説明

固体酸触媒を用いたエステル交換反応によるエステルの製造方法

エステル交換反応を、短い反応時間で、かつ、常圧程度の圧力下で反応を進行させることができるエステル交換反応によるエステルの製造方法を提供することを目的とする。 原料エステルとアルコールを、アルゴン吸着熱の絶対値が15〜22kJ/molの範囲の超強酸特性を示す固体酸触媒に接触させることによるエステル交換反応によりエステルを製造する。特に、液相状態の原料エステルと気相状態のアルコールを固体酸触媒に接触させること、また、原料エステルが油脂類であり、アルコールがメタノールまたはエタノールであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドなどの原料エステルから、エステル交換反応により脂肪酸エステルなどのエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
エステル交換反応は、例えば、下記特許文献1〜3に開示されているように、脂肪酸とグリセリンのエステルである油脂を原料として、脂肪酸エステルを製造するために用いられる。触媒としては、苛性ソーダなどのアルカリ触媒、亜鉛触媒、リパーゼなどが用いられる。また、触媒を添加せずに超臨界状態で反応行わせることも提案されている。
【特許文献1】 特開平9−235573号公報
【特許文献2】 特開平7−197047号公報
【特許文献3】 特開2000−143586号公報参照
【発明の開示】
苛性ソーダなどのアルカリ触媒を用いた場合には、反応時間が長く、また、反応後に触媒の分離工程が必要となる。また、原料が遊離脂肪酸を大量に含む場合には、それを除去するための前処理が必要である。あるいは、鹸化反応が起こるためエステル交換反応が進まないなどの課題があった。亜鉛触媒を用いた場合や超臨界状態の反応では、一般に、高圧下で反応が必要であった。
本発明は、エステル交換反応を、短い反応時間で、かつ、常圧程度の圧力下で反応を進行させることができるエステル交換反応によるエステルの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、原料エステルとアルコールを、特定の範囲の超強酸特性を示す固体酸触媒に接触させることにより、エステル交換反応が安定に進むことを見出した。この場合に、液相状態の原料エステルと気相状態のアルコールを固体酸触媒に接触させることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
〔原料エステル〕
本発明に用いられる原料エステルは、エステル化合物を主成分とするものであればよく、多価エステルでもよい。特には飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸(カルボン酸の炭素数が8〜24程度)のグリセリドが好ましく用いられる。具体的には油脂類といわれるトリグリセリドが好ましく用いられる。このような油脂類としては、大豆油、ヤシ油、オリーブ油、ラッカセイ油、棉実油、ゴマ油、パーム油、ひまし油などの植物性油脂や、牛脂、豚脂、馬脂、鯨油、イワシ油、サバ油などの動物性油脂があげられる。原料エステル中に遊離脂肪酸を0重量%〜30重量%、特には1重量%〜20重量%含んでいてもよい。
〔アルコール〕
本発明に用いられるアルコールとしては、炭素数が1から3のアルコール、特には、メタノール、エタノールが好ましく用いられるが、多価アルコールでもよい。また、これらの混合物でもよい。
〔固体酸触媒〕
本発明には、アルゴン吸着熱の絶対値が15〜22kJ/molの範囲、好ましくは15〜20kJ/molの範囲の超強酸の特性を示す固体酸触媒が用いられる。また、ハメットの酸度関数Hoについていえば−12〜−15の範囲が好ましい。前記アルゴン吸着熱は、測定対象を真空に排気しながら300℃まで昇温した後、液体窒素温度でアルゴンを導入して、容量法により吸着量を測定した吸着熱の絶対値であり、詳細は、J.Phys.Chem.B、Vol.105、No.40、p.9667−(2001)に開示される。この吸着熱は、通常50kJ/mol以下である。
結晶性の金属酸化物の表面に硫酸根またはVI族金属成分を担持した固体酸触媒が好ましい。金属酸化物としては、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、ケイ素、ゲルマニウム、スズなどの金属を単体または組み合わせて含む金属酸化物を用いることができる。このような触媒の具体例としてはとしては、以下に述べる硫酸/ジルコニア系触媒、硫酸/酸化スズ系触媒などがあるが、IV族金属/VI族金属系触媒(特にはタングステン/ジルコニア系)触媒が特に好ましい。
触媒の比表面積は50〜500m/g、特には60〜300m/g、さらには70〜200m/gが好ましい。比表面積は通常知られているBET法によって測定できる。触媒の細孔構造は、細孔直径0.002〜0.05μmの範囲については窒素吸着法、細孔直径0.05〜10μmの範囲については水銀圧入法により測定できる。細孔直径0.002〜10μmの細孔容積は0.2cm/g以上、特には0.25cm/g〜1.0cm/gが好ましい。細孔直径0.002〜0.05μmの範囲の中央細孔直径は50〜200Å、特には70〜150Åが好ましい。
好ましくは、触媒は粉体でなく、成形された形状、いわゆるペレット状であり、0.5〜20mmの大きさのものを容易に得ることができ、通常、平均粒径として、0.5〜20mm、特には0.6〜5mmが好ましく用いられる。触媒の機械的強度は、直径1.5mmの円柱ペレットの側面圧壊強度として1.0kg以上、より好ましくは2.0kg以上である。
〔硫酸/ジルコニア系触媒〕
硫酸/ジルコニア系触媒は、金属酸化物の少なくとも一部分の金属成分がジルコニウムであるジルコニア(ジルコニウム酸化物)部分を含み、硫酸分を含有する。通常、ハメットの酸度関数Hは−16.1といわれている。なお、金属酸化物は、含水金属酸化物を含むものとして定義される。触媒中に、ジルコニアをジルコニウム元素重量として20〜72重量%、特には30〜60重量%含むことが好ましい。硫酸分の割合は、硫黄元素重量として0.7〜7重量%、好ましくは1〜6重量%、特には2〜5重量%である。硫酸分が多すぎても少なすぎても触媒活性は低下する。
ジルコニア部分は実質的に正方晶ジルコニアからなることが好ましい。これは、粉末X線回折により確認でき、具体的には、CuKα線による2θ=30.2°の正方晶ジルコニアの回折ピークで確認できる。回折ピークで確認できる程度に結晶化しており、単斜晶ジルコニアは含まれていない方が好ましい。2θ=30.2°の正方晶ジルコニアの回折ピーク面積(S30)と2θ=28.2°の単斜晶ジルコニアの回折ピーク面積(S28)の比(S28/S30)が1.0以下、特には0.05以下が好ましい。
また、触媒中にアルミニウム酸化物をアルミニウム元素重量として5〜30重量%、特には8〜25重量%含むことが好ましい。このアルミナ部分は、結晶化しており、特には実質的にγ−アルミナからなることが好ましい。
〔硫酸/酸化スズ系触媒〕
硫酸/酸化スズ系触媒は、金属酸化物の少なくとも一部分の金属成分がスズである酸化スズ部分を含み、硫酸分を含有する。通常、ハメットの酸度関数Hは、−18.0といわれている。なお、金属酸化物は、含水金属酸化物を含むものとして定義される。触媒中に、酸化スズをスズ元素重量として20〜72重量%、特には30〜72重量%含むことが好ましい。硫酸分の割合は、硫黄元素重量として0.7〜10重量%、好ましくは1〜9重量%、特には2〜8重量%である。硫酸分が多すぎても少なすぎても触媒活性は低下する。触媒の比表面積は100m/g以上、特には100〜200m/gが好ましい。
酸化スズの特性としては、非晶質の酸化スズを用いることもできるが、実質的に正方晶の結晶構造を持つ酸化物からなることが好ましい。これは、粉末X線回折により確認でき、具体的には、CuKα線による2θ=26.6°の回折ピークで確認できる。回折ピークで確認できる程度に結晶化しており、結晶子径が10〜50nm、特には20〜45nmであることが好ましい。
硫酸/酸化スズ系触媒の製法は特に限定されないが、一例を挙げれば、スズ酸化物に硫黄分含有化合物を含ませ、その後、焼成する製造方法を用いることができる。硫酸/酸化スズ系触媒の形態は、粉体でも、成形体でもよく、スズ酸化物以外の成分からなる担体の表面に酸化スズを形成したものでもよい。
スズ酸化物は、どのような形態も用いることができるが、特にはメタスズ酸が好ましく用いられる。硫黄分含有化合物は、硫酸分を含有する化合物、または、その後の焼成などの処理により硫酸分に変換されうる硫黄分を含んだ化合物である。硫黄分含有化合物としては、硫酸、硫酸アンモニウム、亜硫酸、亜硫酸アンモニウム、塩化チオニル、ジメチル硫酸などが挙げられる。通常、硫黄分含有化合物は水溶液のような溶液を用いて、スズ酸化物に接触させる。
焼成は、空気または窒素などのガス雰囲気中において行われるが、特には空気中で行うことが好ましい。焼成温度は焼成時間、ガス流通量など他の焼成条件によっても異なるが、一般に300〜900℃、好ましくは400〜800℃である。焼成時間は焼成温度、ガス流通量など他の焼成条件によっても異なるが、一般に0.05〜20時間、特に0.1〜10時間、さらには0.2〜5時間が好ましい。
スズ酸化物の表面は、硫黄分含有化合物に接触させる前に、有機酸イオン、特にはカルボン酸イオンを含む溶液、特には水溶液で前処理することが好ましい。このような水溶液としては、酢酸アンモニウムなどのカルボン酸アンモニウム塩、カルボン酸金属塩の水溶液が好ましく用いられる。
〔IV族金属/VI族金属系触媒〕
IV族金属/VI族金属系触媒は、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムから成る群から選ばれるIV族金属成分の1種以上とタングステンおよびモリブデンから成る群から選ばれるVI族金属成分の1種以上とを金属成分として含むものであり、特にはIV族金属成分としてはジルコニウム、VI族金属成分としてはタングステンを含むタングステン/ジルコニア系触媒が好ましい。通常、ハメットの酸度関数Hは、−14.6といわれている。触媒中にIV族金属成分を金属元素重量として10〜72重量%、特には20〜60重量%含むことが好ましい。また、触媒中にVI族金属成分を金属元素重量として2〜30重量%、特に5〜25重量%、さらには10〜20重量%含むことが好ましい。担体は、実質的には金属酸化物から構成されることが好ましい。なお、金属酸化物は、含水金属酸化物を含むものとして定義される。
担体は、含水酸化物を含む酸化物であってもよい酸化物に加えて、他の金属成分、例えばホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、燐、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ニオブ、錫、ランタン、セリウムなどを単独または混合物として、更には、ゼオライトなどの複合金属酸化物として含んでもよい。特には、触媒中にアルミニウムをアルミニウム元素重量として3〜30重量%、特には5〜25重量%含むことが好ましい。さらに、その酸触媒性能向上のため必要に応じてハロゲンを含有することもできる。この触媒は必ずしも硫酸分を含有する必要はないが、硫酸分を含む場合、触媒中に占める硫酸分(SO)の割合は、硫黄元素重量として通常0.1重量%以下である。
IV族金属成分がジルコニア部分からなる場合には、実質的に正方晶ジルコニアからなることが好ましい。これは、粉末X線回折により確認でき、具体的には、CuKα線による2θ=30.2°の正方晶ジルコニアの回折ピークで確認できる。回折ピークで確認できる程度に結晶化しており、単斜晶ジルコニアは含まれていない方が好ましい。具体的には、2θ=30.2°の正方晶ジルコニアの回折ピーク面積(S30)と2θ=28.2°の単斜晶ジルコニアの回折ピーク面積(S28)の比(S28/S30)が1.0以下、特には0.05以下が好ましい。また、アルミナ部分が存在する場合、該アルミナは結晶質、特には実質的にγ−アルミナからなることが好ましい。
〔IV族金属/VI族金属系触媒の製造方法〕
IV族金属/VI族金属系触媒の製法は特に限定されないが、一例を挙げれば、担体を構成するIV族金属成分の金属酸化物の前駆体となる粉体(以下、「前駆体粉体」という)である含水金属酸化物および/または金属水酸化物の粉体にVI族金属化合物を加えて混練、成形し、焼成して触媒を作製する製造方法が用いられる。以下にこの方法に沿って説明を行うが、担体の成形・焼成、VI族金属成分の配合などはその順序を変更できる。
〔IV族金属酸化物前駆体粉体〕
チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれるIV族金属酸化物の前駆体粉体は、成形後の焼成により担体を構成する金属酸化物となるものであり、どのように製造しても構わないが、一般には金属塩や有機金属化合物などを中和もしくは加水分解し、洗浄、乾燥することにより得ることができる。IV族金属成分の前駆体粉体としては、水酸化ジルコニウム(水和酸化物を含む)が好ましく用いられる。前駆体粉体にベーマイトのようなアルミナ水和物を加えることが好ましい。さらに、前駆体粉体としては、複合金属水酸化物および/または複合金属水和酸化物を用いることもできる。IV族金属酸化物の前駆体粉体の添加量は、最終的に得られる固体酸触媒中に占めるIV族金属成分が金属元素重量として10〜72重量%、特には20〜60重量%となるように添加するのが好ましい。
〔VI族金属化合物〕
VI族金属化合物としては、タングステンまたはモリブデンの酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩などが挙げられるが、タングステンやモリブデンのヘテロポリ酸が好ましく用いられ、タングステン酸塩、モリブデン酸塩が最も好ましく用いられる。VI族金属化合物は、そのままでも、または水溶液のような溶液として用いても構わない。VI族金属化合物は、固体の状態でも、液状でも、溶液の濃度に関しても特に限定はなく、混練に必要な溶液量などを考えて調製することができる。VI族金属化合物の添加量は、最終的に得られる固体酸触媒中に占めるVI族金属成分が、VI族金属元素重量として2〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、特には10〜20重量%となるようにするのが好ましい。
〔混練〕
混練の方法には特に限定は無く、一般に触媒調製に用いられている混練機を用いることができる。通常は原料を投入し、水等の溶媒を加えて攪拌羽根で混合するような方法が好ましく用いられるが、原料および添加物の投入順序など特に限定はない。混練の際には上記溶媒として通常水を加えるが、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒を加えて良い。混練時の温度や混練時間は、原料となる含水金属酸化物および/または金属水酸化物の前駆体粉体等により異なるが、好ましい細孔構造が得られる条件であれば、特に制限はない。同様に本発明の触媒性状が維持される範囲内であれば、硝酸などの酸やアンモニアなどの塩基、有機化合物、金属塩、セラミックス繊維、界面活性剤、ゼオライト、粘土などを加えて混練しても構わない。
〔成形〕
混練後の成形方法には特に限定は無く、一般に触媒調製に用いられている成形方法を用いることができる。特に、ペレット状、ハニカム状などの任意の形状に効率よく成形できるので、スクリュー式押出機などを用いた押出成形が好ましく用いられる。成形物のサイズは特に制限はないが、通常、その断面の長さが0.5〜20mmの大きさに成形される。例えば円柱状のペレットであれば、通常直径0.5〜10mm、長さ0.5〜15mm程度のものを容易に得ることができる。
〔成形後の焼成〕
成形後の焼成は、空気または窒素などのガス雰囲気中において行われるが、特には空気中で行うことが好ましい。焼成温度は焼成時間、ガス流通量など他の焼成条件によっても異なるが、一般に400〜900℃、好ましくは500〜800℃である。焼成時間は焼成温度、ガス流通量など他の焼成条件によっても異なるが、一般に0.05〜20時間、特に0.1〜10時間、さらには0.2〜5時間が好ましい。
〔エステル交換反応〕
反応温度は、原料エステルが液相状態にあり、アルコールが気相状態となる温度であり、具体的には、100℃以上、特には150〜350℃が好ましい。反応圧力は特に限定されず、0.1〜100気圧程度の圧力でもよい。0.5〜2気圧の大気圧程度の圧力においても十分に反応は進行するが、2〜100気圧、特には10〜50気圧で反応させることが好ましい。この場合、触媒としてタングステン/ジルコニア系触媒が好ましく用いられる。また、いわゆる超臨界状態で反応させてもよい。反応時間も限定されるものではないが、バッチ式反応において0.1〜1時間程度、流通式反応においては、WHSV(重量空間速度)0.5〜5(/時)程度で生成物を十分に得ることができる。反応形式は、バッチ式、流動式などを用いることができる。
【実施例】
以下、実施例および比較例により詳細に説明する。
〔硫酸/ジルコニア系触媒SZAの調製〕
市販の乾燥水酸化ジルコニウムを乾燥した平均粒径1.5μmの粉体を含水ジルコニア粉体として用いた。また、平均粒径10μmの市販の擬ベーマイト粉体を含水アルミナ粉体として用いた。この含水ジルコニア粉体1860gと含水アルミナ粉体1120gを混合し、さらに硫酸アンモニウム575gを加え、攪拌羽根のついた混練機で水を加えながら45分間混練を行った。得られた混練物を直径1.6mmの円形開口を有する押出機より押し出して円柱状のペレットを成形し、110℃で乾燥して乾燥ペレットを得た。続いてこの乾燥ペレットの一部を675℃で1.5時間焼成し、硫酸/ジルコニア系触媒(以下、SZAともいう)を得た。得られた触媒は、ジルコニア部分が実質的に正方晶ジルコニアであった。
このSZAは、焼成により得られた平均直径1.4mm、平均長さ4mmの円柱状を16〜24メッシュに整粒して用いた。SZAの比表面積は158m/g、細孔直径0.002〜10μmの細孔容積は0.31cm/gであった。SZAの細孔直径0.002〜0.05μmの範囲における中央細孔直径は5.5nmであった。アルゴン吸着熱は、24.3kJ/molであった。
〔硫酸/酸化スズ系触媒MO−817の調製〕
市販のメタスズ酸(SnO、山中産業製)100gを4重量%の酢酸アンモニウム水溶液に分散させ、濾別して空気中100℃で24時間乾燥し、前駆体1を得た。得られた前駆体1の4gを6N硫酸60mLに1時間接触させ、濾過し、空気中100℃で2時間乾燥し、さらに、空気中500℃で3時間焼成して、硫酸/酸化スズ系触媒(以下、MO−817ともいう)を得た。得られた触媒は、酸化スズ部分が実質的に正方晶であった。
このMO−817は、粉末状であり、比表面積は152m/g、細孔直径0.002〜10μmの細孔容積は0.1cm/gであった。MO−817の細孔直径0.002〜0.05μmの範囲における中央細孔直径は2.8nmであった。アルゴン吸着熱は、31.0kJ/molであった。
〔タングステン/ジルコニア系触媒MO−850の調製〕
市販の乾燥水酸化ジルコニウムを乾燥した平均粒径1.5μmの粉体を含水ジルコニア粉体として用いた。また、平均粒径10μmの市販の擬ベーマイト粉体を含水アルミナ粉体として用いた。この含水ジルコニア粉体1544gと含水アルミナ粉体912gを混合し、さらにメタタングステン酸アンモニウム808gを加え、攪拌羽根のついた混練機で水1200gを加えながら25分間混練を行った。得られた混練物を直径1.6mmの円形開口を有する押出機より押し出して円柱状のペレットを成形し、110℃で乾燥して乾燥ペレットを得た。続いてこの乾燥ペレットの一部を800℃で1時間焼成し、タングステン/ジルコニア系触媒(以下、MO−850ともいう)を得た。得られた触媒は、ジルコニア部分が実質的に正方晶ジルコニアであった。
このMO−850は、平均直径1.4mm、平均長さ4mmの円柱状であり、平均圧壊強度は1.9kgであった。比表面積は101m/g、細孔直径0.002〜10μmの細孔容積は0.32cm/gであり、細孔直径0.002〜0.05μmの範囲における中央細孔直径は105Åであった。MO−850中に占めるジルコニアの割合はジルコニウム元素重量として38.0重量%、アルミナの割合はアルミニウム元素重量として13.0重量%、タングステン酸分の割合はタングステン元素重量として12.5重量%、硫黄分の割合は0.01重量%以下であった。またアルゴン吸着熱は、17.6kJ/molであった。
〔エステル交換反応〕
これらの触媒4cmを、上下方向長さ50cm、内径1cmの固定床流通式反応器中に充填し、大気圧下で原料エステルとして大豆油(関東化学製)とアルコールとしてメタノールを上端から導入し、下端出口での大豆油の転化率をガスクロマトグラフィーにより、表1、表2に示した条件でエステル交換反応を行い、反応開始後4時間また20時間の時点で測定した。大豆油とメタノールのモル比は、1:40とした。実験結果を表1に示す。なお、比較のために触媒の代わりに同容量のα−アルミナ粉末を充填した場合を触媒なしとして測定した。


超強酸触媒を用いた場合に大豆油のエステル交換反応が進行することがわかるが、SZAを用いた場合には触媒が反応中に劣化しやすく、また、MO−817を用いた場合には、特には250℃以下では転化率が低い。MO−850を用いた場合には最も高い転化率が得られ、触媒が反応中に劣化することもない。
更に、反応圧力を3.0MPaに変更し、表3記載の条件で、同様にエステル交換反応を行った。結果を表3に示す。

いずれの触媒も、加圧条件において、転化率が高くなることがわかる。特に触媒としてMO−850を用いた場合には、大気圧下で十分に高い転化率が得られるが、圧力下において転化率がさらに向上することがわかる。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、常圧程度の圧力下で、短時間にエステル交換反応を進行することができ、かつ、生成物と触媒の分離も容易である。したがって、目的とするエステルを効率よく生産することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料エステルとアルコールを、アルゴン吸着熱の絶対値が15〜22kJ/molの範囲の超強酸特性を示す固体酸触媒に接触させることによるエステル交換反応によりエステルを製造するエステルの製造方法。
【請求項2】
液相状態の原料エステルと気相状態のアルコールを固体酸触媒に接触させる請求の範囲1記載のエステルの製造方法。
【請求項3】
原料エステルが油脂類であり、アルコールがメタノールまたはエタノールである請求の範囲1記載のエステルの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/085584
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504022(P2005−504022)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003731
【国際出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】