説明

固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法

【課題】発電セルの著しい低下など何らかの原因により緊急停止した際に、燃料極に水蒸気や水素の導入を防止するとともに、空気極層の結晶構造の変化を防止して、発電セルの劣化および発電性能の低下を防ぐ固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法を提供する。
【解決手段】固体酸化物形燃料電池5が緊急停止して負荷電流が停止した際に、改質器6に炭化水素ガスを5秒以上供給した後に停止するとともに、空気極層15に空気および水蒸気発生器8に水を2分以上供給した後に、空気および水の流量を低下させて、発電セル16の電圧が予め定められたしきい値以下および水の供給圧力がゼロになった時に、空気および水の供給を停止し、かつ水蒸気発生器8および外気化器26aに残留する水を外部に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料極層に燃料ガスを、空気極層に空気を供給して発電を行う固体酸化物形燃料電池を備えた固体酸化物形燃料電池の緊急運転停止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の固体酸化物形燃料電池として、缶体内部に固体酸化物形燃料電池および改質器を設け、この改質器に水蒸気発生器において気化した水蒸気および炭化水素ガスを供給して、当該改質器内において水素リッチな燃料ガスに改質し、その燃料ガスを燃料ガス供給ラインを介して上記固体酸化物形燃料電池に供給するとともに、空気ブロアから供給された空気を空気供給ラインを介して上記固体酸化物形燃料電池に供給するものが知られている。
【0003】
この固体酸化物形燃料電池は、固体電解質層の一方の面に燃料極層を、他方の面に空気極層を配置した発電セルを有し、この発電セルの外側の燃料極層側に燃料極集電体および空気極層側に空気極集電体を配置して、これら集電体の外側にセパレータを配置することにより単セルをなし、この単セルを複数積層することにより構成されている。そして、上記燃料ガス供給ラインからの燃料ガスを、上記セパレータを介して上記燃料極層に供給し、上記空気供給ラインからの空気を、上記セパレータを介して上記空気極層に供給することにより発電反応を生じさせるものである。
【0004】
ここで、固体電解質層は、ランタンガレート材料(LSGMC)等によって構成されている。また、燃料極層は、Niのサーメットで構成されている。そして、空気極層は、サマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC)によって構成されている。また、燃料極集電体は、Ni基合金などの多孔質焼結板によって構成されている。そして、空気極集電体は、Ag基合金などの多孔質焼結板によって構成されている。
【0005】
一方、水蒸気発生器は、水供給手段から導入された水を、内部に充填された熱伝導性の良好なビーズによって効率的に気化して、上記改質器の改質反応に必要な水蒸気を生成するものである。
【0006】
他方、改質器は、導入された炭化水素ガスおよび水蒸気を、内部に充填された炭化水素用のNi(ニッケル)系、あるいはRu(ルテニウム)系の改質触媒によって、改質して燃料ガスを生成するものである。
【0007】
ところで、このような固体酸化物形燃料電池は、高出力大面積マルチスタックの採用により、熱過多の状況にあることから、よりコンパクトな固体酸化物形燃料電池を開発するために、断熱材の厚さを低減させる必要がある。これにより、近年の高出力大面積マルチスタックを採用した固体酸化物形燃料電池は、上記断熱材の中に外気化器(水配管)を敷設し、この外気化器(水配管)によって熱交換を行う構造が採用されている。この外気化器(水配管)は、上記水蒸気発生器において生成した水蒸気を上記改質器に供給するための水蒸気供給ラインである。
【0008】
しかし、何らかの原因、例えば、セル電圧の著しい低下、発電セルの急激な温度上昇、ガス濃度の異常などをセンサが検知すると、固体酸化物形燃料電池は、安全上の観点から、自動で緊急停止するように設計されている。また、偶発的に停電が生じ、空気ブロアや燃料ガスブロアが停止する場合には、この停電が長時間続く状態、即ち完全停電であるときには、上記固体酸化物形燃料電池は、安全性を考慮して、そのまま緊急停止するように設計されている。
【0009】
このような緊急停止時に、例えば、燃料ガスブロアや空気ブロアの稼動が停止した場合、燃料ガス供給ラインおよび改質器には、燃料ガスが残留していることから、この残留燃料ガスが、上記固体酸化物形燃料電池の燃料極層に流入すると、上記固体酸化物形燃料電池の空気極層の酸素イオンが、固体電解質層中を介して上記燃料極層に移動するため、上記空気極層の結晶構造が不可逆に変化してしまう。このため、緊急停止後に再稼働しても、上記固体酸化物形燃料電池の発電セルのセル電圧が低下してしまうという問題がある。
【0010】
そこで、本発明者らは、下記特許文献1において、少なくとも燃料極層に燃料ガスの供給が停止して緊急停止した際、空気極層に上記空気ブロアあるいは空気バッファタンクの空気を、上記残留燃料ガスがなくなるまで供給し続けることによって、空気極層の結晶構造の変化を防止して、緊急停止後に再稼働させても、固体酸化物形燃料電池の発電性能が低下することのない固体酸化物形燃料電池の運転停止方法を提案している。
【0011】
また、下記特許文献1では、上記空気ブロアに、上記固体酸化物形燃料電池の発電反応により得られた電力を一部蓄電する蓄電池を設けることにより、例えば、完全停電により緊急停止した際も、上記空気ブロアを稼働させることを可能にしている。
【0012】
さらに、下記特許文献1では、燃料極層への燃料ガスの供給が停止して緊急停止した際に、空気ブロアが故障して動作しない状態であっても、上記空気極層に上記空気バッファタンクの空気を、上記残留燃料ガスがなくなるまで供給し続けることによって、上記空気極層の結晶構造の変化を防止して、緊急停止後に再稼働させても、固体酸化物形燃料電池の発電性能が低下することがないようにしている。
【0013】
しかしながら、上記外気化器(水配管)を採用した高出力大面積マルチスタックの上記固体酸化物形燃料電池においては、上記外気化器(水配管)がバッファタンクの変わりになるため、空気供給が終了した後に、上記外気化器内の水が上記改質器に供給され、上記燃料ガス供給ラインを介して、上記燃料極層に微量ながら長時間導入されてしまい、結果として電圧が上昇するという問題がある。
【0014】
また、この燃料極層に供給される水蒸気は、高温で酸化作用があるため、改質器内のNi系の改質触媒、およびNi基合金の多孔質焼結金属板からなる燃料極集電体の一部が酸化することによって水素が発生し、上記燃料極層に微量の水素も長時間導入され続けることになる。このように、上記燃料極層に導入される微量の水蒸気および水素により、発電セルの劣化および発電性能の低下を生じてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−87862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、発電セルの著しい低下など何らかの原因により緊急停止した際に、燃料極に水蒸気や水素の導入を防止するとともに、空気極層の結晶構造の変化を防止して、発電セルの劣化および発電性能の低下を防ぐ固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、発電セルの燃料極層に、炭化水素ガスと水蒸気発生器および外気化器を介して水蒸気に生成された水とを改質器に導入して改質した燃料ガスを供給するとともに、空気極層に空気を供給して発電を行う固体酸化物形燃料電池における緊急停止方法であって、上記固体酸化物形燃料電池が緊急停止して負荷電流が停止した際に、上記改質器に上記炭化水素ガスを5秒以上供給した後に停止するとともに、空気極層に上記空気および上記水蒸気発生器に上記水を2分以上供給した後に、上記空気および上記水の流量を低下させて、上記発電セルの電圧が予め定められたしきい値以下および上記水の供給圧力がゼロになった時に、上記空気および上記水の供給を停止し、かつ上記水蒸気発生器および上記外気化器に残留する上記水を外部に排出することを特徴とするものである。
【0018】
そして、請求項2に記載の発明は、請求項1の発明において、上記水蒸気発生器および上記外気化器に残留する上記水を外部に排出した後に、上記発電セルの電圧が予め定められた上記しきい値より高くなった場合に、上記空気の供給を上記発電セルの電圧が予め定められた上記しきい値以下になるまで再度供給することを特徴とするものである。
【0019】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記発電セルの電圧の上記しきい値が0.1V以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1〜3に記載の発明によれば、固体酸化物形燃料電池が緊急停止して負荷電流が停止した際に、空気および水の流量を低下させて、発電セルの電圧が予め定められたしきい値以下および上記水の供給圧力がゼロになった時に、上記空気および上記水の供給を停止し、かつ水蒸気発生器および外気化器に残留する上記水を外部に排出するため、燃料極層の燃料ガスがなくなった後に、上記水蒸気発生器および上記外気化器に残留した上記水が水蒸気に生成され、改質器を介して発電セルに導入されることを防止するとともに、上記水蒸気の酸化作用によって、上記改質器内のNi系の改質触媒、およびNi基合金の多孔質焼結金属板からなる燃料極集電体の一部が酸化することによて起こる水素の発生を防ぐことができる。これにより、上記発電セルの劣化や発電性能の低下を低減させることができる。
【0021】
また、緊急停止した際に、炭化水素ガスを上記改質器に、5秒以上供給した後に停止しても、水を水蒸気発生器および空気を空気極層に、2分以上供給するため、燃料ガスが上記改質器に残留していても、上記空気極層の酸素イオンが固体電解質層中を通じて、上記燃料極層に移動することがない。この結果、上記酸素イオンが上記燃料極層に移動することにより起こる、上記空気極層の結晶構造の不可逆変化を防止することができ、緊急停止後に再稼働しても、上記固体酸化物形燃料電池の発電セルのセル電圧が低下してしまう機能低下を防ぐことができる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載した緊急停止方法により、上記固体酸化物形燃料電池を停止して、上記固体酸化物形燃料電池に燃料ガス、空気、水が供給されていない状態にもかかわらず、何らかの要因によって、上記発電セルの電圧が上昇した場合には、上記発電セルの電圧が予め定められた上記しきい値以下になるまで、上記空気の供給を再度供給することにより、簡便に対応することができる。これにより、上記発電セルの劣化および機能低下のさらなる低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法に用いられる固体酸化物形燃料電池装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の固体酸化物形燃料電池の単セルを示す縦断面図である。
【図3】本発明の固体酸化物形燃料電池の緊急停止実験のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示すように、本発明の固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法に用いられる一実施形態の固体酸化物形燃料電池は、内缶体1と、この内缶体1を断熱材2により覆う外缶体3とからなる缶体4を有し、内缶体1と外缶体3との間に、水蒸気を生成する水蒸気発生器8が配設され、缶体4の内部に、固体酸化物形燃料電池5と改質器6とが収納されているとともに、当該缶体4の下部に固体酸化物形燃料電池5から排出された排ガスを、缶体4の外部に排出する排出口7が形成され、かつ缶体4の外部に、炭化水素ガスブロア9、水ポンプ10、空気ブロア11、制御装置28および補助電源25とが配設されて概略構成されている。
【0025】
ここで、固体酸化物形燃料電池5は、図2に示すように、固体電解質層13の一方の面に燃料極層14が配置されているとともに、他方の面に空気極層15が配置されて発電セル16が構成されている。この発電セル16は、燃料極層14の外側に、燃料極集電体17が配置されているとともに、空気極層15の外側に空気極集電体18が配置されている。さらに、燃料極集電体17および空気極集電体18の外側には、セパレータ19が配置されて、単セル20が構成されている。この単セル20は、図1に示すように、複数積層され、積層方向の一端側と他端側とをフランジ21により挟み込まれている。
【0026】
また、固体電解質層13は、ストロンチウム、マグネシウム、コバルトを添加したランタンガレート材料(LSGMC)によって構成されている。
【0027】
そして、燃料極層14は、Niのサーメットで構成されている。また、空気極層15は、サマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC)により構成されている。
【0028】
さらに、燃料極集電体17は、Ni基合金などの多孔質焼結板によって構成されている。また、空気極集電体18は、Ag基合金などの多孔質焼結板によって構成されている。
【0029】
また、セパレータ19は、ステンレス板によって構成されているとともに、燃料極層14に燃料ガスを供給する燃料ガス通路22、および空気極層15に空気を供給する空気通路23が穿設されている。
【0030】
そして、発電セル16を挟持しているセパレータ19同士の間は、Niの多孔質焼結板からなる燃料極集電体17、およびAgの多孔質焼結板からなる空気極集電体18から排出される高温の残余の排ガスを缶体4内に排出可能なシールレス構造になっている。また、発電セル16には、電圧を測定する電圧計が設けられている。
【0031】
また、缶体4の外部に配置された炭化水素ガスブロア9は、その吐出側に炭化水素ガス供給ライン24が接続せれているとともに、この炭化水素ガス供給ライン24の他方側が、缶体4内部に収納された改質器6の導入側に接続されている。
【0032】
そして、改質器6は、その内部に炭化水素用のNi(ニッケル)系、あるいはRu(ルテニウム)系の改質触媒が充填されている。さらに、改質器6の出口側には、燃料ガス供給ライン24aが接続されているとともに、この燃料ガス供給ライン24aの他方側がフランジ21を介して、セパレータ19の燃料ガス通路22に導入されている。
【0033】
さらに、缶体4の外部に配置された水ポンプ10は、その吐出側に水供給ライン26が接続されているとともに、この水供給ライン26の他方側が水蒸気発生器8の導入側に接続されている。また、水供給ライン26には、水圧計31が介装されている。そして、水蒸気発生器8の出口側に、水蒸気供給ライン(外気化器)26aの一方側が接続されてているとともに、他方側が燃料ガス供給ライン24aに接続されている。この水蒸気供給ライン26aは、内缶体1と外缶体3との間に敷設されている。これにより、固体酸化物形燃料電池5の発電反応により高温に熱せられた缶体1の熱と、水蒸気供給ライン26aを通る水蒸気との間で熱交換が行われ、高温の熱を受けた水蒸気が改質器6に導入される。
【0034】
また、水蒸気供給ライン26aには、その内部に残留する水および水蒸気発生器8の内部に残留する水を排出する水排出ライン29が接続されている。この水排出ライン29には、水蒸気発生器用電磁弁12が介装されている。また、水蒸気発生器8は、缶体4の排出口7を横断して介装されているとともに、燃料極集電体17および空気極集電体18から排出される上記排ガスの熱により、水を効率良く気化させるために、熱伝導性の良好なビーズが充填されている。
【0035】
そして、缶体4の外部に配設された空気ブロア11は、その吐出側に空気供給ライン27が接続されているとともに、この空気供給ライン27の他方側がフランジ21を介して、セパレータ19の空気通路23に導入されている。
【0036】
さらに、缶体4の外部には、固体酸化物形燃料電池5の発電反応により得られた電力を一部蓄電する補助電源25と、何らかの原因により緊急停止した際に稼動する制御装置28が配設されている。この制御装置28は、緊急停止して負荷電流がゼロになった際に、改質器6に炭化水素ガスを供給する炭化水素ガスブロア9と、水蒸気発生器8に水を供給する水ポンプ10と、空気極層15に空気を供給する空気ブロア11とを各々制御している。なお、炭化水素ガスブロア9、水ポンプ10、空気ブロア11および制御装置28は、停電により緊急停止した際に、補助電源25から電力が供給される。
【0037】
また、制御装置28は、緊急停止して負荷電流がゼロになった際に、発電セル16の電圧を検出する電圧計30からの検出信号を受信するとともに、水ポンプ10の供給圧を検出する水圧計31からの検出信号を受信している。さらに、発電セル16の電圧が予め定められたしきい値以下、および上記水の供給圧力がゼロになったときに、電圧計30および水圧計31からの検出信号を受信して、水蒸気発生器用電磁弁12を制御している。
【0038】
以上の構成からなる固体酸化物形燃料電池を用いて、何らかの原因により緊急停止した際の停止方法について説明する。なお、何らかの原因としては、例えば、セル電圧の著しい低下、発電セルの急激な温度上昇、ガス濃度の異常、停電などが考えられる。
【0039】
まず、何らかの原因、例えば、発電セル16のセル電圧が著しく低下した場合に、発電セル16に異常があると判断され、固体酸化物形燃料電池5は、安全上の観点から自動で緊急停止する。この際に、炭化水素ガスブロア9、水ポンプ10および空気ブロア11および制御装置28には、電力が供給されている。そして、この緊急停止により、制御装置28が作動して、この制御装置28に組み込まれたプログラムが実行される。
【0040】
そして、制御装置28の制御信号により、炭化水素ガスブロア9から炭化水素ガス供給ライン24を介して、改質器6に炭化水素ガスが5秒以上供給され、5秒以上経過後に炭化水素ガスの供給が停止される。また、同時に、水ポンプ10から水供給ライン26を介して、水蒸気発生器8に水、および空気ブロア11から空気供給ライン27を介して、空気極層15に空気が2分以上供給される。
【0041】
次いで、制御装置28からの制御信号により、上記水および上記空気が2分以上供給された後に、水ポンプ10および空気ブロア11の各々の流量を徐々に低下させる。そして、発電セル16の電圧が予め定められたしきい値以下、および水の供給圧がゼロになったときに、発電セル16に設けられた電圧計30および水供給ライン26に設けられた水圧計31から制御装置28に検出信号が送信されて、水ポンプ10および空気ブロア11が停止されるとともに、水蒸気供給ライン26aに介装された水蒸気発生器用電磁弁12が非通電となり、水蒸気発生器用電磁弁12が開状態になって、水蒸気発生器8および水蒸気供給ライン26aに残留する上記水が、水排出ライン29を介して外部に排出される。
【0042】
さらに、水蒸気発生器8および水蒸気供給ライン26aに残留する上記水が、水排出ラインを介して外部に排出された後も、制御装置28からの制御信号により、発電セル16に設けられた電圧計30によって、発電セル16の電圧が継続的に監視される。そして、発電セル16の電圧が予め定められたしきい値を超えた場合に、制御装置28が電圧計30から検出信号を受信して、制御装置28からの制御信号により、再度空気ブロア11が作動され、発電セル16の電圧が予め定められたしきい値以下になるまで、空気極層15に空気が再供給される。
【0043】
そして、空気ブロア11から空気極層15に空気を再供給した後に、発電セル16の電圧が予め定められたしきい値を超えないことを、制御装置28が電圧計30からの検出信号により判断すると、制御装置28は固体酸化物形燃料電池が再稼動するまで待機状態となる。その後、トラブルの原因が解消されると、制御装置28が停止するとともに、炭化水素ガスブロア9、水ポンプ10、空気ブロア11が、主電源の電力により作動して、固体酸化物形燃料電池が再稼動し始める。
【0044】
<実施例>
上記固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法について、図3の発明者らが行った緊急停止実験に基づくタイムチャートに基づいて具体的に説明する。
図3に示すように、この実験では、負荷電流を停止した時点から、炭化水素ガスを改質器6に5秒間供給した後に、炭化水素ガスの供給を停止する。それと同時に、負荷電流を停止した時点から、空気を空気極層15に、また水を水蒸気発生器8に、各々2分間供給する。そして、2分後に上記空気と上記水の流用を徐々に下げて、発電セル16の電圧が、0.1V以下および上記水の供給圧がゼロになった時点において、上記空気および上記水を停止させる、そして、水蒸気発生器8に残留する上記水を排出した。
【0045】
そして、再び固体酸化物形燃料電池5を稼動させて、機能低下などの有無を確認するとともに、固体酸化物形燃料電池5を分解して、発電セル16の状態を観察した。
【0046】
ちなみに、発電セル16のしきい値を0.1Vとしたのは、上記緊急停止実験時に、0.1V以下に到達した時点で上記空気の供給を停止して、セル電圧が上昇した発電セル16と上昇しない発電セル16の状態を観察して導き出されたものである。
【0047】
さらに、上記緊急停止実験において、水蒸気発生器8から上記水を排出して、水蒸気、空気、炭化水素ガスを完全に停止した後に、発電セル16の電圧を監視すると、再び発電セル16の電圧の上昇が確認された。このときに、再び上記空気を空気極層15に供給することにより、発電セル16の電圧が0.1V以下になることを確認した。
【0048】
この実験結果から、負荷電流を停止後に、炭化水素ガスを改質器6に5秒間供給するとともに、空気を空気極層15に、水を水蒸気発生器8に各々2分間供給した後に、上記空気および上記水の流量を下げて、発電セル16の電圧を0.1V以下および水の供給圧がゼロになったときに、上記空気および上記水を完全に停止し、かつ水蒸気発生器8および水蒸気供給ライン26aに残留する水を抜くことによって、発電セルの劣化および機能低下を防ぐことができることが判明した。
【0049】
また、水蒸気、空気、炭化水素ガスの供給を完全に停止した後に、何らかの要因によって、発電セル16の電圧が0.1Vを超えたとしても、再び空気を空気極層15に供給することによって、発電セル16の電圧を0.1V以下にすることができることも判明した。
【0050】
上述の実施の形態による固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法によれば、固体酸化物形燃料電池が緊急停止して負荷電流が停止した際に、空気および水の流量を低下させて、発電セル16の電圧が0.1V以下、および上記水の供給圧力をゼロにしたときに、上記空気および上記水の供給を停止し、かつ水蒸気発生器8および水蒸気供給ライン26aに残留する上記水を外部に排出するため、燃料極層14の燃料ガスがなくなった後に、水蒸気発生器8および水蒸気供給ライン26aに残留した上記水が、水蒸気となって改質器6に導入されることを防止することができる。これにより、上記水蒸気の酸化作用により、改質器6内のNi系の改質触媒、およびNi基合金の多孔質焼結金属板からなる燃料極集電体17の一部が酸化することにより起こる水素の発生を防ぐことができ、発電セル16の劣化や機能低下を低減させて、メンテナンスコストを軽減させることができる。
【0051】
また、緊急停止した際に、炭化水素ガスを改質器6に5秒間供給した後に停止しても、水を水蒸気発生器8および空気を空気極層15に2分程度供給するため、燃料ガスが改質器6に残留していても、空気極層15の酸素イオンが固体電解質層13中を通じて、燃料極層14に移動することがない。この結果、上記酸素イオンが燃料極層14に移動して起こる空気極層15の結晶構造の不可逆変化を防止することができ、緊急停止後に再稼働しても、上記固体酸化物形燃料電池の発電セルのセル電圧が低下してしまう機能低下を防ぐことができる。
【0052】
さらに、本実施形態の緊急停止方法により、固体酸化物形燃料電池5を停止して、固体酸化物形燃料電池5に燃料ガス、空気、水が供給されていない状態にもかかわらず、何らかの要因によって、発電セル16の電圧が上昇した場合には、発電セル16の電圧が予め定められた上記しきい値以下になるまで、上記空気の供給を再度供給することにより、簡便に対応することができる。これにより、発電セル16の劣化および機能低下のさらなる低減を図ることができる。
【0053】
なお、上記実施の形態において、緊急停止方法を説明する際に、何らかの原因を発電セル16のセル電圧が著しく低下して、固体酸化物形燃料電池5が自動で緊急停止した場合についてのみ説明したが、これに限定されるものでなく、例えば、停電により緊急停止した場合でも対応可能である。この場合には、停電により、炭化水素ガスブロア9、水ポンプ10および空気ブロア11が停止すると、図1に示すように、電力が補助電源25に切り替わり、この補助電源25からの電力が、炭化水素ガスブロア9、水ポンプ10、空気ブロア11および制御装置28に供給される。そして、制御装置28が作動し、炭化水素ガスブロア9、水ポンプ10および空気ブロア11を制御することになる。
さらに、上記実施の形態において、空気を空気ブロア11から空気供給ライン27を介して、空気極層15に供給する場合のみ説明したが、これに限定されるものでなく、例えば、空気ブロア11と空気を空気極層15との間に、空気ブロア11から空気極層15に供給される空気の圧力を安定させる空気バッファタンクを介装しても対応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
固体酸化物形燃料電池に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 内缶体
2 断熱材
3 外缶体
4 缶体
5 固体酸化物形燃料電池
6 改質器
7 排出口
8 水蒸気発生器
9 炭化水素ガスブロア
10 水ポンプ
11 空気ブロア
12 水蒸気発生器用電磁弁
13 固体電解質層
14 燃料極層
15 空気極層
16 発電セル
17 燃料極集電体
18 空気極集電体
19 セパレータ
20 単セル
26a 水蒸気供給ライン(外気化器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電セルの燃料極層に、炭化水素ガスと水蒸気発生器および外気化器を介して水蒸気に生成された水とを改質器に導入して改質した燃料ガスを供給するとともに、空気極層に空気を供給して発電を行う固体酸化物形燃料電池における緊急停止方法であって、
上記固体酸化物形燃料電池が緊急停止して負荷電流が停止した際に、上記改質器に上記炭化水素ガスを5秒以上供給した後に停止するとともに、空気極層に上記空気および上記水蒸気発生器に上記水を2分以上供給した後に、上記空気および上記水の流量を低下させて、上記発電セルの電圧が予め定められたしきい値以下および上記水の供給圧力がゼロになった時に、上記空気および上記水の供給を停止し、かつ上記水蒸気発生器および上記外気化器に残留する上記水を外部に排出することを特徴とする固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法。
【請求項2】
上記水蒸気発生器および上記外気化器に残留する上記水を外部に排出した後に、上記発電セルの電圧が予め定められた上記しきい値より高くなった場合に、上記空気の供給を上記発電セルの電圧が予め定められた上記しきい値以下になるまで再度供給することを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法。
【請求項3】
上記発電セルの電圧の上記しきい値が0.1V以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池の緊急停止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−216372(P2012−216372A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80013(P2011−80013)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】