説明

固体醗酵装置

【課題】被醗酵物の水分管理に即応性と信頼性と耐久性を兼ね備えた固体醗酵装置を提供する。
【解決手段】固体状の被醗酵物12を醗酵させる醗酵容器10と、被醗酵物12を収容した状態で醗酵容器10の重量を計測可能なロードセル30と、醗酵容器10に収容された被醗酵物12に水分を補給可能な給水管24と、ロードセル30によって計測される醗酵容器10の重量の経時変化値又はこの醗酵容器10の重量に基づいて演算される被醗酵物12の重量の経時変化値が予め設定した目標線と一致するように給水管24から補給する水分量を制御する制御器34とを具備している。制御器34は攪拌機22の稼動を停止させた状態でロードセル30により計測された醗酵容器10の重量に基づいて、給水管24から補給する水分量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体醗酵装置に係り、特に水分補給手段を備えた固体醗酵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体醗酵装置は、醗酵室又は醗酵容器(以下、両者を代表して醗酵容器という。)内に収容した被醗酵物である有機固体原料を醗酵菌の醗酵作用によって生分解し、付加価値の高い固体有用物に変質させる装置として多用されている。特許文献1にはこの種の固体醗酵装置として厨芥処理機が記載されている。
【0003】
固体醗酵装置では被醗酵物の温度管理と水分管理が重要であり、醗酵の各段階で被醗酵物の醗酵,熟成に適した温度,湿度環境を維持することが、処理効率や最終醗酵品の品質を向上させるための決め手となる。このため、通常の固体醗酵装置は被醗酵物の温度や水分を適正に維持するための加熱手段や水分補給手段を備えている。特許文献1にも被醗酵物である厨芥の温度を30〜40℃に維持する加熱手段と、水分率を40〜70%に維持する加水手段を備えた構成が開示されている。
【0004】
固体醗酵装置では一般に好気性醗酵が行われるため、醗酵容器は外部空気(酸素)を取り込み易いように外気開放型のものが多く採用されている。したがって、処理効率を向上させるべく加熱手段によって被醗酵物を加熱し、被醗酵物の温度を常温よりも十分に高い温度に保持すると、被醗酵物に含まれる水分が蒸発し、外部に逸散する。このため、被醗酵物は乾燥し易い環境下に置かれる。
【0005】
従来、このような乾燥し易い環境下にある被醗酵物の水分を適正値に管理する方法として、主に2通りの方法が行われている。第1の方法は運転員が醗酵容器に収容されている被醗酵物を定期的にサンプリングし、その水分量を分析する。そして分析結果に基づいて、醗酵容器に補給する水分量を算定し水分補給手段の作動条件を手動で調整する。第2の方法は醗酵容器内に被醗酵物の水分量を直接に検出可能な水分センサを設置する。そして水分センサの検出結果に基づいて醗酵容器に補給する水分量を演算し、水分補給手段の作動条件を自動的に制御する。
【特許文献1】特開平2002−361218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水分管理に関する上記第1の方法は運転員の負担が大きい。また、サンプリングと分析に時間がかかるので装置管理上の即応性に欠けるという欠点がある。また、上記第2の方法は信頼性と耐久性を備えた水分センサの設置が難しいという欠点がある。特許文献1には電極式の水分センサが開示されているが検出精度が十分ではない。また、水分センサは設置点に存在したごく一部の被醗酵物の水分量を検出するにすぎない。このため、醗酵容器に収容された全量の被醗酵物の平均水分量を把握するためには、多数の水分センサを配置しなければならない場合があり、技術的、経済的な負担が大きい。さらに、醗酵容器に収容された被醗酵物は常に攪拌状態に置かれている場合が多く、このような過酷な条件に長期間にわたって耐える水分センサは現時点では見当たらない。
本発明の目的は上記従来技術の欠点を解消し、被醗酵物の水分管理に即応性と信頼性と耐久性を兼ね備えた固体醗酵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る固体醗酵装置は、内部に収容した固体状の被醗酵物を醗酵させる醗酵容器と、前記被醗酵物を収容した状態で前記醗酵容器の重量を計測可能なロードセルと、前記醗酵容器に収容された被醗酵物に水分を補給可能な水分補給手段と、前記ロードセルによって計測される醗酵容器の重量の経時変化値又はこの醗酵容器の重量に基づいて演算される前記被醗酵物の重量の経時変化値が予め設定した目標線と一致するように前記水分補給手段から補給する水分量を制御する制御手段とを具備したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る固体醗酵装置は、前記醗酵容器が内部に収容した被醗酵物を攪拌する攪拌手段を備えており、前記制御手段は前記攪拌手段の稼動を停止させた状態で前記ロードセルにより計測された前記醗酵容器の重量に基づいて、前記水分補給手段から補給する水分量を制御するようにされたことを特徴とする。
なお、本発明における醗酵容器という用語はできるだけ広く解釈し得るものとし、地面や建物と独立しその重量を計測可能な構造の醗酵槽、醗酵室を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロードセルによって計測される醗酵容器の重量に基づいて、被醗酵物の水分量を間接的に管理するようにした。ロードセルによる計測は即応性があり、静的なセンシング手段であるため耐久性にも優れている。また、醗酵容器に収容された被醗酵物の全量をセンシングの対象とした計測値に基づく制御手段を採用しているため、従来の局部的な被醗酵物のサンプリングやセンシングによるものに比べて、信頼性が高い。したがって、被醗酵物の水分管理に即応性と信頼性と耐久性を兼ね備えた固体醗酵装置を実現することができる。
【0010】
また、醗酵容器が攪拌手段を備えている場合には、攪拌手段の稼動を停止させた状態のロードセル計測値に基づいて、補給する水分量を制御するようにされている。このため、ロードセルによる計測の際には,攪拌手段の稼動による振動の悪影響を受けないので、ロードセル計測値の精度が高くなり、ひいては信頼性の高い水分管理を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明に係る固体醗酵装置の実施形態を示す側断面図である。醗酵容器10は上部が開放され、下部がホッパ部とされた円筒状の容器であり、内部に固体状の被醗酵物12が収容される。ホッパ部の下端には醗酵を完了した固体醗酵物を排出する排出バルブ14が装備されている。醗酵容器10の外面にはジャケット16が形成され、ジャケット16の下部にはフレキシブル型の冷温水供給管18、上部にはフレキシブル型の冷温水排出管20が接続されている。
【0012】
醗酵容器10の中心には攪拌機22が装備され、また、醗酵容器10には水分補給手段である給水管24が付設されている。給水管24には流量調節弁26が取り付けられており、流量調節弁26によって調節された水分量の補給水が給水管24から醗酵容器10の内部に収容された被醗酵物12に補給される。
【0013】
醗酵容器10の上部外周には複数のブラケット28が取り付けられており、醗酵容器10は各ブラケット28の下端に配置されたロードセル30を介して基礎や建物などの荷重受け部32に支持される。ロードセル30の計測値は制御器34に送信され、制御器34では送信されたロードセル30からの計測値に基づいて、流量調節弁26に信号を出力し、給水管24から補給する補給水の水分量を制御する。
【0014】
上記構成の固体醗酵装置では,水分が予め所定値に調整された有機固体原料が被醗酵物12として醗酵容器10内に投入され、所定日数にわたって醗酵菌による醗酵処理を受ける。醗酵に必要な醗酵菌の供給は、予め投入する被醗酵物12に混入させるか、又は被醗酵物12の投入に併行して醗酵菌を含む媒体を醗酵容器10内に投入することによって行う。ジャッケット16内には必要に応じて冷温水を流し、被醗酵物12を間接加熱する。また、攪拌機22を稼動して被醗酵物12を攪拌し、醗酵処理が均一に進むようにする。攪拌機22は省エネのために通常は間欠稼動とする。
【0015】
醗酵処理の期間中は上記の温水による間接加熱や醗酵熱によって、被醗酵物12の温度は常温よりも十分に高い温度に保持される。このため、被醗酵物12に含まれる水分が蒸発して外部に逸散し、被醗酵物12は乾燥し易い環境下に置かれる。したがって、水分補給手段である給水管24から被醗酵物12に補給水を補給し、被醗酵物12の含水率を適正に維持する必要がある。本実施形態ではこの給水管24からの補給水の補給を制御器34によって自動制御する。
【0016】
すなわち、制御器34では例えば10分間に1回の頻度でロードセル30の計測値を取り込み、被醗酵物12の重量を演算する。ロードセル30の計測値は図2に示したように醗酵容器10本体の重量以外に、ジャケット16、攪拌機22、給水管24などの付属品の重量とジャケット16内に充たされた温水(又は常温水)や醗酵容器10内に収容された被醗酵物12の重量が合算されたものであり、この合算値が醗酵容器10の重量としてロードセル30から制御器34に送信される。上記各重量の内、醗酵容器本体、付属品、温水(又は常温水)の重量は固定重量であり、この固定重量は予め制御器34に記憶されている。したがって、制御器34では醗酵容器10の重量として送信されたロードセル30の計測値から上記固定重量を差し引くことによって被醗酵物12の重量を算定することができる。
【0017】
制御器34では算定した被醗酵物12の重量が設定値よりも少ない時には、被醗酵物12の水分が不足していると判定し、水分不足量を補うべく、給水管24の流量調節弁26に信号を出力し、給水管24から補給する補給水の水分量を制御する。したがって、被醗酵物12が最初に投入されてから、醗酵処理を完了するまでの被醗酵物12の水分込み重量の経日変化を目標線として設定しておき、これを制御器34に予め記憶させておく。そして、制御器34では算定した被醗酵物12の重量の経時変化値が予め設定した目標線と一致するように給水管24から補給する水分量を制御すれば、即応性に優れ信頼性の高い被醗酵物12の水分管理を実現することができる。
【0018】
図3(1)は被醗酵物12の水分込み重量の経日変化目標線を例示したグラフである。初期のa点では含水率が低い有機固体原料が被醗酵物12として醗酵容器10に投入される。この被醗酵物12を醗酵に適した比較的高い含水率にするために、制御器34により制御された量の補給水を給水管24から補給し、b点に示したように被醗酵物12の重量を増大させる。以降、本醗酵が終了するc点まで被醗酵物12の重量を一定にした処理を継続する。c点以降は熟成期間に入るので被醗酵物12の重量を徐々に減少させd点とし、d点から処理終了のe点までは被醗酵物12の重量を一定にした処理を継続する。制御器34では上記a〜e点の全期間において、10分間隔毎に算定した被醗酵物12の重量の経時変化値が予め設定した目標線と一致するように給水管24から補給する水分量を制御することになる。
【0019】
図3(2)は上記被醗酵物12の水分込み重量の経日変化目標線に前記固定重量を加えたグラフであり、縦軸は醗酵容器10の重量を示している。制御器34では予め記憶した被醗酵物12の水分込み重量の経日変化目標線に前記固定重量を加算することによって、図3(2)に示した醗酵容器10の重量の管理目標線を容易に演算することができる。したがって、制御器34ではロードセル30によって計測される醗酵容器10の重量の経時変化値がこの管理目標線と一致するように給水管24から補給する水分量を制御すれば、被醗酵物12の重量を図3(1)に示した被醗酵物12の経日変化目標線に則って制御することになる。このような方法によれば、1回の制御毎にロードセル30の計測値から前記固定重量を差し引いて被醗酵物12の重量を算出する手間を省略できる。
【0020】
なお、攪拌機22が稼動している場合には、稼動による振動がロードセル30に伝播し、ロードセル30の計測誤差が大きくなる。したがって、制御器34では、攪拌機22の稼動を停止させた状態でロードセル30により計測された醗酵容器の重量に基づいて制御を実行するように、1回毎の制御タイミングを攪拌機22の非稼動スケジュールにリンクさせることが望ましい。
【0021】
1回分の醗酵処理が完了すると醗酵容器10の下端に設けた排出バルブ14を開放し、醗酵を完了した固体醗酵物を全量排出する。そして、排出バルブ14を閉止した後に、再び、新規の被醗酵物12を醗酵容器10に投入して次の醗酵処理を繰り返す。
【0022】
上述のとおり、本実施形態の固体醗酵装置によれば、ロードセル30によって計測される醗酵容器10の重量に基づいて、被醗酵物12の水分量を間接的に管理するようにした。ロードセル30による計測は即応性があり、静的なセンシング手段であるため耐久性にも優れている。また、醗酵容器10に収容された被醗酵物12の全量をセンシングの対象とした計測値に基づく制御手段を採用しているため、従来の局部的な被醗酵物のサンプリングやセンシングによるものに比べて、信頼性が高い。したがって、被醗酵物12の水分管理に即応性と信頼性と耐久性を兼ね備えた固体醗酵装置を実現することができる。
【0023】
また、攪拌機22の稼動を停止させた状態のロードセル計測値に基づいて制御すると、ロードセル30の計測に攪拌機22の稼動による振動の悪影響を受けないので、ロードセル計測値の精度が高くなり、ひいては信頼性の高い水分管理を実現することができる。
【0024】
上記実施形態では、被醗酵物を回分式に処理する構成の固体醗酵装置を説明したが、本発明は回分式の装置に限定されず、一端の供給口から被醗酵物を連続的に供給しつつ、他端の排出口から醗酵が完了した固体醗酵物を連続的に排出する連続式の固体醗酵装置にも適用することができる。また、上記実施形態では本醗酵と熟成を同一の醗酵容器内で連続して行う場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、本醗酵や熟成などの各工程を別個の醗酵容器で行う場合に、それぞれの醗酵容器に対して本発明を適用した構成を含む。
【0025】
また、本発明は上記実施形態で示した縦型のものに限定されず、横型の装置にも適用することができる。また、攪拌機付きの装置に限らず、醗酵容器が自転する構造の装置にも本発明を適用することができる。さらに、本発明に係る水分補給手段は上記実施形態で示した給水管に限らず、水分を霧状に噴霧する型式や加湿空気を吹出す型式のものを採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る固体醗酵装置の実施形態を示す側断面図である。
【図2】ロードセル計測値の内容を示した説明図である。
【図3】被醗酵物の重量又は醗酵容器の重量の経日変化目標線を例示したグラフである。
【符号の説明】
【0027】
10………醗酵容器、12………被醗酵物、14………排出バルブ、16………ジャケット、18………冷温水供給管、20………冷温水排出管、22………攪拌機、24………給水管、26………流量調節弁、28………ブラケット、30………ロードセル、32………荷重受け部、34………制御器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容した固体状の被醗酵物を醗酵させる醗酵容器と、前記被醗酵物を収容した状態で前記醗酵容器の重量を計測可能なロードセルと、前記醗酵容器に収容された被醗酵物に水分を補給可能な水分補給手段と、前記ロードセルによって計測される醗酵容器の重量の経時変化値又はこの醗酵容器の重量に基づいて演算される前記被醗酵物の重量の経時変化値が予め設定した目標線と一致するように前記水分補給手段から補給する水分量を制御する制御手段とを具備したことを特徴とする固体醗酵装置。
【請求項2】
前記醗酵容器は内部に収容した被醗酵物を攪拌する攪拌手段を備えており、前記制御手段は前記攪拌手段の稼動を停止させた状態で前記ロードセルにより計測された前記醗酵容器の重量に基づいて、前記水分補給手段から補給する水分量を制御するようにされたことを特徴とする請求項1に記載の固体醗酵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−312676(P2007−312676A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145587(P2006−145587)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】