分1cの透過率の変化と、異常部分1bの誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化の両方に基づいて異常部分1bを検出しても良い。この場合の例を図8に示す。この異常検出方法は、可視光に対して不透明な固体絶縁体1の内部の異常を検出するもので、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を固体絶縁体1に照射して、その透過波2の透過率と偏波変動を計測し、異常部分1bの透過率の変化と、異常部分1bと正常部分1aとの境界部分1cの透過率の変化と、異常部分1bの誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて異常部分1bを検出するものである。そして、この異常検出方法を実施する異常検出装置は、可視光に対して不透明な固体絶縁体1の内部の異常を検出するものであって、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち固体絶縁体1を透過する波長の電磁波を固体絶縁体1に照射する電磁波源3と、固体絶縁体1の透過波2の透過率を計測する透過率計測装置4と、固体絶縁体1の透過波2の偏波変動を計測する偏波計測装置15と、異常部分1bの透過率の変化と、異常部分1bと正常部分1aとの境界部分1cの透過率の変化と、異常部分1bの誘電率テンソルの変化による透過波偏波面の変化に基づいて異常部分1bを検出する検出手段5を備えるものである。
【0065】
異常検出装置は、例えば分割器24を有しており、電磁波源3から照射された照射波11を透過率計測用波11cと偏波変動計測用波11dに分割する。透過率計測用波11cは図1と同様の透過率計測装置4に供給され、固体絶縁体1の透過率を計測してその結果を検出手段5に出力する。また、偏波変動計測用波11dは図3と同様の偏波計測装置15に供給され、固体絶縁体1の偏波変動を計測してその結果を検出手段5に出力する。これらの計測は二次元走査装置6によって固体絶縁体1を順次移動させながら行われる。
【0066】
検出手段5は、透過率計測装置4の出力に基づいて透過率の変化している領域を調べ、透過率の変化に基づいて異常部分1bに対応する領域13と境界部分1cに対応する領域14を判別し、固体絶縁体1の異常部分1bを検出する。これと並行し、検出手段5は偏波計測装置15の出力に基づいて偏波面の変化が相違している領域を識別し、固体絶縁材料の異常部分1bを検出する。つまり、2つの異なる原理に基づいて異常部分1bを検出するので、異常部分1bの検出をより確実にでき、信頼性をより一層向上させることができる。なお、この場合、照射波11を透過率計測用波11cと偏波変動計測用波11dに分割し、固体絶縁材料の透過率と偏波変動を同時に計測していたが、必ずしもこの構成に限るものではなく、透過率と偏波変動を片方ずつ順番に測定しても良い。
【0067】
また、上述の説明では、二次元走査装置6を用いて固体絶縁体1を移動させるようにしていたが、必ずしもこの構成に限るものではなく、固体絶縁体1を移動させることに代えて、異常検出装置を移動させるようにしても良い。また、固体絶縁体1と異常検出装置の両方を移動させるようにしても良い。
【実施例1】
【0068】
固体絶縁体1のサンプルにテラヘルツ波を照射し、透過率の変化に基づいて気泡を検出する実験を行った。実験に使用する固体絶縁体1のサンプルとして、厚さ5mmのポリエチレン板を使用した。サンプル1には、図9に示すように、直径10mmの孔25と8mmの孔25を8mmの間隔をあけて形成した。照射波11として、周波数1.3THzのテラヘルツ波を使用した。テラヘルツ波を発生させる電磁波源3として後進行波管(BWO管)を使用した。スキャンエリア:37.3mm(X方向)×28.2mm(Y方向)、スキャンステップ:0.54mmとした。
【0069】
実験の結果を図10〜図12に示す。なお、図10は図9のL−L点線に沿う位置の透過光強度を示している。図10の破線Aは孔25以外の部分の平均的レベルを示している。また、図11では、透過率の大小を色の濃さで示しており、色の濃い部分ほど透過率が高い。なお、図12は図11の透過率の分布を概念的に示している。
【0070】
孔25部分(異常部分1b)の透過率がポリエチレン部分(正常部分1a)の透過率よりも大きくなっているほか、孔25の縁(空気とポリエチレンの界面)では透過率が激減し、境界面26が強調されて観測された。この現象は、テラヘルツ波が空気とポリエチレンの境界面26で屈折・散乱することによるものと思われる。実際の固体絶縁体1についても、内部に気泡や亀裂等の異常部分1bが存在する場合には同様の現象が観測されると考えられる。これにより、固体絶縁体1内の気泡や亀裂等の異常部分1bを検出できることを確認できた。
【実施例2】
【0071】
固体絶縁体1に生じている機械的な応力を透過波2の、誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて検出する実験を行った。固体絶縁体1のサンプルとして、厚さ5mmのポリエチレン片を使用した。図13に示すように、サンプル1を部分的にクランプ装置27で挟み付けることでサンプル1に部分的な機械的応力を発生させた。なお、図13においてP円は機械的応力付加部分を示している。照射波11として、周波数1THzのテラヘルツ波を使用した。偏光子16を使用して照射波11を斜め45度の直線偏光とし、偏光子16に対して90度傾いた検光子17を使用した。比較のために偏光子16及び検光子17を使用せずに実験を行った。
【0072】
実験の結果を図14に示す。なお、図14中、白色の長方形はサンプル1であり、(A)においてサンプル1の両側にはクランプ装置27の輪郭を白色の線で示している。図14(A)は偏光子16及び検光子17を使用しない場合の結果を、(B)は偏光子16及び検光子17を使用した場合の結果をそれぞれ示している。偏光子16及び検光子17を使用しなかった実験では、サンプル1及びクランプ装置27以外の空気部分ではテラヘルツ波の透過率は大きく、金属部分(クランプ装置27部分)はテラヘルツ波は透過せず、ポリエチレン部分(サンプル1部分)はテラヘルツ波がある程透過することが確認できただけであった(図14(A))。
【0073】
これに対し、サンプル1への照射波11を偏光子16によって斜め45度の直線偏光とし、透過波2を90度傾いた方向の検光子17を通して検出すると、応力付加部分だけ透過波2が観測された。これは、サンプル1の応力発生部分以外の部分は照射波11の偏光状態を変化させないため、透過波2は検光子17を透過できないが、サンプル1の応力発生部分は光弾性効果により透過波2が楕円偏波となり、検光子17を透過できる成分が生じたためである。この実験では、サンプル1に生じさせたのは機械的応力(機械的なひずみ)であったが、電気的ひずみ、温度不均一によるひずみ等を生じさせた場合も同様である。これにより、固体絶縁体1内の機械的なひずみ、電気的なひずみ、温度不均一によるひずみ等の異常を検出できることを確認できた。
【実施例3】
【0074】
代表的な固体絶縁体1であるポリエチレンに対するテラヘルツ波の透過特性を調べる実験を行った。実験サンプルとして、厚さ5mmのポリエチレン板を使用した。約0.85〜1.1THz、約1.2〜1.4THzのテラヘルツ波について実験を行った。その結果を図15に示す。その結果、テラヘルツ波はポリエチレンを良好に透過することがわかった。このため、ポリエチレン内の異常をテラヘルツ波を用いて検出できることを確認できた。なお、図15の透過率の振動はエタロン効果によるものである。
【実施例4】
【0075】
代表的な固体絶縁体1であるエポキシやシリコーンゴムに対するサブミリ波、ミリ波の透過特性を調べる実験を行った。実験サンプルとして、厚さ5mmのエポキシ板とシリコーンゴム板を使用した。その結果を図16に示す。テラヘルツ波はエポキシやシリコーンゴムをほとんど透過できないが、波長を長く(周波数を低く)すると、つまりサブミリ波帯、ミリ波帯にすると、透過できるようになるのを確認できた。このため、エポキシやシリコーンゴム内の異常をサブミリ波やミリ波を用いて検出できることを確認できた。
【0076】
ただし、計測分解能(サブミリ波、ミリ波の進行方向に対して垂直な平面内)は波長の長さで決まるので、あまり波長を長くすると分解能が悪化し、高精度の検出には適切でなくなる可能性もある。特に高精度の検出には、透過率と分解能の兼ね合いを考慮して照射波11の波長を選択することが必要である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の固体絶縁体の異常検出装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】固体絶縁体の二次元走査を説明するための図である。
【図3】本発明の固体絶縁体の異常検出装置の第2の実施形態を示すブロック図である。
【図4】誘電率テンソルに異方性のある固体絶縁体による縦と横の波の間の位相差変化(発生)を説明するための図である。
【図5】斜め45度の直線偏光を示す図である。
【図6】斜め45度の楕円偏光を示す図である。
【図7】本発明の固体絶縁体の異常検出装置の第3の実施形態を概念的に示し、(A)はその全体図、(B)は(A)のB円部分における透過波に垂直な平面の概念図である。
【図8】本発明の固体絶縁体の異常検出装置の第4の実施形態を示すブロック図である。
【図9】気泡を検出する実験で使用したサンプルの平面図である。
【図10】気泡を検出する実験の結果を示し、図9のL−L点線に沿う位置の透過光強度を示すグラフである。
【図11】気泡を検出する実験の結果を示し、透過率の分布を二次元的に示した図である。
【図12】図11の透過率の分布を概念的に示した図である。
【図13】機械的応力を検出する実験の様子を示す概略構成図である。
【図14】機械的応力を検出する実験の結果を示し、(A)は偏光子及び検光子を使用しない場合の透過率の分布を示す図、(B)は偏光子及び検光子を使用した場合の透過率の分布を示す図である。
【図15】ポリエチレンにテラヘルツ波を照射した場合の周波数と透過率及び吸収係数との関係を示すグラフである。
【図16】エポキシ及びシリコーンゴムにテラヘルツ波、サブミリ波及びミリ波を照射した場合の周波数と透過率及び吸収係数との関係を示すグラフである。
【図17】従来のテラヘルツ波を用いた差分イメージング装置の概念図である。
【符号の説明】
【0078】
1 固体絶縁体
1a 正常部分
1b 異常部分
1c 境界部分
2 透過波
3 電磁波源
4 透過率計測装置
5 検出手段
15 偏波面計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出方法において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち前記固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を前記固体絶縁体に照射して、透過波の透過率を計測し、異常部分の透過率の変化と、前記異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化に基づいて前記異常部分を検出することを特徴とする固体絶縁体の異常検出方法。
【請求項2】
可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出方法において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち前記固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を前記固体絶縁体に照射して、透過波の偏波変動を計測し、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて前記異常部分を検出することを特徴とする固体絶縁体の異常検出方法。
【請求項3】
可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出方法において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち前記固体絶縁体を透過する波長を選択し、選択した波長の電磁波を前記固体絶縁体に照射して、透過波の透過率と偏波変動を計測し、異常部分の透過率の変化と、前記異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化と、前記異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて前記異常部分を検出することを特徴とする固体絶縁体の異常検出方法。
【請求項4】
可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出装置において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち前記固体絶縁体を透過する波長の電磁波を前記固体絶縁体に照射する電磁波源と、前記固体絶縁体の透過波の透過率を計測する透過率計測装置と、異常部分の透過率の変化と、前記異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化に基づいて前記異常部分を検出する検出手段を備えることを特徴とする固体絶縁体の異常検出装置。
【請求項5】
可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出装置において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち前記固体絶縁体を透過する波長の電磁波を前記固体絶縁体に照射する電磁波源と、前記固体絶縁体の透過波の偏波変動を計測する偏波計測装置と、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて前記異常部分を検出する検出手段を備えることを特徴とする固体絶縁体の異常検出装置。
【請求項6】
可視光に対して不透明な固体絶縁体の内部の異常を検出する固体絶縁体の異常検出装置において、テラヘルツ波、サブミリ波とミリ波のうち前記固体絶縁体を透過する波長の電磁波を前記固体絶縁体に照射する電磁波源と、前記固体絶縁体の透過波の透過率を計測する透過率計測装置と、前記固体絶縁体の透過波の偏波変動を計測する偏波計測装置と、異常部分の透過率の変化と、前記異常部分と正常部分との境界部分の透過率の変化と、異常部分の誘電率テンソルの変化による偏波面の変化に基づいて前記異常部分を検出する検出手段を備えることを特徴とする固体絶縁体の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図11】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−226910(P2006−226910A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42826(P2005−42826)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月30日 電気学会基礎・材料・共通部門大会委員会発行の「2004年電気学会 基礎・材料・共通部門大会 講演論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年11月17日 社団法人電気学会発行の「第35回 電気電子絶縁材料システムシンポジウム予稿集」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】