説明

固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネントおよびその製造方法

YSZ固体酸化物電解質層(10)と、LSCFカソード層(14)と、該電解質層とカソード層の間にあり少なくともジルコニアとセリアを含む混合相層(18)とを含み、カソード層は混合相層と直接接し、カソード層と該電解質層の間には、混合相層中以外にはセリアは存在しない、固体酸化物燃料電池(SOFC)またはSOFCサブコンポーネント。SOFCまたはサブコンポーネントの一の製造方法は、該電解質層(10)上にセリア層を適用する工程、該電解質層とセリア層を加熱して混合相層(18)を形成する工程、およびカソード層(14)を適用する前に、混合相層の表面から過剰のセリアを除去する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)固体酸化物電解質材料の層を含む固体酸化物燃料電池(SOFC)またはSOFCサブコンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
SOFCでは、カソード材料層は、固体酸化物電解質材料層の第1の面上に形成され、アノード材料層は、その反対側の、該固体酸化物電解質材料層の第2の面上に形成されている。YSZは、本発明の目的のために使用される固体酸化物電解質の1つの形態である。しかしながら、カソード材料とYSZ電解質材料との間に有害な反応が起こる場合があり、それによりその2つの材料の間に電気的絶縁相が形成される。この絶縁相は、SOFCの安定性および出力密度に影響を与える。例えば、ランタンとストロンチウムを含む高性能のカソード材料を用いた場合、生成する絶縁相は、LaZrOおよびSrZrOを含む、ランタンとジルコニウムの複合酸化物および/またはストロンチウムとジルコニウムの複合酸化物からなるものである。
【0003】
絶縁相は、SOFC使用時に生成するが、SOFC製造時において、以下に説明するように、特にアノードに支持されたSOFCを製造するのに必要な高温条件下で問題が最初に発生する。
【0004】
絶縁相の生成を抑制するため、カソード材料層とYSZ電解質層との間に反応障壁層を設けて、絶縁相の生成を防止または少なくとも減少させることが提案されている。反応障壁層は、カソード材料が電解質材料に適用される前に、SOFC製造時に適用される。電解質層の第1の面上に反応障壁層の前駆体を有する電解質材料は、必要に応じて第2の面上のアノード前駆体材料とともに、適切な温度、例えば約1200℃〜1500℃の範囲で、ともに焼結される。形成された反応障壁層にカソード材料層が次いで適用され、部材は、通常低温で再度焼結され、SOFCが製造される。
【0005】
提案された適切な反応障壁層は、ドープされたセリアCeO{イットリア(Y)、サマリア(Sm)またはガドリニア(Gd)のいずれかでドープされたセリア}からなり、その理由は、ドープされたセリアとカソードの間に有害な反応が起きないからである。しかしながら、用いている高温では、セリアを焼結して密着性の強靱な膜とすることは困難である。それは、セリア反応障壁層の中では、格子から酸素が発生し、セリアとドーパントイオンがYSZ電解質の中に拡散し、後に空隙を残すからである。反応障壁層中のこれらの内部の空隙は、厚さが約5〜10ミクロンの範囲にあり、電池の特性を低下させる。したがって、反応障壁層がSOFCの信頼性を低下させる。
【0006】
セリアの移動の問題を最小限に抑制する1つの方法は、アノードとYSZ電解質を高温(約1200℃〜1500℃の範囲)でともに焼成した後で、セリアを適用することである。ドープされたセリアを電解質材料層上に適用し、次いで、追加の焼成工程において、低温で焼結する。しかしながら、追加の焼成工程は好ましいものではない。それは、SOFCの製造コストの上昇を伴うからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、上記以上に優れた特性を有する反応障壁層に対するニーズ、およびYSZ電解質上に該反応障壁層を形成する方法に対するニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、YSZ固体酸化物電解質層とカソード層を有する固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネントの製造方法が提供され、該製造方法は、
第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とを有するYSZ固体酸化物電解質材料を用意する工程、
少なくともジルコニアとセリアの混合相を含む混合相層を電解質材料の第1の面上に形成する工程、および、
電解質材料の第1の面上にカソード層を形成するために、混合相層の表面上にカソード材料を堆積させる工程を含み、
該カソード材料が、混合相層と直接接している。
【0009】
また、本発明の第1の態様によれば、YSZ固体酸化物電解質層とカソード層を有する固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネントが提供され、
電解質層が、第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とを有し、
少なくともジルコニアとセリアの混合相からなる混合相層が電解質の第1の面上に形成され、および
混合相層と直接接するように、カソード層が混合相層上に形成されている。
【0010】
「少なくともジルコニアとセリアの混合相」という句は、セリア(およびせリアドーパントイオン)がジルコニア(ZrO)格子構造の中に固溶体として取り込まれていることを意味する。イットリア(Y)ドーパントがジルコニアのマトリックスに取り込まれるのと同様の方法で、YSZ電解質材料の第1の面の表面ではジルコニアのマトリックスの中にセリアが取り込まれる、と信じられており、イットリアの場合には、ジルコニアのマトリックスを安定化させる。
【0011】
「カソード材料が混合相層と直接接している」または同等の「カソード層が混合相層と直接接するように混合相層上に形成されている」は、カソード材料と混合相層が、その間にフリーのセリアがない状態で接していることを意味している。すなわち、電解質層とカソード材料層の間に存在するすべてのセリアは、混合相の状態にある。
【0012】
それ故、得られる反応障壁層は、ジルコニアとセリア(およびいくらかのドーパントイオン)の混合相のみからなり、セリアのみからなるものではない。したがって、SOFC中にセリア層が存在することによりもたらされる先の問題が軽減される。それは、本発明のSOFCまたはSOFCサブコンポーネントが、空隙が形成されるセリア層を含んでいないからである。それ故、本発明により形成される混合相層は、障壁層として効果的に作用することができ、SOFCの特性に悪影響を与えることなく、カソードとYSZ電解質との間の絶縁相の形成を防止あるいは少なくとも軽減することができる。
【0013】
一つの態様では、混合相層を形成する工程が、電解質材料の第1の面にセリア層を適用する工程と、電解質上のセリアを加熱する工程を含む。
【0014】
例えば、プラズマ溶射、コールドスプレー(cold spraying)またはスパッタリングを用いてYSZ電解質の表面にセリアを付着させることができる。別の態様では、セリアのゾルゲル溶液または塩溶液を、あるいはセリアの懸濁ナノ粒子の希薄溶液を、吹付け、スピンコーティングまたはディップコーティングにより、YSZ電解質の表面に付着させることができる。形成されるコーティング膜の厚さは、ミクロンまたはサブミクロンのオーダーにすることができる。または、以下に詳細に説明するように、テープ、パウダーまたはスラリーまたはペーストとしてセリアを付着させることもできる。
【0015】
混合相層を形成するための前述の加熱は、電解質材料の第1の面にセリア層を付着されるのと同時に、あるいはセリア層を付着させた後で行ってもよい。ジルコニアマトリックスへのセリアの拡散または別の形での包含(およびあるいは電解質中のいくらかのイットリアおよび/または存在するセリアドーパントイオンの拡散または包含)は、約1150℃から始まる。したがって、少なくともジルコニアとセリアの混合相を生成させためには、少なくとも1150℃、好ましくは少なくとも約1200℃に電解質を加熱することができる。
【0016】
好ましい態様としては、YSZ固体酸化物電解質材料の第2の面上に固体酸化物燃料電池アノードが形成されているものである。この場合、アノード材料を焼結し、および複数の層を一体的に結合させるためには、構造体を、少なくとも約1300℃、例えば、1300℃〜約1450℃の温度に加熱して混合相層を形成することが必要とされる。適切なアノード材料は、ニッケル−ジルコニアサーメットである。
【0017】
好ましくは、YSZ電解質層は、平板型SOFCで使用される、薄く平坦なシート形状として提供される。しかし、筒型電解質層等の他の形状の固体酸化物YSZ電解質材料を本発明に用いることもできる。電解質材料は、それを焼成および固化させるまでは成形することができ、アノード材料上にスラリーとして塗布され、アノードの支持層として作用し、本発明の方法が実施される前または実施された後で共に焼成される。2つの成分(すなわち、電解質およびアノード)はそれにより接合され、セリア層の加熱により生成した混合相層にカソード材料を付着させることができる。筒型燃料電池では、電解質材料を、筒状アノード層上へ押し出し、あるいは筒状アノード層と共に押し出すことにより、所望の筒型構造とすることができる。
【0018】
いくつかの態様では、電解質の第2の面上の所定の場所にアノード材料層がなくても実施できる。しかしながら、これが好ましいことではない。なぜなら、本発明に基づきアノード層上にYSZ固体酸化物電解質材料を形成できれば、燃料電池の製造がより効率的となるからであり、それは、第1の面に電解質材料の表面へのセリアの拡散または別の形での包含を行うための加熱工程を、電池のそれらの層(アノード/電解質/混合相層)を焼結し、それらの層を互いに結合させるのにも使用することができるからである。すなわち、半電池構造体を共焼成することにより、混合相層を形成することができ、それにより、製造コストを削減することができる。
【0019】
カソード材料が、下にあるYSZ電解質と反応して絶縁層を形成するような元素を含む時には、混合相層が必要とされる。例えば、ランタン、ストロンチウムおよびバリウム等の元素を含むカソード材料は、YSZ電解質上で用いる時には、混合相層から利益を受ける。
そのようなカソード材料は、以下の一般式で表される材料を含む:
A’1−xA”B’1−yB”
ここで、A’はランタン;A”はカルシウム、ストロンチウム、ニッケルおよびバリウムから選択された元素;B’およびB”は、それぞれ独立に、クロム、マンガン、鉄、コバルトおよびニッケルから選択された元素;xは約0〜約0.5の範囲であり;およびyは約0から約1の範囲である。
【0020】
好ましい態様としては、カソード材料は、La0.6Sr0.4Fe0.8Co0.2(LSCFカソード材料として知られている)を含む。
【0021】
当分野において公知である、電解質材料層にカソード材料を付着させるための色々な方法を用いて、カソード材料を混合相層に付着させ、および当業者に公知の条件で焼成することができる。
【0022】
ドープされたセリア(本明細書では、特に断らない限り、単にセリアと時々いう)は、SOFCに用いるのに必要なイオン導電性を有している。本発明においては、広範囲のセリア材料を好適に用いることができ、以下の式で表される化合物を含む:
1−xCe
ここで、Mはイットリウム、サマリウム、ガドリニウム、プラセオジウム、ランタンおよびテルビウムのいずれか1種;xは約0.8〜0.9の範囲である。
【0023】
好ましい態様としては、ドープされたセリアは、式Sm0.2Ce0.8で表される。
【0024】
好ましくは、その上にカソードが形成される電解質材料の全面にセリアを付着させ、それにより混合相層がそれらの間に配置される。いくつかの態様では、その上にカソードが形成される電解質のいくつかの領域でセリアが存在しないようにすることができるが、これは好ましいことではない。何故なら、セリアの存在しないこれらの領域は、電池の運転時に劣化して、SOFCの安定性を低下させるからである。いくつかの態様では、カソード材料層を、電解質の第1の層の一部分のみに付着させてもよい。すなわち、電解質材料の第1の層の利用可能な表面よりもカソード層を小さくしてもよい。その態様では、その上にカソード材料を有しない、電解質材料の第1の面の一部分は、その上に混合相層を形成する必要がない。
【0025】
本発明の方法を用いて調製した混合相層は、前の提案に基づいて調製したセリア障壁層と区別可能である。何故なら、混合相層は、下に存在するYSZ電解質材料そのものと同様の機械特性および靱性を有しているからである。すなわち、混合相層の機械的硬度は、YSZ固体酸化物電解質材料の硬度と少なくとも実質的に同じであり、すなわち差は約10%の範囲内であり、および混合相層の結晶粒組織は、下に存在する固体酸化物電解質の結晶粒組織と少なくとも実質的に同じである。
【0026】
一つの態様において、混合相層の形成方法は、セリア層を電解質とともに共焼成してセリアとジルコニアの混合相を形成し、および該混合相の表面から過剰のセリアを機械的に除去することを含む。この方法が、前の提案の問題をもたらす過剰なセリアを存在させることなく、信頼性のある混合相層を達成するための最も省コストな方法であることがわかった。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、第1の面と、該第1の面に対向する第2面とを有するYSZ固体酸化物電解質材料層を含む固体酸化物燃料電池サブコンポーネントの製造方法が提供され、該方法は、電解質材料層の第1の面上にカソード材料層を適用する前に実施され、および以下の工程を含む:
電解質材料層の第1の面上にセリア層を形成し、
表面にセリアを有する電解質材料を加熱して、電解質材料層の第1の面上にある少なくともジルコニアとセリアの混合相と、該混合相上の過剰のセリアとを含む該混合相を形成し、および
該過剰のセリアを除去する。
【0028】
本方法は、過剰のセリアを除去した後、混合相層上にカソード材料層を積層する工程をさらに含んでもよい。過剰のセリアが除去されると、カソード材料は混合相層と直接接することになる。
【0029】
さらに本発明の第2の態様によれば、カソード材料層を支持するための第1の面と該第1の面に対向する第2の面とを有するYSZ固体酸化物電解質層、および電解質材料層の第1の面上の少なくともジルコニアとセリアの混合相を含む混合相層を含み、上記の混合相以外には、電解質材料層の第1の面上にセリアが存在しない、固体酸化物燃料電池サブコンポーネントが提供される。
【0030】
本発明の第1の態様に基づき、SOFCまたはSOFCサブコンポーネントまたはその製造方法の任意および好ましい特徴を、必要な変更を加えて本発明の第2の態様に適用してもよく、それらの特徴についての開示は、該開示に従い理解されるべきである。
【0031】
文脈上明らかにそうでない場合を除いて、以下の説明は本発明の両方の態様に適用される。
【0032】
混合相層の厚さは、約1ミクロン〜約5ミクロンの範囲、好ましくは約3ミクロンである。混合相層では、YSZ電解質材料からのイットリアだけでなく、ジルコニアおよびセリア、および恐らく以下で詳細に説明するセリアドーパント濃度も、厚さ方向で量が変化する。
【0033】
上述のように、YSZ電解質材料の表面にセリアを置き、表面を加熱すると、ジルコニアとセリアは、およびより少量ではあるがイットリアおよび/またはセリア中のドーパントイオンは、YSZ固体電解質材料層の第1の面に隣接する領域に混合相を形成する。ジルコニアと混合相を形成しない過剰のセリアが除去されて混合相が露出すると、混合相は次に適用されるカソード材料と反応せず、有効で薄い混合相反応障壁層を形成することが見出されている。過剰のセリアを除去することは、混合相層の特性に少しも悪影響を与えるものではなく、その代わり、少なくとも実質的に空隙がなく、下にある電解質材料に十分に付着した、より強い反応障壁層を提供する。
【0034】
また上述したように、電解質材料層の第1の面に、異なるいろいろな方法でセリアを供給することができる。好ましい態様では、粉末のような粒状固体としてセリアを供給する。粉末をバラバラの状態で付着させることもできるが、バインダーおよび溶媒と混合してスラリーまたはペーストを供給することが好ましい。バインダーを用いることの利点は、粉末の取り扱いがより容易となることである。適切なバインダーは、スクリーン印刷法、吹き付け法および/またはテープキャスト法で使用されているバインダーを含み、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)である。スラリーまたはペーストに用いる適切な溶媒は、スクリーン印刷法、吹き付け法および/またはテープキャスト法で使用されている溶媒を含み、例えば水を含む水溶液である。
【0035】
好ましくは、セリア粉末は、水系スラリーの形態をとり、PMMAバインダーと、分散剤、消泡剤、レオロジー改良剤または増粘剤および/またはpH調整剤等の種々の添加剤を含む。スラリーは、湿潤剤を含んでもよい。
【0036】
セリアのスラリーを調製する時、好ましくはスラリー中の粉末の量は、5体積%〜60体積%、より好ましくは20体積%〜40体積%である。例えば40体積%を越える高い体積%を用いることもできるが、スラリー中の体積%が増加すると、加熱後、得られた混合相層から過剰のセリアを除去するのが困難になる。20体積%よりも低いと、以下に詳細に説明するように、スラリーをテープキャスト法に用いる場合の実用性が低下する。スラリー中の粉末の最も好ましい量は、22体積%〜25体積%の範囲である。粉末の量をこの範囲とすることの利点は、電解質材料を加熱すると、セリアはYSZ電解質材料層の第1の面のジルコニアマトリックスの中に組み込まれて混合相を形成するが、残留する過剰のセリアは、混合相層上に、バラバラで焼結が不十分な被膜の状態で存在しているので、除去するのが容易であるからである。スラリー中の粉末の量を低くすることの別の利点は、粉末の使用量が減ることによるコスト削減にある。
【0037】
好ましくは、粉末の粒径分布は、約0.3ミクロン〜約2.3ミクロン(μm)の範囲であり、必要により、粒子の約10%までが0.3μmより小さく、粒子の約10%までが2.3μmより大きい。粉末で使用されるセリアは、粉末焼結性を徐々に低下させるように取り扱うことができる。セリアを含む微粉末を粗粒化して、すなわち粉末の表面積を減少させて活性を低下させることにより、所望の範囲の粒径分布を得ることができる。粗粒化は、粉末を約1200℃まで加熱し、次いで粉末を粉砕することにより行うことができる。好ましくは、約1m/g〜10m/gの表面積を有する粉末を用意するか、そのような表面積となるように粗粒化する。10m/gを越えると、粉末を除去するのが非常に困難になる。一般的に、粉末の表面積が大きくなればなるほど、焼結後に過剰のセリアを除去することがより困難となる。好ましい態様として、粉末の表面積は約3m/gである。
【0038】
表面積が約3m/gである粉末は、約1100℃の温度で焼結を開始する必要があり、約1400℃で約10%〜約15%の収縮率を有する。
【0039】
また、セリアの固体リボンまたはテープを予め調製し、YSZ電解質の表面に付着させることもできる。セリアを含む粉末(あるいは、例えば上述のようにセリアのスラリーまたはペースト)を型に入れて加熱して該粉末を焼結および固化させることにより、テープを予め調製することができる。好ましくは、充填密度が、型の全体積の約20体積%〜約40体積%の範囲となるように型の中にセリアを充填する。充填密度がこの範囲にあると、セリアの多孔質テープが得られ、それにより、スラリーについて上述したように、焼結後に表面から過剰のセリアを非常に容易に除去することができる。
【0040】
好ましくは、電解質材料層の第1の面上に少なくともジルコニアとセリアの混合相を形成するために、スラリーまたはテープの状態のセリア層を上に有する電解質材料層を、上記のように少なくとも1150℃で加熱する。電解質のアノード面にアノードが存在している態様では、上記のように、1300℃〜1450℃の範囲の温度に加熱して、必要な密度を持った半電池構造体を効果的に結合する。必要な密度は、当業者(skilled addressee)であれば理解できるであろう。いくつかの態様では、必要な密度は、電解質の場合は97%より大きく、好ましくは99%より大きく、アノードの場合は20%〜50%である。
【0041】
電池の部材を焼結するための加熱工程は、電解質材料層の第1の面上に混合相層を形成するために必要な所望の時間だけ実施される。いくつかの態様では、加熱は少なくとも1時間実施されるが、当業者であれば本明細書の教示に基づき理解できるように、SOFCを製造するために、時間を長くしたりあるいは短くしたりすることも可能である。加熱は、炉あるいは別の適切な手段を用いて実施できる。
【0042】
加熱後、電解質材料層の第1の面でジルコニアと混合相層を形成しないセリアは過剰なものであるので、カソード材料を付着させる前に、混合相層の表面から除去する必要がある。過剰のセリアを除去するためのいろいろな方法を用いることができる。好ましい態様として、機械的手段、例えば、サンダー仕上げ(sanding)、スクラビング(scrubbing)および/または磨き(scouring)等を用いた擦り落とし(scraping)あるいは研磨(abrading)を用いる。過剰のセリアをバラバラにして除去するための他の方法には、超音波処理、および/またはポリマービーズまたは固体のCO(ドライアイス)を用いるサンドブラストまたはグリットブラストまたはウォーターブラストが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
以下の図面を参照して本発明の好ましい態様を説明するが、該図面は例示のみを目的とするものである。
【図1】従来の提案に基づく固体酸化物燃料電池の一部のSEM画像である。
【図2】図1の固体酸化物燃料電池について得られた出力密度のプロットである。
【図3】本発明の一態様に係る固体酸化物燃料電池の一部のSEM画像である。
【図4】図3の固体酸化物燃料電池について得られた出力密度のプロットである。
【図5】本発明の一態様に基づいて調製した混合相反応障壁層における、ジルコニウム、イットリウム、セリウムおよびサマリウムのモル分率濃度と深さとの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1はSEM画像であり、従来の提案(従来のSOFC)に基づき、Ni−YSZサーメットアノード12とLSCFカソード14との間に挟まれたYSZ電解質10を示している。図1の従来のSOFCを製造するために、アノード面にアノードを有するYSZ電解質が用意された。粉末化されたセリアを含むスラリーを調製し、該スラリーをテープ成形し、アノードと電解質のアセンブリーにテープを積層することにより、電解質の他方の面にセリアを付着させた。用いたセリアは、ドープされたSm0.2Ce0.8である。電解質上にセリア層を有する、アノードとYSZ電解質のアセンブリーは、約1時間の間、約1400℃に加熱された。以上のようにして形成された焼結されたセリアを含む反応障壁層16は、不透明な外観を有する。
【0045】
この処理の後、LSCFカソード材料を電解質のカソード面の反応障壁層上に堆積させ、焼結した。セリアの反応障壁層16は、厚さが約5ミクロンであり、図1のSEM画像では、その中に空隙や気孔が明確に認められる。従来のSOFCのセリア層は、前述のように、電池の安定性および出力密度に対しては悪影響を与える。
【0046】
従来のSOFCの代表的な出力密度のプロットを図2に示す。天然ガス(NG)と空気の流量をそれぞれ60ml/minと300ml/minで固定し、電池を750℃で運転した。ここで、NGは、蒸気添加により10%プレ改質および脱硫がなされ、蒸気対炭素比として2:1が得られた。プロットは、電流が増加すると、電圧、すなわち電池出力が減少し、出力密度が増加することを示している。得られた出力密度は電池抵抗と関係があり、セリア層の不十分な構造のため電池抵抗は高い。
【0047】
図3は、本発明の一態様に基づくものであって、Ni−YSZアノード12とLSCFカソード14との間に挟まれたYSZ電解質10を示している。層16を除き、この態様およびその製造方法は、図1を参考にして記載されている。
【0048】
本態様では、セリア層16は機械的研磨により完全に除去され、ドープされたセリアからのサマリウムおよび電解質材料表面のジルコニアからのイットリアだけでなくセリアおよびジルコニアを含む混合相層18が残り、該混合相層にはカソード材料層14が付着および焼結される。混合相層18は、反応障壁層として働き、YSZ電解質と同様に半透明の外観を有し、厚さが約3μmである。「半透明」とは、YSZ電解質材料の第1の面側から見た場合、混合相層18と電解質層10を通して、下のアノードの色を明確に見ることができることを意味する。これは図1の態様と異なる点であり、図1の態様では、セリア障壁層16は不透明であり、下のアノードの色だけでなく電解質層も遮蔽し、その結果、つや消し白(matte white)、クリーム状または真珠状の色となる。
【0049】
図3のSEM画像は、混合相層18には空隙がなく、下の電解質に付着していることを示している。混合相層18中のZr:Ceのモル比を、SIMSを用いて深さの関数として測定した。SIMSの結果を、グラフの形で図5に示す。図5において、プロットを深さゼロに外挿することにより、混合相層の表面のZr:Ceのモル比が約0.21:1であることがわかった。約0.03ミクロン未満の深さのデータは、表面粗さに大きく影響される。約0.1ミクロンの深さでは、混合相層中のZr:Ceのモル比は、約0.38:1である。好ましくは、混合相層中のZr:Ceのモル比は、0.05〜約0.2ミクロンの深さの範囲では、約0.3:1〜約0.55:1の範囲である。またSIMSによれば、約0.8ミクロンの深さでは、Zr:Ceのモル比は2.46:1であった。好ましくは、約0.8ミクロンの深さにおける混合相層中のZr:Ceのモル比は約2:1〜約3:1の範囲である。
【0050】
SIMSを用いた表面分析は、表面の最上層、すなわち深さがゼロミクロンでも、混合相がZrを含むことも明らかにした。0.1〜0.8ミクロンの領域を外挿することにより求めたZrの量は、最上層のZrの約0.18モル分率であった。好ましくは、最上層が、0〜約0.26モル分率のZrを含み、残部がY、Ceおよびいくらかのセリアドーパント、例えばSmである。SIMSを用いた表面分析は、Smが存在する場合、Ceよりも速くYSZ電解質に拡散することも明らかにした。このことは図5に示されており、深さ0.7ミクロンにおける混合相反応障壁層中にSm対Ceモル分率比は約0.55であるのに対し、出発セリア材料中の比率は0.2である。YまたはGd等の他のドーパントをセリアに用いた場合、セリアに対するYSZへの相対的な拡散比は、これらのドーパントに対して異なる深さ濃度を与える。
【0051】
図3を参照して説明した本発明の態様に基づくSOFCの特性プロットを図4に示す。天然ガス(NG)と空気の流量をそれぞれ60ml/minと800ml/minで固定し、電池を750℃で運転した。ここで、NGは、蒸気添加により10%プレ改質および脱硫がなされ、蒸気対炭素比として2:1が得られた。本発明の本電池においてより高い電力出力で同様の空気および燃料の利用率を維持すべく、空気流量を、従来のSOFCと比較して大きくした。
【0052】
従来のSOFCと本発明のSOFCの0.8Vにおける出力密度を比較することができる。0.8Vでは、従来のSOFCの出力密度は約300mW/cmである(図2のプロットから求めた。)。本発明の電池は、0.8Vでは、出力密度は約600mW/cmであり(図4のプロットから求めた。)、これは、カソード材料が混合相層18と直接接することによりもたらされる電池抵抗の低下によるものである。
【0053】
当業者は、特別に説明したもの以外に、本明細書に記載した発明については変更例や変形例が可能であることを理解するであろう。本発明の精神及び範囲内に含まれるものであれば、そのような変更例や変形例はすべて本発明に含まれると理解されるべきである。
【0054】
本明細書及び以下のクレームを通して、文脈において否定しない限りは、「有する」という用語や、「含む」や「備える」等の変形は、示された要素又は工程あるいは示された要素群又は工程群を含むことを意味するものであり、他の要素又は工程あるいは他の要素群又は工程群を排除するものではない。
【0055】
本明細書における先行技術(又はそれから得られる情報)あるいは公知の事項についての言及は、それらの刊行物(又はそれから得られる情報)あるいは公知の事項が、本明細書の関係する分野の公知技術の一部を構成するものであることの自認又は承認又はいかなる示唆を示すものでもなく、またそのように見なすべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
YSZ固体酸化物電解質層とカソード層を有する固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネントの製造方法であって、以下の工程を含む該製造方法:
第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とを有するYSZ固体酸化物電解質材料を用意する工程;
少なくともジルコニアとセリアの混合相を含む混合相層を電解質材料の第1の面上に形成する工程;および
電解質材料の第1の面上にカソード層を形成するために、混合相層の表面上にカソード材料を堆積させる工程であって、該カソード材料が、混合相層と直接接している該工程。
【請求項2】
上記の混合相層を形成する工程が、電解質材料の第1の面にセリア層を付着させる工程と電解質材料上のセリアを加熱する工程を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記の加熱を、電解質材料の第1の面へのセリア層の付着と同時に行う請求項2記載の方法。
【請求項4】
上記の加熱を、電解質材料の第1の面へセリア層を付着させた後で行う請求項2記載の方法。
【請求項5】
上記混合相層を形成するための上記の加熱を、少なくとも約1150℃までの温度で行う請求項2から4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
上記YSZ固体酸化物電解質材料が、該電解質材料の第2の面上に、固体酸化物燃料電池アノード材料を有する請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
上記混合相層を形成するための上記の加熱を、少なくとも約1300℃までの温度で行う、請求項2から4のいずれか一つに従属する請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の製造方法であって、
上記の混合相層を形成する工程が該混合相層の表面に過剰のセリアを残留させ、および該製造方法が、上記カソード材料を堆積させる前に該表面から過剰のセリアを除去する工程をさらに含む該方法。
【請求項9】
上記の過剰のセリアを除去する工程が、混合相層の表面を機械的に擦るまたは研磨する工程を含む請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一つに記載の製造方法であって、混合相層を形成するために用意されたセリアが、以下の一般式で表されるドープされたセリアである該方法:
1−xCe
ここで、MはY、Sm、Gd、Nd、Pr、LaおよびTbから選択された少なくとも1種であり、xは約0.8〜0.9の範囲である。
【請求項11】
セリアが、Sm0.2Ce0.8である請求項10記載の方法。
【請求項12】
YSZ固体酸化物電解質層とカソード層を有する固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネントであって、
該電解質層が、第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とを有し、
少なくともジルコニアとセリアの混合相を含む混合相層が該電解質材料の第1の面上に形成され、および
カソード層が、混合相層と直接接するように形成されてなる、固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項13】
上記混合相層の厚さが、約1〜約5μmの範囲である請求項12記載の固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項14】
上記電解質層から遠く離れた、混合相層の表面におけるジルコニアのモル分率が約0〜約0.26の範囲にある請求項12または13に記載の固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項15】
上記混合相層中のZr:Ceのモル比が、上記電解質層から遠く離れた、混合相層の表面からの深さが約0.05〜約0.2μmにおいて、約0.3:1〜約0.55:1の範囲にある請求項12から14のいずれか一つに記載の固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項16】
上記混合相層中のZr:Ceのモル比が、上記電解質層から遠く離れた、混合相層の表面からの深さが約0.7〜約0.9μmにおいて、約2:1〜約3:1の範囲にある請求項12から15のいずれか一つに記載の固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項17】
上記混合相層中のセリアが、Y、Sm、Gd、Nd、Pr、LaおよびTbから選択された1種以上の元素でドープされている請求項12から16のいずれか一つに記載の固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項18】
上記電解質層の第2の面上にアノード層をさらに含む請求項12から17のいずれか一つに記載の固体酸化物燃料電池または固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項19】
第1の面と、該第1の面に対向する第2の面とを有するYSZ固体酸化物電解質材料層を含む固体酸化物燃料電池サブコンポーネントの製造方法であって、該電解質材料層の第1の面上へのカソード材料層の付着に先立って実施され、以下の工程を有する該製造方法:
該電解質材料層の第1の面上にセリア層を形成する工程;
その上にセリアを有する該電解質材料層を加熱して、
少なくともジルコニアとセリアの混合相を含む混合相層を該電解質材料層の第1の面上に形成するとともに、過剰のセリアを該混合相層上に形成する工程;および
該過剰のセリアを除去する工程。
【請求項20】
上記の混合相層を形成するための加熱を、電解質材料の第1の面へのセリア層の付着と同時に行う請求項19記載の方法。
【請求項21】
上記の混合相層を形成するための加熱を、電解質材料の第1の面へセリア層を付着させた後で行う請求項19記載の方法。
【請求項22】
上記の混合相層を形成するための加熱を、少なくとも約1150℃までの温度で行う請求項19から21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
上記電解質材料層が、その第2の面上にアノード材料層を有する請求項19から22のいずれか一つに記載の方法。
【請求項24】
上記の混合相層を形成するための加熱を、少なくとも約1300℃までの温度で行う請求項23記載の方法。
【請求項25】
上記電解質材料層の第1の面上に形成されたセリアが以下の一般式で表されるドープされたセリアである請求項19から24のいずれか一つに記載の方法:
1−xCe
ここで、MはY、Sm、Gd、Nd、Pr、LaおよびTbから選択された少なくとも1種であり、xは約0.8〜0.9の範囲である。
【請求項26】
セリアが、Sm0.2Ce0.8である請求項25記載の方法。
【請求項27】
上記の過剰のセリアを除去する工程が、混合相層の表面を機械的に擦るまたは研磨する工程を含む請求項19から26のいずれか一つに記載の方法。
【請求項28】
過剰のセリアを除去した後、カソード材料層を上記混合相層上に堆積させる工程を含む請求項19から27に記載の方法。
【請求項29】
カソード材料層を支持する第1の面と、該第1の面に対向する第2の面を有するYSZ固体酸化物電解質層、および
少なくともジルコニアとセリアの混合相を含み、電解質材料層の第1の面上に形成された混合相層を含み、
上記混合相中以外には、電解質材料層の第1の面上にはセリアが存在しない、固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項30】
上記の電解質層の第2の面上に、固体酸化物燃料電池アノード材料層をさらに含む請求項29記載の固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項31】
上記の電解質層から遠く離れた、混合相層の表面におけるジルコニアのモル分率が約0〜約0.26の範囲にある請求項29または30に記載の固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項32】
上記混合相層中のZr:Ceのモル比が、上記電解質層から遠く離れた、混合相層の表面からの深さが約0.05〜約0.2μmにおいて、約0.3:1〜約0.55:1の範囲にある請求項29から31のいずれか一つに記載の固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項33】
上記混合相層中のZr:Ceのモル比が、上記電解質層から遠く離れた、混合相層の表面からの深さが約0.7〜約0.9μmにおいて、約2:1〜約3:1の範囲にある請求項29から32のいずれか一つに記載の固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項34】
上記混合相層の厚さが、約1〜約5μmの範囲である請求項29から33のいずれか一つに記載の固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。
【請求項35】
上記混合相層中のセリアが、Y、Sm、Gd、Nd、Pr、LaおよびTbから選択された1種以上の元素でドープされている請求項29から34のいずれか一つに記載の固体酸化物燃料電池サブコンポーネント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−505499(P2012−505499A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530330(P2011−530330)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001335
【国際公開番号】WO2010/040182
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(500101988)セラミック・フューエル・セルズ・リミテッド (12)
【Fターム(参考)】