説明

固体酸化物形燃料電池

【課題】簡単な構造で燃料極の周囲を確実にシールすることが可能なシール構造を有する固体酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】平板型の電解質25を挟む燃料極24と空気極26とを有する単セル22を備える。空気極26に接触するとともに酸化剤ガスを供給する空気極セパレータ33と、前記燃料極24に接触するとともに燃料ガスを供給する燃料極セパレータ32とを備える。前記燃料極24を収容する凹部45およびこの凹部45の開口を閉塞するシール部からなるシール構造44とを備える。電解質25は、前記凹部45の側壁を構成する筒状壁(セルホルダ31)の開口端と重なるとともに、この開口端に気密となるように密着している。前記シール部は、前記電解質25によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単セルの燃料極を凹部内に密封するシール構造が採用された固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の固体酸化物形燃料電池は、単セルとセパレータとからなる単セルユニットを複数積層させてなるスタックを備えている。前記各単セルは、たとえば特許文献1に記載されているように、燃料ガスが供給される燃料極と、酸化剤ガスが供給される空気極と、これら両極の間に挟まれた電解質とによって構成されている。
【0003】
前記セパレータは、前記燃料極に燃料ガスを供給するための燃料極セパレータと、前記空気極に酸化剤ガスを供給するための空気極セパレータとによって構成されている。前記燃料極セパレータは、燃料ガスが単セルユニットの周囲に流出することを防ぐために、前記燃料極を密封するシール構造を備えている。
【0004】
従来の一般的な固体酸化物形燃料電池に設けられている前記シール構造は、図3に示すように構成されている。
図3は、従来の固体酸化物形燃料電池に用いる単セルユニットの断面図である。同図において、符号1は単セルを示し、2は前記単セル1と協働して単セルユニット1Aを構成するセパレータを示す。前記単セル1は、燃料極3と、電解質4と、空気極5とから構成されている。前記セパレータ2は、燃料極セパレータ6と、空気極セパレータ7とによって構成されている。
【0005】
燃料極セパレータ6には、燃料ガスを燃料極3に供給するための燃料ガス供給用通路8と、燃料ガスを排出するための燃料ガス排出用通路9とが形成されているとともに、上述したシール構造11を構成するためのセルホルダ12が設けられている。空気極セパレータ7には、酸化剤ガスを空気極5に供給するための酸化剤ガス供給用通路13が形成されている。
【0006】
前記セルホルダ12は、金属材料によって円環状に形成されており、その中空部内に燃料極3が収容された状態で燃料極セパレータ6と重ねられている。このセルホルダ12における燃料極セパレータ6とは反対側の端面には、絶縁部材14とガラスシール材15とを介してシール部材16が接合されている。
前記絶縁部材14は、層状の雲母を積層させた構成のものである。この絶縁部材14は、前記セルホルダ12と前記シール部材16とにガラスシール材15を介して密着している。ガラスシール材15は、固体酸化物形燃料電池が運転されるときの熱で溶融するものである。
【0007】
前記シール部材16は、金属材料によって円環板状に形成されている。シール部材16の内径は、燃料極3の外径より小さく形成されている。このシール部材16における径方向内側の端部は、ガラスシール材17によって前記電解質4に接合されている。このガラスシール材17は、電解質4とシール部材16との間を封止するためのものである。
すなわち、図3に示す燃料極3のシール構造は、燃料極セパレータ6とセルホルダ12とによって形成されて燃料極3を収容する凹部18と、前記シール部材16によって形成されて前記凹部18の開口部分を閉塞するシール部19とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−287969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3に示した従来のシール構造では、絶縁部材14と、シール部材16と、封止用のガラスシール材15,17を使用しているために部品数が多く、組立工数が多くなるという問題があった。また、このシール構造は、溶融したガラスシール材15,17で隙間が充填されることによってガスシールが実現されるものであるから、ガラスシール材15,17が充分に溶融されない場合はガスシール性能が低下するという問題もあった。さらに、絶縁部材14として層状の雲母を積層させたものを使用した場合は、絶縁部材14の内部に形成されている微小な隙間を燃料ガスが通過することがあり、このような場合には燃料ガスが単セルユニット1Aの外に漏洩してしまう。
【0010】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、簡単な構造で燃料極の周囲を確実にシールすることが可能なシール構造を有する固体酸化物形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、平板型の固体酸化物からなる電解質を挟む空気極と燃料極とを有する単セルと、前記空気極に接触するとともに酸化剤ガスを供給する空気極セパレータと、前記燃料極に接触するとともに燃料ガスを供給する燃料極セパレータと、前記燃料極を収容する凹部およびこの凹部の開口を閉塞するシール部からなるシール構造とを備え、前記電解質は、前記凹部の側壁を構成する筒状壁の開口端と重なるとともに、この開口端に気密となるように密着し、前記シール部は、前記電解質によって構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、前記発明において、前記電解質は、セラミックス材料からなり、平板状に成形されて前記筒状壁を重ねた状態で焼成されたものである。
【0013】
本発明は、前記発明において、前記電解質の外縁部と前記空気極セパレータとの間に位置するスペーサをさらに備え、前記空気極セパレータは、前記空気極と前記スペーサとにそれぞれ接触していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、燃料極を収容する凹部の開口部分が電解質によって閉塞される。電解質は絶縁性を有しているから、前記凹部の開口部分を閉塞するに当たって絶縁部材が不要になる。すなわち、この発明に係るシール構造においては、従来のシール構造に較べて絶縁部材と、シール部材と、ガラスシール材とが不要になる。
したがって、本発明によれば、単セルを構成する部材である電解質を利用してシール構造を実現できるから、簡単な構造で燃料極の周囲を確実にシールすることが可能な固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る固体酸化物形燃料電池に使用する単セルユニットの断面図である。
【図2】単セルの製造方法を説明するための斜視図で、同図(A)は電解質形成用シートを形成するステップを示し、同図(B)は電解質形成用シートにセルホルダを重ねるステップを示し、同図(C)は電解質を焼成するステップを示し、同図(D)は燃料極を形成するステップを示し、同図(E)は空気極を形成するステップを示す。
【図3】従来の単セルユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る固体酸化物形燃料電池の一実施の形態を図1および図2によって詳細に説明する。
本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、図1に示す単セルユニット21を複数個積層させてなるスタック(図示せず)を備えているものである。前記単セルユニット21は、単セル22と、この単セル22に燃料ガスと酸化剤ガスとを供給するためのセパレータ23とから構成されている。
【0017】
単セル22は、燃料ガスが供給される燃料極24と、この燃料極24の一端面上に設けられた固体酸化物からなる電解質25と、この電解質25における燃料極24とは反対側の端面上に設けられた空気極26とによって構成されている。これらの燃料極24と、電解質25と、空気極26とは、それぞれセラミックス材料によって円板状に形成されている。この実施の形態による電解質25の外径は、燃料極24より側方に突出するように、燃料極24の外径より大きく形成されている。この電解質25の外縁部25aには、後述するセルホルダ31が固着されている。
【0018】
前記セパレータ23は、前記燃料極24に燃料ガスを供給するための燃料極セパレータ32と、前記空気極26に酸化剤ガスを供給するための空気極セパレータ33とから構成されている。これらの燃料極セパレータ32および空気極セパレータ33は、耐熱性を有する金属材料によって形成されている。
【0019】
前記燃料極セパレータ32は、燃料極24側(図1において上側)から見て燃料極24より大きい板状に形成されている。この燃料極セパレータ32は、前記燃料極24における電解質25とは反対側の端面に接触している。また、燃料極セパレータ32には、燃料ガスを前記燃料極24に供給するための燃料ガス供給用通路34と、余剰の燃料ガスを排出するための燃料ガス排出用通路35とが形成されている。さらに、この燃料極セパレータ32には、前記燃料極24を囲む円環状のセルホルダ31が重ねられている。
【0020】
セルホルダ31は、前記燃料極セパレータ32を形成する材料と同等の金属材料によって形成されている。セルホルダ31の内径は、前記燃料極24の外径より大きくなるように形成されている。また、このセルホルダ31の軸線方向(図1においては上下方向)の厚みは、燃料極24と同一の厚みに形成されている。すなわち、セルホルダ31と燃料極24とは、燃料極セパレータ32と電解質25とによって挟まれている。
【0021】
前記空気極セパレータ33は、図1において上側から見て空気極26より大きい板状に形成されており、空気極26における電解質25とは反対側の端面に接触している。また、空気極セパレータ33には、酸化剤ガスを前記空気極26に供給するための酸化剤ガス供給用通路36が形成されている。
空気極セパレータ33における空気極26の側方に突出する外縁部は、スペーサ37に支承されている。スペーサ37は、空気極セパレータ33を形成する材料と同等の金属材料によって円環状に形成されている。このスペーサ37の内径は、空気極26の外径より大きく形成されている。また、スペーサ37の外径は、前記電解質25の外径と同等に形成されている。このスペーサ37は、その中空部内に空気極26が収容された状態で電解質25の外縁部25aにガラスシール材(図示せず)によって固着されている。
【0022】
なお、本発明に係る固体酸化物形燃料電池に使用する単セルユニット21は、前記スペーサ37を使用することなく構成することができる。スペーサ37を使用する場合、スペーサ37は、上述したように円環状の一つの部材として形成する他に、電解質25の外縁部によって構成することができる。スペーサ37を電解質25によって構成する場合は、電解質25の外縁部25aの厚みを相対的に厚く形成することによって行う。
また、空気極セパレータ33の中央部を空気極26の厚さだけ凹ませて、空気極セパレータ33とスペーサ37を一体化したような構造の空気極セパレータを用いて構成してもかまわない。
更に、セルホルダ31やスペーサ37は熱膨張率等を考慮して隣接するセパレータと同等の金属材料を用いて形成しているが、熱膨張率等の整合性が得られるのであれば、他の金属やセラミックスであってもかまわない。
【0023】
ここで、前記単セル22の製造方法の一例を図2によって説明する。単セル22を製造するためには、先ず、図2(A)に示すように、電解質25を形成するためのセラミックス材料41をシート状に成形する。そして、同図(B)に示すように、前記シート状のセラミックス材料41の上にセルホルダ31を載置させる。このとき、セルホルダ31を前記セラミックス材料41に密着させる。
【0024】
その後、図2(C)に示すように、前記セラミックス材料41におけるセルホルダ31から側方に突出する不要部分を切断して除去し、この状態でセラミック材料41を焼成させる。この焼成により電解質25がセルホルダ31に密着した状態で形成される。
次に、図2(D)に示すように、セルホルダ31の中空部内に、燃料極24を形成するためのセラミックス材料42を円柱状に成形する。このときは、この燃料極24用のセラミック材料42を電解質25の端面に密着させる。
【0025】
そして、この状態で燃料極24を焼成し、焼成後、図2(E)に示すように、電解質25の上面に空気極26を形成するためのセラミックス材料43をシート状に成形する。しかる後、空気極26を焼成する。このように空気極26が焼成されることによって、単セル22が完成する。この単セル22は、セルホルダ31と一体的に形成されることになる。
【0026】
前記電解質25は、原料粉末とバインダとを混練し、シート状に形成する。前記燃料極24と空気極26は、前記電解質25と同等の方法で形成したり、図示してはいないが、スラリーを電解質25に塗布することによって形成することができる。また、前記燃料極24の厚みは、本発明のセルは電解質支持型のものであるから空気極26と同等の厚みに形成することができる。材質は、通常の電極および電解質に用いられる材料であれば特に限定されることはない。
【0027】
この単セル22を用いて単セルユニット21を形成するためには、先ず、単セル22を燃料極セパレータ32の上に載置させ、電解質25の上にガラスシール材を介してスペーサ37を重ねる。単セル22が燃料極セパレータ32に密着することによって、燃料極24を密封するシール構造44が構成される。このシール構造44は、セルホルダ31の中空部31aと燃料極セパレータ32とによって形成された燃料極収容用の凹部45と、この凹部45の開口部分を閉塞する電解質25とによって構成されている。この実施の形態においては、前記セルホルダ31によって、本発明でいう「凹部の側壁を構成する筒状壁」が構成されている。
【0028】
単セルユニット21は、上述したように燃料極セパレータ32に単セル22が重ねられている状態において、電解質25の上にガラスシール材を介してスペーサ37を重ね、さらに、空気極26および前記スペーサ37上に空気極セパレータ33を重ねることによって組立てられる。このように組立てられた複数の単セルユニット21を重ねることによって、固体酸化物形燃料電池用のスタックが組立てられる。
【0029】
この実施の形態による固体酸化物形燃料電池用の単セルユニット21においては、燃料極24を収容する凹部45の開口部分が電解質25によって閉塞されている。電解質25は絶縁性を有するものであるから、前記凹部45の開口部分を閉塞するに当たって絶縁部材は不要である。すなわち、この実施の形態によるシール構造44においては、従来のシール構造に較べて絶縁部材と、シール部材と、ガラスシール材とが不要になる。
【0030】
したがって、この実施の形態によれば、単セル22を構成する部材である電解質25を利用してシール構造44を実現できるから、簡単な構造で燃料極24の周囲を確実にシールすることが可能な固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
【0031】
この実施の形態において、前記電解質25は、セラミックス材料からなり、平板状に成形されて前記セルホルダ31(筒状壁)を重ねた状態で焼成されている。
このため、電解質25をセルホルダ31に強固に固着させることができるから、シール構造44のシール性がより一層高くなる。一方、セルホルダ31は、電解質25を形成するためのセラミックス材料41に較べて剛性が高いものである。この実施の形態による単セル22は、このようなセルホルダ31が前記セラミックス材料41と一体に焼結されているから、反りが少なくなるように形成することができる。
【0032】
この実施の形態による単セルユニット21は、前記電解質25の外縁部25aと前記空気極セパレータ33との間に位置するスペーサ37を備えている。また、前記空気極セパレータ33は、前記空気極26と前記スペーサ37とにそれぞれ接触している。このため、空気極26の周囲を空気極セパレータ33と前記スペーサ37とによって囲み、シールすることができる。
【符号の説明】
【0033】
21…単セルユニット、22…単セル、24…燃料極、25…電解質、26…空気極、32…燃料極セパレータ、33…空気極セパレータ、31…セルホルダ、37…スペーサ、44…シール構造、45…凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板型の固体酸化物からなる電解質を挟む空気極と燃料極とを有する単セルと、
前記空気極に接触するとともに酸化剤ガスを供給する空気極セパレータと、
前記燃料極に接触するとともに燃料ガスを供給する燃料極セパレータと、
前記燃料極を収容する凹部およびこの凹部の開口を閉塞するシール部からなるシール構造とを備え、
前記電解質は、前記凹部の側壁を構成する筒状壁の開口端と重なるとともに、この開口端に気密となるように密着し、
前記シール部は、前記電解質によって構成されていることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記電解質は、セラミックス材料からなり、平板状に成形されて前記筒状壁を重ねた状態で焼成されたものであることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の固体酸化物形燃料電池において、前記電解質の外縁部と前記空気極セパレータとの間に位置するスペーサをさらに備え、
前記空気極セパレータは、前記空気極と前記スペーサとにそれぞれ接触していることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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