説明

固体酸触媒および固体酸触媒反応器

【課題】酸が触媒として作用し、水が生成する有機化合物の反応において、高い反応比表面積と親水性と疎水性の複合した表面性状による高活性の反応場を与え、水が触媒の反応活性を低下せしめる影響を抑え、転化率を向上、維持し、後処理工程での精製に消費するエネルギーを軽減することを可能とする固体酸触媒と、該固体酸触媒を用いた反応器を提供する。
【解決手段】スルフォン酸基を含む荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーの混合物を電界紡糸した繊維よりなる不織布状の固体酸触媒。この固体酸触媒をスペーサと積層して巻回してなる固体酸触媒反応器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水が生成物となる有機化合物反応に用いる固体酸触媒及び固体酸触媒反応器に係り、特にスルフォン基を有する固体酸触媒及び固体酸触媒反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩酸や硫酸など強酸を触媒とする有機化学反応では、塩酸や硫酸を直接、触媒として用いる場合、多量の廃液、酸排水が発生すること、装置の腐食を招くことから、固体酸触媒への転換が図られてきた。固体酸触媒としては、ゼオライト、モルデナイト、シリカ−アルミナ、γ−アルミナ、チタニア−シリカ、有機高分子シロキサンやジビニルベンゼンスルフォン酸を骨格とするカチオン交換樹脂が用いられてきている。このような固体酸を触媒とする反応の中でも、反応で水を生成する有機化学反応では、水や反応生成物が原因となって充分な反応活性が得られないという欠点があった。これは、固体触媒が親水性であるため、固体触媒の持つ細孔内部に水が入り込み、触媒活性サイトとなるスルフォン酸基への有機反応物質のアプローチを阻害するためと考えられる。
【0003】
カチオン交換樹脂を触媒として用いる場合、水による活性サイトへの反応物質のアプローチ阻害が生じると共に、耐熱性の点から40℃〜80℃、現実的には40℃〜60℃という低温での使用が制約条件となって、充分な反応速度が得られないという欠点があった。
【0004】
また、アセトンとフェノールからビスフェノールAを合成する反応(例えば特許文献1)では、ビスフェノールAの結晶析出を防止するため、原料として、アセトンに対し、大過剰のフェノールを存在させ、生成物であるビスフェノールAの溶媒としての効果を持たせる必要があった。そのため、ビスフェノールAの分離精製工程では大量のエネルギーの投入が必要となっている。
【0005】
反応速度を高めるために、助触媒としてイオン交換樹脂に含硫黄化合物を固定化して、触媒に用いるなどの技術が開発されているが、原料中の不純物によって、イオン交換樹脂上での助触媒成分が変質するという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−281608
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸が触媒として作用とする反応の中で、水を生成物質とする有機化合物の反応において従来用いられている硫酸触媒、カチオン交換樹脂触媒には、次のような課題がある。
【0008】
1.硫酸触媒
1.1 均一系では、水が生成物阻害を起こす。
1.2 生成物と触媒との分離が必要
1.3 大量の硫酸廃液が生じる
1.4 装置部材が硫酸により腐食する
【0009】
2.カチオン交換樹脂触媒
2.1 樹脂表面の親水性が強いため、反応物質である有機物質のアプローチが阻害される。
2.2 水や反応生成物が樹脂の細孔に残留して触媒活性を低下させる
2.3 樹脂の脱水再生が必要であり、連続反応を行うことができない。
2.4 縮合反応で高分子化させる場合、樹脂の細孔内での反応に制約が生じる。
【0010】
本発明は、酸が触媒として作用し、水が生成する有機化合物の反応において、高い反応比表面積と親水性と疎水性の複合した表面性状による高活性の反応場を与え、水や反応生成物が触媒の反応活性を低下せしめる影響を抑え、転化率を向上、維持し、後処理工程での精製に消費するエネルギーを軽減することを可能とする固体酸触媒と、該固体酸触媒を用いた反応器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の固体酸触媒は、酸が触媒として作用し、水が生成する有機化合物反応に用いる固体酸触媒であって、スルフォン酸基を含む荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーの混合物を電界紡糸した繊維よりなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の固体酸触媒は、請求項1において、スルフォン酸基を含む荷電性ポリマーがフッ素を含むことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の固体酸触媒は、請求項1又は2において、非荷電性ポリマーがフッ素を含むことを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の固体酸触媒は、請求項1ないし3のいずれか1項において、スルフォン基を含む荷電性ポリマーの全ポリマーに対する比率が、重量比として10%〜90%であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5の固体酸触媒は、請求項1ないし4のいずれか1項において、20μm以下の微細繊維を集積した不織布となっていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項6の固体酸触媒反応器は、請求項5に記載の固体酸触媒を、反応物質および反応生成物の流路を確保するための網目構造を持つスペーサと積層した複合層よりなるものである。
【0017】
請求項7の固体酸触媒反応器は、請求項6において、該複合層が円筒状に巻回されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の固体酸触媒は、酸が触媒として作用する反応の中で、水が生成物として関与する有機化合物反応に用いる固体酸触媒であって、スルフォン酸基を含む荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーの混合物を電界紡糸した繊維よりなる。
【0019】
この固体酸触媒は、固体酸触媒であるため、上記硫酸触媒の問題はいずれも生じない。
【0020】
この固体酸触媒では、非荷電性のポリマーが混合されているので、縮重合反応における未反応物質の疎水的な部分を引き寄せ、スルフォン基の部分における反応を促進させる。このため、有機物質のアプローチが阻害されない。
【0021】
この固体酸触媒は、完全な親水性ではないため、反応場に水が滞留し難く、上記課題のうち、水に起因した課題が生じない。
【0022】
本発明の固体酸触媒では、荷電性ポリマー及び/又は非荷電性ポリマーがフッ素を含んでいてもよい。荷電性ポリマーがフッ素を含むことにより、触媒表面の親水性が抑制される。これにより、上記課題のうち、水に起因した課題が生じない。また、フッ素を含むポリマーは、耐熱性、耐有機溶媒性に優れるので、触媒の耐熱性、耐有機溶媒性が高いものとなる。これにより、高い温度での反応を行うことができ、有機反応の反応性を向上させることができる。
【0023】
本発明の固体酸触媒は、繊維径が20μm以下の微細繊維から成る不織布であることが好ましい。
【0024】
固体酸触媒が微細繊維よりなることにより、固体酸触媒の比表面積を大きくし、広い反応場を与えて、反応活性を高めることができる。また、固体酸触媒を繊維状とすることにより、水や反応生成物の脱離が容易となり、上記課題のうち、水や反応生成物に起因した課題が生じない。
【0025】
また、比表面積の大きい繊維表面が反応に寄与するため、縮合反応で高分子化させる場合、樹脂の細孔内での反応に制約が生じない。
【0026】
本発明の固体酸触媒反応器は、この不織布状の固体酸触媒を、反応物質および反応生成物の流路を確保するための網目構造を持つスペーサと交互に積層した複合層よりなる。
【0027】
この固体酸触媒反応器によると、微細繊維不織布からなる固体酸触媒と反応液を効果的に接触させ、生成物と副生成物の水を触媒表面から容易に脱離させることができる。また、固体酸触媒の不織布をスペーサと積層することにより、固体酸触媒反応器の圧力損失が小さいものとなる。
【0028】
この固体酸触媒反応器にあっては、該複合層を円筒形に巻回することにより、反応液の流入・流出が容易で、コンパクト、圧力損失の少ないものとなる。
【0029】
このように、本発明は、荷電性ポリマーと非荷電ポリマーを複合させて、その素材や比率を変えることにより、反応サイトであるスルフォン基の導入量を十分に保ちながら、表面にある程度の疎水性を持たせた固体酸触媒を提供する。また、その形状を微細繊維とすることにより、比表面積を大きくし、広い反応場を与えると共に、反応性生物の脱離を容易にする。
【0030】
その結果、触媒活性サイトが水や反応生成物で被覆され、活性低下することを防止することが可能となる。特に、水を副生する反応では、活性サイトから反応で生成した水を速やかに遠ざけることが可能となり、有為に活性の低下を防止することができる。イオン交換樹脂を用いた触媒では、フェノールで膨潤させた状態で使用を開始するが、反応の進行と共に、触媒粒子中に副生した水が蓄積し、安定した平衡活性を示すことが困難である。そのため、回分反応方式を用いたり、触媒を充填した反応塔と脱水剤を充填した脱水塔を交互に設けるような対応が採られている。しかしながら、本発明による固体酸触媒は、適度に疎水性を有しているため、連続反応を行っても、活性サイトが生成する水で完全に被覆されることがないために、一定の平衡活性を示す。従って、脱水による触媒再生などが必要なく、非常にシンプルな反応器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】電界紡糸法の説明図である。
【図2】固体酸触媒反応器の製作方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の固体酸触媒は、酸が触媒として作用する反応の中で、水が生成物として関与する有機化合物反応に用いる固体酸触媒であって、スルフォン酸基を含む荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーの混合物を電界紡糸した繊維よりなることを特徴とするものである。
【0033】
スルフォン酸基を含む荷電性ポリマーとしては、スルフォン酸基とフッ素を有する炭化水素ポリマーが好適であり、特に、下記化学式に示すような疎水性のポリテトラフルオロエチレン骨格とスルフォン酸基を持つパーフルオロ側鎖から構成される共重合体が好適である。具体的には、DuPont社製ナフィオン、Fumatec社製フミオン等を用いることができる。重量平均分子量として1万〜100万が好ましく、5万〜80万がより好ましい。
【0034】
【化1】

【0035】
非荷電性ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシカルボン酸などのポリエステル、PTFE、CTFE、PFA、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルニトリル、およびこれらの共重合体などの素材が使用できるが、この限りではない。特に1種類の素材に限定されることはなく、必要に応じて種々の素材を選択できる。これらの中でも、重量平均分子量として10万〜100万、特に20万〜70万のリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。
【0036】
荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーとの混合物から成る固体酸触媒は、従来用いられているゲル型のカチオン交換樹脂に比べて耐熱性に優れ、60℃以上、例えば80℃での使用が可能となる。これにより、活性サイトの水の被覆による活性低下を防止できるばかりでなく、反応温度を高めることにより活性を向上させ、反応容積を小さくすることが可能となる。また、生成物の溶解度が反応効率に制約を与えている場合、例えば、フェノールとアセトンから酸触媒によりビスフェノールAと水を生成する反応においては、原料のフェノールに対する生成物のビスフェノールAの溶解度を高めることができるので、反応原料中のアセトン含有率を増加させ、生成物であるビスフェノールAの生産性を向上させることができ、後続の精製工程の軽減に有効である。さらに、高温での反応は、反応液の通液による圧力損失の低減にも寄与する。
【0037】
本発明では、スルフォン基を含む荷電性ポリマーの全ポリマーに対する比率が、重量比として10%〜90%であることが好ましい。荷電性ポリマーの比率が多いと固体酸触媒は親水的となり、少ないと疎水的となる。固体酸触媒が非荷電性ポリマーを多く含むと、固体酸触媒の安定性が向上する。また、荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーの混合溶液を調製し、電界紡糸により繊維化して固体酸触媒とする場合、非荷電性ポリマーが多い方が電界紡糸が容易となる。そこで、荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーとの比率は、触媒活性、親疎水性、耐熱性、その他の性状を考慮して比率を決定するのが好ましい。
【0038】
荷電性ポリマーと非荷電性ポリマー、たとえば、ナフィオンとPVDFの混合物を電界紡糸法で繊維径20μm以下(例えば100nm〜1μm)の不織布とすることができ、これは特許公開されているWO2009/119638A1などの方法で製造することが可能である。
【0039】
荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーとの混合物を電界紡糸するには、まず、荷電性ポリマー及び非荷電性ポリマーを溶媒に溶解させる。この溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ケトン、エーテル類、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ホルムアミド、ジメチルスルホオキサイド、塩素系溶媒、フッ素系溶媒などから上記ポリマーが可溶なものを選択して用いるのが好ましい。なお、ポリマー溶液中の水濃度は10重量%以下であることが好ましい。
【0040】
以下、この荷電性ポリマー及び非荷電性ポリマーを溶解させた混合溶液を電界紡糸してハイブリッドポリマー繊維体を製造する方法について、第1図を参照して説明する。
【0041】
第1図は、この製造方法を説明する概略的な斜視図であり、吐出口1とターゲット(対向面部)3との間に、吐出口1側が正、ターゲット3側が負となるように電圧を印加しておき、吐出口1から電解質ポリマーと非電解質ポリマーの混合溶液をターゲット3に向けて吐出させ、ターゲット3上にポリマーの繊維を集積(堆積)させ、不織布2を製造する。
【0042】
吐出口1とターゲット3との距離は50〜500mm特に70〜300mm程度が好適である。両者の間の印加電圧は、電位勾配が1〜20kV/cm程度となるようにするのが好ましい。
【0043】
本発明の固体酸触媒反応器は、この微細繊維不織布と、網目構造を有した流路形成用スペーサとを積層した複合層よりなるものである。微細繊維不織布とスペーサとは1層ずつのみ積層されてもよく、交互に多層に積層されてもよい。また、微細繊維不織布とスペーサの複合層内にイオン交換膜が含まれてもよい。複合層を巻回して筒状巻回体とする場合には、1層ずつ積層したものでもよい。第2図はこの巻回方法を示す説明図であり、(a)図は巻回方法を示す断面図、(b)図は固体酸触媒反応器の斜視図である。
【0044】
この固体酸触媒反応器7は、上記の不織布2と、スペーサ5とを積層し、芯材6の周囲に巻回したものである。
【0045】
芯材6は中実の棒状であってもよいが、中空パイプ状であってもよい。ただし、液がパイプ内を長手方向に流れないようにパイプの端部を閉止する。また、パイプの外周面にも孔を設けない。芯材の直径は1〜50mm特に3〜20mm程度が好適である。芯材の材質はポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンのほか、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂が好適であるが、これに限定されない。
【0046】
スペーサ5は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル、ポリスルホンなどよりなる不織布、織布、格子状ネットなどが好適である。スペーサ5の厚さは0.1mm〜5mm、特に0.5〜2mm程度が好適であり、細孔径は100μm以上(目開き:50%〜90%)程度が好適である。
【0047】
不織布2の厚さは0.01〜1mm特に0.02〜0.2mm程度が好適である。
【0048】
このように構成された微細繊維不織布を固体酸触媒として使用することにより、分子量の大きい物質にも反応場を提供することが可能となり、縮重合反応をより進めることが可能となる。
【0049】
従来のイオン交換樹脂触媒では、樹脂充填体の圧力損失が大きく、高流速で原料を触媒層へ供給することは困難であった。本発明で提供される不織布膜状の固体酸触媒を網目状のスペーサと積層構造とすることで、圧力損失を低く抑えることが可能となり、高流速での反応も可能となる。
【0050】
本発明の固体酸触媒及び固体酸触媒反応器は、水が生成物となる有機化合物反応に用いられる。このような反応としては、以下のような反応を挙げることができる。
【0051】
(i) エステル化/トランスエステル化反応
(例1) 酢酸+エタノール→酢酸エチル+水
(例2) 酢酸+ブタノール→酢酸ブチル+水
(例3) n乳酸→ポリ乳酸+(n−1)水
(ii)エーテル化
(例4) 2エタノール→ジエチルエーテル+水
(iii)フェノールとアルデヒドの反応
(例5) アセトン+2フェノール→ビスフェノールA+水
(iv)脱水環化反応
(例6) 2エチレングリコール→1,4−ジオキサン+2水
【0052】
水を生成物とする有機化合物反応に本発明の固体酸触媒を用いることにより、固体酸触媒の親疎水性を制御することができ、反応活性サイトが水で覆われることによって引き起こされる平衡反応活性の低下が大幅に緩和される。固体酸触媒の形状を微細繊維不織布形状にすることで、触媒活性と水の脱離性を高める上で有効であり、高分子にも反応場を提供することができる。
【0053】
また、従来用いられているゲル型のカチオン交換樹脂に比べ、耐熱性に優れる素材を選択できるため、60℃以上の高温で用いることが可能であり、高活性を得ることができる。また、溶解性の問題で収率を挙げることができなかった物質に関しても、反応温度を高めることで生成物濃度を向上させることも可能となる。高温での反応は、反応器の圧力損失低減にも寄与する。
【0054】
本発明で提供する固体酸触媒反応器は、繊維径20μm以下の不織布状の固体酸触媒と、網目状のスペーサを交互に積層した複合層よりなるため、圧力損失を低く抑えることが可能であり、高活性の触媒を有効に利用することが可能となる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例に係る固体酸触媒反応器を用いたビスフェノールAの生成反応について説明する。
【0056】
この実施例及び比較例では、アセトンとフェノールを反応原液として、ビスフェノールAと水を生成させた。反応条件、触媒・装置条件は以下の通りである。
【0057】
[反応条件]
反応原液組成:アセトン4wt%,フェノール96wt%
反応温度:60℃(比較例1、実施例1)、80℃(実施例2)
通液速度:8.4mL/h
【0058】
[固体酸触媒反応器]
比較例1は、3gのナフィオンを、直径15mmのカラムに充填したものを固体酸触媒反応器とした。
【0059】
実施例1、実施例2は、ナフィオン:PVDF=6:4の重量比で混合し、電界紡糸により直径300nmに繊維化して不織布(厚さ60μm)としたものを0.3g使用し、幅180mm、厚さ0.6mmのポリプロピレン製メッシュスペーサと重ねて巻き回し、直径15mmのカラムに充填した。
【0060】
反応試験の結果を表1に示す。比較例1と比較して実施例1、2の圧力損失は低く抑えることができている。比較例1では、ビスフェノールAの生成量が時間と共に低下しているが、実施例1、2では、安定にビスフェノールAを生成しており、反応温度を80℃とした実施例2ではさらに高い生成量を安定して得ることができている。
【0061】
【表1】

【符号の説明】
【0062】
1 ノズル
2 不織布
3 ターゲット
5 スペーサ
6 芯材
7 固体酸触媒反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸が触媒として作用し、水が生成する有機化合物反応に用いる固体酸触媒であって、スルフォン酸基を含む荷電性ポリマーと非荷電性ポリマーの混合物を電界紡糸した繊維よりなることを特徴とする固体酸触媒。
【請求項2】
請求項1において、スルフォン酸基を含む荷電性ポリマーがフッ素を含むことを特徴とする固体酸触媒。
【請求項3】
請求項1又は2において、非荷電性ポリマーがフッ素を含むことを特徴とする固体酸触媒。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、スルフォン基を含む荷電性ポリマーの全ポリマーに対する比率が、重量比として10%〜90%であることを特徴とする固体酸触媒。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、20μm以下の微細繊維を集積した不織布となっていることを特徴とする固体酸触媒。
【請求項6】
請求項5に記載の固体酸触媒を、反応物質および反応生成物の流路を確保するための網目構造を持つスペーサと積層した複合層よりなる固体酸触媒反応器。
【請求項7】
請求項6において、該複合層が円筒状に巻回されていることを特徴とする固体酸触媒反応器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−200702(P2012−200702A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69493(P2011−69493)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】