説明

固体酸化物形燃料電池セル、セルスタック装置、燃料電池モジュールおよび燃料電池装置

【課題】 長期信頼性を向上できる固体酸化物形燃料電池セル、セルスタック、燃料電池モジュールおよび燃料電池装置を提供する。
【解決手段】 柱状の導電性支持体2の周囲の一部に、長手方向に延びて設けられた中間層9と、導電性支持体2の中間層9が形成されていない部分に設けられた内側電極である燃料極層3と、該燃料極層3を覆うように、かつ両端が中間層9の両端と離間するように設けられた固体電解質層4と、該固体電解質層4上に設けられた外側電極である酸素極層5と、中間層9上に、かつ両端部が固体電解質層4の両端部に重畳するように設けられたインターコネクタ6とを有し、該インターコネクタ6の一部が、固体電解質層4の両端と中間層9の両端との間における導電性支持体2に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性支持体に、インターコネクタと、燃料極層と、固体電解質層と、酸素極層とを備える固体酸化物形燃料電池セル、セルスタック装置、燃料電池モジュールおよび燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代エネルギーとして、燃料電池セルを電気的に直列に複数個接続してなるセルスタック装置を、収納容器内に収容してなる燃料電池モジュールが種々提案されている。
【0003】
このようなセルスタック装置を構成する燃料電池セルとしては、燃料ガスを流すための燃料ガス流路を内部に有する導電性支持体の一方側の主面上に、多孔質の燃料極層、緻密質な固体電解質層および酸素極層がこの順に積層され、他方側の主面上に、中間層、緻密質なインターコネクタが設けられているとともに、固体電解質層の両端部が他方側の主面上まで延設され、中間層を介して固体電解質層の両端部とインターコネクタの両端部とが接合されているものが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
このような燃料電池セルでは、中間層とインターコネクタとの熱膨張差や、中間層に含有される鉄族の金属酸化物が鉄族金属に還元されることに伴う還元収縮により、固体電解質層とインターコネクタとが剥離する場合があった。これにより、燃料電池セルの内部の燃料ガスが、固体電解質層とインターコネクタ層との間からリークするおそれがあった。
【0005】
そこで、近年では、中間層を固体電解質層の両端部間に位置する導電性支持体だけに形成し、燃料電池セルの周方向(幅方向)におけるインターコネクタの両端部を、燃料電池セルの幅方向における固体電解質層の両端部に直接接合した燃料電池セルが開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−158529号公報
【特許文献2】特開2011−113830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、中間層を固体電解質層の両端部間に位置する導電性支持体だけに形成することは困難であり、固体電解質層の両端部と間隔をおいて中間層を形成することとなる。 しかしながら、この場合には、中間層上および固体電解質層の両端部上に配置される
インターコネクタと、導電性支持体との間であって、中間層端と固体電解質層端との間に空間が形成されるおそれがあり、長期発電により、上記空間に沿ってクラックが生成し、ガスリークする等の不具合が生じ、 燃料電池セルの長期信頼性が低下するおそれがあっ
た。
【0008】
本発明は、長期信頼性を向上できる固体酸化物形燃料電池セル、セルスタック、燃料電池モジュールおよび燃料電池装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の固体酸化物形燃料電池セルは、柱状の導電性支持体の周囲の一部に、長手方向に延びて設けられた中間層と、前記導電性支持体の前記中間層が形成されていない部分に設けられた内側電極層と、該内側電極層を覆うように、かつ両端が前記中間層の両端と離間するように設けられた固体電解質層と、該固体電解質層上に設けられた外側電極層と、前記中間層上に、かつ両端部が前記固体電解質層の両端部に重畳するように設けられたインターコネクタとを有し、該インターコネクタの一部が、前記固体電解質層の両端と前記中間層の両端との間における前記導電性支持体に設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池セルは、柱状の導電性支持体の周囲の一部に、長手方向に延びて設けられた中間層と、前記導電性支持体の周囲の前記中間層が形成されていない部分に設けられた燃料極層と、該燃料極層を覆うように、かつ両端が前記中間層の両端と離間するように設けられた固体電解質層と、該固体電解質層上に設けられた外側電極と、前記中間層上に、かつ両端部が前記固体電解質層の両端部に重畳するように設けられたインターコネクタとを有し、前記固体電解質層の両端と前記中間層の両端との間における前記導電性支持体に緻密質セラミックスが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固体酸化物形燃料電池セルは、インターコネクタの一部が、固体電解質層の両端と中間層の両端との間における導電性支持体に設けられており、または、固体電解質層の両端と中間層の両端との間における導電性支持体に緻密質セラミックスが設けられており、固体電解質層の両端と中間層の両端との間には、インターコネクタの一部または緻密質セラミックスが設けられているため、従来のような空間は形成されておらず、これにより、燃料電池セルにおけるクラック等の発生を抑制でき、ガスリークを抑制でき、燃料電池セルの長期信頼性を向上できる。また上記の燃料電池セルを備えることで、長期信頼性の向上したセルスタック装置、燃料電池モジュールおよび燃料電池装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】燃料電池セルの一例を示したものであり、(a)はその横断面図、(b)は(a)の斜視図である。
【図2】燃料電池セルのインターコネクタ側から見た側面図である。
【図3】セルスタック装置の一例を示し、(a)はセルスタック装置を概略的に示す側面図、(b)は(a)のセルスタック装置の点線枠で囲った部分の一部を拡大した断面図である。
【図4】燃料電池モジュールの一例を示す外観斜視図である。
【図5】燃料電池装置の一例を示す分解斜視図である。
【図6】固体電解質層の両端と中間層の両端との間における導電性支持体に緻密質セラミックスが配置された状態を示す燃料電池セルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、燃料電池セルの一実施形態を示すものであり、(a)は横断面図、(b)は(a)の斜視図である。なお、両図面において、燃料電池セル1の各構成を一部拡大して示している。また、同一の部材に関しては同一の符号を付している。
【0014】
燃料電池セル1は、中空平板型の形状をしており、全体的に見て楕円柱状をした導電性支持体2を備えている。導電性支持体2は細長い板状ということもできる。導電性支持体2の内部には、所定の間隔で長手方向Lの一端から他端まで貫通した複数の燃料ガス流路7が形成されており、燃料電池セル1はこの導電性支持体2上に各種の部材が設けられた構造を有している。
【0015】
導電性支持体2は、図1に示されている形状から理解されるように、互いに平行な一対の平坦面nと、一対の平坦面nをそれぞれ接続する弧状面(側面)mとで構成されている。
【0016】
導電性支持体2の一方の平坦面nには、中間層9、緻密質なインターコネクタ6が導電性支持体2の長手方向Lの一端から他端にかけて設けられており、インターコネクタ6が設けられていない他方の平坦面nおよび両側面mに多孔質の内側電極である燃料極層3と、燃料極層3の外面を覆うような緻密質な固体電解質層4と、多孔質の外側電極である酸素極層5とが積層された積層体が設けられている。なお図1に示す燃料電池セル1においては、導電性支持体2の他方の主面における固体電解質層4上には拡散防止層8を介して、燃料極層3(より詳しくはインターコネクタ6)と対面するように酸素極層5が積層されている。また、以下の説明において、内側電極を燃料極層3、外側電極を酸素極層5として説明する。
【0017】
そして、燃料電池セル1においては、図1、図2に示すように、燃料極層3および固体電解質層4は、他方の主面から両端の弧状面mを経由して一方の主面のインターコネクタ6の燃料電池セル1の周方向(幅方向W)における両側部まで延設されており、一方の平坦面nに設けられた中間層9の両端と、燃料極層3および固体電解質層4の両端とが所定間隔をおいて離間され、中間層9の両端と、燃料極層3および固体電解質層4の両端との間における導電性支持体2には、インターコネクタ6の一部6aが配置されている。
【0018】
言い換えれば、中間層9は、図2に示すように、導電性支持体2の長手方向Lに延びて形成されている。その幅方向Wの両端は、図1に示したように、導電性支持体2の弧状面mを経由して一方の平坦面nまで延設された燃料極層3の両端、およびこの燃料極層3を覆うように形成された固体電解質層4の両端と、所定間隔Sをおいて離間しており、燃料極層3の両端、および固体電解質層4の両端と、中間層9の両端との間には、インターコネクタ6の一部6aが配置されている。
【0019】
すなわち、後述するように、中間層9の上面、固体電解質層4の両端部上面に、インターコネクタ6を形成する材料を含有するスラリーを塗布することにより、中間層9の上面、固体電解質層4の両端部上面のみならず、燃料極層3および固体電解質層4の両端と中間層9の両端との間における導電性支持体2にインターコネクタ6を形成するスラリーを塗布し、焼成することにより、中間層9の両端と、燃料極層3および固体電解質層4の両端との間における導電性支持体2に、インターコネクタ6の一部6aが配置されていることになる。
【0020】
インターコネクタ6は、中間層9の上面、緻密質セラミックス6aの上面および固体電解質層4の両端部上面に重畳し、接合している。中間層9および燃料極層3は、NiおよびNiOのうち少なくとも一方を含有している。
【0021】
燃料極層3の両端、および固体電解質層4の両端と、中間層9の両端との間の間隔Sは、インターコネクタ6の一部6aを形成できる間隔であれば特に限定されるものではないが、特には、インターコネクタ6を形成するスラリーを流し込むという点からは、導電性支持体の幅に対する間隔Sの比は0.014以上が望ましく、インターコネクタ6と導電性支持体2との反応を抑制しつつ、インターコネクタ6と導電性支持体2との接合強度を向上するという点からは、0.13以下であることが望ましい。 例えば、導電性支持体
の幅が30mmの場合に、0.5〜2mmであることが望ましい。
【0022】
なお、燃料極層3は酸素極層5と対面する導電性支持体2の領域にのみ設け、その他の導電性支持体2の領域は固体電解質層4にて覆う構成としてもよい。
【0023】
ここで、燃料電池セル1は、燃料極層3と酸素極層5との対面している部分が電極として機能することにより発電する。即ち、酸素極層5の外側に空気等の酸素含有ガスを流し、且つ導電性支持体2内の燃料ガス流路7に燃料ガス(水素含有ガス)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより発電する。かかる発電によって生じた電流は、導電性支持体2の表面に設けられたインターコネクタ6を介して集電される。
【0024】
以下に、本実施形態の燃料電池セル1を構成する各部材について説明する。
【0025】
導電性支持体2は、燃料ガスを燃料極層3まで透過させるためにガス透過性であること、インターコネクタ6を介して集電を行うために導電性であることが要求されることから、例えば、NiおよびNiOのうち少なくとも一方と、無機酸化物、特に特定の希土類酸化物とにより形成されることが好ましい。
【0026】
特定の希土類酸化物とは、導電性支持体2の熱膨張係数を固体電解質層4の熱膨張係数に近づけるために使用されるものであり、Y、Lu(ルテチウム)、Yb、Tm(ツリウム)、Er(エルビウム)、Ho(ホルミウム)、Dy(ジスプロシウム)、Gd、Sm、Pr(プラセオジム)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物を、NiおよびNiOのうち少なくとも一方との組み合わせで使用することができる。このような希土類酸化物の具体例としては、Y、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Gd、Sm、Prを例示することができ、NiおよびNiOのうち少なくとも一方との固溶、反応が殆どなく、また、熱膨張係数が固体電解質層4と同程度であり、かつ安価であるという点から、Y、Ybが好ましい。
【0027】
また、本実施形態においては、導電性支持体2の良好な導電率を維持し、かつ熱膨張係数を固体電解質層4と近似させるという点で、焼成−還元後における体積比率が、Ni:希土類元素酸化物(例えば、Ni:Y)が35:65〜65:35(Ni/(Ni+Y)がモル比で65〜86mol%)の範囲にあることが好ましい。なお、導電性支持体2は、上記特定の希土類酸化物を含む必要性はなく、他の無機酸化物を含有するものであっても良い。導電性支持体2中には、要求される特性が損なわれない限りの範囲で、他の金属成分や酸化物成分を含有していてもよい。
【0028】
また、導電性支持体2は、ガス透過性を有していることが必要であるため、気孔率が30%以上、特に35〜50%の範囲にあることが好ましい。また、導電性支持体2の導電率は、50S/cm以上、より好ましくは300S/cm以上、特に好ましくは440S/cm以上とすることがよい。
【0029】
なお、導電性支持体2の平坦面nの長さ(導電性支持体2の幅方向Wの長さ)は、15〜35mm、弧状面mの長さ(弧の長さ)は、2〜8mmであり、導電性支持体2の厚み(平坦面n間の厚み)は1.5〜5mmであることが好ましい。
【0030】
燃料極層3は、電極反応を生じさせるものであり、鉄族金属であるNiおよびNiOのうち少なくとも一方と、希土類元素が固溶したZrOとから形成することができる。なお、希土類元素としては、導電性支持体2において例示した希土類元素(Y等)を用いることができる。
【0031】
燃料極層3において、NiおよびNiOのうち少なくとも一方と、希土類元素が固溶したZrOの含有量は、焼成−還元後における体積比率が、Ni:希土類元素が固溶したZrO(例えば、NiO:YSZ)が35:65〜65:35の範囲にあるのが好まし
い。さらに、この燃料極層3の気孔率は、15%以上、特に20〜40%の範囲にあるのが好ましく、その厚みは、1〜30μmであるのが好ましい。
【0032】
固体電解質層4は、3〜15モル%のY(イットリウム)、Sc(スカンジウム)、Yb(イッテルビウム)等の希土類元素を含有した部分安定化あるいは安定化ZrOからなる緻密質なセラミックスを用いるのが好ましい。また、希土類元素としては、安価であるという点からYが好ましい。さらに、固体電解質層4は、ガス透過を防止するという点から、相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上の緻密質であることが望ましく、かつその厚みが5〜50μmであることが好ましい。なお、固体電解質層4は、ジルコニア系に限定されるものではなく、例えばランタンガレート系の固体電解質であっても良い。
【0033】
また、固体電解質層4と後述する酸素極層5との間に、固体電解質層4と酸素極層5との接合を強固とするとともに、固体電解質層4の成分と酸素極層5の成分とが反応して電気抵抗の高い反応層が形成されることを抑制する目的で拡散防止層8を備えることもでき、図1に示した燃料電池セル1においては拡散防止層8を備えた例を示している。
【0034】
ここで、拡散防止層8は、Ce(セリウム)と他の希土類元素とを含有する組成にて形成することができ、例えば、(CeO1−x(REO1.5(REはSm、Y、Yb、Gdの少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数。)で表される組成を有していることが好ましい。さらには、電気抵抗を低減するという点から、REとしてSmやGdを用いることが好ましく、例えば10〜20モル%のSmO1.5またはGdO1.5が固溶したCeOからなることが好ましい。なお、拡散防止層8は例えば2層より構成することもでき、この場合1層目を固体電解質層4と同時焼成により設けた後に、同時焼成よりも200℃以上低い温度にて2層目を別途焼成することが好ましい。
【0035】
また、酸素極層5は、ガス透過性を有する必要があり、従って、酸素極層5を形成する導電性セラミックス(ペロブスカイト型酸化物)は、気孔率が20%以上、特に30〜50%の範囲にあることが好ましい。さらに、酸素極層5の厚みは、集電性という点から30〜100μmであることが好ましい。
【0036】
インターコネクタ6は、導電性セラミックスにより形成されることが好ましいが、燃料ガス(水素含有ガス)および酸素含有ガスと接触するため、耐還元性、耐酸化性を有していることが必要である。このため、耐還元性、耐酸化性を有する導電性セラミックスとしては、一般に、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(LaCrO系酸化物)が使用され、特に導電性支持体2と固体電解質層4との熱膨張係数を近づける目的から、LaCrO系酸化物が用いられる。インターコネクタ6は、LaCrO系酸化物に限定されるものではない。
【0037】
また、インターコネクタ6の厚みは、ガスのリーク防止と電気抵抗という点から、10〜50μmであることが好ましい。この範囲よりも厚みが薄いと、ガスのリークを生じやすく、またこの範囲よりも厚みが大きいと、電気抵抗が大きく、電位降下により集電機能が低下してしまうおそれがある。
【0038】
さらに、導電性支持体2とインターコネクタ6との間には、インターコネクタ6と導電性支持体2との反応を抑制するとともに、インターコネクタ6と導電性支持体2との接合強度を向上するために中間層9が設けられている。中間層9の厚みは、5〜20μmとすることが好ましい。
【0039】
中間層9は、無機酸化物、例えば、希土類元素酸化物、希土類元素が固溶したZrO
、希土類元素が固溶したCeOのうち少なくとも1種と、NiおよびNiOのうち少なくとも一方とを含有して構成することができる。より具体的には、例えばYとNiおよびNiOのうち少なくとも一方からなる組成や、Yが固溶したZrO(YSZ)とNiおよびNiOのうち少なくとも一方からなる組成、Y、Sm、Gd等が固溶したCeOとNiおよびNiOのうち少なくとも一方からなる組成から形成することができる。なお、希土類元素酸化物や希土類元素が固溶したZrO(CeO)と、NiおよびNiOのうち少なくとも一方とは、焼成−還元後における体積比率が40:60〜60:40の範囲となるように形成することが好ましい。
【0040】
また、図示していないが、インターコネクタ6の外面(上面)には、P型半導体層を設けることが好ましい。集電部材を、P型半導体層を介してインターコネクタ6に接続させることにより、両者の接触がオーム接触となり、電位降下を少なくでき、集電性能の低下を有効に回避することが可能となる。
【0041】
このようなP型半導体層としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物からなる層を例示することができる。具体的には、電子伝導性が大きいもの、例えば、BサイトにMn、Fe、Coなどが存在するLaMnO系酸化物、LaFeO系酸化物、LaCoO系酸化物などの少なくとも一種からなるP型半導体セラミックスを使用することができる。このようなP型半導体層の厚みは、一般に、30〜100μmの範囲にあることが好ましい。
【0042】
ところで、従来の燃料電池セルにおいては、燃料電池セルの作製時や、還元処理時に、固体電解質層、固体電解質層の両端部の間に形成された中間層および燃料極層と、インターコネクタとの熱膨張差や、中間層および燃料極層に含有される鉄族の金属酸化物が鉄族金属に還元されることに伴う還元収縮により、固体電解質層の両端部とインターコネクタとが剥離する場合があり、燃料電池セルの内部に設けられた燃料ガス流路を流れた燃料ガスがリークし、燃料電池セルの長期信頼性が低下するおそれがある。
【0043】
これに対し、図1に示す燃料電池セル1は、燃料電池セル1の周方向(幅方向W)におけるインターコネクタ6の両端部が燃料電池セル1の幅方向Wにおける固体電解質層4の両端部に積層され、直接接合しているため、固体電解質層4の両端部とインターコネクタ6の両端部との間から燃料ガスがリークすることを抑制することができる。そのため、燃料電池セル1の長期信頼性を向上させることができる。
【0044】
また、中間層9の両端と、燃料極層3および固体電解質層4の両端とが所定間隔Sをおいて離間され、中間層9の両端と、燃料極層3および固体電解質層4の両端との間における導電性支持体2には、インターコネクタ6の一部6aが配置されているため、固体電解質層4の両端と中間層9の両端との間に空間が形成されることがなく、これにより、燃料電池セル1におけるクラック等 の発生を抑制でき、燃料電池セル1の長期信頼性を向上
できる。
【0045】
以上説明した本実施形態の燃料電池セル1の作製方法について説明する。
【0046】
先ず、NiおよびNiOの少なくとも一方の粉末と、例えばYなどの希土類酸化物の粉末と、有機バインダーと、溶媒とを混合して坏土を調製し、この坏土を用いて押出成形により導電性支持体2成形体を作製し、これを乾燥する。なお、導電性支持体2成形体として、導電性支持体2成形体を900〜1000℃にて2〜6時間仮焼した仮焼体を用いてもよい。
【0047】
続いて、中間層9成形体を形成する。例えば、Yが固溶したZrOとNiOが体積比
で40:60〜60:40の範囲となるように混合して乾燥し、有機バインダー等を加えて中間層用スラリーを調整する。調整した中間層用スラリーを、導電性支持体2成形体の一方側主面に、長手方向Lに延びるように塗布し、乾燥し、中間層9成形体を形成する。
【0048】
次に、例えば所定の調合組成に従いNiO、Yが固溶したZrO(YSZ)の素原料を秤量、混合する。この後、混合した粉体に、有機バインダーおよび溶媒を混合して燃料極層3用スラリーを調製する。
【0049】
さらに、希土類元素が固溶したZrO粉末に、トルエン、バインダー、市販の分散剤等を加えてスラリー化したものをドクターブレード等の方法により、7〜75μmの厚さに成形してシート状の固体電解質層4成形体を作製する。得られたシート状の固体電解質層4成形体上に燃料極層3用スラリーを塗布して燃料極層3成形体が形成された積層体成形体を形成し、この積層体成形体を、燃料極層3成形体を下面として導電性支持体2成形体の他方側主面から側面を介して一方側主面まで延設し、燃料極層3成形体、固体電解質層4成形体の両端が、中間層9成形体の幅方向Wの両端と所定間隔Sをおいて離間するように積層する。
【0050】
続いて固体電解質層4と酸素極層5との間に配置する拡散防止層8成形体を形成する。例えば、GdO1.5が固溶したCeO粉末を800〜900℃にて2〜6時間、熱処理を行い、その後、湿式解砕して凝集度を5〜35に調整し、拡散防止層8成形体用の原料粉末を調整する。湿式解砕は溶媒を用いて10〜20時間ボールミルすることが望ましい。なお、拡散防止層8をSmO1.5が固溶したCeO粉末より形成する場合も同様である。
【0051】
そして、凝集度が調製された拡散防止層8成形体の原料粉末に、溶媒としてトルエンを添加し、拡散防止層8用スラリーを作製し、このスラリーを固体電解質層4成形体上に塗布して拡散防止層8成形体を作製する。なお、シート状の拡散防止層8成形体を作製し、これを固体電解質層4成形体上に積層してもよい。
【0052】
続いて、インターコネクタ6用材料(例えば、LaCrMgO系酸化物粉末)、有機バインダー及び溶媒を混合してスラリーを調製し、このスラリーを、固体電解質層4成形体の両端部上面、中間層9成形体上面、中間層9成形体の両端と固体電解質層4成形体の両端、燃料極層3成形体の両端との間に塗布し、インターコネクタ6成形体を形成する。
【0053】
次いで、上記の積層成形体を脱バインダー処理し、酸素含有雰囲気中、1400℃〜1600℃にて2〜6時間、同時焼結(同時焼成)する。
【0054】
次いで、酸素極層5用材料(例えば、LaCoO系酸化物粉末)、溶媒および増孔剤を含有するスラリーをディッピング等により拡散防止層8上に塗布する。また、インターコネクタ6の所定の位置に、必要によりP型半導体層用材料(例えば、LaCoO系酸化物粉末)と溶媒を含むスラリーを、ディッピング等により塗布する。その後、1000〜1300℃で、2〜6時間焼き付けることにより、図1に示す構造の本実施形態の燃料電池セル1を製造できる。なお、燃料電池セル1は、その後、内部に水素ガスを流し、導電性支持体2および燃料極層3の還元処理を行なうのが好ましい。その際、例えば750〜1000℃にて5〜20時間還元処理を行なうのが好ましい。
【0055】
以上のように、本実施形態の燃料電池セル1は、導電性支持体2が緻密質なインターコネクタ6および緻密質な固体電解質層4で封止されていることにより、燃料ガスが導電性支持体2、燃料極層3および中間層9からリークすることを抑制することができる。それにより、長期信頼性の向上した燃料電池セル1とすることができる。
【0056】
図3は、上述した燃料電池セル1の複数個を、集電部材14を介して電気的に直列に接続して構成されるセルスタック装置の一例を示したものであり、(a)はセルスタック装置12を概略的に示す側面図、(b)は(a)のセルスタック装置12の一部拡大断面図であり、(a)で示した点線枠で囲った部分を抜粋して示している。なお、(b)において(a)で示した点線枠で囲った部分に対応する部分を明確とするために矢印にて示している。
【0057】
なお、セルスタック装置12においては、各燃料電池セル1を集電部材14を介して配列することでセルスタック13を構成しており、各燃料電池セル1の下端部が、燃料電池セル1に燃料ガスを供給するためのマニホールド15に、ガラスシール材等の接着剤により固定されている。また、マニホールド15に下端部が固定された弾性変形可能な導電部材16により、燃料電池セル1の配列方向の両端からセルスタック13が挟持されている。
【0058】
また、図3に示す導電部材16においては、燃料電池セル1の配列方向に沿って外側に向けて延びた形状で、セルスタック13(燃料電池セル1)の発電により生じる電流を引出すための電流引出し部17が設けられている。
【0059】
ここで、本実施形態のセルスタック装置12においては、上述した燃料電池セル1を用いて、セルスタック13を構成することにより、緻密質なインターコネクタ6および緻密質な固体電解質層4で封止されていることにより、燃料ガスがリークすることを抑制することができ、長期信頼性の向上したセルスタック装置12とすることができる。
【0060】
図4は、本実施形態のセルスタック装置12を収納容器内に収納してなる燃料電池モジュール20の一例を示す外観斜視図であり、直方体状の収納容器21の内部に、図4に示したセルスタック装置12を収納して構成されている。
【0061】
なお、燃料電池セル1にて使用する燃料ガスを得るために、天然ガスや灯油等の原燃料を改質して燃料ガスを生成するための改質器22がセルスタック13の上方に配置されている。そして、改質器22で生成された燃料ガスは、ガス流通管23を介してマニホールド15に供給され、マニホールド15を介して燃料電池セル1の内部に設けられた燃料ガス流路7に供給される。
【0062】
なお、図4においては、収納容器21の一部(前後面)を取り外し、内部に収納されているセルスタック装置12および改質器22を後方に取り出した状態を示している。ここで、図4に示した燃料電池モジュール20においては、セルスタック装置12を、収納容器21内にスライドして収納することが可能である。なお、セルスタック装置12は、改質器22を含むものとしても良い。
【0063】
また収納容器21の内部に設けられた酸素含有ガス導入部材24は、図4においてはマニホールド15に並置された一対のセルスタック13の間に配置されるとともに、酸素含有ガスが燃料ガスの流れに合わせて、燃料電池セル1の側方を下端部から上端部に向けて流れるように、燃料電池セル1の下端部に酸素含有ガスを供給する。そして、燃料電池セル1の燃料ガス流路7より排出される燃料ガスと酸素含有ガスとを燃料電池セル1の上端部側で燃焼させることにより、燃料電池セル1の温度を上昇させることができ、セルスタック装置12の起動を早めることができる。また、燃料電池セル1の上端部側にて、燃料電池セル1の燃料ガス流路7から排出される燃料ガスと酸素含有ガスとを燃焼させることにより、燃料電池セル1(セルスタック13)の上方に配置された改質器22を効率よく温めることができる。それにより、改質器22で効率よく改質反応を行うことができる。
【0064】
図5は、外装ケース内に図4で示した燃料電池モジュール20と、燃料電池セルスタック装置12を動作させるための補機とを収納してなる本実施形態の燃料電池装置の一例を示す分解斜視図である。なお、図5においては一部構成を省略して示している。
【0065】
図5に示す燃料電池装置25は、支柱26と外装板27から構成される外装ケース内を仕切板28により上下に区画し、その上方側を上述した燃料電池モジュール20を収納するモジュール収納室29とし、下方側を燃料電池モジュール20を動作させるための補機類を収納する補機収納室30として構成されている。なお、補機収納室28に収納する補機類を省略して示している。
【0066】
また、仕切板28には、補機収納室30の空気をモジュール収納室29側に流すための空気流通口31が設けられており、モジュール収納室29を構成する外装板27の一部に、モジュール収納室29内の空気を排気するための排気口32が設けられている。
【0067】
このような燃料電池装置25においては、上述したように、長期信頼性を向上することができる燃料電池モジュール20をモジュール収納室29に収納して構成されることにより、長期信頼性の向上した燃料電池装置25とすることができる。
【0068】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。例えば、本実施形態の燃料電池セル1においては、中空平板形状のものについて示したが、円筒状の燃料電池セルにおいても本発明を用いることができる。
【0069】
また、上記形態では、中間層9の両端と、燃料極層3および固体電解質層4の両端とが所定間隔Sをおいて離間され、中間層9の両端と、燃料極層3および固体電解質層4の両端との間における導電性支持体2には、インターコネクタ6の一部6aが配置されている場合について説明したが、図6に示すように、中間層9の両端と、燃料極層3および固体電解質層4の両端との間における導電性支持体2には、インターコネクタ6とは異なる材料からなる緻密質セラミックス46を配置しても良い。
【0070】
このような燃料電池セル1は、燃料極層3の両端、および固体電解質層4の両端と、中間層9の両端との間に、緻密質セラミックス46を形成する材料を含有するスラリーを塗布し、この後、インターコネクタ6を形成する材料を、固体電解質層4の両端部上面と、中間層9上面、および緻密質セラミックス46の上面に塗布し、焼成することにより形成することができる。
【0071】
緻密質セラミックス46としては、インターコネクタ6に類似した組成、例えば、ランタンジルコネートやランタンアルミネート、固体電解質4を構成する材料、または固体電解質4に類似した組成、ストロンジルコネート、Scを含有するジルコニア、その他、例えばアルミナ等を用いることができる。緻密質セラミックス46の緻密度は、インターコネクタ6と同程度であれば良い。
【0072】
また、上述の実施の形態において、内側電極を燃料極層3、外側電極を酸素極層5とした燃料電池セル1を用いて説明したが、例えば内側電極を酸素極層5、外側電極を燃料極層3とした燃料電池セルとすることもできる。
【符号の説明】
【0073】
1:燃料電池セル
2:導電性支持体
3:燃料極層
4:固体電解質層
5:酸素極層
6:インターコネクタ
6a:インターコネクタの一部
9:中間層
12:セルスタック装置
20:燃料電池モジュール
25:燃料電池装置
46:緻密質セラミックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の導電性支持体の周囲の一部に、長手方向に延びて設けられた中間層と、前記導電性支持体の前記中間層が形成されていない部分に設けられた内側電極層と、該内側電極層を覆うように、かつ両端が前記中間層の両端と離間するように設けられた固体電解質層と、該固体電解質層上に設けられた外側電極層と、前記中間層上に、かつ両端部が前記固体電解質層の両端部に重畳するように設けられたインターコネクタとを有し、該インターコネクタの一部が、前記固体電解質層の両端と前記中間層の両端との間における前記導電性支持体に設けられていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項2】
柱状の導電性支持体の周囲の一部に、長手方向に延びて設けられた中間層と、前記導電性支持体の前記中間層が形成されていない部分に設けられた内側電極層と、該内側電極層を覆うように、かつ両端が前記中間層の両端と離間するように設けられた固体電解質層と、該固体電解質層上に設けられた外側電極層と、前記中間層上に、かつ両端部が前記固体電解質層の両端部に重畳するように設けられたインターコネクタとを有し、前記固体電解質層の両端と前記中間層の両端との間における前記導電性支持体に緻密質セラミックスが設けられていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項3】
平板状の前記導電性支持体の一方側主面に、前記中間層と前記インターコネクタとを備え、他方側主面に前記内側電極層と、前記固体電解質層と、前記外側電極層とがこの順に積層された積層体を備えてなり、前記内側電極層および前記固体電解質層のそれぞれの両端部が前記導電性支持体の他方側主面から側面を介して一方側主面まで延設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池セルを、集電部材を介して複数個配列し、電気的に直列に接続してなることを特徴とするセルスタック。
【請求項5】
請求項4に記載のセルスタックを収納容器内に収納してなることを特徴とする燃料電池モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池モジュールと、該燃料電池モジュールを動作させるための補機とを外装ケース内に収納してなることを特徴とする燃料電池装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−114859(P2013−114859A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259099(P2011−259099)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】