説明

固体酸化物形燃料電池用燃料極材料、それを用いた燃料極、並びに固体酸化物形燃料電池用セル。

【課題】アンモニアを含むガスを燃料とするSOFCにおいて、アンモニア分解反応器を必要とせず、当該燃料を直接燃料極に供給し、SOFC定常運転時のアンモニアのSOFC系外への排出量を5ppm以下に制御できる固体酸化物形燃料電池用燃料極材料、当該燃料極材料により形成された燃料極、さらには、当該燃料極を有する固体酸化物形燃料電池用セルを提供する。
【解決手段】燃料極材料が、周期律表第6族〜10族の元素の金属からなる群より選択される少なくとも1種であるアンモニア分解触媒、電極触媒、および固体電解質粒子を含み、当該燃料極材料で形成された燃料極を含む固体酸化物形燃料電池用セルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアガスを燃料とする固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCとも記載する)に関し、詳しくは固体電解質の片面側に燃料極が形成され、他面側に空気極が形成されたSOFCにおいて、固体酸化物形燃料電池用燃料極材料、当該燃料極材料により形成された燃料極、並びに当該燃料極を有する固体酸化物形燃料電池用セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SOFCの燃料としては水素や天然ガスの水蒸気改質ガスが一般的で広く検討されているが、これら以外にもメタンガス、メタンハイドレートなどの炭化水素系ガス;アルコール;コークス炉ガス、石炭乾溜ガス(COG)、石炭ガス化ガスなどの石炭ガス;し尿や生ゴミ等を発酵処理して得られるバイオガス;ガソリン;灯油;などが燃料として利用可能である。しかし、これらの燃料は、分解生成物の1つである炭素の燃料極へのデポジットの問題や燃料中に含まれる不純物成分(付臭剤などの硫黄系化合物、塩素、Si系化合物、アルカリ金属など)による燃料極電極触媒への被毒の問題がある。また、発電反応後には炭酸ガスとして排出されるので、低炭素社会の実現のための環境エネルギー技術としては必ずしも十分なものではない。
【0003】
そこで、非炭化水素系で炭酸ガスを排出せず、しかも炭素デポジットや不純物の問題が無い上にエネルギー密度が高いアンモニアを燃料とするSOFCが検討されつつある(例えば非特許文献1、2)。しかし、その多くは初期の発電性能に係わる研究であって、SOFC耐久性についてのアンモニアの影響に関する研究は十分になされていない。ましてや、SOFC発電条件下でアンモニアを直接燃料極に供給してその分解性を長期にわたっての研究はほとんどなされていない状態である。
【0004】
一方、高分子電解質形燃料電池(以下、PEFCと記載する。)では、アンモニア燃料としたいろいろな技術が開示、改良されているが、いずれもアンモニアを一旦水素に分解し、この水素を燃料として供給する技術である。例えば、特許文献1では、アンモニアを主成分とする燃料を、アンモニア分解反応器内で分解反応により水素を発生させ、その発生水素を分解反応器内部に具備した水素分離膜を通して水素を取り出し、この精製された水素を燃料電池の燃料水素として用いるようにした燃料電池用水素供給システムを用いた技術が開示されている。しかし、当然のことではあるが、PEFCでアンモニアを直接供給する技術は開示されていない。
【0005】
非特許文献1には、Ni/8YSZを燃料極とした100cmの電解質支持型セル(以下、ESCと記載する)や81cmの燃料極支持型セル(以下、ASCと記載する)を用いて700〜1000℃でアンモニアの分解率を決定するためにアンモニア排出濃度が測定されている。それによると、1000℃では平衡組成とほぼ同じ約15ppmであるが、温度が下がるにつれて増加し750℃では約80ppm、700℃では約250ppmであり、このようなシステムで効率よく燃料のアンモニアを用いるものではない。このような場合、未分解アンモニアをトラップ・分解処理する対策を採ると、SOFCシステムが複雑になり、またメンテナンスも煩雑になるので、コストUP要因になる虞れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−78039号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第6回ヨーロッパSOFCフォーラム講演予稿集(第3巻、P.1524、2004年)
【非特許文献2】Journal of Power Sources Vol.118、(2003年)、p.342−348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アンモニアは固体酸化物形燃料電池の燃料として用いたとき、未反応として排出されるアンモニアを処理することを目的とするものである。
【0009】
本発明の目的は、アンモニアを含むガスを燃料とするSOFCにおいて、アンモニア分解反応器を必要とせず、当該燃料を直接燃料極に供給し、SOFC定常運転時のアンモニアのSOFC系外への排出量を長期にわたって極力少なくできる、好適には5ppm以下に制御できる固体酸化物形燃料電池用燃料極材料、当該燃料極材料により形成された燃料極を提供することにある。さらには、当該燃料極を有する固体酸化物形燃料電池用セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究した結果、アンモニアを含むガスを燃料とする固体酸化物形燃料電池用セルの燃料極材料として、従来の電極触媒と固体電解質粒子に加えて、アンモニア分解触媒を含む材料構成とし、当該燃料極材料を有する燃料極とすることが有効であることを発見し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、1つの面において、アンモニア分解触媒、電極触媒、および固体電解質粒子を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用セルの燃料極材料にある。このとき、当該アンモニア分解触媒が周期律表第6族〜10族の元素の金属からなる群より選択される少なくとも1種であること、特に、Mo、W、Fe、Ru、Co、Ni、PdおよびPtの金属からなる群より選択される少なくとも1種であることが好適である。
【0012】
また、本発明は、もう1つの面において、固体酸化物形燃料電池における固体電解質の片面側に形成される燃料極であって、前記に記載の燃料極材料で形成された燃料極にある。その形態は、前記アンモニア分解触媒、電極触媒、および固体電解質粒子のサーメットからなることが好ましい。また、前記電極触媒と固体電解質粒子のサーメットからなり、アンモニア分解触媒が当該サーメット上に分散されていることが好ましく、さらには、前記電極触媒と固体電解質粒子のサーメットからなり、アンモニア分解触媒が固体電解質粒子に担持されたアンモニア分解担持触媒が当該サーメット上に分散されていることがさらに好ましい。
【0013】
さらには、本発明は、他の面において、本発明の燃料極を有する固体酸化物形燃料電池用セルにある。
【0014】
なお、本発明で燃料とするアンモニアを含むガスとは、アンモニアガス、液化アンモニアガス、し尿や生ゴミ等を発酵処理、或いは豚糞及び牛糞等畜産廃棄物の高効率嫌気性消化槽から発生するバイオガスの他、天然ガス、メタンガス、メタンハイドレートなどの炭化水素系ガス;アルコール;コークス炉ガス、石炭乾溜ガス(COG)、石炭ガス化ガスなどの石炭ガスなどであるが、本発明ではアンモニア濃度が30%以上、好ましくは50%以上のアンモニアガス、液化アンモニアガス、し尿や生ゴミ等を発酵処理、或いは豚糞及び牛糞等畜産廃棄物の高効率嫌気性消化槽から発生するバイオガスが好適に使用される。特に、アンモニアガス、液化アンモニアガスが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、本発明の燃料極材料は、従来の電極触媒と固体電解質粉末にアンモニア分解触媒を含ませることによって、電極触媒活性を損なうことなくアンモニア分解性にも優れた燃料極とすることができ発電性能にも優れたものとなる。
【0016】
また、本発明の燃料極を有するセルを用いた固体酸化物形燃料電池は、アンモニア分解反応器、未分解アンモニアの系外排出を抑制するためのアンモニアトラップによる回収システム、未分解アンモニアを含むガスをリサイクルするための配管システムなどが不要になり、小型かつコンパクトであるにもかかわらず高出力な燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による固体酸化物形燃料電池用燃料極材料は、アンモニアを含むガスを燃料とするいろいろなタイプの固体酸化物形燃料電池用セルにおいて燃料極の形成に有利に使用することができる。典型的には、平板型セル、円筒型セル、セグメント型セルなどである。平板型セルは電解質支持型セル(ESC、燃料極支持型セル(ASC)、空気極支持型セル(CSC)に分けることができる。円筒型セルは、円筒縦縞型セルと円筒横縞型セルに分けることができ、さらにその中に、円筒平板型セルを含むことができる。要するに、本発明の実施において、SOFCは、刊行物等で公知な構造及び現在実施されている構造を含めたいろいろな構造を有することができる。
【0018】
本発明の固体酸化物形燃料電池用セルは、基本的に、従来一般的な燃料電池と同様に、固体電解質と、該電解質の一方の面に形成された燃料極と、該電解質の他方の面に形成された空気極とを含むセルとして構成することができ、本発明の範囲において任意に変更し、改良することができが、以下に詳細に説明するように、本発明の燃料極材料から形成された燃料極を含むことが肝要である。
【0019】
本発明の実施において、固体酸化物形燃料電池用セルの固体電解質は、いろいろな形態で形成することができる。この電解質は、典型的には、平板の形態であるかもしくはフィルム、薄膜、コーティングなどの形態である。また、固体電解質の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、次のような公知の材料を包含する。
(a)YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、これらのジルコニアにさらにCe、Al等をドープしたジルコニア系粉末
(b)SDC(サマリアドープドセリア)、GDC(ガドリアドープドセリア)等のドープセリア系粉末
(c)LSGM(ランタンガレート)系粉末、例えばLa0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.2
(d)酸化ビスマス系粉末、例えばBi
固体電解質の厚さは一般的に5〜500μmの範囲であり、それ自体が燃料極及び空気極のための支持機能を有しているESCの場合は50〜500μm、好ましくは100〜400μm、燃料極によって固体電解質が支持されるASCの場合は5〜100μm、好ましくは10〜50μmである。
【0020】
固体電解質は、シート、薄膜、フィルム等の形成に慣用されている任意の技法、例えばグリーンシートプロセスを使用して形成することができる。例えば、上記固体電解質材料のペーストを所定のパターンで塗布し、乾燥してグリーンシートを形成した後、そのグリーンシートを高温で焼成することによってシート状固体電解質を容易に形成することができる。ペーストの塗布には、例えば、スクリーン印刷法などの印刷法を有利に使用することができる。具体的には、例えば平板状の仮支持体の片面に固体電解質材料のペーストを所定のパターンで印刷し、乾燥及び焼成することによって膜状の固体電解質を形成することができる。焼成温度は、使用する固体電解質材料の特徴などに応じて広い範囲で変更することができるけれども、通常、約1200〜1500℃の範囲である。
【0021】
空気極は、本発明の実施において特に限定されるものではなく、燃料電池に一般的に使用されている空気極材料から形成することができる。適当な空気極形成材料として、マンガン系、フェライト系、コバルト系やニッケル系ペロブスカイト型構造の酸化物が好ましく、例えば、ストロンチウム(Sr)等の周期律表第2族元素が添加されたランタンストロンチウムマンガナイト(LaSr1−XMnO)、ランストロンチウムコバルタイト(LaSr1−XCoO)、ランストロンチウムコバルトフェライト(LaSr1−XCoFe1−Y)、ランタンニッケルフェライト(LaNiFe1−Y)などを挙げることができる。
【0022】
また、上記酸化物にYSZ、ScSZ、ScCeSZなどのジルコニア系粉末セラミックスやSDC、GDCなどのドープセリア系粉末が混合されていてもよい。
【0023】
空気極は、内部に空気又は酸素が充分に拡散でき、かつ充分な電気伝導性を維持できる程度に、多孔質に形成される。空気極の気孔率は、いろいろに変更することができるけれども、通常、約10〜60%であることが好ましい。また、固体電解質を比較的に薄く形成したような場合には、空気極を例えば導電性メッシュのような支持体で支持するような構成を採用してもよい。空気極を導電性メッシュで支持した場合、耐熱衝撃性を高め、急激な温度変化によるひび割れの発生を防止することができる。
【0024】
また、空気極の厚さは、いろいろに変更することができるけれども、通常、約20〜200μmであり、好ましくは約30〜120μmである。空気極が薄すぎると、空気極本来の機能を得ることができなくなり、不十分な空気極反応の結果として出力の低下などの問題が引き起こされる。
【0025】
空気極は、薄膜、フィルム等の形成に慣用されている任意の技法を使用して形成することができる。例えば、空気極は、すでに形成してある固体電解質の表面に空気極形成性のペーストを所定のパターンで塗布し、乾燥後に焼成することによって容易に形成することができる。ペーストの塗布には、例えば、スクリーン印刷法などの印刷法を有利に使用することができる。焼成温度は、使用する空気極形成材料の特徴などに応じて広い範囲で変更することができるけれども、通常、約900〜1500℃の範囲である。もちろん、必要ならば、その他の手法を使用して空気極を形成してもよい。
【0026】
本発明の固体酸化物形燃料電池用セルでは特定の燃料極材料から形成された燃料極を有する、当該燃料極用材料は、アンモニア分解触媒、電極触媒、および固体電解質粒子を含んで構成される。
【0027】
ここで電極触媒とは、燃料極で気相/燃料極/電解質の三相界面において、燃料ガスと固体電解質中を移動してきた荷電物質(安定化ジルコニア系電解質では酸素イオン)が出会って、燃料ガスの酸化と電子の授受を伴う電気化学反応を進行させるものである。燃料ガスに水素を例にしてより詳細に説明すると
(1)水素の燃料極への供給・拡散と電極触媒への吸着・解離;水素分子が燃料極中の電極触媒に吸着し、水素原子に解離する
(2)水素原子の電極触媒粒子での移動と酸素イオンの電解質内の移動;水素原子ならびに酸素イオンが三相界面に移動する
(3)水素原子と酸素イオンの反応;水素原子が三相界面で酸素イオンと反応し、水蒸気と電子を生成する
(4)生成した水蒸気と電子の移動;水蒸気が三相界面より解離して燃料極内の気孔を、電子は連続的につながる電流パスをそれぞれ移動する
機能を有する触媒である。
【0028】
前記電極触媒は、本発明の実施において特に限定されるものではなく、燃料電池に一般的に使用されている電極触媒を使用できる。具体的には、Ni、Co、Pt、Pd、Ruといった金属、あるいはそれらの合金が選択される。なお、本発明では、SOFCシステムが定常運転されている状態での燃料極中の電極触媒の状態で特定していることから、上記金属の酸化物であっても、還元雰囲気に曝されて上記金属になっているものは電極触媒として包含されるものとする。
【0029】
燃料極材料を構成する固体電解質粒子は、燃料極の形成に一般的に使用されている酸化物からなるわけではないけれども、好ましくは、前記ドープセリア粒子、安定化ジルコニア粒子などである。これらの電解質粒子は、必要ならば、2種類以上を混合して使用してもよい。さらに具体的に説明すると、燃料極の形成に好適な電解質粒子は、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、サマリウムドープセリア系粒子、ガドリニウムドープセリア系粒子、イットリウム安定化ジルコニア系粒子、スカンジウム安定化ジルコニア系粒子又はその混合物である。
【0030】
上記固体電解質粒子は、その比表面積が1〜20m/gの範囲のものが燃料極の気孔形成に好ましく、3〜15m/gの範囲のものが特に好ましい。比表面積が1m/gを下回ると燃料極中に大きな気孔が局所的にできやすくなり、燃料ガスの流配が不均一になる不具合が発生しやすく、反対に比表面積が20m/gを上回ると焼結性が大きくなるため気孔量が少なくなり、燃料ガスの流配が不十分になる不具合が発生しやすくなる。
【0031】
前記のようなサーメットでは、サーメット中の電極触媒と固体電解質の体積比は、電極触媒が10〜70体積%、固体電解質が90〜30体積%の範囲、さらに好ましくは電極触媒が20〜60体積%、固体電解質が80〜40体積%の範囲である。電極触媒の割合が上記範囲を外れると、燃料極に求められる上記特性が得られなくなる。
【0032】
本発明での好適なサーメットを形成する具体例としては、電極触媒としてNiと、固体電解質としてドープセリア、例えば20モル%サマリアドープセリア、10モル%ガドリニアドープセリアなどか、さもなければ安定化ジルコニア、例えば8モル%YО安定化ZrО(8YSZ)、10モル%ScО1モル%CeО安定化ZrО(10Sc1CeSZ)などとの組み合わせてNiの含有量が約25〜50体積%のものである。
【0033】
さらに加えて、本発明の燃料極において、前記電極触媒は、少なくとも還元状態において、燃料極材料中に完全に固溶していることが好ましい。すなわち、電極触媒が単一合金化している場合、本発明の燃料極に由来する特有の効果が良好に導かれることとなる。
【0034】
次いで、本発明の燃料極材料におけるアンモニア分解触媒とは、アンモニアを含む燃料ガス中のアンモニアが水素と窒素に分解するのを促進する触媒である。その触媒成分は、周期律表第6族〜10族の元素の金属からなる群より選択される少なくとも1種であり、具体的には、Mo、W、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Ptなどなる群より選択される少なくとも1種であり、それらの合金であってもよい。特に、W、Fe、Ru、Co、Ni、PdおよびPtの群から選択される金属が好ましい。なお、本発明では電極触媒と同様にアンモニア分解触媒の場合も、上記金属の酸化物であっても燃料極が還元雰囲気に曝された状態で上記金属に還元されるものは電極触媒として包含される。
【0035】
アンモニア分解活性を有するアンモニア分解触媒中のこれら金属は、前記電極触媒と固体電解質とのサーメット中に存在しても、当該サーメット表面に分散されていてもよいが、アンモニア分解性をさらに高めるために、アンモニア分解触媒が固体電解質粒子に担持されたアンモニア分解担持触媒として当該サーメット上に分散されていることが好ましい。
【0036】
さらに加えて、本発明の燃料極材料におけるアンモニア分解触媒は、アンモニアに対する吸着能を式:吸着分子数(モル)/アンモニア分解触媒の単位面積(m)で表した場合、約0.1×10−6モル/m〜10×10−6モル/mの吸着能を示すことが好ましい。アンモニア分解触媒の吸着能が0.1×10−6モル/mを下回ると、水素に分解されずに未分解のままアンモニアが多くなり、燃料電池系外に排出されるアンモニア濃度も高くなる不具合が発生し、反対に10×10−6モル/mを上回ると、反応物のアンモニア分解触媒からの脱離が起き難くなり、結果として電極反応が不活発になるといった不具合が発生する。
【0037】
アンモニア分解触媒となる上記金属はその粒子径が0.01〜5μmの範囲のものがアンモニア分解活性に優れ好ましく、0.05〜3μmの範囲のものが特に好ましい。粒子径が0.01μmを下回ると、短時間のうちに凝集が起こって巨大粒子となりアンモニア分解活性が大きく低下する不具合が発生し、反対に5μmを上回ると、凝集は起こりにくくなるがアンモニア分解活性は低く、水素に分解されずに未分解のままアンモニアが多くなり、SOFC系外に排出されるアンモニア濃度も高くなる不具合が発生する。
【0038】
次いで本発明の燃料極について説明する。
【0039】
前記に記載の燃料極材料を含む燃料極には、(1)燃料極電極反応の進行、(2)熱膨張挙動の整合性、(3)ガス拡散性、(4)電子伝導性、(5)化学的・熱力学的安定性等の特性が要求されており、これらの観点から、上記金属あるいはそれらの合金からなる電極触媒は、酸化物である固体電解質との結合相とした複合材料であるサーメットとなっているのが一般的である。
【0040】
燃料極の厚さは、いろいろに変更することができるけれども、通常、ESCの場合は約20〜200μmであり、好ましくは約30〜120μmであり、ASCの場合のように燃料極支持基板と燃料極活性層とを1つの燃料極と見なす場合は、その厚さは200〜2000μmであり、好ましくは300〜1000μmである。燃料極が薄すぎると、燃料極本来の機能を得ることができなくなる。
【0041】
また、本発明の燃料極は、内部に燃料となる分子等が充分に拡散でき、かつ充分な電気伝導度を維持できる程度に、多孔質に形成される。燃料極の気孔率は、いろいろに変更することができるけれども、通常、約10〜60%の範囲であることが好ましく、20〜50%の範囲であることがより好ましい。
【0042】
それらの中でアンモニアを含むガスを燃料とする場合には、燃料極電極反応を促進させ未分解のアンモニアを出来うる限り減量せしめるために、本発明では燃料極にアンモニア分散触媒を含むの燃料極材料から形成されるが、燃料極中におけるアンモニア分散触媒の好ましい形態としては、
(I)電極触媒、固体電解質とともにアンモニア分散触媒がサーメット中に含まれる燃料極
(II)電極触媒と固体電解質のサーメット表面に、アンモニア分解触媒が分散した燃料極
(III)電極触媒と固体電解質のサーメット表面に、アンモニア分解触媒が固体電解質粒子に担持されたアンモニア分解担持触媒が分散した燃料極
などがある。
【0043】
これらは、アンモニア分解触媒がサーメット中に固定あるいはサーメット表面に分散されていることから、継続してアンモニアを含むガスを燃料として供給しても、発電性能が維持されつつ安定したアンモニア分解活性が発揮され、系外に排出される未分解アンモニア量が低減される。特に、アンモニア分解触媒が担体に担持されたアンモニア分解担持触媒としてサーメット表面に分散されている場合に、特段の効果が発揮される。
【0044】
通常、燃料極は、シート、薄膜、フィルム等の形成に慣用されている任意の技法を使用して形成することができ、ESCでの上記1)の燃料極を例にその製法を説明する。
【0045】
上記(I)の燃料極は、すでに形成してある固体電解質シートの表面に、本発明のアンモニア分解触媒、電極触媒および固体電解質粒子を含む燃料極材料のペーストを所定のパターンで塗布し、乾燥後に焼成することによって容易にアンモニア分解触媒、電極触媒および固体電解質のサーメットとして形成することができる。ペーストの塗布には、例えば、スクリーン印刷法などの印刷法を有利に使用することができる。焼成温度は、使用する燃料極材料の特徴などに応じて広い範囲で変更することができるけれども、通常、約1000〜1500℃の範囲、好ましくは1200〜1400℃の範囲である。
【0046】
また、上記(II)の燃料極で、電極触媒と固体電解質のサーメット表面にアンモニア分解触媒を分散させる製法としては、すでに形成してある固体電解質シートの表面に、本発明の電極触媒と固体電解質粒子を含む燃料極材料のペーストを所定のパターンで塗布し、乾燥後に焼成することによって電極触媒と固体電解質のサーメットとして形成する。次いで、アンモニア分解触媒となる金属粒子および/または金属粒子の前駆体(たとえば、水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、塩化物、ニトロシル硝酸塩、硫酸塩、カルボニル錯体、アルコキシドなど)を含むスラリーやコーティング液を塗布し、乾燥後300〜1000℃、好ましくは500〜900℃で焼成する方法がある。
【0047】
あるいは、上記と同様にして形成した電極触媒と固体電解質のサーメット表面に、アンモニア分解触媒となる金属粒子および/または金属粒子の前駆体を用いて蒸着(物理蒸着(PVD)、真空蒸着、化学蒸着(CVD))し、必要に応じて300〜1000℃、好ましくは500〜900℃で焼成する方法もある。
【0048】
さらに、上記(III)の燃料極は、アンモニア分解触媒が固体電解質粒子に担持されたアンモニア分解担持触媒を含むスラリーやコーティング液を調製し、電極触媒と固体電解質のサーメット表面に塗布し、乾燥後300〜1000℃、好ましくは500〜900℃で焼成する方法がある。
【0049】
上記アンモニア分解担持触媒の調製方法としては、一般的な担持触媒調製方法を用いることができ、固体電解質粒子とアンモニア分解触媒の前記金属および/または金属前駆体とを混合する方法、前記金属前駆体の水性液を固体電解質粒子に含浸する方法、水性液に含まれる前記金属前駆体を固体電解質粒子に化学的に吸着させる方法などを用いることができる。好ましくは含浸する方法である。更に具体的に調製方法を示すと、乾燥させた固体電解質粒子の吸水量(体積)を測定しておき、含浸させたい当該金属量がちょうどその体積になるように濃度調整した溶液を、乾燥させた固体電解質粒子に撹拌しながら徐々にしみ込ませる方法である。
【0050】
また、上記方法において、アンモニア分解触媒は固体電解質粒子に担持されたアンモニア分解担持触媒であることが好適であるが、前記金属および/または金属前駆体の少なくとも一種の成分と固体電解質粒子とを含む触媒であれば何れの形態であっても良く、前記金属および/または金属前駆体と固体電解質粒子との混合物である形態、または前記金属および/または金属前駆体の少なくとも一種の成分を固体電解質粒子に担持した形態であっても良い。金属前駆体としてその金属酸化物は当然包含される。
【0051】
このとき、使用される当該固体電解質粒子は、前記の燃料極材料の固体電解質粒子組成から選択されれば、同一組成でも異なる組成でも良い。ただし、その比表面積は10〜200m/g、好ましくは20〜150m/g、より好ましくは30〜120m/gであることがアンモニア分解触媒の分散性を高くできアンモニア分解活性に好適となる。特に、SOFCシステムの定常状態での運転温度より50〜300℃以上高温である1000℃で、10時間以上の熱処理を受けた後の比表面積で10m/g以上、特に好ましくは15m/gのものが、固体電解質粒子比表面積の経時低下を抑制できアンモニア分解触媒の分散性を持続できるので、特に好適である。
【0052】
アンモニア分解担持触媒においては、周期律表第6族〜10族の元素の金属からなる群より選択される少なくとも1種のアンモニア分解触媒の量(金属換算)は、担体である当該固体電解質粒子100質量部に対して0.1〜50質量部、好ましくは0.2〜20質量部、更に好ましくは0.3〜10.0質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部である。
【0053】
本発明の固体酸化物形燃料電池用セルは、例えば上記したようなESCでは、固体電解質シートを形成した後にその表面に空気極及び燃料極を形成することが可能であるけれども、必要ならば、他の順序で燃料電池セルを形成してもよい。例えば、空気極材料ペーストを所定のパターンで印刷し、必要に応じて乾燥した後、その表面にさらに固体電解質材料のペーストを所定のパターンで印刷し、必要に応じて乾燥し、次いで、その表面に燃料極材料のペーストを所定のパターンで印刷し、必要に応じて乾燥する。最後に、未焼成の空気極、固体電解質シート及び燃料極を一括して焼成する。このようなグリーンシートプロセスは、燃料電池セルの製造プロセスを短縮するのに有効である。
【0054】
本発明による固体酸化物形燃料電池用セルは、アンモニアを含むガスを燃料としても発電効率に優れ、長寿命化、低コスト化が可能であり、アンモニア排出量も極めて少ないので環境上、保健上も問題がなく、いろいろな分野において有利に製造することができる。例えば、本発明の燃料電池は、自動車用発電や業務用発電、家庭用発電などの分野で有利に利用することができる。また、小型化することで、例えばLEDの点灯、LCDの表示、携帯ラジオ、携帯情報機器などの駆動にも有利に利用することができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例と比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
(燃料極材料)
アンモニア分解触媒として、市販の酸化ルテニウム粉末(フルヤ化学社製、平均粒子径:1μm)、電極触媒として、市販の酸化ニッケル粉末(正同化学社製:製品名:Green、平均粒子径:0.7μm、比表面積:3.5m2/g)および、電解質粒子として、市販の10モル%スカンジア1モル%安定化ジルコニア粒子(第一稀元素化学工業社製;製品名:10Sc1CeSZ、平均粒子径:0.6μm、比表面積:10.8m2/g)を、当該酸化ニッケル粉末55体積%と安定化ジルコニア粒子45体積%とを攪拌混合して混合物とし、さらに、当該混合物100質量部に対して0.5質量部の上記酸化ルテニウム粉末を添加し、さらに攪拌混合して燃料極材料を調製した。
【0057】
(空気極用材料)
市販の酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、酸化コバルトおよび酸化鉄粉末から固相法で合成したランタンストロンチウムコバルトフェライト粉末La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8(平均粒子径:0.7μm、比表面積:3.5m2/g)80質量%と、市販の酸化サマリウムおよび酸化セリア粉末から固相法で合成した30モル%サマリアドープセリア(平均粒子径:1.9μm、比表面積:2.4m2/g)20質量%とを攪拌混合して空気極材料とした。
【0058】
(セルの作製)
電解質支持型燃料電池用セルの燃料極は、ドクターブレード法を用いて作成した10モル%スカンジア1モル%安定化ジルコニアシート(直径:120mm、厚さ300μm)の一方に面に、上記の燃料極材料にバインダー(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、n−パラフィン、テレピン油、セルロース系樹脂)を加えた後混練して調製した燃料極ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、乾燥後、1300℃で2時間焼成して形成した。なお、燃料極の厚さは40μmで気孔率は35%であった。
【0059】
次いで、上記安定化ジルコニアシートの他方の面に、上記の空気極材料とバインダーを用い、同様にして空気極ペーストを調製し、950℃で焼成した以外は同様にして空気極を形成し、電極有効面積が95cmの固体酸化物形燃料電池用セルを作製した。
【0060】
(比較例1)
実施例1の燃料極材料において、アンモニア分解触媒としての酸化ルテニウム粉末を添加せず、酸化ニッケル粉末と安定化ジルコニア粒子とを攪拌混合した混合物を燃料極材料とした以外は、実施例1と全く同様にして、セルを作製した。
【0061】
(発電試験と排気ガス中のアンモニア量の測定)
上記実施例1と比較例1で得たセルを用いて、800℃で発電試験を行った。すなわち、当該セルの燃料極側にニッケル網(80メッシュ)を、空気極側に白金網(80メッシュ)によりセル挟持し、さらに当該ニッケル網と白金網の両側に金属マニホルドを設け、燃料ガスとしてボンベのアンモニア(流量1L/min)、酸化剤ガスとして空気(流量1L/min)を供給した。
【0062】
測定に当たっては、電流測定器としてアドバンテスト社製の型番「TR6845」、電流電圧発生器としては高砂製作所社製の型番「GP016−20R」を使用し、定常運転になってから1000時間継続して発電試験を行い、電流密度が0.5A/cmの時のセル面積抵抗(ASR)を200時間ごとに算出した。
【0063】
また、定常運転後200時間ごとに燃料極排ガスの一部をガスサンプラーで捕集し、ガスクロにて排ガス中のアンモニア含有量を測定した。
結果を表に示す。
【0064】
【表1】

表1からも明らかな様に、燃料極にアンモニア分解触媒を含む実施例1のセルでは、燃料極排ガス中のアンモニア含有量は25ppm以下であるが、アンモニア分解触媒を含まない比較例1のセルでは、アンモニア含有量は300ppm以上であり、アンモニア分解触媒の効果が明確に表れている。また、発電試験でも、アンモニア分解触媒を含む実施例1のセルのほうが面積抵抗値は小さく、100時間後の変化率でも少ないので、アンモニア分解触媒を燃料極に含むことによって発電性能も向上していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、新規な発電に関するものであり、新たなエネルギーに関する分野に展開することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを含むガスを燃料とする固体酸化物形燃料電池の燃料極を形成するための燃料極材料であって、
アンモニア分解触媒、電極触媒、および固体電解質粒子を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池燃料極材料。
【請求項2】
前記アンモニア分解触媒が、周期律表第6族〜10族の元素の金属からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の燃料極材料。
【請求項3】
前記アンモニア分解触媒が、Mo、W、Fe、Ru、Co、Ni、PdおよびPt、の金属からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の燃料極材料。
【請求項4】
前記電極触媒が、Fe、Co、NiおよびCuからなる群より選択される少なくとも1種の金属である請求項1〜3に記載の燃料極材料。
【請求項5】
前記固体電解質粒子が、安定化ジルコニアおよび/またはドープセリアからなる粒子である請求項1〜4に記載の燃料極材料。
【請求項6】
固体酸化物形燃料電池における固体電解質の片面側に形成される燃料極であって、請求項1〜5のいずれかに記載の燃料極材料で形成されたものであることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用燃料極。
【請求項7】
前記アンモニア分解触媒、電極触媒、および固体電解質粒子のサーメットからなる請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池用燃料極。
【請求項8】
前記電極触媒と固体電解質粒子のサーメットからなり、アンモニア分解触媒が当該サーメット上に分散されている請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池用燃料極。
【請求項9】
前記電極触媒と固体電解質粒子のサーメットからなり、アンモニア分解触媒が固体電解質粒子に担持されたアンモニア分解担持触媒が当該サーメット上に分散されている請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池用燃料極。
【請求項10】
固体電解質の片面側に燃料極が形成され、他面側に空気極が形成されたアンモニアを含むガスを燃料とする固体酸化物形燃料電池用セルであって、前記燃料極が請求項6〜9のいずれかに記載の燃料極であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用セル。

【公開番号】特開2011−204416(P2011−204416A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69391(P2010−69391)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】