説明

固体酸化物形燃料電池システムおよびその起動方法

【課題】アンモニアを燃料とする固体酸化物形燃料電池システムの起動方法を提供する。
【解決手段】固体電解質2の一方側に燃料極3を、他方側に空気極4を備え、空気極に酸化性ガスとして空気6を供給すると共に燃料極にアンモニア5を供給し、アンモニアが分解して生成した水素を空気6と反応させて発電を行う固体電解質型燃料電池1を使用し、発電起動前に水素リッチガス9を燃料極に供給して燃料極触媒成分を還元して電極触媒活性とアンモニア分解活性を付与し、次いで発電起動時に水素リッチガスを停止しアンモニアを燃料ガスとして燃料極に供給して発電を行う。発電起動前は燃料極からの排ガス5aを排ガス燃焼器11に通して生成した燃焼排ガス5cを空気極に供給、また発電起動時は燃料極からの排ガス5aの一部を循環して再度燃料極に供給し、他の一部を排ガス燃焼器に通して生成した燃焼排ガスを空気極に供給してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを燃料とする固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCと記載する)を使用した燃料電池システムに係り、特に、燃料電池システムを発電起動前に、燃料極に水素リッチガスを供給して酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理手段を有する燃料電池システムと、その起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素や炭化水素を水蒸気改質(以下、SRと記載する)して水素を含む改質ガスを燃料とする燃料電池システムの起動方法として、特許文献1に記載の固体電解質燃料電池の起動停止方法では、発電に用いられる燃料ガスを燃焼させ、燃焼して得られる燃焼熱を利用して燃料電池の温度を発電温度まで上昇させ、燃料ガスの燃焼をいわば不完全燃焼とし、燃焼排ガスに還元性をもたせ、起動時や発電停止時に燃料極の通路内にこの還元性を有する燃焼排ガスを供給して燃料極触媒成分の還元性を保持させることとしている。
【0003】
また、特許文献2に記載のSOFCの起動方法では、部分酸化改質(以下、POXと記載する)機能を有する触媒A及びSR機能を有する触媒Bを用い、燃焼熱又は電気で触媒AをPOX反応進行可能温度まで昇温する工程;POX反応熱で触媒Bを昇温し、改質ガスを燃料極に供給してSOFCを昇温する工程及び燃料極から排出される改質ガスを燃焼させた燃焼熱で触媒Bを加熱する工程、又はPOX反応熱で触媒Bを昇温し、改質ガスを燃焼させた燃焼ガスを空気極に供給してSOFCを昇温しこの燃焼ガスを触媒Bで加熱する工程;触媒BがSR反応が進行可能な温度になった後、POX反応の割合を低減し又はPOX反応を停止して、SRを行う工程からなることが開示されている。
【0004】
前記構造の固体電解質燃料電池の起動停止方法では、水素製造用原料として、炭化水素類、アルコール類、エーテル類など分子中に炭素と水素を有する化合物、好ましい例として、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、都市ガス、LPG(液化石油ガス)、ガソリン、灯油などが挙げられている。これらは炭素デポジットや含まれる不純物による被毒の問題があるとともに、発電反応後には炭酸ガスとして排出されるので、低炭素社会の実現のための環境エネルギー技術としては必ずしも十分なものではない。そこで、炭酸ガスを排出せず、しかも炭素デポジットの問題が無く、エネルギー密度が高いアンモニアを燃料とするSOFCが検討されつつある(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−162492号公報
【特許文献2】特開平2006−190605号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第6回ヨーロッパSOFCフォーラム講演予稿集(第3巻、P.1524、2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、アンモニアを燃料とする燃料電池システムにおいて、起動時のアンモニアの排出量を極力少なく、好適には5ppm以下に制御できる燃料電池システムと、その起動方法を提供することにある。さらには、起動時のアンモニアおよびNOXの排出量極力少なくするともに、燃料電池内部に熱応力が発生せず、耐久性を向上できる燃料電池システムと、迅速な起動方法を提供することにある。なお、本発明で言う起動とは、SOFCシステムが停止状態から定常運転に達するまでの間を言い、便宜上、発電しない発電起動前と発電はするが定常運転には達していない発電起動時に分けている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明に係る燃料電池システムは、固体電解質の一方側に燃料極を、他方側に空気極を、備えるセルを用いて、該燃料極にアンモニアを供給し、該空気極に酸化性ガスを供給し、発電する固体酸化物形燃料電池を含む燃料電池システムであって、
(1)発電起動前に、前記燃料極に水素リッチガスを供給して酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理手段と、
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給する燃料ガス供給手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
前記のごとく構成された本発明のアンモニアを燃料とする燃料電池システムは、その起動時に、燃料極が該システム運転温度あるいは運転温度近辺の温度に昇温された状態で還元性の水素リッチガスを該燃料極に供給し、酸化物状態の燃料極触媒成分を速やかに還元して電極活性とともにアンモニア分解活性も有する金属状態にせしめる触媒成分前処理手段、次いで、該水素リッチガスの供給を停止しアンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給する燃料ガス供給手段によって起動発電し、定常運転に至らしめるものである。従って、燃料電池システム起動の際に系外に排出されるアンモニアはわずかでアンモニア回収トラップが不要となる効果も有する。なお、燃料極を該システム運転温度あるいは運転温度近辺の温度に昇温するには、前記記載の水素製造用原料を水蒸気改質器に供給し、高温の水素リッチガスを生成し燃料極に供給する。
【0010】
本発明に係る燃料電池システムの好ましい態様としては、
(1)発電起動前に、前記燃料極に水素リッチガスを供給して酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理手段と、
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給する燃料ガス供給手段、および前記燃料極より排出される排ガスの一部を循環させ該燃料極に供給する燃料極排ガス循環手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
前記のごとく構成された本発明の燃料電池システムは、発電起動時における燃料ガス供給手段によって、該水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給して発電起動する。しかし、発電起動時においては燃料極触媒成分のアンモニア分解活性がまだ十分でなく、燃料極排ガス中にわずかな未分解アンモニアが含まれることがあり、燃料電池システムの系外に排出されている。そこで、燃料電池システム起動の際に系外に排出されるアンモニアをさらに低減するために、未分解アンモニアを含む該排ガスの一部を循環させてアンモニアとともに再度燃料極に供給する燃料極排ガス循環手段を有している。
【0012】
また、本発明に係る燃料電池システムのさらに好ましい態様としては、前記の構成において、
(1)発電起動前に、前記燃料極に水素リッチガスを供給して酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理手段、および該燃料極より排出される燃料極排ガスを排ガス燃焼器に導入し、該排ガス燃焼器から発生する燃焼排ガスを前記空気極に供給する燃焼排ガス供給手段、
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給する燃料ガス供給手段、および該燃料極より排出される燃料極排ガスの一部を循環させ該燃料極に供給する排ガス循環手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
前記の構成では、発電起動前において、燃料極に供給された水素リッチガスは触媒成分前処理手段で該燃料極から排出される排ガスとなり、該排ガスを一旦排ガス燃焼器で燃焼させて高温の燃焼排ガスとし、該燃焼排ガスを空気の代わりに空気極に供給して空気極を直接加熱するものである。従って、前記水素製造用原料の改質器による高温改質ガス(すなわち水素リッチガス)によって燃料極の加熱と上記排ガス燃焼器からの燃焼排ガスによる空気極の加熱が同時に行え、短時間で起動できるようになる。さらに、同時に燃料極と空気極を加熱することができるのでその温度差が小さくなり燃料電池内部に熱応力が発生しにくくなる。そのため、燃料電池のセル等にクラックや歪みが発生せず、燃料電池本体の耐久性を向上させることができる。また、該燃料極から排出される排ガスは完全燃焼に近い状態で燃焼されるので、水素リッチガス中に含まれる一酸化炭素の排出量も低減できる。しかもこの態様では熱交換器を必要とせず、燃焼排ガスを配管で供給させるのみで構成を簡単にできる。
【0014】
さらに、本発明に係る燃料電池システムの起動方法は、固体電解質の一方側に燃料極を、他方側に空気極を備えるセルの該燃料極にアンモニアを供給すると共に、該空気極に酸化性ガスを供給して発電を行う固体酸化物形燃料電池を使用する燃料電池システムの起動方法であって、
(1)発電起動前に、酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理のために、前記燃料極に水素リッチガスを供給すること、
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給することを含むことを特徴としている。
【0015】
このように構成された前記の燃料電池システムの起動方法は、前記水素製造用原料を改質器で改質して生成した高温の水素リッチガスを燃料極に供給して、燃料極を常温から該システム運転温度に昇温中の、あるいは運転温度付近の温度域での触媒成分前処理を行う。この還元性の水素リッチガスを供給によって速やかに酸化物状態の燃料極触媒成分が還元されて金属状態になって、該燃料極触媒成分が電極活性とともにアンモニア分解活性も有するように、次いで、燃料ガス供給手段によって、該水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給して発電するものである。従って、燃料電池システム起動の際に系外に排出されるアンモニアはわずかでアンモニア回収トラップが不要となる効果も有する。
【0016】
本発明に係る燃料電池システムの起動方法のさらに好ましい態様は、
(1)発電起動前に、酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理のために、前記燃料極に水素リッチガスを供給すること、および該燃料極側より排出される排ガスを排ガス燃焼器に導入し、該ガス燃焼器から発生する燃焼排ガスを前記空気極に供給することと
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給し、該燃料極より排出される排ガスの一部を循環させ該燃料極に供給することを特徴とする。
【0017】
このように構成した起動方法では、発電起動前における触媒成分前処理手段とともに燃焼排ガス供給手段によって、燃料極に供給された水素リッチガスが触媒成分前処理手段で該燃料極から排出される排ガスを一旦燃焼器で燃焼させる。その高温の燃焼排ガスを空気極に供給して加熱するため、該排ガスで直接空気極を加熱できる。従って、燃料極と空気極が共に加熱されて短時間で起動できるようになるとともに燃料電池内部に熱応力が発生しにくい。このため、前記と同様に燃料電池のセル等にクラックや歪みが発生せず、燃料電池本体の耐久性を向上できる。また、該燃料極から排出される排ガスは完全燃焼に近い状態で燃焼され、水素リッチガス中に含まれる一酸化炭素排出量を低減できる。しかもこの態様では熱交換器を必要とせず、燃焼排ガスを配管で供給させるのみでシステム構成を簡単にできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アンモニアを燃料とする燃料電池システムが定常運転に達するまでの起動時に、燃料極排出ガス中に含まれる未分解アンモニアを極力少なくすることができる。さらに、燃料極と空気極との温度差による熱応力の発生を防止でき、燃料電池システムの耐久性を向上し、燃料極と空気極を同時に効率よく加熱できるので、起動時間が短縮された起動方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る燃料電池システムで使用する燃料電池を模式的に示す構成図である。
【図2】図1に示す燃料電池を使用した燃料電池システムの一実施形態を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る燃料電池システムの一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1,2において、本実施形態の燃料電池1は固体酸化物形燃料電池(SOFC)であり、電解質を含め、その構成材料すべてが固体であること、600〜950℃近い高温で動作する等の特徴を有する燃料電池である。
【0022】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の単電池すなわち単セルは、固体酸化物電解質2を挟んで燃料極および空気極が配置され、燃料極、電解質、空気極の3層ユニットとして構成される。セル構造としては特に限定されることはなく、平板型の電解質支持型セル(ESC)や燃料極支持型セル(ASC)、円筒型セル、円筒平板型セル等が好適に適用される。図1が平板型ESCの構成を概略的に説明する図である。
【0023】
燃料電池1は固体電解質2の一方側に燃料極3を、他方側に空気極4を備え、燃料極3にアンモニア(NH)等の燃料ガス5を供給し、空気極4に空気等の酸化性ガスを供給して反応させて発電するものである。本発明の発電起動時や定常運転時では燃料電池1には燃料ガス5であるアンモニアが燃料極に供給され、酸化性ガスとして空気が4に供給される。酸化性ガスは酸素を使用してもよい。空気極4に導入される空気6は空気極で酸素イオン(O2−)となり、固体電解質2を通って燃料極3に至る。ここで、燃料極3に供給されるアンモニアもしくはアンモニアが分解して生成した水素と反応して電子を放出して電気と水等の反応生成物を生成する。生成された電気は、外部の電気負荷7で使用される。空気極4での利用された空気は空気極排ガス6a(排気空気)として空気極側より大気中に排出され、燃料極3で反応させて利用された排ガス5aには、アンモニアが分解して生成した窒素と反応に利用されなかった水素、わずかな未分解のアンモニア、および反応性生物の水等が含まれており、反応排ガス、すなわち燃料極排気ガス5a(排気燃料)として燃料極より排出される。空気極4に供給される空気6は、図2に示されるように空気ブロア8によって供給される。
【0024】
本実施形態の燃料電池システムでは、アンモニアを燃料とするが、そのアンモニアの純度は50%以上であれば特に制限されず使用できる。より効率的な発電のためにはアンモニア純度は80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0025】
本実施形態の燃料電池システムでは、発電起動前に、前記した燃料電池1に外部から導入される水素製造用原料9aとして、炭化水素類、アルコール類、エーテル類など分子中に炭素と水素を有する化合物、好ましい例として、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、都市ガス、LPG(液化石油ガス)、ガソリン、灯油等が利用される。最初から水素あるいはアンモニアを利用することも可能である。該水素製造用原料は改質器10で還元性の高温水素リッチガス9に改質され、該水素リッチガスは燃料極に供給されて、燃料極を昇温すると共に燃料極の触媒成分にアンモニア分解活性と電極触媒活性を付与する。なお、改質器は電気ヒーターやガスバーナー等で加熱される。
【0026】
また、該改質ガスの代わりに、該水素製造用原料を起動燃焼器10bで不完全燃焼させて生成した燃焼排ガス(つまり高温で還元性の水素リッチガス)を燃料極に供給して燃料極を昇温させてもよい。このとき、昇温は室温から運転温度もしくは運転温度付近の温度、好ましくは運転温度の−50℃以内に昇温する。この昇温によって、酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理が速やかに行え、また後に続く該燃料電池システムの定常運転にスムーズに移行できるようになる。
【0027】
前記燃料極はニッケル、鉄、コバルト、ルテニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属と、ジルコニアおよび/またはセリアの酸化物からなるサーメットである。
通常燃料極は酸素雰囲気下で調製されるので、また、燃料電池システム停止後に特別の非酸化雰囲気下で保持しない限り、触媒成分である該ニッケル、鉄、コバルト、ルテニウムは酸化物状態になっている。そこで、本発明の如く、発電起動前に燃料極を還元処理して燃料極触媒成分を金属に還元してアンモニア分解活性と電極触媒活性を付与する。
【0028】
前記空気極は電極触媒活性と電子導電性に優れた、ランタンマンガネート型、ランタンフェライト型、ランタンコバルタイト型、フェライトニッケル型等のペロブスカイト構造酸化物が一般的である。
【0029】
また、前記固体電解質はスカンジア、イットリア、セリア、イッテルビアなどで安定化されたジルコニア;イットリア、サマリアガドリニアなどでドープされたセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、インジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅などで置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物などである。特に、4〜12モル%スカンジアで安定化されたジルコニア、3〜10モル%イットリアで安定化されたジルコニア、4〜15モル%イッテルビアで安定化されたジルコニアが好ましく、10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニアや11モル%スカンジア安定化ジルコニアなどのスカンジア安定化ジルコニアが、酸素イオン導電率が優れており特に好適である。
【0030】
次いで、本発明の実施形態を図2に基づき詳細に説明する。本実施形態の燃料電池システムは、前記した燃料電池1の発電起動前に、外部から導入される水素製造用原料ガスを改質して供給する改質手段として、改質器10あるいは、不完全燃焼させて形成した高温の還元性水素リッチガス5bを燃料極3に供給して燃料極3を昇温する起動燃焼器(バーナー)10bと、燃料極3から排出される燃料極排ガス5aを燃焼させ高温の排ガスを空気極に供給する排ガス燃焼器11を、および、発電起動時に、アンモニアを直接燃料極3に供給する配管21と、燃料極3から排出される燃料極排ガス5aの一部を燃料極3に循環させる配管24とを備えることを特徴としている。
【0031】
改質器10もしくは起動燃焼器10bは、燃料電池システムの発電起動時に常温の燃料電池1の温度を上昇させるために、高温の還元性ガス5bを形成して燃料極3に供給するものである。また、排ガス燃焼器11は、燃料極3から排出される排ガス5aを完全燃焼に近い状態で燃焼させて排出した高温排ガス5cを空気極4に供給し空気極を昇温する。燃料極排ガス5aは、燃料極3の触媒成分の還元反応に使用された水素リッチガスの反応物ガス(水等)と、未反応のまま直接排出されるガス(水素、一酸化炭素等)を含んでいる。
【0032】
また、発電起動時に燃料電池1にアンモニア7を供給する配管21は定常運転時とともに燃料電池1の燃料極3にアンモニアを直接に供給する配管で、配管22は非常時用でアンモニアを水素と窒素に分解するための改質器10を通じて水素リッチガスとして燃料極3に供給する配管である。
【0033】
2つの配管21,23には、それぞれ切替え手段として開閉弁30,31,37が設置され、アンモニア5の流れを制御している。改質器10を通る配管22は燃料極3への配管21と合流しており、この合流部には電磁開閉弁等の三方弁39が設置されている。また、配管25は燃料極3から出る配管24と合流して一方は排ガス燃焼器11に、他方は燃料極に接続する配管28に合流して燃料極排ガスの一部を循環できるようになっている。それぞれの合流部には同様に三方弁34,35等が設置され流路制御されることが好ましい。三方弁35で排ガス燃焼器11に供給された燃料極排ガス5cは完全燃焼され、配管26を通じて空気極に供給され、その後は空気極排ガス6aとして大気中に放出される。
【0034】
すなわち、アンモニア5の供給経路は、燃料電池1の発電起動時および定常運転時に開閉弁31、三方弁37を開きアンモニア5を燃料極3に供給する第1の経路と、該第1経路に燃料極排ガスの一部を循環させるための三方弁34とを備え、該排気ガスを含むアンモニアが燃料電池1の燃料極に供給されるようになっている。また、空気6は空気ブロア8で空気配管26を通して送風され、三方弁38によって一部は排ガス燃焼器に供給され完全燃焼した高温排ガスとして、他の一部は空気と合流して空気極4に供給される。
【0035】
前記の如く構成された本実施形態の燃料電池システムの動作について以下に説明する。燃料電池システムを発電起動するときは、空気6を空気ブロア8で空気極4に吹き込んで供給する。そして、開閉弁32を開いて水素製造用原料ガス5を改質器10に供給する。改質器10に供給された水素製造用原料ガスは、ここで改質触媒によって改質され、あるいは空気比が少ない状態(例えば空気比が0.95程度)で不完全燃焼され、COガス、Hガスが含まれる還元性の水素リッチガス5bが排出され、三方弁39を通して燃料電池1の燃料極3に供給される。この空気比の場合、燃焼させたときにカーボンが析出することなく、安定して還元性の水素リッチガス5bを形成できる。このとき、アンモニアを燃焼とする定常時運転用の開閉弁31は閉じておく。
【0036】
燃料電池1では、発電起動前には還元性の水素リッチガス9は燃料極3を徐々に加熱するので、最初は多くは反応せずにそのまま排出され、排ガス燃焼器11で三方弁39から供給された燃料ガスと共に完全燃焼に近い状態で燃焼される。また発電起動時には水素リッチガス9は停止され、アンモニア5が燃料極に供給され、その排ガスの一部が、排ガス燃焼器11ではこの燃焼で発生する熱は完全燃焼に近い状態で燃焼される。この燃焼で発生する熱は、空気ブロア8から空気6に混合されて空気6を加熱する。この結果、加熱された空気6は空気極4を加熱して、起動時間を短縮することができる。また、排ガス燃焼器11では完全燃焼に近い状態で燃焼されるため、未反応ガスが放出されることは殆んどないため、環境負荷を小さくできる。このように、燃料極3は還元性ガス5bで加熱され、空気極4は燃焼排ガス5cで加熱され、両方の電極3,4が共に加熱され熱膨張するので、電池構成部分に熱応力が発生しない。
【0037】
このようにして燃料電池1を加熱し、燃料電池が反応温度(600℃程度以上)に到達すると、開閉弁32と三方弁39を閉じると共に開閉弁31、三方弁34を開いてアンモニア5を燃料極3に直接供給する。燃料極3に供給されたアンモニア5の分解ガスの水素と、空気極4に供給された空気6とが反応して発電され、発電された電力は燃料極3と空気極4とから電気負荷7に出力される。そして、燃料極3から排出される反応後の排ガス5aの一部が排ガス燃焼器11で燃焼されて排ガス燃焼器11から排出される燃焼排ガスのアンモニア濃度はより低減された状態となり、空気極に供給されたのち空気極排ガス6aとして大気中に排出される。該排出ガス中のアンモニア濃度は25ppm以下、好適には15ppm以下、さらに好適には5ppm以下である。
【0038】
起動発電前には、開閉弁32を流量調整弁とし、開閉弁32の開度を調整することで改質器10への水素製造用原料ガス9aの流量を調整して還元性水素リッチガス5bの生成量を調整し、起動時間を調整することができる。また、三方39の開度を調整することで排ガス燃焼器11への水素リッチガス5の流量を調整して燃焼排ガス5cの温度を調整して起動時間を調整することができる。すなわち、排ガス燃焼器11への水素リッチガス9の供給量を調整して排ガス燃焼器11の燃焼を制御し、空気極4に供給される空気6の温度を調整することができる。このように2つの開閉弁32,三方弁39を調整することにより、燃料電池1の起動時間を調整することができると共に、燃焼温度を略均等にして燃料電池内部の熱応力を小さくすることができる。これらの制御は、図示していない制御装置で実施すると好適である。
【0039】
排ガス燃焼器11に燃料極排ガス5とともに水素リッチガスを供給することで、燃焼を安定して行わせることができ、燃焼熱で空気極4に供給する酸化性ガスとしての空気6を十分に昇温させることができる。従来の排ガス燃焼器では、未反応燃料ガスの割合が小さいため安定した燃焼とならず、酸化性ガスを十分に加熱することはできなかったが、本実施形態では排ガス燃焼器11で別系統の燃料ガスを供給して完全燃焼に近い状態で燃焼でき、熱量を十分に確保できるため空気6を素早く昇温でき、起動時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は燃料電池に関する技術であり、本発明にかかる技術を用いることで発電開始時から高い起電力を得ることができる。発電分野に広く応用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:燃料電池
2:固体電解質(固体酸化物)
3:燃料極
4:空気極
5:燃料ガス(アンモニア)
5a:燃料極排ガス(反応排ガス)
5b:循環用燃料極排ガス
5c:燃焼排ガス
6:空気
6a:空気極排ガス
7:電気負荷
10:改質器(10b:起動燃焼器)
11:排ガス燃焼器
31:開閉弁(切替え手段)
32:開閉弁(切替え手段)
30:三方弁
34:三方弁
35:三方弁
36:三方弁
37:三方弁
38:三方弁
39:三方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質の一方側に燃料極を、他方側に空気極を、備えるセルを用いて、該燃料極にアンモニアを供給し、該空気極に酸化性ガスを供給し、発電する固体酸化物形燃料電池を含む燃料電池システムであって、
(1)発電起動前に、該燃料極に水素リッチガスを供給して酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理手段と、
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給する燃料ガス供給手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
(1)発電起動前に、前記燃料極に水素リッチガスを供給して酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理手段と、
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給する燃料ガス供給手段、および該燃料極より排出される燃料極排ガスの一部を循環させ該燃料極に供給する排ガス循環手段とを備える燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池システムであって、
(1)発電起動前に、前記燃料極に水素リッチガスを供給して酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理手段、および該燃料極より排出される排ガスを排ガス燃焼器に導入し、該排ガス燃焼器から発生する燃焼排ガスを前記空気極に供給する燃焼排ガス供給手段、
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給する燃料ガス供給手段、および該燃料極より排出される燃料極排ガスの一部を循環させ該燃料極に供給する排ガス循環手段とを備える燃料電池システム。
【請求項4】
固体電解質の一方側に燃料極を、他方側に空気極を備えるセルの該燃料極にアンモニアを供給すると共に、該空気極に酸化性ガスを供給して発電を行う固体酸化物形燃料電池を使用する燃料電池システムの起動方法であって、
(1)発電起動前に、酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理のために、前記燃料極に水素リッチガスを供給すること、
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給することを含むことを特徴とする燃料電池システムの起動方法。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムの起動方法であって、
(1)発電起動前に、酸化物状態の燃料極触媒成分を還元して金属状態の燃料極触媒成分とする触媒成分前処理のために、前記燃料極に水素リッチガスを供給すること、および該燃料極より排出される燃料極排ガスを排ガス燃焼器に導入し、該ガス燃焼器から発生する燃焼排ガスを前記空気極に供給することと
(2)発電起動時に、前記燃料極に水素リッチガスの供給を停止し、アンモニアを燃料ガスとして該燃料極に供給し、該燃料極より排出される燃料極排ガスの一部を循環させ該燃料極に供給する燃料電池システムの起動方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−204418(P2011−204418A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69393(P2010−69393)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】