固体酸化物形燃料電池システム及びその起動制御方法
【課題】 SOFCシステムの耐久性を向上し、システム実用期間中の良好な発電性能を確保する。
【解決手段】 SOFCシステムにおいて、起動開始時の燃料電池スタックへの燃料ガス流量を発電定格時最大燃料ガス流量FgMAXの1.3倍以下の、起動制御中最大燃料ガス流量とし、昇温開始後、燃料電池スタックの温度Tが燃料電池スタック中酸化Niの還元が行われる第1温度T1に達するまでの燃料ガス流量F2をF1以下に設定し、その後発電開始までの間は、さらに燃料ガス流量F3をF2より減少させ、かつ、起動開始から発電開始までの平均燃料ガス流量FAVEが、定格発電時の平均燃料ガス流量FgAVEの0.6倍以上となるように設定する。
【解決手段】 SOFCシステムにおいて、起動開始時の燃料電池スタックへの燃料ガス流量を発電定格時最大燃料ガス流量FgMAXの1.3倍以下の、起動制御中最大燃料ガス流量とし、昇温開始後、燃料電池スタックの温度Tが燃料電池スタック中酸化Niの還元が行われる第1温度T1に達するまでの燃料ガス流量F2をF1以下に設定し、その後発電開始までの間は、さらに燃料ガス流量F3をF2より減少させ、かつ、起動開始から発電開始までの平均燃料ガス流量FAVEが、定格発電時の平均燃料ガス流量FgAVEの0.6倍以上となるように設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池システム(以下「SOFCシステム」という)及びその起動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SOFCシステムは、その高い発電効率から、低CO2排出の次世代定置用電源として注目されている。近年の活発な技術開発により、600〜1000℃という高温動作ゆえの耐久性の問題も克服されつつあり、またその動作温度自体も着実に低温化の傾向を辿っている。
【0003】
かかるSOFCシステムとしては、特許文献1に記載のシステムが知られている。
このシステムは、改質反応により水素リッチな燃料ガス(改質ガス)を生成する改質器と、この改質器からの燃料ガスと空気とを反応させて発電する燃料電池スタック(燃料電池セルの組立体)と、これら改質器及び燃料電池スタックを取り囲み、その内部で余剰の燃料ガスを燃焼させて改質器及び燃料電池スタックを高温状態に維持するモジュールケースとを含んで構成される。尚、これらがシステムの主要部であり、これらをまとめてホットモジュールと呼んでいる。
【0004】
また、燃料電池スタックを構成するセルは、燃料極支持型の固体酸化物形燃料電池セルであり、少なくともニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなり、内部に一端から他端へ前記改質器からの燃料ガスが流通するガス流路を有するセル支持体を含み、このセル支持体上に燃料極層、固体酸化物電解質層、空気極層を積層して構成される。尚、ガス流路の他端にて余剰の燃料ガスを燃焼させて、前記改質器及び燃料電池スタックを加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4565980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SOFCシステムをはじめ、定置用の燃料電池システムでは、ユーザーの任意により、あるいは省エネルギー効果を最大限に発揮させる目的で、あるいは機器やユーティリティーのトラブルによるなど、様々な事由により、ある頻度でシステムを停止することが要求される。
【0007】
従って、SOFCシステムを定置用の発電デバイスとして実用化するためには、起動停止の繰り返しを前提にして、10年程度の耐久性を持たせなければならない。
本発明者らは、SOFCシステムの燃料電池スタックにおいて、発電停止後に、燃料電池スタックへの改質ガスの供給が停止されると、燃料電池セルの燃料極に外部から空気が拡散流入し、高温下ではこの空気によりニッケル金属を含む組成のセル支持体が酸化され、このことによってセルあるいはセルスタック構造体が損傷を受ける可能性が高まることを見出した。
【0008】
そして、当該セル損傷の度合いは、発電停止後のセル支持体酸化の度合いに依存し、ある酸化度以上では急激にセル損傷の頻度が高まることを見いだした。
セル支持体の酸化の度合いとは、すなわち、発電停止後に燃料極層への空気拡散によりセル支持体中のニッケル金属が酸化される度合であり、下記の式により定義されるNi酸化度を用いて定義することができる。
【0009】
Ni酸化度=(セル支持体中に含まれるNi原子のうち、NiOとして存在するモル数)/(セル支持体中の全Ni原子のモル数)×100(%)
さらに、システム耐久性向上のためにシステム停止時のニッケル金属の酸化を抑制すべきことを解明した。
【0010】
しかし、システム停止時のニッケル金属の酸化量を0にすることは難しく、また、システムを高温下で緊急シャットダウン(大きなトラブルの発生により、電流掃引停止、燃料及び水の供給停止を同時に停止する)した場合は、ニッケル金属の酸化量は増大する。
【0011】
そこで、本発明者らは、システム停止時に酸化されたニッケル金属をシステム起動時に還元する際の制御の改良によっても、システム耐久性を向上できることを解明した。
本発明は、このような観点から、システム起動時の制御によって、良好な発電性能を長期に亘って確保し、システム耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため、本発明は、改質反応により水素リッチな燃料ガスを生成する改質器と、
前記燃料ガスの通路が形成され、ニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなるセル支持体を含み、前記燃料ガスと空気とを反応させて発電する燃料電池スタックと、
前記改質器及び前記燃料電池スタックを取り囲み、その内部で前記燃料電池スタックでの余剰の燃料ガスを燃焼させることにより、前記改質器及び前記燃料電池スタックを昇温して高温状態に維持するモジュールケースと、
を含んで構成された固体酸化物形燃料電池システム及びその起動制御方法であって、以下のように構成される。
【0013】
システム起動時に、前記燃料電池スタックを昇温して酸化された前記ニッケル金属を還元する発電前の昇温工程で、前記燃料電池スタックの発電部の最大温度差を、該発電部の耐久性を考慮して設定された限界温度差以下に維持するように、前記改質器から前記燃料電池スタックへ供給される燃料ガス流量を、時間経過と共に減少制御する(起動制御手段)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、システム起動時に昇温される発電前の工程で、該起動前のシステム停止時に酸化されたセル支持体中のニッケル金属が、改質器からの燃料ガスにより還元される際に、燃料電池スタック発電部の最大温度差が限界温度差以下に維持するように燃料ガス流量を時間経過と共に減少する制御によって、発電部に生じる応力を軽減して発電部ひいてはシステムの耐久性を向上でき、良好な発電性能を確保することができる。
【0015】
また、上記のように発電部の耐久性を確保するのに必要かつ十分な燃料ガス流量を供給すればすむため、耐久性を確保しつつ、速やかに起動制御を終了させて発電を開始することができ、燃料消費量も節減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示すSOFCシステムのホットモジュールの概略縦断面図である。
【図2】同上システムにおける燃料電池スタックの平面横断面図である。
【図3】Ni酸化度とセル電圧低下率との相関を示す図である。
【図4】Ni酸化度と起動停止240回後の電圧低下率との相関を示す図である。
【図5】改質ガス停止時スタック最高温度とNi酸化度との関係を示す図である。
【図6】停止制御のフローチャートである。
【図7】起動時発電部最大温度差と電圧低下率との関係を示す線図である。
【図8】起動時最大燃料ガス流量/定格発電時最大燃料ガス流量と起動時発電部最大温度差との関係を示す線図である。
【図9】起動時平均燃料ガス流量/定格発電時平均燃料ガス流量と発電可能までの昇温時間との関係を示す線図である。
【図10】本発明に係る起動制御の第1実施形態のフローチャートである。
【図11】第1実施形態の起動制御時におけるスタック温度及び燃料ガス流量の変化を示すタイムチャートである。
【図12】本発明に係る起動制御の第2実施形態のフローチャートである。
【図13】第2実施形態の起動制御時におけるスタック温度及び燃料ガス流量の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態を示すSOFCシステムの主要部であるホットモジュールの概略縦断面図である。
【0018】
ホットモジュール1は、モジュールケース2内に、改質器6と、燃料電池スタック10とを収納して構成される。
モジュールケース2は、耐熱性金属により直方体形状に形成された外枠体の内面に断熱材を内張して構成されている。また、外部からケース内に、燃料・水及びATR(自己熱改質反応)用空気の供給管3と、カソード用空気の供給管4とが設けられ、更に排気口5を有している。燃料(原燃料)としては、都市ガス、LPG、メタノール、DME(ジメチルエーテル)、灯油等が用いられる。
【0019】
改質器6は、モジュールケース2内の上部(燃料電池スタック10の上方)に配置され、外部からの燃料・水及びATR用空気の供給管3が接続されている。
改質器6のケースは耐熱性金属により形成され、ケース内には、都市ガス、LPG、メタノール、DME、灯油等の原燃料を水素リッチな燃料ガス(改質ガス)に改質するための改質触媒が収納された触媒室と、改質触媒での水蒸気改質反応のために水を気化させる水気化室とが形成されている。
【0020】
改質器6の改質ガス出口部6aには、改質ガス供給管7の一端が接続され、改質ガス供給管7の他端は、燃料電池スタック10の下方に配置した改質ガス分配用の中空のマニホールド8に接続されている。
【0021】
燃料電池スタック10は、モジュールケース2内の下部(改質器6の下方)に配置され、前記マニホールド8上に保持されている。
燃料電池スタック10は、多数の燃料電池セル20の組立体であり、複数(図1では簡略化のため5個表示)の縦長のセル20を側面間に集電部材30を介在させて横方向に一列に並べ、同様に、図1の列の後方に複数列に並べることで、多数のセル20をマトリクス状に配列してなる。
【0022】
また、各燃料電池セル20の内部には、下端から上端へ、ガス流路22が形成され、各ガス流路22は下端にてマニホールド8と連通し、上端にて余剰の燃料ガスの燃焼部を形成するようになっている。
【0023】
また、前記改質器6への燃料、水、ATR空気、及びモジュールケース2内へのカソード用空気の供給量は、制御ユニット50によって制御され、該制御のため、燃料電池スタック10の温度を検出する温度センサ51等がモジュールケース2内に配設され、該温度センサ31の温度検出信号等が制御ユニット50に入力されている。ここで、温度センサ51によって検出される燃料電池スタック10の温度(以下、スタック温度という)は、燃料電池スタック10の発電部(燃料電池セル20、特に、後述するセル支持体およびセル構成層)の温度であるが、燃焼部に近い上端部分はモジュールケース2内の最高温度近傍となり、マニホールド8付近の下端部分は、最低温度近傍となって温度差を大きく生じるので、上下方向中間部の温度を平均温度として検出する。
【0024】
次に燃料電池スタック10を構成する燃料電池セル20について図2により説明する。
図2は燃料電池スタックの平面横断面図である。
燃料電池セル20は、燃料極支持型の固体酸化物形燃料電池セルであり、セル支持体21(ガス流路22付き)と、燃料極層23と、固体酸化物電解質層24と、空気極層25と、インターコネクタ26と、から構成される。
【0025】
セル支持体21は、少なくともニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなり、扁平な長円形状の横断面を有して縦方向(鉛直方向)に延びる板状片であり、平坦な両側面(平坦面)と、半円筒面をなす前後面とを有する。セル支持体21の一端(下端)はマニホールド8の上面の開口にガスタイトに挿入固定され、他端(上端)は改質器6の下面に相対している。そして、セル支持体21の内部には、その長手方向に、一端(下端)から他端(上端)へ、マニホールド8からの改質ガスが流通する複数本の並列なガス流路22を有している。
【0026】
インターコネクタ26は、セル支持体21の一方(図2の第1列の燃料電池スタック10−1において左側)の平坦面上に配設されている。
燃料極層23は、セル支持体21の他方(図2の第1列の燃料電池スタック10−1において右側)の平坦面上、及び前後面上に積層され、その両端はインターコネクタ26の両端に接合されている。
【0027】
固体酸化物電解質層24は、燃料極層23の上にその全体を覆うように積層され、その両端はインターコネクタ26の両端に接合されている。
空気極層25は、固体酸化物電解質層24の主部上、すなわちセル支持体21の他方の平坦面を覆う部分上、に積層され、セル支持体21を挟んでインターコネクタ26に対向している。従って、各セル20の一方(図2の第1列の燃料電池スタック10−1において左側)の外側面にはインターコネクタ26があり、他方(右側)の外側面には空気極層25がある。
【0028】
言い換えれば、セル20は、ガス流路22を有するセル支持体21を含み、セル支持体21の1つの面に、燃料極層23、固体酸化物電解質層24、空気極層25をこの順に積層し、更に、セル支持体21の他の面に、インターコネクタ26を形成してなる。
【0029】
かかる燃料電池セル20は、横方向に複数並べられ、集電部材30を介して1列に接合される。すなわち、図2の第1列の燃料電池スタック10−1に示されるように、各セル20の左側のインターコネクタ26を集電部材30を介して左側に隣り合うセル20の空気極層25と接合し、各セル20の右側の空気極層25を、集電部材30を介して右側に隣り合うセル20のインターコネクタ26と接合することで、1列の複数のセル20を直列に接続している。
【0030】
また、図2の第1列の燃料電池スタック10−1の後方には、第2列の燃料電池スタック10−2を設けるが、第1列の燃料電池スタック10−1に対し、第2列の燃料電池スタック10−2は、セル20を左右逆向きに並べる。
【0031】
そして、第1列の燃料電池スタック10−1の最も左側のセル20のインターコネクタ26に取付けた集電部材30と、第2列の燃料電池スタック10−2の最も左側のセル20の空気極層25に取付けた集電部材30とを、導電部材40により連結することで、第1列の燃料電池スタック10−1と第2列の燃料電池スタック10−2とを直列に接続している。
【0032】
上記のホットモジュール1においては、燃料・水及びATR用空気の供給管3から改質器6に、都市ガス、LPG、メタノール、DME、灯油などの水素製造用燃料と改質用水とが供給され、改質器6内において主に水蒸気改質反応により水素リッチな燃料ガス(改質ガス)が生成される。生成された改質ガスは、改質ガス供給管7を通じて分配用のマニホールド8に供給される。
【0033】
マニホールド8に供給された改質ガスは、燃料電池スタック10を構成する燃料電池セル20に分配され、各セル20の支持体21に形成されているガス流路22に供給されて、ガス流路22を上昇する。この過程で、改質ガス中の水素が支持体21内を透過して燃料極層23に達する。
【0034】
一方、カソード用空気の供給管4からモジュールケース2内に空気(酸素含有ガス)が導入され、燃料電池スタック20を構成する燃料電池セル20に供給されて、空気中の酸素が空気極層25に達する。
【0035】
これにより、燃料電池セル20の各々において、外側の空気極層25にて、下記(1)式の電極反応が生起され、内側の燃料極層23にて、下記(2)式の電極反応が生起されて、発電がなされる。
【0036】
空気極: 1/2O2+2e−→O2−(固体電解質) ・・・(1)
燃料極: O2−(固体電解質)+H2→H2O+2e−・・・(2)
セル20における支持体21のガス流路22を流通する改質ガスのうち、電極反応に使用されなかった改質ガスは、支持体21の上端からモジュールケース2内に流出せしめられる。モジュールケース2内に流出せしめられた改質ガスは流出と同時に燃焼せしめられる。モジュールケース2内には適宜の着火手段(図示せず)が配設されており、改質ガスがモジュールケース2内に流出され始めると着火手段が作動せしめられて燃焼が開始される。また、モジュールケース2内に導入された空気のうち、電極反応に使用されなかったものは、燃焼に利用される。モジュールケース2内は、燃料電池スタック10での発電及び改質ガスの燃焼に起因して、例えば600〜1000℃程度の高温になる。モジュールケース2内での燃焼によって生成された燃焼ガスは、排気口5から、モジュールケース2外に排出される。
【0037】
燃料電池セル20について更に詳述する。
セル支持体21は、燃料ガスを燃料極層23まで透過させるためにガス透過性(多孔質)であること、そしてまたインターコネクタ26を介して集電するために導電性であることが要求され、かかる要求を満足するサーメットから形成することができる。具体的には、セル支持体21は、少なくとも酸化ニッケルを含む複合酸化物組成物を、適宜還元処理等を施して得られるニッケルサーメットからなる。この複合酸化物組成物は、酸化ニッケル以外の成分として、少なくともスカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、チタン、ジルコニウムから選択される1種又は2種以上の金属酸化物を含み得る。尚、上記還元処理により、酸化ニッケル以外の成分は、実質的に酸化還元反応に関与しないものと見なせる。また、セル支持体21の還元処理前の複合酸化物組成物において、酸化ニッケルの割合が50重量%以上(50〜90重量%、好ましくは60〜80%)とする。
【0038】
セル支持体21上に形成されるセル構成層について更に説明する。
燃料極層23は、多孔質の導電性セラミックから形成されている。
固体酸化物電解質層24は、電極間の電子伝導やイオン伝導の橋渡しをする電解質としての機能を有していると同時に、燃料ガス及び空気のリークを防止するためにガス遮断性を有するものであることが必要であり、通常ZrO2やCeO2等の酸化物を含む固体電解質から形成されている。
【0039】
空気極層25は、導電性セラミックから形成され、ガス透過性を有している。
インターコネクタ26は、導電性セラミックから形成することができるが、燃料ガス及び空気と接触するため、耐還元性及び耐酸化性を有する。また、インターコネクタ26はセル支持体21に形成されたガス流路22を通る燃料ガス及びセル支持体21の外側を流動する空気のリークを防止するために緻密質である。
【0040】
集電部材30は、弾性を有する金属又は合金から形成された適宜の形状の部材から構成される。導電部材40は、適宜の金属又は合金から形成することができる。
ところで、上記のようなSOFCシステムでは、ユーザーの任意により、あるいは省エネルギー効果を最大限に発揮させる目的で、あるいは機器やユーティリティーのトラブルによるなど、様々な事由により、ある頻度でシステムを停止することが要求される。この停止工程、及び、その後の再起動工程により、耐久上の諸問題が発生する。
【0041】
とりわけ、停止工程にて燃料電池スタック10への改質ガスの供給を停止した後、まだ燃料電池スタック10が完全に冷却される前にセル支持体21及び燃料極層23へ空気が流入し、セル支持体21が酸化されることによる、あるいは、酸化された状態から再起動により還元される際に生じるトラブルは深刻である。
【0042】
一般に,ニッケルを含むセル支持体が酸化/還元を繰り返せば,セルの膨張・収縮,あるいは曲がり等の変形が生じ,セルそのものが損傷したり,あるいはセルに隣接する部材との間にクラックや隙間が生じて,セル電圧の低下や,セル上部における燃焼状態の変化に伴う改質器温度分布変化など,様々な形態でトラブルが発生する危惧がある。
【0043】
こうしたトラブルは、いずれも以下のようなメカニズムにより生じると考えられる。
SOFCシステムの停止工程において、発電を停止した後も燃料ガス(改質ガス)の供給は通常継続される。発電に用いられない燃料ガスは燃料電池スタック10上方の燃焼空間で周囲から供給される空気と反応して燃焼されるが、この間に燃料電池スタック10は徐々に冷却される。燃料電池スタック10が設定温度まで冷却されると、改質器6への原燃料の供給を停止し、燃料電池スタック10への改質ガスの供給も同時に停止される。燃料電池スタック10の温度低下に伴い、改質器6も連動して温度が低下するため、改質反応に用いられる触媒活性や、改質に用いられる水の気化分散など、改質器6の要請により、改質ガスを供給し続けることのできる温度には下限が存在する。従って、発電停止した状態から燃料電池スタック10や改質器6が室温まで冷却された完全停止の状態に至るまでに、いずれかの時点で改質ガスの供給を停止せねばならない。
【0044】
改質ガスの供給が停止されると、カソード用空気の供給管4から供給された空気が、セル支持体21のガス流路22を通じて逆拡散する状況が発生し、この空気流入開始と、その時点での燃料電池スタック10の各部位での支持体温度との兼ね合いで、支持体21中のニッケル金属が酸化を受ける温度以上で空気流入が開始されれば、ニッケルが酸化されることになる。支持体21は金属ニッケルと酸化物セラミックスとの複合体(サーメット)であるから、支持体21中のニッケル金属が部分的に酸化ニッケルとなる。こうした過程を経て、セルが徐々に冷却され、やがてある一定の酸化度合いに収束したところでシステムが完全停止する。
【0045】
次に、この支持体21中のニッケルが部分的に酸化された状態から、システムを再起動すると、改質器6へ原燃料及び水と、必要に応じてATR用空気が導入され、水蒸気改質反応(SR)や部分酸化反応(POX)によって水素を含む改質ガスが燃料電池スタック10に供給される。これにより、一部酸化されていた支持体21中のニッケルは、そのほとんどが再度完全に還元された金属ニッケルの状態に復帰する。
【0046】
本発明者らは、このようにセル支持体21中のニッケル金属が酸化/還元を繰り返すことと、セル電圧の低下からセル破損に至る過程とに、強い相関があることを見出した。
言い換えれば、本発明者らは、上記のような燃料電池スタックのセル破損リスクはセル電圧の推移により判断できることを見出し、更に研究を進めることで停止時の酸化度合いが高くなると、電圧低下が大きくなること、ならびに起動時に燃料電池スタック発電部の最大温度差が限界温度差以下に維持するように燃料ガス流量を時間経過と共に減少することで、これが抑制されることを見出した。
【0047】
ここで、セル支持体21中のニッケルについては、支持体焼成後・還元処理前には酸化ニッケルとして存在しているが、セル構成が完了後、あるいはスタックとして構成された後に還元処理を行うことで、そのほとんどが金属ニッケルへ還元される。しかし、この状態は、燃料電池システムの停止に伴って還元ガスの流通を停止した時点で打破され、セル支持体21中のガス流路22へ逆拡散してきた空気中の酸素によって、ある割合のニッケル原子が酸化されて酸化ニッケルとして存在することになる。
【0048】
従って、本実施形態では、発電停止後にセル支持体21中のニッケル金属が酸化される度合いを耐久性評価の指標とするが、この酸化度合いを、Ni酸化度として、下記の式により定義する。
【0049】
Ni酸化度=(セル支持体中に含まれるNi原子のうち、NiOとして存在するモル数)/(セル支持体中の全Ni原子のモル数)×100(%)
ここで、Ni酸化度は、セル支持体をXRDやXPS等の機器分析的な手法により測定してもよいが、より直接的には、セル支持体中に含まれるニッケル割合が既知であるなら、所定の酸化あるいは還元処理を行う前後での重量増減から算出することができる。
【0050】
一例を挙げれば、セル支持体中のニッケル金属は900℃程度の高温下で12h以上の十分な時間空気焼成すると、ほぼ全原子が酸化されて酸化ニッケルNiOとなることが知られている。仮に焼成後、還元処理前のセル支持体中に含まれる酸化ニッケルの重量割合が70%のセル支持体を用いた場合、ニッケル以外のセル支持体成分が酸化還元の影響を受けない場合には、全ニッケル原子が金属状態である還元状態から900℃酸化を行うと、全体として、1/(1−16/(58.7+16)×0.7)=1.176倍の重量、すなわち17.6%の重量増加となる。尚、ニッケルNiの原子量を58.7、酸素Oの原子量を16とした。
【0051】
しかし、停止後にはニッケル原子の一部が既に酸化されているので、停止後の一部酸化状態から900℃酸化を行うと、重量増加はこの値よりも小さくなる。すなわち、停止後に仮に全ニッケル原子の25%がNiOであったとすれば、完全還元状態から一部酸化状態になっていることで、既に(1+0.176×0.25)=1.044倍の重量増加となっているので、1.176/1.044=1.126倍の重量、すなわち12.6%の重量増加にとどまることになる。
【0052】
従って、停止後(一部酸化状態)のセル支持体について完全酸化状態への重量増加を測定すれば、これと完全還元状態から完全酸化状態への重量増加とに基づいて、完全還元状態から一部酸化状態への重量増加を知ることができ、更に、完全還元状態から完全酸化状態への重量増加と、完全還元状態から一部酸化状態への重量増加との比に基づいて、一部酸化状態での酸化度を知ることができる。
【0053】
前述の例では、一部酸化状態から完全還元状態への重量増加(1.126倍)を測定することで、完全還元状態から一部酸化状態への重量増加は、1.176/1.126=1.044であり、一部酸化状態でのNi酸化度は、(1.044−1)/(1.176−1)×100=25(%)となる。
【0054】
従って、完全還元状態から完全酸化状態までの最大重量変化倍率(増加倍率)Rmax (予め求めておく)と、発電停止後の一部酸化状態から完全酸化状態としたときの重量変化倍率(増加倍率)R2とから、一部酸化状態でのNi酸化度は、次式により求めることができる。
【0055】
Ni酸化度=((Rmax /R2)−1)/(Rmax −1)×100(%)
ここで、Rmax /R2は、完全還元状態から一部酸化状態への重量変化倍率R1に相当する。
【0056】
重量変化の測定に際しては、実際にセル支持体そのものをサンプルとして重量測定してもよいが、TG−DTAなどの測定機器を用いることがより好ましい。
また、上述の例示では高温酸化による重量増加で支持体のNi酸化度を測定する手法を示したが、加熱下で水素気流などの還元ガスを流通させながら重量測定できる手段があれば、完全還元に至る重量減少から同様にNi酸化度を算出することもできる。すなわち、一部酸化状態での重量Wx と完全還元状態での重量W0 とから、完全還元状態から一部酸化状態への重量変化倍率R1=Wx /W0 を求めることにより、Ni酸化度=(R1−1)/(Rmax −1)×100(%)と求めることができる。Ni酸化度が低い場合には、こちらの手法がより好ましい場合もある。
【0057】
従って、いずれにしても、Ni酸化度は、完全に還元された状態と完全に酸化された状態との間での予め定めた重量変化(最大重量変化倍率)と、発電停止後の一部酸化状態から完全に酸化又は還元された状態としたときの重量変化(変化倍率)とに基づいて、求めることができる。
【0058】
次に、セルの耐久性とNi酸化度との相関、より具体的には耐久性評価の指標であるNi酸化度のしきい値について検討する。
一般に,セルの耐久性は,システム一定運転条件での電流掃引時におけるセルの発電電圧により好ましくモニターされる。セル支持体や周辺部材を含むセルスタック構造体に何らかの問題が生じれば,セル支持体損傷によるガスリーク,セル積層構造の剥離に伴う抵抗増大,セル変形に伴う集電金属との接触状態の悪化など,いずれの場合においてもセルスタックの電圧低下として観測される場合が多い。したがって,初期に対するセル電圧の変化(低下)により,セルスタックの耐久性(余寿命)を推測することができる。このようなセル電圧の低下を抑制し、実用上の起動停止回数である240回を経ても、セル電圧をなお十分なレベルに維持するために、停止後Ni酸化度を低く抑えることが必要である。
【0059】
図3は、停止時におけるNi酸化度の異なる条件で複数台のシステムを起動停止した実証試験における、各システムのセル電圧低下率(特に後述する起動停止に起因するサイクル依存電圧低下率)の変化をプロットした結果である。また、図4は、図3の結果のうち、起動停止回数=240回のデータに着目し、横軸をNi酸化度、縦軸を平均の電圧低下率として示したものである。
【0060】
セル電圧低下率は、定格相当運転条件(通常は0.2〜0.3A/cm2 電流掃引時)におけるセルスタックの電圧総和Vに基づき,初期の電圧Vini と、耐用年数後(ないしは耐用年数を想定した加速耐久試験後)の電圧Vfinal とにより、
(1−Vfinal /Vini )×100[%]
で表される。
【0061】
図3及び図4の結果から、停止時のNi酸化度が高いシステムにおいては、セル電圧低下率が大きく、またその変化が速く、耐久性向上のためには、停止時Ni酸化度を低く抑えることが有効であることがわかる。
【0062】
尚、家庭用定置式燃料電池システムに求められる耐用年数は一般に少なくとも10年、好ましくは15年である。10年間に想定される起動停止回数は、ユーザー任意の停止や燃料ユーティリティラインに設置されるガスメータ運用に対応した停止、あるいは緊急時(軽度のエラー発生時)、メンテナンス時などの停止を含めると、240回と見積もられ、よって当該システムも少なくとも240回の起動停止に耐えることが求められる。
【0063】
省エネルギーデバイスとしての燃料電池システムの見地から、許容される総電圧低下率は、多くとも15%、好ましくは10%以下である。
上記総電圧低下率には、(1)長期使用による経時的電圧低下(セル熱劣化等)、(2)起動停止によるサイクル依存電圧低下、(3)その他不純物混入などの使用環境起因の電圧低下が含まれるが、本発明ではその中で「(2)起動停止によるサイクル依存電圧低下」に着目する。
【0064】
よって、図3及び図4では、起動停止に起因するサイクル依存電圧低下率を単に「電圧低下率」と呼び、これを耐久性維持の指標としている。
具体的には,起動停止サイクル試験などで起動停止回数に依存する電圧低下率を測定し、この数値から、別途実施する連続運転試験や不純物混入試験などから見積もられる電圧低下率を差し引くことで、実質的に起動停止のみに影響される電圧低下率を切り分けることができる。
【0065】
複数因子による影響を考慮すれば,240回の起動停止に起因する(狭義の)電圧低下率は、多くとも5%、好ましくは3%以下である。
従って、停止時Ni酸化度を低く抑えて、240回の起動停止に起因する電圧低下率を5%以下、好ましくは3%以下とすることが望ましい。
【0066】
図5は、SOFCシステムの停止工程において改質ガスを停止した時(改質器6への燃料ガスの供給を停止して燃料電池スタック10への改質ガスの供給を停止した時)の燃料電池スタック10の最高温度部であるセル支持体21上端部の温度(改質ガス停止時のスタック最高温度)別に、Ni酸化度を測定した結果を示している。
【0067】
図5のグラフより、改質ガス停止時のスタック最高温度(セル上端部温度)を約400℃以下(好ましくは330℃以下)とすることが、Ni酸化度を低く抑えるために必要であることが明らかになり、この温度を「ニッケル金属の酸化下限温度」と決定することができる。
【0068】
従って、SOFCシステムの停止制御に際しては、スタック最高温度がニッケル金属の酸化下限温度を下回るまで、燃料電池スタックへの燃料供給量や空気供給量を適切に制御することによって、停止後Ni酸化度を所定のしきい値内に抑えるようにする。
【0069】
そこで、Ni酸化度を耐久性評価の指標として、SOFCシステムの耐久性を評価するのみならず、このNi酸化度が所定値以下となるようにシステム設計を行い、システムの通常停止時には、後述の停止制御を行うことにより、停止後のNi酸化度が所定値以下に収め、240回の起動停止に起因する電圧低下率を5%以下、好ましくは3%以下とすることができる。
【0070】
なお、SOFCシステムの設計にあたっては、実機での停止後Ni酸化度を測定し、これが所定値以内となるように、設計(発電停止条件の設定)にフィードバックする。
図6は発電停止制御のフローチャートである。
【0071】
S101では、発電停止要求の有無を判定し、発電停止要求有りの場合にS102へ進む。
S102では、発電停止要求が通常の定期的なメンテナンス時の要求か、もしくは、何らかのシステムトラブル発生等による緊急シャットダウン(緊急S/D)要求であるかを判定する。これは、システムの点検者ないしユーザーが選択操作できるように構成としてもよい。
【0072】
通常の要求時は、S103へ進み、発電回路を開放することにより電流掃引を停止し、同時に改質器への燃料・水の供給量を減少させる。
S104では、ニッケル金属の酸化下限温度Tsを読込む。この酸化下限温度Tsは内部メモリに記憶されており、停止後Ni酸化度を所定値以下にするように、メンテナンス時などにサービスマンにより書換え可能である。
【0073】
S105では、システム内の温度センサにより、燃料電池スタックの温度(スタック温度)Tを検出する。
S106では、検出されたスタック温度Tと酸化下限温度Tsとを比較し、T≦Tsか否かを判定する。
【0074】
T>Tsの場合は、S104、S105に戻って、スタック温度Tの検出と判定を続け、T≦Tsとなった時点で、S107へ進む。
S107では、改質器への燃料・水の供給を停止し、同時に燃料電池スタックへの改質燃料の供給を停止する。尚、フローでは省略したが、この後も、スタック温度Tを監視し、室温に達したところで、システムを完全停止する。
【0075】
このように、通常の発電停止要求時に、燃料電池スタックのセル支持体中のNi酸化度を所定値以下に抑える制御を行うことで、SOFCシステムの起動/停止に伴う酸化還元サイクルによる燃料電池スタックへのダメージを抑えることができる。
【0076】
一方、システムを運転中に燃料遮断や系統電力不具合、各種ポンプ不具合等なんらかの要因で緊急停止が必要な事態が発生する可能性がある。
このような事態においてはS102で発電停止要求が緊急を要していると判定され、S108へ進んで、電流掃引停止、燃料及び水の供給停止を同時に行う。
【0077】
この場合、改質ガス停止時のスタック最高温度を「ニッケル金属の酸化下限温度」にまで低下させることができず、セル支持体中のNi酸化度を所定値以下に抑えることが困難となる。
【0078】
さらに、本発明者らは、上記セル破壊メカニズムに基づき、上記システムの通常停止時の制御ができない緊急停止を行った場合においてもシステム起動時に昇温により酸化Niを還元させる発電前の昇温工程で、燃料電池スタックの発電部の最大温度差(上端部分の最高温度と下端部分の最低温度との温度差)を低く抑えることによって、発電部に生じる応力の増大が抑制され、セル破壊を有効に抑制できることを、以下のようにして見出した。
【0079】
起動時に、スタック発電部の最大温度差が大きいほど、ガス遮蔽機能を必要とする電解質層やインターコネクタ部にかかる残留応力が増大することが、実験及び熱応力解析により求められた。
【0080】
また、各種実験と解析の結果、起動時の発電部の最大温度差の条件によっては、繰り返し起動/停止により限界応力が低下することにより電解質層やインターコネクタ部の亀裂または剥離によりガス遮断機能が不完全となる問題があることが明らかになった。すなわち、図7に示すように、家庭用、発電設備として実用性に耐えうる時間(例えば10年)に発生する繰返し起動/停止(例えば240回以上)を行ったときの電圧低下(電圧低下率)に対し、起動時のスタック発電部の最大温度差が限界温度差(例えば350℃)を超える条件では、電圧低下率が限界低下率(例えば5%)を超えることが判明し、このため最大温度差を限界温度差(350℃)以下とする必要があることが見出された。
【0081】
さらに、起動時のスタック発電部の最大温度差を調整する方法として、起動時に燃料電池スタック10に供給される熱流量(熱流速)つまり燃料ガス流量を調整することが、好ましいとことが見出された。すなわち、図8に示すように、定格発電時の燃料ガス流量を1としたとき、起動時の最大燃料ガス流量を1.3倍以下とすることで最大温度差を350℃以下とすることが可能であるとともに、1.3倍以上では急速に最大温度差の上昇が大きくなることが判明した。また好ましくは1.2倍以下とすることで320℃以下とすることができ耐久性の信頼度がより高められる。
【0082】
しかしながらLPGや都市ガスを燃料とする家庭用の本システムでは家庭用ガスメータによる制約および顧客の都合により一月に最低1回以上の起動停止が発生する。
このため起動開始から発電開始までの起動時間が長く、起動エネルギーが大きいほど、本システムの導入目的である省エネ性が低下する。このため起動時間はできるだけ短い方が好ましく、実用として3時間以内であることが望まれる。
【0083】
ここで、起動時間の調整には、起動時の平均燃料ガス流量を調整することが有効であることが見出された。図9に示すように、定格発電時の燃料ガス流量を1としたとき、起動時の平均燃料ガス流量を0.6倍以上とすることで起動時間を3時間以内とすることが可能である一方、0.6倍未満である場合は、必要な起動時間が急増することを見出した。
【0084】
また、上記の結果にしたがって「起動時の最大燃料ガス流量をシステム定格発電時の最大燃料ガス流量を1.3倍以下、同じく平均燃料ガス流量をシステム定格発電時の平均燃料ガス流量0.6倍以上とする」とした場合においても条件によっては、燃焼部温度が耐久性を考慮した、部材最高温度である1000℃を超える問題があることが判明した。
【0085】
これに対し、さらなる解析により、燃料ガス流量を段階的ないし漸減する特性とすることで、部材最高温度を低減できることが判明した。特にシステムの起動開始時点の流量を第1流量、前記燃料電池スタックの温度が、前記セル支持体中の酸化Niの還元開始温度以上に設定された設定温度(例えば300℃)に達した時点の流量を第2流量、発電開始直前の流量を第3流量としたとき、次式を満たすように制御することで部材最高温度を1000℃以下に抑制でき、上記問題が解決されることが見出された。
【0086】
更にこの条件では350℃以下、起動時間3時間以内の条件を満たすだけでなく、起動時の積算燃料ガス流量も他の条件と比較し、小さくすることができ省エネ上好ましいことが判明した。
【0087】
以上の本発明者らによって見出された現象特性に基づき、緊急S/Dによってセル支持体中のNi酸化度が増大したような場合でも、システム起動時の昇温工程で、燃料電池スタックの発電部の最大温度差を低く抑えるように燃料ガス流量を時間経過と共に減少することにより、電圧低下率を減少して要求耐久性(実用耐久年数)を満たすことができる起動時制御の各実施形態を以下に示す。これら実施形態は、通常停止(Ni酸化度を所定値以下とする特別な停止制御を行わない従来方式による通常停止を含む)を行った際にも、同様のフローで示す起動方法を用いることで、劣化を抑制することができ汎用性の高い起動方法となっている。
【0088】
図10は、第1の実施形態に係る起動制御のフローチャート、図11は、上記制御時の変化の様子を示すタイムチャートである。
S1では、起動開始時に、改質器6から燃料電池スタック10へ供給される熱流量、すなわち燃料ガス流量Fを、起動制御中の最大燃料ガス流量に設定し、該最大燃料ガス流量FsMAXを、本システムの定格発電時の最大燃料ガス流量の1.3倍以下、より好ましくは1.2倍以下の燃料ガス流量F1に設定する。
【0089】
S2では、前記燃料ガスの燃焼部での燃焼による昇温で、燃料電池スタック10の温度(以下、スタック温度という)Tが、設定温度T1以下であるかを判定する。ここで、設定温度T1は、セル支持体中の酸化Niの燃料ガスにより所定以上の速度で還元される温度で、例えば、300℃に設定されている。
【0090】
S2で、スタック温度Tが設定温度T1以下であると判定されたとき、つまり設定温度T1に達するまでの間は、燃料ガス流量F2を、F1以下の値、つまり、起動開始時の最大燃料ガス流量F1のまま維持するか(図11実線)、それより減少して設定する(図11点線)。換言すれば、起動開始時の燃料ガス流量F1が、スタック温度Tが設定温度T1に達した時点の燃料ガス流量F2以上の値に設定される。ここで、F2をF1より減少させる場合、図11点線のようにF1から徐々に減少させる設定としてもよいが、F1より小の固定値に設定してもよい。
【0091】
スタック温度Tが、設定温度T1に達した後は、S4へ進み、発電開始条件が成立したかを判定する。例えば、改質器6で水素リッチな改質ガスの生成が行われ、かつ、燃料電池スタック10での改質ガスによる発電を良好に行うことができるスタック温度T以上となったときを発電開始条件として設定できる。
【0092】
発電開始条件が成立するまでは、S5で燃料ガス流量F3を、F2より減少する。ただし、起動開始から発電開始までの平均燃料ガス流量FAVEが、定格発電時の平均燃料ガス流量FgAVEの0.6倍以上となるように設定する。これは、該条件を満たすように、予め、実験やシミュレーションで発電開始条件に至るまでの燃料ガス流量特性を求めておいて設定することができる。なお、燃料ガス流量F3は、F2より小の固定値か、F2から徐々に減少させるかのいずれの設定としてもよいが、少なくとも、発電開始直前の流量F3は、F2より減少するように設定する。
【0093】
かかる制御とすれば、まず、起動制御中の最大燃料ガス流量を定格発電時の最大燃料ガス流量の1.3倍以下に設定することで、スタック発電部の最大温度差を350℃以下とすることができる。また、定格発電時の最大燃料ガス流量の1.2倍以下とした場合は、スタック発電部の最大温度差を320℃以下まで減少できる。
【0094】
このようにスタック発電部の最大温度差ΔTMAXを350℃以下さらには320℃以下に維持されることにより、セル支持体とこれに積層されるセル構成層(燃料極層、電解質層、空気極層など)との間、あるいは各層間で発生する応力を限界応力以下に軽減でき、これらの間の剥離、更には、セル支持体自体の破壊などのセル破壊に至る故障の発生を抑制できる。
【0095】
また、起動開始時の燃料ガス流量F1を第1流量f1、スタック温度が設定温度(300℃)に達したときの燃料ガス流量を第2流量f2、発電開始直前の燃料ガス流量を第3流量f3としたとき、f1≧f2>f3の関係を満たすように、燃料ガス流量を段階的ないし徐々に減少させて昇温速度を低下させることにより、発電部の最大温度となる燃焼部近傍の温度を、耐久性を考慮した部材最大温度(1000℃)以下に抑えることができる。
【0096】
一方、起動開始から発電開始までの平均燃料ガス流量FAVEが、定格発電時の平均燃料ガス流量FgAVEの0.6倍以上に設定されることにより、起動開始から発電開始までの起動時間を3時間以内とすることができる。
【0097】
以上の各要件が満たされる結果、家庭用、発電設備として実用性に耐えうる時間(例えば10年)の耐久性を確保し、良好な発電性能を確保しつつ、できるだけ短時間で発電を開始させることができる。
【0098】
なお、システムを高温状態で緊急シャットダウンしたときは、通常停止した場合に比較してセル支持体のNi酸化度が増大するため、起動制御時に同一の還元速度で還元を行った場合には、還元に時間を要することになる。
【0099】
その場合でも、上記の各条件を満たす起動制御を行うことにより、耐久性を確保しつつ発電開始までの起動時間を3時間以内とすることができる。換言すれば、緊急シャットダウンされる通常の頻度(10年間での回数である200回以上を想定)を考慮して上記各値が設定されるからである。
【0100】
ただし、上記各条件を満たしつつも、通常停止後の起動制御と緊急シャットダウン後の起動制御とを切り換えるようにしてもよい。
図12は、通常停止後の起動制御と緊急シャットダウン後の起動制御とを切り換える第2実施形態のフローチャート、図13は、上記制御時の変化の様子を示すタイムチャートである。
【0101】
S1〜S4の起動開始から、スタック温度Tが、セル支持体中の酸化Niの燃料ガスにより所定以上の速度で還元される設定温度(300℃±50℃)に達するまでの制御は、第1実施形態の制御と同様である。
【0102】
スタック温度Tが設定温度T1に達した後、S11では、前回システム停止時に燃料供給を停止したときのスタック温度Tが、所定温度Tb以下であったかを判定する。ここで、所定温度Tbは、上記システム停止時の発電停止制御を行ってセル支持体中のNi酸化度を3%以内に制御されたか否かを判別する温度に設定されており、したがって、Tbを、改質ガス停止温度Tsと等しいか、Tsより少し大きめ値に設定されている。
【0103】
前回システム停止時のスタック温度Tが所定温度Tb以下のとき、つまり、上記システム停止時の発電停止制御を行ってセル支持体中のNi酸化度を所定値以内とする制御が実施されたときは、S12へ進む。
【0104】
また、前回システム停止時のスタック温度Tが所定温度Tbを超えるとき、つまりスタック温度Tが高温状態でシステムを緊急シャットダウンしたときは、S13へ進む。
S12,S13では、いずれもそれぞれの燃料ガス流量F3,F4をF2より減少し、かつ、起動開始から発電開始までの平均燃料ガス流量FAVEが、定格発電時の平均燃料ガス流量FgAVEの0.6倍以上となるように設定することは同様であるが、F4はF3より小さい値に設定される。なお、固定値同士でF4<F3としてもよいが、F2から徐々に減少させる特性として、F4の減少率をF3の減少率より大きく設定してもよい。
【0105】
このように、前回システムを緊急シャットダウンした後の燃料ガス流量F3を、通常停止した後の燃料ガス流量F4より減少させ、あるいは、減少率を大きくすることにより、スタック温度Tの昇温速度をより低下させ、発電部の最大温度差を低く抑えられる温度帯を、より長くすることができるため、耐久性を確保しつつ、セル支持体中の酸化度大の酸化Niを還元処理することができる。
【0106】
一方、通常停止後の起動時は、緊急シャットダウン時より大きな燃料ガス流量F3としてスタック温度Tの昇温速度を緊急シャットダウン時より大きくすることで、Ni酸化度を所定値以内に制御されたセル支持体中の酸化Niを、より速やかに還元処理することができる。なお、昇温速度が緊急シャットダウン時より大きくなっても、最大温度差は350℃以下に維持され、かつ、還元処理時間も短縮されるので、耐久性を良好に維持でき良好な発電性能を確保できる。
【0107】
このように、本第2実施形態では、システム停止時のNi酸化度に応じて起動制御を切り換えることにより、システムの実用期間中、耐久性を維持して良好な発電性能を確保しつつ可能な限り発電開始までの時間を短縮することができる。
【0108】
また、以上示した各制御は、外気温変化や経時変化が生じても制御系として破綻しない、セルの破壊原理に基づいた制御方法であり、今後SOFCシステムの本格普及に伴い、部品の簡素化や制御系の簡略化が進んでも適用できる技術であると考えられる。
【0109】
尚、図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0110】
1 ホットモジュール
2 モジュールケース
3 燃料・水及びATR用空気の供給管
4 カソード用空気の供給管
5 排気口
6 改質器
6a 改質ガス出口部
7 改質ガス供給管
8 マニホールド
10(10−1、10−2) 燃料電池スタック
20 燃料電池セル
21 セル支持体
22 ガス流路
23 燃料極層
24 固体酸化物電解質層
25 空気極層
26 インターコネクタ
30 集電部材
40 導電部材
50 制御ユニット
51 温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池システム(以下「SOFCシステム」という)及びその起動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SOFCシステムは、その高い発電効率から、低CO2排出の次世代定置用電源として注目されている。近年の活発な技術開発により、600〜1000℃という高温動作ゆえの耐久性の問題も克服されつつあり、またその動作温度自体も着実に低温化の傾向を辿っている。
【0003】
かかるSOFCシステムとしては、特許文献1に記載のシステムが知られている。
このシステムは、改質反応により水素リッチな燃料ガス(改質ガス)を生成する改質器と、この改質器からの燃料ガスと空気とを反応させて発電する燃料電池スタック(燃料電池セルの組立体)と、これら改質器及び燃料電池スタックを取り囲み、その内部で余剰の燃料ガスを燃焼させて改質器及び燃料電池スタックを高温状態に維持するモジュールケースとを含んで構成される。尚、これらがシステムの主要部であり、これらをまとめてホットモジュールと呼んでいる。
【0004】
また、燃料電池スタックを構成するセルは、燃料極支持型の固体酸化物形燃料電池セルであり、少なくともニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなり、内部に一端から他端へ前記改質器からの燃料ガスが流通するガス流路を有するセル支持体を含み、このセル支持体上に燃料極層、固体酸化物電解質層、空気極層を積層して構成される。尚、ガス流路の他端にて余剰の燃料ガスを燃焼させて、前記改質器及び燃料電池スタックを加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4565980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SOFCシステムをはじめ、定置用の燃料電池システムでは、ユーザーの任意により、あるいは省エネルギー効果を最大限に発揮させる目的で、あるいは機器やユーティリティーのトラブルによるなど、様々な事由により、ある頻度でシステムを停止することが要求される。
【0007】
従って、SOFCシステムを定置用の発電デバイスとして実用化するためには、起動停止の繰り返しを前提にして、10年程度の耐久性を持たせなければならない。
本発明者らは、SOFCシステムの燃料電池スタックにおいて、発電停止後に、燃料電池スタックへの改質ガスの供給が停止されると、燃料電池セルの燃料極に外部から空気が拡散流入し、高温下ではこの空気によりニッケル金属を含む組成のセル支持体が酸化され、このことによってセルあるいはセルスタック構造体が損傷を受ける可能性が高まることを見出した。
【0008】
そして、当該セル損傷の度合いは、発電停止後のセル支持体酸化の度合いに依存し、ある酸化度以上では急激にセル損傷の頻度が高まることを見いだした。
セル支持体の酸化の度合いとは、すなわち、発電停止後に燃料極層への空気拡散によりセル支持体中のニッケル金属が酸化される度合であり、下記の式により定義されるNi酸化度を用いて定義することができる。
【0009】
Ni酸化度=(セル支持体中に含まれるNi原子のうち、NiOとして存在するモル数)/(セル支持体中の全Ni原子のモル数)×100(%)
さらに、システム耐久性向上のためにシステム停止時のニッケル金属の酸化を抑制すべきことを解明した。
【0010】
しかし、システム停止時のニッケル金属の酸化量を0にすることは難しく、また、システムを高温下で緊急シャットダウン(大きなトラブルの発生により、電流掃引停止、燃料及び水の供給停止を同時に停止する)した場合は、ニッケル金属の酸化量は増大する。
【0011】
そこで、本発明者らは、システム停止時に酸化されたニッケル金属をシステム起動時に還元する際の制御の改良によっても、システム耐久性を向上できることを解明した。
本発明は、このような観点から、システム起動時の制御によって、良好な発電性能を長期に亘って確保し、システム耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため、本発明は、改質反応により水素リッチな燃料ガスを生成する改質器と、
前記燃料ガスの通路が形成され、ニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなるセル支持体を含み、前記燃料ガスと空気とを反応させて発電する燃料電池スタックと、
前記改質器及び前記燃料電池スタックを取り囲み、その内部で前記燃料電池スタックでの余剰の燃料ガスを燃焼させることにより、前記改質器及び前記燃料電池スタックを昇温して高温状態に維持するモジュールケースと、
を含んで構成された固体酸化物形燃料電池システム及びその起動制御方法であって、以下のように構成される。
【0013】
システム起動時に、前記燃料電池スタックを昇温して酸化された前記ニッケル金属を還元する発電前の昇温工程で、前記燃料電池スタックの発電部の最大温度差を、該発電部の耐久性を考慮して設定された限界温度差以下に維持するように、前記改質器から前記燃料電池スタックへ供給される燃料ガス流量を、時間経過と共に減少制御する(起動制御手段)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、システム起動時に昇温される発電前の工程で、該起動前のシステム停止時に酸化されたセル支持体中のニッケル金属が、改質器からの燃料ガスにより還元される際に、燃料電池スタック発電部の最大温度差が限界温度差以下に維持するように燃料ガス流量を時間経過と共に減少する制御によって、発電部に生じる応力を軽減して発電部ひいてはシステムの耐久性を向上でき、良好な発電性能を確保することができる。
【0015】
また、上記のように発電部の耐久性を確保するのに必要かつ十分な燃料ガス流量を供給すればすむため、耐久性を確保しつつ、速やかに起動制御を終了させて発電を開始することができ、燃料消費量も節減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示すSOFCシステムのホットモジュールの概略縦断面図である。
【図2】同上システムにおける燃料電池スタックの平面横断面図である。
【図3】Ni酸化度とセル電圧低下率との相関を示す図である。
【図4】Ni酸化度と起動停止240回後の電圧低下率との相関を示す図である。
【図5】改質ガス停止時スタック最高温度とNi酸化度との関係を示す図である。
【図6】停止制御のフローチャートである。
【図7】起動時発電部最大温度差と電圧低下率との関係を示す線図である。
【図8】起動時最大燃料ガス流量/定格発電時最大燃料ガス流量と起動時発電部最大温度差との関係を示す線図である。
【図9】起動時平均燃料ガス流量/定格発電時平均燃料ガス流量と発電可能までの昇温時間との関係を示す線図である。
【図10】本発明に係る起動制御の第1実施形態のフローチャートである。
【図11】第1実施形態の起動制御時におけるスタック温度及び燃料ガス流量の変化を示すタイムチャートである。
【図12】本発明に係る起動制御の第2実施形態のフローチャートである。
【図13】第2実施形態の起動制御時におけるスタック温度及び燃料ガス流量の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態を示すSOFCシステムの主要部であるホットモジュールの概略縦断面図である。
【0018】
ホットモジュール1は、モジュールケース2内に、改質器6と、燃料電池スタック10とを収納して構成される。
モジュールケース2は、耐熱性金属により直方体形状に形成された外枠体の内面に断熱材を内張して構成されている。また、外部からケース内に、燃料・水及びATR(自己熱改質反応)用空気の供給管3と、カソード用空気の供給管4とが設けられ、更に排気口5を有している。燃料(原燃料)としては、都市ガス、LPG、メタノール、DME(ジメチルエーテル)、灯油等が用いられる。
【0019】
改質器6は、モジュールケース2内の上部(燃料電池スタック10の上方)に配置され、外部からの燃料・水及びATR用空気の供給管3が接続されている。
改質器6のケースは耐熱性金属により形成され、ケース内には、都市ガス、LPG、メタノール、DME、灯油等の原燃料を水素リッチな燃料ガス(改質ガス)に改質するための改質触媒が収納された触媒室と、改質触媒での水蒸気改質反応のために水を気化させる水気化室とが形成されている。
【0020】
改質器6の改質ガス出口部6aには、改質ガス供給管7の一端が接続され、改質ガス供給管7の他端は、燃料電池スタック10の下方に配置した改質ガス分配用の中空のマニホールド8に接続されている。
【0021】
燃料電池スタック10は、モジュールケース2内の下部(改質器6の下方)に配置され、前記マニホールド8上に保持されている。
燃料電池スタック10は、多数の燃料電池セル20の組立体であり、複数(図1では簡略化のため5個表示)の縦長のセル20を側面間に集電部材30を介在させて横方向に一列に並べ、同様に、図1の列の後方に複数列に並べることで、多数のセル20をマトリクス状に配列してなる。
【0022】
また、各燃料電池セル20の内部には、下端から上端へ、ガス流路22が形成され、各ガス流路22は下端にてマニホールド8と連通し、上端にて余剰の燃料ガスの燃焼部を形成するようになっている。
【0023】
また、前記改質器6への燃料、水、ATR空気、及びモジュールケース2内へのカソード用空気の供給量は、制御ユニット50によって制御され、該制御のため、燃料電池スタック10の温度を検出する温度センサ51等がモジュールケース2内に配設され、該温度センサ31の温度検出信号等が制御ユニット50に入力されている。ここで、温度センサ51によって検出される燃料電池スタック10の温度(以下、スタック温度という)は、燃料電池スタック10の発電部(燃料電池セル20、特に、後述するセル支持体およびセル構成層)の温度であるが、燃焼部に近い上端部分はモジュールケース2内の最高温度近傍となり、マニホールド8付近の下端部分は、最低温度近傍となって温度差を大きく生じるので、上下方向中間部の温度を平均温度として検出する。
【0024】
次に燃料電池スタック10を構成する燃料電池セル20について図2により説明する。
図2は燃料電池スタックの平面横断面図である。
燃料電池セル20は、燃料極支持型の固体酸化物形燃料電池セルであり、セル支持体21(ガス流路22付き)と、燃料極層23と、固体酸化物電解質層24と、空気極層25と、インターコネクタ26と、から構成される。
【0025】
セル支持体21は、少なくともニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなり、扁平な長円形状の横断面を有して縦方向(鉛直方向)に延びる板状片であり、平坦な両側面(平坦面)と、半円筒面をなす前後面とを有する。セル支持体21の一端(下端)はマニホールド8の上面の開口にガスタイトに挿入固定され、他端(上端)は改質器6の下面に相対している。そして、セル支持体21の内部には、その長手方向に、一端(下端)から他端(上端)へ、マニホールド8からの改質ガスが流通する複数本の並列なガス流路22を有している。
【0026】
インターコネクタ26は、セル支持体21の一方(図2の第1列の燃料電池スタック10−1において左側)の平坦面上に配設されている。
燃料極層23は、セル支持体21の他方(図2の第1列の燃料電池スタック10−1において右側)の平坦面上、及び前後面上に積層され、その両端はインターコネクタ26の両端に接合されている。
【0027】
固体酸化物電解質層24は、燃料極層23の上にその全体を覆うように積層され、その両端はインターコネクタ26の両端に接合されている。
空気極層25は、固体酸化物電解質層24の主部上、すなわちセル支持体21の他方の平坦面を覆う部分上、に積層され、セル支持体21を挟んでインターコネクタ26に対向している。従って、各セル20の一方(図2の第1列の燃料電池スタック10−1において左側)の外側面にはインターコネクタ26があり、他方(右側)の外側面には空気極層25がある。
【0028】
言い換えれば、セル20は、ガス流路22を有するセル支持体21を含み、セル支持体21の1つの面に、燃料極層23、固体酸化物電解質層24、空気極層25をこの順に積層し、更に、セル支持体21の他の面に、インターコネクタ26を形成してなる。
【0029】
かかる燃料電池セル20は、横方向に複数並べられ、集電部材30を介して1列に接合される。すなわち、図2の第1列の燃料電池スタック10−1に示されるように、各セル20の左側のインターコネクタ26を集電部材30を介して左側に隣り合うセル20の空気極層25と接合し、各セル20の右側の空気極層25を、集電部材30を介して右側に隣り合うセル20のインターコネクタ26と接合することで、1列の複数のセル20を直列に接続している。
【0030】
また、図2の第1列の燃料電池スタック10−1の後方には、第2列の燃料電池スタック10−2を設けるが、第1列の燃料電池スタック10−1に対し、第2列の燃料電池スタック10−2は、セル20を左右逆向きに並べる。
【0031】
そして、第1列の燃料電池スタック10−1の最も左側のセル20のインターコネクタ26に取付けた集電部材30と、第2列の燃料電池スタック10−2の最も左側のセル20の空気極層25に取付けた集電部材30とを、導電部材40により連結することで、第1列の燃料電池スタック10−1と第2列の燃料電池スタック10−2とを直列に接続している。
【0032】
上記のホットモジュール1においては、燃料・水及びATR用空気の供給管3から改質器6に、都市ガス、LPG、メタノール、DME、灯油などの水素製造用燃料と改質用水とが供給され、改質器6内において主に水蒸気改質反応により水素リッチな燃料ガス(改質ガス)が生成される。生成された改質ガスは、改質ガス供給管7を通じて分配用のマニホールド8に供給される。
【0033】
マニホールド8に供給された改質ガスは、燃料電池スタック10を構成する燃料電池セル20に分配され、各セル20の支持体21に形成されているガス流路22に供給されて、ガス流路22を上昇する。この過程で、改質ガス中の水素が支持体21内を透過して燃料極層23に達する。
【0034】
一方、カソード用空気の供給管4からモジュールケース2内に空気(酸素含有ガス)が導入され、燃料電池スタック20を構成する燃料電池セル20に供給されて、空気中の酸素が空気極層25に達する。
【0035】
これにより、燃料電池セル20の各々において、外側の空気極層25にて、下記(1)式の電極反応が生起され、内側の燃料極層23にて、下記(2)式の電極反応が生起されて、発電がなされる。
【0036】
空気極: 1/2O2+2e−→O2−(固体電解質) ・・・(1)
燃料極: O2−(固体電解質)+H2→H2O+2e−・・・(2)
セル20における支持体21のガス流路22を流通する改質ガスのうち、電極反応に使用されなかった改質ガスは、支持体21の上端からモジュールケース2内に流出せしめられる。モジュールケース2内に流出せしめられた改質ガスは流出と同時に燃焼せしめられる。モジュールケース2内には適宜の着火手段(図示せず)が配設されており、改質ガスがモジュールケース2内に流出され始めると着火手段が作動せしめられて燃焼が開始される。また、モジュールケース2内に導入された空気のうち、電極反応に使用されなかったものは、燃焼に利用される。モジュールケース2内は、燃料電池スタック10での発電及び改質ガスの燃焼に起因して、例えば600〜1000℃程度の高温になる。モジュールケース2内での燃焼によって生成された燃焼ガスは、排気口5から、モジュールケース2外に排出される。
【0037】
燃料電池セル20について更に詳述する。
セル支持体21は、燃料ガスを燃料極層23まで透過させるためにガス透過性(多孔質)であること、そしてまたインターコネクタ26を介して集電するために導電性であることが要求され、かかる要求を満足するサーメットから形成することができる。具体的には、セル支持体21は、少なくとも酸化ニッケルを含む複合酸化物組成物を、適宜還元処理等を施して得られるニッケルサーメットからなる。この複合酸化物組成物は、酸化ニッケル以外の成分として、少なくともスカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、チタン、ジルコニウムから選択される1種又は2種以上の金属酸化物を含み得る。尚、上記還元処理により、酸化ニッケル以外の成分は、実質的に酸化還元反応に関与しないものと見なせる。また、セル支持体21の還元処理前の複合酸化物組成物において、酸化ニッケルの割合が50重量%以上(50〜90重量%、好ましくは60〜80%)とする。
【0038】
セル支持体21上に形成されるセル構成層について更に説明する。
燃料極層23は、多孔質の導電性セラミックから形成されている。
固体酸化物電解質層24は、電極間の電子伝導やイオン伝導の橋渡しをする電解質としての機能を有していると同時に、燃料ガス及び空気のリークを防止するためにガス遮断性を有するものであることが必要であり、通常ZrO2やCeO2等の酸化物を含む固体電解質から形成されている。
【0039】
空気極層25は、導電性セラミックから形成され、ガス透過性を有している。
インターコネクタ26は、導電性セラミックから形成することができるが、燃料ガス及び空気と接触するため、耐還元性及び耐酸化性を有する。また、インターコネクタ26はセル支持体21に形成されたガス流路22を通る燃料ガス及びセル支持体21の外側を流動する空気のリークを防止するために緻密質である。
【0040】
集電部材30は、弾性を有する金属又は合金から形成された適宜の形状の部材から構成される。導電部材40は、適宜の金属又は合金から形成することができる。
ところで、上記のようなSOFCシステムでは、ユーザーの任意により、あるいは省エネルギー効果を最大限に発揮させる目的で、あるいは機器やユーティリティーのトラブルによるなど、様々な事由により、ある頻度でシステムを停止することが要求される。この停止工程、及び、その後の再起動工程により、耐久上の諸問題が発生する。
【0041】
とりわけ、停止工程にて燃料電池スタック10への改質ガスの供給を停止した後、まだ燃料電池スタック10が完全に冷却される前にセル支持体21及び燃料極層23へ空気が流入し、セル支持体21が酸化されることによる、あるいは、酸化された状態から再起動により還元される際に生じるトラブルは深刻である。
【0042】
一般に,ニッケルを含むセル支持体が酸化/還元を繰り返せば,セルの膨張・収縮,あるいは曲がり等の変形が生じ,セルそのものが損傷したり,あるいはセルに隣接する部材との間にクラックや隙間が生じて,セル電圧の低下や,セル上部における燃焼状態の変化に伴う改質器温度分布変化など,様々な形態でトラブルが発生する危惧がある。
【0043】
こうしたトラブルは、いずれも以下のようなメカニズムにより生じると考えられる。
SOFCシステムの停止工程において、発電を停止した後も燃料ガス(改質ガス)の供給は通常継続される。発電に用いられない燃料ガスは燃料電池スタック10上方の燃焼空間で周囲から供給される空気と反応して燃焼されるが、この間に燃料電池スタック10は徐々に冷却される。燃料電池スタック10が設定温度まで冷却されると、改質器6への原燃料の供給を停止し、燃料電池スタック10への改質ガスの供給も同時に停止される。燃料電池スタック10の温度低下に伴い、改質器6も連動して温度が低下するため、改質反応に用いられる触媒活性や、改質に用いられる水の気化分散など、改質器6の要請により、改質ガスを供給し続けることのできる温度には下限が存在する。従って、発電停止した状態から燃料電池スタック10や改質器6が室温まで冷却された完全停止の状態に至るまでに、いずれかの時点で改質ガスの供給を停止せねばならない。
【0044】
改質ガスの供給が停止されると、カソード用空気の供給管4から供給された空気が、セル支持体21のガス流路22を通じて逆拡散する状況が発生し、この空気流入開始と、その時点での燃料電池スタック10の各部位での支持体温度との兼ね合いで、支持体21中のニッケル金属が酸化を受ける温度以上で空気流入が開始されれば、ニッケルが酸化されることになる。支持体21は金属ニッケルと酸化物セラミックスとの複合体(サーメット)であるから、支持体21中のニッケル金属が部分的に酸化ニッケルとなる。こうした過程を経て、セルが徐々に冷却され、やがてある一定の酸化度合いに収束したところでシステムが完全停止する。
【0045】
次に、この支持体21中のニッケルが部分的に酸化された状態から、システムを再起動すると、改質器6へ原燃料及び水と、必要に応じてATR用空気が導入され、水蒸気改質反応(SR)や部分酸化反応(POX)によって水素を含む改質ガスが燃料電池スタック10に供給される。これにより、一部酸化されていた支持体21中のニッケルは、そのほとんどが再度完全に還元された金属ニッケルの状態に復帰する。
【0046】
本発明者らは、このようにセル支持体21中のニッケル金属が酸化/還元を繰り返すことと、セル電圧の低下からセル破損に至る過程とに、強い相関があることを見出した。
言い換えれば、本発明者らは、上記のような燃料電池スタックのセル破損リスクはセル電圧の推移により判断できることを見出し、更に研究を進めることで停止時の酸化度合いが高くなると、電圧低下が大きくなること、ならびに起動時に燃料電池スタック発電部の最大温度差が限界温度差以下に維持するように燃料ガス流量を時間経過と共に減少することで、これが抑制されることを見出した。
【0047】
ここで、セル支持体21中のニッケルについては、支持体焼成後・還元処理前には酸化ニッケルとして存在しているが、セル構成が完了後、あるいはスタックとして構成された後に還元処理を行うことで、そのほとんどが金属ニッケルへ還元される。しかし、この状態は、燃料電池システムの停止に伴って還元ガスの流通を停止した時点で打破され、セル支持体21中のガス流路22へ逆拡散してきた空気中の酸素によって、ある割合のニッケル原子が酸化されて酸化ニッケルとして存在することになる。
【0048】
従って、本実施形態では、発電停止後にセル支持体21中のニッケル金属が酸化される度合いを耐久性評価の指標とするが、この酸化度合いを、Ni酸化度として、下記の式により定義する。
【0049】
Ni酸化度=(セル支持体中に含まれるNi原子のうち、NiOとして存在するモル数)/(セル支持体中の全Ni原子のモル数)×100(%)
ここで、Ni酸化度は、セル支持体をXRDやXPS等の機器分析的な手法により測定してもよいが、より直接的には、セル支持体中に含まれるニッケル割合が既知であるなら、所定の酸化あるいは還元処理を行う前後での重量増減から算出することができる。
【0050】
一例を挙げれば、セル支持体中のニッケル金属は900℃程度の高温下で12h以上の十分な時間空気焼成すると、ほぼ全原子が酸化されて酸化ニッケルNiOとなることが知られている。仮に焼成後、還元処理前のセル支持体中に含まれる酸化ニッケルの重量割合が70%のセル支持体を用いた場合、ニッケル以外のセル支持体成分が酸化還元の影響を受けない場合には、全ニッケル原子が金属状態である還元状態から900℃酸化を行うと、全体として、1/(1−16/(58.7+16)×0.7)=1.176倍の重量、すなわち17.6%の重量増加となる。尚、ニッケルNiの原子量を58.7、酸素Oの原子量を16とした。
【0051】
しかし、停止後にはニッケル原子の一部が既に酸化されているので、停止後の一部酸化状態から900℃酸化を行うと、重量増加はこの値よりも小さくなる。すなわち、停止後に仮に全ニッケル原子の25%がNiOであったとすれば、完全還元状態から一部酸化状態になっていることで、既に(1+0.176×0.25)=1.044倍の重量増加となっているので、1.176/1.044=1.126倍の重量、すなわち12.6%の重量増加にとどまることになる。
【0052】
従って、停止後(一部酸化状態)のセル支持体について完全酸化状態への重量増加を測定すれば、これと完全還元状態から完全酸化状態への重量増加とに基づいて、完全還元状態から一部酸化状態への重量増加を知ることができ、更に、完全還元状態から完全酸化状態への重量増加と、完全還元状態から一部酸化状態への重量増加との比に基づいて、一部酸化状態での酸化度を知ることができる。
【0053】
前述の例では、一部酸化状態から完全還元状態への重量増加(1.126倍)を測定することで、完全還元状態から一部酸化状態への重量増加は、1.176/1.126=1.044であり、一部酸化状態でのNi酸化度は、(1.044−1)/(1.176−1)×100=25(%)となる。
【0054】
従って、完全還元状態から完全酸化状態までの最大重量変化倍率(増加倍率)Rmax (予め求めておく)と、発電停止後の一部酸化状態から完全酸化状態としたときの重量変化倍率(増加倍率)R2とから、一部酸化状態でのNi酸化度は、次式により求めることができる。
【0055】
Ni酸化度=((Rmax /R2)−1)/(Rmax −1)×100(%)
ここで、Rmax /R2は、完全還元状態から一部酸化状態への重量変化倍率R1に相当する。
【0056】
重量変化の測定に際しては、実際にセル支持体そのものをサンプルとして重量測定してもよいが、TG−DTAなどの測定機器を用いることがより好ましい。
また、上述の例示では高温酸化による重量増加で支持体のNi酸化度を測定する手法を示したが、加熱下で水素気流などの還元ガスを流通させながら重量測定できる手段があれば、完全還元に至る重量減少から同様にNi酸化度を算出することもできる。すなわち、一部酸化状態での重量Wx と完全還元状態での重量W0 とから、完全還元状態から一部酸化状態への重量変化倍率R1=Wx /W0 を求めることにより、Ni酸化度=(R1−1)/(Rmax −1)×100(%)と求めることができる。Ni酸化度が低い場合には、こちらの手法がより好ましい場合もある。
【0057】
従って、いずれにしても、Ni酸化度は、完全に還元された状態と完全に酸化された状態との間での予め定めた重量変化(最大重量変化倍率)と、発電停止後の一部酸化状態から完全に酸化又は還元された状態としたときの重量変化(変化倍率)とに基づいて、求めることができる。
【0058】
次に、セルの耐久性とNi酸化度との相関、より具体的には耐久性評価の指標であるNi酸化度のしきい値について検討する。
一般に,セルの耐久性は,システム一定運転条件での電流掃引時におけるセルの発電電圧により好ましくモニターされる。セル支持体や周辺部材を含むセルスタック構造体に何らかの問題が生じれば,セル支持体損傷によるガスリーク,セル積層構造の剥離に伴う抵抗増大,セル変形に伴う集電金属との接触状態の悪化など,いずれの場合においてもセルスタックの電圧低下として観測される場合が多い。したがって,初期に対するセル電圧の変化(低下)により,セルスタックの耐久性(余寿命)を推測することができる。このようなセル電圧の低下を抑制し、実用上の起動停止回数である240回を経ても、セル電圧をなお十分なレベルに維持するために、停止後Ni酸化度を低く抑えることが必要である。
【0059】
図3は、停止時におけるNi酸化度の異なる条件で複数台のシステムを起動停止した実証試験における、各システムのセル電圧低下率(特に後述する起動停止に起因するサイクル依存電圧低下率)の変化をプロットした結果である。また、図4は、図3の結果のうち、起動停止回数=240回のデータに着目し、横軸をNi酸化度、縦軸を平均の電圧低下率として示したものである。
【0060】
セル電圧低下率は、定格相当運転条件(通常は0.2〜0.3A/cm2 電流掃引時)におけるセルスタックの電圧総和Vに基づき,初期の電圧Vini と、耐用年数後(ないしは耐用年数を想定した加速耐久試験後)の電圧Vfinal とにより、
(1−Vfinal /Vini )×100[%]
で表される。
【0061】
図3及び図4の結果から、停止時のNi酸化度が高いシステムにおいては、セル電圧低下率が大きく、またその変化が速く、耐久性向上のためには、停止時Ni酸化度を低く抑えることが有効であることがわかる。
【0062】
尚、家庭用定置式燃料電池システムに求められる耐用年数は一般に少なくとも10年、好ましくは15年である。10年間に想定される起動停止回数は、ユーザー任意の停止や燃料ユーティリティラインに設置されるガスメータ運用に対応した停止、あるいは緊急時(軽度のエラー発生時)、メンテナンス時などの停止を含めると、240回と見積もられ、よって当該システムも少なくとも240回の起動停止に耐えることが求められる。
【0063】
省エネルギーデバイスとしての燃料電池システムの見地から、許容される総電圧低下率は、多くとも15%、好ましくは10%以下である。
上記総電圧低下率には、(1)長期使用による経時的電圧低下(セル熱劣化等)、(2)起動停止によるサイクル依存電圧低下、(3)その他不純物混入などの使用環境起因の電圧低下が含まれるが、本発明ではその中で「(2)起動停止によるサイクル依存電圧低下」に着目する。
【0064】
よって、図3及び図4では、起動停止に起因するサイクル依存電圧低下率を単に「電圧低下率」と呼び、これを耐久性維持の指標としている。
具体的には,起動停止サイクル試験などで起動停止回数に依存する電圧低下率を測定し、この数値から、別途実施する連続運転試験や不純物混入試験などから見積もられる電圧低下率を差し引くことで、実質的に起動停止のみに影響される電圧低下率を切り分けることができる。
【0065】
複数因子による影響を考慮すれば,240回の起動停止に起因する(狭義の)電圧低下率は、多くとも5%、好ましくは3%以下である。
従って、停止時Ni酸化度を低く抑えて、240回の起動停止に起因する電圧低下率を5%以下、好ましくは3%以下とすることが望ましい。
【0066】
図5は、SOFCシステムの停止工程において改質ガスを停止した時(改質器6への燃料ガスの供給を停止して燃料電池スタック10への改質ガスの供給を停止した時)の燃料電池スタック10の最高温度部であるセル支持体21上端部の温度(改質ガス停止時のスタック最高温度)別に、Ni酸化度を測定した結果を示している。
【0067】
図5のグラフより、改質ガス停止時のスタック最高温度(セル上端部温度)を約400℃以下(好ましくは330℃以下)とすることが、Ni酸化度を低く抑えるために必要であることが明らかになり、この温度を「ニッケル金属の酸化下限温度」と決定することができる。
【0068】
従って、SOFCシステムの停止制御に際しては、スタック最高温度がニッケル金属の酸化下限温度を下回るまで、燃料電池スタックへの燃料供給量や空気供給量を適切に制御することによって、停止後Ni酸化度を所定のしきい値内に抑えるようにする。
【0069】
そこで、Ni酸化度を耐久性評価の指標として、SOFCシステムの耐久性を評価するのみならず、このNi酸化度が所定値以下となるようにシステム設計を行い、システムの通常停止時には、後述の停止制御を行うことにより、停止後のNi酸化度が所定値以下に収め、240回の起動停止に起因する電圧低下率を5%以下、好ましくは3%以下とすることができる。
【0070】
なお、SOFCシステムの設計にあたっては、実機での停止後Ni酸化度を測定し、これが所定値以内となるように、設計(発電停止条件の設定)にフィードバックする。
図6は発電停止制御のフローチャートである。
【0071】
S101では、発電停止要求の有無を判定し、発電停止要求有りの場合にS102へ進む。
S102では、発電停止要求が通常の定期的なメンテナンス時の要求か、もしくは、何らかのシステムトラブル発生等による緊急シャットダウン(緊急S/D)要求であるかを判定する。これは、システムの点検者ないしユーザーが選択操作できるように構成としてもよい。
【0072】
通常の要求時は、S103へ進み、発電回路を開放することにより電流掃引を停止し、同時に改質器への燃料・水の供給量を減少させる。
S104では、ニッケル金属の酸化下限温度Tsを読込む。この酸化下限温度Tsは内部メモリに記憶されており、停止後Ni酸化度を所定値以下にするように、メンテナンス時などにサービスマンにより書換え可能である。
【0073】
S105では、システム内の温度センサにより、燃料電池スタックの温度(スタック温度)Tを検出する。
S106では、検出されたスタック温度Tと酸化下限温度Tsとを比較し、T≦Tsか否かを判定する。
【0074】
T>Tsの場合は、S104、S105に戻って、スタック温度Tの検出と判定を続け、T≦Tsとなった時点で、S107へ進む。
S107では、改質器への燃料・水の供給を停止し、同時に燃料電池スタックへの改質燃料の供給を停止する。尚、フローでは省略したが、この後も、スタック温度Tを監視し、室温に達したところで、システムを完全停止する。
【0075】
このように、通常の発電停止要求時に、燃料電池スタックのセル支持体中のNi酸化度を所定値以下に抑える制御を行うことで、SOFCシステムの起動/停止に伴う酸化還元サイクルによる燃料電池スタックへのダメージを抑えることができる。
【0076】
一方、システムを運転中に燃料遮断や系統電力不具合、各種ポンプ不具合等なんらかの要因で緊急停止が必要な事態が発生する可能性がある。
このような事態においてはS102で発電停止要求が緊急を要していると判定され、S108へ進んで、電流掃引停止、燃料及び水の供給停止を同時に行う。
【0077】
この場合、改質ガス停止時のスタック最高温度を「ニッケル金属の酸化下限温度」にまで低下させることができず、セル支持体中のNi酸化度を所定値以下に抑えることが困難となる。
【0078】
さらに、本発明者らは、上記セル破壊メカニズムに基づき、上記システムの通常停止時の制御ができない緊急停止を行った場合においてもシステム起動時に昇温により酸化Niを還元させる発電前の昇温工程で、燃料電池スタックの発電部の最大温度差(上端部分の最高温度と下端部分の最低温度との温度差)を低く抑えることによって、発電部に生じる応力の増大が抑制され、セル破壊を有効に抑制できることを、以下のようにして見出した。
【0079】
起動時に、スタック発電部の最大温度差が大きいほど、ガス遮蔽機能を必要とする電解質層やインターコネクタ部にかかる残留応力が増大することが、実験及び熱応力解析により求められた。
【0080】
また、各種実験と解析の結果、起動時の発電部の最大温度差の条件によっては、繰り返し起動/停止により限界応力が低下することにより電解質層やインターコネクタ部の亀裂または剥離によりガス遮断機能が不完全となる問題があることが明らかになった。すなわち、図7に示すように、家庭用、発電設備として実用性に耐えうる時間(例えば10年)に発生する繰返し起動/停止(例えば240回以上)を行ったときの電圧低下(電圧低下率)に対し、起動時のスタック発電部の最大温度差が限界温度差(例えば350℃)を超える条件では、電圧低下率が限界低下率(例えば5%)を超えることが判明し、このため最大温度差を限界温度差(350℃)以下とする必要があることが見出された。
【0081】
さらに、起動時のスタック発電部の最大温度差を調整する方法として、起動時に燃料電池スタック10に供給される熱流量(熱流速)つまり燃料ガス流量を調整することが、好ましいとことが見出された。すなわち、図8に示すように、定格発電時の燃料ガス流量を1としたとき、起動時の最大燃料ガス流量を1.3倍以下とすることで最大温度差を350℃以下とすることが可能であるとともに、1.3倍以上では急速に最大温度差の上昇が大きくなることが判明した。また好ましくは1.2倍以下とすることで320℃以下とすることができ耐久性の信頼度がより高められる。
【0082】
しかしながらLPGや都市ガスを燃料とする家庭用の本システムでは家庭用ガスメータによる制約および顧客の都合により一月に最低1回以上の起動停止が発生する。
このため起動開始から発電開始までの起動時間が長く、起動エネルギーが大きいほど、本システムの導入目的である省エネ性が低下する。このため起動時間はできるだけ短い方が好ましく、実用として3時間以内であることが望まれる。
【0083】
ここで、起動時間の調整には、起動時の平均燃料ガス流量を調整することが有効であることが見出された。図9に示すように、定格発電時の燃料ガス流量を1としたとき、起動時の平均燃料ガス流量を0.6倍以上とすることで起動時間を3時間以内とすることが可能である一方、0.6倍未満である場合は、必要な起動時間が急増することを見出した。
【0084】
また、上記の結果にしたがって「起動時の最大燃料ガス流量をシステム定格発電時の最大燃料ガス流量を1.3倍以下、同じく平均燃料ガス流量をシステム定格発電時の平均燃料ガス流量0.6倍以上とする」とした場合においても条件によっては、燃焼部温度が耐久性を考慮した、部材最高温度である1000℃を超える問題があることが判明した。
【0085】
これに対し、さらなる解析により、燃料ガス流量を段階的ないし漸減する特性とすることで、部材最高温度を低減できることが判明した。特にシステムの起動開始時点の流量を第1流量、前記燃料電池スタックの温度が、前記セル支持体中の酸化Niの還元開始温度以上に設定された設定温度(例えば300℃)に達した時点の流量を第2流量、発電開始直前の流量を第3流量としたとき、次式を満たすように制御することで部材最高温度を1000℃以下に抑制でき、上記問題が解決されることが見出された。
【0086】
更にこの条件では350℃以下、起動時間3時間以内の条件を満たすだけでなく、起動時の積算燃料ガス流量も他の条件と比較し、小さくすることができ省エネ上好ましいことが判明した。
【0087】
以上の本発明者らによって見出された現象特性に基づき、緊急S/Dによってセル支持体中のNi酸化度が増大したような場合でも、システム起動時の昇温工程で、燃料電池スタックの発電部の最大温度差を低く抑えるように燃料ガス流量を時間経過と共に減少することにより、電圧低下率を減少して要求耐久性(実用耐久年数)を満たすことができる起動時制御の各実施形態を以下に示す。これら実施形態は、通常停止(Ni酸化度を所定値以下とする特別な停止制御を行わない従来方式による通常停止を含む)を行った際にも、同様のフローで示す起動方法を用いることで、劣化を抑制することができ汎用性の高い起動方法となっている。
【0088】
図10は、第1の実施形態に係る起動制御のフローチャート、図11は、上記制御時の変化の様子を示すタイムチャートである。
S1では、起動開始時に、改質器6から燃料電池スタック10へ供給される熱流量、すなわち燃料ガス流量Fを、起動制御中の最大燃料ガス流量に設定し、該最大燃料ガス流量FsMAXを、本システムの定格発電時の最大燃料ガス流量の1.3倍以下、より好ましくは1.2倍以下の燃料ガス流量F1に設定する。
【0089】
S2では、前記燃料ガスの燃焼部での燃焼による昇温で、燃料電池スタック10の温度(以下、スタック温度という)Tが、設定温度T1以下であるかを判定する。ここで、設定温度T1は、セル支持体中の酸化Niの燃料ガスにより所定以上の速度で還元される温度で、例えば、300℃に設定されている。
【0090】
S2で、スタック温度Tが設定温度T1以下であると判定されたとき、つまり設定温度T1に達するまでの間は、燃料ガス流量F2を、F1以下の値、つまり、起動開始時の最大燃料ガス流量F1のまま維持するか(図11実線)、それより減少して設定する(図11点線)。換言すれば、起動開始時の燃料ガス流量F1が、スタック温度Tが設定温度T1に達した時点の燃料ガス流量F2以上の値に設定される。ここで、F2をF1より減少させる場合、図11点線のようにF1から徐々に減少させる設定としてもよいが、F1より小の固定値に設定してもよい。
【0091】
スタック温度Tが、設定温度T1に達した後は、S4へ進み、発電開始条件が成立したかを判定する。例えば、改質器6で水素リッチな改質ガスの生成が行われ、かつ、燃料電池スタック10での改質ガスによる発電を良好に行うことができるスタック温度T以上となったときを発電開始条件として設定できる。
【0092】
発電開始条件が成立するまでは、S5で燃料ガス流量F3を、F2より減少する。ただし、起動開始から発電開始までの平均燃料ガス流量FAVEが、定格発電時の平均燃料ガス流量FgAVEの0.6倍以上となるように設定する。これは、該条件を満たすように、予め、実験やシミュレーションで発電開始条件に至るまでの燃料ガス流量特性を求めておいて設定することができる。なお、燃料ガス流量F3は、F2より小の固定値か、F2から徐々に減少させるかのいずれの設定としてもよいが、少なくとも、発電開始直前の流量F3は、F2より減少するように設定する。
【0093】
かかる制御とすれば、まず、起動制御中の最大燃料ガス流量を定格発電時の最大燃料ガス流量の1.3倍以下に設定することで、スタック発電部の最大温度差を350℃以下とすることができる。また、定格発電時の最大燃料ガス流量の1.2倍以下とした場合は、スタック発電部の最大温度差を320℃以下まで減少できる。
【0094】
このようにスタック発電部の最大温度差ΔTMAXを350℃以下さらには320℃以下に維持されることにより、セル支持体とこれに積層されるセル構成層(燃料極層、電解質層、空気極層など)との間、あるいは各層間で発生する応力を限界応力以下に軽減でき、これらの間の剥離、更には、セル支持体自体の破壊などのセル破壊に至る故障の発生を抑制できる。
【0095】
また、起動開始時の燃料ガス流量F1を第1流量f1、スタック温度が設定温度(300℃)に達したときの燃料ガス流量を第2流量f2、発電開始直前の燃料ガス流量を第3流量f3としたとき、f1≧f2>f3の関係を満たすように、燃料ガス流量を段階的ないし徐々に減少させて昇温速度を低下させることにより、発電部の最大温度となる燃焼部近傍の温度を、耐久性を考慮した部材最大温度(1000℃)以下に抑えることができる。
【0096】
一方、起動開始から発電開始までの平均燃料ガス流量FAVEが、定格発電時の平均燃料ガス流量FgAVEの0.6倍以上に設定されることにより、起動開始から発電開始までの起動時間を3時間以内とすることができる。
【0097】
以上の各要件が満たされる結果、家庭用、発電設備として実用性に耐えうる時間(例えば10年)の耐久性を確保し、良好な発電性能を確保しつつ、できるだけ短時間で発電を開始させることができる。
【0098】
なお、システムを高温状態で緊急シャットダウンしたときは、通常停止した場合に比較してセル支持体のNi酸化度が増大するため、起動制御時に同一の還元速度で還元を行った場合には、還元に時間を要することになる。
【0099】
その場合でも、上記の各条件を満たす起動制御を行うことにより、耐久性を確保しつつ発電開始までの起動時間を3時間以内とすることができる。換言すれば、緊急シャットダウンされる通常の頻度(10年間での回数である200回以上を想定)を考慮して上記各値が設定されるからである。
【0100】
ただし、上記各条件を満たしつつも、通常停止後の起動制御と緊急シャットダウン後の起動制御とを切り換えるようにしてもよい。
図12は、通常停止後の起動制御と緊急シャットダウン後の起動制御とを切り換える第2実施形態のフローチャート、図13は、上記制御時の変化の様子を示すタイムチャートである。
【0101】
S1〜S4の起動開始から、スタック温度Tが、セル支持体中の酸化Niの燃料ガスにより所定以上の速度で還元される設定温度(300℃±50℃)に達するまでの制御は、第1実施形態の制御と同様である。
【0102】
スタック温度Tが設定温度T1に達した後、S11では、前回システム停止時に燃料供給を停止したときのスタック温度Tが、所定温度Tb以下であったかを判定する。ここで、所定温度Tbは、上記システム停止時の発電停止制御を行ってセル支持体中のNi酸化度を3%以内に制御されたか否かを判別する温度に設定されており、したがって、Tbを、改質ガス停止温度Tsと等しいか、Tsより少し大きめ値に設定されている。
【0103】
前回システム停止時のスタック温度Tが所定温度Tb以下のとき、つまり、上記システム停止時の発電停止制御を行ってセル支持体中のNi酸化度を所定値以内とする制御が実施されたときは、S12へ進む。
【0104】
また、前回システム停止時のスタック温度Tが所定温度Tbを超えるとき、つまりスタック温度Tが高温状態でシステムを緊急シャットダウンしたときは、S13へ進む。
S12,S13では、いずれもそれぞれの燃料ガス流量F3,F4をF2より減少し、かつ、起動開始から発電開始までの平均燃料ガス流量FAVEが、定格発電時の平均燃料ガス流量FgAVEの0.6倍以上となるように設定することは同様であるが、F4はF3より小さい値に設定される。なお、固定値同士でF4<F3としてもよいが、F2から徐々に減少させる特性として、F4の減少率をF3の減少率より大きく設定してもよい。
【0105】
このように、前回システムを緊急シャットダウンした後の燃料ガス流量F3を、通常停止した後の燃料ガス流量F4より減少させ、あるいは、減少率を大きくすることにより、スタック温度Tの昇温速度をより低下させ、発電部の最大温度差を低く抑えられる温度帯を、より長くすることができるため、耐久性を確保しつつ、セル支持体中の酸化度大の酸化Niを還元処理することができる。
【0106】
一方、通常停止後の起動時は、緊急シャットダウン時より大きな燃料ガス流量F3としてスタック温度Tの昇温速度を緊急シャットダウン時より大きくすることで、Ni酸化度を所定値以内に制御されたセル支持体中の酸化Niを、より速やかに還元処理することができる。なお、昇温速度が緊急シャットダウン時より大きくなっても、最大温度差は350℃以下に維持され、かつ、還元処理時間も短縮されるので、耐久性を良好に維持でき良好な発電性能を確保できる。
【0107】
このように、本第2実施形態では、システム停止時のNi酸化度に応じて起動制御を切り換えることにより、システムの実用期間中、耐久性を維持して良好な発電性能を確保しつつ可能な限り発電開始までの時間を短縮することができる。
【0108】
また、以上示した各制御は、外気温変化や経時変化が生じても制御系として破綻しない、セルの破壊原理に基づいた制御方法であり、今後SOFCシステムの本格普及に伴い、部品の簡素化や制御系の簡略化が進んでも適用できる技術であると考えられる。
【0109】
尚、図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0110】
1 ホットモジュール
2 モジュールケース
3 燃料・水及びATR用空気の供給管
4 カソード用空気の供給管
5 排気口
6 改質器
6a 改質ガス出口部
7 改質ガス供給管
8 マニホールド
10(10−1、10−2) 燃料電池スタック
20 燃料電池セル
21 セル支持体
22 ガス流路
23 燃料極層
24 固体酸化物電解質層
25 空気極層
26 インターコネクタ
30 集電部材
40 導電部材
50 制御ユニット
51 温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質反応により水素リッチな燃料ガスを生成する改質器と、
前記燃料ガスの通路が形成され、ニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなるセル支持体を含み、前記燃料ガスと空気とを反応させて発電する燃料電池スタックと、
前記改質器及び前記燃料電池スタックを取り囲み、その内部で前記燃料電池スタックでの余剰の燃料ガスを燃焼させることにより、前記改質器及び前記燃料電池スタックを昇温して高温状態に維持するモジュールケースと、
を含んで構成された固体酸化物形燃料電池システムであって、
システム起動時に、前記燃料電池スタックを昇温して酸化された前記ニッケル金属を還元する発電前の昇温工程で、前記燃料電池スタックの発電部の最大温度差を、該発電部の耐久性を考慮して設定された限界温度差以下に維持するように、前記改質器から前記燃料電池スタックへ供給される燃料ガス流量を、時間経過と共に減少制御する起動制御手段と、
を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項2】
前記起動制御手段は、前記昇温工程での前記燃料電池スタックの発電部の最大温度差を、350℃以下に維持するように前記燃料ガス流量を制御する、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項3】
前記起動制御手段は、前記昇温工程での燃料ガス流量について、最大流量をシステム定格発電時最大流量の1.3倍以下で、かつ、平均流量をシステム定格発電時平均流量の0.6倍以上に制御する、請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項4】
前記起動制御手段は、システム起動前のシステム停止時に前記改質器への燃料供給を停止したときの前記燃料スタック温度が所定温度Tbを超えているときは、超えていないときに比較し、前記燃料ガス流量の減少度を大きく制御する、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項5】
システムの通常停止時に、該停止後の前記ニッケル金属の酸化度合いが所定値以下となるように制御する停止時制御手段を含んでいる、請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項6】
前記ニッケル金属の酸化度合いは、下記の式により定義されるNi酸化度に基づいて算出され、
前記停止時制御手段は、システムの通常停止後における酸化度が所定値以下となるように制御する、請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
Ni酸化度=(セル本体中に含まれるNi原子のうち、NiOとして存在するモル数)/(セル本体中の全Ni原子のモル数)×100(%)
【請求項7】
改質反応により水素リッチな燃料ガスを生成する改質器と、少なくともニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなるセル支持体を含み、前記改質器からの燃料ガスと空気とを反応させて発電する燃料電池スタックと、前記改質器及び前記燃料電池スタックを取り囲み、その内部で前記燃料電池スタックでの余剰の燃料ガスを燃焼させることにより、前記改質器及び前記燃料電池スタックを昇温して高温状態に維持するモジュールケースと、を含んで構成された固体酸化物形燃料電池システムの起動制御方法であって、
システム起動時に、前記燃料電池スタックを昇温する発電前の昇温工程で、前記燃料電池スタックの発電部の最大温度差を、該発電部の耐久性を考慮して設定された限界温度差以下に維持するように、前記改質器から前記燃料電池スタックへ供給される燃料ガス流量を、時間経過と共に減少制御する
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池システムの起動制御方法。
【請求項1】
改質反応により水素リッチな燃料ガスを生成する改質器と、
前記燃料ガスの通路が形成され、ニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなるセル支持体を含み、前記燃料ガスと空気とを反応させて発電する燃料電池スタックと、
前記改質器及び前記燃料電池スタックを取り囲み、その内部で前記燃料電池スタックでの余剰の燃料ガスを燃焼させることにより、前記改質器及び前記燃料電池スタックを昇温して高温状態に維持するモジュールケースと、
を含んで構成された固体酸化物形燃料電池システムであって、
システム起動時に、前記燃料電池スタックを昇温して酸化された前記ニッケル金属を還元する発電前の昇温工程で、前記燃料電池スタックの発電部の最大温度差を、該発電部の耐久性を考慮して設定された限界温度差以下に維持するように、前記改質器から前記燃料電池スタックへ供給される燃料ガス流量を、時間経過と共に減少制御する起動制御手段と、
を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項2】
前記起動制御手段は、前記昇温工程での前記燃料電池スタックの発電部の最大温度差を、350℃以下に維持するように前記燃料ガス流量を制御する、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項3】
前記起動制御手段は、前記昇温工程での燃料ガス流量について、最大流量をシステム定格発電時最大流量の1.3倍以下で、かつ、平均流量をシステム定格発電時平均流量の0.6倍以上に制御する、請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項4】
前記起動制御手段は、システム起動前のシステム停止時に前記改質器への燃料供給を停止したときの前記燃料スタック温度が所定温度Tbを超えているときは、超えていないときに比較し、前記燃料ガス流量の減少度を大きく制御する、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項5】
システムの通常停止時に、該停止後の前記ニッケル金属の酸化度合いが所定値以下となるように制御する停止時制御手段を含んでいる、請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項6】
前記ニッケル金属の酸化度合いは、下記の式により定義されるNi酸化度に基づいて算出され、
前記停止時制御手段は、システムの通常停止後における酸化度が所定値以下となるように制御する、請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池システム。
Ni酸化度=(セル本体中に含まれるNi原子のうち、NiOとして存在するモル数)/(セル本体中の全Ni原子のモル数)×100(%)
【請求項7】
改質反応により水素リッチな燃料ガスを生成する改質器と、少なくともニッケル金属を含む組成の多孔性物質からなるセル支持体を含み、前記改質器からの燃料ガスと空気とを反応させて発電する燃料電池スタックと、前記改質器及び前記燃料電池スタックを取り囲み、その内部で前記燃料電池スタックでの余剰の燃料ガスを燃焼させることにより、前記改質器及び前記燃料電池スタックを昇温して高温状態に維持するモジュールケースと、を含んで構成された固体酸化物形燃料電池システムの起動制御方法であって、
システム起動時に、前記燃料電池スタックを昇温する発電前の昇温工程で、前記燃料電池スタックの発電部の最大温度差を、該発電部の耐久性を考慮して設定された限界温度差以下に維持するように、前記改質器から前記燃料電池スタックへ供給される燃料ガス流量を、時間経過と共に減少制御する
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池システムの起動制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−101885(P2013−101885A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245893(P2011−245893)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]