説明

固体酸触媒糖化装置及び方法

【課題】固体酸触媒を用いた原料の糖化プロセスの反応状態を的確に把握する。
【解決手段】原料である多糖類を水及び固体酸触媒X2と共に混合X3として収容し、固体酸触媒X2を用いて多糖類を単糖化処理する触媒反応槽3と、該触媒反応槽3における混合液X3を攪拌する攪拌装置4と、触媒反応槽3における混合液X3の酸化還元電位を計測する酸化還元電位計5と、触媒反応槽3における混合液X3のpHを計測するpH計6とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸触媒糖化装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年、石油等の化石燃料の代替燃料としてバイオマス(化石資源を除いた生物由来の有機性資源)を用いてエタノール(バイオエタノール)を生成する技術が注目されている。下記非特許文献1には、このようなバイオエタノールの製造プロセスにおける要素技術として、固体酸触媒を用いることによってバイオマスを糖化する技術が開示されている。
【0003】
このバイオマスの糖化技術は、例えばカーボンやゼオライト等の担体にスルホ基を担持させた触媒(固体酸触媒)と水熱反応とを組み合わせることによってセルロース系バイオマスを分解して糖化するものである。バイオマスの糖化技術としては、バイオマスに硫酸を加えて加水分解する方法が一般に知られているが、この方法は、液体としての硫酸を用いるため、反応器の腐食や廃液処理が必要になる等の問題がある。上述した固体酸触媒を用いる方法は、このような硫酸(液体)を用いる方法の問題点を克服することができるものである。
なお、非特許文献1の技術は、固体酸触媒と水熱反応とを組み合わせたものであるが、固体酸触媒を単独で用いてバイオマスを糖化する技術が研究されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】セミナーテキスト「エタノール燃料製造に向けたバイオマスの前処理・糖化」(技術情報協会)(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、固体酸触媒を用いたバイオマスの糖化は、固体であるバイオマスに同じく固体である固体酸触媒が作用してバイオマスを単糖類に分解する反応である。すなわち、固体(バイオマス)に固体(固体酸触媒)が作用する反応なので、反応速度が遅く、よって反応槽内における反応状態を正確に把握することが困難であるという問題がある。特に、固体酸触媒を単独で用いる場合には、反応速度が著しく遅いため、反応状態を正確に把握することが著しく困難である。したがって、固体酸触媒を用いたバイオマスの糖化技術をバイオエタノールの製造プロセスに採用した場合には、バイオマスの糖化プロセスの反応状態が正確に把握できないために、システム全体の運転を的確に制御できない。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、固体酸触媒を用いた原料の糖化プロセスの反応状態を的確に把握することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、固体酸触媒糖化装置に係る第1の解決手段として、原料である多糖類を水及び固体酸触媒と共に混合液として収容し、固体酸触媒を用いて多糖類を単糖化処理する触媒反応槽と、該触媒反応槽における混合液を攪拌する攪拌装置と、触媒反応槽における混合液の酸化還元電位を計測する酸化還元電位計と、触媒反応槽における混合液のpHを計測するpH計とを具備する、という手段を採用する。
【0008】
固体酸触媒糖化装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、触媒反応槽から受け入れた処理済み液から固体酸触媒を分離する触媒分離槽と、該触媒分離槽から排出された固体酸触媒を触媒反応槽に供給する触媒返送装置と、触媒分離槽において処理済み液から固体酸触媒を分離した液の酸化還元電位を計測する第2の酸化還元電位計と、触媒分離槽において処理済み液から固体酸触媒を分離した液のpHを計測する第2のpH計とを備える、という手段を採用する。
【0009】
固体酸触媒糖化装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、攪拌装置は、混合液内に浸漬されたパドルを回転させることにより処理対象液を攪拌する、という手段を採用する。
【0010】
固体酸触媒糖化装置に係る第4の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、攪拌装置は、混合液内に気体を吹き込むことにより処理対象液を攪拌する、という手段を採用する。
【0011】
また、本発明では、固体酸触媒糖化方法に係る第1の解決手段として、水と原料である多糖類とからなる処理対象液に固体酸触媒を作用させて多糖類を単糖化処理する際に処理対象液と固体酸触媒との混合液の酸化還元電位とpHとを計測し、該酸化還元電位及びpHに基づいて単糖化状態を評価する、という手段を採用する。
【0012】
固体酸触媒糖化方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、処理済み液から固体酸触媒を分離した液の酸化還元電位とpHとを計測し、該酸化還元電位及びpHに基づいて固体酸触媒の状態を評価する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固体酸触媒を用いて多糖類を単糖化処理する際に処理対象液の酸化還元電位及びpHを計測するので、当該酸化還元電位及びpHの各計測値によって単糖化処理の状態を評価することができる。
すなわち、本発明者らは、多糖類が単糖化する反応について、当該反応が良好な状態と不調な状態とで酸化還元電位に差異が生じることを見出した。また、pHは固体酸触媒の活性状態を示すものである。
したがって、処理対象液の酸化還元電位に加えて、処理対象液のpHを計測することにより、固体酸触媒を用いる場合における多糖類の単糖化反応の状態を的確に把握することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る固体酸触媒糖化装置Aの機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態の変形例に係る固体酸触媒糖化装置Bの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る固体酸触媒糖化装置Aは、図1に示すように、原水供給ポンプ1、流量計2、触媒反応槽3、攪拌装置4、酸化還元電位計5、pH計6、触媒分離槽7、触媒返送装置8、第2の酸化還元電位計9、第2のpH計10、触媒回収ポンプ11、触媒回収槽12、液返送ポンプ13、フロートスイッチ14、触媒排出弁15、閉塞防止用ガスブロワ16、開閉弁17〜19によって構成されている。
【0016】
本固体酸触媒糖化装置Aは、外部から供給された原料(多糖類)を単糖化する装置である。このような固体酸触媒糖化装置Aは、例えばバイオマス(化石資源を除く生物由来の資源)からバイオエタノールを製造するプラントにおいて、前段糖化装置によってバイオマスから得られた多糖類を取り入れて単糖化する後段糖化装置として機能するものである。上記前段糖化装置としては、例えば管状反応装置に充填した粒状のバイオマスに所定温度の熱水を所定時間流通させることによりバイオマスを多糖化する熱水流通式糖化装置が考えられる。
【0017】
本出願人は、特願2009−219362(平成21年9月24日出願、発明の名称:バイオマス処理装置及び方法)において、加圧熱水反応装置(前段糖化装置)における熱水温度を調節することによりバイオマス(木質系バイオマス)に含まれる多糖類(炭水化物)からキシロオリゴ糖とセロオリゴ糖とを個別に取得し、キシロオリゴ糖を第1触媒反応装置(後段糖化装置)で処理することによりキシロース(C10:五炭糖)に単糖化すると共に、セロオリゴ糖を第2触媒反応装置(後段糖化装置)で処理することによりとグルコース(C12:六炭糖)に単糖化し、さらにキシロースを第1発酵装置で発酵処理すると共に、グルコースを第2発酵装置で発酵処理することによりバイオエタノール(CO)を製造するバイオマス処理装置及び方法を提案している。
【0018】
周知のように、木質系バイオマスは、セルロース(多糖類)、ヘミセルロース(多糖類)及びリグニンを主成分とするが、このような成分の木質系バイオマスに熱水を作用させることにより、セルロースやヘミセルロースをさらに重合度の低い多糖類(キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖及びこれらより多少重合度が高い各種オリゴ糖)に分解することができる。本固体酸触媒糖化装置Aは、上述した第1、第2触媒反応装置と同等の基本機能を奏するものであり、前段糖化装置(熱水流通式糖化装置)から水が混じった粒状の多糖類を原水X1(処理対象液)として取り入れ、原料を例えばキシロースやグルコースに単糖化する。
【0019】
本固体酸触媒糖化装置Aにおける原水供給ポンプ1は、上記原水X1を触媒反応槽3に所定流量で順次連続的に供給するポンプである。流量計2は、上記原水供給ポンプ1と触媒反応槽3とを接続する配管の途中に設けられ、原水X1の供給流量を計測する流量計測器である。
【0020】
触媒反応槽3は、原水X1に固体酸触媒X2を作用させて多糖類を単糖化処理するものである。この触媒反応槽3は、図示するように所定容量の原水X1を収容する円筒状容器であり、中心軸が鉛直方向となる姿勢で設けられている。また、触媒反応槽3の底部には、粒状の固体酸触媒X2を取り込む触媒取込部3aが設けられ、また上部周縁には処理済み液X4を排出する排出口3bが設けられている。つまり、触媒反応槽3内に貯留される液は、原水X1に粒状の固体酸触媒X2が混合された混合液X3である。
【0021】
攪拌装置4は、触媒反応槽3における混合液X3を攪拌する装置である。この攪拌装置4は、図示するように、鉛直姿勢の回転軸に固定されると共に触媒反応槽3の混合液X3に浸漬されたパドル(攪拌翼)を、モータによって所定速度で回転させることにより混合液X3を攪拌するものである。攪拌装置4におけるパドルは、円筒状の触媒反応槽3における混合液X3を上下位置で偏ることなく均一に混合するために、図示するように回転軸に対して上下2段に設けられているが、上下高さが増加すれば3段以上の多段が良い。このような攪拌装置4による混合液X3の攪拌によって、触媒反応槽3内において固体酸触媒X2を原水X1に対して均一に分散させることができる。
【0022】
酸化還元電位計5は、触媒反応槽3における混合液X3の酸化還元電位を計測する計測器である。pH計6は、触媒反応槽3における混合液X3のpHを計測する計測器である。酸化還元電位は、周知のように、化学反応の種別によって、また化学反応の平衡状態(進行状態)によって異なる値を示すものである。また、固体酸触媒X2の触媒としての活性状態は、混合液X3のpH(水素イオン指数)として現れる。
【0023】
本発明者らは、触媒反応槽3における混合液X3内の多糖類が単糖化する反応について、当該反応が良好な状態と不調な状態とで酸化還元電位とpHとに差異が生じることを見出した。すなわち、酸化還元電位計5及びpH計6は、触媒反応槽3内における多糖類から単糖類への分解反応、つまり固体酸触媒X2を用いて混合液X3内の多糖類を単糖化する分解反応の状態を把握するための本固体酸触媒糖化装置Aにおける特徴的な構成要素である。
【0024】
なお、酸化還元電位は、周知のように反応系のpHに対して依存性があるので、pH計6の計測値は、酸化還元電位計5の計測値を正確に評価するためにも有効活用される。また、図示していないが、酸化還元電位計5の計測値及びpH計6の計測値に基づく上記分解反応の状態評価は、専用の評価用プログラムを搭載する情報処理装置(コンピュータ)を用いることによって自動的かつ客観的に行うことが考えられる。
【0025】
触媒分離槽7は、触媒反応槽3から受け取った処理済み液X4から固体酸触媒X2を分離する沈殿槽である。この触媒分離槽7は、図示するように所定容量の処理済み液X4を収容する円筒状容器であり、中心軸が鉛直方向となる姿勢で設けられている。また、触媒分離槽7の上部中心には、図示するように処理済み液X4を受け入れる筒状部材7aが鉛直姿勢で設けられ、触媒分離槽7の底部には、沈殿した粒状の固体酸触媒X2を排出する触媒排出口7bが設けられ、また上部周縁には処理済み液X4から固体酸触媒X2が分離された液を処理水X5として外部に排出する処理水排出口7cが設けられている。
【0026】
触媒返送装置8は、図示するようにスクリューコンベヤであり、上記触媒排出口7bから排出された固体酸触媒X2を触媒取込部3aに供給する搬送装置である。第2の酸化還元電位計9は、触媒分離槽7における上澄み液つまり処理水X5の酸化還元電位を計測する計測器である。第2のpH計10は、触媒分離槽7における上澄み液つまり処理水X5のpHを計測する計測器である。このような第2の酸化還元電位計9及び第2のpH計10は、処理水X5の性状及び固体酸触媒X2の活性状態を評価するためのものである。なお、このような第2の酸化還元電位計9の計測値及び第2のpH計10の計測値に基づく処理水X5の性状評価及び固体酸触媒X2の活性状態評価は、図示しないが、専用の評価用プログラムを搭載する情報処理装置(コンピュータ)を用いることによって自動的かつ客観的に行うことが考えられる。
【0027】
触媒回収ポンプ11は、触媒反応槽3から混合液X3の一部を払い出して触媒回収槽12に供給するポンプである。触媒回収槽12は、上記触媒回収ポンプ11から供給された混合液X3を一時的に貯留する容器であり、混合液X3から固体酸触媒X2を分離して底部から排出する。液返送ポンプ13は、混合液X3から固体酸触媒X2を分離した液(原水X1が固体酸触媒X2によってある程度処理されたもの)を触媒回収槽12から払い出して触媒反応槽3に返送するポンプである。
【0028】
フロートスイッチ14は、触媒回収槽12の喫水に応じて作動する機械式のスイッチであり、上記触媒回収ポンプ11の作動をON/OFFするものである。すなわち、フロートスイッチ14は、触媒回収槽12の喫水が所定値以下になるとONして触媒回収ポンプ11を作動させる。触媒排出弁15は、触媒回収槽12の底部に連通する配管に設けられた開閉弁であり、触媒回収槽12から外部への固体酸触媒X2の排出をON/OFFする。
【0029】
閉塞防止用ガスブロワ16は、図示するように、上記触媒取込部3a、触媒返送装置8及び触媒回収槽12の底部に連通する配管に、固体酸触媒X2による閉塞を防止するための圧縮空気を供給するポンプである。開閉弁17は、閉塞防止用ガスブロワ16と触媒取込部3aとの間に設けられ、開閉弁18は、閉塞防止用ガスブロワ16と触媒返送装置8との間に設けられ、また開閉弁19は、触媒回収槽12の底部に連通する配管と閉塞防止用ガスブロワ16との間に設けられている。
【0030】
次に、このように構成された固体酸触媒糖化装置Aを用いた糖化方法について詳しく説明する。
【0031】
本固体酸触媒糖化装置Aでは、原水X1が原水供給ポンプ1によって触媒反応槽3に所定の流量で順次連続的に供給される。そして、原水X1は、固体酸触媒X2と混合された状態つまり混合液X3として触媒反応槽3内に一定時間滞留する。原水X1に含まれる粒状の多糖類は、この触媒反応槽3における滞留の間に固体酸触媒X2の触媒作用によって単糖化される。そして、当該単糖化後の処理済み液X4は、触媒反応槽3の上部周縁に設けられた排出口3bから上澄み液として排出されて触媒分離槽7の筒状部材7a内に供給される。
【0032】
このような触媒反応槽3内における多糖類の単糖類への分解反応の進行状態は、酸化還元電位計5及びpH計6によってモニタされる。すなわち、酸化還元電位計5の計測結果である酸化還元電位値は、上記分解反応の進行状態を示すものであり、またpH計6の計測結果であるpH値は、上記分解反応に応じた水素イオン濃度を示すものである。
【0033】
例えば、原水X1に含まれる多糖類がセロオリゴ糖を主成分とする場合、触媒反応槽3内では固体酸触媒X2の触媒作用によってセロオリゴ糖がグルコースに分解されるが、この分解反応が正常に進行している場合の酸化還元電位値は、−1100(mV vs. SHE)より小さな値となる。また、触媒反応槽3内の混合液X3が4.0より小さいpH値を示している場合、固体酸触媒X2は酸として十分な触媒作用を示している。
【0034】
したがって、酸化還元電位計5が出力する計測値が−1100(mV vs. SHE)より小さな値であり、かつ、pH計6が出力する計測値が4.0より小さい値を示しているとき、触媒反応槽3内では順調に分解反応が進行していると評価することができる。これに対して、酸化還元電位計5が出力する計測値が−1100(mV vs. SHE)以上、かつ、pH計6が出力する計測値が4.0以上のとき、触媒反応槽3内における分解反応が何らかの原因で不調な状態にあると判断することができる。
【0035】
また、本固体酸触媒糖化装置Aでは、上述した様に処理済み液X4が触媒反応槽3から触媒分離槽7の筒状部材7a内に順次連続的に供給される。触媒分離槽7では、処理済み液X4から固体酸触媒X2が分離された液、つまり単糖類のみを含む上澄み液が処理水X5(成果物)として処理水排出口7cから外部に排出される一方、触媒分離槽7で回収された固体酸触媒X2は、触媒返送装置8によって触媒排出口7bから触媒反応槽3に順次返送される、このような触媒反応槽3と触媒分離槽7との間における固体酸触媒X2の循環によって、触媒反応槽3における固体酸触媒X2の濃度はほぼ一定に維持される。
【0036】
ここで、本固体酸触媒糖化装置Aの運転を継続すると、固体酸触媒X2の活性は徐々に低下する。触媒分離槽7における上澄み液つまり処理水X5の酸化還元電位を第2の酸化還元電位計9によって計測し、また第2のpH計10によって処理水X5のpHを計測するので、処理水X5の性状及び固体酸触媒X2の活性状態を的確に評価することができる。
【0037】
例えば、原水X1に含まれる多糖類がセロオリゴ糖を主成分とする場合、処理水X5はグルコースを主に含むものとなるが、このような処理水X5の性状が良好であると言える酸化還元電位値は、−900(mV vs. SHE)より小さな範囲である。また、処理水X5が5.0より小さいpH値を示している場合、固体酸触媒X2は、酸として十分な活性状態にあると言える。
【0038】
第2のpH計10が出力する計測値に基づいて固体酸触媒X2の活性がある程度まで低下したことが確認されると、触媒回収ポンプ11が起動して触媒反応槽3内の固体酸触媒X2の触媒回収槽12への回収を開始する。触媒回収ポンプ11は、このようにして起動すると、フロートスイッチ14による制御に基づいて混合液X3を触媒反応槽3から回収する。ここで、固体酸触媒X2の触媒回収槽12への回収によって触媒反応槽3における固体酸触媒X2の濃度が低下するので、これを補うように新品の固体酸触媒X2を触媒反応槽3に別途追加供給する。
【0039】
そして、触媒反応槽3から触媒回収槽12に回収された混合液X3は、固体酸触媒X2が分離され、当該固体酸触媒X2は触媒排出弁15を介して外部に回収される一方、固体酸触媒X2が分離された液は、液返送ポンプ13によって触媒反応槽3に戻される。また、触媒取込部3a、触媒返送装置8及び触媒回収槽12の底部に連通する配管は、粒状の固体酸触媒X2が通過するので閉塞が発生する可能性があるが、閉塞防止用ガスブロワ16から圧縮空気が供給されるので、上記閉塞を効果的に防止することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、触媒反応槽3内における混合液X3の酸化還元電位を酸化還元電位計5で計測し、またpH計6によって混合液X3のpHを計測するので、触媒反応槽3内で進行している多糖類から単糖類への分解反応の進行状態を的確に評価することが可能である。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、鉛直姿勢の回転軸に固定されると共に触媒反応槽3の混合液X3に浸漬されたパドル(攪拌翼)を、モータによって所定速度で回転させることにより混合液X3を攪拌する攪拌装置4を採用したが、攪拌装置4の構成はこれに限定されない。例えば、図2に示す固体酸触媒糖化装置Bのように、触媒反応槽3内の底部近傍に設けられた散気部材4aと、当該散気部材4aに気体を圧縮して供給するガスブロワ4bと、散気部材4aに供給される気体の流量を計測する流量計4cとから攪拌装置4Aを構成するようにしても良い。上記気体としては、空気あるいは上述した発酵装置における発酵反応によって得られる二酸化炭素等が考えられる。なお、空気を用いた場合には、空気中の酸素が上記分解反応に寄与する酸化剤として機能することによって分解反応を促進させる効果が期待できる。
【0042】
(2)上記実施形態では、触媒反応槽3に酸化還元電位計5とpH計6とを設け、さらに触媒分離槽7に第2の酸化還元電位計9と第2のpH計10とを設けたが、必要に応じて第2の酸化還元電位計9及び第2のpH計10は省略しても良い。
【0043】
(3)上記実施形態では、酸化還元電位計5、pH計6、第2の酸化還元電位計9及び第2のpH計10の各計測値に基づいて触媒反応槽3内の分解反応、成果物の性状、また固体酸触媒X2の活性を評価するが、この評価の結果を用いて何らかの制御を行うものではない。しかしながら、必要に応じて上記評価結果に基づいて原水供給ポンプ1等の被制御機器を制御することにより、固体酸触媒糖化装置A、Bの運転状態を変更するようにしても良い。例えば、触媒反応槽3内の分解反応が不調であると評価された場合には、原水供給ポンプ1の回転数を低下させて触媒反応槽3への原水X1の供給量を制限し、触媒反応槽3における多糖類の滞留時間を長くすることにより成果物の性状を所望の状態に維持することが考えられる。
【符号の説明】
【0044】
A、B…固体酸触媒糖化装置、1…原水供給ポンプ、2…流量計、3…触媒反応槽、4、4A…攪拌装置、5…酸化還元電位計、6…pH計、7…触媒分離槽、8…触媒返送装置、9…第2の酸化還元電位計、10…第2のpH計、11…触媒回収ポンプ、12…触媒回収槽、13…液返送ポンプ、14…フロートスイッチ、15…触媒排出弁、16…閉塞防止用ガスブロワ、17〜19…開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料である多糖類を水及び固体酸触媒と共に混合液として収容し、固体酸触媒を用いて多糖類を単糖化処理する触媒反応槽と、
該触媒反応槽における混合液を攪拌する攪拌装置と、
触媒反応槽における混合液の酸化還元電位を計測する酸化還元電位計と、
触媒反応槽における混合液のpHを計測するpH計と
を具備することを特徴とする固体酸触媒糖化装置。
【請求項2】
触媒反応槽から受け入れた処理済み液から固体酸触媒を分離する触媒分離槽と、
該触媒分離槽から排出された固体酸触媒を触媒反応槽に供給する触媒返送装置と、
触媒分離槽において処理済み液から固体酸触媒を分離した液の酸化還元電位を計測する第2の酸化還元電位計と、
触媒分離槽において処理済み液から固体酸触媒を分離した液のpHを計測する第2のpH計と
を備えることを特徴とする請求項1記載の固体酸触媒糖化装置。
【請求項3】
攪拌装置は、混合液内に浸漬されたパドルを回転させることにより処理対象液を攪拌することを特徴とする請求項1または2記載の固体酸触媒糖化装置。
【請求項4】
攪拌装置は、混合液内に気体を吹き込むことにより処理対象液を攪拌することを特徴とする請求項1または2記載の固体酸触媒糖化装置。
【請求項5】
水と原料である多糖類とからなる処理対象液に固体酸触媒を作用させて多糖類を単糖化処理する際に処理対象液と固体酸触媒との混合液の酸化還元電位とpHとを計測し、該酸化還元電位及びpHに基づいて単糖化状態を評価することを特徴とする固体酸触媒糖化方法。
【請求項6】
処理済み液から固体酸触媒を分離した液の酸化還元電位とpHとを計測し、該酸化還元電位及びpHに基づいて固体酸触媒の状態を評価することを特徴とする請求項5記載の固体酸触媒糖化方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−142892(P2011−142892A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8552(P2010−8552)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
【Fターム(参考)】