説明

固体電解コンデンサの製造方法

【課題】固体電解コンデンサの漏れ電流が増大を防止する。
【解決手段】弁作用金属からなる電極箔に固体電解質を形成し、次いでグラファイト層、銀ペースト層を形成してなる固体電解コンデンサの製造方法において、電極箔の表面に固体電解質層を形成し、次に固体電解質層の形成された電極箔の端部およびその近傍に絶縁樹脂による被覆層を形成し、さらに固体電解質層の上に鱗片状グラファイトを主成分とするグラファイト層および銀ペーストよりなる導電体層を順次形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導電性高分子からなる固体電解質層を備えた固体電解コンデンサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサとしては、エッチングによって表面を拡面化したアルミニウム箔の表面に誘電体酸化皮膜層を形成し、この誘電体酸化皮膜層の上に固体電解質層を形成してコンデンサ素子を構成し、さらに接触抵抗を減らすために、固体電解質層の上にグラファイト層および銀ペースト層からなる導電体層を形成した構成のものが知られている。
【0003】
そして、このような固体電解コンデンサの形状としては、特開平6−69084号公報に開示されたように、導電性高分子層および導電体層が順次形成された電極箔を積層して形成した固体電解コンデンサが知られている。
【0004】
この固体電解コンデンサを図4と共に説明すると、固体電解コンデンサは、平坦なアルミニウムの原箔の表面をエッチングして、アルミニウム箔の単位面積当りの表面積を増加させて、さらに誘電体酸化皮膜を形成して電極箔とし、電極箔の誘電体酸化皮膜の上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成してコンデンサ素子を形成している。そしてこのコンデンサ素子の電極箔を陽極、固体電解質層を陰極として固体電解コンデンサを構成する。このような個々のコンデンサ素子は箔状のアルミニウムを基本とした構造のため、長さ、幅方向に比べて厚み方向の寸法が極端に小さくなる。そこで、このようなコンデンサ素子を厚み方向に積層すれば容量が大きく、体積効率のよい積層型固体電解コンデンサが得られる。そのため、内部構造としては、アルミニウム箔の表面をエッチングし、誘電体酸化皮膜を形成した電極箔1を陽極部と陰極部を分離部2によって区分し、陰極部に導電性高分子層6、グラファイト層および銀ペースト層からなる導電体層7を形成して一個のコンデンサ素子を構成する。さらに、このコンデンサ素子を複数個を積層し、コンデンサ素子の導電体層7の間を銀ペースト等の導電性接着材によって、また陽極部の間は、陽極部1同士の間に陽極引き出し部5を挿入し、抵抗溶接あるいはレーザー溶接によって接続している。さらに陽極引き出し部5には陽極端子8、導電体層には陰極端子9がそれぞれ接続されて、外部への電気的な引き出しが行われる。
【0005】
このような固体電解コンデンサの電極箔は、エッチング処理を施したアルミニウム箔に誘電体酸化皮膜を形成し、その後、コンデンサ素子の大きさに切り出して使用する場合がある。この切り出しはカッターやダイシングソー、スリッター、剪断シャー、型による打ち抜き等が多用されている。このように誘電体酸化皮膜が形成されたアルミニウム箔を切り出した場合、その切り出した切断端面は、金属アルミニウムが露出することになる。そして、金属アルミニウムが露出した部分と固体電解質が接触すると、ショート状態となってしまうため、露出した金属アルミニウムに誘電体酸化皮膜を形成することを目的として、再化成(再陽極酸化処理)を行った後に、固体電解質の形成が行われることが多い。
【0006】
このような電解コンデンサに用いられる固体電解質としては、近年、低ESR化を目的として導電性高分子が着目され、導電性高分子を固体電解質として用いる固体電解コンデンサが実用化されている。一般に、これら導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリピロール又はポリアニリン等があり、中でもポリチオフェンは、ポリピロール又はポリアニリンと比較して、導電率が高く熱安定性が特に優れていることから近年注目されており、ポリチオフェンを固体電解質として用いた固体電解コンデンサとして特開平2−15611号公報等に開示されているものがある。
【0007】
ポリチオフェンは、化学酸化重合及び電解重合によって製作できるが、電解重合手段を講じた場合、一個に数点の重合用電極を取り付けることが必要であることと、導電性高分子が電極上にフィルム状に形成されるため大量に製造することに困難性が伴う問題を抱えている。一方、化学酸化重合手段の場合は、そのような問題はなく、電解重合と比較して大量の導電性高分子層を容易に得ることができるという利点がある。
【0008】
そして、チオフェンの誘導体の中でも、3,4−エチレンジオキシチオフェンは、酸化剤と接触することで、緩やかな重合反応によってポリ−(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を生成するため、3,4−エチレンジオキシチオフェンのモノマー溶液を微細な構造を有するコンデンサ素子の内部にまで浸透した状態で重合させることができることが知られている。この結果、コンデンサ素子の内部にまで導電性高分子層を形成することができるようになり、固体電解コンデンサの静電容量の増大を図ることができる。
【0009】
前述したように、固体電解コンデンサに関しては次の公知文献が存在する。
【特許文献1】特開平6−69084号公報
【特許文献2】特開平2−15611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、化学重合によって導電性高分子からなる固体電解質層を電極箔に形成した場合には、電極箔の表面に形成される固体電解質層の厚さにばらつきが生じる場合がある。
【0011】
これは、例えば、電極箔を重合性モノマー溶液と酸化剤溶液に浸漬し、液中から引き上げた状態で重合反応を行った場合に、電極箔の表面に付着した重合性モノマー液と酸化剤溶液がその表面張力によって、電極箔の中心部に集まろうとする力が働き、電極箔の中央部では盛り上がり、電極箔の端面では、重合性モノマー液が薄く付着した状態となる。そしてこの状態で導電性高分子の重合反応が進むため、電極箔の端面では固体電解質層の厚さが薄くなってしまう場合がある。このような現象は、電極箔を液に浸漬して行う場合のみならず、重合性モノマー溶液と酸化剤溶液を塗布する、あるいは噴霧して重合反応を進めた場合でも同様となる。
【0012】
特に、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いた場合には、重合反応が緩やかであるため、電極箔に付着した重合性モノマー溶液が表面張力によって、電極箔の中央部で盛り上がり、電極箔の端部では重合性モノマー溶液が十分な厚さとして付着していない状態となった後に重合反応が進むことになる。このため、電極箔の端部へ十分な厚さのポリマー層を形成することが困難になってしまう。
【0013】
そして、電極箔の端部で形成される固体電解質層の厚さが薄い場合には、固体電解質層の上にグラファイト層を形成した際に、グラファイト層の成分、特に鱗片状グラファイトが固体電解質層に突き刺さる、あるいは固体電解質層の隙間に入り込むことによって、グラファイト成分が誘電体酸化皮膜層に到達し、局部的に短絡状態となる場合があった。これは、固体電解コンデンサ全体としては漏れ電流を増大させる大きな要因となっていた。
【0014】
この発明は上記した従来の課題を解決するもので、電極箔の端部での漏れ電流の増大を防止することができる固体電解コンデンサの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この出願の請求項1に係る発明は、弁作用金属からなる電極箔に固体電解質を形成し、次いでグラファイト層、銀ペースト層を形成してなる固体電解コンデンサの製造方法において、電極箔の表面に固体電解質層を形成し、次に固体電解質層の形成された電極箔の端部およびその近傍に絶縁樹脂による被覆層を形成し、さらに固体電解質層の上に鱗片状グラファイトを主成分とするグラファイト層および銀ペーストからなる導電体層を順次形成したことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0016】
この出願の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法において、固体電解質が化学酸化重合によって形成された導電性高分子からなることを特徴とする。
【0017】
この出願の請求項3に係る発明は、請求項2に記載の固体電解コンデンサの製造方法において、導電性高分子がチオフェンまたはその誘導体であることを特徴とする。
【0018】
電極箔に固体電解質層を形成した後、電極箔の端部およびその近傍に被覆層を形成し、その後にグラファイト層を形成しているので、電極箔の端面は被覆層によって保護されていることになり、グラファイト層のグラファイト成分が固体電解質に突き刺さることがない。このため、グラファイト成分と誘電体酸化皮膜が短絡は発生することはない。
【発明の効果】
【0019】
この出願の請求項1による発明によれば、グラファイト成分と誘電体酸化皮膜が短絡することを防止することができ、固体電解コンデンサの漏れ電流の増大を防止することができる。
【0020】
この出願の請求項2による発明によれば、導電性高分子を化学重合によって作成することができ、製造が容易なものとなる。そして、化学重合手段では、導電性高分子からなる固体電解質層の厚さにばらつきが生じてしまうことが多いが、この場合でもグラファイト成分と誘電体酸化皮膜が短絡することを防止することができ、固体電解コンデンサの漏れ電流の増大を防止すうことができる。
【0021】
この出願の請求項3による発明によれば、導電性高分子としてチオフェンを用いることにより、コンデンサ素子の内部にまで、固体電解質層を形成することができ、固体電解コンデンサの静電容量の増大を図ることができる。そして、化学重合手段では、導電性高分子からなる固体電解質層の厚さにばらつきが生じてしまうことが多いが、この場合でもグラファイト成分と誘電体酸化皮膜が短絡することを防止することができ、固体電解コンデンサの漏れ電流の増大を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明の固体電解コンデンサの構成を示す。図2は、本発明の固体電解コンデンサに用いるコンデンサ素子の斜視図であり、図3は図1に示した固体電解コンデンサのA−A‘の断面図である。
【0023】
図1において、電極箔1は、アルミニウム箔をエッチング処理により拡面化処理したもの表面に、誘電体酸化皮膜を形成したものである。拡大面処理は、アルミニウム箔の両面を、塩酸等により溶解し、多孔質のエッチング層を形成する工程である。例えば、厚さが120μmの高純度のアルミニウムよりなるアルミニウム箔を用い、両面よりそれぞれ40μmの深さエッチング層を形成する。この場合、残芯層14の厚さは40μmとなる。そして、このエッチングしたアルミニウム箔を陽極酸化による化成処理を行い、酸化アルミニウムからなる誘電体酸化皮膜層を形成する。陽極酸化は、エッチング箔をホウ酸、アジピン酸等の水溶液に浸漬した状態で電圧を印加して、誘電体酸化皮膜を形成したものである。

【0024】
この電極箔1には分離層2が形成されており、電極箔1の陽極部11と陰極部12を区分してある。
【0025】
さらに誘電体酸化皮膜の上に固体電解質層6を形成する。固体電解質層6は重合して導電性高分子となる重合性モノマーを含有する溶液と酸化剤溶液に順次浸漬し、各液より引き上げて重合反応を進める。これらの固体電解質の形成は、重合性モノマーを含有する溶液と酸化剤溶液を陰極部12に塗布または吐出する方法によって形成してもよい。
【0026】
以上のように固体電解質層6の形成に用いる重合性モノマーとしてはチオフェン、ピロールまたはそれら誘導体を好適に使用することができる。特にモノマーがチオフェン又はその誘導体であると好適である。
【0027】
チオフェンの誘導体としては次に掲げる構造のものを例示できる、チオフェン又はその誘導体は、ポリピロール又はポリアニリンと比較して、導電率が高いとともに熱安定性が特に優れているため、低ESRで耐熱特性に優れた固体電解コンデンサを得ることができる。
【0028】
【化1】


XはOまたはS
XがOのとき、Aはアルキレン、又はポリオキシアルキレン
Xの少なくとも一方がSのとき、
Aはアルキレン、ポリオキシアルキレン、置換アルキレン、置換ポリオキシアルキレン:ここで、置換基はアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基
【0029】
チオフェンの誘導体の中でも、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いると好適である。
【0030】
3,4−エチレンジオキシチオフェンは、酸化剤と接触することで、緩やかな重合反応によってポリ−(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を生成するため、3,4−エチレンジオキシチオフェンのモノマー溶液を微細な構造を有するコンデンサ素子の内部にまで浸透した状態で重合させることができる。この結果、コンデンサ素子の内部にまで導電性高分子層を形成することができるようになり、固体電解コンデンサの静電容量の増大を図ることができる。
【0031】
酸化剤としては、エタノールに溶解したパラトルエンスルホン酸第二鉄、過ヨウ素酸もしくはヨウ素酸の水溶液を用いることができる。
【0032】
次に、図2、図3に示すように、固体電解質層を形成した電極箔の端面およびその近傍をレジスト材で被覆し、被覆層3を形成する。レジスト材としては、耐薬品性、耐熱性を有するものが好ましく、熱硬化性の樹脂、例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等を用いることができる。レジスト材の被覆方法としては、端面に液状の樹脂を塗布し、熱硬化することにより被覆層3とすることができる。
【0033】
さらに、コンデンサ素子の固体電解質層6の上には、グラファイト層および銀ペースト層を順次形成し、導電体層7とする。
【0034】
グラファイト層は平均長さ10μm程度の鱗片状グラファイトと平均粒径30nm程度のカーボンブラックを混合したペーストをスクリーン印刷し、乾燥して形成する。このグラファイトペーストを印刷した際、グラファイト層の成分の一つである鱗片状グラファイトが固体電解質層に突き刺さったり、或いはグラファイト層の成分のカーボンブラックが固体電解質層の隙間に入り込むことがある。固体電解質層の厚さが十分に形成されている場合には、鱗片状グラファイトが固体電解質層に突き刺さったり、或いはグラファイト層の成分のカーボンブラックが固体電解質層の隙間に入り込んだとしても、グラファイト成分と電極箔の誘電体酸化皮膜が接触することはないが、固体電解質層の厚さが薄い場合には、グラファイト成分と電極箔の誘電体酸化皮膜が接触してしまうおそれがある。しかしながら、この発明では固体電解質層を十分な厚さとして形成することが困難な電極箔の端部には、固体電解質層の上に被覆層3を形成してあるため、鱗片状グラファイトが突き刺さろうとしても、被覆層3がそれを防止することになる。またグラファイト層の成分のカーボンブラックも被覆層3によって内部への進入が防止される。そのため、鱗片状グラファイトが固体電解質層に突き刺さったり、或いはグラファイト層の成分のカーボンブラックが固体電解質層に入り込んだりすることが無く、グラファイト層の成分が誘電体酸化皮膜層と接触することを抑止できる。
【0035】
なお、グラファイト層として、鱗片状グラファイトを主成分とするのは次の理由による。すなわち、粒径の小さいカーボン粒のみでカーボン層を形成した場合には、固体電解質層との接触面積が増大し、固体電解質層との界面接触抵抗が低減される点では好適である一方、ある一定厚さのカーボン層を形成するためにはカーボン層の厚さに対してカーボン粒が多数存在することになり、カーボン粒同士の界面接触抵抗が大きくなってしまうからである。
一方、比較的大きな鱗片状グラファイトをカーボン層の中に含むと、所望のカーボン層の厚さを達成したときに、鱗片状グラファイトが嵩大であるために、接触頻度が少ない状態となる。その結果、界面接触抵抗に由来する内部抵抗の増加を抑制でき、結果としてカーボン層の内部抵抗を図ることができるため好適である。
【0036】
また、陽極部には陽極引き出し部を接続する。陽極引き出し部は例え、金属板を電極箔1の陽極部の間に挿入し、側面からのレーザー照射によるレーザー溶接や、電気溶接によって接合される。この陽極引き出し部は、陽極部と、後述する陽極端子の電気的な接続を容易かつ確実なものとするために用いられる。
【0037】
以上のようにして形成したコンデンサ素子を複数枚積層し、陽極引き出し手段には陽極端子を接続する。一方、導電体層7の銀ペースト層には陰極端子9を接続する。
【0038】
次いで、これらを陽極端子8と陰極端子9の一部が外部に露出するように外装樹脂3をモールド成形して外装を施し、固体電解コンデンサを得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の固体電解コンデンサの内部構造を示す断面図である。
【図2】この発明の固体電解コンデンサに用いるコンデンサ素子を示す斜視図である。
【図3】この発明の固体電解コンデンサの内部構造を示す断面図である。
【図4】従来の固体電解コンデンサの内部構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電極箔
11 陽極部
12 陰極部
2 分離部
3 外装樹脂
5 陽極引き出し部
6 固体電解質層
7 導電体層
8 陽極端子
9 陰極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属からなる電極箔に固体電解質を形成し、次いでグラファイト層、銀ペースト層を形成してなる固体電解コンデンサの製造方法において、電極箔の表面に固体電解質層を形成し、次に固体電解質層の形成された電極箔の端部およびその近傍に絶縁樹脂による被覆層を形成し、さらに固体電解質層の上に鱗片状グラファイトを主成分とするグラファイト層および銀ペーストよりなる導電体層を順次形成したことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記固体電解質層が、化学酸化重合によって形成された導電性高分子からなる請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記導電性高分子がチオフェンまたはその誘導体である請求項2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−186841(P2008−186841A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16615(P2007−16615)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)